捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
学校帰り、今日は真っ直ぐに帰ろうと自転車を黙々と家へ走らせていると、波止場に誰かがいるのが見えた。
普通ならそのまま通り過ぎてしまうのだが、その服装に見覚えがあり、つい自転車を止めてしまう。
あれは昨日の……。
何故こんな所で…………そんな疑問はすぐに拭い去られた。
「なっ……!?」
思わず声が漏れる。
なんと、その少女はいきなり制服を脱ぎ捨て、水着姿になった。
おい、マジか。まだ4月だぞ。
「たあ~~~~~っ!」
何故か気合いを入れ、海に向かい走り始める少女。
さすがにやばいと思うが距離がありすぎて、止められそうもない。
しかし、そこで誰かが少女を引き止めた。
「し、死ぬから!死んじゃうから!」
あれは……高海?
高海にしがみつかれた少女は、それでもなおもがいていた。
「離して!いかなきゃいけないの!」
どうしてそこまで……もうこれ、エナが乾いてるとかじゃないの?
とりあえず駆け寄ろうとすると、二人はバランスを崩した。
「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
大きな水飛沫が何かの始まりを告げるように上がり、俺は近くにあった紐付きの浮き輪を手に駆け寄った。
*******
「……くしゅっ!」
「もうっ、ダメだよ!まだ4月なのに……」
「…………」
高海はぷんすか怒りながら、謎の少女の隣に腰かける。
てか、お願いだから濡れた服のまま気にせずに動くのはやめようね。目のやり場に困っちゃうだろうが。
「あの……」
謎の少女から声をかけられ、やや緊張気味に目を向けると、彼女は立ち上がり、俺と高海に深々と頭を下げた。
「ごめんなさいっ!それとありがとうございます……」
「えっ?あ、いいよ、そんな……ていうか、私も比企谷さんにお礼言わなきゃ!ありがとうございました!」
「……い、いや、別に。偶然通りかかっただけだから」
いきなり女子二人から頭を下げられ、むず痒い気持ちになるが、話題を変えようと何とか口を開いた。
「つーか、何でこんな時期に海に入ろうとしてたんだよ?」
「そうだよ、海に入りたいならダイビングショップに行けば……」
高海の言葉に、彼女は首をふるふると振った。
「違うの……海の音が聴きたくて……」
「「…………」」
某携帯会社のCMソングを彷彿させるような言葉に、俺と高海は顔を見合わせる。例えば、材木座が同じ発言をしていれば、中二病として片づけられるのだが、彼女の言葉には、そう感じさせない切実さがこもっていた。
とはいえ、それを深く追及するような勇気も図々しさも俺にはない。
このまま黙るのかと思ったが、彼女は話を続けた。
「私、作曲やってて……でも、最近何も思い浮かばなくて……それで、何となくだけど、海にヒントがあるんじゃないかって……」
作曲か……正直まったくわからん。
ただ、彼女が藁にもすがる想いなのは、はっきりと伝わってきた。
その内心もがいている横顔は誰かに重なって見えた。
焚き火の音だけが聞こえる何ともいえない空気の中、高海が携帯を取り出した。
「じゃあ、元気が出る曲かけてあげるね!」
「え?」
高海が歌手名も曲名も言うことなく流したメロディーが、人気のない砂浜に響きだした。
*******
曲が終わり、微かな余韻が波音と溶け合っていく。
高海が流した曲には、自然と引き込まれる何かがあった。てか、スクールアイドルか……総武にはなかったし、そういう知識には疎いから知らなかった。
ちなみに、謎の少女からの感想は「普通」らしい。まあ、こういう感想もあるだろう。
高海は特に気にした風もなく、つらつらとスクールアイドルの素晴らしさを語っている。
そして、彼女が話終えたと同時に、俺は立ち上がった。
「じゃあ、俺帰るわ」
すると、高海がこちらに駆け寄ってきて、あっという間にパーソナルスペースを侵略してきた。
「あっ、比企谷さん!さっきは本当にありがとうございました」
「あ、ああ……」
近い近い……!
高海の無防備すぎる距離感に戸惑いながら、ゆっくりその場を離れようとすると、謎の少女と目が合う。
彼女は少し恥ずかしそうに顔を伏せた後、ぺこりと頭を下げてきた。
俺もそれに倣い、頭を下げ、その場をあとにする。
その日の夜。何故か彼女の横顔が何度かちらつき、そのことがやけに胸を締めつけた。