ちょっと前に鉄血のガンプラの再販があって、一人鉄血祭りでした。HGIBOマンロディ、おすすめです。
「凄い、これがGBN!」
小柄なダイバーがログインロビーでぴょんぴょんと跳ねている。
手を開いてみたり閉じてみたり、伸びをしてみたり。一通り体を動かしてみて、キクヅキ・アカリは自分がディメンションにやって来たことを改めて実感して嬉しくなった。
(それにしても色んな人がいるなー)
回りには同じダイバーだろう、様々な格好の人達がいた。鬼の様な角、獣の耳、獣の顔を持つ者。最早全身が動物、機械の者。作中に存在するキャラクターと同じ容姿の者。
電脳仮想空間であるディメンションではダイバーの姿は
「えっと、ナガツキさんは……」
キクヅキは辺りを見回す。タクミからはログインしたらロビーで待っている様に言われたが、ログインロビーまで辿り着くのに時間がかかるのだろうか。
どちらにしろタクミのダイバールックスもダイバーネームも知らないため、キクヅキの方から探しだしてコンタクトを取るのは難しい。
どうしようかとキクヅキが悩んでいると、アラームの様な音がなる。
「わ、何々!?」
ナガツキの犬耳と尻尾がピンと跳ねる。キクヅキは慌てるが回りのダイバー達にその様子はない。
「あ、なるほど。コレがダイレクトメール……」
キクヅキの指が空を切り、眼前にコンソールウィンドウが現れる。メールの欄には運営からの案内メールが数件とダイバーからのダイレクトメール。
「コレがナガツキさんかな」
ログインしたばかりのキクヅキを知る人間は少ない。ましてやダイレクトメールを送ろうとする等それなりの動機があるか、もしくはリアルの知り合いか。
恐らく後者だろう。丁寧にダイレクトメールにも「キクヅキさんですか? ナガツキです」と書かれている。
「そうですよー」
キーパッドを展開しメールの返信を送る。
それから更に数分後。
退屈しのぎに自分の尻尾を弄っていたキクヅキの前にダイバーが一人現れる。中肉中背、特徴的なアクセサリも無いプレーンな感じだ。あるとすれば、初期装備の真っ青な連邦軍の制服が似合っていない。
「ナガツキ……殿?」
「ああ、だけどここでタクで」
「あーなるほど!」
よく見るとダイレクトメールの差出人のダイバーネームは“タク”になっている。
「小生はキクヅキであります!」
尻尾が揺れる。
「知ってる」
キクヅキのダイバーネームはそのままキクヅキになっている。ここに来るまでの道中、カッコいいダイバーネームが思い付かなかったのだから仕方ない。
「そのままだな」
「変えた方がいいですか?」
「いや、別に気にしてないならそのままでいいんじゃないか? それくらいなら問題も起きないだろうし」
一応、ダイバーネームの変更は推奨されている訳ではないが可能である。アカウントの情報変更に料金がかかるため誰も特に必要なければやらないことではあるが。
「初心者は取り敢えずビギナー向けミッションが定石だけど、どうする?」
「じゃあ、それでお願いします!」
GBNではプレイヤーのレベルにあわせて様々なミッションが用意されている。
キクヅキの様なビギナー向けのミッションも充実しており、それらは報酬にゲームを始めたばかりの時期に必要なモノが用意されている場合が多い。よくある初心者救済策である。
「ミッション受けるには基本的にミッションカウンターに行く」
ロビーにあるミッションカウンターは流石に人で賑わっていた。タクミはミッション一覧を漁り、二人だけでクリア出来る様なミッションを探す。
タクミのランクもさほど高い訳ではない。大人数での攻略を前提としたミッションは避けたいところだ。
「ごく初級ミッションだけど、慣れるにはこれくらいがいいかもしれない」
タクミがキクヅキにミッション内容の詳細が書かれたウィンドウを見せる。
『宙空間戦闘:初級』と書かれたミッション。該当エリアに移動し、宇宙空間で現れる敵モビルスーツを撃破する連戦ミッションだ。想定プレイ人数は一人から二人。
「う、宇宙ですか」
「操縦に関して難しいところは無いからそこまで気負わなくてもいいよ。それに俺とキクヅキしか参加しないミッションだから最初は動かす練習しても他のダイバーに迷惑かけないから」
「り、了解であります!」
「それじゃあ、次は格納庫だな」
「格納庫、でありますか?」
「オルフェンズにも出てきただろ? モビルスーツの整備とかする場所」
「あーなるほど!」
キクヅキは該当のシーンを思い出したのかポンと手を打つ。
「GBNはオンラインゲームだから移動も一瞬だ」
「え?」
キクヅキが首を傾げる間にタクミはウィンドウを操作する。
次の瞬間。キクヅキは周りの景色が歪んだかと思うと、いつの間にか辺りは武骨なクレーンやコンテナ、モビルスーツハンガーの備え付けられた格納庫に変わっていた。
「さ、流石GBN!」
「ログイン時にスキャンした機体がここにあるから、ミッションやイベントで外のエリアに行く前にここで装備のチェックとかしておいた方がいいよ」
ミッションには特定の条件を必要とするモノがあったり、戦術の変更をした場合等、事前の確認は必須事項である。
「バルバトスだよな」
「はい!」
自らが作り上げたガンプラに、ほぼ無い胸を踊らせながらキクヅキはバルバトスのもとへ向かう。
「わぁー! ガンプラもこんなに大きくなるんですね!」
前述の様に準備は重要だが、それとは別に、ただ単に自らが作ったガンプラを実寸大スケールで観賞することも出来る。好きな人はこの場所で様々な角度からフォトを捕るだけでも時間が過ぎていく程である。
「バルバトス第一形態か……渋いな」
HGIBOガンダムバルバトスはそれ単体で発掘されたままの第一形態と装甲等を再現した第四形態を再現出来る。
「バルバトスって変形するんですか?」
「変形はしないけど、キットは第一形態と第四形態のコンパチ……どっちか選んで組み立てられる様になっていただろ?」
「え?」
とはいえ、作中でもそうである様に第一形態の強化された姿が第四形態である。特にこだわりがなければ第四形態を組み立てるのがベター。パッケージも第四形態である。
「これで完成かなって思いまして……」
「んーまぁガンプラバトルにおいて素組の状態決定的な差は無いと言っても……まぁ、装甲は後から付け足せば」
「えっと、まだ完成してなかったってことですよね……?」
「まぁ、そうなるな」
「ランナーはもう使わないと思って捨ててしまいました……であります」
キクヅキがうつむき加減でおずおずとタクミを見上げながら言う。
パーツを間違えたり、切り取り忘れたり、そのままランナーを捨てた経験がタクミにないわけではない。ましてや初めてのガンプラ製作なのだ。
「仕方ないさ、取り敢えずバルバトス第一形態という形では完成している訳だし」
タクミの口から出た言葉はキクヅキに向けられたものであり、過去の自分自身に向けた言葉。
ガンプラを作っていると、ミキシング等々でパーツを取られて別形態で飾るしかないキットもある。そう考えれば第一形態のみという状況も大した問題では無いとタクミは思えてきた。
「今回は第一形態ってことで、また作ればいいよ」
「は、はい!」
若干シュンとしていたキクヅキの表情がパァっと明るくなる。
何はともあれ、格納庫でガンプラの準備を整えたら次の行動は決まってくる。
出撃である。
「今回のミッションは宇宙から出撃だな」
「宇宙に行くのに時間かかりますか?」
「いや、これはオンラインだから」
起動エレベーターに乗り込むことも可能ではあるし、ミッションによってはその必要もある。が、今回はわざわざ手間を取る必要はない。
宇宙空間に出撃すると設定すれば即座に起動エレベーターの登頂部から出撃可能。
キクヅキはバルバトスのコックピットでタクミから少々のチュートリアルを受け機体を発進カタパルトまで持っていく。
「うぉぉぉー、本当にガンダムに乗れるんですね!」
バルバトス、カタパルトに立つ。
「キクヅキ、行きまーす!」
「どうだ、やれそうか?」
宇宙空間に放り出されたキクヅキのバルバトスは機体を二転三転させながら漂っている。
「あ、なんか、動けそうです」
「キクヅキは初めてだから慣れるまでゆっくりでいいよ」
「いえ、大丈夫です!」
ガンプラバトルであるGBNでは3D格闘ゲームの様に姿勢制御に関しても自動でサポートしてくれている。
「じゃあ、動くぞ」
「り、了解であります!」
ハーフキャノンのバーニアに光が灯る。
今回のミッションではある程度の地点まで移動すれば敵が出現する。現れる敵を倒し、最終的には目標のポイントまで辿り着くことがこのミッションのクリア条件である。
「思っていたより上手いな……」
ハーフキャノンに追従するバルバトスを見てタクミは呟いた。
ゲームなのだから、実際にロボットを動かすほど難しくては意味はない。GBNでモビルスーツを操縦するのは自転車に乗るよりも簡単だ。
しかしながらやはり、慣れや得手不得手はある。キクヅキのバルバトスを見る限り、筋はよい方だろう。
「ありがとうございます!」
「連戦ミッションだけど、初心者用ミッションだからさほど難しくはないから。取り敢えず突っ込んで武器で攻撃。援護はする」
「了解であります!」
バルバトスが加速する。
敵の姿はまだ見えない。
タクミのハーフキャノンもバルバトスを追従する。バルバトスの方が速力があるのかジリジリと二機の差が開いていく。
「タク殿、速度落とした方がいいでありますか?」
「いや、そろそろ会敵のはずだからこのままでいい」
「了解!」
バルバトスのコックピットに鳴り響くアラーム。レーダー上の敵は二機。
「いけ、キクヅキ」
「はい! キクヅキ、バルバトス。吶喊!」
バルバトスが推進剤の光の尾を引き加速する。
レーダー上でめキクヅキと敵の距離がグッと縮まるのがわかる。
「二機、丸い、緑色で一つ目、銃を装備!」
敵機がモニターに映るまで距離を詰めたキクヅキが敵の特徴を羅列する。
「了解、マンロディだ。装甲が硬い気を付けて」
このミッションに登場する敵機はある程度固定されている。各作品に登場する量産型モビルスーツ。
ザクⅡ、リーオー、ジン。様々いるが、丸いとなれば恐らくマンロディ。
タクミの判断は概ね正しかった。
キクヅキの眼前の敵機はマシンガンに鉈にハンマーが付いた様な武器を装備する機体。緑色と言われてタクミはマンロディと判断したが、正確にはランドマンロディ。マンロディが宇宙に特化したモビルスーツだとすれば、ランドマンロディはその地上対応型。
マンロディは丸っこい胴体に短い手足とつぶれたあんパンみたいな頭部。一見愛らしい外見だが、その中身は凶悪。鉄血のオルフェンズ作中で禁忌とされる阿頼耶識システムを搭載し、ヒューマンデブリ達が乗る。負の側面の様な機体だ。
ガンプラとしてはシンプルに組めて低価格。特徴的な外観と買い手に優しいキットだ。
敵機であるランドマンロディは脚部が変更されている。作中ではオルガ・イツカ率いる鉄華団がオレンジ色とクリーム色で塗った機体を使用する。セカンドシーズンの序盤に登場しその後は終盤まで続投する。
ガンプラとしてもマンロディにオプションセットのレッグブースターを組み合わせることで再現が可能であり、オプションセットのレッグブースターはマンロディの成形色にあわせて緑色をしている。この敵機もマンロディにレッグブースターを組み合わせたモノだろう。
武装はマンロディの基本であるサブマシンガンにハンマーチョッパー。鉄血の機体の格闘武器は何かしら遊びと言うか特徴をつけられているモノが多い。
「たぁぁぁーッ!」
急接近するバルバトスに反応したランドマンロディの弾幕を抜け、キクヅキは唯一の武器である背中に装備した太刀を右手に構えランドマンロディの胴体目掛け水平に振り抜く。
ガン。と金属音が鳴り殴り付けられた敵機はコロンと転がる様に機体を回しながら弾き飛ばされる。
(この武器、あんまり強くない!)
バルバトスの装備する得物、太刀とは呼ばれているが触れれば斬れる日本刀の切れ味程ではない。特にキクヅキの様な乱雑な扱いではどちらかと言えば鉄の棒に近い。わざと弾かれることで衝撃を逃がした敵機には大きなダメージは見られない。
更にガンプラバトルの洗礼とばかりに、もう一機のランドマンロディが脚を止めたバルバトスの背後でハンマーチョッパーを振り上げる。
「このッ」
バルバトスは上半身を捻り、ハンマーチョッパーのチョッパー部分の峰を左腕のガントレットで受け止め払う。
ランドマンロディは右腕に掴んだサブマシンガンによる至近距離からの銃撃を狙う。
が、しかし、それより早くバルバトスの左手がランドマンロディの肩装甲を掴む。そのまま手前に引き寄せる反動で敵機の背後に出る。
マンロディは装甲の厚いモビルスーツだ。だがしかし、やはり四肢が稼働する以上その装甲にも隙間が出来る。
狙いは装甲の隙間。頭部の稼働のために生じた首と頭部の間の“柔らかい部分”。
「これならッ」
逆手に持ち変えた太刀の鋒をその一点に突き立てる。
凶刃は吸い込まれる様に敵機に刺さり、キクヅキが柄を振ることで厚い装甲の中身をぐちゃぐちゃに切り裂く。
「やったッ!」
コックピットの中でキクヅキは小さくガッツポーズをとる。
「伏せろキクヅキ!」
耳に飛び込んできた通信にキクヅキは反射的にバルバトスに身を縮ませる。
刹那、背後で金属がぶつかる鈍い音が一つ、二つ。
装甲を大きく陥没させたランドマンロディが宙を漂っていた。
「あ、ありがとうございます!」
「支援機だからな」
どうやらこのフェイズの敵はランドマンロディ二機のみ。敵の増援が来ないことを確認し、キクヅキとタクミは目標のポイントに向けてブースターを吹かす。
「連戦ミッションとはいえ初心者向けのミッションだから敵も次くらいでボスの可能性がある」
「はい! 油断せずにいきます!」
「さっきはランドマンロディだった。となると、ボスも鉄血のモビルスーツの可能性が高い……」
タクミはボスの考察を始める。
「もしかしてバルバトスでありますか?」
「バルバトスならルプスか、ヒューマンデブリつながりでフルシティってのもあるかもな」
「なるほど!」
「でも、ランドマンロディが緑色だったってことを考えると……」
タクミの言葉を遮る様にコックピット内にアラームが鳴る。
それは答え合わせの時間であり、敵が現れたという合図。
「……ガンダムグシオン」
デブリの影から表れた深緑の巨体をハーフキャノンのカメラがとらえる。
「近い、待ち伏せ……。そうか、ランドマンロディから情報を」
そういう設定。メタ的にはランドマンロディを撃破するまで出現しない点。近距離に特化したグシオンがソレなりに力を発揮できるレンジにダイバーを連れてくる為の手段。
「キクヅキ!」
「了解であります!」
バルバトスが吶喊。先程の戦いの際に敵ロディから奪った武装、両の腕に携えたハンマーチョッパーをグシオンに向けて振り上げる。
「あいつ、いつの間に」
ガン! と鈍い音が響く。流石に装甲の堅いマンロディの親玉だけあり、ハンマーチョッパーの攻撃を受けても機体への影響は薄い。
逆に反撃とばかりに振るわれたグシオンハンマーがキクヅキのバルバトスを捉える。
「ッつ……!」
キクヅキは反射的に防御姿勢をとりながら、スラスターをふかせ衝撃を逃がそうとするものの、その威力は一撃でバルバトスの左腕を機能不全に陥らせた。
「キクヅキ、一旦離れよう」
「は、はい」
ハーフキャノンがガトリングと対艦ライフルで弾幕を形成する中、バルバトスはグシオンとの距離をとる。
しかし、グシオンの厚い装甲がハーフキャノンのガトリングをはね除け追い縋る。
「なんて堅さだよ!」
装甲の強化とそれに伴う機動性の低下を補う為のスラスター。着膨れしたという印象のグシオンはその巨体に見会わず豪快に機動力を発揮する。キクヅキ、タクミとの距離は付かず離れずといった具合。このままではランドマンロディとの戦闘があった分、キクヅキ達の方が早く息が切れる。
「タク殿、何か弱点無いんですか?」
「マンロディと同じだ。装甲の隙間、関節とかセンサー類とか」
オルフェンズ作中でもグシオンはバルバトスからの装甲の隙間を狙った太刀による攻撃で撃破されている。
だが、今バルバトスが装備している武器はハンマーチョッパーのみ。太刀はキクヅキが捨て置いて来てしまった。
「な、何か槍とか無いでありますか?」
「ヒートホークしかねぇ」
「えっと、えっと……じゃあ……その」
ハーフキャノンの白兵戦用武装はヒートホークのみ、ハンマーチョッパーよりも更にリーチは短い。
戦場を見渡しても状況を打開出来るものはない。
(長くて鋭い……)
「タク殿、そのライフルを小生に貸して欲しいであります!」
「いいけど、当てられるか?」
「大丈夫です!」
モニター越しのキクヅキの表情にタクミも賭けることにする。
「なら、頼む」
「はい!」
バルバトスがスラスターを駆使してハーフキャノンに近づく。機体同士の軌道が重なる一瞬、キクヅキとタクミは互いの得物を放出する。
対艦ライフルとハンマーチョッパー。それぞれに武器を持ち替え、迫るグシオンと相対する。
「脚を止めさせる。長くは無理だ」
ハーフキャノンが右手にヒートホーク、左手にハンマーチョッパーを構え、ハンマーを振りかぶるグシオンと激突する。ガトリングによる牽制もグシオンの装甲には無意味だが、センサー関係に被弾すれば動きが鈍る。グシオンはメインカメラを庇う必要があるため、全力でハンマーを振ることは出来ない。一番装甲の堅い全面をハーフキャノンに向ける為、多少ではあるが動きに制限が生まれる。
「てやぁぁぁーッ!」
グシオンの頭上。背中のメインスラスターを目一杯に光らせ、十分な助走をつけたキクヅキのバルバトスが刹那の隙を突きグシオンを襲う。対艦ライフルを脇に抱え、蒼白い尾を引くその様はさながら流星であり、敵を貫く槍の様に見える。
バルバトスを見上げたグシオンは回避を試みるが、トップスピードに乗ったバルバトスの一矢を避ける事は叶わない。
ガツン! と今日一番の音が鳴る。
衝撃でグシオンの頭部が変形する。
「この距離なら装甲も!」
頭部と襟元の装甲の隙間、キクヅキはその空白に突き立てた対艦ライフルの引き金を引き絞る。二発、三発、吐き出された弾丸が装甲の中を跳ね、その中身を蹂躙する。
「や、やりました! ナガツキさん!」
キクヅキはグシオンの光を失った双眸を見下ろし歓喜の声をあげる。同時にアナウンスがクエストの終了を宣言した。
「どうだった? 始めてのGBNは」
ログアウト後、ゲームを終えてヘッドギアを外すキクヅキにタクミが話しかける。初ガンプラ、初ログイン、初バトル。キクヅキにとっては初めての事ばかりだった。
バルバトス作りやすいキットとは言え、アクションフィギュア等に比べれば手間がかかるし、作り方に関しても多少口出しし過ぎたかもしれない。タクミは内心、その事が気がかりだった。
キクヅキは少し考えた後、ゆっくり口を開く。
「楽しかったです! ガンプラ作るのは大変だったりしたけど、自分で作ったガンプラが動くのは嬉しいですし、バトルも大変だけど、おもしろかったです!」
キクヅキの屈託の無い笑顔にタクミも自然に口角が上がる。タクミには彼女が本心でそう思っているのだと感じられた。
「そうか……、それは良かった」
「ナガツキさん? なんか嬉しそうですね」
キクヅキに言われてタクミも自分が笑っている事に気付いて照れ臭そうにする。
「そうか? いや、そうだな。自分が好きなモノを好きだと言って貰えるって嬉しいもんなんだよ。きっと」
「ぁ……、それは良かったであります!」
ソレを聞いて、GBNキクヅキもニカッと白い歯を見せる。
「明日もまた、やりましょう。たしか、フレンド登録とかあるらしいですし」
「あ、いや、だけども……」
GBNのさわりの部分を教えるだけで終わるつもりだったタクミだが、キクヅキの期待の眼差しに言葉を詰まらせる。自分はあまりGBNをやる気は無いとは言えない。
「そうですね、明日は流石に急ぎ過ぎであります。わたしもガンプラの知識等を勉強してくるので少々待っていて欲しいであります!」
「まぁ、仕方ない」
乗り掛かった船である。
タクミは何となく、何となくだが彼女の事を放っておくことに後ろめたさにも似た感覚を覚えていた。
「あ、そう言えば、これが小生の連絡先であります」
キクヅキがタクミにスマートフォンの画面を見せる。
「あ、ちょっと待て」
タクミもキクヅキ促されてスマートフォンを取り出しキクヅキの連絡先を登録する。
思えばガンプラ仲間とこうやって連絡先を交換することは今まで無かったな、と思いかえしながらタクミはキクヅキの連絡先眺める。
「また、GBNやりましょう!」
「ああ」
初GBNから二、三日後、キクヅキは早速ショップに居た。今日は二年生のタクミは授業が長引くためショップに付き添って来てはいない。だが、大まかにガンプラ製作に必要な道具類は聞き及んでいる。キクヅキの今日の主目的は家でガンプラを作る時の道具を買い揃える事。そしてその道具を試すガンプラを購入する事。
店内に入ったキクヅキはまずガンプラコーナーに向かう。目の前の料理は好きなモノから食べるタイプのキクヅキだ。
ガンプラコーナーには先客がいた。
身長はキクヅキと同じくらい。小柄で長い黒髪が店内の照明を受けて艶めいている。落ち着いた雰囲気の制服らしき格好に凛とした印象を受ける。反面、届かないのか棚の上の方の箱を取るために背伸びをして手を伸ばす姿が可愛らしく見える。
(ちっちゃいなー。中学生くらいかな……、ガンプラ女子だ)
自分のことは棚に上げ、キクヅキはそう考えていた。
少女は見たところ一人で来ているのか、そういうところもキクヅキに親近感を抱かせる。
(あ、そうだ。わたしも)
キクヅキは自分の本来の目的を思いだし、陳列された商品の中から目当てのガンプラを探す作業に戻る。
(あ、あったあった)
タクミに勧められたガンプラを見つけ棚から箱を一つ手に取る。
(HGダブルオーガンダム。ナガツキさんがオススメだと言っていたガンプラ……)
キクヅキの戦闘を見たタクミの勧めたガンプラ。
バルバトスと同じ近接戦闘を主体とするモビルスーツ。バルバトスに比べてビーム兵器を搭載しており、中距離での射撃攻撃もこなすことができる。試してみて射撃戦の方が好みならそういう改造を施すかベースのキットを変更してもいい。
発売から年月は経っているがコストパフォーマンス、可動域、どちらも最新のキットにも勝るとも劣らない。付属品はGNソードⅡが二振り、ビームサーベルが二本。クリアのサーベル刃が付かないのは残念だが、GBNでは関係無い。
値段に照らし合わせれば妥当というところ。ガンプラ初心者であるキクヅキにちょうどいいキットだと言える。ついでに最近キクヅキがガンダムOOスペシャリストエディションⅠを見たということも大きい。
(あ、あと、ニッパーとデザインナイフ)
ダブルオーを買い物かごに入れキクヅキはツールコーナーへ向かう。
ツールコーナーには様々な工作道具が陳列されており、ニッパー一つとっても種類が豊富に用意されている。スタンダードなニッパーから薄刃ニッパー、片方ニッパー。切れ味の鋭いモノ、刃の強いモノ。クセのあるものから初心者向けのモノまで、キクヅキがガンプラ以上に道具選びで迷ってしまう程に多種多様だ。
(ナガツキさんはそんなに気にしなくていいって言ってたけど……)
取り敢えず必要なのはニッパーとデザインナイフ、あったらいいのがヤスリと接着剤、ピンセット。いつまでもショップの製作コーナーを使い続ける訳にもいかない。
(うわっ……高!)
ニッパーが一つで二、三千円。一番値段の張るものは四千円を越える。今まで手にしたガンプラが千円前後であったことから、キクヅキの受けた衝撃は大きい。
必要な道具とは言え、思っていた以上の支出に財布を握る手に力がこもる。
(あ、わたしはこっちでいいや……)
何かいいかと、棚を眺めていたキクヅキはツールコーナーの端に初心者向けセットを見つけた。
ニッパー、鉄ヤスリ、デザインナイフ等が入ったセットで価格は千円~二千円前後。今のキクヅキのお財布事情に合った商品。それぞれのモノは粗悪なモノではくなく、値段相応の商品がセットになることで、いくらか安く手に入る。店側も抱き合わせで買って貰いたい事に加えて、初心者に向け裾野を広げたいのだろう。
(これでわたしもガンプラ女子!)
商品を入れた買い物カゴをレジに運ぶキクヅキの表情に思わず笑みがこぼれる。
誰が為のガンプラ、誰が為の改造。
答えは近くにあり、尚も遠い。
次回「プロトタイプ」
キクヅキ、GNドライブの輝きを知る。