捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
まさかの雨。
ライブ当日でというのに……実はあいつ、雨女なのか?
ライブ会場となる体育館へと歩きながら、晴れる気配のない曇り空を見つめていると、俺は一つの事実に気づいた。
……そういや、さっきから人見ねえな。
イベントの告知はしてあるし、少しぐらい体育館を目指して歩く人を見かけてもいいと思うのだが……。
自分の事でもないのに、何故か不安が胸をよぎるが、ここで俺が考えても仕方ないので、とりあえず会場に向かう事にした。
まあ、会場に行けば、先に家を出た小町もいるしな。
*******
体育館の扉を開くと、10人いるかいないかくらいの女子が全員こちらを向いた。うわあ……女子に告白した翌日の教室思い出すからやめてね。
すると、その中に混じっていた我が妹が、とてとてとこちらへ駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、意外とはやかったね!」
「ああ……てか、まだこんぐらいしか来てないのか?もうちょっとで開演だろ?」
「んー……あはは」
小町が笑いで誤魔化すあたり、どうやら観客がこれ以上増える可能性は低いようだ。
……まあ仕方ないのかもしれない。
考えてみれば、まだ始めたばかりで、どれほどのパフォーマンスができるのかもわからないスクールアイドルをわざわざ休日に観に来る奴は、家族や友達、クラスメートならいざ知らず、それ以外には中々いないだろう。
でも何故だろうか。
関係ないはずなのに、心の片隅で悔しいと思っている自分がいる。
曲作りに励んでいるあいつを見たからだろうか。
やがて、ゆっくりと幕が上がり始めた。
ステージにいる彼女達の姿が見えると、その衣装のせいか、なんだか本当のアイドルに思えて、つい視線が吸い寄せられてしまう。
彼女達はガラガラの館内を見渡し、ほんの数秒気落ちしたように見えたが、すぐに顔つきが変わり、これから何か始まる空気に変わる。
すると、桜内としっかり目が合ってしまった。
もちろん声をかけたりなどしないし、手を振ったりもしないが、それでもしばらく視線を逸らせなかった。
彼女はゆっくり頷いたが、その時微かに笑顔を見せた気がした。ピアノの演奏会でステージに立ち慣れているから、少しは余裕があるのかもしれない。
3人がそれぞれ配置につくと、イントロが流れ出した。
穏やかな旋律に、今度は弾けるような楽器の音が重なり、自然と体がリズムを取ってしまう。
そして、さらに彼女達の声が加わる。
「わあ……」
小町も三人に見とれていた。
ステージから感じる熱にあてられているようだ。
だが、そこで突如異変が起こる。
なんと突然館内の照明が落ち、ピタリと音楽が止まった。
それが演出でないことは明らかだった。
「……小町、大丈夫か?」
「うん、こっちは大丈夫だけど……」
その言葉だけで、小町の視線がステージに固定されたままなのがわかった。
暗闇の中、徐々に目が慣れていくと、戸惑っている3人の姿が確認できた。
……まずいな。
会場の温度が徐々に冷えていくのがわかる。
そんな中でも、メンバーはアカペラで歌おうとしていた。
「……桜内」
「お兄ちゃん?」
自然と足が前に進んでいく。何ができるわけじゃなくても。
ただ、彼女達のライブをどんな形であれ、最後まで見届けたかった。
そこで、背後からガラッと扉が開く音がした。
さらに、車のライトが館内を煌々と照らした。
「バカ千歌ー!!あんた時間間違えたでしょー!?」
どうやら高海の姉のようだ。
そして、それが合図になったかのように、館内に人が押し寄せてきた。え、何?皆一緒に来たの?仲良しなの?
急に人で満たされていき、すぐに満杯になった館内を見回してから、再び桜内に目を向けると、彼女は力強く頷いた。
そして、音楽が会場内を盛り上げるように甦った。
今度こそラストまでやりきった彼女達は深々と頭を下げた。
「「「ありがとうございました!!」」」
こうしてAqoursの初ステージは、慌ただしくも温かいものになった。
ステージ上の桜内は初めて見る表情で、俺はしばらくその姿から目を離すことができなかった。
*******
何故か俺はライブ後の片付けを手伝うことになり、終わってからは桜内と並んで帰路に就いていた。
いつの間にか雨は止んでいて、曇り空はだいぶ明るくなっていた。
「はぁ……滅茶苦茶緊張しました……」
「そっか。まあ、お疲れ……てか、なんで俺達当たり前のように一緒に帰ってんの?」
「え?そりゃあ……恋人同士(偽)だからですよ。いえ、ニセコイ中とか言ったほうがオシャレですかね?」
「やめい。なんか一々聞いたのがアホらしくなってきた……とりあえず、最後までライブできてよかったな」
「ふふっ、本当に。まさか今日に限ってあんなに天気が悪くなるなんて。もしかして雨男だったりします?」
「いや、それはこっちの台詞なんだが……イベントの主役はそっちなんだから、雨の原因もそっちだろ。あと幸薄そうだし」
「はあ!?何言ってるんです!曇り空みたいにどんよりした目してるクセに!そっちのほうが幸薄そうですけど!」
「ぐっ……それはまあ否定しないが……」
「あ、そうだ!それより……」
彼女は何かを思い出したかのようなに、突然俺の前に立った。
そして、さっきステージで見せたのアイドルとしての笑みを向けてきた。
「観に来てくれてありがとうございました。もしよかったら……また来てくださいね」
「……まあ、暇なら」
先程の雨を忘れるくらいに賑やかな帰り道。
やがて雲の合間から、光が射してきた。
「あの……今の私、めっちゃアイドルっぽくなかったですか?すごい可憐な笑顔してましたよね。写真に撮っておけばよかったくらいの笑顔ですよね」
「自分から色々台無しにしてるけどな」