ガンプラだと、この勢いでGP羅刹とか出てくれないかなーとか思ってます。
「なんだかGBNの中の友達ってワクワクしますね!」
「そうか?」
楽しそうなキクヅキに対して、フレンドと言っても会ったら挨拶する知り合いくらいの認識しか持っていないタクミはよく分からないという顔をした。
「ミナちゃんってどんな人なのかな? とか、どのガンプラが好きなのかな? とか気になりませんか?」
「別にそういうのはな」
「それにGBNでのダイバーと本人がまるっきり同じだとは限らない。ダイバールックは好きにカスタマイズできるし、性別を変えたり、人間以外になる事もできる」
「確かに……」
現実とは違う自分になれる。それがGBNの醍醐味とも言える。ミナも、タクミやキクヅキもダイバールックが現実の姿と同じだという保証は無い。
「リアルの事を詮索しないのもマナーの内だ」
「了解であります!」
今日も今日とてガンプラショップへとやってきた二人。アルバイトはしているものの、タクミは懐事情は芳しくないのでGBNのプレイが主目的。ガンプラバトルにおいてこういった客層は少なくない。むしろ組み立てたガンプラを持ち寄るのが普通なので必然的にそうなる。
「小生、ちょっとガンプラ見てくるであります!」
対してキクヅキは意気揚々とガンプラコーナーへ向かおうとする。
「キクヅキ、この前もガンプラ買ってなかったか?」
キクヅキもタクミと同じ学生の身、ガンプラ以外に財布の中身を使わない訳でもなく、そんな何体もガンプラを買える訳ではないはず。
「
ガンプラは世代を越えて楽しまれている。キクヅキの父も何かしらガンプラに思い入れがあるのだろうか。
そうでなくても可愛い娘が新しい趣味を始めたとなれば多少甘くなるのも致し方ない。嬉しそうに棚のガンプラを物色するキクヅキにタクミもそう思った。
ガンプラの価格は同じ1/144スケールといえど安いものはワンコイン、高いものは数千円まで様々だ。
「タクミ殿ータクミ殿ー、どれが良いと思います?」
「難問だな……」
ズラリと棚に並ぶガンプラの箱。“初心者が最初に作るキットにオススメ出来るガンプラ”というものは議論され尽くしていると言ってもいい。
しかし、それ以降は好きなガンプラを作るといいとしか言いようがない。キットとしての出来、原作からの愛着、ゲームで活躍した愛機。それぞれ思うところはあるだろう。
「そうだな……、オプションパーツみたいなモノもいいかもしれない」
「オプション、パーツでありますか?」
「要は武器とかバックパックとか、ガンプラに追加して強化するためのキットだな」
「小生のバルバトスとダブルオーを強化するパーツでありますね?」
目を輝かせプラモコーナーに突撃していくキクヅキ。
「オプションセット6か」
キクヅキの手に取った箱は通常のHGのキットに比べると半分程度の大きさのモノ。パッケージにもかかれている様に数種類の武器にバルバトスルプス様の握り手、HDモビルワーカーがセットになっている。
「はい、とりあえず強そうな武器を!」
(オプションセット6と言えばブレードとバット……またイロモノを)
「駄目で……ありますか?」
身長の低いキクヅキが隣に立てば必然的に上目遣いになる。その仔犬のような瞳に抗う術をタクミは持たなかった。
「良いんじゃないか? “ガンプラは自由だ”って言うし」
むしろ、バットはただ、殴るだけなら他の武器より扱いやすいかもしれない。
「あと、モビルスーツも何か」
「モビルスーツか……」
「おすすめのガンプラありますか?」
「そうだな……これなんかどうかな」
タクミが棚から手に取った箱にはMS一機分はあるシールドを構える機体の姿が描かれていた。
「ジム……ですか?」
キクヅキが眺めるパッケージ、その頭部にはガンダムのツインアイも特徴的なモノアイも見受けられない。
「ジム・ガードカスタムはORIGIN名義であるMSD、所謂MSVと同じ様な立ち位置だ。ガードカスタムの名前自体は初期のMSVのスナイパーカスタムの説明書に記載されていた一文だったんだが、後にゲームでデザインが成され、MSDで再設定。ガンプラとして立体化という流れだ。ジム・スナイパーカスタムを元に防御性能を向上させた機体で、“ジム”ではあるがスナイパーカスタムはガンダムに匹敵する性能を持っている。ガードカスタムはさらに防御力を強化し、専用武装のガーディアンシールドは四種の合金を用いた五層構造になっている」
「なるほど。凄いジム何ですね!」
「まぁ、そんなところだ」
「どうする? 早速仮組していくか?」
会計を済ませたキクヅキにタクミが聞く。
嬉しそうに両手で箱を抱えるキクヅキはタクミの問いに顔をパァっと明るくした。
「いいのでありますか?」
「今日は時間あるしな」
キクヅキとタクミはガンプラ製作コーナーに向かう。
だが、ガンプラ製作コーナーは予想外に混雑していた。確かに広いスペースではないのだが今日の混み様は珍しい。
とは言え、座る場所も無い程ではなく。キクヅキがガンプラを仮組みするくらいなら問題無さそうだった。
「おぉー、これがガーディアンシールドでありますね」
箱を開けたキクヅキがランナーを眺めて言う。
グリップ部分を含めて四パーツで構成されているガーディアンシールドはパーツとしても大きく、ランナーの中でも目立っている。
「手伝おうか?」
「あ、じゃあ、お願いするであります」
ガードカスタムは特段パーツ数の多いキットではないが、組み立てスペースで作製している事、オプションセット6が後に控えている事からタクミはゲート跡の処理等の作業を手伝う事を申し出ていた。
「流石凄いジムであります! 肩の根元が前にも上にも動く構造です」
「オリジンジムの共通フォーマットだな、腹部はもっと動くから」
「おぉー、凄い可動であります!」
胴体を折り曲げたガードカスタムは腹部からほぼ直角まで前に倒れる。
「反面、ちょっと股関節周りが癖があるが総合的にはよく動く」
タクミが手伝っているとはいえ、キクヅキがガンプラ制作になれてきたのかガードカスタムを組み上げる早さも上手さも初めてガンプラ制作を試みた時に比べて格段に向上している。ガンプラは細かな形状の違いこそあれ、大まかなパーツ構成は似通っている場合が多いことも組み立て易さに貢献しているのかも知れない。
「見てくださいタクミ殿! 膝を曲げると脚の装甲が動いて!」
連動ギミックにテンションを高めるキクヅキ。その様子を微笑ましく思い、タクミも知らず知らずに口角を上げた。
一時間も掛からずにMS本体の一通りのパーツを組み終えたガードカスタムが机の上に立つ。
「おぉー! 圧巻であります」
「ガードカスタムは色分け優秀な方だから素組みでも画になるな」
「ビームダガーも小生好みの感じであります」
キクヅキがガードカスタムの前腕部からビームダガーを取り外し、柄のパーツとビームのエフェクトを付け持たせる。
ガードカスタムと名乗りつつも二刀を構える姿は攻撃的だ。
「でもシールドはちょっと持たせにくいです」
「そうだな、俺のザクみたいに背中からサブアームを伸ばして懸架させるとかしないと厳しいな」
設定では多層構造のガーディアンシールドは重量対策か、主に三パーツで構成されている。だがそれでも持ち手が三ミリの丸軸だからかグリップは効かず構えるポーズは取らせにくい。とはいえ流石にビームスプレーガンとビームダガーだけでら寂しい。
ならばとキクヅキはもう一つの箱を手に取る。
せっかくオプションセット6も買ったのだからと、武装はオプションセットのモノを装備させることにした。
「灰色一色ですね」
箱からランナーを取り出しキクヅキが呟く。
「まぁ、オプションセットだからな」
比較的低価格の武器セットであるオプションセットシリーズはほぼ色分けは成されていない。
「まぁ、武器だし多少色が足りなくても見栄えは悪くないさ、なんなら後でマーカーなんかで塗り足せばいいし」
「そうでありますね!」
気を取り直してキットに向かい合うキクヅキ。
オプションセットの中身は武装類だけあって、左右のパーツを張り合わせるだけ、所謂“モナカ割”等、少ないパーツ数で構成されているものも多い。
「すみません。隣、いいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
タクミが隣の椅子を引く。声をかけてきたのは見た目は中学生位の少女で、キクヅキと同じ位の大きさに見えた。その事実をキクヅキに話せば不貞腐れるのは想像に難くない。
「あ、ありがとうございます」
少女は丁寧だが緊張した様子で礼を述べた。
同じガンプラを趣味とする者だろうとタクミは高校生、少女からすれば声をかけるのは多少勇気がいるだろう。一緒にキクヅキが居る分だけまだ声をかけやすいかもしれない。兄妹にでも見えた可能性もある。
「ミナモー、席あった?」
髪を二つ結びにした少女がまた一人。隣に座る少女の連れだろうか。
「ありましたよー」
「ラッキーだね、今日は混んでるから」
二人は椅子に腰掛けるとガンプラの箱を取り出した。
(ジャイアントガトリングか……)
マスターグレードが装備しても違和感の無い巨大なガトリング砲、威力は絶大だが巨大さ故か取り回しが悪い。
(HGクラスだと扱いにくいが)
タクミの隣で少女は鞄からガンプラを取り出す。
(ギラ・ドーガか)
モビルスーツはあるところまでは宇宙世紀の年代が進むにつれて大型化されていく。ギラ・ドーガの登場する『逆襲のシャア』の頃には一年戦争の頃のモノよりかなり大きくなっている。それは1/144スケールであるガンプラにおいても同様。ギラ・ドーガならタクミのザクが持つよりも扱いやすいだろう。
(なんか、最近よくギラ・ドーガを見るな)
タクミはGBNでフレンドになった少女を思い出す。
「タクミ殿! タクミ殿! 見てください、フル装備ジムガードカスタムであります!」
目の前に迫らん勢いで言うキクヅキの前にはオプションセットの装備で身を固めたジムガードカスタムが立っていた。
両腕にはロケット砲、右手にはグレネードランチャーとブレード、ランドセルにバットを装備している。本来のガードカスタムの武装であるビームダガーは腰に取り付けられ左手でガーディアンシールド、腰裏にある三ミリ穴にはビームスプレーガンを懸架している。
「シールドも使うのか」
「取り敢えずであります。無理なら置いときます」
武装過多感も否めないが、使った武装は放棄していくスタイルと言えばそこはかとなく強襲用モビルスーツに聞こえなくもない。
「ガンプラも完成した事ですし、早速ディメンションに行きましょう!」
「お、おう」
キクヅキに気圧される形でタクミもランナー等の片付けを行う。
「そうだ、今ログインしてるかメールしてみます」
タクミは誰が? と言おうと思ったがGBNでキクヅキがメールを送れる相手も限られている。
キクヅキはダイバーギアを起動する。
「今からログインします! 予定が合えば一緒に遊びませんか? っと」
「GBNにログインしてるとは限らないし、あまり期待してもな」
「その時は今度一緒に遊べる時に遊びます! 取り敢えず送信であります」
送信のボタンが勢いよく押され、メールが送られる。
ピロリン。と隣の席からダイバーギアの着信音。
ギラ・ドーガの少女がギアを操作する。
「あ、返信です。私も今からログインするところです。だそうでありますよ」
「よかったな」
「はいッ!」
キクヅキは嬉しそうにギアを弄りメールを返す。
隣の席からまた着信音。
「まさか、なぁ……」
タクミが呟いた。