捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
「へえ、こんなとこに楽器屋が……」
「ええ、ちょっと付き合ってください」
店内に足を踏み入れると、BGMの穏やかな旋律が心地良い。
楽器店に来たのは、昔ギターを買った時以来だろうか。
久々すぎて、初めて来た時のような新鮮さに浸っていると、奥から若い女性店員さんがやってきた。
「あ、いらっしゃい」
「こんにちは……え?梨子ちゃん、もしかして彼氏?」
「違いまっ……あはは、そうなんですよ~」
「…………」
おい、デート中とかいう設定はどうした。楽器屋で浮かれてすっかり忘れてただろ。いや、そのまま忘れてくれても構わないんだが。
すると、桜内はいきなり腕を組んできた。
「っ!?」
「わ、私達ラブラブで~」
だからいちいちオーバーなんだよ。自分から墓穴掘りやがって。真性のMなんですかね……あとさっきから当たってるんだが……。
「あらあら、見せつけてくれちゃって。今日は彼氏とどんな用事かしら?」
「あはは、五線譜を買いに来たんですけど、彼氏がどうしてもって言うから~」
「へえ、じゃあついでに一曲聴かせてくれない?」
「もちろんです」
桜内はゆっくりと椅子に座ると、慣れた手つきでピアノを弾き始めた。
店内を優しい旋律が包み込み、他の楽器を見ていた客の視線も自然と桜内に集まる。
俺もその旋律を頭の中で追っていた。
タイトルは知らないが、どこかで聴いたことのある曲だが、彼女の手によって、これまで聴いたものとは違った響きで耳に届けられる。
やがて音楽が鳴り止むと、数秒の静寂の後、ぱらぱらと控えめな拍手が聞こえてきた。
桜内は頬を赤らめながら、ぺこりと頭を下げ、こちらに駆け寄ってくる。
「な、なんか恥ずかしい……」
「いや、すごかった。お前ずっとピアノ弾いてりゃいいのにな……」
「あはは、それほどでも……あれ、今さらっとディスられませんでした?」
「つーか、五線譜買いに来たんじゃないのか?」
「誤魔化してる気が……まあいいか、買ってきます」
……セーフ。
いや、まあ……ピアノ弾いてる時は、本当にすごいと思ってるんだが。
それを本人に言うと、変なテンションになり、ウザそうなので言わないけど。
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「ふぅ……たまに設定を忘れそうになっちゃうのがこわいですね」
「え?お前、俺の事本当に好きになったの?」
「はぁ!!?そんなわけないじゃないですか!」
「お、おう……」
めっちゃ否定されたが、今のは俺が悪かった。自重しよう。
すると、桜内がいきなり距離を詰め、耳元で囁いた。
「本当はそっちが好きになってるんじゃないですか?」
「いや、それはない」
「ちょっ、そこは照れるとこじゃないんですか!?」