捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
「……スクールアイドルを始めた?」
「はい。実は昨日から……」
「そっか。まあ頑張れ」
「反応薄っ!もうちょっと何かないんですかっ!?」
「いや、別に……」
いきなりの発表で驚きはあるが、まあ彼氏役に付き合わされる時間が減るのはいいことだ。
ちなみに、今も普通にカップルのように並んで歩いている。いや、これだけでカップルというにはアレかもしれないが、桜内的には充分すぎるらしい。その慎ましさをもっと別のところで生かせんのか。マジで。
「だから、しばらくは一緒にいられる時間が減るので……ごめんなさい」
「ああ、わかった……おい、ちょっと待て。俺は偽恋人の役をやってるだけなんだが。いつの間にお前の事が好きみたいな話になってんの?」
「……たしかに」
すげえな、すっかり忘れてたというのか。爆発しねえかな。
「まあ、とにかく……スクールアイドル活動は思う存分やってくれ。それで……」
「その忙しさを理由に、さりげなく別れようとしていませんか?」
「……え?ダメなの?」
むしろ、たったひとつの冴えたやり方だと思うんだが……。
桜内に疑問を込めた視線を向けると、彼女は気まずそうに目を逸らした。おい、まさか……
「まあ……ほら、色々とあるじゃないですか、色々と……」
「おい。その色々との内容を今すぐに話せ」
「……あっそうだ!そろそろゴールデンウィークなので、紅葉狩りに行きませんか?」
「気がはえぇよ。咲いてはいるけど散ってねえよ」
「あはは……」
やがて桜内は、ものすごく言いづらそうにもじもじながら、ゆっくりと口を開いた。
「あの、ですね……お母さんから、『比企谷君は今年3年生でしょ?卒業したらどうするの?』って聞いてきたから、ずっと一緒に決まってるじゃないとか」
「お前、俺の事本気で好きになったの?」
「ち、違いますよ!ただ、すぐ別れて、ふられたみたいに思われるのもアレなんで……」
「…………」
誰か、(頭が)冴えないヒロインの育て方を教えてくれ。いや、マジで。
*******
その日の夜、勉強の休憩に寝転がって、ぼんやりしていると、彼女の顔が思い浮かんだ。
まあ、実際のところは高海達に同人誌を見られたあの場はしのいだわけだし、明日にでも性格の不一致を理由に別れたとかいえば、それで済む話なのだ。
ただ、不思議なことに、そこまでして辞退しようとは思わなかった。
これはアレだな……ア○ア様から迷惑かけられるカ○マの心境かもしれないな。そうに違いない。
考えていると、いつの間にか眠りに誘われていた。
*******
学校帰り、駅前の本屋に立ち寄ろうと自転車を漕いでいると、見覚えのある女子達がビラ配りをしていた。
「ライブやりまーすっ!」
「よろしくお願いしまーす!」
すると、高海がこちらに気づいて、とてとてと駆け寄ってきた。
「あっ、比企谷さんだ!」
「……お、おう」
だから、大声で呼ぶなっての。周りの視線がこっちに集まっちゃうだろうが、恥ずかしい。
「ほら梨子ちゃん!比企谷さん、来たよー!」
またもや大声で呼ぶのを聞きながら、桜内の方に目をやると、そこには目を背けたくなるような光景があった。
「ライブやります。観に来てね」
桜内が、ポスターの女の子に向かってビラを差し出している。練習と思いたいが、こいつの場合はガチでやってるんじゃないかという不安もある。
「「…………」」
俺と高海は溜め息を吐き、黙ってかぶりを振った。
*******
「まったくもう……常識で考えてくださいよ。ポスター相手に話しかけるわけないじゃないですか」
よかった。どうやらただの練習だったらしい。しかし、こいつの場合、それを疑われるという現状をどうにかしたほうがいいと思うんだが……もし、タイトルが独立していたら『捻くれた少年と気が触れた少女』か『捻くれた少年と頭のおかしな少女』だと前も言っただろうが。
「まあまあ、梨子ちゃん。それより比企谷さんに渡さなくちゃ、でしょ?」
「……そうね」
高海の言葉に頷いた桜内は、ビラを一枚こちらに渡してきた。
「べ、別に、あなたのためにライブをやるわけじゃないんですからね!」
「…………」
こいつは何故、こんなテンプレツンデレでドヤ顔をしているのだろうか。ほら、高海も「ちょっと何言ってるのかわからない」って顔してるだろうが。
だが、少し……ほんの少し、どんなステージになるのか気になりながら、俺は彼女から、可愛いイラストが描かれたビラを受け取った。
*******
その日の夜。
「……はい」
「あ、もしもし……さ、桜内です」
「……そっか。じゃあな」
「ちょっ、な、何で切るんですか!待ってください!」
「……ええぇ。もう夜なんだけど、眠いんだけど……」
「今回は本当にいい用事なんですよ」
「そもそも悪い用事を持ってこられるのが問題なんだが……」
「うっ……ま、まあ、それはそれとして!聞いて欲しいことがあるんですよ!」
「すいません。深夜のテンションでマジ告白とかありえないし、今そういう気分じゃないので出直してきてください。ごめんなさい……」
「いや、なんで私ふられてるんですか。それより、その……私、できちゃったんです」
「…………は?」
今、こいつ、何て言った?
彼女はいつもより明るめに話を進めた。
「いや~、難産でした!」
「はっ?早くね?もう?」
「そうですか?もう一年近く作ってましたから、だいぶ時間かかってますけど」
「えっ、そんなに?いや、ぱっと見わからなかったけど……」
「何言ってるんですか、この前聴いたくせに。それより、この子の名付け親になってくれませんか?」
「いやいや、名付けないから。てかそれ俺のせいにされても困るから。さすがにそこまでは……」
「えーっ、曲の名前を決めるくらい、いいじゃないですかー!」
「…………曲?」
「はい。ようやく完成した私の曲ですよ。今度聴きにきてくださいね」
「……じゃあ、もう寝るわ」
「えっ?どうしたんですか、いきなり?ちょっ……!?」
とりあえず、こいつの相手は電話でもかなり疲れることがわかった。