捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編   作:ローリング・ビートル

3 / 25
Your song #2

 学校帰り、今日は真っ直ぐに帰ろうと自転車を黙々と家へ走らせていると、波止場に誰かがいるのが見えた。

 普通ならそのまま通り過ぎてしまうのだが、その服装に見覚えがあり、つい自転車を止めてしまう。

 あれは昨日の……。

 何故こんな所で…………そんな疑問はすぐに拭い去られた。

 

「なっ……!?」

 

 思わず声が漏れる。

 なんと、その少女はいきなり制服を脱ぎ捨て、水着姿になった。

 おい、マジか。まだ4月だぞ。

 

「たあ~~~~~っ!」

 

 何故か気合いを入れ、海に向かい走り始める少女。

 さすがにやばいと思うが距離がありすぎて、止められそうもない。

 しかし、そこで誰かが少女を引き止めた。

 

「し、死ぬから!死んじゃうから!」

 

 あれは……高海?

 高海にしがみつかれた少女は、それでもなおもがいていた。

 

「離して!いかなきゃいけないの!」

 

 どうしてそこまで……もうこれ、エナが乾いてるとかじゃないの?

 とりあえず駆け寄ろうとすると、二人はバランスを崩した。

 

「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 大きな水飛沫が何かの始まりを告げるように上がり、俺は近くにあった紐付きの浮き輪を手に駆け寄った。

 

 *******

 

「……くしゅっ!」

「もうっ、ダメだよ!まだ4月なのに……」

「…………」

 

 高海はぷんすか怒りながら、謎の少女の隣に腰かける。

 てか、お願いだから濡れた服のまま気にせずに動くのはやめようね。目のやり場に困っちゃうだろうが。

 

「あの……」

 

 謎の少女から声をかけられ、やや緊張気味に目を向けると、彼女は立ち上がり、俺と高海に深々と頭を下げた。

 

「ごめんなさいっ!それとありがとうございます……」

「えっ?あ、いいよ、そんな……ていうか、私も比企谷さんにお礼言わなきゃ!ありがとうございました!」

「……い、いや、別に。偶然通りかかっただけだから」

 

 いきなり女子二人から頭を下げられ、むず痒い気持ちになるが、話題を変えようと何とか口を開いた。

 

「つーか、何でこんな時期に海に入ろうとしてたんだよ?」

「そうだよ、海に入りたいならダイビングショップに行けば……」

 

 高海の言葉に、彼女は首をふるふると振った。

 

「違うの……海の音が聴きたくて……」

「「…………」」

 

 某携帯会社のCMソングを彷彿させるような言葉に、俺と高海は顔を見合わせる。例えば、材木座が同じ発言をしていれば、中二病として片づけられるのだが、彼女の言葉には、そう感じさせない切実さがこもっていた。

 とはいえ、それを深く追及するような勇気も図々しさも俺にはない。

 このまま黙るのかと思ったが、彼女は話を続けた。

 

「私、作曲やってて……でも、最近何も思い浮かばなくて……それで、何となくだけど、海にヒントがあるんじゃないかって……」

 

 作曲か……正直まったくわからん。

 ただ、彼女が藁にもすがる想いなのは、はっきりと伝わってきた。

 その内心もがいている横顔は誰かに重なって見えた。

 焚き火の音だけが聞こえる何ともいえない空気の中、高海が携帯を取り出した。

 

「じゃあ、元気が出る曲かけてあげるね!」

「え?」

 

 高海が歌手名も曲名も言うことなく流したメロディーが、人気のない砂浜に響きだした。

 

 *******

 

 曲が終わり、微かな余韻が波音と溶け合っていく。

 高海が流した曲には、自然と引き込まれる何かがあった。てか、スクールアイドルか……総武にはなかったし、そういう知識には疎いから知らなかった。

 ちなみに、謎の少女からの感想は「普通」らしい。まあ、こういう感想もあるだろう。

 高海は特に気にした風もなく、つらつらとスクールアイドルの素晴らしさを語っている。

 そして、彼女が話終えたと同時に、俺は立ち上がった。

 

「じゃあ、俺帰るわ」

 

 すると、高海がこちらに駆け寄ってきて、あっという間にパーソナルスペースを侵略してきた。

 

「あっ、比企谷さん!さっきは本当にありがとうございました」

「あ、ああ……」

 

 近い近い……!

 高海の無防備すぎる距離感に戸惑いながら、ゆっくりその場を離れようとすると、謎の少女と目が合う。

 彼女は少し恥ずかしそうに顔を伏せた後、ぺこりと頭を下げてきた。

 俺もそれに倣い、頭を下げ、その場をあとにする。

 その日の夜。何故か彼女の横顔が何度かちらつき、そのことがやけに胸を締めつけた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。