不死殺し   作:ユルト

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搦手が常套手段

 「あれは巣穴というよりも何かしらの遺跡が利用されたみたいだな」

 

 私は遠眼鏡で目的地を見ている。入り口は地面に半ば埋もれて、白石造りであることから人工の物だと分かる。

 

 「見える奴以外にゴブリンはいる?」

 

 「いや、ゴブリン2体、狼一匹だ」

 

 「了解…」

 

 伏兵がいないことを確認すると妖精弓手は弓を構えて矢を番えた。ギリリと弦が音を立てて引き絞られた。

 

 「本当に手伝わなくて大丈夫なのか?」

 

 「ええ、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)はそこで私の弓の腕を見てなさい…」

 

 風が吹いているため、鉄を使わない彼女の矢は距離が離れると厳しそうだ。

 

 矢を放つとそれは大きく右へ逸れる。その軌道を見た鉱人(ドワーフ)は舌打ちするが彼女は不敵に笑う。

 

 大きく逸れた矢はまるで誘導されるように向きを変え、右端のゴブリンの頸椎を破壊し、そのまま突き抜けその先のゴブリンの眼窩を貫く。

 

 何が起こったか理解できない狼が吠えようとするが大きく口を開いた瞬間、間髪入れず喉奥を矢が射ぬく。

 

 「素晴らしいな、魔法の類いにしかみえない」

 

 「すごいです!」

 

 「ふっふーん!でしょ!充分に熟達した技術は魔法と見分けがつかないものよ」

 

 「それをわしの前でいうかね…」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は死んだゴブリンの前へ立つとナイフを取り出す。

 

 「な、何するの?」

 

 「ゴブリンは臭いに敏感だ、特に『森人(エルフ)』や『女、子供』の臭いにだ」

 

 「ね、ねぇ、オルクボルグ…まさかと思うけどそれを私に…」

 

 「そうだ」

 

 間髪入れない返答と手に持った血に塗れた手拭いが答えだった。

 

 「い、嫌よ!貴女も何か…」

 

 「直ぐ慣れますよ…」

 

 女神官にも問いかけるが彼女は死んだ目をしながら、これから起こることを観念している様子だ。

 

 「い、嫌ァァ!!」

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 入り口から入るとそこは見事な造りの通路が続く壁には年代を思い浮かべさせる絵が描かれている。

 

 「ふむ、見たところ…かなり前の時代の神殿か何かですかな?」

 

 「ここは神代の頃に大きな戦争があったそうなので、ここはその時の砦かもしれませんね」

 

 「兵は去り、代わりに小鬼共が棲まう。残酷なものだ」

 

 「残酷と言えば…大丈夫かの、耳長娘」

 

 「うぇぇ……気持ち悪いよぉ……うぅ…」

 

 皆の目が先頭で罠を警戒しながらも、泣き言を言う妖精弓手に向く。

 

 「うちの闇人(ダークエルフ)は必要ならと適応していたが、これが普通の反応だな」

 

 「私も最初は慣れませんでしたから…」

 

 「こんなのに慣れたくない!」

 

 「慣れろ」

 

 妖精弓手は不満を言いながらも罠を見逃すまいとしっかりと警戒している。

 

 「皆、待って」

 

 「ん?…鳴子か」

 

 「ええ、新しいものだから気付いたけど」

 

 彼女の指差す床は確かに僅かに浮き上がっている。

 

 「懐かしいタイプの罠だ。私の所では矢が飛んでくるのと棘が出るのが主流だった」

 

 「いやな罠ね…殺す気満々」

 

 私たちの会話を余所に小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は考えているようだ。

 

 「妙だな…トーテムは見なかった」

 

 「トーテム?」

 

 「トーテムはないのに罠はある。これは面倒そうだ」

 

 「ねぇねぇ、二人で会話せずに説明して!」

 

 「えっと…ですね?罠があるということは、ゴブリンの上位種がいるはずなんです。でも、ここまでゴブリン・シャーマンの置くトーテムを見ませんでした。それが妙なんです」

 

 「なるほど、上位種以外に知恵の足らんゴブリンに知恵を与えた存在がいるかもしれんと」

 

 「俺の知らない上位種の可能性もある。注意して進むぞ」

 

 更に歩くとそれまで一本道だったのが左右に別れた道に辿り着いた。

 

 「どちらに行くのが正解か」

 

 「ごめんなさい、石の床では私には分からないわ」

 

 「どれどれ…」

 

 鉱人(ドワーフ)道士が身を屈めて床を見る。私はその様子を見て、彼が何を見ているのかに見当が付いた。

 

 「なるほど、床の磨り減り具合を見ているのか」

 

 「ゴブリンが野うさぎのように後ろ歩き(バックトラック)でもせん限りは大丈夫だろう。…磨り減り具合からするに奴等のねぐらは左じゃな」

 

 「先に右に行くぞ」

 

 「聞いておったか?」

 

 「ああ、だが先に行かねば手遅れになる」

 

 「今は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)がリーダーだ。貴公がそうだというなら私は従おう」

 

 通路を右に曲がる。歩いていると徐々に悪臭がキツくなり、扉の前まで来ると鼻を塞がずにはいられない程になる。

 

 「なんなのよ、此処…」

 

 「奴等の汚物溜めだろう」

 

 「おぶっ!」

 

 「意識して鼻で呼吸しろ、直に慣れる!」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は固く閉ざされている扉を蹴破る。

 

 部屋のなかは薄暗く只人(ヒューム)である我々は気付きにくいが、奥に鎖で繋がれた何者かがいるようだ。

 

 松明で照らしてみるとそれは右半身がぐちゃぐちゃにされながらも生き延びている森人(エルフ)だった。

 

 「うっ!うぇ…おぇぇ……えぇぇ……ッ」

 

 妖精弓手は同胞が悪意で弄ばれたその姿に胃の内容物を吐き出してしまう。

 

 私は彼女の背を擦る。冒険者として活動していたとしても同胞のあのような姿は純粋な彼女には厳しいだろう。

 

 「大丈夫か?」

 

 「ご、ごめんなさい…でも、こんなのって…あんまりよ…」

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)…」

 

 「ああ…」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は気付いていたようで、周囲にあった塵山のひとつへ短剣を投げる。

 

 「グギャ!」

 

 小さい悲鳴が上がるとゴブリンが這い出てくるが、間髪入れずに頭部への投擲で絶命した。

 

 「取り敢えず、そこの森人(エルフ)を救出しよう。何か知っているかもしれない。憔悴しきっているな……治癒の水薬(ヒール・ポーション)より奇跡の方がいいだろう」

 

 「わかりました!小癒(ヒール)を使いますね」

 

 「彼女を送り届ける役目は拙僧が…」

 

 その後は蜥蜴僧侶の竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)に手紙と森人(エルフ)の娘を担がせる。

 

 「これで口を濯ぐといい」

 

 「…ありがとう…ごめんなさい…迷惑かけるわね」

 

 妖精弓手も先程の光景にかなり参っているようだ。弱気な発言が目立つ。

 

 「これはお前に渡しておく」

 

 「それは地図か」

 

 「さっきの森人(エルフ)が持っていた地図だ。奴等のねぐらは反対の道で合っているようだな」

 

 「信じておらんかったのか?」

 

 「いや、信憑性が増して確実となっただけだ」

 

 「その地図…、私が持っておくわ…」

 

 「そうか、無理はするな。駄目そうなら帰れ」

 

 あんまりな言い方に妖精弓手の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)を見る目付きがキツくなる。

 

 そんな小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)を女神官と私が咎める。

 

 「「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)(さん)」」

 

 「ああ……無理する必要はない。罠の警戒は俺や悪魔殺し(デーモンスレイヤー)でも代行できる。無理なら強制はせん、着いてこられるか?」

 

 「ふふふ……オルクボルグって勘違いされやすい質?」

 

 「……らしい、言葉が少ない、足らないとはよく言われる」

 

 先程の発言も小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の言葉が足らなかったが、気遣いの言葉だと気付いた妖精弓手は微笑む。

 

 「ありがとう、大丈夫よ。ここで引いたら森人(エルフ)の名折れよ。ここは森人(エルフ)の領域なのに森人(エルフ)の冒険者が最初に脱落なんて恥だわ」

 

 「そうか…進むぞ」

 

 「ええ」

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 「この先が回廊ね」

 

 妖精弓手の言葉で一党(パーティ)の足が止まる。どうやら、この先にゴブリン共が大量にいるらしい。

 

 「全員、呪文はいくつ残っている」

 

 「えっと、私は先程小癒(ヒール)を使ったので二回。その後の戦闘を考えなければ三回です」

 

 「拙僧は竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)は触媒が残り少ない…あと一度であろう。その他の呪文を三回と考えていただきたい」

 

 「あと四回は確実じゃの」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)、お前はどうだ?」

 

 「今回は搦め手ばかりでな、決定打になるようなものはないぞ」

 

 「そうか…」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)って魔法も使えたのね」

 

 妖精弓手は意外そうに私に問いかける。そういえば、彼女達の前では使っている様子は見せてなかった。

 

 「私の魔術や呪術は女神官たちとは異なるものだ。私が使えるのは搦め手が大半故に火力には期待するなよ」

 

 「呪術というのは…なんじゃ?」

 

 「……私の故郷に伝わる炎を操る術だ、魔術の才がないものでも学ぶことはできる」

 

 「ほぉ、それはまた凄まじい術ですな」

 

 「『炎を畏れろ。その畏れを忘れた者は、炎に飲まれ、全てを失う』」

 

 「なんですか、それ?」

 

 自然と口から出たそれに女神官が反応した。

 

 「私が術を学んだ師の教えだ。呪術は力だ、力を制御出来ず溺れる輩はその身を焼かれるだろう」

 

 「簡単には学べるものではないということじゃな」

 

 実際、身を焼かれる程度ならばマシだろう。イザリスの末路を見るに、呪術師の行き着く先は……

 

 「魔術資源(リソース)は確認した。行くぞ」

 

 「ええ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)と妖精弓手が先行して回廊へ入っていく。それに続くように他の三人も入っていくのだった。

 

 回廊は地図の通り吹き抜けとなっている。音を立てずに下の階を覗いてみると、そこには50を越えるゴブリンがいた。

 

 遺跡の最奥だというのもあるのだろうが、大半のゴブリンは危機感なく眠りについている。残りもウトウトしているような状態だ。

 

 「かなりの数がいるみたいだけど…」

 

 「問題ないだろう。悪魔殺し(デーモンスレイヤー)、『アレ』は使えるか?」

 

 「前に使ったのだな。ただ今のままだと騒ぎ立てられるぞ」

 

 「鉱人(ドワーフ)道士は酩酊(ドランク)、女神官は沈黙(サイレンス)の呪文が使えるのだったな」

 

 「はい」

 

 「おう、使えるぞ」

 

 「なら、作戦はこうだ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の伝えた作戦に妖精弓手は苦い表情をする。鉱人(ドワーフ)道士と蜥蜴僧侶も同様だった。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 『呑めや歌えや酒の精(スピリット)。歌って踊って眠りこけ、酒呑む夢を見せとくれ』

 

 酒壺を片手に鉱人(ドワーフ)道士が呪文を唱える。一体のゴブリンがそれに気付き、他の仲間に伝えようと声を出そうとするが出ない。

 

 『いと慈悲深き地母神よ、我らに遍く受け入れられる、静謐をお与えください』

 

 それは女神官の唱えた沈黙(サイレンス)の呪文だ。その結果、ゴブリン達は音も立てず全て深い眠りに就いた。

 

 その様子を確認すると私は『呪術の火』を取り出す。私がここで唱えるのは…

 

 『猛毒の霧』

 

 上階から『猛毒の霧』が降りていき、広い範囲で降り注ぐ。ゴブリン達は眠りながら猛毒に侵され、そのまま永遠の眠りに就くのだった。

 

 「ねぇ…あれ…私たちが降りても大丈夫なの?」

 

 「問題ない、あと数秒で霧が晴れ毒の感染力もなくなる」

 

 「それならいいけど…」

 

 「それにしてもかみきり丸、よくこんな作戦を思い付くものだ」

 

 「俺は大したことが出来ん。それ故に一党(パーティ)をどう動かすかも考える。想像力は武器だ」

 

 「もう下に降りても問題ないだろう」

 

 「これで終わりとは思えん。気を引き締めろ」

 

 回廊を降りていく。壁には神代の戦争や神々の争いが壁画として残されている。

 

 こんな状況でなければ、一つ一つじっくりと眺めてみたいものだった。

 

 最下層に降りると更に奥へ続く道があるのがわかる。この先に今回の騒動の親玉がいるのだろう。

 

 「さてさて、どのような者が現れるか…」

 

 「一体、どんな奴だろうと私たちでッ!」

 

 突如、大きな音と共に地面が揺れる。それは徐々に大きくなり、原因となるものが近づいてくるのが分かる。

 

 「ゴブリンどもがやけに静かだと思えば…やはり雑兵では役に立たんか」

 

 姿を現したのは蜥蜴僧侶よりも一回り姿が大きく、頭には二本の角が生えている人喰い鬼(オーガ)だ。

 

 片手で振るう巨大な戦鎚は強固な楯を持つ冒険者を楯ごと叩き潰し、扱う魔法は数多の術を修めた魔術師を上回る火力にて焼き殺すという。

 

 「オー…ガ…」

 

 その姿を見た妖精弓手、鉱人(ドワーフ)道士、蜥蜴僧侶、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)悪魔殺し(デーモンスレイヤー)は戦闘態勢に入る。対して、女神官は人喰い鬼(オーガ)をしっかりと見詰めているものの恐怖で錫杖がカタカタと音を立てていた。

 

 「なんだ、ゴブリンではないのか」

 

 「ちょっ、オルクボルグ!人喰い鬼(オーガ)を知らないの?!」

 

 「知識としては知っている。だが、興味がない」

 

 「貴様ァ!!」

 

 人喰い鬼(オーガ)の持つ戦鎚が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)へ向けて振るわれた。彼は後方へ跳び、戦鎚を避ける。

 

 「この我を。魔神将より軍を預かるこの我を侮っているのかぁ!!」

 

 戦鎚の振るわれた白石の床が粉々に砕け散る。その光景を見れば人喰い鬼(オーガ)の振るう戦鎚の威力が理解できるだろう。

 

 「貴様や魔神将も興味がない」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)のその言葉に怒気を強める。

 

 「ならば、その身を以て我が威力を知るがよい!『カリブンクルス(火石)』…」

 

 人喰い鬼(オーガ)の掌に火が灯る。私はそれを『知っている』。

 

 「『クレスクント(成長)』…」

 

 「あれって!」

 

 「火球(ファイア・ボール)!!だが…これはちょいとでかすぎるぞい!!」

 

 赤々と燃える炎は大きく成長し、その色はやがて橙、次いで白く、最後には蒼く…

 

 「皆さん!私の後ろへ!」

 

 女神官が聖壁(プロテクション)を張るため、皆を自身の後ろへ下がらせる。

 

 「『いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください』、聖壁(プロテクション)!」

 

 「__________ヤクタ(投射)ァ!!」

 

 燃え猛る火玉は不可視の壁によって宙空で阻まれるが、その勢いが落ちる様子はなく我々を焼き尽くしにかかる。

 

 「貧弱な只人(ヒューム)の奇跡ごときでは止められまい!」

 

 「くぅ…!このままじゃあ…」

 

 女神官の様子からあまり状況は芳しくないようだ。だが、それで『十分』だ。

 

 「よくやった」

 

 「え?…」

 

 「ちょっ!?」

 

 私は聖壁(プロテクション)の前に出る。盾を構え、火球(ファイア・ボール)を受け止めた。豪々と燃える中そのようなことをすれば如何に不死人といえども死は免れない。

 

 『だが、それは先程までと同じ装備ならという話だ』

 

 ジリジリと身を焦がす様な暑さというが実際に身が焦がされているのだろう。それでも私の体は火球(ファイア・ボール)の熱によって蒸発することもなく形を保ち、女神官の聖壁(プロテクション)と共に盾で防ぎきった。

 

 体力が予想以上に削れたが死ぬことはなかったので問題はない。『エスト瓶』をグイッと呷ると私の体は元に戻る。

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さん……なんですか?」

 

 「ああ、そうだ」

 

 「アンタ、いつの間に着替えたのよ!」

 

 皆が困惑するのも無理はない。今の私は先程までの全身鎧ではなく、その身は黒き鎧で包まれている。

 

 かつて、グウィン王が火継ぎを行う際に彼に付き従った騎士達。その騎士達は再び熾った火に焼かれ、銀色であった鎧は黒く焼け焦げたとも言われている。

 

 その為か『黒騎士装備』は高い耐火性を保有している。呪術や火炎を使う者が多い場合は重宝した。

 

 「小癪なァ!貴様ら、楽に死ねるとは思うなよ!」

 

 「やれるものなら、やってみなさいよ!」

 

 火球(ファイア・ボール)を防がれた人喰い鬼(オーガ)は怒り狂う。そんな奴に妖精弓手は矢を放ちながら啖呵を切った。

 

 「竜牙兵を出せ、手が足りん」

 

 「承知、『禽竜の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ』、竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)!」

 

 蜥蜴僧侶が合掌し、牙をばら撒く。すると牙が沸騰し、骨の兵士が現れる。

 

 「『伶盗龍の鈎たる翼よ。斬り裂き、空飛び、狩りを為せ』」

 

 続けざまに竜牙刀(シャープクロウ)の祈祷。掌の牙が見事な曲刀へ変化する。それを竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)へ渡し、彼自身は腰にある小刀を抜く。

 

 「鉱人(ドワーフ)道士、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)

 

 「なんじゃ?」

 

 「なんだ」

 

 戦っていると小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)から声を掛けられた。戦闘を妖精弓手、竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)、蜥蜴僧侶に任せて離脱する。

 

 「__________________。こういう作戦で行く、可能か?」

 

 「俺は大丈夫だ」

 

 「ワシもだ」

 

 「では、行くぞ!」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)と私は戦線に戻り加勢する。

 

 鉱人(ドワーフ)道士は雑嚢にある粘土を取り出すと投石紐(スリング)を使い、人喰い鬼(オーガ)よりも高く放り投げた。

 

 「ちょっと、鉱人(ドワーフ)!当たってないじゃない!」

 

 「黙っとれ、耳長娘!『仕事だ仕事、土精ども。砂粒一粒、転がり廻せば石となる』、『石弾(ストーンブラスト)ォ!』」

 

 砂粒ではなく粘土を使用した石弾(ストーンブラスト)は巨大な塊となって人喰い鬼(オーガ)へ向かい落ちていく。

 

 「この程度!」

 

 人喰い鬼(オーガ)は戦鎚を振り上げ迎撃した。石弾(ストーンブラスト)の塊は砕け、破片が周囲へ散らばる。

 

 「今だ」

 

 「おうよ!『土精、水精、素敵な褥をこさえてくんろ』」

 

 「何ィ!これは!?」

 

 鉱人(ドワーフ)道士の唱えた呪文は泥罠(スネア)

 

 人喰い鬼(オーガ)の戦鎚によって砕けた床の下の土と鉱人(ドワーフ)道士の石弾(ストーンブラスト)の破片。

 

 本来ならもっと水分を含んだ土がなければまともに効果を発揮しないが人喰い鬼(オーガ)の重さも相まって片足がズブズブと沈んでいく。

 

 そこへ私が『呪術』を発動する。呪術は人喰い鬼(オーガ)に届くと瞬く間に広がる。

 

 「ちょっと!それってさっきの毒!?」

 

 「ふん!ゴブリンどもに効いたからと……我に毒など効かんわァ!?」

 

 片足を沼に取られたまま、私へ向かって力任せに戦鎚を振り下ろす人喰い鬼(オーガ)

 

 戦鎚が地面を粉々に砕く『はずだった』。しかし、目の前で起こっているのは無惨にも半ば折れた戦鎚。

 

 私が発動したのは…

 

 「残念だったな、先程のは毒ではない。酸だ」

 

 「酸だとォ!?」

 

 呪術『酸の噴出』は対象の『武具や装備』を著しく劣化させる呪術だ。そんな呪術をまともに食らい続けた戦鎚を力任せに叩きつければ折れるのも道理だろう。

 

 「くっくっくっ…先程から随分と虚仮にしてくれたな!お前は火球(ファイア・ボール)に耐えられるだろうが他の者はどうだ!もう限界の小娘とお前でもう一度防いでみるか!?『カリブンクルス(火石)』……」

 

 そう言うと火球《ファイア・ボール》の呪文を唱え始める。

 

 「どうする!小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)殿!」

 

 「問題ない、手はある」

 

 蜥蜴僧侶がどうにか呪文を止めようと竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)を突撃させたりするものの人喰い鬼(オーガ)はそれを無視して詠唱を続ける。

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)はそんな彼の質問に何でもないかのような冷静さで応答した。

 

 「ふん!見れば、先程から何も出来ていない只人(ヒューム)か、どうした命乞いか?」

 

 「お前こそどうした?俺たちに命乞いでもするのか?」

 

 売り言葉に買い言葉、そんなやり取りに沸点の低い人喰い鬼(オーガ)は吼える。

 

 「火球(ファイア・ボール)から生き残れたら、貴様らはゴブリンどもの食料と孕み袋だ!」

 

 「ごちゃごちゃ言わずに早くしたらどうだ?」

 

 「ならば望み通り貴様は焼き尽くし、消し炭も残さん!!『ヤクタ(投射)』ァ!!」

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん!!」

 

 「オルクボルグ!!」

 

 火球(ファイア・ボール)小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)へ向けて放たれる。作戦を知らない女神官たちは悲鳴のような声をあげた。

 

 だが、当の本人は冷静に雑嚢を漁り、目的の物を取り出す。

 

 「馬鹿め」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が雑嚢から取り出したものを前へ突き出した。その瞬間、目を開けていられないほどの閃光と轟音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 閃光と轟音が収まり、辺りに静寂が戻る。彼らが目を開けるとそこには……

 

 「が、ぼぉ……ッ!?どういうことだぁ?!」

 

 海水に浸かり腰から下が胴体と切り離された人喰い鬼(オーガ)の姿だった。

 

 「『転移門(ゲート)』の巻物(スクロール)だ、海底へ繋げた」

 

 「『転移門(ゲート)』の魔法を攻撃に?……」

 

 まさかの回答に妖精弓手は呆ける。正気の冒険者ならそのような使い方はしないだろう。

 

 巻物(スクロール)というのは、基本的に売り払われ冒険者たちの稼ぎに変えられる。

 

 そんな冒険者たちでも手放したがらない巻物(スクロール)が『転移門(ゲート)』の魔法が封じ込められた巻物(スクロール)だ。

 

 これさえあれば戦闘地帯から安全域まで一瞬であり、一党(パーティ)全員が生きて帰還できる確率が高まる。

 

 そんな巻物(スクロール)を攻撃に躊躇なく転用するなど普通の冒険者なら正気を疑うだろう。だが、彼はこの術を手の一つとして常に考えている。

 

 勿論、それは人喰い鬼(オーガ)退治などではなくゴブリン退治に使う。

 

 「がふぅ……ごぼぉ……」

 

 「命乞いでもするのか?」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は下半身が切り離され死にかけの人喰い鬼(オーガ)へ悠々と近づく。

 

 人喰い鬼(オーガ)の口には血が溢れだし、最早まともに喋ることすら出来ない。

 

 そんな人喰い鬼(オーガ)の頭へ一振りの剣を突きつける。

 

 「お前は強いのだろう。だが、ゴブリンの方がよほど手強い」

 

 最期に言おうとしていたのは命乞いか罵りの言葉か。結局、言葉を発することなく人喰い鬼(オーガ)の意識は呆気なく消えた。

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 遺跡の入り口まで戻ってきた私たちを待っていたのは森人(エルフ)の用立てた馬車と二人の森人(エルフ)

 

 「お疲れさまでした!中の様子やゴブリンは……」

 

 「今は皆疲れてるのよ……」

 

 次々と無言で馬車に乗る皆をフォローするため私と妖精弓手が説明する。

 

 「後にギルドへ正式な報告書を提出するが、ゴブリンどもは全滅した。今回の騒動は人喰い鬼(オーガ)が率いるゴブリンどもだ」

 

 「オ、人喰い鬼(オーガ)ァ?!それで人喰い鬼(オーガ)は?」

 

 「既に討伐した。今回の依頼料は後に改めさせてもらう」

 

 「お、お疲れさまでした。それでは我々は遺跡の探索に移ります。街までごゆっくり……」

 

 馬車はガタガタと揺れながら走り、中では各々楽な姿勢をして休んでいる。

 

 「ねぇ、貴女たちっていつもこうなの?」

 

 「ええ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんはいつもこんな感じですよ」

 

 「彼は?」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さんですか?あの人も割りと無茶します」

 

 私は寝ているフリで彼女たちの会話に耳を傾ける。

 

 「見てらんないわ。……なんかモヤモヤするの」

 

 彼女は冒険とは楽しいものだと語る。そう言う意味では私や小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)はまともに冒険をしたことがないのかもしれない。

 

 「だから、私が『冒険』させてやるわ」

 

 次第に彼女らも疲れから来る眠気には耐えられず、馬車の中で起きているのは私だけになる。

 

 こうして、私たち六人の初めての依頼(クエスト)は終わったのだった。

 

















オーなんとかさん討伐、最初は牛頭でもいいかなと思ったけど
それだとおーなんとかさん出番なくて可哀想なので…

次回は間章、ドラマCDを聞いてて思いついたネタがあったので
それを実際に卓で回してみようを思います

事故らない限りは大丈夫、大丈夫
私にはダイスの女神様が付いているからね

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