不死殺し   作:ユルト

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デーモン/ゴブリン死すべし、慈悲はない

 ズブリ、ズブリ、と一歩歩けばその足が沼へ沈んでいく。しかし、そんな状況でも足を取られないのは『錆びた鉄輪』のおかげだ。

 

 「これ本当に便利よね。それにそのポーチもいっぱい物を入れられるんでしょ?他にも色々なマジックアイテムを持ってるの?」

 

 「ああ、旅の途中でかなりの数を収集した(拾った)。その多くが私の旅の助けとなったものだ」

 

 「ほう……それはすごい。マジックアイテムは高値で売れます故、時々市場にも出回りますが、その性能はピンキリですからな」

 

 「そうそう、巻物(スクロール)なんてその代表例よね。昔の人は何を考えて、貴重な巻物に点火(ティンダー)なんて封じ込めるのか……。もっとこう……大規模の呪文とかさ!」

 

 ここ数週間で色々な道具を買い漁ったが、確かにマジックアイテムの類は値段が高い割には性能が不揃い(ピンキリ)だ。

 

 少しばかりの魔力が付与されている剣でさえ、通常の数倍は値がする。

 

 「特に指輪系のマジックアイテムは貴重だ。売る気はないが、今回のように協力者に貸し出しはする」

 

 「その内、持ち逃げとかされそうだけど……大丈夫?」

 

 「あまりいい話ではありませんが騎士殿は白磁等級。騎士殿のマジックアイテムの噂を聞いて、事故死に見せかけて奪う輩がでるやもしれませぬな」

 

 「その手の輩には慣れているつもりだ。だが、無駄な争いを避けるためにも、ギルド以外には私がマジックアイテムを多く所持していることは内緒にしておいてくれ」

 

 「元々、言いふらすつもりはないよ!」

 

 闇人(ダークエルフ)は心外だとばかりに頬を膨らませる。

 

 「闇人(ダークエルフ)殿はおしゃべりですからな。言いふらすつもりはなくとも喋る可能性がありますでしょう?」

 

 「うぅ……」

 

 事実なのか、狼人(ウェアウルフ)に指摘されて闇人(ダークエルフ)の長い耳がへこたれる。

 

 「二人共、お喋りは終わりだ」

 

 歩き続けていると、大木の傍に鎧の上から袈裟斬りにされ血を流した死体と、ナイフで木を切り付けて作った文字があった。

 

 「前任者が死に際に残したメッセージでしょう…」

 

 「何が書いてある?」

 

 「『この先、デーモン。複数、注意』ですな」

 

 「え゛っ、複数って…」

 

 「ここは魔界ですかな?」

 

 「流石の私も大量のデーモンを相手には出来んぞ? 過去に複数のデーモンを相手に大立ち回りした経験はあるが、今できるかと言われれば無理という以前に御免こうむる」

 

 「取り合えず、相手が確認できる場所へ移動してから考えよっか」

 

 「中級デーモン程度ならば吾輩も経験がありますので、お役に立てるやもしれませぬ」

 

 「そうか、期待している」

 

 歩き続けると、少し開けた場所へ出た。そこには——

 

 ビシャッ! ビシャッ! と、地面に横たわる『まだ』人の形を保っている肉塊へと大鉈が何度も振り下ろされている異様な光景が広がっていた。

 

 大鉈を振るうのは、ロードランでもよく見た『山羊頭のデーモン』だった。デーモンの中でも人型に近く、両手に持つ大鉈による攻撃が特徴である。

 

 「あいつらか……。まあ、複数と書かれていた時点で『牛頭のデーモン』か『山羊頭のデーモン』のどちらかだろうとは思っていたが」

 

 「騎士殿はあれらを知っているのですな?」

 

 「ああ。奴らは私の故郷にいた『山羊頭のデーモン』——正確には『山羊頭のレッサーデーモン』だな。数が多いがそれほどの脅威でもない。まあ、仮にこの指輪が無い状態の沼地であれば、複数を同時に相手取るのは私でも遠慮したいが」

 

 遠くから眺めている間も、『山羊頭のデーモン』は地面へと大鉈を振り下ろし続けていた。

 

 他の冒険者の死体もあったのか、その周囲には幾つかの原型を留めていない肉塊がある。

 

 あの大鉈を何度も何度も叩きつけられる内に細切れになったのだろう。

 

 「ねぇ……あのデーモンは何をしてるの? 死体にあんなことして……ああいう種族?」

 

 「いや、そんな習性はないはずだが?」

 

 「彼奴等の習性に関しては後にしておきましょう。さて、どうしますかな?」

 

 「ああ、俺が三体同時に相手をするから、二人は後の二体を頼む」

 

 「私、回避し続ける自信はあっても、倒す程の力はないから早めに助けてね?」

 

 「吾輩は騎士殿のように上手くやれるとは限りませんが、狼が山羊に負けたとなれば笑いものでしょうな」

 

 などと冗句を言い、狼人(ウェアウルフ)は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 「では、行動開始だ」

 

 ソウルから『黒騎士の大剣』を取り出すと、先陣をきる。

 

 私たちの接近に気付き、先程まで死体を細切れにしていたデーモン達がこちらに振り向く。

 

 「はぁ!」

 

 私は先頭の一体へ大剣の突き(片手強攻撃)を放つ。その攻撃は喉へ突き刺さっ(クリティカルし)た。

 

 喉へ強烈な一撃を喰らったデーモンは、苦しそうに後退る。私は追撃として『大火球』を顔面へ投擲した。

 

 『グルゥゥゥ……』

 

 先頭の一体は膝を付き、前へ倒れ伏す。他のデーモンは仲間が殺された事に怒りを覚えたのか、四匹とも私の方へと走り出すが――

 

 「おっと、全員は行かせませんぞ」

 

 「アンタの相手は私よ!」

 

 狼人(ウェアウルフ)はその超人的な身体能力で飛び掛かり、鋭い爪をデーモンへ突き立てている。

 

 闇人(ダークエルフ)の方は、投げナイフでもう一体の気を惹き付けるようにして逃げ回る。

 

 結果、私の元へ来たのは二体のデーモンだ。この程度ならば問題はない。さっさと片づけるとしよう。

 

 「(主人)のいない貴様らなど相手ではない」

 

 一体のデーモンが大鉈を振るう。私が後方へ避けると、もう一体が跳躍して上から叩きつけるように斬撃を繰り出すが、慌てず横に回避する。

 

 「相変わらず、隙が大きいな!」

 

 跳躍して大鉈を叩きつけたその一体の両腕へと大剣を振り下ろすと、その一撃でデーモンの両腕は切断された。

 

 『ガァァ!!!』

 

 「さっさと死ぬといい」

 

 怯んだ隙に加えたとどめの一撃で、デーモンの首が宙を舞う。やはり、デーモンといえど下位(レッサー)ゆえに大したことはない。

 

 「さあ、残りはお前一匹だ」

 

 『グルゥゥゥ!!』

 

 知恵のある生物なら恐怖で逃げるかもしれんが、奴らにはそんなものなどないだろう。

 

 「攻撃の予備動作で何をするか分かり易い……」

 

 横薙ぎの大振りが二回来る。盾でそれを受け流し、攻撃の隙に斬りつけた。

 

 「仲間の救援に行かせて貰うぞ」

 

 デーモンが攻撃に怯んだ隙に盾を背負い、大剣を両手で持つ。

 

 大剣を下から上へ勢いよく振りぬく(両手強攻撃を加える)と、デーモンの頭部が左右に割れる。

 

 「ふぅ……」

 

 一息吐いて仲間の方を見ると、狼人(ウェアウルフ)はデーモンを圧倒しているようで、デーモンの片腕があらぬ方向へ捻じ曲がっている。

 

 「ハハハハ! デーモンと言えど所詮は山羊! 我が神、同胞の血肉となるがいい!」

 

 デーモンも片手で応戦するが、狼人(ウェアウルフ)に懐へと潜り込まれ、喉元へ喰らい付かれる。

 

 急所を押さえられたデーモンはジタバタと抵抗するが、次第に抵抗する力も弱まっていき、呆気なく絶命した。

 

 「(まさ)しく狼が山羊を狩るが如く」

 

 「ちょっと!二人共、終わったなら助けて!」

 

 闇人(ダークエルフ)の方はといえば、デーモンの大振りで分かり易い攻撃が身軽な彼女に当たるはずもなく、見事な身のこなしで難なく回避している。

 

 「助けなくても余裕そうだがな」

 

 「しかし、闇人(ダークエルフ)殿の武器では決め手に欠けるでしょうからな」

 

 私たちは闇人(ダークエルフ)の加勢へ向かう。その後は特に問題も起こらず、三人で一匹を袋叩きにするのだった。

 

 デーモンと聞いて事前の準備をしっかりとして来たが、頼もしい仲間が居ることも相まって、二度目のデーモンとの邂逅はあっさりと幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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▼ゴブリンスレイヤーになる者、勇者となる少女、デーモンを殺す者

 

 「……」

 

 彼は、ある村でのゴブリン退治——正確にはゴブリン共から村を防衛する依頼を受けていた。

 

 本当ならば、白磁等級の冒険者が一人で受けるような依頼ではない。

 

 だが、粗方の他の冒険者達は、鉱山に現れた岩喰怪虫(ロックイーター)の討伐に向かってしまった。

 

 そもそも、ここ数日彼を誘おうとするものすらいない。それもそのはずで、その原因たる彼の装備は対ゴブリン用の装備として更に完成へ近づいていた。

 

 盾はゴブリンに対して大きさはいらない為、中盾から小盾に替えた。その縁は金属の環で覆ったものとなっている。

 

 (騎士)から貰ったショートソードは、血に濡れて切れ味は悪くなっても刃毀れする事がほぼなく、今でも愛用している。

 

 ただ、その他の剣は武具屋で買った数打ちを磨り上げ、ショートともロングとも言い難い長さの剣となっている。

 

 真新しい革鎧は泥と血反吐に汚れ、すっかり薄汚く変貌した。

 

 こんな彼を冒険へ誘う者はいない。それでも以前と変わらず声を掛けてくるのは、初日に助言をくれた騎士姿の彼と槍使いの新人くらいのものだ。

 

 「ねーねー、『貴方も』冒険者さん?」

 

 そんな彼に声を掛けたのは活発そうな少女だった。冒険者が物珍しいのか、ジロジロと彼の装備を見る。

 

 「ああ、そうだ。ここがゴブリンが出るという村か」

 

 「そーだよ! じゃあ、案内するね!」

 

 少女に連れられて辿り着いたのは村にある寺院だった。

 

 「もう、外には出るなと言ったでしょう!」

 

 「だって…」

 

 寺院へ到着した途端、少女は院長にお叱りの言葉を受けた。それも当たり前のことで、ゴブリンが現れた村で子供一人で出歩くなど『攫ってください』といっているようなものである。

 

 子供を心配する大人ならば普通の対応だろう。

 

 「院長の言う通りだぞ、少女よ。あまり院長を困らせてはいけない」

 

 「あっ! 騎士様!」

 

 「さあ、部屋へ戻るんだ。後でまたお話しよう」

 

 「はーい!」

 

 寺院の奥から現れたのは彼もよくお世話になっている人物だった。

 

 「貴公がこの村に来ているという事は、やはりゴブリンがここへ来るのだな」

 

 「アンタは何で此処に?」

 

 「デーモンの討伐が予想外に簡単で早めに帰って来たのだが、その途中『ゴブリンの襲撃に遭った村』を見た」

 

 「………どれ位の日にちが経ってたか分かるか?」

 

 「死体の腐敗具合からして1週間は経っていたな」

 

 「襲撃はまだかもしれないが…」

 

 「次の襲撃は此処だろう。小規模だが偵察が来ていた」

 

 「数はどれくらいだと思う?」

 

 「軽く見積もっても30以上だ」

 

 「そうか…」

 

 彼の言葉を聞いて黙る。予想よりも事態は深刻だった。

 

 「巣を失った渡り程度だと予測していたが…」

 

 「正確には渡り『だった』だな」

 

 「ここで止めなければ爆発的に増えていくだろうな」

 

 「既に村を襲う時点で一定の数は揃っている。後は増えるだけだ」

 

 そんな二人の不穏な会話を院長は不安げに見詰めている。30を超えるゴブリンの群れ……そんなものに白磁の冒険者二人で対応できるのかと不安なのだ。

 

 「何か私どもにお手伝いできることはありますでしょうか?」

 

 「……金は払う。しばらく……三日程は世話になると思う」

 

 「わかりました……。何かお手伝いできることがございましたらおっしゃって下さい」

 

 院長は宿泊代を受け取ると、部屋を用意しに行くのか奥へ戻っていった。

 

 「まず、村周辺の確認をする」

 

 「私も手伝おう」

 

 「……恐らく、ギルドからは報奨金はそれほど出ないぞ?」

 

 「いいさ、自分が関わらなかったせいで村が滅ぶ方が寝覚めが悪い。この村に滞在していたのもゴブリンを迎撃するためだ」

 

 「そうか……すまない……」

 

 「私も一人でこの村を守るのは困難だった。渡りに船というやつだよ」

 

 その後、彼と村の周辺を見て回った。

 

 ゴブリンが来る前に収穫をして貰い、その傍らで水路の水かさを上げる。その他にも新たに柵を設置するなど、ゴブリンにバレないよう広場ではお祭りを行いつつ、村人たちにも交代で設置を手伝ってもらった。

 

 襲撃はその3日後の夜だった。

 

 

 

 

 

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 赤い月が昇り、それに続くように緑の月も昇る。空には暗雲が立ち込め始めた。

 

 甲高い雷鳴と共に青白い光が夜空を切り裂き、ポツポツと降り始めた雨粒が大地へ吸われていく。

 

 「今夜は雨が降りそうだな」

 

 「ああ、恐らく奴らはそれに乗じてこの村の襲撃に来るだろう」

 

 人間にとっては最悪(ファンブル)のタイミングでも、ゴブリンにとっては最高(クリティカル)のタイミングだ。

 

 さあ、最終局面(クライマックスフェイズ)だ。











デーモンはダイスを振ったら山羊君になりました。
本当はデーモンで丸々一本行く予定でしたが、山羊君が弱いのが悪い。

デーモン遺跡上の5体の山羊君たちを予習の為に狩っていたんですが
何故か数が多くてもさほど苦戦しませんでした。

「あっ!これ強く書くのは無理だわ」とそうそうに諦める
狼人(ウェアウルフ)さんと闇人(ダークエルフ)さんは
またいつか出番が来るでしょう、きっと、たぶん、メイビー
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