不死殺し 作:ユルト
数多くの先人たちが残していった冒険者として必要な知識の詰まった辞典。
多くの先人は知識を尊び、学ぶことを後陣に伝えようとするがやはり一度経験しないと知識の重要性とは伝わらないもの。
そして知識だけあろうとも経験が無ければそこにあるのは同じ死だ。冒険者よ、備えろ。生きるも死ぬも己の手の内にある。
余談だが数年前から
▼昼下がりのギルドにて
『ある街の墓守りが酒場に肉を卸売りに来てたらしいんだか、実はその肉……』
『遺跡で冒険してたらよ、後ろから蹴られて落とされたんだが…』
『東の辺境の島が侵略された際に一人の武士がそれを追い返したらしいぞ、確か二つ名は…』
『
太陽が一番高く登った数刻程後のギルドの酒場。『
今、酒場に残っているのは休日に集まった冒険者か受けた
そんな
「もう…アンタの不注意で大事になるところだったじゃない…」
「…仕方ないだろあんなの分かるわけがないじゃん」
「今回は
「俺たちが報告はしておくからさ、手当てを優先してやってくれ」
「ごめんなさいね?このバカが考え無しに手を突っ込んだばかりに」
新米戦士の腕には簡易的な処置はされ、止血されていたのだが僅かに包帯に血が滲んでいる。報告を剣士と女武闘家に任せて、見習い聖女は新米戦士の包帯を取り替える事にした。
「あら?……怪我……痛そうね?」
「ボウズ、その怪我はどうしたんだ?」
「あはは…これは」
「このバカが宝箱の金貨に目が眩んで手を突っ込んだら
「でも、漸く纏まった大金が手に入ると思ったらさぁ」
「言い訳しない!」
そんな二人のやり取りを見てた槍使いは苦笑しながら、新米戦士をたしなめる。
「嬢ちゃんの言う通りだぜ?今回は
「ひぇぇ……」
「だから、言ったじゃない。
「野伏が……居ないなら……
「
「槍使いさんも経験が?」
「俺はそういうのを経験する前にコイツと
「……宝箱は……危険だから……無闇に……開けるの……お勧め……しないわ……」
「そういうこった。野伏や罠を判断出来る奴が居ないのなら宝箱をスルーするってのも生存率を上げる意味では賢い選択だな」
「それでも宝箱を見るとどうしても開けたく…」
「ははは!分かるけどよ、冒険者の
「そうですね……ありがとうございました!」「ありがとうございます!」
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次の日の朝、酒場の一角にて五人の新人冒険者が集まっていた。新米戦士に見習い聖女、剣士に女武闘家と女魔術師の
机の上には色とりどりの料理ではなく、いくつもの本が並べられていた。
「それでは勉強会を始めようと思います!」
「わー」
「それにしても急にどうしたの?貴方たちに言われたから図鑑とかの資料を借りて来たのだけど」
「怪我が治るまで暇だからこうして集まって勉強をしようって事になったの」
「ほら、俺たちって今までは下水道とか の
「
「
「初級の冒険者は
「成る程ね。それで今回はどんな事を勉強するのかしら?」
「今回は『擬態』する魔物についてだな。
「あぁ…昨日の話に出てたわね」
「ああいうタイプの魔物って事前の知識がないと避けられないだろ?」
剣士は図鑑を手に取り、パラパラと頁を捲ると
そこには金貨の縁が開いて口の様になって、牙を見せている挿し絵が載せられている。
「どれどれ?『金貨に擬態する魔法生物、古代魔法の産物だとされている。大した戦闘能力は無いが知らぬまま、袋に入れたり手を金貨へ突っ込むと大変な事になる。ブレスを吐くが人間に害を与える効果がない為、学者はこのブレスについて色々な推測をしているが未だ分かっていない』」
「指を噛み千切られなくてよかったわね?」
「革手袋もしてたし流石にないだろうけどな」
「これが造られた生物なら、昔の人間は何を考えてたんだろうな?大して役には立たないだろうものを造るなんてさ」
「今、都で主流な説は魔力に当てられた金貨が勝手に魔物化したっていうのらしいわね」
女魔術師は
「『他に金貨に擬態する魔物として
「先輩から聞いた話によると手に取った瞬間に蟲の脚と頭が出てくるらしいぞ」
手のひらの金貨から脚と頭が生え、ワサワサと蠢く様子を想像したのか全員が背筋がむず痒くなるような感覚に襲われた。
「変なこと言わないでよ!想像しちゃったじゃない!」
「『
「なぁ、
「無理に決まってるじゃない。そもそも、神代の遺跡とかに潜らないとその柄の
「そうそう美味しい話は転がっていないか…」
「そもそも、
新米戦士の安直な考えに
「
「
《
いくつもの物語に現れては欲に目が眩んだ者たちを大きな口で待ち構え、宝箱の内に引きずり込み噛み砕く。そんな冒険者たちを殺す為だけに形を変えたような
「大きな口で噛まれれば
「うへぇ……戦いたくは無いな」
更には軽戦士と同程度の速度で行動するミミックが存在する為、多くの冒険者からは死の存在として恐れられた。
「宝箱のミミックが有名だけど、ミミックってのはそれだけじゃないからね?」
「そうなのか?ミミックといえば宝箱を思い浮かべるけどなぁ」
「本来、あれらは
「何で勇者様をそんな形で?」
「さぁ?この本には『何故か住んでいる者が開けても反応しないが勇者が開けると姿を現す』って書いてあるわね」
「勇者が人様のタンスを開けることなんて無いでしょ?盗人じゃあるまいし」
本に記されている言葉の真意をはかりかね、ああだこうだと議論したが結局結論は出なかった。
「そういえば、私が話に聞いたミミックが載っていないわね。こっちの
女魔術師が開いた頁には『宝箱から腕や身体が生えた奇妙な怪物』の挿絵が載ってた。宝箱に鋭い牙と長い舌が生えているのは有名なミミックと同じであるがその異様なまでにスタイルの良い身体が不気味である。
「なにこれ……気持ち悪いわね……」
「無駄にスタイル良いわね……って、身長は
「えぇ……俺たちの倍くらいの大きさがあるのかよ」
五人が頁に書かれている記述を読み解いて困惑していると彼らのテーブルに二人の人物が近付いて、声を掛けてきた。
「あら?皆さんはお勉強ですか?」
「へぇー、殊勝な事じゃん」
「貴方も今日は待機なんですから交ぜて貰ったらどうです?」
「俺は…ほら…この後に剣の手入れとかあるし…」
「はぁ……」
声に振り向くとそこに居たのは重戦士が率いる『辺境最高の一党』の一員である。少年斥候と圃人の少女巫術師の二人であった。
「よう、今日はお前たちも休みなのか?」
「大きな
「ん?ああ…この前の
「……そうですね、ああいった
少年斥候と圃人の少女巫術師の二人は件の
「水の都から馬車で半日ほど離れた街の近くから『鐘の音が時折聞こえる』という話で調査依頼が来ていたんです」
「それで
「それって何か問題なの?」
「ただの遺跡なら問題はありませんよ?野党や
「成る程ね、『遺跡』って亡者やデーモンが出現するタイプの遺跡だったのね」
二人の説明に女魔術師だけが合点が行ったように言葉を紡いだ。
「えーっと?」
「『遺跡』にも種類があるのよ。古代の街が遺跡になって、そこに魔物とかが住み着いていうものとか」
「水の都にある神殿の大司教であられる剣の乙女様の
「そうね、それでここ数年で多くなってきてるのが亡者やデーモンが徘徊する『遺跡』よ。これは基本的に中級者以外は立ち入る事をギルドが禁止してるのよ」
「遺跡内で見つかる遺物等が高く売れるので昔は多くの冒険者が通っていたのですが…現れる魔物の難度が高く死亡率が高いので等級で行ける遺跡が定められたんです」
「そういうことか二人の
「亡者やら、デーモンが徘徊する遺跡だったんだよ…。いや、亡者とかは俺たちでも問題なく対処出来たんだがな?」
「最後の最後で
「ガーゴイル…っていうと…」
「侵入者を撃退する役割を与えられた石像に化けたゴーレムの一種よ」
新米戦士が魔物図鑑から
「そういえばこれも
「それで?
「数だよ、数!」
「1体程度なら問題なかったんですけど、3体…4体と出てきまして…」
「流石の大将も遺跡の硬い
「私たちはリーダーたちが3体を相手してる間にもう1体から逃げ回ってました…」
アハハ…と圃人の少女巫術師が苦笑いするが新人たちは状況を考えると笑うことも出来なかった。自分達が同じ状況に陥ったら死を覚悟するだろう。
「それで二人はどうやって切り抜けたのよ?」
「相手したのは飛べない
「私が
「そっか…真正面から戦う必要はないもんなぁ」
「本当は不安定な床に
「開けた穴から床全体が崩れたら目も当てられないから、今回は仕方なくだよ」
「最適解なんてそう簡単に出来る事じゃないよな」
「そうね、それでも最悪の選択をしない為の知識でしょ?今回の勉強会はその為よ!」
「あー…はいはい、身に染みてるから何度も言わないでくれよ…」
「ふふふ…そろそろ、勉強へ戻りましょうか」
新米戦士と見習い聖女のやり取りを周囲は茶化し、勉強を再開した。彼らの集いは他の冒険者達が
三年以上も作品を放置する人がいるらしい…
ゴブリンスレイヤー二期が放送されて少し気力が湧いたので投稿
更新が止まってたのは沢山のルビ振りを辞書登録していた
端末が壊れてしまったから気力が削がれたというのと
他のあることで執筆活動に嫌気が指していました
しかし、AC6が一度生まれたものはそう簡単には死なないと言うので
改めて本作を投稿しようと思います
まだ本作を待っていたという方が居たのでしたら謝罪と感謝を
ごめんなさい、ありがとうございます。
ゴブスレ二期一話はYouTubeで見れるので皆も見ましょう!
後、フリーレンもいいぞ!(長寿キャラ癖)