黄金の魔術師   作:雑種

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おいコラァ!降りろ!原作持ってんのかコラ!と言われた気がしたので旧約3巻投稿します。尚、かなり展開を巻いているので原作既読推奨です。



黄金の魔術師(旧約3巻)

 

   1

 

 八月二〇日、日に日に夏の終わりを感じてきた上条当麻(かみじょうとうま)は、今まさに危機に陥っていた。

 切欠(きっかけ)は自身が記憶を失う前にまで遡ってしまうのだが、学園都市(がくえんとし)の外から壁を越えてやって来たインデックスなる少女との出会いや、そこから続く魔術師との死闘と入院によって、結果として『夏休みの補習』をサボった形となった上条当麻は、八月も終わろうとしている今頃になって学校の補習を受けていた。

 事件が起こったのは、そんな補習の帰り道でのことである。上条が「喉が渇いたな~」と呑気に自販機に近づいた際にそれは起こった。

 

 

 

 立てこもり事件である。

 

 

 

 上条相手に人質(?)を取り、身代金を要求した相手に対して、上条はなけなしの二千円札を渡したのだが、相手は上条の金を奪っただけで、人質を解放しなかったのだ。上条が今後の展開に悩んでいた時、彼の後ろからアスファルトを踏む革靴の音が聞こえた。

 

「ちょっとー、()()()の前で突っ立ってんじゃないわよ。ジュース買わないならどくどく」

 

 上条が声の主を見る前に、少女の手が上条の腕をつかみ、自販機の前から彼をどかそうとぐいぐい押してくる。上条がその手の持ち主に顔を向けると、そこには中学生ぐらいの少女が居た。

 肩まである茶色い髪に、整った顔立ち、名門の常盤台(ときわだい)中学の制服に身を包んだ彼女は、しかしとてもお嬢様と呼べる様な素行の良い人間では無いように見受けられた。

 

(誰?知り合い?)

 

 この夏ちょっとした事故で記憶を失った今の上条は、目の前の少女との接し方について考えあぐねていた。何せ判断材料がこの少女の手と口調ぐらいしかないものなので、どこまで踏み込んでいいのか分からないのだ。取敢(とりあ)えず自分の性格のことを考慮して、多少適当なことを言っても大丈夫だろうと思考を放棄した上条当麻。

 

「…で、誰だこいつ?」

「私には御坂美琴(みさかみこと)って名前があるって()()言ってんでしょうが!いい加減覚えなさいこの馬鹿!」

 

 どうやら自分の知り合いらしいと上条が思った瞬間、少女の額から青白い雷撃の槍が伸び、上条目掛けて襲い掛かってきた。反射的に身の危険を察知した上条が右手を顔の前に持ってくると、雷撃の槍は上条の右手の力によって掻き消された。幻想殺し(イマジンブレイカー)と呼ばれるその右手は、それが異能の力であるならば何であれ打ち消してしまうという代物だ。学校の能力検査では役に立たないこの力も、こういった命の危険のある場面では役に立ってくれる。欲を言えば、そんな場面には余り来てほしくないのが上条の本音である。

 上条は目の前の少し不満げな顔をした少女を見つめる。先程の言動からして自分の知り合いであるのは確認できたが、ステイル=マグヌスといい、この少女と言い、上条の知り合いには『出会い頭に即死級の攻撃を打ち込む』様な人間しかいないのだろうか。

 

「なにこっち見てんのよ。とにかく用がないならどいてくれる?私この自販機にメチャクチャ用があるんだから」

「あー…その自販機な、どうもお金を呑み込むみたいだぞ」

「知ってるわよ」

 

 自分の二の舞にならないよう親切心で警告してあげた上条に御坂美琴が答える。

 

「??呑み込まれると分かっててお金いれるの?もしかしてマゾの方ですか?」

「ハァ?違うわよ。裏技があるのよ、裏技。お金を入れなくてもジュースが出てくるっていう裏技がね」

 

 その時、上条当麻は不幸の気配を敏感に感じ取っていた。記憶を失ってから経験した死闘の数々が、今ここで呑まれた二千円のことなど放っておいてこの場から逃走した方が良いと告げている気がする。そもそも自販機はお金を払ってジュースを買う以外の用途など無いというのに、『裏技』なるものが存在していること自体が前提として可笑(おか)しい気がする。

 そして、上条当麻の予感は的中した。

 

 

 

 ちぇいさー!!という叫び声と共に、名門女子校のお嬢様が自販機の側面に上段蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

 ガコン!という音と共に自販機の取り出し口にジュースが出現する。勿論、一連の光景を見た上条当麻は未だ状況に付いていけず、唖然としている。

 

「ボロッちいからジュース固定してるバネが緩んでるのよねー。出てくるジュースがランダムなのは難点なんだけど―――ってアンタどうしたの?」

「いや、常盤台のお嬢様ってみんなこんな感じなのかなーって思ったらなんか夢を壊されたような気分がですね…」

「女子校なんてそんなもんよ。女の子に対してあまり夢見ない方が良いわよ」

「ちょっと待て、もしかしてこの自販機ってお前達が毎日蹴りまくったから壊れちまったんじゃねーの?」

「何ムキになってんのよ。何、ひょっとしてアンタこの自販機にお金呑まれでもしたの?」

「……」

「え、嘘、ホント!?アンタこの自販機にお金呑まれた訳!?」

 

 はしゃぐ御坂美琴を前に上条がため息をつく。二千円を失ったことはショックだが、嘆いていても仕方がない。今回は運が無かったということにして、今日はもう寄り道せずに学生寮に帰ろう。

 自販機に背を向けた上条を見て御坂美琴が声を掛ける。

 

「ちょっと待ちなさいよアンタ。一体いくら呑み込まれた訳?」

「……黙秘権を行使します」

 

 目の前の少女に「二千円呑まれました」と正直に言っても恐らく返ってくる反応は心配ではなく爆笑だろうと思っている上条が口を閉ざしていると、御坂美琴は真剣な顔になってこう言った。

 

「笑わない、約束する。ついでに言うならアンタの呑まれたお金を取り返してあげるわよ」

 

 失った二千円が返ってくるという言葉に反応して上条が希望に溢れた顔をして金額を告げる。

 

「…二千円」

「二千円?ってもしかして二千円札!?あの絶滅危惧種の!?そりゃそんな古いもの突っ込めば自販機だってバグるわよ!!あはははは!!」

 

 「笑わないっていったのにー!」と言いながら上条が自身の頭を抱える。御坂美琴はそんな上条の様子を見てニヤリと笑い、

 

「ほほう。ではその二千円札が出てくることを祈って…」

 

 御坂美琴が自販機の硬貨投入口に右手の掌を置く。その行為に上条が疑問をぶつける。

 

「ちょっと待って上条さんの危険センサーが今ビンビンと警鐘をならしてるんですが貴女一体どうやって自販機からお金を取り戻す気ですかねー!?」

「どうやってって、こうやって」

 

 瞬間、御坂美琴の掌から青白い電撃が放たれ、ズドン!という音と共に自販機が揺れた。揺れた自販機はその隙間から黒い煙をもくもくと立ち昇らせている。

 その様子に、上条は自身の血の気がサアッと引いていくのを感じた。

 

「あれー、可笑しいわね。あまり強く撃つつもりは無かったんだけど。あ、なんかいっぱいジュース出てきた。ねえ、二千円札出てこなかったけどそれ以上のジュース出てきたからこれで良い?―――って何脇目も振らずに逃げてるのよ?」

 

 後ろで電気少女が何か言っているが、上条は立ち止まらない。こういう場合、日常的に不幸を味わっている上条にとって次の展開は容易に想像出来た。時間が惜しい。一cmでも一mmでも良いのでとにかく自販機から離れようと走る上条。そんな上条の後ろで、日頃蹴られている鬱憤を思いっきり晴らすような勢いで自販機から警報が鳴り響いた。

 

   2

 

 気が付けば上条は繁華街のバスの停留所のベンチに座っていた。少し寂しそうな夏の夕暮れが上条の心情を表している気がする。そんな上条の隣には美琴が座っている。両手いっぱいに抱えているジュースは彼女が故障させた自販機の取り出し口から集めた物であるが、それらを抱えてよくここまで走ってこれたものだと上条が感心する。

 

「現実逃避してないでジュース持ちなさいって。これ元々アンタの取り分でしょ?」

「なんかこのジュースを受け取った瞬間に傍観者から共犯者に進化しそうで上条さん恐いんですが…。っていうかポイポイ投げんな」

 

 『ホットおしるこ』やら『黒豆サイダー』やら『きなこ練乳』といった商品ラインナップを見ながら上条当麻は考える。

 学園都市は外の世界の数十年先の科学技術を持つ科学の最先端都市である。そんな学園都市には無数の大学や研究機関が存在しており、そこで作られた商品の実地テストが街の至る所で行われている。生ごみの自動処理や自立走行する円柱型の警備ロボットにしてもそうであるし、今上条がその手に持っている奇異な名前の缶ジュースもそうである。あるのだが……

 

「学生達は同じお金を払って買っているんだという事実が何故偉い人には分からないのかと問い詰めたい」

「……アンタ、間違っても統括理事会のお偉いさんとかに直訴するんじゃ無いわよ?それに私は好きだけどなー。こういう一歩でも進もうとする夢と意欲って」

 

 美琴は上条の腕の中から『ヤシの実サイダー』を一つ引っこ抜いて、

 

「大体このジュース一本にしてもそうだけど、アンタって逃げ腰すぎるのよ。何て言うか、本当は強いのに自分は弱いと思い込んでバカを見る感じ?そーゆーの見てると一言物申したくなるのよねー」

「別に上条さんは生粋の強者枠とかじゃないんですが」

「そう?そんなに間違ったこと言ってないと思うんだけどなー。だってアンタは学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)を軽々とねじ伏せるだけの『力』を持ってんのよ?」

「???」

 

 超能力者(レベル5)を軽々とねじ伏せるという言葉に上条は身に覚えが無かった。もしかしたら目の前の少女の言っていることは自分が記憶を失う前の出来事に関することなのかもしれない。相手に何と返していいのか分からない上条を置いて少女が告げる。

 

「アンタは学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の中でも第三位の位置に君臨しているこの超電磁砲(レールガン)()()()()()()()()()()()ことをもっと誇示するべきなのよ。じゃないとアンタが打ち負かしたこの私に申し訳が立たないじゃない」

「凄い時代遅れな考えだな」

 

 パッと反射的に相手の質問に感想を返して、その後上条当麻は「あれ?」と思った。今目の前の少女は自身のことを超能力者(レベル5)の第三位と言った。そして自分を打ち負かしたことをもっと誇るべきだとも。つまりそこから導き出される答えは……

 

(もしかして上条さん記憶を失う前にこの名門女子校のお嬢さまをボコボコに殴っちゃった訳ですかーーー!?)

「ぐ、ぐぅううううううううううう……」

「ちょっと、何唸ってんのよ。喉が渇いたならジュースを飲んでおけばいいじゃない」

 

 と、そこで美琴はハァと溜息をついて

 

「しっかしアンタもむかつくわよね。自分からは決して殴らず、相手には散々殴らせておいてそれを全弾ガードするなんてね」

「う?」

 

 ピタリ、と上条が唸り声を発するのを止める。先程目の前の少女は何と言った?自分からは決して殴っていない?つまり記憶を失う前の上条は女の子相手に手を上げることは無かったと?

 安心した上条が笑みを浮かべると、それを見た美琴がつまらなさそうな顔をする。

 

「自信を持ったらそれはそれで嫌な奴なのよね。取敢えず両手で抱えてるジュース消化したら?私直々のプレゼントなんてウチの後輩が聞いたら卒倒ものよ?」

「卒倒だあ?こんな缶ジュースもらって喜ぶ奴がいるか。大体お前の学校女子校だし、そんなとこで恋愛なんか有り得ねーだろ」

 

 上条の言葉に、今度は美琴が現実逃避気味に遠い目で空を見つめる。

 

「そうだったら良かったんだけどね……」

 

 上条が隣に座っている今にも負のオーラを出そうとしている名門校のお嬢様から距離をとろうとして―――

 

 

 

「お姉さま?」

 

 

 

 不意に響いた声に思わず身を固まらせた。

 

(おっ、お姉……!?まさかまさかの女子校で先輩後輩の禁断の愛ですか!?)

 

 上条が声のした方向に目を向けると、そこには美琴と同じ制服を着用し、茶色い髪をツインテールに結んだ中学一年生位の女の子が立っていた。

 

「まぁまぁお姉さま!補習なんて似合わない真似していると思ったらこの為の口実だったんですのね!」

 

 上条が隣を見ると、美琴が頭を抱えていた。今日は夕方から何だか頭を抱える案件を多く持ちすぎではないだろうかと考える上条を置いて、美琴がツインテールの子に質問する。

 

「一応聞いておくけど『このため』とは『どのため』のことを言っているのかしら?」

「決まっています。そこの殿方と逢引する為でしょう?」

 

 やはり女子校の生徒は割とロマンを重視する思考を搭載しているのだろうかと考える上条の横で、美琴の髪の毛から火花が散った。身の危険を感じて美琴から離れようとした上条の手を、ツインテールの子がしっかりと握った。

 

「初めまして殿方さん。私、お姉さまの『露払い』を行っている白井黒子(しらいくろこ)と申しますの」

 

 はあ、と上条が握られた手に対してのリアクションに困っていると、隣の第三位が激昂した。

 

「あんたはこのヘンテコが私の彼氏に見えんのかぁーーー!」

 

 激昂と共に雷撃の槍が打ち出され、白井黒子に当たる直前に彼女の身体がその空間から消えた。どうやら彼女は空間移動(テレポート)系能力者らしい。怒りの対象が消えたことでその怒りを発散させるために道端にバンバン雷撃の槍を放つ超能力者(レベル5)第三位に道行く人の視線が集まる中、不意に背後から「お姉さま?」という声が聞こえてきた。また美琴の関係者かと思って上条が首を後ろに向ける。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 見間違いかと思って上条が横を見る。やはりそこにはベンチに座った御坂美琴が存在していた。改めて背後の御坂美琴に視線を移す。顔立ちから制服まで一緒の彼女は、しかし横に居る御坂美琴とは違い、頭に暗視ゴーグルらしきものを掛けている。上条が横に座る美琴に問いかける。

 

「もしかしてお前って一卵性双生児だったの?所謂(いわゆる)双子ってやつ?どっちが姉でどっちが妹なの?」

「お姉さまがお姉さまです、とミサカは回答します」

 

 問いに答えたのは背後に居る御坂美琴の方であった。変わった話し方だなと思いながらも上条は「へー、じゃあ御坂妹ってことになるのか」と相槌を打つ。

 と、そこで上条は「お前の妹さんってお前と全然性格違うんだな」と隣に座る美琴に話しかけようとして―――

 

 

 

「アンタ、一体どうしてこんな所でブラブラしてんのよ!!」

 

 

 

 ベンチの隣に座っていた美琴の怒声によってその口を閉じた。

 もしかして御坂さん家の姉妹は仲がよろしくないのかな?と考えている上条を置いて、美琴が御坂妹と一緒に何処かへと去っていく。釈然としない上条がふと視線をベンチの上に戻す。

 

「あ、アイツジュース置いてってやがる……」

 

 ベンチと上条の腕には合計一九本にもなるジュースの山。ひとまずはそれを何とかしようと思う上条であった。

 

   3

 

 西崎隆二(にしざきりゅうじ)が自身の住んでいる学生寮まで戻ってきたとき、隣室の上条の部屋の前の廊下に四人の人物と一匹の動物が居た。

 一人はその頭に一〇万三〇〇〇冊の魔導書の知識を詰め込んだ少女、インデックス。一人は首に掛けた十字のネックレスによって吸血殺し(ディープブラッド)という特異性を封じた少女、姫神秋沙(ひめがみあいさ)。一人はその右手に幻想殺し(イマジンブレイカー)という特異な力を宿した少年、上条当麻。そしてもう一人は頭部に暗視ゴーグルをつけ、学園都市第三位に酷似した見た目を持つ少女。ちなみに一匹は言うまでも無くインデックスの飼っている飼い猫のスフィンクスである。

 

「こんな人数で廊下に出て何をしているんだ。今日は線香花火でもするのか?」

「西崎か。ちょっとスフィンクスにノミが付いちゃったみたいでそれを取り除いていたんだ」

「インデックスの持っているセージの葉と姫神の持っている殺虫スプレーでか?悪いことは言わんからそれはやめておいた方がいいぞ」

「それは上条さんだって理解してますって。だからこちらの御坂妹にさっき微弱な電撃で取り除いてもらったんだ」

「御坂妹……ああ、ソイツ(シスターズ)のことか」

「何だよ、西崎。コイツの事知ってんのか?」

「知っていると言えば知っている。知らないと言えば知らない」

「なんか腑に落ちない答えだな~…」

「所で上条、今日の夕飯は俺の部屋に来ないか?インデックスを救った時の事と姫神を救った時の事、あと退院祝いがまだだったろ」

「な…!?もしかしてその袋の中に入っている物は……!!」

「ああ。ちょっとステーキでもと思ってな」

「ありがとうございます!上条さんにこんな豪華な夕飯を恵んでくださってありがとうございます!」

「勿論インデックスと姫神も同伴だ。……で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、御坂妹」

「……」

「む、まだお前には難しかったか?まあいい。今夜はお前もここで食っていけ。そうすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「了解しました、とミサカは肯定の返事を返します」

「よし。そうと決まったら全員ウチに上がってけ。あと上条達はちょっとそこどいてくれ、部屋の鍵開けるから」

 

 四人と一匹を通り抜け、自室の前に着いた隆二がカギを回し、ドアを開ける。ドアを開けて中に入った隆二が四人と一匹に手招きし、自身の部屋に招き入れる。その日、学生寮の一室の灯りは、夜遅くまで消えることは無かった。

 

   4

 

 翌日夕方、とある大学生向けの学生街のビルの二階にて、二人の人物が夕暮れの日差しの中、会話をしていた。片方は短く切りそろえた黒髪と生まれつき少し鋭い目つきをした高校生の少年、もう片方は腰の辺りまである長い金髪をし、蜘蛛の刺繍をあしらったストッキングを履き、名門常盤台中学の制服を着用した中学生の少女である。

 金髪の少女が口を開く。

 

「それでぇ、『あの人』が『実験』に遭遇したらしいのだけれどぉ、貴方はどう動くつもりかしらぁ?」

()()()()。俺は『アイツ』が『外的要因』による突発的な襲撃を受けた際に、『アイツ』の行動を補助する為に動いている。『アイツ』が『内的要因』による『事態』に巻き込まれたとしても何もせんよ」

「あらぁ、随分と『あの人』に冷たいのねぇ」

「逆だ。『アイツ』の『成長』を願っているからこそ、俺は敢えて『アイツ』の手助けを行わないのだよ」

「ふぅ~ん。でも今回の事態、貴方なら回避出来たんじゃないのかしらぁ?」

「そうだな。結果は置いておくとして、確かに今回の事態を引っ掻き回すことは十分可能だっただろう。だが、それで『アイツ』の『成長』の芽を潰してどうする。それでは本末転倒というものだろう」

「貴方も大概難儀な人よねぇ。裏の事情を知っていながらそれを潰さずに『あの人』に解決させようとするなんてぇ」

「どうとでも言い(たま)え。元より俺は物事に打ち込む時はじっくりしっかりやる性分なのでね。『アイツ』の行動も、その『結末』にも見当をつけた上で今回の件に接触させた。ただそれだけの事だ」

「そうねぇ。所で『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の事なんだけどぉ……」

「あぁ。『樹』のことか。アレはすでに『落雷』によって悲惨な状態になっているだろう」

「そうなんだけどぉ……」

「ふむ、お前が気にしているのは『欠片』の回収のことか。案ずることは無い、そちらも既に織り込み済みだ。しかるべき時期になればそちらも解決する」

「……本当に、貴方の頭の中はどうなっているのかしらぁ?もしかして『樹』と同様レベルのものでも積んでいるのぉ?」

「俺は一ヶ月分の天気予報を演算することは出来んぞ。『コレ』は俺の観察眼から主要となる人物の行動を演算して大雑把に結果を出しているに過ぎん代物だ」

「その『ソレ』の精度が尋常じゃないのが貴方の異常な所なのよねぇ。貴方のは最早『未来視』の領域に足を踏み入れている感じがするのよねぇ。それに貴方、何故か私の能力も通用しないし」

「種はあるが、『秘密』というものはおいそれと他人に話して良いものではないだろう?」

「あらぁ、それは残念ねぇ」

「俺からすればお前の頭が残念なのだがね。何故『アイツ』に告白せんのだ。事情は知っているが、それはそれで強烈な印象を伴って『アイツ』の中に刻まれるだろうに」

「ちょ、ちょちょちょっ!??」

「告白するのであれば、『お前のことが好きだったんだよ!』と言う直球なものの方が良いだろう。『月が綺麗ですね』と遠回りに言われても『アイツ』が夏目漱石のことを知っているとは限らんからな」

「なっ、何を!??」

折角(せっかく)『アイツ』の貧乳発言を撤回させるほどの『武器』を手に入れたんだ。『巨峰操祈(きょほうみさき)』の名は伊達では無いという事を思い知らせてやればいい」

「『巨峰(きょほう)』じゃなくて『食蜂(しょくほう)』なんですけどぉ!!貴方故意に間違えてるわよねぇ!?」

「さて、何のことやら」

 

 窓から差し込む明かりが暗色を帯びていく。時は夜に移ろうとしていた。

 

   5

 

 上条当麻は夜の学園都市を駆け抜けていた。事の発端は昨日に引き続き行った補習の帰り道でのことである。終電のバスを逃した上条は、繁華街を歩いている時に美琴と出会い、彼女と別れた後に風力発電の柱の根本に置かれた黒猫を見つめる御坂妹と出会った。その後黒猫を引き取ることになった御坂妹と、猫の飼い方について調べる為に古本屋で猫の飼い方の本を探し、店を出た後に事件は起こった。古本屋の脇にある路地裏にて、()()()()()()()()()()()()()()()。その後、上条の前に()()()()()()が現れ、彼女の死体を回収していった。事件の真相を探るため美琴の学生寮に行ったものの当の本人は部屋にはおらず、仕方なく彼女の部屋から事件につながる情報を探した上条は、その資料を発見してしまった。

 

 

 

『御坂美琴の細胞から複製した二万人のクローン、通称妹達(シスターズ)の殺害に伴う一方通行(アクセラレータ)絶対能力(レベル6)への進化』

 

 

 

 思わず吐き気を催す様な計画であった。現状学園都市に存在している能力者は超能力者(レベル5)止まりだが、学園都市の能力開発の到達点は()()()にある絶対能力(レベル6)である。その領域に至った者は、人知の及ばぬ領域を理解できる様になり、より上位の肉体を備えた存在となる。それらは総じて神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く者(SYSTEM)と呼ばれ、能力開発に携わる者の目標でもある。そんな彼らからしてみれば学園都市第一位の超能力者(レベル5)が学園都市唯一の絶対能力(レベル6)に成り得るという情報は天啓に等しいものだったのだろう―――例えどの様な非人道的な手段を講じてでも。だからこそ上条当麻は立ち向かわなければいけない。こんな腐った考えを打ち砕く為にも。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

   6

 

「学園都市の超能力者(レベル5)との戦闘?」

 

 まだ上条が記憶を失って間もない頃、友人の西崎隆二は上条に超能力者(レベル5)に対する理解度を深めるためと称して、彼らとの戦闘に陥った際の戦闘方法を上条に享受していた。

 

「ああ。学園都市(ここ)に住んでいる以上、彼らとも少なからず関わりは出てくるだろう。だが、それがどの様な経緯でのものか分からない以上、これは知っておいて損は無い」

「お前は学園都市のトップとの喧嘩の方法が俺に必要だって言うのか?」

「そうだ。十中八九、その中の一人か二人とは戦闘になるだろう。そうなった場合、相手のことを知っているのと知らないのとではかなり差が出る」

「なんか…あんまり関わりたくないな、そういう連中とは」

「戦うことを忌避するのは良いが、どうしても戦わなければいけない時というのは存在するものだ。今のお前がそう思っていた所で、後のお前もそうだとは限らんだろう?或いは何らかの事情が絡んで対立する可能性もある訳だしな」

「な~んか釈然としないな……」

「取敢えず本題に入るぞ。まず第7位と第5位だが……まぁ、コイツらはお前と敵対しそうに無いから除けておく」

「なんか対処の方法を教えるとか言っていきなり対処を省かれた存在が二人程いるんですが…」

「当人の性格を考慮すれば、まぁまずお前の敵になることは無いだろうからな。それで第6位だが…こちらもとある理由で除外する」

「ねぇ、なんか除外多くない?上条さん本当にそんな上位連中と偶然会ったりしても大丈夫なの?」

「第6位は事情が複雑でな。『藍花悦(あいはなえつ)』という名前であることは分かっているんだが、それ以外の一切の情報が遮断されている面倒な奴なんだ。そんな面倒な相手の情報など持ち合わせている訳が無いだろう。よって飛ばす」

「続いて第4位だが、こっちはビーム撃つことしか出来んから、お前の右手でビームを消してしまえばいい。格闘戦ではズブの素人だから自身の急所を守りつつタコ殴りにしてやればいい。全力を出せば第3位を超える威力のビームを出せるというが、所詮は異能の力だ。お前の右手にかかれば出力の大小などは些事でしか無い」

「第3位は電気を操る。その能力の応用性の幅広さがお前にとって脅威になってくるだろう。砂鉄を集めての攻撃やコインを使った超電磁砲(レールガン)、果ては広域に降り注ぐ雷撃など具体例を挙げればキリが無い。だが、こちらの対処も先の第4位同等だ。格闘戦は足を使った蹴りに警戒しつつタコ殴りにしてやればいい。ただ磁力を使った攻撃には注意しろ。金属を一塊に纏めて投げられでもしたらアウトだ」

「第2位だが、こちらは第3位よりも能力の応用性が高い。お前に分かり易く言えば奴の能力は『物理世界に存在しない物を作る能力』だが、要するに異能の力で新しい物を作っているに過ぎん。奴が空間に新しい素粒子を作ろうが、お前の右手がその空間を正常化させるので意味は無いし、能力を使用するときに背中に展開する『メルヘン☆ウィング』も異能の力で作られたものなのでお前の右手の敵じゃない。取敢えずタコ殴りにしておけ」

「あの…『メルヘン☆ウィング』っていうのは一体……」

「最後に第1位だが、ある意味コイツがお前にとって最もやり辛い相手となるだろう。奴の能力は『向き(ベクトル)を操作する能力』だ。自身が力任せに殴った鉄骨を相手に向かって飛ばしたり、空気の向きを変えて圧縮して、それを相手に飛ばすことも出来る。対策としては、奴の行動を細かに観察することだ。強い力を発生させるには強い力を加える必要がある。奴が自分から攻撃を仕掛ける際には強い力を発生させる為にとても()()()()()()を行わなければならない。その大振りの動きに注意しろ。後、奴は物凄く()()()()()。他の超能力者(レベル5)よりもダウンするのも早いだろうさ。そんな時には『お前打たれ弱さも学園都市第1位だな(笑)』と言ってやるといい。おそらく彼も(怒りで)笑顔を返してくれるだろう」

「う~~~ん。色々と突っ込みたいこの説明……」

「まぁ、その時がくれば案外なんとかなるものさ。精進しろよ、上条?」

 

   7

 

「終わったな」

 

 西崎隆二が呟く。眼下には上条当麻と御坂美琴の居た鉄橋が見える。上条が『実験』のレポートを御坂美琴に見せ、彼女がその実験に関わっている研究所を襲撃している事実を指摘し、それを辞めるように説得したが、彼女は聞く耳を持たなかった。実験施設をいくら潰そうとも終わる気配のない実験に対して業を煮やした彼女は、実験の前提である二つの要素―――即ち、『一方通行(アクセラレータ)が学園都市最強の能力者であること』『御坂美琴を一二八回殺せば一方通行(アクセラレータ)絶対能力(レベル6)になることが可能であること』の内、後者を覆すことで実験を中止に追い込もうと画策していた。そして『御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)に一二八回殺されても、一方通行(アクセラレータ)絶対能力(レベル6)にはなれない』という状況を作る為には、殺される御坂美琴にそこまでの経験値など無いと証明させなければならないと上条に話した。自身が死ぬことで実験を止めるなんて間違っていると説得する上条に御坂美琴が激昂し、雷撃を上条に浴びせる。

 

 

 

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 頑なに御坂美琴を傷つけまいとする上条に対して御坂美琴が雷撃を加え、上条はその雷撃の前に倒れた。彼は西崎隆二から教わった彼女への対処方法を実践すること無く、自身の体と引き換えに彼女の信頼を得た。

 

「計画は順調。結末がどうなろうとも、その過程において乱れは生じていない。或いは決戦の際に生じるやもしれぬが、そこはカバーできる範囲内だ」

 

 クツクツと楽しむように西崎隆二が笑う。

 

「さあ、上条。口で言ったのならば、後はそれを実践して見せろ。そこな少女を救いたいのだろう?ならば持てる力の全てを用いて目の前の困難を打ち払ってみろ」

 

 宙に浮かんだ三日月の様な笑みを口に張り付けたまま、西崎隆二は夜の闇へと消えた。全ては彼の決戦の行方を見守るために。

 

   8

 

 学園都市の西の外れに存在する工業地帯、その操車場に三つの影がった。一人は実験の殺害対象である御坂一〇〇三二号、一人は実験の対象である一方通行(アクセラレータ)、一人はその実験場に現れた少年、上条当麻だ。今まさに御坂一〇〇三二号を殺さんとする一方通行(アクセラレータ)に対して、上条当麻が怒号を上げる。

 

「今すぐ御坂妹から離れろっつってんだ三下!!」

 

 一方通行(アクセラレータ)がギラリと上条当麻に鋭い目線を送る。学園都市最強の座を有している自身に対して『三下』とのたまった少年の姿を目に焼き付けようと上条を睨みつける。

 

「お前、誰に向かって口きいてんのか分かってんのかァ?学園都市でも七人しか存在しない超能力者(レベル5)の中でも頂点に君臨しているこの俺に対して―――」

「御託はいい。俺はそこに居る御坂妹を助けに来たんだ。()()()()()()()()()()()()()アイツを助けに来たんだ」

 

 一方通行(アクセラレータ)が瞳を細める。必要な素材があれば量産可能な人形を助けると言い張る少年の覚悟を言葉の節々から感じ取る。

 

「へェ。面白ェな、お前―――」

 

 少年が自身と敵対するというのであれば、一方通行(アクセラレータ)に慈悲は無い。彼は足元の砂利を少年に向かって飛ばそうと足を上げ―――

 

 

 

 ヒュン!と言う風切り音と共に一つの石が彼の顔面に向かって飛来した。

 

 

 

 投げたのは勿論上条当麻という少年だ。一方通行(アクセラレータ)の気でも引こうと思って投げたであろうそれを、彼は反射で少年に弾き返し、

 

「あァ?」

 

 少年は既にそこには居なかった。一方通行(アクセラレータ)が石を弾き返した時には、既に少年は彼との距離を縮めていた。少年は、一方通行(アクセラレータ)()()()()()()()()()と知っていて彼の顔面向けて石を放ったのだ。当然、一方通行(アクセラレータ)の視界が石で埋まってからと、彼が石を反射するまでの間、()()()()()()()()()()()()。少年はその間に一方通行(アクセラレータ)との距離を縮めたのだ。

 見れば少年はその()()にまたしても石を握っていた。またも先程と同様の手段で彼の視界を塞ぐ算段なのだろう。

 

(余りにも薄っぺらいなァ。そんな小細工で俺を沈められると本気で勘違いしてやがる…!!)

 

 自身の最強の名は伊達ではない。そんな子供紛いの手段で自身がやられるものかと自尊心を刺激された一方通行(アクセラレータ)が少年に向かって手を伸ばす。

 

(テメェみたいな餓鬼は、無惨に引き裂かれて臓物をさらされるのがお似合いだぜェ?)

 

 数秒後の結末を思い浮かべ、口元に張り裂ける程の笑みを浮かべた一方通行(アクセラレータ)

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

   9

 

(喧嘩をするならば相手の顔面を殴って鼻を折れだったっけ…?サンキュー西崎!)

 

 上条当麻が一方通行(アクセラレータ)の顔面に右の拳を叩き込み、次いで彼の鳩尾に追撃の一撃を打ち込む。殴られた一方通行(アクセラレータ)が衝撃で後ろに飛ぶ。くの字になって飛んだ相手は、しかし生来の打たれ弱さからか立ち上がれないでいる。代わりに彼の右腕が大きく上がる。恐らくはその腕で地面を叩いて何かしらの攻撃を仕掛ける気なのだろう。

 

(今から走っても間に合わない…なら―――!)

 

 足元から砂利を掬いあげ、自身の居る場所とは全く違う場所にそれを思いっきり投げつける。一回目は自身よりも大分横にずれた場所に、二回目は一回目の場所よりも一方通行(アクセラレータ)に近い場所へと。ダン!という音と共に一方通行(アクセラレータ)の右腕が地面に叩きつけられ、彼の腕の下の砂利が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。砂利は何も無い空間を一直線に通過し、辺りに積み重なっているコンテナに当たって硬質な音を立てる。人体に砂利の当たる鈍い音がしなかったことに疑問を覚えた一方通行(アクセラレータ)が苦しそうに顔を動かして状況を確認しようとする前に上条当麻は走り出す。

 今なお健在の上条当麻の姿を目にして驚愕と恐怖からギョッとした目をして動きの止まった一方通行(アクセラレータ)に向かって上条が拳を振り落とす。上条の右の拳と操車場の砂利に挟まれた一方通行(アクセラレータ)の右手がメキリと悲鳴を上げる。

 

「ガアァァアアアアアアッ!!!」

 

 あまりの痛みに悲鳴を上げた一方通行(アクセラレータ)が左腕で力なく地面を叩き、砂利が宙に巻き上がる。相手に傷を与えられる程のベクトルを込められなかった為か、巻き上がった砂利は上条の視界を防ぎ、彼に両手を交差させることしか出来なかったが、一方通行(アクセラレータ)はその間に地面を蹴り、上条とは離れた場所のコンテナの陰に身を隠すことに成功していた。

 

   10

 

 明滅する視界の中、不規則な呼吸を戻そうと努める一方通行(アクセラレータ)、その姿を戦場の外から観察する影があった。

 

「成る程。俺が知識を吹き込んだ影響が此処に響いてくるか。あれが失敗の原因か」

 

 短い黒髪、少し鋭い目付き、夜の闇に紛れる様に服装を黒で統一したその人物が戦場の様子を見て反省する。

 

「あれでは一方通行(アクセラレータ)の更生にも影響が出てくるだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう言えば、上条の手助けはしないと言ったが、一方通行(アクセラレータ)の手助けをしないとは言っていなかったな」

「ふむ。であれば()()()()()

 

   11

 

「ア?」

 

 ゼーゼーコヒューと呼吸する一方通行(アクセラレータ)がその変化に気付いたのは偶然だった。上条当麻という少年の右手に何故か能力が通用せず、そのまま少年の追撃を許したが故に散々殴られた体の各所がまだ熱を上げている。体の熱のせいか額からは汗が出てきて、その感覚が彼を不快な気分にさせた。そんな状態だったからこそ、彼はその周囲の状態の変化に気付くことが出来た。

 

 

 

()()()()()()()()()…)

 

 

 

 先程まで無風状態だった戦場に少しずつ風が吹き始め、その風が彼の体の熱を冷ましていく。

 

(風……?)

 

 不意に彼の頭に形勢逆転のアイデアが浮かび上がる。今し方吹き始めた風に対してそのアイデアの可不可を検討する。

 

(いや、出来る…!これなら、アイツだってやれる!!)

 

 頭上の月に手を伸ばす。今なら空の月にだって飛べそうだという全能感が体の底から湧きあがってくる。上げた手をそのままに、彼が()()()()()()()。風という風が彼の頭上に向かって吸い寄せられ、大気と言う大気が彼の頭上でうねりにうねる。砂利を巻き上げ、鉄骨を巻き上げ、コンテナを巻き上げ、そうして周囲のあらゆるものを根こそぎ加えながら成長した『破壊の渦』が、彼の頭上で破壊の時を今か今かと待っていた。必殺の一撃は出来た。後は指向性を与えてやればいい。それだけで破壊の腕が全てを薙ぎ払い、彼の敵対者を屠るだろう。

 コンテナの陰から歩いて出てきた一方通行(アクセラレータ)が仇敵を見つける。彼は歪みに歪んだ笑みを浮かべてただ一言、『殺せ』と呟いた。

 

   12

 

 操車場の有様は酷い物だった。地面は抉られ、巻き上げられた砂利は四散している。鉄骨もコンテナもバラバラの位置に倒れており、まるで組みあがったパズルを一度グチャグチャに崩したような無秩序な状態となっていた。破壊の風に巻き上げられた上条当麻は、宙に上げられた後、壊れた風力発電の支柱に強く衝突し、そのままズルズルと地面に崩れ落ちていった。恐らくもう生きてはいまい。だが、念には念を入れる必要がある。先程の空気の圧縮は咄嗟に思いついたアイデアであり、その出来は未完成のものだ。もっと完璧に空気を圧縮させることが出来れば、()()()()()()()()()()だろう。バラバラになった操車場の中、一方通行(アクセラレータ)はその腕を上げる。その行為を制する声が聞こえた。

 

「止まりなさい、一方通行(アクセラレータ)!」

 

 視線を移せば、一方通行(アクセラレータ)から何十メートルも離れた場所で右手でコインを構え、超電磁砲(レールガン)を放とうとする御坂美琴の姿があった。ボロボロになった御坂一〇〇三二号と連れてきた黒猫を庇うような立ち位置に立った少女が、震える指で自身の代名詞を放とうとしていた。

 

「ハッ!やれるもんならやってみれば良いだろォがよォ?」

 

 嘲る様に御坂美琴を挑発して、一方通行(アクセラレータ)は少女から視線を切る。彼の視線の先は、上空に集まっている空気の塊に向けられた。

 

(もう直ぐだ、もう直ぐ完成する……!!)

 

 直後、上空に劇的な変化が起こった。その変化は一方通行(アクセラレータ)の笑みを深め、御坂美琴の絶望を加速させ、上条当麻の生存を先にも増して脅かした。

 

   13

 

 歓喜と絶望の渦巻く舞台に、幕引きの時が訪れた。空に現れたるは、舞台を終焉へと導く圧倒的な『力』。それが地に落ちれば、少女と少年と動物は瞬く間に舞台より消え去るだろう。ソレは巨大にして絶大、光にして熱。白き死神が作り出したるは『高電離気体(プラズマ)』と呼ばれる塊だ。摂氏一万度を超える高熱の塊は、その力の余波を地上にまで届かせ、少女の皮膚にジリジリと火傷のような痛みを与える。破滅の引き金は白き死神の言葉一つで引かれ、その瞬間に『終わり』は覆しようのない現実としてやって来る。

 少女は考える。この終焉を回避する手段を。空に浮かぶ高電離気体(プラズマ)を少女の能力によって元に戻す?否、そんな手段をとった所で、目の前の白き少年がまた高電離気体(プラズマ)を形成するだけであろう。であれば、その少年の行動を阻害する?否、目の前の少年の行動を阻害できるのは自分ではなく、不可思議な右手を持つ倒れた少年だけだ。であれば、どうするか。思案する少女の目にカラカラと音を立てて回転する風力発電のプロペラの存在が映る。

 その時、不意に少女の頭に形成逆転のアイデアが浮かび上がる。今し方目にしたプロペラに対してそのアイデアの可不可を検討する。

 

(いや、出来る…!これなら、()()()()()()()()()()()()やれる!!)

 

 傍らの自身に似た存在に頼る。ボロボロの彼女に無理を強いる様でいたたまれないが、少女にはもう頼むことしか出来ない。

 

「お願い、起きて。無理を言っているのも、自分がどれだけ酷いことを言っているのかも分かってる。だけど、一度でいいから起きて!」

「アンタにやって欲しいことがあるの!ううん、()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「お願いだから、アンタの力でアイツの夢を守ってあげて!!」

 

 泣きながら語り掛ける彼女の姿は、学園都市第三位の能力者ではなく、御坂美琴という人物のものであった。彼女の言葉は癇癪を起した子供の様な言い分ではあったが、御坂妹は、確かにそこに『思い』を感じた。必要な部品があればボタン一つで作りだせるクローンとしてではなく、御坂妹として、彼女はその時意思を持った。

 守るべきものがある。やるべきことがある。自身に気軽に接してくれたあの少年を救うためにも、目の前で悲惨な運命に嘆いている少女を救うためにも。

 ボロボロの四肢に力を籠める。彼女の体はゆっくりと起き上がった。

 

「お願いの内容を教えてください、とミサカはお姉様に問いかけます」

 

   14

 

「あ?」

 

 一方通行(アクセラレータ)は、突如自分の上空の高電離気体(プラズマ)が崩れさったことに困惑した。一瞬だが、一方通行(アクセラレータ)が街中から集めている空気の動きが変化し、その影響で高電離気体(プラズマ)が揺らいだのだ。崩れたプラズマを再度形成するために、街中の大気の動きを再度圧縮しようとする一方通行(アクセラレータ)の前で、またしても高電離気体(プラズマ)が形を崩す。

 

(どう考えてもコイツは自然に発生した現象じゃねェ。明らかに人為的なモンだ)

 

 これ程の風を起こせる能力者であるならば超能力者(レベル5)に認定されている筈だが、彼らの中にこのような現象を発生させる風使いは居ない。一体誰がこの現象を起こしているのかと焦る一方通行(アクセラレータ)は、そこで先程奇妙な右手を持つ少年が体を打ち付けた風力発電機のプロペラがカラカラと動いているのを目撃した。

 

(確か風力発電機ってなァ、マイクロ波を浴びせると回転するってェ話が……!だが、どうやって…!?学園都市中の風力発電機全てに干渉してるとしても求められる人手が足りねェだろうがよォ……!!いや、まて……()()だとォ……?)

 

 ()()。学園都市中の風力発電機に干渉し得る程の人手が。それも大量に。

 

(まさか……ッ!!)

 

 一方通行(アクセラレータ)妹達(シスターズ)に目を向ける。そこに居たのは『敵』だった。今まで一万回程の実験を通して初めて見た、真の意味での敵であった。衣服も体もボロボロで、足など今にも折れそうだというのに、それでも立ち上がり一方通行(アクセラレータ)を睨みつける少女の姿がそこにあった。

 敵意には敵意で応じる。故に一方通行(アクセラレータ)は目の前の妹達(シスターズ)を殺そうと足を踏み出し―――

 

 

 

 ()()()、と彼の背後から有り得ない音が響いた。

 

 

 

 額から冷や汗が零れ、目が乾いた様な感覚が一方通行(アクセラレータ)を襲う。恐怖に苛まれながらも首を自身の背後に向けその存在を視界に入れる。

 

 

 

 そこに、少年が立っていた。

 

 

 

 自身の暴風によって宙を舞い、風力発電の支柱に激突した筈の少年、恐らく生きてはいまいと思っていた存在は、しかし自身の足で地を踏みしめていた。その有様のなんと酷い事か。体には無数の傷、動けば出血、脚は震え、腕は下がっている。そうまでなって少年が立ち上がる理由は何か。執念か、信念か、或いはもっと別の何かか。

 

「面白ェよ、オマエ―――」

「―――最ッ高に面白ェぞ、オマエ!!」

 

 地面を強く踏み、そのベクトルを操作して一方通行(アクセラレータ)が上条当麻に凄まじい速さで接近する。突き出した一方通行(アクセラレータ)の右手に合わせるように、上条が頭を下げてその攻撃を躱す。次いで突き出された一方通行(アクセラレータ)の追撃の左手を上条が右手で払いのける。

 

「歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)―――」

 

 両の手を躱され、無防備となった一方通行(アクセラレータ)が心臓を凍らせる。

 

「―――俺の最弱(さいきょう)は、ちっとばっか響くぞ」

 

 上条の右の拳が一方通行(アクセラレータ)の顔面へと打ち込まれる。拳を打ち込まれた一方通行(アクセラレータ)は、その体を勢いよく地面に叩きつけられ、手足を投げ出しながら転がり気絶した。

 

   15

 

「相変わらずと褒めるべきか、それともまた無茶をと叱るべきか、お前としてはどちらが良い、上条?」

「貴方は俺の保護者か何かですか?残念ながら上条さんは親にいい子いい子してもらう歳ではもう無いんですが」

 

 いつもの病院で上条当麻と西崎隆二は顔を合わせていた。

 

「頭にインデックスの噛み跡があるのはいつものこととして……今回は何をしたんだ?」

「あれ?西崎はステーキパーティの時、妹達(シスターズ)のこと知ってる様な感じじゃなかったか?俺はてっきりそうだと思っていたんだが」

「俺が知っているのは御坂美琴のDNAマップからクローンが製造されているという都市伝説位だ。実物を見たのはあの時が初めてだし、そもそもクローンがどういった目的で作られているのかもまるで知らん。その辺りのことはお前の方が余程詳しいだろう」

「あ~~、そっか。学園都市の第一位が倒されたって噂、もうそんな広がってるのか」

「ああ。お前の入院のタイミングと照らし合わせれば、倒したのがお前であることは丸分かりだ。勘のいい奴らは幾らかそのことに気付いているかもな」

「……もしかして、上条さん不良さんらの腕試しの的になっちゃう展開でございますか?」

「む。珍しく察しが良いな。お前の思っている通り、学園都市第一位を倒したお前を倒せば自分が学園都市の頂点だと思っている勘違い野郎共がお前を探している」

「ひえええええぇぇぇ!!!」

「まぁ安心しておけ。現状お前へ挑戦する奴には『(レベル4)も倒せない癖に上条に挑もうと思うな。奴に挑みたければ先ず俺を負かしてからにしろ』と言って力の矛先を逸らしてあるからな」

「この対応…!この気遣い…!やっぱり保護者じゃないか!!」

「冗談も程々にしろ。もう俺はお前を背中に背負う機会が無い事を願っているぞ」

「そのことは忘れて!!」

 




当初旧約3巻分は飛ばして旧約4巻分を執筆して、その中で西崎の台詞に「所で俺がほんの二日程目を離した間にどうしてお前は入院してるんだ(呆れ)」みたいなのを入れて終了みたいな流れにしようかな~と気楽に考えていました。けれども御坂美琴や白井黒子とのファーストコンタクト位は書いた方がいいかなと思い1~3を書いた後に、西崎が食蜂と会話を始めるわ入院中の上条さんにレベル5との戦闘の仕方を教えるわと勝手に暴走し、挙句の果てには上条さんが一方さんを圧倒してしまうという番狂わせが発生してしまいました。仕方が無いので西崎に失敗のリカバリーをしてもらい、何とか丸く(?)収めることが出来ました。西崎ィ…!お前旧約4巻でどれだけ得意分野で経験を積んでも子供に50%の確率で負ける可能性の存在する奴と肉体交換させてやるからな……!!
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