捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
「「あ」」
二人して固まる。
昨日の出来事があってから、その翌日に本屋帰りに遭遇するとは……思わず「不幸だ~!」と叫びたくなる。まあ、こいつはさすがにレールガンとか撃ってこないだろうけど。
しかし、レールガンのように鋭い視線に射抜かれ、俺は足が震えるのを抑えながら、見なかったことにして、その場を去ることにする。
あっちも同じ様に振る舞うかと思えば、そうでもなかった。
「どうして逃げるんですか?」
「…………」
どうやら逃げることは許されないらしい。
俺は溜め息と共に振り返り、彼女に向き直ると、その表情からは、ほんの少し気まずさが見てとれた。
「そんな無視しなくてもいいじゃないですか」
「……いや、逃げるだろ。普通に」
「べ、別に逃げなくてもいいじゃないですか。人を危険人物みたいに……」
「別に危険人物扱いはしてない。ただ怖いだけだ」
「それ、意味合いはそんなに変わりませんよね?」
「……確かに」
「否定しないんですね。まったくもう……別にあなたに危害を加える気はありません」
「そのセリフが既に怖いんだが……え、何?お前ヒットマンなの?」
「ち・が・い・ま・す!こんな可憐な乙女つかまえて、何言ってるんですか」
「自分で言うのかよ……まあ、いい。その袋の中の本、ぶちまけないように気をつけろよ」
「なっ!?何で中身を知ってるんですか!もしかして、ストーカー?」
「いや、違うから。ありえないから。じゃあな」
「ああ、はい。それじゃ……」
「あっ!桜内さ~ん!比企谷さ~ん!」
いきなり聞こえてきた声の主はすぐにわかった。
目を向けると、高海と渡辺と、知らない女子三人がすたすたと歩み寄ってきた。
その姿を見た桜内は、肩をびくんと跳ねさせ、明らかに他所行きの笑顔を向ける。
「あら、どうかしたの?申し訳ないけど……私、スクールアイドル部には……」
「違うよ。せっかくだから一緒にお茶でもどうかなって?そういえば二人って仲良かったんだね?」
「「違う」」
「う、うん、なんかごめんなさい……」
うっかりタイミングが被ったことに気恥ずかしさを感じていると、いきなり強い風が吹き荒れた。
「きゃっ!」
その風にバサッとはためくスカートを手で押さえる桜内。言っておくが別に見ていたわけではない。たまたま視界に入っただけだ。俺は悪くない。
そんな事より……
「あっ」
桜内が何かに気づいたような声を上げる。
どこかに破れかけた部分があったのか、なんと彼女の持っていた紙袋がビリビリに破れ、中身が地面にぶちまけられた。
「あ~~~~!!」
「だ、大丈夫!?」
「手伝うよ!」
「あっ、ちょっと待っ……」
高海達が手を伸ばすのを止めようとするも、間に合わずに彼女達は迅速に拾い集めてしまう。
そして、ピタリと固まった。
「これ……えっと……カベクイ?」
「普通のカベドンとアゴクイも……」
「ち、違うの!違うのよ!これは……」
何というベタなオチ。
高海は、しばらく気まずそうな顔をしていたが、すぐに笑顔を向けた。
「さ、桜内さん!スクールアイドルってすごいんだよ!だから……ね!」
話題転換下手か!!どう考えても勧誘するタイミングじゃないだろうに……
思わず心の中でツッコミを入れていると、渡辺がささっとまとめた本を桜内に手渡す。
「私、何も見てないから、うん」
優しすぎる嘘松に、全俺が泣きそうになっていると、桜内はまだ言葉を並べていた。
「そう!これは作曲の為なのよ!曲作りっていうのはありとあらゆるものからインスピレーションを……」
「だ、大丈夫だよ!桜内さん!」
「私達、そういう偏見とかないから!」
「好きなものを好きと言える気持ち抱きしめていようよ!」
「ち、違……」
桜内は顔を真っ赤にし、わたわたしている。助け船を出そうにも、このシチュエーションは初めてすぎて、どうしようもない。そもそも、ボッチ歴長すぎて、誰かに助け船を出すシチュエーションにほとんど遭遇した事がないんだが……。
そこで彼女と目が合う。
「…………」
「…………」
え?何でこっち見てんの?俺何もできませんよ?
その意味ありげな視線に首を傾げると、何故か距離を詰められ……
「っ!」
「なっ……!?」
いきなり桜内は俺の腕にしがみついてきた。
そんな桜内の挙動に、周りの女子達も目を丸くしている。
突然の甘い香りと柔らかな感触に、何がなんだかわからなくなっていると、彼女ははっきりと宣言する。
「本当に私、そういうのじゃないから!!だって私……この人と付き合ってるんだから!!!」