捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
「それで……どこに行くんだ?なるべく近場で……」
「こっちです」
「っ!」
いきなり手を握られた。
現状を正しく認識する為、もう一度確認する。
いきなり手を握られた。
「……お、おい」
「えっ?どうしたんですか?」
「いや、手……」
「手?デートなんだから手ぐらい握りますよ」
当たり前のように言う桜内。
……ああ、そういやこいつ作曲の為に四月の海に飛び込むような奴だった。
ひんやりして柔らかな手の感触に、どうも落ち着かない感じでいると、彼女は何故か得意気な顔を見せた。
「ふっ、この程度で顔を真っ赤にして涙を流して感動するなんて、まだまだですね」
「いや、そんな顔真っ赤じゃないし、そもそも涙なんて一粒も流してないからね。嘘つくのやめようね」
色んな人が誤解するだろうが、まったく。油断も隙もありゃしない。
だが、このアホなやりとりのおかげで、緊張が少しやわらいだのも事実だった。
*******
それからバスに乗り込み、沼津へ向かうのだが……。
「……あの、バスの中で手を繋ぐ必要ありますかね……」
「しっ、静かに。今集中してますから」
バスの中でも握られたままの手を近くに座った主婦二人組がチラ見している。
さらに「あらまあ」「最近引っ越してきた家の子達よね。若いっていいわぁ」とか会話が聞こえてくる。つらい。
だが、海を見つめる桜内の瞳は真剣そのものだった。
おそらく今もこの風景からインスピレーションを……
「あ、同人誌をテーブルに置いたままだったわ」
「…………」
おい。
*******
それから、バスの心地よい揺れ具合にうとうとしかけたところで目的地に到着。その場所とは……
「商店街か……」
「ここなら色んなものが見れますからね」
「…………」
そうなると色んな人から見られることになるんですが。いや、今さらなのはわかってるんだけどね。
もし、これが外堀を埋めて俺を落とす作戦なら、まあまあ上手くいっているだろう。まあ、間違いなくそういうんじゃないだろうが。
「じゃあまずは喫茶店に行きましょうか。付き合ってくれたお礼に私が出しますよ」
「……いや、大丈夫だ」
「何でそんな警戒した顔してるんですか?」
「後で何を頼まれるかわからんからな」
「お礼って言ってるじゃないですか。私がそんな酷い悪女に見えますか?」
「……見えない」
本当は見えると言ってやりたかったが、「クソだらあ」とか言いそうな目を見せたので、すぐに入れ替えた。こいつ実はヤンキーなんじゃね?
*******
喫茶店に入ると、店内はぽつぽつ客がいて、曲名のわからないジャズが少し大きく聞こえた。
注文した物を受け取り、窓側の小さなテーブル席に向 かい合って座ると、何だか気持ちが落ち着く。
桜内の方はパンケーキも一緒に注文していた。
上に乗っかったバターがとろけるのを見ていると、何か注文しておけばよかったかと後悔する。
彼女はそれをフォークとナイフで丁寧に切り……
「はい、あ~ん」
「はっ!?」
いきなりこちらに向けてきた。やたら得意気な顔で。
「ご褒美ですよ、ご褒美。美少女からこんなことしてもらえるなんて滅多にないですよ。この前みたいに恥ずかしがらなくてもいいですよ」
「いや、恥ずかしがってないから。ほんとにいいから。てか何?これも作曲に必要なこと?」
「……そうかも」
何だよ、その小悪魔みたいなの。心臓に悪いからやめてくれませんかね……。
「あ、梨子ちゃんと比企谷さん!」
「用事ってデートだったんだ?」
「っ!」
今度は聞き覚えのある声。おい、前も似たようなのなかったか?
おそるおそる顔を向けると、なんとそこには高海と渡辺がいた。
ちなみに、桜内はまるでそんな姿勢のマネキンかのように固まっていた。