不死殺し   作:ユルト

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それでは、ご無事で…

さようなら…

火の導きを…



なぜ、私は彼女を引き留めなかったのか…
公爵の書庫で『アレ』を見たとき
後悔の念で押し潰されそうだった


偶然か必然か

 コツコツと洞窟内に四人分の足音が響く。ここでは太陽の光は奥までは届かない、その為松明が必要となる。

 

 この洞窟に突入する前に隊列を考えた結果、先頭は剣士、二番手は女魔術師、三番手は女神官、殿は女武闘家という順になった。

 

 松明は魔術師が持つことで剣士の先を見えやすく、尚且つ手がふさがらないようにとギルドで教えて貰ったことを実践している。

 

 「うげ…酷い匂いだな…」

 

 「……そうね」

 

 先頭を歩く剣士の言葉に女魔術師が短く同意する。確かに小鬼の生活する匂いというのは酷いものだ。

 

 主に食料となった生物たちの血や繁殖の為に連れ去られた女たちと交わった際の性の匂い。それら狭い洞窟内で混じり合う匂いというのは早々慣れるものではない。

 

 「あー…なんだっけ?入口にあれ…トーテムがあるといるんだったよな?」

 

 「ゴブリンシャーマンね…あの人が言うには罠を使う可能性があるそうよ」

 

 「慎重に進むのがいいでしょうね…私たちに罠に詳しい人がいませんから」

 

 「後ろは私に任せて、数匹なら倒せなくても耐えることは出来ると思うわ」

 

 更に歩みを進めて行くと入口にあったものと同じトーテムが立ててある。

 

 「またトーテムだ…」

 

 「これどういう意味なのかしらね…」

 

 先頭の二人がトーテム近くの通路を通ろうとするとき女神官が気付く。

 

 「お二人共!待ってください!」

 

 「ん?どうした?」

 

 彼女の呼びかけに二人が歩みを止め、戻って来る。

 

 「こちらに横穴があります。恐らく、先程のトーテムは注意を逸らすためのようです」

 

 「私も後ろばっかに気を付けてたから気付いてなかった…ありがとう!」

 

 「まじか…これって奇襲するための横穴だよな」

 

 「これに気付かなかったら挟み撃ちに合うわね…」

 

 「どうしましょうか?」

 

 四人が分かれ道で話し合っていると女武闘家の耳がある音を捉えた。

 

 「ちょっと待って…足音が近づいてくる!」

 

 「まずい!あいつら、俺らの存在に気付いていたんだ!」

 

 「隊列を変更するわよ!剣士と武闘家は前、私と神官は後衛!」

 

 「はい」

 

 そうして隊列を組み直した後に両方の道からゴブリンたちが這い出てくる。見えるだけでも7体、まだまだ奥から現れるのかと思うと油断は出来ない。

 

 「グルゥゥゥ…」

 

 「喰らえ!」

 

 「はぁ!」

 

 前衛の二人がゴブリンを相手する。相手は正面から来ている為、そこまで苦戦はしていない様子。

 

 剣士はしっかりと握り剣を振り、その一撃でゴブリンは絶命する。女武闘家も腰の入った一撃や素早い蹴りで対応していく。

 

 だが、それでもゴブリン全てを相手するには足りない

 

 「数が多い!奥からどんどん出てくる!」

 

 「クソ!剣が血で…」

 

 剣士の剣が血で濡れて切れ味が落ち、武闘家も避けてはいるもののゴブリンの反撃が返ってくるようになる。

 

 そうしている内に徐々に押され始め、奥からはまだまだゴブリン共が押し寄せる。

 

 「私も加勢するわ!サジタ()・・・・・・インフラマラエ(点火)・・・・・ラディウス(射出)!」

 

 女魔術師の放った火矢(ファイヤー・ボルト)が発動する。3体のゴブリンを巻き込み、燃え上がる。

 

 「よし!…」

 

 「サンキュー!」

 

 「助かったわ!」

 

 「皆さん!前から更に増援が来ました!」

 

 少し舞い上がっている三人とは対照的に女神官は冷静に現状を見ている。彼女が使えるのは聖光(ホーリーライト)小癒(ヒール)の奇跡、戦いに参加するのは困難なためだ。

 

 「あ、あれは!」

 

 奥から数十体のゴブリンを率いて二体の風貌の異なるゴブリンが現れた。大きな体躯のゴブリン、田舎者(ホブ)と呼ばれるゴブリンが現れた。

 

 「どうする!」

 

 「大物(ホブ)は私が!サジタ()インフラマラエ(点火)…ラディ…」

 

 「女魔術師さん!」

 

 「矢!何処から!?」

 

 暗闇から到来した矢は魔術師の腹部と杖を持つ方の肩へ刺さる。詠唱が破棄され、動揺した4人の隙を突くようにゴブリンたちが襲い掛かる。

 

 「女神官ちゃんは奥に逃げて女魔術師ちゃんを治療して!」

 

 「このままじゃ、全滅だ!二人は先に逃げてくれ!後で追いつくから!」

 

 「わ、わかりました…」

 

 先程まで順調だったのに一瞬で瓦解する。そんなことはよくある事だ、上位の等級ならばそれらにも対処できる。それを新人へ求めるのは酷という物。だが、それこそが冒険者に必要な技能の一つでもある。

 

 そう、彼らのように冷静な判断と確かな知識を得ようとも必ず成功するとは限らない。それが冒険者の日常なのだ。

 

 前衛二人をすり抜けて3匹のゴブリンが追ってくる。

 

 「女神官……私を置いて逃げなさい…貴女……戦えないでしょう…早く逃げてギルドへ…」

 

 「出来ません!そんなこと!」

 

 「クレスクント(成長)インフラマラエ(点火)!」

 

 短く発動しやすい魔術で女魔術師は迫りくるゴブリンの一体を焼き尽くす。

 

 「全滅なんて…駄目!せめてこの情報をギルドに…あぁぁ!!」

 

 女神官を逃がそうとする女魔術師へもう一匹のゴブリンのナイフが背中に刺さった。

 

 「あ、あ……」

 

 そんな苦悶の表情を浮かべる女魔術師とナイフを刺しながらケタケタと笑うゴブリンの様子に女神官の腰が抜ける。不意に下半身が生暖かくなるのを感じた。

 

 その匂いに反応した片方のゴブリンが女魔術師を離れ、厭らしく顔を歪めながら彼女へ近づいてくる。

 

 「い、いや!来ないで!来ないで!」

 

 ゴブリンに捕まればどうなるかなど冒険者になる者なら理解できている。カチカチと歯が鳴り、震えが治まらない。

 

 これから行われる行為に恐怖し、女神官はギュッと目を瞑った。

 

 しかし、幾ら待ってもゴブリンが近づいてくる様子がない。そうすると背後から声が聞こえる。

 

 「二つ……ギリギリだが…間に合ったか」

 

 その声を聞いて目を開くと、ゴブリンは頭へ短剣が深く刺さり、絶命していた。女魔術師を嬲っていたゴブリンも同様だ。

 

 女神官が振り返るとそこには全身鎧の男性冒険者が佇んでいた。

 

 「あ、貴方は…」

 

 「ギルドからお前たちの様子を見てきて欲しいと頼まれた…俺は小鬼を殺すもの(ゴブリンスレイヤー)だ」

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

「あっ……」

 

 呆然としていた女神官も意識を取り戻し、助けてくれた冒険者を見る。

 

 彼の胸には銀の認識票、更に小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の名前と来れば西の辺境に住むものなら知っている者も多い。

 

 「あ、貴方が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん…なんですか?」

 

 「そうだ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は短く返答すると倒れている女魔術師に近づく。

 

 「ナイフで刺されたな…更には矢が二発」

 

 「そ、そうでした!小癒(ヒール)を!」

 

 「待て、まずは矢を抜くのが先だ。…歯を食い縛っていろ」

 

 「っ!!」

 

 女魔術師は悲鳴を上げないように服を噛みながら耐える。しかし、鏃の返しが肉を抉る激痛は成り立ての冒険者に厳しく、声にならない悲鳴を上げてしまう。

 

 「次に毒だが…」

 

 「そ、それなら解毒薬(アンチ・ドーテ)があります!」

 

 「いや、毒の回りが早い…解毒薬(アンチ・ドーテ)ではもう間に合わないだろう…」

 

 「そ、そんな………」

 

 女神官は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の一言で頭が真っ白となった。

 

 自分を庇ってくれた彼女が死ぬ。用意した薬も無為に終わった。

 

 そんなことを考えていると目尻に涙が溜まる。自分の無力さを痛感した。

 

 「お前たちは運がいい…まだ、『手はある』」

 

 「えっ……」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は雑嚢を探ると瓶を取り出した。毒々しい色の液体が入っている。

 

 「これをそいつに飲ませろ」

 

 「あの…これはいったい…」

 

 「解毒薬(アンチ・ドーテ)よりも効能の高い水薬(ポーション)だ。値段は比較にならんがいざというときに役に立つ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 その水薬(ポーション)を飲ませると女魔術師の顔色はみるみる良くなり、朦朧としていた意識もはっきりとし始めた。

 

 更にそこへ小癒(ヒール)をかけたことで傷も矢やナイフの傷も回復した。

 

 「あ、ありがとう…」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「ああ、それよりもだ。まだ、二人いるのだろう?」

 

 その言葉でハッとする。剣士と女武闘家の二人が戻ってきていない。つまり…

 

 「二人は私たちを逃がすために…」

 

 「…まだ生きてるかもしれん、急ぐぞ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が先頭を歩き、女神官は女魔術師に肩を貸しながら後を付いていく。

 

 

 

 

___________________________________________

 

 「糞…」

 

 どのくらい経っただろうか。女神官と女魔術師の二人を逃がしてからも二人で奮闘した。

 

 女武闘家は大物(ホブ)相手に善戦した。剣士も斬れにくくなった剣で必死に戦った。

 

 しかし、結果はこの様。女武闘家は田舎者(ホブ)相手に善戦するもその巨体からくる攻撃に負け、先ほど連れ去られてしまった。

 

 剣士も十匹程は倒したがとうとう押し負け、片腕にはナイフが突き立てられ今は片手で剣を持っている。

 

 残りのゴブリンたちは息も絶え絶えな剣士を見て嘲笑う。

 

 「ここまで…か…」

 

 ジリジリと近寄るゴブリンたちに風前の灯の剣士だったが…

 

 「聖光(ホーリーライト)!」

 

 唐突に強烈な閃光が暗闇を照らす。暗闇に慣れていた視界は一気に白色に染まった。

 

 「グキャ!?」

 

 「ギョエ!」

 

 目も開けられぬ状況でゴブリンどもの悲鳴が上がる。光が収まり、徐々に目が元に戻る。

 

 先程までいたゴブリンたちは全て死んでいた。すぐ側には…

 

 「七つ…お前が三人目だな…もう一人は何処だ…」

 

 「あ、あんたは?…」

 

 急に現れた謎の人物に面食らっていると女神官から声をかけられる。

 

 「剣士さん、ご無事でしたか!?」

 

 「あ、あ…でも武闘家が…」

 

 「女が連れ去られたか…急いだ方がいい…お前は彼女と一緒にいろ、二人なら対処できるだろう」

 

 「ま、待ってください小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん!」

 

 女神官と小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は二人を置いて、先へ進んでいった。

 

 「なあ、あの人って…」

 

 「ええ、ギルドで聞いた小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)よ。私たちを助けにきてくれたんだって…」

 

 「そう…か…」

 

 安堵からか剣士は剣を地面へ突き立て杖が代わりにする。

 

 片腕の動かない剣士がこれ以上戦うのは無理だ。魔法の使えない魔術師と共に残り一人の無事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 その後の話だが。結果から言えば全員無事とは言いがたいものの生き残ることが出来た。

 

 女武闘家も犯される寸前で助け出され、奥にいた大物(ホブ)とゴブリン・シャーマンは小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が討伐。

 

 連れ去られた村娘たちも救出され、依頼達成となった。

 

 しかし…

 

 「えっと……つまり?」

 

 「まあ、俺は片腕が使えなくなっちゃったからな。復帰するかは分からない…一応片腕だけで剣を振る訓練はしてるよ」

 

 「私はこいつが復帰するまでの間は稽古をつけ直してもらいに行くよ」

 

 「私もどれだけ視野が狭かったか理解したわ。この町でも魔術の研究をしてる場所があるそうだから私もそこで一から学び直すつもりよ」

 

 三者三様の理由で一時的に冒険者家業から離れるとのことだった。

 

 「ごめんなさい…私たちから誘ってあんなことに巻き込んだのに…」

 

 「いえいえ、選んだのは私で責任は皆さんにありません」

 

 「すまないけど、俺たちの一党(パーティ)はこれで解散ってことになる」

 

 「急なことだけど貴女は行く宛はある?」

 

 「えーっとそれなら…あっ…」

 

 女神官の視線の先には全身鎧の男の姿がある。

 

 「私、彼に付いていこうと思います」

 

 「えーっと…まじで?」

 

 「うん…助けてもらったし、いい人なのはわかるんだけど…」

 

 「貴女…大丈夫?」

 

 「はい!大丈夫です!小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんから色々なことを学べると思いますし、取り敢えず一党(パーティ)を組んでくれるか訊いてきます!」

 

 女神官はそういうと小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の元へ駆け出していった。三人はその様子を少し微笑ましそうに眺めるのだった。

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん!」

 

 「………ゴブリンか?」

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 「んー!やっと着いたー!」

 

 「まずはギルドへの顔見せ、次に孤児院、最後に自宅だ」

 

 「はいはい!わかってますよー」

 

 「そういえば、アイツに会うのも久しぶりか」

 

 「そうだねー」

 

 「どれだけ成長してるか…楽しみだよ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)

 

 物語は五年の月日の後に再び動き出す。

 

 二人の殺すもの(スレイヤー)の物語が進む先など神々ですら予想も付かない。

 

 そんな混沌とした物語が開演しようとしている。











思い付いたら筆止まらない!

誤字脱字凄そうなのでまた後日修正します
誰が助かるとかはダイスで決めました

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