不死殺し   作:ユルト

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傍から見たら、混沌の勢力

 「すまないが、この娘を君たちの一党に入れてはくれないか?」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「へ?」

 

 「どうしたのよ?受付嬢さんにその子の世話任されていたでしょ?」

 

 私たちがギルドの食堂で朝食を摂っていると話しかけてきたのは、騎士さんと数週間前の『スライム大増殖騒ぎ』で一党が壊滅したという女魔術師さんでした。

 

 「私に対して名指しの依頼がギルドへ送られてきた」

 

 「え、凄いじゃないですか!」

 

 「普通の冒険者ならば名が売れたのだと喜ばしい事だが……私の場合はそうもいかん」

 

 「そうでしょうか?ここ最近は着実に依頼をこなしていますよね?」

 

 「そうそう、人気のない下水駆除ばっかりやってさ……命の恩人が『下水の救世主』とか言われている私の身にもなってよ…」

 

 女戦士の苦言に私はあはは…とお茶を濁しました。彼はあの事件以来、下水の駆除依頼を受け続けていた。

 

 彼が言うには『まだ気になること』があるらしい。だけども、流石にそればっかりはどうなのかと受付嬢さんに彼女…女魔術師さんの世話を任されているみたいです。

 

 「それはすまないな。昔から気になる事や不安な事ははとことん追求する性質でな」

 

 「はいはい、わかったわ。で、その名指しの依頼ってなんなの?」

 

 「デーモンが確認された」

 

 その言葉と共にざわざわとしていたギルドが彼の言葉の続きを聞こうと静まり返る。

 

 「デーモンを倒したという実績を持つ貴方に白羽の矢が立ったというわけ?」

 

 「ああ、こんな白磁等級の冒険者に中々の無茶をいう」

 

 「はぁ……。そんなこと、どの口が言うんだか…」

 

 何度か依頼を共にした私たちは、彼の実力が自分達の遥か上であることは知っているので彼の言葉に苦笑する。

 

 「だが、実際には私の実力が疑わしいというのもあるだろう。今回の依頼はその実力を測る意味合いもあるのかもしれん」

 

 「はぁ…看破(センス・ライ)を使ってまで嘘か確かめたっていうのに…」

 

 「今回は他の場所のギルドから派遣された冒険者が同行するそうだ」

 

 「監視兼審査役というところでしょうか?今回で疑いが晴れるといいですね…」

 

 「私としては一年くらいはゆっくりといきたいのだが…。そうもいかないようだ」

 

 彼はやれやれというようなポーズを取り、首を横に振る。面倒だと彼は思っているのでしょう。

 

 「とにかく、彼女をデーモンの元へ連れて行くわけには行かない。その間、彼女の世話を頼む」

 

 「そういうことなら、断る理由もないわよ。私に出来ることはないけど、貴方が無事に帰ってくることを祈っていてあげる」

 

 「私も貴方の無事を信じて待ってます」

 

 「ん…気を付けてね」

 

 「ああ、依頼を承諾してくる」

 

 彼はそういうと受付に手続きをしにいきました。最近は簡単な手続きは自分でできるようになったそうです。

 

 書きの方はまだまだですが、冒険者がよく使う単語の読みに関してはかなり覚えたそうです。

 

 「それにしても…デーモンね」

 

 「あはは…もう出会いたくありません…宗教的にも相容れない存在ですし…」

 

 私たちは少しの間、彼の後ろ姿を眺めていた。

 

_________________________________________

 

 デーモン狩りの依頼を承諾するため、受付へ向かうとそこには初日に武具屋でアドバイスをした新人がいた。

 

 「ゴブリンの依頼はあるか?」

 

 「はい、本日は二件ですね」

 

 「……距離の近い方を頼む」

 

 「はい、こちらですね……。あっ、騎士さん!少々お待ちくださいね」

 

 「ああ、急いでミスしないようにな」

 

 「もぉ~!最近は慣れてきましたから!」

 

 「…」

 

 新人は私の存在に気付くとこちらを向き一瞥する。私はそれに手を小さく振った。

 

 奇妙な付き合いはあの日以来続いている。時々、私に意見を求めに彼が来るようになった。

 

 だが、その内容が『ゴブリンを如何に効率的に処理するか』というものだった。

 

 どうやら彼はあの日以来、ずっとゴブリン退治の依頼を受けているそうだ。しかも『ソロ』で退治に向かっていると聞いた。

 

 それを聞いた私は天を仰いだ。数回は私も同行して、彼に少し指導しつつ彼に一党を組むように勧めた。

 

 『ゴブリンを好んで一緒に退治しにいく一党がない。だから、一党は組めない』

 

 一党を組みたくないわけではないが、冒険者で毎日毎日彼のゴブリン退治に付き合ってくれる人間はいなかった。

 

 正直、私も毎日は勘弁して欲しいと思う。

 

 「すまない、まだ交換(トレード)予定の武器を購入するまでの稼ぎがない。もう少し待っていてくれるか?」

 

 「ああ、ロングソードの話か。大丈夫だ、金欠が常の新人冒険者に金を強請るつもりはない。今は自分に必要な物を買え。恩を返すつもりならまずは無事に帰ってこい」

 

 「ああ、わかった…」

 

 新人は手に持っていた数枚の金貨で解毒剤(アンチ・ドーテ)治癒の水薬(ヒール・ポーション)滋養の水薬(スタミナ・ポーション)といういつものセットを購入する。

 

 小道具入れ(ポーチ)も新しく頑丈で安定性のあるものになっていて、中は衝撃を和らげる為に布で覆ってある。

 

 「あとこれは使わなかったのだが…」

 

 彼が取り出したのは瓶に入れられた『毒紫の花苔玉』だった。

 

 「毒を使ってこなかったのか?」

 

 「解毒剤(アンチ・ドーテ)で問題はなかった」

 

 …つまりは毒は食らったということなのだが…

 

 「そうか…だが使わなかったからといって返す必要はない。緊急時用に持っておけ」

 

 「…わかった」

 

 その言葉を聞くと瓶を小道具入れ(ポーチ)へ入れ直した。

 

 「では、ゴブリン退治の依頼を受注しました。気を付けてくださいね?」

 

 「…善処する」

 

 彼は結局今日も一人でゴブリン退治へ向かう様だ。彼がした決断なら無理に止める権利は私にはない。

 

 冒険者とはそんなものだ。いくら新人にお節介を焼こうとも、明日には死んでいる。

 

 誰もが死と隣り合わせであり、それを理解しないものから死んでいく。

 

 「騎士さん、ここの受付空きましたよ?」

 

 「ああ、そちらへ行こう」

 

 「えーっと、名指しの『悪魔狩り(デーモンスレイ)』の依頼ですね」

 

 「ああ、他のギルドから一党仲間(パーティメンバー)が来ると聞いたのだが…」

 

 「はい、予定ではもう着いているはずなんですが…」

 

 バンッ!!とギルドの扉が大きな音を立てて開かれた。そこには見慣れない『種族』の二人の冒険者がいた。

 

 「闇人(ダークエルフ)殿はもう少し落ち着いて行動するべきです」

 

 「いや、ごめんなさい。遅れて急いでたら、勢いが付いちゃって…」

 

 そんな会話をしながらギルドへ入ってきたのは…

 

 毛深い体に鋭い爪、服装はこの近辺では見ないであろう民族衣装のようなもの。恐らく、狼人(ウェアウルフ)だろう。

 

 そんな彼に苦言を呈されているのは、すらりとした体に長い耳。それだけならば、唯のエルフだが。しかしその肌は黒く、彼女が闇人(ダークエルフ)だということが分かる。

 

 そのような、一見すると混沌の勢力(NPC)のような組み合わせだが、彼らの首には冒険者の証であるプレートがあった。

 

 更にはそのプレートが銅であるところを見るに、自分とは比べ物にならないほど高位の冒険者なのだろう。

 

 「まさかとは思うが彼らか?」

 

 「……そのようですね…」

 

 「そうか、とりあえず挨拶をしてくる」

 

 内心、何故こんなことになったと思いつつも彼らの元へ向かう。

 

 「すまない。今回の悪魔狩り(デーモンスレイ)の協力者だろうか?」

 

 その言葉に闇人(ダークエルフ)の女の表情が明るくなる。

 

 「よかったぁ…遅れたせいで怒って先に行っちゃったかと…」

 

 「前の同行者はそうでしたな」

 

 「ほら、只人(ヒューム)ってせっかちなのかなって?」

 

 「個人の問題でしょう」

 

 「ああ…つまり合っているのか?」

 

 「ええ、そうよ。私と彼が今回の冒険の同行者よ」

 

 「吾輩は狼人(ウェアウルフ)戦司祭(ウォー・プリースト)。以後、よろしく」

 

 「私は見ての通り闇人(ダークエルフ)盗賊(シーフ)よ!罠とか偵察はまかされよ!」

 

 「…私は只人(ヒューム)の騎士だ。過去に各地を回りながら護衛任務をこなしていた。冒険者としては大分後輩にあたるので、迷惑を掛けるかもしれんがよろしく頼む」

 

 「えーっと…これで一党は全員よね?」

 

 「ええ、指令書には彼の依頼に二人で同行せよと書かれているので、もう追加の仲間はおりませぬ」

 

 「よし!じゃあ、行きましょう!」

 

 闇人(ダークエルフ)の盗賊は我先にと馬車へ向かっていく。

 

 「……せっかちなのは彼女の方では?」

 

 「うむ、それは否定できぬな」

 

 このやり取りで彼とは何となく仲良くなれそうな気がした。

 

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 揺れる馬車、その中では三人が今回の任務について話し合っている。

 

 闇人(ダークエルフ)が床に地図を広げ、三人でそれを囲むようにして見ている。

 

 「現在位置が大体ここで今回発見された遺跡がここ」

 

 「沼地の中央か」

 

 「小規模だけど、近くに只人(ヒューム)の村もあるからね」

 

 「ギルドとしては早い内に安全を確保したいのでしょう」

 

 「しかし、二人はよくこの依頼を受けたな。私は大法螺吹きの大口叩き(ビックマウス)かもしれないのだぞ?」

 

 「うーん…別に私は気にしない。第一印象はいい人っぽい!」

 

 「吾輩はギルドの報告を信じてはいます故。後は貴殿の働きを見るのみです」

 

 「狼人(ウェアウルフ)の言葉は理解できるが、闇人(ダークエルフ)は勘だな」

 

 「大丈夫、大丈夫。これでも人を見る目はあるつもりだからさ!」

 

 「闇人(ダークエルフ)殿の何とも言えない行動によって、何度か窮地を救って貰った身としては否定はできませぬ」

 

 「まあいいさ、二人とも白磁等級の私が同行者であることには不満はないのだな?」

 

 「ええ!そんなことは元々気にしてないわ」

 

 「勿論ですとも、冒険者。胸に掲げるそれだけが全てではありませぬ」

 

 「そうか…よろしく頼む、二人共」

 

 奇妙な一党となったが、何とかやっていけそうだ。私はこの冒険に少し胸が躍った。

 

 その後、馬車に揺られながら色々と確認をしていると御者から声が掛かる。

 

 「冒険者の方々、もう直ぐ例の場所へ到着します。そこ以上は危険なので馬車ではなく歩きになります」

 

 「そういえば、頭目(リーダー)は誰がする?」

 

 「私、盗賊だし!」

 

 「ふむ、吾輩がしてもいいかもしれませんが…騎士殿、ここは貴殿が頭目をやってみては?」

 

 「本当にいいのか?白磁等級の冒険者だぞ?」

 

 「私は気にしなーい!私は君がいいと思うよ?」

 

 「吾輩も同意ですな。先程の作戦会議から騎士殿は色々な案を提案してくださる。頭目は多くの事態に対応できる人物がいいでしょう」

 

 「…はぁ…分かった。行くぞ、二人共」

 

 「おぉー!」

 

 「了解」

 

 馬車を下りて、数十分ほど歩いていくと目的の場所周辺なのか沼地に着いた。

 

 病み村のような毒の沼地でないことに安心する。私が良くても同行者二人は耐えられないだろう。

 

 「足を取られるから気を付けろ」

 

 「うぇー…感触が…気持ち悪い…」

 

 「むぅ…蜥蜴人(リザードマン)ならば楽々進めたのかもしれませんな」

 

 二人共、沼地は歩き慣れていないのか、倒れはしないものの不安定だった。

 

 「仕方ないな…二人共手を出すんだ」

 

 「何々?」

 

 「む?これは指輪ですかな?」

 

 二人に渡したのは『錆びた鉄輪』だ。これを装備すれば、沼地でも足を取られなくなるという優れものである。

 

 ただ着ける機会が少なく、私は病み村を踏破した後に不死院にて回収した。

 

 「それを嵌めれば、だいぶマシになる」

 

 「おぉ!すごい!マジックアイテム?」

 

 「この様な加護の指輪があるとは…騎士殿は素晴らしいものをお持ちで…」

 

 「昔旅の途中で拾ったものだ。これで沼地の中で戦闘になっても足を取られることはないだろう」

 

 「じゃあ、私が先頭で狼人(ウェアウルフ)が二番目、殿は騎士ね!」

 

 「了解した」

 

 「警戒してくれ、特に吹き矢のような音の小さいタイプの遠距離武器もだ」

 

 「ふふふ、ここは私の野伏能力(レンジャースキル)の見せ所だね」

 

 「期待している」

 

 「任せてよ!」

 

 闇人(ダークエルフ)は自信満々に無い胸を大きく張った。

 

 「何か失礼な事考えなかった?」

 

 「気のせいだろう」

 

 私たちは闇人(ダークエルフ)を先頭に沼地の奥へと進んでいくのだった。

 

 不死人、闇人、狼人。傍から見たら、混沌の勢力。

 

 不思議な三人の旅が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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▼『真実』の神の前準備

 

 近日、『幻想』の神々と賽子遊び(セッション)をするつもりの『真実』神はその為の下地(シナリオ)を作っています。

 

 舞台はギルドの存在する街。黒幕は混沌の神々から宣託(ハンドアウト)を授かった祈らぬ者(NPC)

 

 しかし、あまり難易度が高くても仕方ない。難易度自体は冒険者がどれだけ早く、陰謀に気付くかにするとしよう。

 

 

 

 

 数日後、神々の賽子遊び(セッション)が始まった。『幻想』の神は今回こそは冒険者を無事に返すと意気込んでいます。

 

 さてさてそう上手くいくかな?と『真実』の神は嘲笑う。

 

 今回の主役(PC)は黒曜等級の冒険者。果たして、彼らは黒幕の野望を打ち破る事が出来るのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出来ませんでした…

 

 机の上には顔から突っ伏した『幻想』の神と一ゾロ(ファンブル)の賽子。

 

 しかも、相手の奇襲に気付くべき野伏が真っ先に脱落しました。

 

 さあさあ、追撃だと『真実』の神も賽子を振る。

 

 『あっ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は『真実』の神が机へ突っ伏しています。その傍にはやはり一ゾロ(ファンブル)の賽子。

 

 哀れ、混沌の神々から宣託(ハンドアウト)を受けし黒幕は、己の術の暴走によって爆発四散!

 

 …はしなかったものの、制御を失った魔石粘液(スライム・コア)の反乱によって自身もその身を溶かされていった。

 

 どうする?どうしようか?と秩序、混沌の陣営の神々が協議します。

 

 このままでは面白くない、生き残っている女魔術師だけでは魔物討伐(シナリオクリア)はほぼ不可能。

 

 『あっ、彼に任せてみれば?』

 

 神々の内の誰かがそう言います。彼とは不死人(お助けNPC)の事、確かに彼ならこの崩壊気味の物語を修正へ導いてくれるはず!

 

 そう期待して、神々は不死人が依頼板(クエスト・ボード)から異変が起こっていることに気付くよう祈るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女魔術師の氷矢(アイス・ボルト)の命中判定です。

 

 秩序・混沌両陣営に緊張が走ります。エイッと『幻想』の神が賽子を振るう。

 

 結果は………命中です!女魔術師の氷矢(アイス・ボルト)は的確に魔石粘液(スライム・コア)の弱点を射抜き、この下水の支配者を打ち倒したのでした。

 

 秩序の陣営からは歓喜、混沌の陣営からは悔しそうながらも楽しかったという声が上がります。

 

 こうして、神々の賽子遊び(セッション)は終了した。

 

 

 その後、四方世界には神々の悪運(ファンブル)によって消え去った黒幕を警戒する、不死人の姿があった。










感想、誤字訂正ありがとうございます。



仕事終わりからずっと書くというね。
ただ楽しいからいいですよ、皆さんの感想等が生き甲斐です。

ゴブスレ9巻とTRPG楽しみ
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