不死殺し 作:ユルト
英雄気取りの大馬鹿が、随分と多いと見える…
さあ、ぶっ殺しちまおうぜ あんた達
異臭のする水路を松明片手に歩く。足元には淀んだ水が流れ、一歩歩くごとに不快な感触が足に伝わる。
入口の方ではここまでの酷いものではなかったが、奥へ進んでいく度に徐々に腐臭が酷くなっていく。
恐らく、新人たちは入口の方で巨大蟲、巨大鼠を狩る。それ故、比較的に人の出入りする入口に近い場所は『まだ』綺麗なのだろう。
「やはり、下水というのは最下層を思い出して嫌になるな…」
思い出すのは毒を持つネズミ、上から落ちてくる
そして、最後に当時のお気に入りの武具を
その後、病み村へ向かい何も準備せずに向かった結果。
二度目の世界以降では、あのルートは出来るだけ通っていない。
どれだけ、技術を磨こうと
「あと、落下死は嫌いだ」
あの地面へ叩きつけられるまでの浮遊感と最期の瞬間に聞こえる『ぐちゃり』という音は何度聞いても慣れやしなかった。
「しかし、本当に数が少ないのだな」
入口からここまで駆除した化物は巨大鼠5匹に巨大蟲4匹だった。
蟲共は飛び掛かって来るが、鼠共は何かに警戒するようにして逃げていく。
「何か良からぬ事が起こっているのは確実か……ん?」
歩いていると、足に何かがぶつかった感触があった。恐らく、金属の類だと思う。
汚水の中へ手を突っ込んで拾い上げる。それは剣だった。正確には『酸でボロボロ』のロングソードだ。
「ッ!?」
嫌な予感がして、
避けた瞬間、ドボンと音と水しぶきを立てて何かが上から落ちてくる。
「
落下物を見ると、汚水の一部が透けて地面が見える。
こちらのスライムはロードランにいたような肉の塊ではなく、このような、半透明の粘液生物のことをいうらしい。
「どの世界でも厄介な事この上ない。その上、体を構成する粘液は鉄をも溶かす酸性だと?悪夢だな…」
打撃、魔法に対して
「こういうとき、呪術というのは便利だ」
今朝、付け替えた『火炎噴流』で焼き払う。
水のような見た目だが、燃える際には生物特有のあの嫌な匂いがした。
「……これが原因かもしれんな…。ただ、問題なのは…」
受付嬢の話によるとこの調査依頼は4日ほど前から放置されていたらしい。
つまり、このスライム共が『どれだけ増殖している』か。それを警戒しなければいけない。
「………敵の根城。それも有利な環境で戦うのは慣れているが…。些か、量が多いんじゃないか?…」
ボトッ、ボトッ、ボトッと汚水へスライムが落下する音が聞こえる。壁からは染み出すようにスライムが這い出てくる。
「仲間を殺されたから報復か?……考えるほどの頭があるとは思えないし、考えたくはないな」
行く手を阻むスライムを呪術で燃やしながら進んでいく。
奥へ行けば行くほど数が多くなる。
『まるで奥に大事な何かがあるように』
「嫌な予感ほど当たり易いものだ」
そう愚痴を溢しながらも、先へ進んでいく。
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「はぁ…はぁ…はぁ…。あ、あれ?」
女魔術師は男戦士が溶かされた後も逃げ延びていた。
まるで行き先が分かっているように先回りしていたり、視界外から落下するスライムから命からがら逃げまわった。
スライムの動きは鈍重、気を付けるべきは不意の奇襲や既に潜んでいるもの。
女魔術師は後ろは見ず、とにかく頭上、足元、正面を確認して走り続けた。
すると、スライム達は『お前の相手なんぞしてられん』とばかりに数を減らしていった。
結果、彼女を追いかけてきているのはゆっくりゆっくりと這いずる一体のスライムだけになっていた。
「えい…」
彼女が松明を押し付けると炎が燃え移り、暫くすると動かなくなった。
「他のスライムは?」
彼女も流石にここで死にたくない為、周囲を見渡してスライムが潜んでいないか確認する。
「本当にいない?…」
天井、足元、壁など潜んでいそうな場所をくまなく探すがいる気配はない。
「どうしよう…道、覚えてない…」
そう、彼女は逃げるのに必死で
トボトボとスライムを警戒しながら歩いていると、ゴォォ!ゴォォ!という音が聞こえる。
「?……なんだろう…」
恐る恐る、角から音の方向を覗き込んでみると。
「チッ!?本当に…邪魔だ!!」
そこには
「あの人…昨日ギルドに居た…。右手のあれ?魔術かな?」
少女は自身の知識にある炎系の魔術から似たものを探してみる。だが、あそこまで長い間炎を噴出する魔術を彼女は知らなかった。
「はぁ…次はあっちか?」
そうしている内に彼はスライムがいる方へと進んでいる。
「あ…待って…」
か細い声だが、彼には届いたようでこちらへ振り返ってくれた。
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大量のスライムを蹴散らしながら奥へ進む。
ここに来るまでに一度、スライムの津波とでも呼べばいいのか…そんなものに飲み込まれそうになった。
咄嗟に『ハベルの盾』をソウルから取り出し、両手で構えることで耐えることが出来た。
しかし、全てのスライムを防げているわけではない。
この上級騎士の鎧はそこいらの生半可な鎧とは違うが、それでも酸で少し傷がつく。
「チッ!本当に…邪魔だ!」
周囲に散らばったスライム共をイラつきながらも呪術で処理していく。
強くはないが、数が多い。私はこのタイプの化物が一番嫌いだ。
「はぁ…次はあっちか?」
逃げるように奥へ引っ込んでいくスライム共を追いかけて歩き出すと後ろからか細い人間の声が聞こえた。
「ん?」
振り向くとボロボロの魔術師であろう少女がいる。
「どうして、こんな場所にいる」
「…一党で下水の駆除依頼を受けたら。スライムに仲間が殺されちゃった…」
「それでこんな場所まで逃げてきたと…大分奥まで誘い込まれたな」
「……」
「出口は分かるか?」
女魔術師は首を左右に振る。まあ、逃げながら道順を覚えるのは難しい。
「すまないが私も地図を書いている訳ではない。脳内に出口までの経路はあるが、これからこの奥へ行かなければいけない」
「…力になれるか分からないけど…私も行っていいですか?」
女魔術師はジッと真剣な目で私を見詰めた。自殺志願者の目ではない、少なくとも邪魔にはならないだろう。
「何が使えて、あと何度行使できる?」
「
「ん…そうか…」
魔法の通りにくいスライムを相手取るにはきついが、先走りしなければいい。しても、彼女が死ぬだけだ。
流石に死にに行くやつを助けるほどお人好しではない。
「そのボロボロの服では危ないな、これを貸す」
「わふ…」
バサッ、彼女へ向かって『魔術師の黒コート』を投げ渡す。
「いいの?そこそこ上質…」
「むしろ邪魔だから貰ってくれて構わん」
「わかった…」
女魔術師は先に『魔術師の黒コート』を着た後に、元々の服を脱ぐ。
流石にその様子を凝視するわけにはいかないので背を向けて、前方のスライムを警戒する。
「着替え終わった」
「なら行くぞ」
「うん…」
同行者が増えても問題ではない。むしろ、警戒する目が増えたことは嬉しい。魔術を行使するだけが魔術師の仕事ではないだろう。
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スライム駆除を行いながら進むと、途中から全く姿をみなくなった。
「もう全部、駆除できたのでしょうか?」
「……いいや、あれだな。無駄に兵を減らしたくないとかそんな所だろう」
個別に嗾けるのが駄目だったのだから、これ以上の戦力分散は無駄だと理解したのか…あるいは『学習したのか』。
どちらにしろ気味が悪い。スライムの上位種でもいるのだろうか?
一つ、一つ、通路を確認していき奥へ進む。すると、ある場所から異様に床が『綺麗』になっている。
まるで今日誰かが掃除していったかのように。
「…スライムが這いずると床は酸でツルツルになります…」
「ということは、ここらがスライム共の本拠地か」
まるでその言葉が合図だったかのようにスライム共が自分達を囲むように這い出てくる。
出るわ、出るわ大量の
誘い込むような戦い方といい、少なくとも知恵のない化物の動き方ではない。
「あれ?…」
「どうした?」
「あそこのスライム…種類が違う…。あれって…
女魔術師の指差す先にはいるのは赤く光る石を体内に持つ
ここに大量にいる
つまり、『誰かがここへアレを解き放った』のだろう。最初から、この騒動は自然発生ではなく、仕組まれたものだったようだ。
「そんな事は後で考えれば良いさ」
投げナイフを
「アレがこいつらの頭脳だろうな」
「どうするの?
「私が突っ込んで倒すのが手っ取り早いがな」
「……流石にそれは…」
私の発言に女魔術師は引いている。投擲武器は届かない…加えて突っ込んでの撃破も駄目となると…
「よし、一旦逃げるぞ!」
「え?…」
脇に女魔術師を抱え、一目散に逃げる。少なくとも、この状況で戦いたくはない。
私は
「何か方法はあるか?」
「魔法耐性のある
「つまり、魔術を当てれば一撃か」
「うん」
「さて、どうするべきか……」
「とにかく、護衛になってる
その時、投げナイフを投げた時のスライムの動きを思い出した。
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その後作戦の打ち合わせをしていると、分裂した大量のスライム共が這いずって来る。
恐らく、一気に燃やされるのを警戒してだろう。
その巨体は通路を塞ぐ程の大きさだった。後方には頭脳たる
正直、アレが一緒に来てくれなければ一旦帰っていたが、来たのならば問題ない。
あちらも戦闘態勢なのか、護衛であろう大量のスライムを残して分裂したスライムが私たちへ迫って来る。
私は後退しながら投げナイフを投擲する。
予想通り、スライムの壁に受け止められる。
次に取り出すは『雷のアヴェリン』。
連射される『ヘヴィーボルト』の威力によって、護衛のスライムが弾け飛ぶ。
その様子を感知してか、護衛のスライムは合体した。
二度目のアヴェリンによる攻撃、『ヘヴィーボルト』も受け止められる程の盾となったスライム達。
ならば、これはどうだ?
次に取り出したるは『ゴーの大弓』。
おおよそ、人の使うような弓ではない。
それもそのはず。愛用していたのは彼の王に仕えし四騎士が一人、『鷹の目のゴ―』。
竜狩りの矢をこんな奴らに使うのは少し気が引けるが、使えるものは使う主義だ。
重い弦を引き、竜狩りの矢を構える。
放たれた矢はスライムの厚い壁を貫くが、威力が減衰した為魔石粘液スライム・コアには直撃しなかった。
スライム共はもっと強固な盾に成るべく、合体を始めるがもう遅い。
『サジタ(矢)・アルゲオ(凍る)・ラディウス(射出)!』
ずっと、私の後ろで狙いを定めていた女魔術師の『
統制を失ったスライムは逃げようと鈍重な体を動かすが…
「これで終わりだ…」
私は『混沌の大火球』を投げつけた。直撃したスライム共は一瞬にして蒸発する。
散らばった残りカスも、これまでの鬱憤を晴らすように『混沌の大火球』で盛大に燃やす。
「ふぅー…すっきりした…」
少なくともお気に入りの鎧を酸で傷つけられた恨みは晴らした。
「………」
そんな私を女魔術師は何とも言えない表情で見ていた。
「帰るぞ」
「ええ」
少々面倒な事実が発覚したが、それを処理するのはギルド側の問題だ。
私は事実をそのまま伝えるのみ。結果として冒険者一人を救出したのだから上々だろう。
「なあ、すまないが聞いていいか?」
「?」
「スライムの討伐などどう説明すればいい?」
「……さあ?」
私はこの後、せめて駆除した巨大鼠の耳を切り取っておけばよかったと後悔した。
少なくとも調査依頼で直ぐに金が出ることはないだろう…。どうせ、『後日、事実確認後に報酬をお渡しします』だ。
被害者である彼女もいるのだから、疑われはしないと思う。
それにしても、街の下水道に人工の魔物とは…。一体、どのような目的なのだろう。
誰の差し金か。
こうして、私の冒険者としての初めての依頼は終わった。
皆さん、お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。
いつも誤字・脱字修正してくださる方々もありがとうございます。
投稿者名から察しているかもしれませんが
私は割とユルトっぽさを感じるロートレク好きですよ
ただ、かぼたんを傷つけるのは許さないので落します