不死殺し 作:ユルト
…私は汚れ、声を出すべきではありません
…ですから、もう…
…話しかけるのは
…やめてください。お願いします
冒険者の朝は早いかどうかは個人によるが、多くの冒険者は朝の
受付嬢が
そんな冒険者たちをよそに二人の冒険者が後方で会話している。
先日の一件から
ゴブリン退治の依頼は不人気であり、下水の
「ゴブリンスレイヤーさん…それでもこの前のあれはやりすぎだと思います…火の秘薬で洞窟ごとなんて…」
「ゴブリンどもを放置するよりはいい」
「それでも…近隣の方への配慮を…」
「ゴブリンに村を襲われることの方が問題だ」
このようなやり取りも日常と化している。
「今日は
「えっーと…何処ですか?」
「以前、女魔術師を助ける際に使用した
「あれですね…私も町の店を探してみたのですが、売ってなかったのは手作りだったからなんですね」
「ああ…原料が高価な上に作成に時間がかかる。店では採算が取れないから売ってはないだろう」
「あのー…ちなみにいくらなんですか?…」
「
「き、金貨にじゅっ!?」
新人冒険者が金貨20枚を稼ぐには一体どれ程の日数が必要なのか。毎日、切り詰めて生活して漸く鎖帷子を買えた女神官にはまだまだ遠い世界だった。
「地母神の神官であるのなら知ってるかもしれないが、あれの薬草を売ってるのは『太陽の神殿』だ」
「あっ…『悪魔殺しの騎士』様が経営してる孤児院の呼び名ですよね」
「ああ、あそこは孤児院だが奥にある祭祀場では旅に役立つものも販売している」
「私たちの神殿でも
「…多くの者が勘違いしているが彼らの崇める『太陽』とは大地を照らす恵みの光ではない」
「えっ…違うんですか?私、地母神の神殿との関係からそういう神様だと思っていました…」
「後から入ってきた者はそのように信仰しているとも聞いた。あそこの責任者もそれらを訂正するつもりはないそうだ」
「では、一体何の神様なんですか?」
「あれは『戦神』だ」
「戦いの神様だったんですね…」
あの吟遊詩人がよく唄う
「待っていろ、
「はい」
女神官は初めて訪れる他宗教の神殿というものに興味を抱いていた。
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二人はギルドから程なくして孤児院に辿り着く。門の前からでも子供たちが外で遊んでいるのだろうか、彼らの楽しげな声が聞こえる。
「ん?
近づいてくる二人に気づいた守衛らしき全身鎧の男が
「『花苔玉』の在庫がなくなった。それの買い出しに来た」
「前回からそれほど期間が空いていませんね…」
「新人がゴブリンの毒に冒されて、治療の為使用した」
「なるほど…で、そちらのお嬢さんは?見たところ地母神の神官のようですが…」
男の鎧姿に威圧されながらも女神官は返答する。
「は、はい!ゴブリンスレイヤーさんの
「おお…
「…自分の意思で付いてくるのなら俺からは何も言わん」
「そうですか…おっと!長話になってしまいましたな。どうぞ、お入りください」
守衛の男によって門が開かれる。そこにあったのは地母神の神殿と比べてしまえば確かに小さいが、各所に凝った意匠がある独特な美しい神殿だった。
庭では子供たちが楽しそうに遊んでいる。二人に気付いた子供は手を振っている。
女神官も子供たちへ小さく手を振り、
神殿内はその大半が居住区に当てられているようで、ズラリと番号の割り振られた部屋が並んでいる。
更には大食堂があり、大人数で食事がとれるようになっていた。
「薬草を売っているのは奥の祭祀場にいる神官だ」
「そういえば、この神殿を仕切っている方は誰なのでしょう?『悪魔殺しの騎士』様なのですか?」
「孤児院としての管理者は確かに
「『火防女』ですか?」
聞きなれない単語に女神官は首を傾げる。
「神殿の神官長のような存在だと思えばいい」
「なるほど…」
女神官の脳内では鎖帷子を購入した際に小言を言う地母神の神官長の顔が浮かび上がる。
「表向きには
「あくまでも主のいない間の代理人なんですね」
「ここの先だ」
扉の先にあったのは壁を大きなガラス張りにすることで太陽の光を取り込む構造になっている広間だった。
奥には階段があり、その先には御神体である『名もなき神』の壊れた石像がある。
残っているのは台座、足、胴体の一部に神の持つ槍くらいのものでこの部屋にはお世辞にも似つかわしくない。それこそ、路上で雨ざらしにされていそうなものだ。
「あ、あの…神様の石像が壊れているのですがいいんでしょうか?」
「それは」
女神官の問いに
「すみません、
女神官が振り向くと目に入ったのはこれまた神殿には似つかわしくない黒い神官服の
目は布で覆われているため恐らく盲目なのだろうと察することができる。しかし、その足取りは確かなものでしっかりとした足取りで二人の元へ歩いてくる。
「貴女は初めてのお客様ですね?初めまして、ここの院長を勤めさせていただいています。『火防女見習い』の
「は、初めまして、いつも皆さんにはお手伝いしてもらって感謝しています。地母神の女神官です!」
「はい、先程守衛から大体の話は伺いました。
「私ではまだまだ付いていくだけで必死ですが頑張ります…」
「すまないが品を確認したい」
二人の会話に
「既に用意はしてありますよ。販売所の神官に声をかけて貰えれば」
「わかった、少し待っていろ」
「えっ?あ、はい…」
「「…………………………」」
「えーっと………その……あの……」
「何か質問でもありますか?」
空気に耐えられず、女神官はなにか話題はないかと考える。ふと視界の端に太陽の祭壇が写った。
「…何故、あの石像は壊れたままなのですか?」
「太陽の長子の石像ですね。あれは大昔に破壊されたものらしく、完璧な形で発掘されたものは未だに見つかってないんです。適当に修復するわけにもいかないので、今はあの形となっています」
「なるほど…でも、なんでそんな罰当たりなことをされているんでしょう」
「それを話すには多くのことを語る必要がありますが、端的に言うと『太陽の長子』は神々の『裏切り者』だからですね」
「神々の裏切り者…ですか?」
『裏切り者』という穏やかではない単語に女神官が反応するが、
「かつて、神々と竜が争っていた時代。太陽の長子である彼の神は父のいる神々ではなく、友のいる竜の側へ付いたとも言われています」
「それで裏切り者と呼ばれているのですね…友の為に親を裏切った…悲しい話ですね」
「その話が広まると人々は各地にあった『太陽の祭壇』を破壊したそうです。ですから、この石像が完璧な形で発掘されるのは絶望的かもしれませんね」
「…………」
女神官がことの顛末を聞き思いに耽ていると、
「道具の購入は終わった。依頼へ行くぞ」
「は、はい!あの…お話ありがとうございます。また、お話を聞いてもいいですか?」
「ええ、いいですよ。我々は友の訪問を快く迎えます。いつでもいらっしゃってくださいね」
女神官は
「彼女、神に愛されていますね。どうか、彼女の旅路に太陽の加護がありますように…」
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「やーっと!着いたー!」
「ギルドへの報告で遅くなった」
「主殿に
「ああ、あの子は祭祀場か?」
「はっ!火防女様は祭祀場でお待ちです」
「わかった」
門を潜る。夕刻ということもあり、子供たちは既に孤児院のなかへ戻っている。大食堂の方では子供たちの楽しそうな話し声が聞こえた。
「取り敢えず、彼女にも会いに行こう」
「あの子、あんな感じだけど寂しがり屋だからね♪」
祭祀場の扉を開けると夕暮れの茜色が部屋を染め上げ、幻想的な美しさを作り上げていた。
「!おかえりなさい、主様。ご帰還を首を長くしてお待ちしておりました」
扉から入ってきた人物が
女神官と話していた時の淑女然とした感じではなく、父親の帰りを待っていた子供のような反応。
言葉の節々から喜の感情が読み取れ、彼女に尻尾が付いているのなら千切れんばかりに振っていることだろう。
「ああ」
「あれー…私は?」
「御姉様もですよ?」
「むぅ……」
「それでだ、私が留守の間はどうだった?変なやつには絡まれなかったか?」
「はい、特には」
彼も彼で娘を心配する父親のような感じだ。
「そういえば、
「相変わらずか?」
「はい、今日も今日とてゴブリン退治です」
「変わらないなー彼」
「今日は疲れた。
「今日はこれで解散?」
「ああ、そうだな。自宅へ戻る」
「私もご一緒しますね♪」
三人並んで、
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・太陽の火防女
火防女を名乗る
太陽の神殿での研究で火防女という役職が見つけ出されてから不死人の助けになろうと火防女を名乗り始めた。
しかし、火防女となる資格は持っていようとその身はまだまだ火防女には相応しくない。
彼女の主である不死人は彼女に火防女にはなって欲しくはない。
火防女とは人間性の揺りかご、それは苦痛を伴うという。
盲目だが
そのお陰で必要はないのだが不死人から貰った杖をいついかなるときも後生大事そうに抱いている。
まだまだ未熟であるがこの世界でソウルを感じとることが出来る稀有な存在。
皆さん、誤字脱字報告修正ありがとうございます。
スマホだとチェックが難しいですね…
今回も皆さんにお世話になると思います…
お気に入り登録、評価、感想をしてくれる方もありがとうございます
皆様の声援が私のやる気に繋がっております
はい、また止まらなかった…
そして、またゴブスレさんと会えてない…
次こそは…
明日(今日)の、仕事が終われば連休なので
連日投稿も夢じゃない!