捻くれた少年と海色に輝く少女達 Guilty Kiss編 作:ローリング・ビートル
「お兄ちゃん、どったの?帰ってくるなりぼーっとして。あと顔赤い」
「……いや、な、何でもない」
結局、この後は勉強も何も手につかなかった。
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「梨子、本当に大丈夫?顔赤いけど……」
「あはは、大丈夫大丈夫、本当に」
結局、この後はピアノも何も手につかなかった。
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衝撃の展開の翌朝……。
「「あっ……」」
登校中にまさかの遭遇。
どうやらこのまま会わずにフェードアウト……なんて真似はできないようだ。
……いや、もしかして昨日の出来事は夢だったんじゃなかろうか。
「お、おはよぉ♪ふぁちまんしゃん」
「…………」
噛みすぎて誰の事だかわからねえ……てか、もうファーストネームで呼ぼうとしてやがる……。
「ち、違う違う!もっと自然に……おはよ♪八幡さんっ」
桜内は何事もなかったかのように言い直した。こいついちいちハート強すぎだろ……初めて見かけた時には、かなり儚げな雰囲気があった気がしたんだが、あっちが夢だったのか。
「あの~!もしも~し、八幡さ~ん!無視しないでくれますか~?」
「……周りに誰もいないから、今は普通でいいんじゃないか?」
「何言ってるんですか。そういう油断からバレるものなんですよ」
「経験者は語る……だな。その注意力を……」
「何か言いましたか?ダーリン♪」
「……いや、何でもない」
だから怖いんだよ、その笑顔。あと声も。可愛い子ぶってる時のが怖いとかどうなの?
……まあいい。引き受けたからには淡々とやり過ごすだけだ。
「……じゃあ、その……途中まで一緒に行くか」
「えぇっ!?」
何故か桜内は目を見開き、俺から距離をとった。いや、本当に何故だ。
「何だよ。なんかあんのか?」
「いえ、その優しげなリアクション……ま、まさかとは思いますけど……本当に私の事、好きになったんですか?だとしたら、それは申し訳ないですけど……」
「…………」
ダメだ。こいつと話してたら精神が汚染されるかもしれん。無視だ無視。初登場時の小さなときめきを返せと言いたいところだ。
「む、無視しないでくださいっ!……えいっ!」
「ひぁっ」
思わず気持ち悪い声が零れ出てしまった。
そう……桜内は、有無を言わさず俺の左手を握りしめていた。
ひんやりした柔らかな手の感触に、鼓動が跳ね上がり、落ち着かない気分になる。
「ちょ……おま……」
「だ、だだ、大丈夫でしゅよ、これくらい……ほら、高校生だし……仮にも恋人同士だし……ね?」
ね?じゃねえよ。朝っぱらからどんなテンションなんだ、こいつ。
しかも、よく見なくてもわかるくらいに顔が真っ赤になっている。何気にまた噛んでたし……。
さらに、間違いなく俺も顔は赤いだろう。こんなのがしばらく続くと思うと、それだけで気が滅入りそうだ。
「あ~っ、お二人さん、おはよ~っ!」
「「っ!……お、おはよう」」
「あははっ、二人ともおんなじリアクションだ。朝から仲良いね♪」
いきなりやってきた高海の挨拶に対して、まったく同じタイミングで返事をしてしまう。
その偶然に何ともいえない気持ちになっていると、桜内は俺の方に、「ほら、私の言ったとおりじゃないですか」とでも言いたげなドヤ顔を向けていた。
……朝だけでこの疲労感とか、本当に大丈夫だろうか。
まあ赤点候補の五つ子の勉強を見たり、十四股を目指すよりは楽かと自分を慰め、俺は桜内の手を握り返した。
……やはりその手は小さく、指先は細く滑らかだった。