捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編   作:ローリング・ビートル

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l Really Like You #3

 彼女は風にきらびやかな金髪を靡かせ、にっこりと微笑んだ。

 その姿を見て、柄にもなく、素直に綺麗だという感想が浮かんでくる。そのぐらい綺麗だった。

 この場面を切り取って絵にしたら、きっと素敵なものになると思えるくらいに。

 

「…………」

「フフッ、そんなに見つめられると恥ずかしいデス」

「っ!わ、悪い……!」

 

 クスクスと笑われ、慌てて目を逸らす。い、いかん……つい見とれてしまっていた。

 偶然も運命も宿命も信じないと決めているのだが、それでも見とれてしまうくらいに……いや、もう考えるのは止めておいたほうがいい。

 

「顔、すごく赤いよ?……アナタ、見かけによらずなかなかシャイデスね~」

「ああ、そりゃどうも……」

 

 何がどうもだよ、と自分に心の中で突っ込みを入れながら、再び小原に視線を戻す。

 すると、彼女はこちらに距離を詰めてきた。しかも面白そうな顔で。さっきの仕返しとでも言いたそうに。

 

「な、何か?」

 

 ふわりと漂う甘い香りに、胸がまた高鳴っていく。その華やかな香りは、この町の穏やかな景色とやけに合っていた。

 そして、しばらく俺を覗き込むように見て、そっと離れた。

 何のつもりかと目を見ると、彼女は納得したように一人頷いた。

 

「……優しい目」

「は?」

 

 信じられない一言に自然に反応してしまう。な、何だよ一体……初めて言われた気がするんだが。気のせい、か?

 しかし、彼女のこちらを見つめる瞳が、嘘じゃないと告げている気がした。

 そんな中、やがて厚みのある唇が動き、ぽそりと言葉を紡いだ。

 

「また逢いましょう……なんてね♪フフッ、チャオ♪」

 

 小原は悪戯っぽい笑みを残し、颯爽と歩き去った。

 

「…………」

 

 俺は何だかここが現実じゃないみたいな……上手く言葉では言い表せないくらいの不思議な気持ちで、金髪を揺らして歩く彼女の後ろ姿を見送った。

 

 *******

 

「お兄ちゃん」

「…………」

「お兄ちゃーん」

「…………」

「お兄ちゃんってばっ!」

「…………」

「お兄ちゃ~ん……」

「……おう、どした?」

「いや、聞こえてるなら返事してよ。目だけじゃなくて、とうとう耳まで腐ったのかと思うじゃん」

「小町ちゃん、発言が乱暴よ」

「どしたの?帰ってからずっとおかしいけど。あっ、いつもおかしいけど、今日はいつもと違って!」

「おい」

 

 最後の絶対にいらねえだろ。俺はちょっと残念なだけで、別におかしくはない。まあ……多分?一応?

 とはいえ、可愛い妹が心配(?)するくらいぼーっとしてたとは……まあ、あれだ。あんな鮮やかな金髪と淡い金色の瞳を見たせいだろう。初めてだったし。うっかり二人乗りしちゃったし。きっと一晩寝ればこの感覚はなくなるはずだ。

 ……それに、どうせもう会うことはないだろうし。

 

 *******

 

 翌朝。

 

「チャオ♪」

「…………」

 

 どうしてさっそく再会しちゃうの?えっ、何?これ運命なの?うっかり信じちゃいそうだからやめてくんない?

 そう。俺は小町に頼まれたおつかいの途中で彼女と再会してしまった。

 長い金髪を風に優しく靡かせながら、彼女はこちらに笑顔を向け、まるで友達のような距離感で話しかけてきた。

 

「フフッ、昨日はサンキュー♪またお願いネ」

「いや、それは遠慮しとく」

「え~!?じゃあ、今度は私が前に乗るよ~!」

「それはそれで怖いんだよ……てか小原は……」

「マリーだよぉ!呼び方忘れたの?」

「…………」

 

 そもそもその呼び方一回も使ってないんだけど……てかやばい。完全に相手のペースに呑まれてる。ていうかまた近いんですけど!さっき鼻にちょっと吐息がかかったぞ。その辺の女子相手でもやばいのに、なんか通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃になってる感じが……!

 いや、落ち着け。ボッチとして鍛えられたメンタルを信じろ……なんてしょうもないことを考えながら、首筋に手を当て、彼女に応じた。

 

「……それで、小原はどうかしたのか」

「……これは中々手強いデスね~。まあ、今はそれで構いまセン」

「そっか、じゃあな」

「ストップ」

 

 クールに立ち去ろうとすると、がしっと肩に手を置かれた。いや、これもう捕まれてますね。

 しかし、ここで道草をくってる場合ではない。ディアマイシスターが帰りを待っているのだ。

 

「いや、俺今からおつかいがあるんだけど……」

「そっか。なら仕方ありまセン」

 

 意外なくらいあっさり引き下がったので、少しポカンとしてしまった。

 ……まあいい。とりあえず行くとするか。

 すると、小原は俺の隣に並んだ。

 

「じゃあ、私もついていきマース!」

「…………は?」

 

 彼女の意外すぎる提案に、またもや俺は目を見開いてしまった。

 

 *******

 

 結局、内浦の町を二人でのんびり歩いている。朝の風はまだ少し肌寒さを感じた。

 だが今はどうでもよかった。

 

「それで……何か用なのか」

「フッフッフ、出会いは大切にしなくちゃね♪」

「…………」

 

 だから勘違いしちゃうだろうが。まあ、表情からして恋愛的な意味がないのはわかるけど……。

 程よい距離を意識しながら歩いてみても、何だか気分が落ち着かないが、彼女は全然お構い無しだった。 

 

「あと、この前のお礼♪」

「……あれは別に。行き先が同じだっただけだ」

 

 すると、彼女はいきなり俺の前に回り込み、昨日のように顔を覗き込んできた。

 

「じ~っ……」

「……いや、な、何だよ」

 

 ATフィールドをあっさり破られ、至近距離で見つめられていると、ただただ緊張しかない。てか、これもうフラグ立ってるじゃん、とかなるから、勘弁して欲しいんだが……。

 

「ふむふむ、ナルホド。これがジャパニーズツンデレデスネ」

「…………」

 

 何だよ、ジャパニーズツンデレって……。

 てかツンデレじゃねえし。小町曰く捻デレなんだよ。

 

「それより、いいのか?そっちは用事とかあったんじゃ……」

「私?ないよ。ただ久しぶりだからあちこち歩いてるだけ」

「……久しぶり?」

「そう。実は内浦に住むのは2年ぶりなのデェス!」

 

 小原は俺の前で両腕を広げ、高らかに告げた。

 MAXハイテンションについていけねぇ……。

 まあ、乗る必要もないので黙って歩くと、肩をとんとんとつつかれた。

 

「ねぇ、ハチマン」

「っ!」

 

 いきなりファーストネーム呼びかよ……まあ、別にいいけど。

 彼女は何度も頷いてから、再びやわらかい笑みを浮かべた。

 

「私、ここで始めたいことがあるの。よかったらアナタも見届けてみない?」

 

 その笑顔が胸の奥の方を叩いた気がしたが、それには気づかないふりをしておいた。

 そして、彼女の澄んだ瞳にも、海の向こうからやってきた春の風にも、これから何かが始まるという漠然とした確信がそこにはあった。

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