黄金の魔術師   作:雑種

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エンデュミオンの奇蹟で予告していた通り、西崎とレディリーの短編です。
自分の中でのレディリーのだらけてるイメージが凄まじい(風評被害)


とある不死者の歓び

「『エンデュミオン記念式典に魔の手迫る!?若手社長苦渋の決断!!』ね……」

 

 エンデュミオンの切り離し(パージ)が行われ、エンデュミオンがスペースデブリとして宇宙を漂う事になってからはや数日が経った。未だに新聞の一面やニュースのトップを飾るのはエンデュミオンの話題ばかりであり、いい加減レディリーもそんな世間の様子に飽き飽きしてきていた。

 

「『エンデュミオンの記念式典当日、エンデュミオン施設が犯行グループに占拠され、エレベーター中継地点付近が爆破されるという事態が発生する。この爆発によって応力を失ったエンデュミオンが地上へ墜ちる前に、オービット・ポータル社の社長であるレディリー=タングルロード氏がエンデュミオンの切り離し(パージ)システムを作動。これによりエンデュミオンの地上への倒壊は阻止された。犯行を行ったグループは警備員(アンチスキル)によって確保され刑務所へと連行され、苦渋の決断を下したレディリー=タングルロード氏は一連の責任を負い自ら辞任した』」

 

 先日起こった出来事を頭の中で整理する為に新聞の内容を声に出して読むレディリー。新聞やニュースに流れている情報の大半は彼女と西崎隆二(にしざきりゅうじ)によって流されたフェイクの情報だが、マスメディアはその情報をフェイクと見抜けず大々的に取り上げている。()しくも三年前、自身の悪事を隠す為に使用した手筋を今回は黒鴉部隊やセクウェンツィア家族の平和の為に使用した形となる。

 彼女は共同生活をしている隆二の()れてくれた紅茶を飲んでから、ホゥと一息つき、

 

「今の私って無職なのよねぇ……」

 

 その現実を、しみじみと呟いた。

 

   ★

 

「という訳で、どうすればいいと思うかしら?隆二」

「何故それを俺に聞いたんだ」

 

 自身の膝の上に座りテレビゲームをする様子から、レディリーが全くもって無職である事を気に掛けていないことを悟っている西崎。彼は自分に対するレディリーの問いかけの真意が分からず困惑した表情を見せた。

 

「いえね。今の私って所謂(いわゆる)燃え尽き症候群なのよ。だから何かをする気力なんてこれっぽっちも()かないのだけれど、果たしてこのままで本当にいいのかしらと思ってね」

 

 (なが)年自身の死を目標に掲げ無茶をして来たレディリーだが、その目標が思わぬ形で失われた事によって今の様な状態に陥っていた。

 

「いいんじゃないか?このままでも」

 

 西崎はそんな彼女を肯定した。

 

「普通の人間であれば、生きる為に何かしら手に職を持たなければいけないが、幸いにもレディーは不死な訳だ。なら、多少なりとも無気力になる時間があっても問題では無いと思うがな。というより曲がりも何も今まで数百年も職に就いていたのだから、今は余生をのんびり過ごしても良いだろう」

「あ~~~、ありがと」

「出来ればその気怠(けだる)さは直して欲しいものだがね」

「それは無理。今の私は無気力であると同時に途方もない幸福を噛み締めてもいるのだから」

 

 西崎に体を預け、ずるずると西崎の体を滑り落ちていくレディリー。気の抜けた彼女の姿は余り見られるものでは無くこれはこれで新鮮なのだが、出来ればゲームをしながら滑るのは控えてもらいたい西崎であった。

 

   ★

 

「所で私ってとっくに成人過ぎてるのよね……」

「どうした?突然思い出したように」

 

 突然そんなことを言い出すレディリーを心配する西崎。最早この寮では何時もの光景になりつつあるやり取りである。

 

「私の青春は灰色だったわ」

「待て、こちらを見ながらそんな事を言うな」

「所で話は変わるのだけれど隆二のご両親って今どちらに居られるのかしら?」

「変わってない。話変わってないぞ」

「もうすぐ大覇星祭(だいはせいさい)のようだけれど、そちらには来られるのかしら?」

「あー……」

「どうしたの?そんなに歯切れ悪くして」

 

 外堀を埋めようと画策(かくさく)するレディリー。対して西崎は彼女の発言に両親の単語が表れた途端、苦虫を噛み潰した様な表情を作る。

 

「何か事情でもあるの?ご両親?」

「いや、まあレディー相手なら話しても大丈夫か」

「実は俺の両親は……」

「両親は……?」

「普通の様で普通じゃない」

「…………はい?」

 

 西崎の言葉に首を(かし)げるレディリー。そんな彼女に西崎は自身の両親の普通ではない点を説明していく。

 

「まずどれだけ外聞を漁ろうが、俺の両親に関しては普通以外の情報を得られない。強いて言えば父の趣味が旅行で、しょっちゅう色々な場所に赴いている位だな」

「で?」

「ただ、父と母の特異性は人目の無い場所でのみ発揮されてな。いや、()()()()()()()()()()()()()と言った方が適切か」

「目撃者が居なければ事件は明るみに出ないという理論ね」

「その通り。両親はどちらも戦闘に()いては『(西崎隆二)』よりも上だ。しかし強さのベクトルがどちらも異なっていてな」

「へぇ。普段の隆二よりも強いのね」

「そうだ。母は純粋に戦闘のセンスが凄まじい。なんせ音速以上の速度で飛んできた(ゲイ・ボルグを模した霊装)を素手で難なく掴んで相手に同速度で投げ返すとかいう所業を為す位だ」

「えぇ……(困惑)」

「父はもっと可笑(おか)しい。口伝でのみ伝わっているとかいう先祖返りの目とやら影響で、ことの()()を視、その(いく)ばくかを自分の有利な方へ誘導させることが出来る。だから父が戦闘を行う場所は決まって人目につかない場所だし、相手の攻撃は決まって父には当たらない。加えて父は決まって相手の弱点を的確に突くなんて可笑しな展開になる」

「えぇ……(ドン引き)」

 

 「俺が言うのも何だけど、俺の両親って本当に同じ人間か……?」と悩む西崎。そんな彼の様子を見て、レディリーは決心する。

 そんな人物のうろつく大覇星祭に誰が行くか。私はいつも通り部屋に引き籠らせて貰うわよ、と。

 

   ★

 

「エスタ~」

「はい?」

「膝枕~」

「はいはい」

「ん~~~」

「気が緩んでますねレディー。私の膝枕なんて、そんなに良い物では無いと思いますが」

「ん~、そんな訳無いわよ。仮に一流ホテルの高級ベッドとエスタの膝枕の二択を迫られたら膝枕をとる位には良い物だと思うわよ」

「そうですか?」

「少なくとも私にとってはそうよ」

 

 レディリーの我儘に付き合い、彼女を膝枕するエスター。レディリーは暫くそんな彼女の膝枕を堪能したかと思うとそのまま眠りについてしまった。

 エスターはそんなレディリーの頭を優しく()でる。

 

「全く、手の掛かる妹が出来たものです」

 

 脳裏に浮かぶのは、初めて彼女と出会った時のこと。時の流れに置き去りにされ、一人悠久(ゆうきゅう)の時を過ごして来た彼女の瞳は濁りに濁っていた。

 けれど、今は違う。紆余曲折(うよきょくせつ)があったものの、今の彼女の瞳は澄んだ色をしていた。

 

「でも、それも悪くないかもしれませんね」

 

 彼女はこれからもアンブロシアの実によって与えられた不死という呪いに(さいな)まれるのだろう。けれどそこに最早孤独の二文字は存在しない。彼女の隣には同じく永遠を生きる存在が寄り添うのだから。いずれ西崎隆二という存在が死を迎えたとしても、(かのじょ)は螺旋の内を(めぐ)り、また彼女に巡り合うだろう。

 

「ですから覚悟しておいて下さいね、レディー。(へび)って結構執念深いんですよ?―――それこそ、思い人を鐘に閉じ込めて焼死させる程度には」

 

 心なしか、エスターの膝の上でレディリーがブルリと身震いした気がした。

 




西崎の両親は旧約9・10巻で多少登場する予定ですが、設定だけ先出しです。
因みに両親の一族の起源を遡ると、どちらも蛇を祀る土着信仰の根付いていた地域の一族に流れ着くとか……。

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