捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
「ふぅ……時差ボケはもう治ったけど、あれこれ手続きが大変ですネェ」
「そうか……」
「むむっ、これが日本のオタクカルチャー……八幡、結構好きなの?」
「まあ、そうだな」
「あ、とってもプリティな猫デスネ~。ほら、おいで♪あっ、逃げられちゃった~」
「おい」
「なぁに?」
「どうしてお前が朝っぱらからここにいるんだよ」
そう、30分前に小原はいきなりウチにやってきた。
いきなりすぎて、『突撃!となりの朝ごはん』が始まったかと思ったくらいだ。
しかも、彼女の華やかな容姿に、親父も母ちゃんもしばらく口をぱくぱくさせ、俺に意味ありげか視線をよこしてから出かけてしまった。
小町もそれについていったので、今我が家には俺と小原とカマクラしかいない。てか、小町の奴はまだ小原が理事長に就任するのを知らないようだった。驚くだろうなぁ。
ちなみに当の彼女は、足をだらんと伸ばして座り、何やら残念そうな顔をしていた。
「だってぇ~、せっかくのオフなのに、果南もダイヤも忙しくて相手してくれないからデース!」
「……そっか」
「それで暇そうにしてる君のところに来たってわけ」
「暇ではないんだが……」
「あ、勉強中?……ワオ!八幡、三年生だったの?」
「あー、そういやお互いに年言ってなかったっけ?」
「ふふっ、まあ何となく同い年とは思ってたけど」
「……そっか」
だが今はそんなことより、この距離感を何とかして欲しい。こいつ、無駄に近すぎだろ。
ふわりと鼻腔をくすぐる甘い香りや陶器のように滑らかな白い頬。そして、当たるか当たらないかの位置にある豊満な膨らみ。あらゆるものが理性を揺さぶり、気持ちを落ち着かなくさせてくる。
すると、こっちの心情を知ってか知らずか、小原は耳元に唇を寄せ、そっと言葉を吹き込んできた。
「八幡は進路、どうするの?」
「……大学進学。てか、何故小声?」
「だって、デリケートな話題じゃない?」
「別に今家に俺達しかいないから気にしなくていいっての」
俺の言葉に頷くように、小原は離れ、部屋の中をキョロキョロ見回した。べ、別に名残惜しいなんて思ってないんだからね!
彼女は何故か一人で納得したように頷いている。
「ふぅん」
「どした?」
「男の子の部屋って初めて入るから。なんか不思議デース」
「……っ!」
なんでそんなデリケートな情報ばらしちゃうの?イミワカンナイ。
小原はこちらを見て首を傾げているが、首を傾げたいのはこちらである。
「どうかしたの?」
「……いや、別に」
「そう?ねえ、八幡。この前私が言った事覚えてる?」
「……………………ああ」
「そ、それ、覚えてないリアクションじゃん!も~、やりたい事があるって言ったでショウ!?」
「…………そういや言ってたな」
「その事なんだけど、ちょっと予定より遅れそうデース。本当はもっとスムーズにできると思ってたんだけど」
「そっか。まあ何やるかはわからんが……」
「色々難しくって……よしっ!八幡、海行かない?」
「……は?」
*******
「シャイニ~!!」
「…………」
両腕を広げ、陽の光を全身で受け止める小原を、歩道を歩く子供が不思議そうな目で見て、通り過ぎていった。
うわあ……他人のふりしたい。
「あれ?八幡はやらないの?」
「やらねえよ。てかその掛け声なんだよ」
光合成でもしてんのかと、ついツッコミたくなる。
俺の問いかけに、彼女は何故か得意気な笑顔を見せた。
「だってこんなに晴れてるんだもの。このくらい叫ばないと失礼というものデース」
「そ、そうか……」
うん。わけわからん。
まだこいつだから絵になる部分はあるが、俺が同じ事をすれば変質者扱いされるだろう。
戸塚ならもちろん余裕で許せる。
材木座……………………ちっ。
想像だけなのにイラッとしてしまった。つーか何故想像した?馬鹿じゃねーの。
「ふむ、まだ泳ぐには寒そうデスネ」
「そりゃあ、まあ……4月だし」
「じゃあ、追いかけっこでもする?」
「いや、しないから」
「それじゃあ、かけっこは?」
「いや、しないから。てか、それさっきとあんま変わってねえだろ」
「もうっ、八幡はワガママデース!」
「貴方達、何してますの?」
突然背後から届いた声。
小原と同時に振り向くと、そこには長い黒髪を風に靡かせた黒澤ダイヤがいた。