捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編   作:ローリング・ビートル

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I Really Like You #4

 学校へと向かう車の中。

 ようやく馴染んできた2年ぶりの内浦の海をぼんやり眺めていると、専属メイドのアイリが話しかけてきた。

 

「あの、鞠莉お嬢様」

「なぁに、アイリ?」

「お嬢様は、やけにあの目つきの悪い少年を気に入っておられるようですが……」

「目つきの悪い少年……ああ、ハチマンの事?フフッ、なんか面白そうだけど、どうかした?」

「いえ、なんだか彼の事を妙に気にかけてらっしゃるので……」

「アイリ……人生とは一期一会なのデース!!だから出会いは大事にしなくちゃ♪」

「は、はあ……」

 

 こてりと首を傾げる可愛らしいメイドに笑いかけながら、私は彼の顔を思い出した。

 ていうか目つき悪いって、アイリったら、そんなはっきり言わなくても……まあ、目つきが悪いのは本当デスネ。あれはあれでチャーミングなんだけどね。

 彼の目を思い出しながら、もう一度海に目をやると、見覚えのある船がゆっくりと何処かへ向かっていた。

 

 *******

 

 休日の朝、俺は砂浜に腰を下ろし、携帯を耳に押し当て、癒しを直に耳に入れていた。

 

「それで、そっちの方はどうなの、八幡?」

「あー……まあ、あれだ。特に変わったところはない。いい場所だけどな」

「あははっ、なんか八幡らしいね。その言い方」

「そうか?」

「うんっ。僕も部活が終わったら、そっちに行ってみたいなあ」

「そりゃあ、いつでもウェルカムだ。なんなら今日でもいいぞ」

「さすがに今日は無理だけどね、あはは。じゃあまたね、八幡」

「……ああ、それじゃ」

 

 守りたい、この笑顔。

 いきなり電話してきた戸塚は、総武高校の連中について教えてくれた。何なら特に知る必要のない葉山や材木座の話までしてくれた。

 ……とはいえ、誰かが気にかけてくれるというのは、むず痒いが決して悪いものではない。

 

「……夏休みに一回くらい千葉行っとくか」

「へえ、千葉好きなの?」

「ちょっと前まで住んでたんだよ」

「へえ、そうなんだ」

「……っ!びっくりしたぁ……」

「あははっ、シャイニー♪」

 

 こいつ、いつの間に隣にいたんだよ。あんま高性能なステルス機能搭載されてると、ステルスヒッキーが霞むだろうが。

 

「てか何か用か?今忙しいんだが…」

「そうかしら。とても暇そうデスネ~」

 

 まあ言い訳のしようもない。実際戸塚との電話を終えた喪失感でぼーっとしていたところだからな。

 

「そういうそっちも暇そうだな」

「シャイニー♪」

 

 今誤魔化したよな……何その便利なフレーズ。今度俺も使おうかな。

 ふわりと通り過ぎる風が彼女の鮮やかな金髪を揺らし、甘い香りを届けてきた。

 

「…………」

「フフッ、私の顔に何かついてる?」

「い、いや、別に……」

 

 いかん、つい視線が吸い寄せられていた。いや、吸い寄せられたということは、これは俺が悪いんじゃない。小原が悪い。

 とりあえず誤魔化そうと、思いつくままに口を開いた。

 

「それよか……そっちは何でこんなとこ歩いてたんだ?」

 

 一応尋ねると、小原は勿体ぶるように笑い始めた。

 

「フッフッフッ……今日は、高校の方に用事があるのデース!何故かって?来週から理事長に就任するからデース!」

「あ、ああ……そうか……え……は?」

 

 一人で賑やかな奴だとやや引き気味に見ていただが、最後のほうを聞き流すことが出来なかった。今、なんかすごい事言わなかったか、こいつ?

 すると、小原がしてやったりと言わんばかりの子供じみた笑顔を見せた。

 

「……あー、その……一応聞いておくが、冗談だよな?」

「嘘じゃありません。私のホームの小原家の寄付金は相当な額なの」

「…………」

 

 おいおいマジかよ。

 さすがに、そこまでする奴が……いや、先日言ってたっけな。それにしてもやりすぎな気もするが。

 

「……それが、これからやる事に関係してるのか」

「まあ、そんなところデスネ。そういえば、ハチマンは前の学校で何か部活やってたの?」

「……あー、奉仕部だ」

「奉仕部?どんな事やるの?」

 

 小原はこてりと首を傾げていた。まあ、そういうリアクションになるよなと頷きながら、いつか彼女から聞かされた言葉をなぞった。

 

「……飢えた人間に魚を与えるんじゃなくて、魚の取り方を教えてる」

「なるほど……」

 

 えっ?今の説明だけでわかったの!?と彼女の方を向くと、彼女は目を優しく細めていた。

 そして、その瞳は真っ直ぐにこちらを向いていた。

 

「アナタがその場所をとても大事に思っているのがわかるわ。そこにいた人達の事が好きだったことも」

「…………」

 

 俺は肯定も否定もせずに、そのまま視線を海に固定させた。

 心の中を見透かされたような気がしたが、不思議と嫌な気分ではなかった

 

「私も……同じだから」

 

 ぽつりと呟かれた言葉に顔を上げると、小原も同じように海を見つめていた。憂いを帯びた表情はこれまで見たことのないもので、その金色の瞳が見つめているのは、水平線よりもさらに向こうにある見えない何かだ。

 つい見とれていると、彼女は軽やかに身を翻し、柔らかい笑みを見せた。

 

「じゃあ、そろそろ行くね。チャオ♪」

 

 そして彼女は背を向け、颯爽と去っていく。

 俺はその背中を、誰かに重ねるでもなく、黙って見送った。

 彼女の靴が砂を噛む音が、微かに響くのを聞きながら。

 

  

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