1
八月二〇日、日に日に夏の終わりを感じてきた
事件が起こったのは、そんな補習の帰り道でのことである。上条が「喉が渇いたな~」と呑気に自販機に近づいた際にそれは起こった。
立てこもり事件である。
上条相手に人質(?)を取り、身代金を要求した相手に対して、上条はなけなしの二千円札を渡したのだが、相手は上条の金を奪っただけで、人質を解放しなかったのだ。上条が今後の展開に悩んでいた時、彼の後ろからアスファルトを踏む革靴の音が聞こえた。
「ちょっとー、
上条が声の主を見る前に、少女の手が上条の腕をつかみ、自販機の前から彼をどかそうとぐいぐい押してくる。上条がその手の持ち主に顔を向けると、そこには中学生ぐらいの少女が居た。
肩まである茶色い髪に、整った顔立ち、名門の
(誰?知り合い?)
この夏ちょっとした事故で記憶を失った今の上条は、目の前の少女との接し方について考えあぐねていた。何せ判断材料がこの少女の手と口調ぐらいしかないものなので、どこまで踏み込んでいいのか分からないのだ。
「…で、誰だこいつ?」
「私には
どうやら自分の知り合いらしいと上条が思った瞬間、少女の額から青白い雷撃の槍が伸び、上条目掛けて襲い掛かってきた。反射的に身の危険を察知した上条が右手を顔の前に持ってくると、雷撃の槍は上条の右手の力によって掻き消された。
上条は目の前の少し不満げな顔をした少女を見つめる。先程の言動からして自分の知り合いであるのは確認できたが、ステイル=マグヌスといい、この少女と言い、上条の知り合いには『出会い頭に即死級の攻撃を打ち込む』様な人間しかいないのだろうか。
「なにこっち見てんのよ。とにかく用がないならどいてくれる?私この自販機にメチャクチャ用があるんだから」
「あー…その自販機な、どうもお金を呑み込むみたいだぞ」
「知ってるわよ」
自分の二の舞にならないよう親切心で警告してあげた上条に御坂美琴が答える。
「??呑み込まれると分かっててお金いれるの?もしかしてマゾの方ですか?」
「ハァ?違うわよ。裏技があるのよ、裏技。お金を入れなくてもジュースが出てくるっていう裏技がね」
その時、上条当麻は不幸の気配を敏感に感じ取っていた。記憶を失ってから経験した死闘の数々が、今ここで呑まれた二千円のことなど放っておいてこの場から逃走した方が良いと告げている気がする。そもそも自販機はお金を払ってジュースを買う以外の用途など無いというのに、『裏技』なるものが存在していること自体が前提として
そして、上条当麻の予感は的中した。
ちぇいさー!!という叫び声と共に、名門女子校のお嬢様が自販機の側面に上段蹴りを叩き込んだ。
ガコン!という音と共に自販機の取り出し口にジュースが出現する。勿論、一連の光景を見た上条当麻は未だ状況に付いていけず、唖然としている。
「ボロッちいからジュース固定してるバネが緩んでるのよねー。出てくるジュースがランダムなのは難点なんだけど―――ってアンタどうしたの?」
「いや、常盤台のお嬢様ってみんなこんな感じなのかなーって思ったらなんか夢を壊されたような気分がですね…」
「女子校なんてそんなもんよ。女の子に対してあまり夢見ない方が良いわよ」
「ちょっと待て、もしかしてこの自販機ってお前達が毎日蹴りまくったから壊れちまったんじゃねーの?」
「何ムキになってんのよ。何、ひょっとしてアンタこの自販機にお金呑まれでもしたの?」
「……」
「え、嘘、ホント!?アンタこの自販機にお金呑まれた訳!?」
はしゃぐ御坂美琴を前に上条がため息をつく。二千円を失ったことはショックだが、嘆いていても仕方がない。今回は運が無かったということにして、今日はもう寄り道せずに学生寮に帰ろう。
自販機に背を向けた上条を見て御坂美琴が声を掛ける。
「ちょっと待ちなさいよアンタ。一体いくら呑み込まれた訳?」
「……黙秘権を行使します」
目の前の少女に「二千円呑まれました」と正直に言っても恐らく返ってくる反応は心配ではなく爆笑だろうと思っている上条が口を閉ざしていると、御坂美琴は真剣な顔になってこう言った。
「笑わない、約束する。ついでに言うならアンタの呑まれたお金を取り返してあげるわよ」
失った二千円が返ってくるという言葉に反応して上条が希望に溢れた顔をして金額を告げる。
「…二千円」
「二千円?ってもしかして二千円札!?あの絶滅危惧種の!?そりゃそんな古いもの突っ込めば自販機だってバグるわよ!!あはははは!!」
「笑わないっていったのにー!」と言いながら上条が自身の頭を抱える。御坂美琴はそんな上条の様子を見てニヤリと笑い、
「ほほう。ではその二千円札が出てくることを祈って…」
御坂美琴が自販機の硬貨投入口に右手の掌を置く。その行為に上条が疑問をぶつける。
「ちょっと待って上条さんの危険センサーが今ビンビンと警鐘をならしてるんですが貴女一体どうやって自販機からお金を取り戻す気ですかねー!?」
「どうやってって、こうやって」
瞬間、御坂美琴の掌から青白い電撃が放たれ、ズドン!という音と共に自販機が揺れた。揺れた自販機はその隙間から黒い煙をもくもくと立ち昇らせている。
その様子に、上条は自身の血の気がサアッと引いていくのを感じた。
「あれー、可笑しいわね。あまり強く撃つつもりは無かったんだけど。あ、なんかいっぱいジュース出てきた。ねえ、二千円札出てこなかったけどそれ以上のジュース出てきたからこれで良い?―――って何脇目も振らずに逃げてるのよ?」
後ろで電気少女が何か言っているが、上条は立ち止まらない。こういう場合、日常的に不幸を味わっている上条にとって次の展開は容易に想像出来た。時間が惜しい。一cmでも一mmでも良いのでとにかく自販機から離れようと走る上条。そんな上条の後ろで、日頃蹴られている鬱憤を思いっきり晴らすような勢いで自販機から警報が鳴り響いた。
2
気が付けば上条は繁華街のバスの停留所のベンチに座っていた。少し寂しそうな夏の夕暮れが上条の心情を表している気がする。そんな上条の隣には美琴が座っている。両手いっぱいに抱えているジュースは彼女が故障させた自販機の取り出し口から集めた物であるが、それらを抱えてよくここまで走ってこれたものだと上条が感心する。
「現実逃避してないでジュース持ちなさいって。これ元々アンタの取り分でしょ?」
「なんかこのジュースを受け取った瞬間に傍観者から共犯者に進化しそうで上条さん恐いんですが…。っていうかポイポイ投げんな」
『ホットおしるこ』やら『黒豆サイダー』やら『きなこ練乳』といった商品ラインナップを見ながら上条当麻は考える。
学園都市は外の世界の数十年先の科学技術を持つ科学の最先端都市である。そんな学園都市には無数の大学や研究機関が存在しており、そこで作られた商品の実地テストが街の至る所で行われている。生ごみの自動処理や自立走行する円柱型の警備ロボットにしてもそうであるし、今上条がその手に持っている奇異な名前の缶ジュースもそうである。あるのだが……
「学生達は同じお金を払って買っているんだという事実が何故偉い人には分からないのかと問い詰めたい」
「……アンタ、間違っても統括理事会のお偉いさんとかに直訴するんじゃ無いわよ?それに私は好きだけどなー。こういう一歩でも進もうとする夢と意欲って」
美琴は上条の腕の中から『ヤシの実サイダー』を一つ引っこ抜いて、
「大体このジュース一本にしてもそうだけど、アンタって逃げ腰すぎるのよ。何て言うか、本当は強いのに自分は弱いと思い込んでバカを見る感じ?そーゆーの見てると一言物申したくなるのよねー」
「別に上条さんは生粋の強者枠とかじゃないんですが」
「そう?そんなに間違ったこと言ってないと思うんだけどなー。だってアンタは学園都市に七人しかいない
「???」
「アンタは学園都市に七人しかいない
「凄い時代遅れな考えだな」
パッと反射的に相手の質問に感想を返して、その後上条当麻は「あれ?」と思った。今目の前の少女は自身のことを
(もしかして上条さん記憶を失う前にこの名門女子校のお嬢さまをボコボコに殴っちゃった訳ですかーーー!?)
「ぐ、ぐぅううううううううううう……」
「ちょっと、何唸ってんのよ。喉が渇いたならジュースを飲んでおけばいいじゃない」
と、そこで美琴はハァと溜息をついて
「しっかしアンタもむかつくわよね。自分からは決して殴らず、相手には散々殴らせておいてそれを全弾ガードするなんてね」
「う?」
ピタリ、と上条が唸り声を発するのを止める。先程目の前の少女は何と言った?自分からは決して殴っていない?つまり記憶を失う前の上条は女の子相手に手を上げることは無かったと?
安心した上条が笑みを浮かべると、それを見た美琴がつまらなさそうな顔をする。
「自信を持ったらそれはそれで嫌な奴なのよね。取敢えず両手で抱えてるジュース消化したら?私直々のプレゼントなんてウチの後輩が聞いたら卒倒ものよ?」
「卒倒だあ?こんな缶ジュースもらって喜ぶ奴がいるか。大体お前の学校女子校だし、そんなとこで恋愛なんか有り得ねーだろ」
上条の言葉に、今度は美琴が現実逃避気味に遠い目で空を見つめる。
「そうだったら良かったんだけどね……」
上条が隣に座っている今にも負のオーラを出そうとしている名門校のお嬢様から距離をとろうとして―――
「お姉さま?」
不意に響いた声に思わず身を固まらせた。
(おっ、お姉……!?まさかまさかの女子校で先輩後輩の禁断の愛ですか!?)
上条が声のした方向に目を向けると、そこには美琴と同じ制服を着用し、茶色い髪をツインテールに結んだ中学一年生位の女の子が立っていた。
「まぁまぁお姉さま!補習なんて似合わない真似していると思ったらこの為の口実だったんですのね!」
上条が隣を見ると、美琴が頭を抱えていた。今日は夕方から何だか頭を抱える案件を多く持ちすぎではないだろうかと考える上条を置いて、美琴がツインテールの子に質問する。
「一応聞いておくけど『このため』とは『どのため』のことを言っているのかしら?」
「決まっています。そこの殿方と逢引する為でしょう?」
やはり女子校の生徒は割とロマンを重視する思考を搭載しているのだろうかと考える上条の横で、美琴の髪の毛から火花が散った。身の危険を感じて美琴から離れようとした上条の手を、ツインテールの子がしっかりと握った。
「初めまして殿方さん。私、お姉さまの『露払い』を行っている
はあ、と上条が握られた手に対してのリアクションに困っていると、隣の第三位が激昂した。
「あんたはこのヘンテコが私の彼氏に見えんのかぁーーー!」
激昂と共に雷撃の槍が打ち出され、白井黒子に当たる直前に彼女の身体がその空間から消えた。どうやら彼女は
見間違いかと思って上条が横を見る。やはりそこにはベンチに座った御坂美琴が存在していた。改めて背後の御坂美琴に視線を移す。顔立ちから制服まで一緒の彼女は、しかし横に居る御坂美琴とは違い、頭に暗視ゴーグルらしきものを掛けている。上条が横に座る美琴に問いかける。
「もしかしてお前って一卵性双生児だったの?
「お姉さまがお姉さまです、とミサカは回答します」
問いに答えたのは背後に居る御坂美琴の方であった。変わった話し方だなと思いながらも上条は「へー、じゃあ御坂妹ってことになるのか」と相槌を打つ。
と、そこで上条は「お前の妹さんってお前と全然性格違うんだな」と隣に座る美琴に話しかけようとして―――
「アンタ、一体どうしてこんな所でブラブラしてんのよ!!」
ベンチの隣に座っていた美琴の怒声によってその口を閉じた。
もしかして御坂さん家の姉妹は仲がよろしくないのかな?と考えている上条を置いて、美琴が御坂妹と一緒に何処かへと去っていく。釈然としない上条がふと視線をベンチの上に戻す。
「あ、アイツジュース置いてってやがる……」
ベンチと上条の腕には合計一九本にもなるジュースの山。ひとまずはそれを何とかしようと思う上条であった。
3
一人はその頭に一〇万三〇〇〇冊の魔導書の知識を詰め込んだ少女、インデックス。一人は首に掛けた十字のネックレスによって
「こんな人数で廊下に出て何をしているんだ。今日は線香花火でもするのか?」
「西崎か。ちょっとスフィンクスにノミが付いちゃったみたいでそれを取り除いていたんだ」
「インデックスの持っているセージの葉と姫神の持っている殺虫スプレーでか?悪いことは言わんからそれはやめておいた方がいいぞ」
「それは上条さんだって理解してますって。だからこちらの御坂妹にさっき微弱な電撃で取り除いてもらったんだ」
「御坂妹……ああ、
「何だよ、西崎。コイツの事知ってんのか?」
「知っていると言えば知っている。知らないと言えば知らない」
「なんか腑に落ちない答えだな~…」
「所で上条、今日の夕飯は俺の部屋に来ないか?インデックスを救った時の事と姫神を救った時の事、あと退院祝いがまだだったろ」
「な…!?もしかしてその袋の中に入っている物は……!!」
「ああ。ちょっとステーキでもと思ってな」
「ありがとうございます!上条さんにこんな豪華な夕飯を恵んでくださってありがとうございます!」
「勿論インデックスと姫神も同伴だ。……で、
「……」
「む、まだお前には難しかったか?まあいい。今夜はお前もここで食っていけ。そうすれば
「了解しました、とミサカは肯定の返事を返します」
「よし。そうと決まったら全員ウチに上がってけ。あと上条達はちょっとそこどいてくれ、部屋の鍵開けるから」
四人と一匹を通り抜け、自室の前に着いた隆二がカギを回し、ドアを開ける。ドアを開けて中に入った隆二が四人と一匹に手招きし、自身の部屋に招き入れる。その日、学生寮の一室の灯りは、夜遅くまで消えることは無かった。
4
翌日夕方、とある大学生向けの学生街のビルの二階にて、二人の人物が夕暮れの日差しの中、会話をしていた。片方は短く切りそろえた黒髪と生まれつき少し鋭い目つきをした高校生の少年、もう片方は腰の辺りまである長い金髪をし、蜘蛛の刺繍をあしらったストッキングを履き、名門常盤台中学の制服を着用した中学生の少女である。
金髪の少女が口を開く。
「それでぇ、『あの人』が『実験』に遭遇したらしいのだけれどぉ、貴方はどう動くつもりかしらぁ?」
「
「あらぁ、随分と『あの人』に冷たいのねぇ」
「逆だ。『アイツ』の『成長』を願っているからこそ、俺は敢えて『アイツ』の手助けを行わないのだよ」
「ふぅ~ん。でも今回の事態、貴方なら回避出来たんじゃないのかしらぁ?」
「そうだな。結果は置いておくとして、確かに今回の事態を引っ掻き回すことは十分可能だっただろう。だが、それで『アイツ』の『成長』の芽を潰してどうする。それでは本末転倒というものだろう」
「貴方も大概難儀な人よねぇ。裏の事情を知っていながらそれを潰さずに『あの人』に解決させようとするなんてぇ」
「どうとでも言い
「そうねぇ。所で『
「あぁ。『樹』のことか。アレはすでに『落雷』によって悲惨な状態になっているだろう」
「そうなんだけどぉ……」
「ふむ、お前が気にしているのは『欠片』の回収のことか。案ずることは無い、そちらも既に織り込み済みだ。しかるべき時期になればそちらも解決する」
「……本当に、貴方の頭の中はどうなっているのかしらぁ?もしかして『樹』と同様レベルのものでも積んでいるのぉ?」
「俺は一ヶ月分の天気予報を演算することは出来んぞ。『コレ』は俺の観察眼から主要となる人物の行動を演算して大雑把に結果を出しているに過ぎん代物だ」
「その『ソレ』の精度が尋常じゃないのが貴方の異常な所なのよねぇ。貴方のは最早『未来視』の領域に足を踏み入れている感じがするのよねぇ。それに貴方、何故か私の能力も通用しないし」
「種はあるが、『秘密』というものはおいそれと他人に話して良いものではないだろう?」
「あらぁ、それは残念ねぇ」
「俺からすればお前の頭が残念なのだがね。何故『アイツ』に告白せんのだ。事情は知っているが、それはそれで強烈な印象を伴って『アイツ』の中に刻まれるだろうに」
「ちょ、ちょちょちょっ!??」
「告白するのであれば、『お前のことが好きだったんだよ!』と言う直球なものの方が良いだろう。『月が綺麗ですね』と遠回りに言われても『アイツ』が夏目漱石のことを知っているとは限らんからな」
「なっ、何を!??」
「
「『
「さて、何のことやら」
窓から差し込む明かりが暗色を帯びていく。時は夜に移ろうとしていた。
5
上条当麻は夜の学園都市を駆け抜けていた。事の発端は昨日に引き続き行った補習の帰り道でのことである。終電のバスを逃した上条は、繁華街を歩いている時に美琴と出会い、彼女と別れた後に風力発電の柱の根本に置かれた黒猫を見つめる御坂妹と出会った。その後黒猫を引き取ることになった御坂妹と、猫の飼い方について調べる為に古本屋で猫の飼い方の本を探し、店を出た後に事件は起こった。古本屋の脇にある路地裏にて、
『御坂美琴の細胞から複製した二万人のクローン、通称
思わず吐き気を催す様な計画であった。現状学園都市に存在している能力者は
6
「学園都市の
まだ上条が記憶を失って間もない頃、友人の西崎隆二は上条に
「ああ。
「お前は学園都市のトップとの喧嘩の方法が俺に必要だって言うのか?」
「そうだ。十中八九、その中の一人か二人とは戦闘になるだろう。そうなった場合、相手のことを知っているのと知らないのとではかなり差が出る」
「なんか…あんまり関わりたくないな、そういう連中とは」
「戦うことを忌避するのは良いが、どうしても戦わなければいけない時というのは存在するものだ。今のお前がそう思っていた所で、後のお前もそうだとは限らんだろう?或いは何らかの事情が絡んで対立する可能性もある訳だしな」
「な~んか釈然としないな……」
「取敢えず本題に入るぞ。まず第7位と第5位だが……まぁ、コイツらはお前と敵対しそうに無いから除けておく」
「なんか対処の方法を教えるとか言っていきなり対処を省かれた存在が二人程いるんですが…」
「当人の性格を考慮すれば、まぁまずお前の敵になることは無いだろうからな。それで第6位だが…こちらもとある理由で除外する」
「ねぇ、なんか除外多くない?上条さん本当にそんな上位連中と偶然会ったりしても大丈夫なの?」
「第6位は事情が複雑でな。『
「続いて第4位だが、こっちはビーム撃つことしか出来んから、お前の右手でビームを消してしまえばいい。格闘戦ではズブの素人だから自身の急所を守りつつタコ殴りにしてやればいい。全力を出せば第3位を超える威力のビームを出せるというが、所詮は異能の力だ。お前の右手にかかれば出力の大小などは些事でしか無い」
「第3位は電気を操る。その能力の応用性の幅広さがお前にとって脅威になってくるだろう。砂鉄を集めての攻撃やコインを使った
「第2位だが、こちらは第3位よりも能力の応用性が高い。お前に分かり易く言えば奴の能力は『物理世界に存在しない物を作る能力』だが、要するに異能の力で新しい物を作っているに過ぎん。奴が空間に新しい素粒子を作ろうが、お前の右手がその空間を正常化させるので意味は無いし、能力を使用するときに背中に展開する『メルヘン☆ウィング』も異能の力で作られたものなのでお前の右手の敵じゃない。取敢えずタコ殴りにしておけ」
「あの…『メルヘン☆ウィング』っていうのは一体……」
「最後に第1位だが、ある意味コイツがお前にとって最もやり辛い相手となるだろう。奴の能力は『
「う~~~ん。色々と突っ込みたいこの説明……」
「まぁ、その時がくれば案外なんとかなるものさ。精進しろよ、上条?」
7
「終わったな」
西崎隆二が呟く。眼下には上条当麻と御坂美琴の居た鉄橋が見える。上条が『実験』のレポートを御坂美琴に見せ、彼女がその実験に関わっている研究所を襲撃している事実を指摘し、それを辞めるように説得したが、彼女は聞く耳を持たなかった。実験施設をいくら潰そうとも終わる気配のない実験に対して業を煮やした彼女は、実験の前提である二つの要素―――即ち、『
頑なに御坂美琴を傷つけまいとする上条に対して御坂美琴が雷撃を加え、上条はその雷撃の前に倒れた。彼は西崎隆二から教わった彼女への対処方法を実践すること無く、自身の体と引き換えに彼女の信頼を得た。
「計画は順調。結末がどうなろうとも、その過程において乱れは生じていない。或いは決戦の際に生じるやもしれぬが、そこはカバーできる範囲内だ」
クツクツと楽しむように西崎隆二が笑う。
「さあ、上条。口で言ったのならば、後はそれを実践して見せろ。そこな少女を救いたいのだろう?ならば持てる力の全てを用いて目の前の困難を打ち払ってみろ」
宙に浮かんだ三日月の様な笑みを口に張り付けたまま、西崎隆二は夜の闇へと消えた。全ては彼の決戦の行方を見守るために。
8
学園都市の西の外れに存在する工業地帯、その操車場に三つの影がった。一人は実験の殺害対象である御坂一〇〇三二号、一人は実験の対象である
「今すぐ御坂妹から離れろっつってんだ三下!!」
「お前、誰に向かって口きいてんのか分かってんのかァ?学園都市でも七人しか存在しない
「御託はいい。俺はそこに居る御坂妹を助けに来たんだ。
「へェ。面白ェな、お前―――」
少年が自身と敵対するというのであれば、
ヒュン!と言う風切り音と共に一つの石が彼の顔面に向かって飛来した。
投げたのは勿論上条当麻という少年だ。
「あァ?」
少年は既にそこには居なかった。
見れば少年はその
(余りにも薄っぺらいなァ。そんな小細工で俺を沈められると本気で勘違いしてやがる…!!)
自身の最強の名は伊達ではない。そんな子供紛いの手段で自身がやられるものかと自尊心を刺激された
(テメェみたいな餓鬼は、無惨に引き裂かれて臓物をさらされるのがお似合いだぜェ?)
数秒後の結末を思い浮かべ、口元に張り裂ける程の笑みを浮かべた
9
(喧嘩をするならば相手の顔面を殴って鼻を折れだったっけ…?サンキュー西崎!)
上条当麻が
(今から走っても間に合わない…なら―――!)
足元から砂利を掬いあげ、自身の居る場所とは全く違う場所にそれを思いっきり投げつける。一回目は自身よりも大分横にずれた場所に、二回目は一回目の場所よりも
今なお健在の上条当麻の姿を目にして驚愕と恐怖からギョッとした目をして動きの止まった
「ガアァァアアアアアアッ!!!」
あまりの痛みに悲鳴を上げた
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明滅する視界の中、不規則な呼吸を戻そうと努める
「成る程。俺が知識を吹き込んだ影響が此処に響いてくるか。あれが失敗の原因か」
短い黒髪、少し鋭い目付き、夜の闇に紛れる様に服装を黒で統一したその人物が戦場の様子を見て反省する。
「あれでは
「ふむ。であれば
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「ア?」
ゼーゼーコヒューと呼吸する
(
先程まで無風状態だった戦場に少しずつ風が吹き始め、その風が彼の体の熱を冷ましていく。
(風……?)
不意に彼の頭に形勢逆転のアイデアが浮かび上がる。今し方吹き始めた風に対してそのアイデアの可不可を検討する。
(いや、出来る…!これなら、アイツだってやれる!!)
頭上の月に手を伸ばす。今なら空の月にだって飛べそうだという全能感が体の底から湧きあがってくる。上げた手をそのままに、彼が
コンテナの陰から歩いて出てきた
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操車場の有様は酷い物だった。地面は抉られ、巻き上げられた砂利は四散している。鉄骨もコンテナもバラバラの位置に倒れており、まるで組みあがったパズルを一度グチャグチャに崩したような無秩序な状態となっていた。破壊の風に巻き上げられた上条当麻は、宙に上げられた後、壊れた風力発電の支柱に強く衝突し、そのままズルズルと地面に崩れ落ちていった。恐らくもう生きてはいまい。だが、念には念を入れる必要がある。先程の空気の圧縮は咄嗟に思いついたアイデアであり、その出来は未完成のものだ。もっと完璧に空気を圧縮させることが出来れば、
「止まりなさい、
視線を移せば、
「ハッ!やれるもんならやってみれば良いだろォがよォ?」
嘲る様に御坂美琴を挑発して、
(もう直ぐだ、もう直ぐ完成する……!!)
直後、上空に劇的な変化が起こった。その変化は
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歓喜と絶望の渦巻く舞台に、幕引きの時が訪れた。空に現れたるは、舞台を終焉へと導く圧倒的な『力』。それが地に落ちれば、少女と少年と動物は瞬く間に舞台より消え去るだろう。ソレは巨大にして絶大、光にして熱。白き死神が作り出したるは『
少女は考える。この終焉を回避する手段を。空に浮かぶ
その時、不意に少女の頭に形成逆転のアイデアが浮かび上がる。今し方目にしたプロペラに対してそのアイデアの可不可を検討する。
(いや、出来る…!これなら、
傍らの自身に似た存在に頼る。ボロボロの彼女に無理を強いる様でいたたまれないが、少女にはもう頼むことしか出来ない。
「お願い、起きて。無理を言っているのも、自分がどれだけ酷いことを言っているのかも分かってる。だけど、一度でいいから起きて!」
「アンタにやって欲しいことがあるの!ううん、
「お願いだから、アンタの力でアイツの夢を守ってあげて!!」
泣きながら語り掛ける彼女の姿は、学園都市第三位の能力者ではなく、御坂美琴という人物のものであった。彼女の言葉は癇癪を起した子供の様な言い分ではあったが、御坂妹は、確かにそこに『思い』を感じた。必要な部品があればボタン一つで作りだせるクローンとしてではなく、御坂妹として、彼女はその時意思を持った。
守るべきものがある。やるべきことがある。自身に気軽に接してくれたあの少年を救うためにも、目の前で悲惨な運命に嘆いている少女を救うためにも。
ボロボロの四肢に力を籠める。彼女の体はゆっくりと起き上がった。
「お願いの内容を教えてください、とミサカはお姉様に問いかけます」
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「あ?」
(どう考えてもコイツは自然に発生した現象じゃねェ。明らかに人為的なモンだ)
これ程の風を起こせる能力者であるならば
(確か風力発電機ってなァ、マイクロ波を浴びせると回転するってェ話が……!だが、どうやって…!?学園都市中の風力発電機全てに干渉してるとしても求められる人手が足りねェだろうがよォ……!!いや、まて……
(まさか……ッ!!)
敵意には敵意で応じる。故に
額から冷や汗が零れ、目が乾いた様な感覚が
そこに、少年が立っていた。
自身の暴風によって宙を舞い、風力発電の支柱に激突した筈の少年、恐らく生きてはいまいと思っていた存在は、しかし自身の足で地を踏みしめていた。その有様のなんと酷い事か。体には無数の傷、動けば出血、脚は震え、腕は下がっている。そうまでなって少年が立ち上がる理由は何か。執念か、信念か、或いはもっと別の何かか。
「面白ェよ、オマエ―――」
「―――最ッ高に面白ェぞ、オマエ!!」
地面を強く踏み、そのベクトルを操作して
「歯を食いしばれよ、
両の手を躱され、無防備となった
「―――俺の
上条の右の拳が
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「相変わらずと褒めるべきか、それともまた無茶をと叱るべきか、お前としてはどちらが良い、上条?」
「貴方は俺の保護者か何かですか?残念ながら上条さんは親にいい子いい子してもらう歳ではもう無いんですが」
いつもの病院で上条当麻と西崎隆二は顔を合わせていた。
「頭にインデックスの噛み跡があるのはいつものこととして……今回は何をしたんだ?」
「あれ?西崎はステーキパーティの時、
「俺が知っているのは御坂美琴のDNAマップからクローンが製造されているという都市伝説位だ。実物を見たのはあの時が初めてだし、そもそもクローンがどういった目的で作られているのかもまるで知らん。その辺りのことはお前の方が余程詳しいだろう」
「あ~~、そっか。学園都市の第一位が倒されたって噂、もうそんな広がってるのか」
「ああ。お前の入院のタイミングと照らし合わせれば、倒したのがお前であることは丸分かりだ。勘のいい奴らは幾らかそのことに気付いているかもな」
「……もしかして、上条さん不良さんらの腕試しの的になっちゃう展開でございますか?」
「む。珍しく察しが良いな。お前の思っている通り、学園都市第一位を倒したお前を倒せば自分が学園都市の頂点だと思っている勘違い野郎共がお前を探している」
「ひえええええぇぇぇ!!!」
「まぁ安心しておけ。現状お前へ挑戦する奴には『
「この対応…!この気遣い…!やっぱり保護者じゃないか!!」
「冗談も程々にしろ。もう俺はお前を背中に背負う機会が無い事を願っているぞ」
「そのことは忘れて!!」
当初旧約3巻分は飛ばして旧約4巻分を執筆して、その中で西崎の台詞に「所で俺がほんの二日程目を離した間にどうしてお前は入院してるんだ(呆れ)」みたいなのを入れて終了みたいな流れにしようかな~と気楽に考えていました。けれども御坂美琴や白井黒子とのファーストコンタクト位は書いた方がいいかなと思い1~3を書いた後に、西崎が食蜂と会話を始めるわ入院中の上条さんにレベル5との戦闘の仕方を教えるわと勝手に暴走し、挙句の果てには上条さんが一方さんを圧倒してしまうという番狂わせが発生してしまいました。仕方が無いので西崎に失敗のリカバリーをしてもらい、何とか丸く(?)収めることが出来ました。西崎ィ…!お前旧約4巻でどれだけ得意分野で経験を積んでも子供に50%の確率で負ける可能性の存在する奴と肉体交換させてやるからな……!!