捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
彼女は風にきらびやかな金髪を靡かせ、にっこりと微笑んだ。
その姿を見て、柄にもなく、素直に綺麗だという感想が浮かんでくる。そのぐらい綺麗だった。
この場面を切り取って絵にしたら、きっと素敵なものになると思えるくらいに。
「…………」
「フフッ、そんなに見つめられると恥ずかしいデス」
「っ!わ、悪い……!」
クスクスと笑われ、慌てて目を逸らす。い、いかん……つい見とれてしまっていた。
偶然も運命も宿命も信じないと決めているのだが、それでも見とれてしまうくらいに……いや、もう考えるのは止めておいたほうがいい。
「顔、すごく赤いよ?……アナタ、見かけによらずなかなかシャイデスね~」
「ああ、そりゃどうも……」
何がどうもだよ、と自分に心の中で突っ込みを入れながら、再び小原に視線を戻す。
すると、彼女はこちらに距離を詰めてきた。しかも面白そうな顔で。さっきの仕返しとでも言いたそうに。
「な、何か?」
ふわりと漂う甘い香りに、胸がまた高鳴っていく。その華やかな香りは、この町の穏やかな景色とやけに合っていた。
そして、しばらく俺を覗き込むように見て、そっと離れた。
何のつもりかと目を見ると、彼女は納得したように一人頷いた。
「……優しい目」
「は?」
信じられない一言に自然に反応してしまう。な、何だよ一体……初めて言われた気がするんだが。気のせい、か?
しかし、彼女のこちらを見つめる瞳が、嘘じゃないと告げている気がした。
そんな中、やがて厚みのある唇が動き、ぽそりと言葉を紡いだ。
「また逢いましょう……なんてね♪フフッ、チャオ♪」
小原は悪戯っぽい笑みを残し、颯爽と歩き去った。
「…………」
俺は何だかここが現実じゃないみたいな……上手く言葉では言い表せないくらいの不思議な気持ちで、金髪を揺らして歩く彼女の後ろ姿を見送った。
*******
「お兄ちゃん」
「…………」
「お兄ちゃーん」
「…………」
「お兄ちゃんってばっ!」
「…………」
「お兄ちゃ~ん……」
「……おう、どした?」
「いや、聞こえてるなら返事してよ。目だけじゃなくて、とうとう耳まで腐ったのかと思うじゃん」
「小町ちゃん、発言が乱暴よ」
「どしたの?帰ってからずっとおかしいけど。あっ、いつもおかしいけど、今日はいつもと違って!」
「おい」
最後の絶対にいらねえだろ。俺はちょっと残念なだけで、別におかしくはない。まあ……多分?一応?
とはいえ、可愛い妹が心配(?)するくらいぼーっとしてたとは……まあ、あれだ。あんな鮮やかな金髪と淡い金色の瞳を見たせいだろう。初めてだったし。うっかり二人乗りしちゃったし。きっと一晩寝ればこの感覚はなくなるはずだ。
……それに、どうせもう会うことはないだろうし。
*******
翌朝。
「チャオ♪」
「…………」
どうしてさっそく再会しちゃうの?えっ、何?これ運命なの?うっかり信じちゃいそうだからやめてくんない?
そう。俺は小町に頼まれたおつかいの途中で彼女と再会してしまった。
長い金髪を風に優しく靡かせながら、彼女はこちらに笑顔を向け、まるで友達のような距離感で話しかけてきた。
「フフッ、昨日はサンキュー♪またお願いネ」
「いや、それは遠慮しとく」
「え~!?じゃあ、今度は私が前に乗るよ~!」
「それはそれで怖いんだよ……てか小原は……」
「マリーだよぉ!呼び方忘れたの?」
「…………」
そもそもその呼び方一回も使ってないんだけど……てかやばい。完全に相手のペースに呑まれてる。ていうかまた近いんですけど!さっき鼻にちょっと吐息がかかったぞ。その辺の女子相手でもやばいのに、なんか通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃になってる感じが……!
いや、落ち着け。ボッチとして鍛えられたメンタルを信じろ……なんてしょうもないことを考えながら、首筋に手を当て、彼女に応じた。
「……それで、小原はどうかしたのか」
「……これは中々手強いデスね~。まあ、今はそれで構いまセン」
「そっか、じゃあな」
「ストップ」
クールに立ち去ろうとすると、がしっと肩に手を置かれた。いや、これもう捕まれてますね。
しかし、ここで道草をくってる場合ではない。ディアマイシスターが帰りを待っているのだ。
「いや、俺今からおつかいがあるんだけど……」
「そっか。なら仕方ありまセン」
意外なくらいあっさり引き下がったので、少しポカンとしてしまった。
……まあいい。とりあえず行くとするか。
すると、小原は俺の隣に並んだ。
「じゃあ、私もついていきマース!」
「…………は?」
彼女の意外すぎる提案に、またもや俺は目を見開いてしまった。
*******
結局、内浦の町を二人でのんびり歩いている。朝の風はまだ少し肌寒さを感じた。
だが今はどうでもよかった。
「それで……何か用なのか」
「フッフッフ、出会いは大切にしなくちゃね♪」
「…………」
だから勘違いしちゃうだろうが。まあ、表情からして恋愛的な意味がないのはわかるけど……。
程よい距離を意識しながら歩いてみても、何だか気分が落ち着かないが、彼女は全然お構い無しだった。
「あと、この前のお礼♪」
「……あれは別に。行き先が同じだっただけだ」
すると、彼女はいきなり俺の前に回り込み、昨日のように顔を覗き込んできた。
「じ~っ……」
「……いや、な、何だよ」
ATフィールドをあっさり破られ、至近距離で見つめられていると、ただただ緊張しかない。てか、これもうフラグ立ってるじゃん、とかなるから、勘弁して欲しいんだが……。
「ふむふむ、ナルホド。これがジャパニーズツンデレデスネ」
「…………」
何だよ、ジャパニーズツンデレって……。
てかツンデレじゃねえし。小町曰く捻デレなんだよ。
「それより、いいのか?そっちは用事とかあったんじゃ……」
「私?ないよ。ただ久しぶりだからあちこち歩いてるだけ」
「……久しぶり?」
「そう。実は内浦に住むのは2年ぶりなのデェス!」
小原は俺の前で両腕を広げ、高らかに告げた。
MAXハイテンションについていけねぇ……。
まあ、乗る必要もないので黙って歩くと、肩をとんとんとつつかれた。
「ねぇ、ハチマン」
「っ!」
いきなりファーストネーム呼びかよ……まあ、別にいいけど。
彼女は何度も頷いてから、再びやわらかい笑みを浮かべた。
「私、ここで始めたいことがあるの。よかったらアナタも見届けてみない?」
その笑顔が胸の奥の方を叩いた気がしたが、それには気づかないふりをしておいた。
そして、彼女の澄んだ瞳にも、海の向こうからやってきた春の風にも、これから何かが始まるという漠然とした確信がそこにはあった。