1
八月二八日。
視界を移せば、一〇万三〇〇〇冊の魔導書を記憶する居候の少女インデックス、イギリス清教
これだけの面子が一同に会しているのもある意味上条の混乱を招いている原因の一端ではあるが、混乱の一番の要因は彼ら彼女らの行動や台詞にあった。
「あらあら刀夜さんは」と上条の母親の
「おにーちゃんこのテレビ点けていい?」と上条に媚び媚びの声で質問してくる、赤いキャミソールを着た
「おう!もう直ぐ焼き上がるから待ってろ!」と威勢の良い声を上げながらトウモロコシを焼く、Tシャツにハーフパンツ、首からタオルを掛け、頭にねじり鉢巻きを巻いた
「おい父さん!」とステイル=マグヌスに向かって声を上げる、海パンの上からエプロンを着用した
「ねぇとうま」と上条に話しかけてくる、歩く教会という名の純白と金の
「どうした上条?先程から頭を押さえて…。そこで立っていてもしょうがないだろう。ほら、
「一体何がどうなっているんだ……」
海の家『わだつみ』で波乱の一日を迎えた上条は、事の発端を思い返していた。
2
「学園都市の『外』にぃ?」
親友である
「そう。学園都市の『外』だ。俺とお前とインデックスは、もれなく厄介払いされた訳だ」
「いや、それは分かるけど……どうしてインデックスまで?アイツ
「上は人質の可能性を考慮しているんだろう。実際彼女を人質に取られればお前だって犯人と敵対するしか無いだろう」
「けど、学園都市の『外』への手続きってかなり面倒だったと思うんだが……」
「その辺りは問題ない。あちらも今回学園都市第一位が
通常学園都市の学生が学園都市の『外』に行くのは機密保持などの観点から好まれない。それでも『外』に出たい場合には、三枚もの申請書にサインをし、血液に極小の機械を注入し、その上で保証人(要するに親のこと)まで用意しなければならないのだが……
「よりにもよって行き先が海っていうのはそこはかとなく悪意を感じるな…」
「今年はクラゲが大量発生したからな。客足もないだろう。だが、裏を返せばそれは俺達が海を貸し切っている様な状態になるということだ。充分に羽を伸ばせる良い機会になるんじゃないか?」
「それもそうか」
そんなやり取りの後、上条と西崎とインデックスは学園都市のゲートを潜り抜けて『外』にある海の家『わだつみ』までやって来て一泊した筈だ。その時点ではまだ今回の様な混沌な状況には陥っていなかったことははっきり覚えている。
「それが、どうしてこうなった……」
砂浜にパラソルを突き立て、その下に敷いたレジャーシートに海パン姿の上条当麻が腰を落とし、体育座りをする。目の前には楽しそうに水着ではしゃぐインデックスと美琴の姿がある。そこに刀夜も加わり三人でビーチボールで遊び始めた。その様子を見ながら上条は考える。
(さっき美琴(?)がテレビを点けた時、テレビの中のニュースキャスターや番組の司会者も、普段俺の知っている人物じゃなかった。今朝のこともそうだ。まるでみんなの中身が入れ替わったような違和感を感じる)
今朝から続いている
「とうま、遅れてごめんね。待っててくれたんだ」
それは悪魔の誘惑。魔性の囁き。
振りむけば破滅する、そんな突拍子も無い予感が上条の胸の中を占めていた。ザッザッと砂浜を踏みしめる足音が、まるで背後から死神が忍び寄ってくる音のように聞こえ、上条の後ろに迫った存在が悪魔のように思えた。ギリギリと、こわれたゼンマイ人形のように
そこには――――――
3
「――――――はっ!?」
気が付くと上条は、オモチャのスコップを片手に砂浜に呆然と立ち尽くしていた。自身の身に何が降りかかったのかは分からないが、頭上に浮かぶ太陽の位置から、自身が意識を失ってから少し時間が経っていることが判明した。足元に何やら砂浜に埋まった青い髪をした顔のように見える物体Xが存在している気がするが、きっと上条が此処に来る前からあったオブジェクトの一つだろう。そんな風に上条が考えていると―――
「カミやーん、やっと見つけたんだぜーい!」
と、いきなり奇怪な喋り方で声を掛けられた。声の主はツンツンの金髪に薄い青のサングラスを掛け、アロハ服と短パンに身を包んだ上条のクラスメイトである。名を『
「ってちょっと待て、土御門だって!?お前どうやって学園都市の『外』に来てんだ!?」
「カミやん、ひょっとしてお前はオレが『土御門元春』に見えてるぜよ?」
「ハァ?何言ってんだ。
「まあカミやんの疑問は置いといて。所でカミやん、西崎の奴はどうしたんだにゃー?あいつとお前は一緒にここに来てる筈だぜい」
「あぁ。西崎の奴は今朝から姿を見てないんだ。似たような態度を取ってくる別人なら居たんだが…」
「
「え?逃げる?何で?」
「
「ねーちん?それって誰―――
「見つけましたよ、上条当麻―――!!」
あちゃーと天を仰ぎ見る土御門の様子を見て、上条が声のした方向に振り返る。そこに居たのは長身の女性であった。長い黒髪をポニーテールに結い、スタイルの良さの伺える存在だった。だが、その服装には些か珍妙なものを感じる。白い半袖シャツと片足を根本までバッサリ切り取ったジーンズ、そして腰に差した長い日本刀という服装は、まるで侍を全く知らない人間が侍らしさを自分で作ろうとした結果ごちゃごちゃの服装になってしまった様な印象を受ける。間違いなく彼女は自身が入院中に西崎から聞いた『
「上条当麻!貴方がこの入れ替わりの魔術―――『
「え!?え!?何、
こそこそとこの場から逃げようとしていた土御門がその言葉にビクリと震えて振り返る。心なしか上条は彼のサングラスに冷や汗を見たような錯覚を覚えた。
上条のうろたえ振りに、これは何か
「すみません。焦ったばかりに少々思慮を欠いてしまいましたね。念のために確認しておきますが、貴方は私が誰に見えますか?」
「誰って……神裂火織だろ?
「どうやら貴方は私を正しく認識出来ているみたいですね、安心しました。貴方まで私を『アレ』と認識していたらどうしようかと……」
なにやら安堵した顔をした神裂を見て上条は先程から疑問に思っていたことを土御門に尋ねた。
「で、そんな魔術師と仲良さげにしている土御門は一体何者なんだ?っていうかどんな立場なんだ?」
そんな上条の疑問に土御門はニヤリと笑って
「あれ?カミやんにはまだオレがどんな奴なのか言ってなかったかにゃー?しょうがないにゃー。今からカミやんに俺のこと教えてやるからよ~く聞いておくんだぜい?」
「いや、そういう勿体ぶった前振りとかはいいから」
「ん~、そうか。じゃあ単刀直入に言わせてもらうとだな。オレ、
「義理の妹が夏風邪を引いただけで慌てふためいて俺に相談しにくるような間の抜けた奴がスパイねぇ…」
上条の中に浮かんだのは『まさかお前がスパイだったなんて…!』という衝撃的な感想よりも『へー。スパイって映画や小説の中だけの話じゃないんだな』という、とても淡泊な感想だった。
「あれ?もしかしてカミやん、あんまり驚いていない様子?」
「いや、だって。別にお前がスパイだったからって言って、それで俺の知るお前が居なくなるって訳でもないし。お前は何処まで行ってもお前なんだなって再認識した位かなあ」
「やだ、カミやん…達観しすぎ…!?」
「土御門、貴方のギャグよりも今は優先すべきことがあるでしょう」
「おう、そうだったそうだった。カミやんも薄々気付いていると思うけど、今あちこちで
「あっ!そう、それだよ!
「いやぁ、そこそこですたい。一応目下調査中ではあるんだがにゃー。今わかってるのは
「副作用?本題?」
訳の分からない顔をしている上条に向かって神裂が溜息をついて説明しようとし―――
「む、ここに居たか上条。そんな所で三人仲良く何を話している?」
そこに、新たな火種が投げ込まれた。
4
「え~と…念のために訊いておくけど……西崎、だよな?」
「そうだ。この体は俺のものでは無いが、確かに俺は西崎隆二だ」
「あれ?もしかして西崎は入れ替わりを正しく認識出来ている…?」
「入れ替わり?ああ、夜に発動した大規模術式のことか。うむ、面白そうだったのでな、敢えて避けずに魔術にかかってやった。魔術がかかる直前に『フルーツバスケット!!』と大声で叫ぶのは中々に楽しかったぞ」
「え!?避けなかったの!?」
「ああ、その方が楽しめそうだったからな」
「え~と…そこで狂人みたいな発言をぶちかましてくれちゃってるのはニシやんでいいんですたい?」
「おお、土御門元春か。お前は相変わらず猫みたいな口調とその強靭な肉体のアンマッチ間が半端無いな」
「うん。この無自覚な毒舌は間違いなくニシやんだにゃー」
「ちょ、ちょっと待ってください西崎隆二!
「折角夏のバカンスに来ているんだ。少し位羽目を外しても構わんだろう」
「こんなのと互角に戦っていたのですか、私は……」
「確かにお前との戦闘能力は互角ではあったが、今の俺は『エロス』という点でお前に勝っているぞ。お前のは露出部位を限定して目線を集中させるタイプの『エロス』だが、今の俺は全身を露出して余すことなく目線を受け止めるタイプの『エロス』だ。見ろ、このスリムなスタイルを。どうだ、羨ましいだろう」
「いえ、流石に他人の体をそう自慢げに語られましても……」
「む、ノリの悪い聖人だな。どうだ、上条?今の俺はすこぶる機嫌が良い。お前の『初めて』を貰っても良いと思えるほどだ。ついでに一人称を『私』に変えてやってもいいぞ」
「ちょ、西崎隆二!他人の体で何てことをしようとしているのですか!?」
「何てこと?詳細に説明して貰わないと何のことだか分からんなぁ…」
「で、ですからその……ごにょごにょ……」
「聞こえないなあ!!そんな小さな声では!!」
「……もう良いです。貴方の話に付き合うと疲れるだけです……」
何だか疲れた空気を纏い落ち込んでいる神裂を尻目に上条が
「そう言えば西崎は今起きている魔術がどんなものか知った上で魔術にかかったって言ってたけど、これってどういう魔術なんだ?」
「そうだな。神裂火織の言葉を借りてこの魔術を『
「天使?天使がどう関係してくるんだ?」
「それを話す前に上条、お前は『セフィロトの樹』というものを知っているか?」
「いや、全然知らないんだが…」
「そうか。意味も無く魔術用語を説明するとお前も混乱するだろうから、『セフィロトの樹』を少しお前に分かり易い意味の言葉に置き換えて今回のことを説明しよう」
「すまん、西崎」
「何、気にするな。誰しも最初は無知なのだ。それは別段恥じ入る様なことでは無いさ。お前は事の本質さえしっかりと把握しておけば問題ない」
「さて、今回の事態を把握する上で天使が重要な鍵だと語ったが、先ずはそこから入るか」
「天使、或いは
「え?何処って……天国とか?」
「当たらずとも遠からずといった所だな。上条、お前が先程言ったように、天使という存在は普段俺達人間が暮らしている世界とは別の世界―――より上位の世界にいる。より上位の次元と言った方がお前には分かり易いか?俺達が二次元の存在、奴が三次元の存在とでも思っておくといい」
「まあ住んでいる世界やら次元やらが違うので本来俺達人間と天使というのは滅多に会えるものでは無い……が、今回の魔術でこの辺りのことに大変な事が起こってしまった」
「大変なこと?」
「うむ。端的に言えば、三次元に存在している天使の一体が今回の魔術によって強制的に二次元に堕とされたのだ」
「天使が堕ちるって、それかなり大変な事なんじゃねーの?十字教徒だったっけ?そこがかなり大騒ぎになってるんじゃないか?」
「そうだな、向こうはかなりの騒ぎになっているだろうな。その辺りは後でそこな聖人から聞くといい。さて、それで説明の続きだが…その前に少しやりたいことがある。土御門元春、お前は確か折り紙を常備していなかったか?それを幾らか貸してほしいのだが」
「にゃー。説明の為とあっては貸さないわけにはいかんですたい」
土御門から白、青の二種類の折り紙をそれぞれ三枚、或いは二枚ずつ受け取った西崎が折り紙に何処からか取り出したマジックで文字を書き込んでいく。
「今ここに五枚の折り紙がある。この折り紙の白を肉体、青を魂或いは精神と思ってもらいたい」
それぞれ白、青の折り紙のセットを三つ作った西崎が言う。それぞれのセットには『上条当麻』『西崎隆二』『天使』の文字が書かれている。但し天使のセットには白の折り紙―――即ち肉体の部分が存在しなかった。
「今回この天使が俺達の世界に堕ちてきた訳だが、本来天使という存在は肉体を持たない魂だけの存在だ。肉体と魂が揃っている人間世界に堕ちてきたは良いが肉体が無い訳だ」
西崎が天使の青の折り紙を上条当麻と西崎隆二のセットの折り紙の方に近づけながら言う。
「
西崎隆二の折り紙セットに天使の青い折り紙を乗せ、元々そこにあった西崎隆二の名の入った青の折り紙が西崎隆二の折り紙セットから弾き出される。
「当然、人間は肉体と魂を持つ存在だから、魂だけでは不安定だ。けど当然肉体を奪われた側だって存在を安定させたい。
今度は西崎隆二の青の折り紙が上条当麻の折り紙セットに乗せられ、上条当麻の名の入った青の折り紙が上条当麻の折り紙セットから弾き出される。
「そして行き場を失った魂は
上条当麻の青の折り紙を元々天使の折り紙があった場所に移動させながら西崎隆二が語る。
「そして今回の魔術の副作用の入れ替わりだが、今の折り紙の状態を見てくれ」
上条当麻の折り紙セットは『肉体:上条当麻』『魂:西崎隆二』、西崎隆二の折り紙セットは『肉体:西崎隆二』『魂:天使』、天使の折り紙セットは『魂:上条当麻』となっている。
「今回の騒動では、皆入れ替わった『肉体』ではなく、入れ替わった『魂』の方を認識している形になる。だからこの折り紙の例でいくと、上条当麻の肉体を持った俺は『上条当麻』では無く『西崎隆二』と皆に認識されるわけだ。天使が皆にどの様に見えているかは知らないけどな。因みに俺は事前にこの術式の発動の予兆を感じ取っていたから、術式にかかった後にちょっとした裏技を使って入れ替わった『肉体』の方を認識出来るようにしている。今の俺は左目で『肉体』を見て、右目で『魂』を見ている状態だな」
「右目と言いますが、
「どうやら神裂火織は東洋人でありながら『物の例え』という言葉を知らないらしい。これは俺もお前と話すときは言語レベルを下げて、赤ちゃん言葉で喋らなければいけないらしい」
「どうしてそうなるのですか!?」
そこで西崎が上条の顔色を
「大丈夫か上条?ちゃんと着いて来れているか?」
「ああ。まあ何とかな」
「それは良かった。ではここからが本題だ。恐らく神裂火織や土御門元春も知っていると思うが、この
「……」
「そして術式がいつ完成するのかも未だ分かっていない。もしかしたら一時間後かもしれないし、一週間後、或いは一ヶ月後という可能性もある」
「私達が必死になって集めた情報をどうして一個人の
「まあ、そういうことだにゃー。それでカミやん、どうやらこの異変、『歪み』はカミやんを中心にして広がっているらしいんだぜい。それでいて異変の中心のカミやんだけは無傷と来た。いや、おそらくその右手の効果なんだろうことは分かっているんだけどにゃー。
「あれ?でもお前達も見たところ術式の影響を受けてない様に見えるぞ?」
「オレと神裂ねーちんはその頃イギリスのロンドンにいたからにゃー。魔術がカミやんを中心に世界中に広がっていった中、日本を『極東』なんて呼んでる程距離の離れているイギリスじゃ対策を練る時間は少しはあったぜよ?っていっても結局は強固な魔術的結界の構築されている施設に逃げ込む位しか対策はなかったんですたい。まぁ、オレはそんな施設の最深部にはいなかったから施設の結界が
「結界を構築って……お前、能力開発受けてるだろ。能力開発受けてる奴に魔術は使えないんじゃ……」
「ああ、だから見えない所はボロボロだぜい?もっかい魔術使ったら、まぁ確実に死ぬわな」
土御門が左手で自身のアロハを
「けど、ここまでやってもやっぱり完璧には
「ほう。陰陽博士と名高いお前でもその有様か。存外、今回の術式は侮れんな」
「待って西崎。陰陽博士ってなんだよ?土御門って陰陽師なの?」
「『土御門』と言えば、平安時代に名を馳せた陰陽師『
「ニシやんは相変わらず辛辣にゃー。そこはもっと褒めてもいいですぜい?」
「たわけ。お前は褒めると調子に乗ってとんでもないことを仕出かすだろう。そんな奴を一々褒めてどうする」
「うっ!でもいつものニシやんとは違って今のニシやんは金髪美少女!しかも露出過多の魔女コスという目に優しい恰好!正直そんな美少女に悪口を言われてもオレ的にはご褒美にしか成り得ないにゃー」
「―――ふんっ!!」
「ごあ………ッ!!」
西崎のドロップキックが土御門を捉え、彼の体を砂浜に転がす。ごろごろと砂浜を転げまわった土御門は砂に塗れて酷い有様となっていた。確かに今の西崎の恰好は
「それで、そんな陰陽博士とかいう土御門ですら
「……」
ぴくり、と上条の言葉に反応して
あれ、もしかして地雷踏んじゃいました?と上条が不安に思っていると、彼女の口からボソリと小さな声が呟かれた。
「――――――グヌス、です」
「は?グヌス?誰だよソイ
「『魂:ステイル=マグヌス』です。はい、世間から見ると私は身長二メートル声の大巨漢に見えるそうですねお陰で手洗いや更衣室に入っただけで警察を呼ばれますし電車にのっただけで痴漢の冤罪をもらいかけましたええ本当に驚きましたよ最初は世界の全てが私という存在に喧嘩を売ってきているものかと」
平たい、とても平たい声だった。感情の起伏など感じさせない様な平坦とした声であったにも関わらず、上条はそこに言いようの無い怒りと恐ろしさを感じ取った。神裂はその無表情な顔のまま、上条の肩をがっしりと掴むと、
「ところで貴方は本当に今回のことに関して何もしていないのですか実際は何かしているのでは無いですか決して怒りませんから正直に告白して下さい私はもうこんな事態さっさと片付けてしまいたいのです苦痛なのですもう嫌なのです
「あがっ!がっがっ!揺れッ、揺れてるから!肩揺らすのやめッ!!」
凄まじい力で両肩を前後に揺さぶられた上条は、まるでロックバンドの激しいヘッドバンキング並に首をガクガクと揺らしていた。正直今ここで首の骨が折れて天国に旅立ってしまうのでは?と危惧する程だった。
「とまあ、そんな訳で『歪みの中心』たるカミやんは、難を逃れた世界中の魔術師から犯人扱いされて命を狙われている訳なんだぜい」
「おい土御門!テメエそんな所で見てないでこのヘドバン地獄を止めろ!!ていうかその
「ですが、貴方の側には
「神裂…テメエ、もしかしてソレ…本気で言ってねぇよな?」
上条の怒気に、彼の両肩を揺らしていた神裂の手がピタリと止まる。
「俺が本気でインデックスを
自身の目的の為にインデックスを利用するという失言をした神裂が、そこでハッとした顔をし、次いでバツの悪そうな顔で上条に謝る。
「すいません。どうやら私も心労が溜まっていたみたいでして…。そうですね、貴方の性格を考慮すれば、それは決して有り得ない可能性でした。謝罪します」
「…いや、分かってくれたならいいよ」
怒りの静まった上条に向かって腕を組んだ神裂が尋ねる。
「しかしこれでは振り出しに戻ってしまいましたね。貴方でないとなると、一体だれがこの様な大魔術を発動させたのでしょうか」
「そんなこと俺に訊くなよ。俺だって突然現れた妹を名乗る存在に困惑してるっているのに……」
「おや?上条はあいつのことを憶えていないのか?」
「え?西崎はあいつのこと知ってるのか?」
「ああ。あいつはお前の
さり気なく上条の疑問の解消と、自身の記憶喪失をカバーしてくれた西崎に感謝しつつ、上条は朝から続くこの波乱の日常に、早くも頭を抱えそうになっていた。
5
夜の食卓では刀夜がエジプトのお土産と称してフンコロガシの死体を持ち出したり、神裂が海の家『わだつみ』の店主と化したステイルを見て愕然としたり、食卓の皆から大柄の男の人なのに、やけに仕草が女っぽいと言われたりしたが、無事穏便に終えることが出来た。出来たのだが……
「あのー、それで上条さんはどうして風呂場まで連れてこられているんですかね?」
「貴方に私が湯浴みをしている間、外の見張りをして欲しいからです。ここの風呂は温泉や銭湯と同じく共用なのでしょう?私が入っている間に他の男性に入ってこられるような事態を避けたいのです」
「あー、成る程ね」
神裂の言葉通り、ここの風呂は共用であり、男湯や女湯といった区別は無い。神裂が風呂に入っている際に曇りガラス越しに皆に見えるのはステイル=マグヌスの姿である。それを見て男性陣が「お、今は男性が風呂に入る時間か」と勘違いして風呂に入ろうものなら阿鼻叫喚の事態になることだろう。
「……」
「上条当麻。今、それは楽しそうだと考えませんでしたか?」
「いえいえ!日本刀持った相手に対して命懸けでボケるつもりは毛頭御座いませぬ!」
神裂は上条を少し不審気な目で見つめた後、曇りガラスの向こうの脱衣所に入っていった。上条は神裂に頼まれた通り、曇りガラスを背にして脱衣所に誰かが近寄ってこないか見張りをする。と、そんな上条の目に通路を正々堂々と歩いてくる金髪アロハの姿が映った。
「おっすカミやん!こんな所で何やってるんだぜーい?」
笑みを浮かべて上条に近寄ってくる土御門の姿に、上条の危険察知センサーがビンビンと警戒を鳴らす。何だか嫌な予感がする上条に向けて土御門が爆弾を投下する。
「神裂ねーちんはよう…脱いだらきっと凄いんだぜ?と言う訳でカミやん。ねーちんの生着替え、覗いてみないかにゃー?」
「なっ!?土御門、お前……!!」
「カミやんだって日々頑張ってるし、それくらいのご褒美があってもいいと思うんですたい」
「だ、駄目だ!!あんな日本刀もった奴を覗いた所で、待ってるのは『死』だけだぞ!?」
「えー。でも、カミやんは可愛い神裂ねーちん、見たくないのかにゃー?」
「逆にお前は何でそんな乗り気なんだよシスコン軍曹!!」
「キサマ!その名でオレを呼ぶな!!大体何の根拠があってその名で言う!!」
「えー。いや、だってリアル義妹にラブなんて普通じゃねーよお前」
ギャーギャーと騒ぐ上条と土御門だったが、新たに通路の床板が軋んだ瞬間、土御門は物陰から物陰へと移動して何処かに消えてしまった。おお、スパイアクションっぽいと感心する上条に、足音の主が声を掛ける。
「む、上条か。脱衣所の前で何をやっている」
金髪美少女の体をした西崎だった。元の肉体と今の肉体では性別まで違うというのに、皆からは普通に男の西崎隆二として認識されているのだから非常にややこしい。西崎は脱衣所にチラリと目線を向けて、
「もしかして先客がいたのか?俺はこれから風呂に入ろうと思っていたんだが」
「あー…そのー……神裂がな。俺は見張りなんだよ」
「見張り?ああ、そう言えば神裂火織はステイル=マグヌスに見えるのだったな……
あ、ヤバい凄い嫌な予感がするっていうか最早嫌な予感しかしない!
「おや上条!そんな所で突っ立ってないで一緒に風呂に入ろうじゃないか!!なぁに、心配は要らんさ!何故なら風呂に入るのは
「ちくしょう!やっぱりこんな事になるだろうと思ったよ!!あ、やめて西崎さん!!腕を引っ張らないで!!ちょ、待、ホント待っ―――あああアアア!!!」
ガラガラと音を立てて開けられる引き戸、躊躇なく上条の手を掴んで脱衣所へと入っていく西崎隆二。連られて脱衣所へと入っていく上条当麻。
そんな彼らの目の前に、美しい裸体を晒した神裂火織の姿があった。
「……」
「……」
「ほう、中々に良いスタイルをしているではないか」
気まずい沈黙の上条と神裂、そして若干一名空気を読めない西崎。沈黙の中、神裂がゆっくりと黒鞘にその手を伸ばす。『
最期に何か言う事は?と。
「し―――」
混乱の極みに達した上条は思わず、
「新感覚日本刀つっこみアクション!?」
ザン!という鋭利な音と共に黒鞘にて放たれた一閃から逃げる様に上条と西崎は脱衣所から脱出した。
「ハハハ!覗きというのも案外楽しいものだなぁ!なぁ上条!!」
「上条さんは夏のバカンスで羽目を外しまくってるお前の突飛な行動に翻弄されまくりなんですけどーーー!?」
6
午後一〇時、ブツン!という音と共に、いきなり海の家『わだつみ』の全ての電気が消えた。停電を訝しむ上条は、自身の真下からガサリと木の床を引っ掻くような音が聞こえると同時に後ろに大きく飛びのいた。
瞬間、ドスッ!という音と共に、上条が先程までいた床板を、三日月の様な形をしたナイフの刃が貫いていた。
「ッ!!」
咄嗟に上条は襲撃の対象が自身であることを理解し、廊下を走って外へと駆け出した。襲撃者はそんな上条を追うように、海の家『わだつみ』の床下からずるりと這い出てくる。瞬間、上条は中腰になって床下から這い出てくる襲撃者のナイフを持った腕を踏み潰す。悲鳴を上げる襲撃者のもう片方の腕も踏み潰し、両腕を無力化した後に、その襲撃者が凶器として使用したナイフを取り出し、遠くへと投げ捨てる。そのまま上条は襲撃者の顎に拳を一発叩きこみ、相手を気絶させた後、襲撃者を床下から引き摺りだし、彼の全身を調べて隠し持っている凶器が無い事を確認する。一通りの作業を終えた上条が襲撃者の素性を確認する。そいつは昨今世間を騒がせていた儀式殺人鬼の死刑囚『
「見事な腕前だったな、上条。俺が急いで駆け付けた時には既にノックアウト済みとは。また喧嘩の腕を一段上げたんじゃないか?」
「冗談言うなよ西崎。トラブルが無いと役に立たない力がぐんぐん上達して何が嬉しいって言うんだ」
「何かあった時にモノを言うのがその力だろう。あるに越したことは無いさ」
「上条さんはこんな襲撃やら喧嘩やらとは無縁な生活を送りたいんですがね…」
「それを言えば俺だって面倒事は好かんが向こうからやってくることもある。こういうのは避けては通れないものだ」
「マジかー。本当、勘弁して欲しいよ」
「それにしても、上条一人で済ませてしまったものだから、
「は?少女?」
「遠路はるばる北方の地からやって来た
西崎の言葉に反応するように、上条の目の前にそのシスターが現れた。歳は一三歳位だろうか。長い金髪のまだ幼そうな見た目の彼女は、全身を赤と黒の拘束具のような衣装で固め、異質な雰囲気を放っていた。
「上条。前に『イギリス清教』と『ローマ正教』という二つの教会があることを教えただろう?彼女はまた別の教会に属しているシスターでな。所属は『露出成教』の『SM白書』になる」
「いや絶対違うだろソレ!イントネーションが似てそうだからって適当なこと言えば俺が騙されるとでも思うなよ!!」
「だが上条、彼女の恰好を見ろ。あの拘束具の様な衣装は彼女がSM趣味であることを物語っているし、あの衣装の露出度も生半可なものでは無いぞ」
「いや、確かに……でも、もしかして、本当に……?」
「訂正、私の名前は『ミーシャ=クロイツェフ』、所属は『ロシア成教』の『
「ほらやっぱり違うじゃん!!」
「ハッハッハ。相変わらずお前のリアクションは心地いいな。……して、ミーシャ=クロイツェフ、何故この地に足を踏み入れた?」
「解答一。私は
「それで?お前から見て上条は犯人に見えたか?」
「解答二。先の戦闘だけではそれを判断するのは困難を極める。よってこの少年が犯人か否かは保留とする」
「因みに言っておくと、こいつの右手にはあらゆる魔術を打ち消す
「問一。その
「今この場でって言ってもなあ。魔術も無い場所で俺の
「問二。それはこの場に魔術があれば貴方の
「まあ、そうなるかな」
ミーシャは先程会話の中にあった
「数価。四〇・九・三〇・七。合わせて八六」
ズバン!という音と共に海から水の柱が姿を現し、
「照応。
ミーシャの言葉に応える様に水の奔流が幾つにも別れ、槍の様に勢いよく上条の周囲に襲い掛かった。
「うおっ!?」
上条が咄嗟に自身の顔面目掛けて飛んできた水流の槍を右手で防ぐと、先程まで槍の様に真っ直ぐの軌道を描いていた水流は四散し、辺りに飛び跳ねていった。その様子をミーシャが注意深く観察する。
「正答。そこな少女の証言と今の実験結果には符号するものがある。この解を容疑撤回の証明手段として認める。少年、誤った解の為に刃を向けたことをここに謝罪する」
「刃を向けたっていうか突き刺そうとしたじゃん!!っていうか謝る時は人の目を見て謝れ!!」
「問三。しかし貴方が犯人で無いのであれば、
「聞けよお前!」
上条とミーシャが会話を行っている時、ある変化に気付いた西崎が二人に声を掛ける。
「おい、上条、ミーシャ=クロイツェフ。コントは良いが、先程までそこで伸びていた火野神作が見当たらん。奴め、まんまとこの場から逃げおおせたぞ」
「え!?逃げた!?火野神作が!?」
上条が視線を移すと、確かに先程まで気絶していた火野神作の姿は砂浜には無かった。彼が気絶していた場所から離れるように足跡がついているので、西崎の言う通り、この場から逃げたのだろう。
殺人鬼を逃がしたという事実に唸る上条の元へ、海の家『わだつみ』から神裂と土御門がやって来る。
「その様子だと皆さん大丈夫そうですね。何やら襲撃があったようですが、私が二階に人払いのルーンを刻んでいる間に事態は収束したようですね。おや?そちらの方は?」
「ロシア成教『
「そうですか。所で襲撃者の様相などは分かりますか?もしかすると
「いや、襲撃者は魔術師じゃなかったよ。火野神作っていう儀式殺人鬼だったよ」
「火野神作……?」
「これまでに儀式殺人で実に二八人もの人間を殺した連続殺人鬼で、『エンゼルさま』なる声の導きとやらに従って殺人を犯す二重人格の死刑囚だ。今日のニュースでも奴の刑務所脱走が取り上げられていたな」
「エンゼルさま…?それはもしかして
「そこまでは知らん。が、追いかける意味はあるんじゃないか?」
「そうですね。
「提案。私もその殺人鬼の捜索に協力したい。彼が
「ミーシャ=クロイツェフ、協力に感謝します」
「それでどうすんだ?早速今からアイツを追いかけるのか?」
「視界の効かない夜に出歩くのは余り得策とは言えんな。夜襲の可能性は極力排除すべきだ。動くとなれば明日の日の出以降ということになるだろう」
「そうですね。上条当麻、西崎隆二、私はこれからクロイツェフとの協議を行いますが、貴方達は今日の所は部屋に戻って休んでください。協議の結果は明日追って報告します」
「ではお言葉に甘えさせてもらおう。上条、今日はもう就寝だ」
「ああ、そうだな」
火野神作との戦闘の疲れを癒すため、部屋に戻る上条。途中色々とあって、その日の夜は刀夜とインデックスと上条と親子揃って川の字で寝ることになった。
7
翌日、午後一二時。上条一家が砂浜に飛び出していくのと置き換わる様に上条の客室に神裂火織、土御門元春、西崎隆二、ミーシャ=クロイツェフが集まっていた。議題の中心は昨夜上条当麻を襲撃してきた連続殺人鬼、火野神作について。
「昨夜人払いの結界を二階に刻んだ際に、一階に居た店員が彼の姿を目撃したようです。この意味が理解出来ますか?」
「解答一。
「俺もやつの『魂』を視認してみたが、姿形は『肉体』とこれっぽっちも変わっていなかったぞ」
「あいつの姿はテレビで見たのと一緒だった。入れ替わり後も火野神作として認識されてるっていうなら何か種がある筈だ。いや、そもそもあいつは入れ替わってないのかもしれない」
「そんでもって奴の行っている殺人方法は
「問一。詰まる所火野神作を捕まえれば今回の事態は収束するということか」
「それは実際に彼を捕まえなければ分からないでしょう。問題は……」
「今現在、火野神作が何処に身を潜めているかだな。ミーシャ=クロイツェフの捜索でも見つけることが出来なかったということは、相手は既にこの近辺に居ないということだろう」
「けど、そんな相手どうやって見つけるって言うんだ?」
「なぁに、奴を追っているのは俺達だけじゃない。この国の誰しもが、
西崎がテレビのスイッチを入れると、ニュース番組のキャスターとなった小萌先生が慌てた様子で原稿を読み上げていた。
『
場の全員の視線がテレビに向けられる。中には身を乗り出す様にしてテレビの画面を見つめる者もいた。
テレビの映像が切り替わり、閑静な住宅街が画面に映る。二階建ての住宅の立ち並ぶ街は、野次馬とそれを押し留める警察官、そして厳重な装備を身に着けた機動隊で混乱していた。現場の釘宮という名前の男がマイクを握って現状を報告する。
『御覧の様に、我々報道を含めた民間人は火野神作が立てこもっているとされる民家のおよそ六○○メートル手前で封鎖されています。周囲にいる人々は避難勧告を受けた住民たちの様です。情報によりますと、火野神作は民家の中に立て籠もり、カーテンや雨戸を閉めて中の様子を分からなくしているとのことです』
「上条、気付いているか?」
現場の映像を注視している上条に向かって、西崎が声を掛ける。
「気付く?何にだよ?」
「火野神作が立て籠もりに使っている家、
「あ、やけに見覚えのある家だな~って思ってたけど成る程ねってええええええええエエエエエエエエエエ!??」
8
そうと決まれば話は早かった。上条は砂浜で遊んでいる上条一家の目を盗んで父の財布を荷物から拝借し(決して盗んだ訳ではない)タクシーで実家に向かおうとしていた。タクシーを呼んでからタクシーが来るまでの間にミーシャにガムを渡したりして時間を潰し(因みに彼女はガムを呑み込んだ)到着したタクシーに全員で乗り込んだ。タクシーの運転手は警察が道を封鎖しているから途中までしか送れないと言っていたが、上条としては全く問題なかった。
「眠い。上条、今から俺は眠りにつくからタクシーが目的地に着いたら起こしてくれ」
「西崎。眠るのはいいけど俺に寄り掛からないでくれる!?うわ、女の子のフローラルな香りが漂ってくる…」
「上条当麻?」
「いえ、何でもないです神裂さん決して役得とか考えてませんですハイっていうか西崎お前実は起きてるだろ口元がにやけてんぞ!!」
「バレたか。いや何、異性の体になったならチェリーボーイを弄るのはお約束というものだろう?」
「そんな約束は捨ててしまえ!!」
「だが満更でもなかっただろう」
「うっ……!それは、その……ハイ」
道中車内でそんなやりとりを挟みながらも、目的地についたタクシーから上条達が降りる。
「道路は事前の情報通り封鎖されているな。マスコミ達もどこかから圧力が掛かったのか引いている。正しく『閑静な住宅街』そのものだな」
「で、俺の家まではどうやっていくんだ?下水道でも通っていくのか?」
「いや、監視の目がもう少しきつかったらそれも案の一つに入れたんだけどにゃー。見張られてるのが道路だけなら、他にも道はあるぜい」
「道って、具体的には何処を通るんだ?」
「『庭』だぜい、カミやん」
9
スルスルと完全包囲の隙を突くように上条宅に迫る面々は、上条宅を取り囲む機動隊の近くまで迫っていた。一同が物陰に身を隠し話し合う。
「上条の家は機動隊が取り囲み、双眼鏡で観察中か。この状態でひっそりと中に侵入して火野神作を確保するのは無理があるな」
「そうですね。機動隊を全員気絶させたり放心させることは可能ですが、その場合外部の警察官に異常を察知される恐れがあります」
「となると如何にかして相手の気を逸らさなければいけないという訳か。分かった、その役目、
「どうする気だ西崎?」
「魔術を使う。幸いにもこの体の持ち主は能力開発を受けていない。魔術の行使は十分可能だ。懸念すべきは俺の魔力が火野神作に察知されることだが、そちらは問題ない」
「何か対策を練っている、と?」
「いや、対策なんぞ要らん。
「問一。その発言の意図を求める」
「態々答えなくとも直ぐに分かるさ。火野神作とは何だったのかがな」
上条から離れた位置に立った西崎が何かを呟くと、上条の家を包囲していた機動隊が一斉に別の家へと移動し始めた。西崎はそのままこちらに歩いて戻ってくる。
「さて、では侵入開始といこう」
「その前に一つ聞いてもいいかにゃー?さっき使った魔術、あれは何なんだにゃー」
「『幻術』だ。相手の認識をすり替えたり、ずらすことが出来るタイプのな。それを用いて上条の家とは別の家を上条の家と誤認する様に差し向けた」
「成る程にゃー。んじゃ、種明かしも済んだ所で、がら空きになったカミやん家にお邪魔しますかにゃー」
一同が上条の家の玄関まで移動する。神裂とミーシャが家の周りを確認して声を発する。
「カーテンも雨戸も締まっています。ここからでは火野神作が何処にいるのか分かりませんね。仕方ありません、陽動作戦にしましょう。土御門、貴方は玄関からなるべく大きな音を出して中に入ってください。私とクロイツェフはそれを合図に別ルートから隠密に侵入します。上条当麻、家の鍵は持っていますね?」
「ああ、ここにちゃんとある」
上条がポケットから家の鍵を取り出しながら言う。
「その家の鍵は土御門に預けておいて下さい。貴方と西崎隆二は……出来れば侵入には参加して欲しくないのですが、どうしてもというのであれば土御門と同行してください」
「元より女の子二人に無茶なんてさせられねーから侵入する気だったよ」
「上条が行くのであれば俺も護衛として行かねばならんな」
「各々の役割は把握しましたね?それでは作戦開始です」
言葉と共に神裂とミーシャが跳躍し、家の屋根を軽々と昇っていく。その超人的アクションに気をとられた上条は、大きな音を立てて家の扉を開いた土御門に続いて自身の家へと侵入した。その瞬間、ツンと鼻をつく刺激臭が上条を襲った。上条が小声で土御門と西崎に声を掛ける。
(なんか臭わないか?此処……)
(ガスだな。大方台所の元栓でも外されているのだろう。そしてこんなことがこの家で出来るのは現状只一人……)
(火野神作かにゃー)
(元栓が外されているということは、元栓を外しに火野神作が台所に行ったということでもある。一先ず慎重に台所へ向かうぞ)
なるべく音を立てないように歩く三人組が台所へと足を進める。後少しで台所というところで変化は起こった。
ゆらり、と。まるで海藻のように体を揺らしながら、音もなく目の前に火野神作が現れた。
上条が突如現れた火野神作に驚愕している間に、相手は三日月の様な曲線を持ったナイフを振り上げ、こちらに向かって振り下ろし―――
スルリ、と。素早く相手の懐に入り込んだ西崎によって、火野神作は背負い投げを決められた。
背中から床に激突した火野神作が肺の中の空気を吐き出し、そこに追撃とばかりに土御門がエルボードロップを決める。白目を剥いて気絶した火野神作から上条当麻がナイフを取り上げ、近くにあったガムテープで彼の体をグルグルに拘束する。上条と土御門が拘束した火野神作を近くの広い部屋へと運んでいき、西崎は火野神作が抜いたガスの元栓を元に戻し、家の中の窓を開け、屋内に充満したガスを屋外へと逃がす。一連の動作を終えた上条が大声で上階の神裂とミーシャに向かって呼びかける。
「おーーーい!!神裂!!ミーシャ!!火野神作を捕まえたぞーーー!!」
直後、上階からドタドタとした音が聞こえ、数秒後には神裂とミーシャが二階から降りてきた。
「土御門、上条当麻、西崎隆二、三人共怪我はありませんね?」
「おーよ。それどころか日頃のチームワークをフルに発揮して火野神作を秒殺しちまったぜい」
「そうですか。火野神作の尋問は我々が行います。貴方は窓を開けて換気を―――もう行っているようですね」
「伊達にクラスメイトをやっていない。以心伝心というやつだ」
「それよりも尋問ってここでするのか?家の外に連れ出した方が安全なんじゃねーの?」
「ここまで来て火野神作を取り逃がす機会を作る方が危険です。なので尋問は今この場で行います」
西崎が台所からコップを取り出し、それに水を注ぐ。そのまま水の注がれたコップを手にこちらまで歩いてきて、火野神作の顔にコップの中の水を浴びせて目を覚まさせる。何とも古典的な目の覚まし方である。目を覚ました火野神作に、神裂火織が問いかける。
「火野神作、貴方が
巨大な日本刀を携えた人物と拷問器具を手に持っている人物を目の前にして、火野神作がポツリと呟く。
「……わかんねえよ。何だよえんぜるふぉーるって。そんなの知らないよ。エンゼルさま、教えてください。コイツら何言ってんすか。教えてください、おかしいよ、何でこんなことに」
ぶつぶつと「おかしいよ」と「何でこんなことに」を繰り返す火野神作の様子を見て、土御門が『審問』を開始しようとし、
「土御門元春、やめておけ。
その行動を西崎が遮った。西崎が火野神作を庇っている様に見えた土御門が怪訝な顔をして問いかける。
「どうしたニシやん。そいつに同情でもしちまったんですたい?」
「いや、先程も言ったが、こいつは
「二重人格者…ですか…?」
「ああ。こいつの外見が入れ替わっていないのはこいつの二つの人格がすり替わっていたからだ。こいつはただの
西崎のその言葉に魔術師達は絶句した。何故ならば、もし西崎の言う通りだと言うのであれば―――
「
苦々しく呟いた上条の言葉が、一同に残酷な現実を突きつけていた。
10
「それで、火野神作が犯人でないならば、一体誰が犯人なんです?」
最初に切り出したのは神裂火織だった。事件の容疑者候補が外れ、捜査が振り出しに戻ったことで最初の疑問を再び口に出した。
「そんなこと言われたって……」
「困っているようだな、上条。なら、そこの写真立てに入っている家族写真を見てみろ。
「写真って…」
取敢えず手詰まりとなった上条は、西崎に言われるまま、訳も分からず戸棚に立てかけてあった写真立ての写真を見る。そこに写っていたのは幼い上条とその両親の写った家族写真だ。上条は幼稚園の卒業と共に学園都市に移ったと聞いているので、おそらくこの写真はそれより前のものだろう。人々の入れ替わりは肉体だけでなく、その人物に関わる全てに及ぶらしく、写真の中の上条の母である上条詩菜はインデックスにすり替わっていた。そして上条の父である上条刀夜は―――
上条、刀夜、は…………
「
「
ガツンと頭を鈍器で殴られたような衝撃が上条を襲った。自分の父親が、世界中の人々を巻き込んだ大魔術を発動させた犯人?天使なんて存在を、上位の世界から叩き落した張本人?
思考の定まらない上条を置いて、ミーシャが言葉を発する。
「解答一、自己解答。標的を特定完了、残るは解の証明のみ」
瞬間、ミーシャは開いた窓から飛び出し、その場から走り去っていった。
「待ちなさい、ミーシャ=クロイツェフ!!標的とはどういう意味ですか!」
神裂が慌てて彼女を止めようとしたが、既に彼女の姿は見えなくなっていた。代わりに西崎が神裂の問いに答える。
「言葉通りの意味だろうさ。
殺害対象。ミーシャ=クロイツェフは自身の父親を殺害しようとしている…?ゾッとした考えが上条の頭の中を占める。そんな上条の様子を見て、土御門が冷静に告げる。
「戻れカミやん、ニシやん。ここは俺が調べておく。カミやんとニシやんとねーちんは刀夜さんの保護を」
「分かった。あぁそうだ、土御門元春。
「ニシやんにはお見通しですかにゃー。わかってますたい。あくまで
「さて。上条、神裂火織。急いで戻るぞ」
「言われなくてもそのつもりです」
「それは心強い」
11
上条達が海の家『わだつみ』に帰ってきた時には、辺りは夕暮れに包まれていた。上条が自身の父の身を案じて海の家に飛び込むと、扇風機を浴びながらアイスを舐め、テレビを見ていた美琴に遭遇した。美琴は特に焦ったりした様子もなく、平常な様子で上条に声を掛ける。
「あれー?おにーちゃん何処行ってたの?」
美琴の無事を確認した上条がほっと一息つく。もしかしたらミーシャが人質を取っているかもしれないという可能性も考えていたが、目の前の呑気な従妹の様子を見る限り、その心配は杞憂だったようだ。
気持ちを切り替えて、上条が美琴に刀夜の所在を聞く。
「父さんは、今何処にいる?」
「浜辺じゃないかな?みんな居なくなったおにーちゃんのこと散り散りになって捜しまわってたから。あ、因みに私は連絡係ね。それとおにーちゃん、後で皆に謝っておいた方がいいよ」
上条はその言葉に力強く頷いた。
上条が浜辺に向かおうと視線を移すと、隣の神裂が口を開いた。
「貴方はここで待っていて下さい。私は刀夜氏の身柄を確保してきます」
「お断りだ。これは俺が決着をつけなきゃいけない問題なんだ」
「……。分かりました。刀夜氏の確保は、貴方に一任します」
「言われなくても最初からそのつもりだ」
12
夕暮れに染まる砂浜、燃えるような色をした世界の中を、その男は歩いていた。顔には疲れが色濃くみられ、服は男の疲れを表す様に汗によってびっしょりとし、肌に吸い付く様な有様だ。今尚歩く男の足取りはノロノロとしたものであり、恐らく男が今までずっと動いていたことを証明するかの様に、砂浜には男のものと見られる靴の跡が大量に残っていた。
どう見ても何処にでも居る青年男性の姿である。魔術師―――それも世界級の大魔術を行使した人物にはとても思えなかった。
「……父さん」
上条が彼の後ろから声を掛ける。声に振り返った彼―――上条刀夜は、上条の顔を見ると、安堵したような、嬉しそうな、そんな優しい表情を浮かべる。
それは戦闘のプロでも凄腕の暗殺者でも何でもない、ただ迷子になった子を見つけた親の顔であった。
「当麻!!」
息子の名前を呼んだ刀夜は、それから少し時間を置いて、怒りの表情を浮かべた。
「今までどこに行っていたんだ!出かけるなら出かけると父さんたちに言わないか!母さんだってお前のこと心配してるんだぞ!大体お前は少し目を離すといつも怪我をして帰ってくるじゃないか。大丈夫か?どこか体を痛めたり気分が悪くなったりしていないか?」
最初こそ怒りの言葉を発する刀夜であったが、次第にその内容は上条を心配する親のものに変わっていく。それもその筈である。刀夜が上条を叱るのは、上条のことが嫌いだからでは無く、上条のことが心配でたまらなかったからなのだ。
上条刀夜という人間の本質は、何処まで行っても『お人好しの父親』なのである。決して『魔術』などという代物に手を染めたりはしないのだ。
出来ることなら上条は刀夜を尋問などしたくは無かった。記憶が無い上条にとって、刀夜と出会うのは今回の出来事が初めてだったが、それでも上条は彼の事を『自分の親』と思っている。ごく短い期間の付き合いではあったが、それだけは胸を張って言えることだった。しかし
「何で、だよ……」
せめて
「何でアンタが
目元が熱い。零れだしそうになる涙を止めようと、頬を引き締める。
「何を、言ってるんだ、当麻。それより―――」
「とぼけるんじゃねえ!どうして魔法使いの真似事なんてしたんだって言ってんだ!」
上条の吐き捨てるような怒号を聞いて、刀夜の表情が消えた。それは魔術師がするような冷淡な表情ではなく、家族にへそくりの見つかった親のような、そんな表情だった。
「答える前に、一つだけ聞かせてくれ。当麻、お前が何処に行っていたのかは問わない。けど、お前の体は大丈夫なのか?どこか痛んだりする所はないのか?」
刀夜の上条を心配する質問に、上条は呆気にとられながらも首を横に振る。
「そうか。それなら問題は無さそうだな」
安堵の息を漏らした刀夜が、上条を見据える。
「さて、何から話そうか……」
目の前に居る男の顔に表情が無いだけで、こうも違いがあるとは上条は思ってもいなかった。目の前で上条に語り掛けようとする刀夜の顔は、普段の彼の顔に比べて、幾らか老いたもののように感じられた。
「あんな方法で願いを叶えようとするのは…馬鹿のすることだとは、私自身も分かっていたのだがな」
やがて、刀夜はポツポツと語り始めた。
「なあ、当麻。お前は幼稚園を卒業すると直ぐに学園都市に送られてしまったから、憶えていないかもしれないが。お前がこちらに居た頃、お前が何と呼ばれていたか、憶えているかい?」
「……」
上条当麻は知っている。その話は、記憶を失う前の上条当麻が一度だけ自分に話したことがあると、西崎隆二が語ってくれた。
上条当麻は知っている。自身の父親が今から言わんとしていることの意味を、そこに至る経緯を。
上条当麻は知っている。自身の不幸によって招いた数々の出来事が、彼自身に与えたその忌み名を。
刀夜は、喉まで出かかった言葉を一度呑み込み、そして苦し気な顔をした後に何かを決心した顔になり、
「
刀夜は、口に出すのも苦しいといった顔で、今にもその言葉を言った自分自身を殴りたいという様な顔で、そう言った。
「当麻。確かにお前は生まれつき『不幸』な人間だった。だからそんな呼び方が定着してしまったんだろう。だけどね、当麻。その呼び方でお前を呼んだのは、何も子供に限った話では無かったんだ」
「大の大人までもが、その名でお前を呼んだんだ。そこに理由なんてない。お前は、ただ『不幸』だったからというだけで、そんな名前で呼ばれていたんだ」
刀夜の歪んでいた表情が、消えた。
「当麻がやって来ると周りまで『不幸』になる。そんな俗話一つで、子供達はお前に石を投げたし、大人もそれを止めるようなことはしなかった。むしろ傷を負ったお前を見て嘲笑ったよ、何でもっとひどい傷を負わせないのかとね」
「当麻が離れると周りの『不幸』もあっちに行く。そんな俗話一つで、子供達はお前を遠ざけ、大人までもがその話を信じた。憶えているかい、当麻?お前は昔、借金を抱えた男に『俺が借金を抱えたのはお前のせいだ!』といちゃもんをつけられて追いかけまわされた挙句に、包丁で刺されたことがある。お前の話を聞きつけたテレビ局の人間が、霊能番組とかこつけて、誰の許可も取らずにお前の顔をカメラに映して『恐怖!現代に存在した死神!』なんて言う番組をテレビで放送したことだってあるんだぞ」
刀夜の内なる怒りに呼応する様に、夕焼けはだんだん赤みを増していく。
「私が学園都市にお前を送ったのもそれが理由だ。やれ『幸運』だの『不幸』だのといった迷信を信じる連中が恐ろしくて堪らなかった。こんな場所にいてはお前はそう遠くない内に死んでしまう。そう思って、私は迷信の存在しない街、学園都市にお前を送った」
だが、と刀夜は言って、
「あの科学の最先端の街でさえ、お前は『不幸な人間』として扱われた。お前から届いた手紙を読むだけで分かったよ。まあ、親友も出来て、以前の様な陰湿な暴力も、直接的な暴力も、今では対応できる位には成長したみたいだったが……」
けど、と刀夜が続けて、
「私はそれでは満足できなかった。お前の『不幸』そのものを打ち消したかった。だが、科学の最先端の力であってもお前の『不幸』は消せないことが証明されてしまった。
―――例えば、この世界を二つに区切っている壁よりも。
「残された道は一つしかない。私はオカルトに身を染めることにした」
刀夜は、そこで言葉を断ち切った。
自分のことは話したという顔で、上条の顔色を窺う刀夜。そんな彼に、上条は―――
「……馬鹿野郎」
ポツリ、呟いた言葉が波の音に混じる。
「ばっか野郎が!!」
次いで放たれた言葉が刀夜の耳に届く。
「ああ、確かに俺は『不幸』だった。この夏休みだって、何回も傷を負ったさ。
刀夜が、驚いたように上条を見る。
「惨めったらしい『幸運』なんて押し付けんな!『不幸』だなんて見下してんじゃねえ!俺は今、世界で一番『幸せ』なんだ!!」
その上条の言葉を聞いて、刀夜は自身の心にあった氷の塊が徐々に溶けていくような感覚を味わった。今まで解決できなかった問題を、息子の方から解決なんてしなくていいと言われた父親の顔は、その時確かに笑っていた。
「何だ、お前」
まるで長年の友人をからかうような軽い口調で、刀夜は上条に語り掛ける。
「最初から、幸せだったのか、当麻」
パリン、という音と共に、氷が砕け、溶けて消えた。
13
「馬鹿だなぁ、私は。それじゃ全くの逆効果じゃないか。私はみすみす、自分の子供から幸せを奪おうとしていたのか」
肩の荷が下りたようなスッキリとした表情で刀夜が自嘲する。
「全く、私も馬鹿だ。あんな『おみやげ』を収集したところで何かが変わる筈もないって分かっていた筈なのに」
「え?お土産?」
「大体、お土産屋にある家内安全やら学業成就やらの民芸品を買いあさった程度で治る『不幸』なら、お前が誇る筈もない。もう出張先から変な土産を買って帰るのはやめにするよ」
「ちょ、ちょっと待て!!
「エンゼルフォール?何だそれは?学園都市の最先端科学商品か何かのことか?」
「ちょっと……、待て……。一応、念のために訊くが、父さん、今母さんって何処にいる?」
「何処?何処って、
上条がギョッとする。
先程の刀夜の言葉が正しいのであれば、上条刀夜は御使堕しを知らない。しかし、上条刀夜が御使堕しの『入れ替わり』の対象になっていないことは確かである。にも関わらず、上条刀夜は『入れ替わり』後の状態で人物を認識しているということになる。
(待て、何かが可笑しい!何か見落としがある筈だ!俺が気付いていない重大な見落としが―――!!)
思考する時間は無かった。
サクリ、という音が静かな砂浜に響いた。
上条が顔を上げる。そこにはミーシャ=クロイツェフが居た。
無言で刀夜の顔を見る彼女の凶行を止めようと上条が声を上げる。
「待ってくれ、ミーシャ。何か様子が可笑しい。確かに父さんは誰とも入れ替わってないけれど、他人の入れ替わりを認識出来てないんだ。どういう理屈かは知らないが、父さんはきっと
それ以上、上条は言葉を紡ぐことが出来なかった。
ぞわり、と。まるで場を支配するような重圧が彼に襲い掛かったからだ。錬金術師アウレオルス=イザードとも、学園都市第一位
彼女が腰から長物を取り出す。取り出されたのはL字の
ギョロリ、と。硬直して動けない彼らを、ミーシャはその無機質な両の眼球で捕捉する。彼女の眼からは感情など微塵も感じられない。今し方上条達を視界に捉えたのも、殺害対象を視認するというよりかは、対象を捕捉したといった感じであった。
そんな彼女の気に当てられ、動けない上条に神裂の怒鳴り声が何処からか聞こえてくる。
「そこから離れなさい、上条当麻!」
言葉の直後、風切り音と共に、見えない斬撃のようなものが上条とミーシャの間を走った。斬撃によって巻き上げられた砂が上条とミーシャの間に壁を作り、ミーシャの気を逸らす。砂の壁が無くなった頃には、上条とミーシャの間には神裂と土御門が割って入っていた。突然現れた二人に、上条が声を掛ける。
「おい、土御門。ミーシャは一体どうしちまったんだ」
上条の問いに、土御門は獰猛な笑みを浮かべながら答える。
「いやー、カミやん。考えてみれば可笑しかったんだぜい。どうせ他宗教の奴が名乗る名前なんざ偽名とは思っていたが、奴の名前が
「?」
土御門の言葉を理解できない上条に向かって、神裂がミーシャを睨みつけたまま土御門の説明を補足する。
「ミーシャというのはですね、ロシアでは
「偽名に態々男の名前を使ったって言う事か?何だってそんなことを……?」
「ロシア成教にも問い合わせてみたが、向こうに居たのは
サーシャ=クロイツェフと入れ替わった存在の正体を確信したように、土御門が上条に語り掛ける。
「いるんだよ、カミやん。男にも女にもなれる存在って奴が。性別も決まっておらず、常に中性として、両性として神話に描かれる存在が。ソイツらにとって名前ってのは自身が神に作られた存在理由そのものなんだ。他人と交換なんてする訳がない」
土御門の言葉に、上条はふと思い出す。『
瞬間、ミーシャの眼がカッと見開き、地を揺るがすような轟音が世界を震わせた。
夕焼けに染まった空が、一瞬にして星の散らばる夜空へと塗り替わった。
「ちょ、なんだよこれは!?」
「見てわかりませんか?
「ちょっと待て!魔術っていうのはここまでとんでもないことが出来るもんなのか!?」
「いえ、出来ませんよ。
神裂の言葉を聞いて、やはりと思った上条がミーシャを見る。サーシャ=クロイツェフの体を借りている誰かの正体に、上条もようやく検討が付いた。
「『
神裂の言葉に、天使は答えない。
だが確かに、上条はその時確信した。
あの天使は、今この瞬間『覚醒』したと。
14
『神の力』は何も告げない。ただ天使は、その手に握ったL字の
瞬間、頭上の月が一際強く輝き、その月を中心として、巨大な輪が地平線の彼方へと消えていく。少し遅れて光の輪の内側を、複雑な紋様を描くように光の筋が走り回る。
上条達の頭上には、一瞬にして巨大かつ複雑な魔法陣が展開されていた。魔法陣を見た神裂が焦りながら『神の力』に対して怒鳴り声を上げる。
「正気ですか、『神の力』!ただ一人を狙う為に世界を一掃する気ですか貴女は!!」
神裂の尋常でない程の焦りに、上条が思わず言葉を漏らす。
「おいおい、あの天使は一体何をしようってんだ……」
「あれは、かつて堕落した文明を丸ごと焼き尽くした火矢の豪雨です。あんなものが発動すれば、人類の歴史はそこで終わってしまいます!」
上条がギョッとして夜空の魔法陣を見上げる。そんな上条に神裂が冷や汗を流しながら声を掛ける。
「上条当麻、貴方は刀夜氏を連れて一刻も早くこの場から逃げてください。『
神裂は、状況についていけない上条を置いて告げる。
「これより行う戦は人のものとは違います。逃走時には、くれぐれも巻き込まれないよう」
神裂は、呆然とする上条に目を向けることもせず、
「あれほどの術式です。魔術が完全に発動するまでには、時間にしておよそ三〇分程の猶予があります。私はその間に『神の力』の足止めを行いますので、貴方は刀夜氏を連れて
上条は、神裂を手伝えない状況に対して歯を食いしばり、
「頼んだぜ、神裂!俺はお前を信用する!!」
上条が刀夜の腕を掴んで、引き摺る様に海の家へと向かっていく。その様子に、『神の力』の視線が上条達へと逸れる。そこへ神裂が割り込む様に滑り込む。
「貴方の相手は私です。人の話は最後まで聞きなさい」
神裂が腰の七天七刀に手を掛ける。その様子をどう思ったのか、『神の力』は、ノイズの混ざったような声で
「―――q愚劣rw」
直後、状況に劇的な変化が生じた。
『神の力』の背から、荒々しく削った水晶の様な翼が、剣山の様に飛び出した。『神の力』の背後の海水がうねりをあげながら飛び出し、天使の背へと集まっていった。背と海水が合わさり、巨大な水の翼へと変貌する。次いで『神の力』の頭上に浮かぶ一滴の水滴が、天使の輪となって彼女の頭の上に固定される。
「全く、とんだ役目を安請け合いしてしまったものです」
神裂は、僅かに重心を落とし、胸に抱いたその名を告げる。
「
15
最初に動いたのは『神の力』の方であった。天使はその背の水翼の一つを恐るべき速度でもって神裂に振り下ろす。実に七〇メートルにも及ぶその翼が振り下ろされる光景は、視界的にも威力的にも到底脅威の一言で済ませられる程度のものではない。
その水翼が、神裂火織の斬撃によって切断される。
動きを止める『神の力』に対して、神裂火織は何一つ言葉を発さない。
『神の力』が、今度は水翼を横一線に振るう。地上の全てを薙ぎ払う様なその一撃を、またしても神裂火織の斬撃が斬り捨てる。
天使の動きが止まる。目の前の相手の行動を観察する。
今度は水翼を神裂を挟み込むような形で交差させる。空気を裂きながら迫る二つの水翼は、しかし神裂火織の身を回す一撃によって消し飛んだ。
神裂火織が水翼を断ち切ったのは、偶然ではなく必然。天使もそう思考を修正する。
そも、ただの十字教徒であるのであれば、初撃で決着が着く筈なのだ。何故なら十字教徒にとって、
では何故彼女は天使に逆らうことが出来たのか?その答えは彼女の使用している術式にあった。
多角宗教融合型十字教術式・天草式十字凄教。複数の宗教術式を利用することで、単一の宗教術式の弱点を他の宗教術式でカバーする術式である。十字教の術式で天使に敵わないのであれば他の宗教術式でもって天使に対抗すればいい。事の真相は、詰まる所ただそれだけなのである。
「どうも貴方は、神裂火織という人間を過小評価していませんか?この程度の攻撃で私を沈められるとでも?」
返答は、水翼によって返された。
常人には認識できない僅かな時間の間に神裂に向かって振り下ろされた水翼を神裂が斬り捨てる。
水翼を斬り捨てた神裂の背後から叩きこまれようとした水翼を神裂が斬り捨てる。
真上から叩き潰す様に迫る水翼を神裂が斬り捨てる。
僅かな時間差で四方八方から囲むようにして迫る水翼を神裂が切り払う。
真上から一つの水翼を振り下ろし、時間差で左からの追撃、更に時間差で右からの追撃、止めに真正面からの突きが神裂に差し迫る。
ザン!と真上の水翼を神裂が斬り裂く。この調子なら余裕そうだと神裂が思った瞬間、バリン!という音を立てて、残る三つの翼がひとりでに砕け散り、細かいガラスの破片になった数万もの刃片が異なる方向から神裂に襲い掛かった。
「ぐうっ……!」
神裂の斬撃が刃片の数を削るが、削り切れなかった刃片は砂浜に凄まじい速度で衝突し、周囲の砂を勢いよく空へと打ち上げる。
刃片の対応に追われる神裂に、『神の力』がまたもその翼を振るう。
ゾッとした顔の神裂を置いて、八方に展開した水翼が分解され、幾万もの刃片が彼女に狙いを定める。
『神の力』は今度こそ彼女を排除しようとその刃片を彼女に向かって飛ばし―――
「
グバアッ!!と、夜空に突如開いた漆黒の穴が、全ての刃片を消し去った。
「
サクリと砂を踏む音が周囲に響く。異様なまでに静まった空気が、その足音を更に目立たせていた。
「む。いかんな、記憶が混線している。この体の性能を最大限まで発揮した状態に置換した影響か、体に引っ張られかけているな」
声の主は御伽噺に出てくる魔女の様な赤と黒の衣装を身に纏い、右手に『槍』を携えた眼帯の少女。神裂の認識によれば今の彼女は西崎隆二の筈だ。しかし、纏う雰囲気がいつもとは異なっている。
「pwiesxfds滅xkjlajep」
『神の力』が修復された翼を振るい、彼女に幾万という刃片を降らせる。
「その手は先程も見たぞ」
彼女が『槍』を横に振るうと、それに呼応するように空中に黒い空間が広がっていき、ソレが刃片を一つ残らず消滅させる。
「
神裂には彼女の携えている『槍』の詳細は情報が少なすぎて分からなかったが、それでもその『槍』が凄まじい魔術の代物であることは理解していた。
「『私』の全盛期の状態を引き出しているのだ。当然『
「なっ!?答えになっていません!!それに相手は『天使』ですよ!?まさか
「生憎私は十字教徒では無い。それに今の私に五〇%の制限などという制約も存在しない。であれば、あの程度どうとでもなる」
西崎(?)の言葉を聞いて、『神の力』が水翼を彼女目掛けて振り下ろす。半分は純粋に彼女を断ち切る為に振り下ろされ、半分は彼女を突き刺す為に刃片となって降り注ぐ。
「
動作は無かった。ただ一瞬で幾千幾万にも及ぶ爆発が巻き起こり、それらが『神の力』の翼を全て消滅させた。
「丁度いい。三〇分などと言う時間を待つまでも無い。今ここでお前を叩きのめして、後で悠々と
彼女が『槍』で地面を軽く小突くと、空を覆いつくしていた一掃術式が跡形もなく消えた。
「せめてもの情けだ、この夜空だけは引き裂かないでおこう。好きなだけお前の得意な状況でいさせてやる。その上で、お前の一切の攻撃を叩き潰し、お前の戦意をそぎ落とし、お前の自尊心をズタズタに引き裂いてやろう。おっと、天使に自尊心など存在しなかったか」
固まる『神の力』の前で西崎(?)が獰猛な笑みを浮かべる。
「我が名は『オティヌス』。北欧神話において『魔術の神』と『戦争の神』の役割を担う者だ。さあ天使、お前は神相手に何処まで抵抗できる?」
16
戦局は誰がどう見てもオティヌスに流れていた。天使の攻撃は全てオティヌスによって消滅させられ、距離を詰めるオティヌスに対して天使が逃げ回るといった構図が、かれこれ数分も続いた。
「成る程。人の器に収まっていながらよくぞここまで耐えた、とでも言うと思っていたのか。私がお前を滅しないのは、お前の存在を心配してではなく、お前が器に使っている人間をどう消滅させること無くこの遊戯を終わらせるかを考えていたからだ。そしてそれも今し方思いついた。お前の命運は既に尽きたという事だ」
『神の力』を追いかけるオティヌスが、空いた手を前に突き出す。
「問おう。
『神の力』の動きが一瞬止まる。その様子を見たオティヌスが口元の笑みを深める。
「
「既にお前の脳内のイメージを固定した。後はそれを
オティヌスの背から巨大な光の紋様が浮かび上がる。それが出現しただけで世界は軋み、悲鳴をあげる。
オティヌスの背後の紋様が軋みと共にその力を増していく。神裂も、その次元の違う光景に驚愕し、その場から動けないでいる。
「そら、どうした。防がねば死ぬぞ」
言葉と共に、『弩』から一〇の破壊が解き放たれた。
「ッ!!」
一撃目と二撃目は『神の力』の左右を、その水翼を消滅させる形で通り過ぎた。
三撃目は海から『神の力』に向かって力を供給している海水を消滅させた。
四撃目は真正面から、五撃目は左から、六撃目は右から『神の力』を包囲するように撃たれた。
堪らず空いていた上空へと飛翔する『神の力』。其処へ、七撃目が飛来した。
身を捻って七撃目を回避しようとする『神の力』だが、少し及ばずその一撃が体を掠った。
それだけで途轍もない力で殴られた様に吹き飛ばされ、『神の力』が砂浜に叩き落とされる。
その真横から、八撃目が次元を超えて打ち込まれる。
慌てて力を噴射し、上空へと飛び跳ねる様に逃げた『神の力』が、そこで空に上がった九撃目の存在を視認する。
そのまま上空から落ちてくると思われた九撃目は、そこで弾け、空を覆う程の無数の光に別れて『神の力』に襲い掛かる。
追撃する光の豪雨を何とか避け切った『神の力』が視線を正面へと戻す。
そして、一〇撃目の矢が『神の力』を貫いた。
「終わったな」
「終わったな、では無いですよ!なんでちゃっかり天使を滅ぼしちゃってるんですか!?」
『弩』によって貫かれたサーシャ=クロイツェフの肉体から『神の力』が剝れ、消えていく様子を見た神裂がオティヌスに問い詰める。
「別に滅ぼしたわけではない。単にサーシャ=クロイツェフの肉体から弾き出して、強制的に『上』に還しただけだ」
「それにしてもあれはやり過ぎでしょう!何ですか北欧神話の主神って!なんですかその
因みに、『弩』によって貫かれた筈のサーシャ=クロイツェフの肉体には傷一つついていなかった。
冗談では済まされない程度の魔術を行使したオティヌスに対する神裂のツッコミが冴え渡る。
「羨ましいだろう。あれを耐えたのは未だ『理解者』のみだからな」
「駄目ですね……。話の論点がズレてます……」
オティヌスの言っている『理解者』というのは上条当麻の事だろうと検討をつける神裂。
「ところで人間、お前と一緒に居た人間は何処に行ったのだ」
「土御門でしたら私が戦闘を始める前にここから消えていましたよ」
「そうか…。む、これは……あの人間め、幾ら儀式場を破壊するためとは言え、私の『理解者』に暴力を振るうとは余程死にたいと見える。『理解者』が私に頼み込めば、私がこの力で解決してやるというのに……」
オティヌスがブツブツと何かを呟きながら不穏な空気を纏い始めたのを見て神裂が彼女に質問する。
「あの、お取込み中のところすみませんが、先程から何をブツブツと呟いているのですか?」
「直に分かる。そら、今し方空に打ちあがった光線があるだろう。あれがもう直ぐ
海の家から立ち昇った光線が、とある方向へと飛んでいく。恐らく術を行使したのは土御門だろう。
「あの方角は、上条当麻の実家では?」
「そうだ。今回の事件……いや、この場合は事故か。今回の事故は上条刀夜のある願いから生じたものだ」
「願い?」
「願いだ。息子に幸せになって欲しい。親ならば誰しもが願って当然の、至って何処にでもある願い。だが、上条刀夜のそれは一般のそれとは次元が違う」
「
聞くところによれば、彼の右手は『運命の赤い糸』や『神様の祝福』と言ったものを打ち消すらしい。
「そう、右手によって生まれた時から『不幸』であった『理解者』に幸せになって欲しいというのは、中々に難しい願いだった」
「最初に彼は、『理解者』を学園都市へと送りこみ、そこで『不幸』の原因を見つけ、打ち消せるのではないかという希望を抱いた。だがそれは失敗した」
「科学では『理解者』を幸せに出来ないと悟った彼は、
「当然、当人には悪気などない。だが結果として、
確かに彼の実家には実に三〇〇〇を超える数のお土産やら民芸品やらオカルトグッズが配置されていた。しかし、彼の家自体が
「では、土御門は
「今お前は、土産が魔法陣を構築しているのだから、土産の位置をずらしでもすれば魔術の発動を阻止できるのではないかという疑問を抱いているが、それは悪手だ。あそこの魔法陣は
発動する魔術の一例を聞いた神裂が思わず背筋を凍らせる。国の一つ二つを意図も容易く消し去る様な魔術がゴロゴロと挙げられたからだ。
「因みに上条刀夜が
「流石は魔術の神を名乗っただけあって詳しいのですね。一つお聞きしますが、『オティヌス』という名、それは
『魔神』という言葉が魔術世界には存在する。魔物の神様という意味では無く、魔術を極めた結果神になった者という意味の言葉だ。インデックスの脳内にある一〇万三〇〇〇冊の魔導書を総動員してようやく互角という破格の力を持った、世界に勝る一個人、その存在の真偽を神裂が問う。
「そんなことは自分で考えろ、人間。そら、もう直ぐこの大魔術も解ける。お前は後始末に向かうと良い」
そんな神裂の問いは煙に巻かれた。まるでまだ語るべき時ではないとでも言うような態度で、目の前の神は神裂を促す。
「
「私は寝る。面倒事は好かんからな、後はお前達でやっておけ。欲をいえば『理解者』の膝枕で眠りたかったが、生憎そのような贅沢を味わう時間も無いようだ。おっと、そうだ。最後にお前に言っておくことがあった、人間」
「はい、何でしょうか?」
『ここで私が行ったことは、お前が行ったことに置き換えておけ』
オティヌスの言葉を受けた神裂は、少しの間呆然と砂浜に立ち尽くし、少しした後ハッとした表情になって海の家に向かっていった。
「記憶の置換は完了、か。これで俺も、心置きなく眠れると言うものだ」
グッと背伸びをし、久々に男の姿に戻った西崎隆二がのっそりとした足取りで海の家に歩を進める。
(今日は久々にくつろいで熟睡できそうだ)
18
いつもの病院で目を覚ました上条は、
土御門の能力は
土御門はそれ以外にも複数の爆弾を投下していった。実は自分はイギリス清教のスパイだけでなく学園都市のスパイでもあり、他にも色々な機関のスパイでもあるという、所謂多角スパイであること。
余りにも複数の爆弾を投下されボロボロになった上条は、その後海の家で屈辱的な扱いを受けたインデックスの噛みつきによって絶叫を上げることとなった。
19
土御門とインデックスの退室した上条の病室のドアが開かれ、そこから西崎隆二が入ってくる。
「災難だったな、上条。今そこでインデックスと金髪アロハ猫と出くわしたが、その様子では手痛い傷を負ったようだな」
「まぁインデックスに関しては俺も扱いが悪かったかなとは思ってるんだけどさ。土御門はあの性格何とかならないのか?今回みたいに衝撃の事実を後出しされるとこっちとしても身が持たないんだが」
「あれはそういう性格だ。まだ付き合いの短いお前では冷や冷やさせられるだろうが、暫くすれば慣れるさ」
「そういうもんかあ…?」
「そういうものだ」
疲れた様子の上条を見て、申し訳なさそうな顔で西崎が尋ねる。
「あー……。上条、お休みの所申し訳ないが、一ついいか?」
「何だよ、西崎?」
「もう八月も終わりそうで新学期が間近に迫っているわけだが、
ナツヤスミノ、カダイ……?
そう言えば、今年の夏休みは記憶を失ったこともあって西崎に勉強を教わりながらチマチマと進めていたのだが、思えばトラブルに次ぐトラブル、入院に次ぐ入院で余り時間を確保できていない様な……。
サーッと顔の青ざめた上条に向かって、西崎が残酷な真実を告げる。
「退院したら、
「不幸だーーーーーーーーー!!!」