遊戯王 デュエリスト・ストーリーズ 作:柏田 雪貴
私? 受験勉強ですよ・・・・・・。
クリスマス。本来の目的は忘れられ、人々が楽しむイベントの一つとなったものだ。
「おはよう、遊羽くん、真宮さん」
「おう」
「おはようございます、遊民くん」
いつものように挨拶を交わす遊羽達。
本日デュエルスクールは授業なし。クリスマスのイベントの日である。
「そう言えば、真宮さんって生徒会長だよね? イベントの運営とかはいいの?」
「はい。今日は楽しむようにと、先生方が頑張ってくれています」
デュエルスクールの校門には飾り付けしたもみの木、学校のいたるところにも飾り付け。これら全て、職員の皆様のご活躍の賜物である。
「そうじゃねぇと、俺が虹花と一緒にクリスマスを楽しめないだろ? ちょっと
いい笑顔で言う遊羽。職員達は泣く泣く休みを削って飾り付けをしたのだ。
「さすがと言うかなんと言うか・・・・・・」
「身内に甘いだけだろう」
関心半分呆れ半分な戦に、春樹が口を出す。
「あ、そうだ。はい、メリークリスマス」
戦は思い出したかのように鞄を開け、遊羽達にプレゼントを渡す。
「これは・・・・・・」
「プレゼント交換、ですか」
《プレゼント交換》。お互いにデッキのカードを一枚、相手にプレゼントするカードだ。エクスチェンジと合わせれば、擬似的なサーチにならなくもない。
「プレゼントがこれっていうのはどうなんだ? まぁ、面白いとは思うが・・・・・・」
「いや、ジャンがそれがいいって聞かなくって」
『プレゼントにプレゼント交換。とても面白いと思ったのですが、余り受けませんな?』
「いえ、面白いとは思いますよ」
ただ、余り使い道もないカードだ。死蔵するようなものを渡しても、喜ばれることは少ないだろう。
「俺達からはこれだ」
「一緒に作ったんです。味は保証しますよ」
遊羽と虹花が差し出したのは、ジンジャークッキー。
「わぁ、ありがとう!」
「如月がこれを・・・・・・? 身体に害はないのか?」
プレゼントが食べ物であることを喜ぶ戦。春樹は遊羽がクッキーを作ったことが疑問らしい。
「なら食わなくてもいいぜ。勿体ないけどな」
彼も彼なりに頑張って作ったのだ。今までは虹花にしか送らなかったプレゼントだ。何を作るべきか、かなり悩んだのだが、送ればもう相手のもの。どうしようと相手の勝手だ。事実、戦はもう食べている。
「・・・・・・あれ、普通においしい」
意外そうに声を上げる戦。内心(ならここは僕が犠牲に!)と思っていたのだが、いい意味で予想を裏切られたらしい。
「だろ? アベシ・ジェスターの二つ名を名乗ってもいいはずだ」
『だそうよ、春樹。食べてみたらどうかしら?』
いつの間にか春樹のそばに顕現したディペが言う。春樹もディペが言うのならと思い切ってクッキーをかじる。
「・・・・・・旨い、だと」
その心底驚いたような表情と声音に、さすがの遊羽も少し傷ついた。
「おいおい、俺は何だと思われてるんだ?」
「まぁまぁ、意外性があったってことだよ。ということで、ボクにも一つ」
ヌルッと現れた遥がクッキーをせびる。その欲望に対する忠実さに、遊羽は呆れながらもクッキーを手渡す。
「うん、確かにおいしいね」
「そいつはよかった。これでマズいとか言われたら、立ち直れる気がしねぇからな」
恐らく、彼は二度とクッキーを作らなくなっていただろう。まぁ、もしそうなっても虹花が慰めれば復活しそうだが。
「これはオレからだ。受け取ってくれ」
春樹が差し出したのは、戦と同じようにカード。しかし、全員異なるカードだ。
「・・・・・・ガンドラX?」
「迷い風、ですか」
「王者の調和だね」
「強欲で金満な壺かー」
どうやら、一人一人に合うカードを見繕ったようだ。ワンキル・ソリティア研究会副会長は伊達じゃないらしい。
「おい待て。ガンドラXって、俺はソリティアしないからな? 勧誘も受けねぇぞ?」
ワンキルパーツ、ガンドラX。どうやら、遊羽はそれを勧誘と受け取ったらしい。
「いや、そういう積もりでは無かったのだが・・・・・・」
『少し深読みしすぎよ』
「あ、いや。悪い」
少し微妙な空気になったのを感じて、遥もプレゼントを取り出す。
「ボクからはこれだよ!」
彼女のプレゼントもカードだ。遊羽達が普通なのか、デュエリストならばこちらが普通なのか。
「ピースの輪? 何、このカード」
「・・・・・・ボク達がこのピースの輪みたいに、ずっと一緒にいられればなって、思ってさー」
凄く乙女な理由だった。乙女さん以上に乙女だ。男装女子だったのに。
「・・・・・・可愛い」
「え?」
少し恥じらう遥の仕草に、思わず呟く戦。それを拾ってしまうのはデュエリストだからか、遥の耳にもバッチリ聞こえている。
「・・・・・・そ、それじゃあ、皆のところに回ろうか!」
その場を紛らわすように、遥は話題を変えた。
そんな彼女の行動も可愛らしく思う戦だった。
ーーーーーーーーーー
「お、いらっしゃ~い」
『いらっしゃいませ~』
「メリークリスマス、なのです!」
遊羽達が向かったのは、ワンキル・ソリティア研究会の部室。そこには数人の生徒と、会長たる息吹、その妹の手鞠がいた。
「久しぶりだな、手鞠。早速プレゼントだ」
挨拶もそこそこに、遊羽はクッキーをプレゼント。
「ありがとうなのです! これも美味しくいただくのです!」
見れば、彼女の制服のいたるところに食べこぼしが。恐らく、沢山お菓子をもらって食べたのだろう。
「ったく、食うのはいいが、こぼすなよ。ちょっとじっとしてろ」
「え?」
遊羽は軽くかがみ、手鞠の食べこぼしを回収する。その様子は、さながら兄妹だ。
「なんだろ、今凄く兄としての危機感が。ちょっと遊羽、デュエルしない?」
「これ捨ててからな」
無駄にできる男な遊羽だった。
遊羽が食べこぼしを捨てている間に、戦達もプレゼント交換タイムとなる。
「僕からはこれ。プレゼント交換」
「プレゼントにプレゼント交換なんだね♪ このゴブリンの子が不憫でならないんだけど」
「オレからはこれだ」
「春樹が持ってるカードはほぼオレも持ってるけど、だからってモリンフェエンはないと思うんだ♪」
「ボクからはこれだよ」
「ピースの輪。うん、どうリアクションとればいいの?」
それぞれからプレゼントをもらい、律儀にツッコミを入れる息吹。もしモンスターだったら過労死枠だろうか。
「オレからのプレゼントは、と行きたいんだけど、
『ごめんね、皆』
軽く頭を下げて謝る息吹。オッドアイズもそれにならうが、遥には見えていない。
「むしろ、なんで春樹が準備しているのかがわからないんだけど?」
「このカードは元々持っていたものだからな。オレが持っていても腐らせるようなカードだ、プレゼントにした方がいいだろう」
ガンドラXだって、誤って四枚買ってしまったものの一枚だ。それならば、一々プレゼントを買いに出かける必要もないのだろう。
「なるほど、その手があったか!」
『もうてんだった!』
二人(人?)揃って納得したように手を打つ。ワンキル・ソリティア研究会会長の名前は伊達だったらしい。
「それで、デュエルか? テーブルデュエルでいいよな、早くしろ。他も回らないといけねぇんだ」
「別にそこまでしてデュエルしたい訳じゃないんだけど!? ま、するけどね♪」
「なら、オレ達もゆっくりするか」
「そうですね。幸い、お茶菓子もありますし」
壁に立てかけてあったテーブルを引っ張り出し、展開。雑談混じりの気楽なデュエルが始まる。他の面子は座ってティータイムだ。
「それにしても、今年は色々あったね。ペンデュラム召喚」
「そうだな。俺もこんな色々あるとは思わなかったぜ。FAで破壊からダークマター。三枚除外しろ」
「Pスケールとデッキが!? うん、オレも虹花ちゃんやお前が人外になるとは思わなかったね。ドロー♪」
「あぁ、本当だな。天球の聖刻印の効果でガンドラXを特殊召喚、効果で4000ダメージ。俺の勝ちだな」
「・・・・・・うそん」
先ほど春樹がプレゼントしたカードで決着がついた。相手ターンにガンドラXは非道いと思う。
「・・・・・・失敗したな。あわよくばワンキルやソリティアをしてくれればと思ったが、奴が強くなっただけか」
『ええ、本当に。来年はもう少し考えてからにしましょう』
そう呟き嘆息する春樹とディペ。その様子に、当の遊羽までもが嘆息する。
「こっちはせっかく手に入れたダークマターがおじゃんになるんだ。これぐらいは勘弁してくれよ」
そう、本日は12月25日。あと6日でダークマターは禁止カードだ。その分は彼もデッキを強化しないと割に合わない。
オリジナルのナンバーズで闇のカードだろうと、ルールには従わなければならないのだ。
「それに、春樹はルドラの魔導書が準制限になったんだからおあいこだろ」
「まぁ、僕は何も無かったんだけど・・・・・・」
がっくりと肩を落とす戦。フェニックスブレードの禁止が応えたらしい。あれはゴブリンを禁止にするだけで十分だと思っていたのだろう。そうはいかないのがデュエルモンスターズなのだが。
「ま、大晦日に使い納め大会でもやるよ♪ それでいいかな?」
息吹の提案に一応は全員納得し、その場は解散となった。
尚、大晦日はソリティアが飛び交うこととなった。(確定)
ーーーーーーーーーー
その後、他の面子のところにも寄り、プレゼントを交換した。クリスマス特有のどんちゃん騒ぎは続いていたが、そこから抜け出した遊羽と虹花。
二人は、屋上でワンキル・ソリティア研究会の花火を待っていた。
「どうしたんですか? 今年は二人で見ようって」
「まぁまぁ、ちょっとだけ待ってくれよ」
遊羽は何でもないように笑い、それに不満そうに虹花は頬を膨らませる。
丁度その時だった。
「お、上がったぜ」
「ええ。そうですね」
クリスマスに花火というのもおかしな話だが。
「なぁ、虹花」
打ち上げられる花火を見ながら、遊羽は口を開いた。顔は外に向けたままだ。
「どうかしましたか?」
虹花もまた、花火を見ながら答える。
「将来、俺達は結婚するよな?」
「はい」
それは、二人の中ではほぼ確定事項だ。
他者から見れば異常かもしれないが、二人にとってはそれが普通だ。
「だからと思って、俺達は特に何もしなかった。恋人になるっていうのも、今更な気がしたしな」
「・・・・・・」
少し苦笑しながら語る遊羽。虹花は何も答えない。
「でも、周りはそうじゃねぇ」
「・・・・・・そうですね」
それも、二人の共通の認識だ。
周りが異常なのではなく、自分達が異常なのだと。
「だから、これを受け取って欲しい」
「えっ?」
虹花が驚いて遊羽に向き直ると、彼は小箱を差し出していた。
「これは?」
「・・・・・・開けて、自分で見てくれ。割と恥ずかしい」
虹花は小箱を受け取り、紐をほどいて中身を確認する。
「・・・・・・指輪、ですか?」
「ああ。改めて、虹花」
遊羽は虹花に跪き、その瞳を見つめる。
「俺の、婚約者になって欲しい」
「・・・・・・はい」
頬を赤くしながらも答えた虹花。遊羽はその回答を聞き、指輪を虹花の左手薬指にはめる。
「・・・・・・恥ずかしいです・・・・・・」
「安心しろ。俺もだ」
お互いの顔を見ることができずに花火を見る二人。
空に打ち上がる季節外れな花火が、二人を照らしていた。
本編より未来の話ですが、この状況になるかどうかはわかりません。
IFのお話として思ってください。