捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
「あ、こんにちは……」
「……おう」
翌日、もう会うこともないと思っていた少女と再会した。中学時代なら、うっかり運命を感じちゃいそうになるレベル。
しかも、彼女は小町や高海と同じ制服を着ていた。
俺の視線に気づいた彼女は、疲れの滲む笑顔を向けてきた。
「実は私、東京からこっちの学校に転校してきたんです」
「そっか」
「えっと……比企谷さん、ですよね?確か千葉から転校してきたって、高海さんが言ってました」
「……ああ」
「じゃあ、どこかですれ違ったかもしれませんね」
「……どうだろうな、あまり東京行かないし」
「デスティニーランドは?」
「まあ、たまになら……てか、結構疲れた顔してるんだが……」
「え?ああ、実は高海さんにスクールアイドルに勧誘されまして……7回くらい」
「…………」
昨日出会ったばかりで、今日7回も勧誘か……そりゃあ疲れるわ。高海、『押してダメなら諦めろ』という素晴らしい名言を知らないのか。
「私、今はピアノの事意外考えられなくて……」
「……そっか」
「あっ、そうだ。助けてもらったのに自己紹介がまだでしたね。私、桜内梨子って言います」
「……どうも」
桜内は自分の名前を名乗ると、ぺこりと頭を下げた。
その立ち振舞いの一つ一つに上品さや育ちのよさやらが滲み出ている気がする。
頭を上げてから、彼女はやわらかな笑顔を向けてきた。
「じゃあ、失礼します……きゃっ」
歩き出そうとしな桜内は、何かに躓き、こけそうになる。
「っと!」
何とか踏みとどまるが、手に持っていた鞄と手提げ袋が地面に落ちる。
「……大丈夫か?」
「あわわ……!」
中身をぶちまけたのか、やたら慌てて拾い集めている。
とりあえず手伝おうと駆け寄ると彼女はバッと顔を上げた。
「あっ、ちょっと、待っ……!」
「?」
その表情はあまり手伝って欲しくなさそうだが……これは……薄い本?
「ああっ!」
「……カベクイ?」
拾い上げた薄い本の表紙には、綺麗な女子が可愛い女子に壁ドンし、アゴをクイッとしているイラストが……
「ダメッ!」
とてつもない反応速度で、すぐさま奪われる。
桜内は先程とは打って変わった焦り顔で、こちらを見ていた。
「み、見ました?」
「見てない」
「嘘だっ!!!!!」
怖っ!この人怖っ!!何なの、一体?全然キャラ違うんだけど!
豹変した彼女の表情にたじろいでいると、彼女は俺との距離を詰め、ゆっくりと肩に手を置いてきた。
そして、顔がやたら近くまでくる。形のいい鼻や唇、長い睫毛。宝石のような瞳に見とれそうになるが、それどころじゃないのはわかった。
やがて彼女のうっすら赤い唇が開く。
「……さっき見た物はすぐに頭の中から消去してください」
「お、おう……」
「お願いしますね」
「……わかった」
「ふふっ、ありがとうございます♪それじゃあ、失礼しますね」
極上の微笑みを見せた彼女は、身を翻し、そのままてくてくと歩いていく。
俺はしばらくその背中を見つめていた。
……ま、まあ、その、あれだ。
あいつが色々やべえ奴なのはわかった。