不死殺し 作:ユルト
もう、お前に教えることはないな
そろそろお別れだ、短い間だったが、楽しかったよ
…馬鹿者が早く行かんか
…私では、もうなにもしてやれんぞ…
あの後、鍛冶屋のおやじさんにグチグチ言われつつも、ロードランでは見たことのない武器を買った。
連節棍というらしい、面白い動きをするのだが些か短くはないだろうか?
女神官がこれの類は神官も扱うというので実演して貰ったが、武器の軌道が読みづらく対人戦に向いているかもしれない。
やはり、私が扱っても趣味の領域にしか収まらないだろう。
「騎士さんは明日もギルドに来るんですか?」
「明日、
「何々?デーモンの次はドラゴンでも討伐しに行くの?」
女戦士はニヨニヨと笑みを浮かべながら問うてくる。
竜狩りか…この武具を
竜との闘いはこの世界でも誉れであり、浪漫でもあるそうだ。
多くの冒険者たちは自身が冒険譚に謳われるような英雄に成るべく竜へ挑み、その大半は帰らぬ者となる。
「デーモンを狩った事すら信じられていない現状で、竜狩りを成したなどと言えば大法螺吹きだと思われるだろうな」
「まあ、本当に見てない人からすると信じられることではないのかもしれませんね…」
「無駄よ、無駄。ギルドの証明があっても、プライドだけは高い冒険者連中はその事実を認めないわよ。偶々、運が良かっただけだとか。どうせ、下級も下級のデーモンなんだろとかね」
「信じぬ者に無理やり信じさせる必要などあるまい。今後は似たようなケースも恐らく増えていくだろう。愚か者は真実を目の当たりにしてようやく認識する」
「その時には既に手遅れってことですね。せめてもの救いは死ぬ間際に学べたことですかね?死後に役に立つかもしれませんし」
穏やかで優しい性格の女神官のブラックジョークに女戦士の顔が引き攣る。私も彼女がそんなことを言うとは思わず目を見開いた。
「ふふふ…。これでも私、結構怒ってたんですよ?命の恩人の陰口を聞いていて、良い気分ではなかったですから」
「私は気にしていないから大丈夫だ。ああいうのは慣れている」
不死人など忌み嫌われ、排他される。北の不死院などはその象徴だろう。
「それじゃあ、私たちも宿に戻るわ」
「騎士さん、お疲れ様です!また、明日お会いしましょう」
「ああ、二人共。明日、ギルドで見かけたら気兼ねなく話しかけてくれて構わない」
二人が手を振りながら遠ざかっていく、私は彼女達が見えなくなるまで小さく手を振って見送った。
「さて、向かうか」
向かう場所は宿ではない。この街の郊外だ。
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街の外、本来ならば夜。獣や怪物たちの時間に街を出るなど、褒められたものではないが試したいことが多くある現状。
街中で『ソウルの業』を大っぴらに扱うことなど出来ない。それ故に人目の付かない場所へ行く必要がある。私は頭蓋ランタンを片手に持って、森の中へ向かった。
「ふむ、此処ならば問題は無いな」
頭蓋ランタンが明かり無き道を照らしていく。後々、気付いたが夜の森で頭蓋骨のランタンを片手に彷徨うというのは邪教の類だと勘違いされてしまうだろう。
いつもの癖で取り出したが、こういうところもこの世界基準に改めていかなければ…
「まず、自身の体だが…」
手甲を外すと、そこには干乾びた死体のような手がある。やはり、鎧を脱がなくて正解だった。
顔も恐らくは亡者化しているため、人に見せられる状態ではない。
この状態を治すには篝火が必要なのだが……
「しまったな…北の不死院で篝火がどうなっているのか確認するべきだったか」
北の不死院では二人の腰が直り次第、村へ向かった為。詳しく篝火には触れなかった。
「せめて、手を翳すくらいはするべきだったか…」
あの篝火がロードランの頃と同じく作用するとは限らない。篝火は不死人の癒しの一つだった。
「そういえば……」
ソウルから取り出したのは、最初の火の炉に刺さっていた螺旋状の剣。
今までは、篝火を移動させるなど
「そもそも、篝火はどうやって作られたのかも知らなかったな」
長年、そういうものだと認識して使っていたが、改めてそれが何なのかと問われれば分からないとしか言えなかった。
火防女が篝火の火を保っているのは、聞き、目の当たりしたので知っている。
「燃料は…『人間性』か?後は『火防女の魂』も必要なのか?分からん…」
後は周囲に骨が散らばっていたな、『誘い頭蓋』でも置いてみるか…
数分後、そこに出来上がったのは…
「邪教の祭壇にしか見えんな…」
そこには『篝火に剣が刺さっており、轟轟と燃えるその周囲には頭蓋骨が並んでいる』という言い逃れも出来ない状況だった。
「……火は付いたのだから、問題なかろう…」
精神的に疲れた我が身を癒すために『篝火で休息する』ことにした。
「ふむ、やはり奇妙な感覚だな」
私の所持している道具の中には篝火の前でないと効果を発揮しないものがいくつかある。
『修理箱』、『武器の鍛冶箱』、『防具の鍛冶箱』、『底なしの木箱』だ。
修理箱、鍛冶箱は火が無い場所では無理だとは理解できる。だが、何故この『底なしの木箱』は篝火の前でないと開かないのか…
「はあ…、旅の途中で出し入れが出来ればと思ったのは一度や二度ではないからな」
ソウルへの収納も無限ではなく、数十個と入れていると
「ああ…よかった。入れてあった、
いくら収集癖の酷い私と言えども、常にそれらを持ち歩いている訳ではない。
使わない装備一式はこの木箱の中へ収納してある。
あとは消耗品の類も買い込み、いつ手持ちがなくなってもいいようにと収納してある。
まさか供給源が断たれるとは思いもしなかったが、これで当分は安心だ。
「次はエストの回復だな」
エストを飲み干し、もう一度休息する。すると、徐々にエスト瓶の中身は満たされていき、満タンとなった。
「駄目なら、
そもそも、不死人の体に治癒の水薬は正しく作用するのだろうか?
聞けば、
つまり、似たような私には
……後日買って、一人で試してみよう…。冒険中に仲間の治癒の水薬が死因など笑えん。
「最後は亡者化の解除だな」
私は片膝を付き、篝火へ手を翳す。ソウルの中の人間性を消費して、亡者から生身に戻る。
「ふう……ロードランではそこまで気にしなかったのだがな」
生身の状態を維持する理由はそこそこあるが、常にとなると死ぬことの多い不死人には維持するのは面倒だったりする。
私は気分の問題で亡者であり続けるのが嫌であったので、出来るだけで生身の状態を維持していた。
亡者の状態では生きている感覚が薄れていくような気がして怖かったのだ。
「さて、明日は冒険者としての初めての活動だ。少し楽しみだな、新たな出会いというものはいい」
私は篝火の火に暖まりながら静かに目を閉じた。今宵はよく眠れそうな気がする。月よ、私の不安を照らし消し去っておくれ…
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あの病み村の奥底。混沌の魔女との闘いの後、私は彼女と出会った。
「ほう、不死者が私の姿が見えるのか?おもしろい…」
「貴方は?」
「私はイザリスのクラーナ、人の身で私の姿を見る者は久しぶりだ。…才もある」
「才か…、あまり実感したことはないがね…」
「お前も私の呪術が目当てなのか?」
「……私は力が欲しい。もし、貴女が私に力を授けてくれるのなら…」
「……いいだろう、私の弟子としてやる。ただ、私の呪術はそれ相応の糧が必要だ」
「分かっている、何もせずに手に入れられるとは思っていない」
「そうか、そうだな先達としての忠告だ」
『炎を畏れろ。その畏れを忘れた者は、炎に飲まれ、全てを失う』
そう言う彼女の顔は伺えなかったが、その言葉に悲しみと懺悔を私は感じた。
ああ、我が師よ。私は……
貴女を救うことが出来たのだろうか?
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目を覚ますと周囲は仄かに明るくなっていた。思いの外、熟睡できたみたいだ。何か、懐かしい夢を見ていた気がする。
「依頼の張り出しまで時間はあるが…早めに行っても文句はあるまい」
私は篝火を消すと螺旋状の剣をソウルへ仕舞い、ギルドへ向かった。
「毎度消していたら、『火防女の魂』が尽きてしまうな。やはり、定住してそこへ篝火を灯すべきだ」
問題は山積みだが、一つ一つ解消していくとしよう。
ギルドの扉を開けると既に幾人かの冒険者が依頼の張り出しを待っていた。昨日程ではないものの、気になるのか多くの視線は私に向かっている。
そんな興味と嫉妬の入り混じった視線を気にも留めず、女戦士と女神官が私へ声を掛ける。
「おはようございます。騎士さん」
「おっはよ!」
「ああ、おはよう。二人共、よく眠れたか?」
「まあまあね、冒険者の死を目の当たりするのは初めてだったから」
「私は…教会の方で幾人か看取っていますので死自体には慣れていたのですが…」
「思い出さなくていい…。死者を弔う気持ちは大切だが、自身がそれに引っ張られていては意味がない」
彼女達はこれからも生きていく限りは多くの死を見ていくことになるのだから。
その後、三人で雑談をして時間を潰していると。
「はーい!冒険者の皆さん!依頼の張り出しを始めますよー!」
ギルド内は一斉に活気づき、
我先にと金払いのいい依頼や宝物狙いの遺跡調査が取られていく。小さな小競り合いも起きている。
「いつもこんな感じなのか?」
「はい、私たちはいつも余ったものをこなしていますよ」
「鋼鉄等級だとそこそこの内容も残っているから。下の等級には難しい、上の等級は見向きもしないのがね」
「なるほど」
私は人気のない下水の巨大鼠狩りやゴブリンの討伐があれば、それを受けたいのだが…
彼女たちに依頼板にある内容を教えて貰う。ゴブリン討伐や下水の巨大鼠狩りは見向きもされていないのか残っているそうだ。
この分では急がなくても結果には変わりないだろう。
私は騒ぎが収まるまで少し待つことにした。
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大半の冒険者は依頼を受けて、騒ぎも収まった。
女戦士と女神官の二人は鋼鉄級の依頼を受けて出て行った。誘ってくれたのだが、今回は個人で依頼を達成するつもりなので丁重に断った。
メモを見ながら、依頼板を翻訳していく。
女神官に訊いた単語の翻訳を元に作った簡単な化物の名前や単語のメモだ。
依頼板に残った、依頼内容は
『下水の巨大鼠駆除:5匹』 成功報酬:金貨2枚
『下水の巨大蟲駆除:5匹』 成功報酬:金貨2枚
『辺境の村のゴブリン退治』 成功報酬:金貨2枚
人気のない依頼が残っている。
「なるほど、確かに人気は出ないだろうな」
経費と報酬が割に合わない。どれも
その残り金貨一枚からどれだけ削減できるか、後は命を天秤に載せるだけだ。
隅の方にもう一つ白磁等級が受けれる依頼が張ってある。内容は…
「あの~…お困りでしょうか?」
依頼板を眺めている私に声を掛けたのは、昨日私の冒険者登録をした受付嬢の隣にいた女性だった。
行動の一つ一つが固く、受付としての仕事に慣れていないのだろう。新人受付嬢は不安そうな目で私を見詰めている。
「いや、困ってはいないのだがね。別に下水の怪物どもの駆除でもゴブリン退治でも文句はない。ただ、この依頼が気になってね」
「えーっと…これですね?依頼内容は…」
『下水における巨大蟲、巨大鼠減少の調査』 成功報酬:報告内容次第
「調査依頼ですね…。これじゃあ、新人さんは受けたがりませんよね」
「ん?まあ、そうなのだが。気になっているのは下水の化物共が減っているということだ」
「いい事じゃないんですか?」
「その減少に理由があって、問題がないのなら喜ばしい事だな」
「つまり、良くない事の予兆かもしれないと?」
「さあ、分からん。その為の調査だろう?下水に何か潜んでいるのなら、新人では荷が重いだろう」
私は依頼を引っぺがすと彼女へ渡す。
「このクエストを受けるがいいか?」
数秒、呆けた顔だった新人受付嬢だが次にはキリっとした表情になる。
「わかりました、お気を付けて。下水へ続く道はギルド内の地図に記してありますのでご確認ください」
さあ、初めての冒険者稼業だ。油断せずに行くとしよう。
「まず、松明だな」
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下水の少し奥へ進んだ区画の一つ。二人の人間の足音が響く。ビチャ、ビチャと水気を含んだ音だ。
「はっ!はっ!はっ!」
「クソっ!」
彼らは走っている。地図は仲間と一緒に『溶けて』なくなったが、女魔術師の頭の中に
出口まではそこまでの距離ではない。あと、数回曲がれば辿り着く。
「次、左!」
「本当に合ってるのか!」
イライラしているのか、男戦士の言葉遣いが荒い。だが、それも仕方ない事だ。
簡単な依頼だと思っていたのに、既に味方一人が見るも無残に『溶かされて』死んだ。
新人が目の当たりにする死としては中々の部類だ。
「次も左!」
「ああ!光が!」
出口の光だろうか、角の先から光が見える。二人の顔には歓喜の表情が浮かぶ。
ああ、ようやくこの地獄から脱出できるという思いだろう。男戦士はその安堵からか『走る速度を緩めてしまった』。
そして、上から落下する物体に気付かなかった。
「ガアァァ!!!」
「ひっ…」
男戦士の上へ粘着質の物体が覆いかぶさる。その物体は徐々に薄く広がり、道を塞いだ。
しかし、薄く広がってもなお、男戦士はその物体の強力な粘着性から脱出できない。
「あ、あ、ああアァァァ!!!」
『消化』が始まる。男戦士の鉄の鎧はみるみる内に溶かされていく。元々、露出して肌が見えていた部分は焼け爛れたようになる。
「がっ!」
「あ、あ、あ…」
半透明な物体からは男戦士の苦し気な表情が見える。だが、その顔も徐々に溶けて、皮膚の下が見え始めた。
魔術師はその光景に恐怖し、後退りながらその場を去っていく。
後に残るは徐々に溶かされていく男戦士のみ。最後に残ったのは彼のボロボロとなった骨だった。
ああ、
近しい場所で何かしら起こっているなら、因果関係を考えなければ。
最近、ゴブリンの姿を見ないのなら大規模襲撃を
戦争で大量の死者が出たのなら、アンデッドの大量出没を
なら、下水の巨大鼠や巨大蟲が減っている場合は?
簡単だ、彼らよりも上の
これは運のない新人一党が崩壊する、この世界では一般的な
新人一党、生き残りダイスロール:1d3→1
誰が生き残る?1:男戦士 2:女魔術師 3:男野伏
1d3→2
死ぬ順番:1:戦士、2:野伏
1d2→2
ダイスの女神さまは女の子贔屓
索敵要因が真っ先に死んだら、そらそうよ
皆も準備はしっかりとしようね!
依頼が依頼内容のままなんて信じては駄目だよ?
騙して、悪いが仕事なんでな…
誤字報告してくれる皆さん
本当にありがとうございます…