捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
春眠暁を覚えず。
この時期のベッドの中は言うまでもなく気持ちよく、できればずっと出たくないなどと、心の底から思えてくる。もう今日は休みでいいような気がしてきた。てか、休みじゃね?休みだろ?休みだよな?
「……………………す。……………………さい」
すると、何やら聞き覚えのある声と不穏な気配がする。いや、それが何なのかはもう気づいている。だがこれは気のせいだろう。そうだ。そうに違いない。そうですよね?
しかし、現実はそう甘くはない。
そいつは急に動きだした。
「ああ、もう!おはようございます!朝ですよ~!彼女(偽)が起こしに来ましたよ~!」
「……お、お前、マジか……」
「マジです。さあ起きてください」
予想だにしない展開に一気に目が覚める。
……あれ?おかしいな。女子から朝起こしてもらうって、もっとドキドキワクワクするイベントだと思ってたんだが……。
とりあえずまだ鈍い思考回路を働かせ、体をむくりと起こしながら、疑問を口にする。
「……なんでいんの?」
「迎えに来たからですよ。家が近いので。たまには一緒に登校しないと不自然じゃないですか」
「……そ、そうか。てかなんで俺の部屋に……小町は……?」
「小町……あ、妹さんですね。あんな可愛い妹さんがいるなんてびっくりしましたよ。あんまり似てないですね」
「ほっとけ……あー、一応聞いておくが、家族には……」
「恋人って言っておきましたよ。」
「…………」
どうしてこの子は自分から外堀と内堀を埋めていっちゃうの?バカなの?お前、本当は俺の嫁になろうとしてんの?
俺は溜め息を吐き、また想像した以上に騒がしくなりそうな1日を迎える事になった。
*******
制服に着替えてリビングに行くと、珍しく母ちゃんがいた。
新聞から顔を上げると、こちらにやけに爽やかな笑みを向けてくる。
「おー、おはよう、八幡。梨子ちゃん、ありがとね」
「いえいえ。これぐらい……か、かか、彼女の役目ですから……」
「………」
おい。顔真っ赤にして明らかに無理してる感が出てるぞ。
しかし、母ちゃんも母ちゃんで初めての経験に浮き足だっているのか、気づく様子はない。
「やるわね。引っ越して早々こんな美人さんと付き合うなんて……」
「いや、まあ……」
ちなみに、慌てて肯定したのは桜内が物凄い視線を向けてきたからだ。
……おい。ガチで外堀内堀埋まって、開門してる状態じゃねえか?
そんなこちらの心配など何処吹く風で、桜内は母ちゃんと楽しげに話している。おい、少しは気にしろ。色々と。
だが、その横顔は……その横顔だけは、深窓の令嬢と形容できるくらい上品で、少し……綺麗だった。
*******
家を出て、少し先を歩く桜内に、俺はもう一度疑問をぶつけた。
「それで……今日は朝からどうしたんだよ」
「さっき言いましたよ?とりあえず一緒に通学しようって」
「……本当は?」
「本当ですよ。私を何だと思ってるんですか?」
「お前は俺が出会った人間の中でもトップクラスで頭がおかしいとはっきり言ってやりたいが、まあ朝から無駄にカロリー消費したくないから黙っておこう」
……いや、なんでも。
「セリフとモノローグが逆になってますよ!頭がおかしいとはなんですか!」
「むしろ、これまでの言動からすれば妥当な判断だと思うが…」
「そんな事言うならこれあげませんよ」
こちらを振り向いた桜内はランチバックを俺の目の前でぷらぷらさせた。
「……何だ、これ」
「見ての通り、お弁当です。あ、べ、別にそんなんじゃないですからね!一人分も二人分も一緒というか……ほら、一応恋人同士のフリをしてるから、こういう事もしないとばれるかもしれないですし?と、とにかく勘違いしないでくださいよね!」
「…………」
今さらそんなテンプレみたいなツンデレされても……それに……
「…………」
「どうしたんですか?」
「いや、お前……料理とかできたのか?」
「はぁ!?で、できますよ、料理くらい!バカにしないでください!ハンバーグとかも朝から作ったんですから!」
「わ、悪い……なんかそういうイメージなかったからな。てっきりスーパーで買ったやつをそのまま移してそうな……」
「ふんっ、あまりの美味しさに震えるといいですよ」
「……ありがとな。まあ、その……購買行く手間がなくなって助かる」
「どういたしまして……ていうか急に素直にならないでくださいよ。なんか恥ずかしいじゃないですか」
「いや、まあ、その、あれだ……やってもらった事に対してはきっちり礼を言うのがポリシーなんでな。この借りは後で返す」
「じゃあ、遊園地行きたいです」
「っ!」
いきなりな提案に咳き込みそうになった。こいつは本当に……
「いや、なんでそんなガチのカップルみたいな提案するんですかね……」
「いや、私もパンさん好きなんですよ」
知らねえよ。
「ていうかそこ千葉だろ。さすがに二人分の交通費は出せねえよ。却下だ、却下」
「そうですね……確かにそれは申し訳ないですし……あっ、それじゃあちょっと付き合って欲しい事があるんですけど……スクールアイドル関連で」
「……えぇぇ……」
「な、なんでそんな嫌そうなんですか?」
「そりゃあ、まあ……いや、毒を食らわば皿までとか言うし……」
「誰が毒ですか」
こうして休日と引き換えに昼飯を確保した。おい、等価交換の原則はどうした。
ちなみに、彼女の手作り弁当は意外なくらい美味かった。
「うわ、ヒキタニくんの弁当シャレオツじゃね?もしかして、この前の彼女さんの手作り!?」
「……違ぇよ」
いらぬ誤解がさらに広がったが……。
*******
日曜日。スクールアイドルの練習に付き合う羽目になり、一話の冒頭シーンに戻るわけだが……あの時は驚かせて悪かったな。いや俺は悪くないけど。
桜内から呼ばれた俺は彼女の部屋で、その様子を見守っているのだが……
「ほら、何か行ってくださいよ。」
「いや、なんか無理してる感があってな……」
「無理してる感……あっ、じゃあ語尾に『リコ♪』ってつけるのはどうですか?可愛いと思うんですけど」
「可愛いとイタイの境目を見事についてるな……」
「イ、イタイ!?失礼ですね!これでもYouTubeで研究したんですよ!」
「……別にわざわざキャラつくらんでも、普通でいいだろ。母ちゃんもお前の事美人って言ってたし」
「ふぁっ!?」
桜内が急に奇声を発し、顔を赤くした。
「い、い、今、美人って……え?その、本気で惚れられたとか?やだ、困る……でも……いや、やっぱり……」
「…………」
おーい。母ちゃんが言ってたんだよ、母ちゃんが。
彼女が正常な状態に戻るのには30分ほどの時間を要した。