不死殺し 作:ユルト
ガタゴト、ガタゴトと馬車が揺れる。舗装されていない山道なのだから仕方ないが、お世辞にも乗り心地はいいものではない。
そんな馬車に乗っているのは五人。女魔術師、男戦士、女神官、女戦士。そして、
精神的にも肉体的にも疲労している、二人を如何にか依頼人のいる村まで運び。
如何にか頼み込み、彼らの馬車で冒険者ギルドとやらまで送って貰うことにした。
私以外の四人は安心からか馬車に乗ると直ぐに眠ってしまった。私はそんな四人を尻目に自分の中にある考えを纏めていた。
北の不死院を出て、村から馬車を出してもらい、いくつもの小規模の町を見た。その光景を見て、確信を得た。
『ここはロードランではない』
あの荒廃した世界には無かった、平穏と活気が町にはあった。これこそが人々の正しい営みなのだと感じた。
薄々とは感じていた。彼女たち二人との会話がうまく噛み合わなかったり、常識に齟齬があったりなど。
ここがロードランでないとなるといろいろな問題がある。
まず、『アイテムの補充』だ。自身の持つ様々なアイテムは商人からの買い取りだった。
恐らく、ここにはそのようなアイテムを売っている商人はいないだろう。
買い溜めはしてあるため、早々に尽きることはないだろうがそれも時間の問題だ。
この世界で代用品を見つけるか、どうにかロードランのアイテムを探し出すか。
彼女たちが言うには『遺跡とデーモン』が最近発見されているそうだ。
ならば、北の不死院のようにロードラン由来の遺跡かもしれない。
アイテムの為に好き好んで死地へ赴きたくはないが、メリットがデメリットよりも大きいのなら行くのもいいかもしれない。
次に『自分が死んだらどうなるかわからない』ということ。
幸か不幸か、不死院で死ぬことはなかった。試しになどと死んでみるつもりも毛頭ない。
死ぬときは死ぬ。いつもの事だ、それはこの比較的平穏な世界でも既に実感した。
今回も未来あるであろう、少年と少女がデーモンによって殺されたのだ。どの世界でも死と生は隣りあわせ。いつ死ぬかなどわからない。
アイテムを惜しんで死ぬなぞ馬鹿らしい。どれだけの負債を抱え込もうと、生きているのならそいつの勝利だ。
「すまない、主人。質問してもいいか」
「何ですかな、騎士様」
私は馬の手綱の引いている男へ話しかける。情報が欲しい、情報とは生命線だ。
今の私はこの土地の常識や知識が全くない。
これでは最下層に毒、呪いの耐性が低い防具を着て、苔玉、解呪石を持たずに探索するようなもの。
初めての最下層は本当に地獄だった。呪いを受け、体力の少ない私に襲い掛かる巨大鼠共。
まともな防具も持っておらず、貴重なエストも鼠共の毒でなくなる。
今までは不死故に繰り返すことで、何とか勝利を収めていた私だが。
あの時、ようやくアイテム、情報、前準備の大切さを学んだ。
あの
「私が前までいた場所では冒険者という者達はいなかった。彼らはどのようにして生活している?」
「へぇー…冒険者がいない場所とは珍しいですな。ああ、質問は冒険者がどのように生計をたてているのかですな?」
「ああ」
「基本的には冒険者ギルドで張り出されている
「その金は誰が出している?」
「基本的には依頼主ですな。村の傍にゴブリンが現れたりした場合は、村の人間がギルドへ依頼する依頼料から冒険者へ報酬金も回るシステムです」
「なるほどな…」
報奨金…やはり、ソウルを通貨として使用しているようではなさそうだ。街に着いたら、使い道のない道具を質に出して金を得るか?
「他には下水の巨大鼠や巨大蟲の駆除も下級冒険者の仕事です」
「それは町の人間が金を払うのか?」
「まあ、税の一部から出ているでしょうな。ただ、誰も好き好んで報酬の少ないゴブリン退治や、汚物塗れになる下水での駆除なんぞやりたがりはしません」
「まあ、そうだろうな。もう一ついいか?」
「なんですかな?」
「冒険者というものは他の土地の人間でもなれるものなのか?」
「ええ、なれますぞ。大体、冒険者というのは家の三男坊のような家に居ても継ぐものがない者がなるものですから」
なるほど、そうだとしたら私も冒険者になって報奨金を得るのも一つの手だな。
「高ランクの冒険者は国の守護者などと呼ばれていますが、大半の冒険者は悪人とは言わないものの荒くれ者が多いですから」
「ありがとう。これはお礼だ」
私はそういい、男へ『銀の硬貨』を手渡した。
「いいのですか?銀貨など…」
「ああ、売り払うなり好きにしてくれ。旅の途中で見つけたものだ、骨董品として高く売れるかもしれん」
「ありがとうございます…。ああ、騎士様。そろそろ、ギルドのある街に着きます」
「すまない、助かった」
「いえいえ、こちらこそ村をお救い頂き、感謝しております」
私は街に着いたことを知らせ、四人を起こした。
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ギルドの正面入り口の扉が開く。私が目を向けると入って来るのは二人の少女と騎士姿の男性でした。
二人の少女は先日、未知の建造物の探索・調査に六人一党として赴いたお二人でした。
あれ?残りの四人の冒険者さんたちは何処でしょうか?まさか…
「お疲れ様です。お二人共、探索の方はどうでしたか?」
私の質問にお二人は真剣な表情で言いました。
「今回の探索で、黒曜等級一党の内。二人が死亡しました。残りの二人は精神的に衰弱しているので宿で休ませています」
「原因はあの建造物を根城にしていたデーモンです」
お二人の報告にギルド内が静まり返ります。それもそうです、新人二人が探索任務で死亡したと言われたら、次に出てくるのはデーモン出現。
これは大変な事になりました。静まり返っていた、ギルド内もザワザワと話す声が聞こえ始めます。
「で、デーモンですか!?そのデーモンは…」
「私たち、三人で倒した」
そこへ先程まで黙っていた鎧姿の騎士らしき男性が割り込んできた。倒した?まさか、鋼鉄等級の二人とこの人で?
そもそも、新人二人の死亡とデーモン出現で忘れていたが、もっと初めに訊くことあった。それは…
「えぇ…と、貴方は誰なのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「私か…私は辺鄙な土地を護衛しながら旅をしていた。元騎士だ」
「ええ、お二人との関係は?」
「彼らの調査していた建造物は私の故郷にある建造物に似ていたのでな。探索していたら、崩落にあって困っている所を彼女たちに助けて貰ったのだよ」
「彼がいなければデーモンも討伐できなかったです…」
「そうね、私たち六人全員が挽き肉になっていたでしょうね」
お二人はデーモンによって死んだという二人の新人冒険者の最期を思い出したのでしょう。
青い顔をして、口元を塞いでいます。
「死体は遺跡に放置してある。どの程度の難度のデーモンだったかはそちらの判断に任せる。だが、私の見立てとしては少なくとも彼らの実力では討伐は困難だったろう」
「えっと…貴方が討伐してくれたんですよね?」
「この二人が協力し、頑張ってくれたおかげだ。それに私は冒険者ではないからな」
そう言って、彼は首元を指差す。そこには冒険者の証であるプレートはなかった。つまり、彼は冒険者でもないのに
私は呆けて、何も言えなくなった。
「すまないがこの一件のゴタゴタが収まったら、冒険者登録をしたいのだがいいだろうか?」
「え?あっはい…」
彼は言い終えると後ろの方へ歩いていき、椅子に座った。他の冒険者の方々も彼を興味深そうに、そして『疑わし気』な目で観察していた。
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「………………」
椅子に座って、待ち続けること数分間。二人はまだ受付嬢に報告を行っている。
周囲の冒険者たちの視線が気になる。私を興味深そうに見ているのはまだいい、しかし敵意の混じったものは駄目だ。
あの世界で生きてきた私は敵意に敏感になったのだろう、どうも体が反応しそうになった。
危うく彼らに向けて、『毒投げナイフ』を投擲するところだった。
だが、彼らの疑わし気な視線の理由もよく分かる。恐らく、実績不明の男が急に『デーモンを殺した』などと言えば疑わしいものだ。
だが、本当にやめて欲しい。人の目に晒されるということに私は慣れていない。
「あの…大丈夫ですか?」
女神官が私の横に腰掛ける。
「…個人的にはデーモンと戦っているよりも、この状況の方がきついものがある」
「あはは……」
その言葉に女神官は苦笑する。デーモンを相手に戦っていた男がこんな事を言い出せばそうなるだろう。
「そろそろ、報告も終わるので冒険者登録が出来ますよ?」
「それでは、行くとしようか」
私は冒険者たちの視線から逃げるように席を立った。そんな、私を女神官は微笑ましそうにしながら私の後ろを付いてくる。
受付に向かうと、受付嬢が待ってましたと言わんばかりに
「冒険者登録ですよね?」
「ああ、すまない。何分、冒険者とは関わりのない生活だった。基礎的な情報も教えて欲しい」
「はい、冒険者というのはですね…」
受付嬢の話を聞いたところ冒険者というものは十段階の階級に分けられており、今回会った彼らは下から二番と三番目の階級。つまりは
それではデーモン退治も苦労するだろう。私は初めの頃はデーモンどころかそこらの亡者共に囲まれて何度殺された事か。
それを考えればデーモンと出会い生き残った彼らは優秀な部類だろう。死んだ二人も無為に突っ込んで死んだのではない。
あの
ただ、私は『不死人』で死んでも次があり、彼らは『人間』で次はない。それだけの違いだった。
「ですが、事実上の最上位は銀等級の冒険者さん達ですね」
「それ以上は国お抱えの冒険者や本当に伝説に出てくるような勇者だとは来る途中の馬車の中で聞いたな」
「はい、ですのでギルドで依頼を受けてそれを生業としているのは銀等級の冒険者さん達です。銀等級まで至った方たちはその活躍の多くが吟遊詩人に歌われているので中には金や白金よりも人気の方もいます」
「そうか、そういう詩を聞いて憧れから冒険者になる者もいるのか」
「そうですね、特に年若い冒険者の方の大半はそのような感じです」
『竜に挑むは、騎士の誉れよな……』
ふと、『鷹の目』の二つ名を持つ巨人の弓兵の言葉を思い出した。彼も後の世界では伝説に謳われた、薪の王の四騎士の一人。
彼を目指しているものもいたのだろう。私としては『深淵歩き』の詩の方が好みではあるのだが。
ああ…彼の『深淵歩き』にも何度殺された事か。大剣を扱い、片手を封じられているというのにあの強さというのは全盛期だったらと思うと今でも寒気がする。
更にはそこへ相棒の『灰色の大狼』も加わるとなると最早勝ち目など存在はしないだろう。
「それでですね?…申し訳ないのですが…貴方も白磁等級から始まる事になるのですが…」
受付嬢が私の様子を伺いながら、背丈の関係上目遣いでこちらに言う。
「ん?それがどうかしたのか?規則ではそうなのであろう?問題はない」
私の言葉に受付嬢は安堵の溜め息を吐く。
「いえ、過去に冒険者登録をしに来た方の中には過去の武勇を語って『だから、自分は青玉等級からにしろ』とかいう方もいるので」
「なるほど、だが私は白磁等級からで異論はない。私はここでの正式な功績など何一つないのだからな」
「ありがとうございます。貴方のように物分かりの良い方だと、こちらも嬉しいのですが…そういう方ばかりではありませんので」
私が等級に文句を言うかもしれないと彼女は怯えていたのだろうが、私としては周囲の冒険者から厄介事が増えそうなのでむしろやめて欲しいと思っている。
「では、登録を始めますね。こちらが
「いや、すまない。こちらの文字はまだ覚えていない」
「では、代筆となりますと少し料金がかかりますがよろしいですか?」
む?それは少し困った。まだ、換金していないので今の私は無一文だ。
「騎士さん、大丈夫ですよ。それくらいなら今回のお礼に私たちが出しますから」
「そうか、それはすまないな」
「それでは、口頭でお答えください」
質問に答えていく。産まれや年齢など、少々困ったが無事誤魔化せた。いや、正確には冒険者の生い立ちにそこまで踏み入らないのだろう。
「はい、ではこれが冒険者の証となります。これらは身元照合にも用いますので無くさないようにお願いします」
受付嬢から渡されたのは白磁のプレート。
「ああ、了解した」
「それで何か簡単な依頼でも受けていきますか?」
「いや、今日はこの街の探索と換金を行うのでな。依頼を受けるのは明日としよう」
「そうですか。では、説明は以上となります。貴方の今後のご活躍をお祈りいたします」
「感謝する」
受付嬢へ一瞥すると私は換金をするため、ギルドを出ていくのだった。
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「はぁ……緊張したぁ…」
「大丈夫ですか?先輩?」
私の事を心配して声を掛けてきたのは最近、都での研修を終えた後輩ちゃんだった。
「大丈夫よ。ただ、あんな感じの冒険者さんに関わる事は中々ないから緊張しただけよ」
「少々、怖い人でしたね。でも、物腰は穏やかで優しそうな人でした」
「そうね、人は見掛けというか…彼の顔、見てなかったわ」
「あはは…全身鎧でしたからね…」
「あんな人は稀よ?普通の駆け出しさんは全身鎧なんて買うお金ないもの」
「やっぱり、元々何処かに仕えていた騎士だったのでしょうか」
「かもね。でも、彼が今後問題を起こさない限りは過去の詮索はご法度よ?」
「そうですね…」
後輩ちゃんはあの騎士さんについて考えているのか前からきている青年に気付いていない。
「すまない」
「ひゃ!ひゃい!?えと…あの…ど、どういったご用件でしょう!!」
「登録を頼む」
「冒険者登録ですね!えっと…あわわわ!!」
後輩ちゃんの前に置いてあった、山となっている大量のゴブリン討伐の依頼が崩れる。
その一枚が青年の前に落ち、彼がそれを拾う。
「ゴブリンか」
「ええ、それはゴブリン退治の依頼ですけど…」
「なら、このゴブリン退治の依頼を頼む」
「えと、ゴブリンは一党を組まないと駆け出しさんには少々危険で…」
「問題ない」
「え、えと…」
後輩ちゃんが助けを求めるようにウルウルとした目でこちらを見る。今日は本当に妙な冒険者さんが多いようです。
「まずは冒険者登録よ」
「あ、はい!」
この青年はどうだろうか?危なっかしい感じだが、ゴブリンを雑魚だからと侮っている様子ではなかった。
さて、彼は一体どのような冒険者になるのでしょうか?
この日、後に『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれる冒険者が誕生した。
そして、もう一人『デーモンスレイヤー』や『オールラウンダー』と呼ばれる冒険者も。
今日、何処かで悲劇が起ころうと。世界は回り続けるのだ。
感想、評価等ありがとうございます。
皆さんの声援があったのでまだ続けようと思います。
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