遊戯王 デュエリスト・ストーリーズ   作:柏田 雪貴

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こっちを更新せず、番外編を書いた作者がいるらしい・・・・・・

私だ。

というわけで、番外編を書いたので、詳しくは目次か作者ページへ。


交流戦の始まり

 翌日、戦が起きて朝食を食べようとリビングへ向かうと、そこは中々に騒がしくなっていた。

 

『ぬおぅ!? そこで掴み技はキツいであります!』

 

『知ってるの。だからやってるの』

 

 ジャンク・シンクロンのジャンクロンと、ナイトエンド・ソーサラーのサラ。ジャンクロンは春休みの間に上位の精霊となった戦のカード。そしてサラは開けたパックから出てきた精霊だ。

 

『あ、おはようでありますご主じ、って今ハメ技を!?』

 

『おはようなの、マスター』

 

 最近人気の格闘ゲームに興じながら挨拶する二人に、戦もまた「おはよう」と返す。

 

 おい、デュエルしろよ。

 

『ジャンクロン、サラ殿、せめて挨拶くらいはキチンとしてはどうですかな?』

 

 戦の中からヌルッと顕現したジャンが窘めると、二人は急いでゲーム機を閉じた。

 

 ジャンクロンとサラの攻撃力は1300、ジャンは2300。『ユニオン・アタック』や『クロスアタック』を使わないと敵わないため、基本的に彼には従うのだ。

 

 ちなみに、サラは初め戦に反発してしっかり教育(調教)されたりしている。

 

「別にいいんじゃない? ジャン」

 

『いいえですぞ、主殿。日頃からしっかりしていないと、いざと言うときに力が出せないのですぞ』

 

「日頃からだらけてるジャンが言うと説得力ないね」

 

 うぐ、と言葉に詰まったジャンに、ジャンクロンとサラが白い目を向ける。

 

「まあいいや。早くしないと、学校遅れるしね」

 

 朝食支度を始める戦。ジャンも彼の中へ逃げようとしたが、それをジャンクロンが掴み、サラが懐から『ユニオン・アタック』のカードを取り出す。

 

 その後、戦の食事のBGMに悲鳴が加わったのは言うまでもない。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 戦が正門へ到着すると、丁度遊羽と虹花に鉢合わせた。

 

「おはよう、遊羽くん、真宮さん」

 

「よう」

 

「おはようございます」

 

 挨拶を交わし、学校へ入ろうとする彼らに駆け寄る生徒が一人。

 

「おはようございます、先輩方! 昨日はどうもすみませんでした!」

 

 久我修也である。

 

「えっと、急にどうしたの?」

 

「いえ、昨日先輩方に言われたことをオレなりに考えてみたんです。そうしたら、先輩方がすごくオレの安全を考えたことを言ってくれていたんだ、ってわかったんです」

 

 尋ねた戦も引くほど純粋な瞳で語る修也。遊羽は虹花の手を痛くならない程度に全力で握ってその純粋さから逃れようとする。

 

「だから、オレはオレなりに頑張って、先輩方に認めてもらいます! その、『精霊』とかについては力になれないかもしれませんが、オレにできる限りのことはさせていただきますので!」

 

 遊羽が一歩引いた。虹花のいる前で彼が後退したのは、これが初めてだった。

 

(遊羽・・・・・・)

 

 虹花が視線だけで「大丈夫ですか?」と訊くと、遊羽は脂汗を流しながら頷いた。

 

「見ていてください、先輩方! オレもいつか先輩方みたいに強くなってみせますから!」

 

 そう言って教室へと去っていった修也。・・・・・・何というか、一方的であった。

 

「一方的なのって、元からだったのか・・・・・・」

 

 純粋さに当てられ、疲労した遊羽は疲れた声を出す。

 

「お疲れ様です、遊羽。教室に行ったら膝枕しましょうか?」

 

「悪い、頼む」

 

 完全に虹花に依存している遊羽。虹花としてはそんな彼も愛おしくて堪らないのだが。

 

「そんなんじゃあ、今日の交流戦で負けちゃうよ? 遊羽くん」

 

「あ? 交流戦?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 交流戦。

 新入生と上級生がデュエルを通して交流するこの行事。去年遊羽はサボっていたがめ存在を忘れていたが、生徒会の手伝いで扱った書類にそんなことが書いてあったと思い出した。

 

 で、その組み合わせなのだが。

 

「何で(オレ)の相手があの主席なんだ・・・・・・?」

 

 少し震えた声で戦々兢々している遊兎に、彩葉は背中を押す。

 

「だいじょうぶ。遊兎、強くなるために色んなカードを探して、いろんな人と戦ってた。だから、だいじょうぶ」

 

 遊兎が帰ってきたときに確認していたカードたち。そして、春休みで増えたカードたち。それらを手に入れるために彼がした努力を、彩葉は感じ取っていた。

 

 ゆっくりと微笑む彩葉に、遊兎は気合いを入れ直す。

 

「ああ! 勝てるかどうかわかんねぇけど・・・・・・やれるだけやってやる!」

 

 そして、デュエルリングに立つ。

 

「初めまして、月見先輩。オレは久我修也。よろしくお願いします!」

 

「おう! (オレ)は月見遊兎、夜露死苦!」

 

 決まった、と内心ガッツポーズをする遊兎だが、端から見れば普通に挨拶しただけである。

 

「「デュエル!」」

 

月見遊兎

LP8000

 

久我修也

LP8000

 

 ディスクが先攻を示したのは遊兎。余所では新入生が先攻後攻を選べるらしいが、そんなルールはない。

 

(オレ)のターン! レスキューラビットを召喚! 効果でデッキからメガロスマッシャーX二体を特殊召喚!」

 

レスキューラビット ☆4 攻撃力300

 

メガロスマッシャーX ☆4 攻撃力2000

 

 最早お馴染みとなったウサギと鮫。稲葉の白兎がモチーフかもしれない。

 

「メガロスマッシャーXでオーバーレイ! 来てくれ、エヴォルカイザー・ラギア!」

 

エヴォルカイザー・ラギア ★4 攻撃力2400

 

 現れたモンスターに、観戦していた新入生の一割が卒倒した。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

月見遊兎

LP8000 手札3

場 エクストラ:エヴォルカイザー・ラギア 魔法・罠:伏せカード

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 昨日家に帰って新レギュレーションを見た彼は、既にマーメイドなしのデッキを組んだ。そのため、これは純構築の空牙団である。

 

「強欲で貪欲な壺を発動! デッキから二枚ドロー!」

 

 十枚除外される。

 

「通常召喚! 来い、ビート!」

 

空牙団の剣士 ビート ☆3 攻撃力1200

 

 空牙団の一員として戦うべく剣を構える獣剣士。

 

「なら、ラギアの効果発動だ! オーバーレイユニットを二つ使って、効果を無効にして破壊する!」

 

 獣剣士が仲間を呼ぼうと剣を掲げるが、ラギアがそれを遮り蹴り飛ばす。

 

「っ、なら次です! ワン・フォー・ワンを発動! 手札一枚をコストに、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! 来い、フィロ!」

 

空牙団の伝令 フィロ レベル1 守備力0

 

 ビートがやられたことを知らせるべく、フィロが伝令に走る。

 

「フィロの効果で手札から空牙団を特殊召喚できます!」

 

「リバースカード、禁じられた聖杯! そのモンスターの効果を無効にする!」

 

 修也の抵抗に対し、遊兎はカードのタイミングを見極め、止める。

 遊兎は、デュエリストとして、確実にレベルアップしていた。

 

「・・・・・・カードを二枚伏せて、ターンエンドです」

 

久我修也

LP8000 手札2

場 メイン:空牙団の伝令 フィロ 魔法・罠:伏せカード×2

 

 止められたのが一回であれば、まだ何とかなった。しかし、二回は辛い。

 

(オレ)のターン! ドロー!」

 

「リバースカード、烈風の空牙団! 墓地から空牙団の撃手 ドンパを特殊召喚します!」

 

空牙団の撃手 ドンパ ☆2 守備力1000

 

 遊兎のターンにも関わらず、ドンパが現れたことにフィロが反応する。

 

「フィロの効果発動! 空牙団が特殊召喚されたことで、墓地から空牙団を特殊召喚します! 来い、ビート!」

 

空牙団の剣士 ビート ☆3 守備力500

 

 ビートが現れたことで、次はドンパが反応する。

 

「ドンパの効果発動! 空牙団が特殊召喚されたことで、相手のカード一枚を破壊する! オレが選ぶのはエヴォルガイザー・ラギア!」

 

 友の仇を討つべくドンパがラギアを撃つ。その横ではビートが『いや、生きてるからね?』と念を押す。

 

「うわっ!? ・・・・・・(オレ)の周りって、相手ターンに色々する(こんな)のばっかりだな」

 

 過去のカウンターワンキルを思い出し苦い顔をする遊兎。しかし、それもまた彼の経験となっている。

 

「力を借りるぜ息吹! ペンデュラム・コールを発動! デッキから竜脈の魔術師と竜穴の魔術師を手札に加える! そしてペンデュラムスケールにセット!」

 

Pスケール 1-8

 

 光の柱に魔術師の師弟が現れ、天空に穴が開く。

 

「ペンデュラム召喚! 来い、レスキューラビット! 魂喰いオヴィラプター!」

 

レスキューラビット ☆4 攻撃力300

 

魂喰いオヴィラプター ☆4 攻撃力1800

 

 穴からヘルメットを被ったウサギと頭にこぶのある恐竜が落下し、背中をしたたかに打ち付ける。

 

「オヴィラプターの効果でデッキから究極伝導恐獣を手札に加える! 墓地のメガロスマッシャーXとラギアを除外して、手札から特殊召喚!」

 

究極伝導恐獣 ☆10 攻撃力3500

 

 墓地の魚竜二体を喰らい、紫電を纏った恐獣が君臨し、遊兎を守るように立つ。

 

「レスキューラビットの効果発動! 除外して、デッキから竜脈の魔術師二体を特殊召喚!」

 

竜脈の魔術師 ☆4 攻撃力1800

 

 ウサギに呼ばれてやってきた弟子と弟子。例によって色違いである。

 

「竜脈の魔術師二体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 来てくれ、星刻の魔術師!」

 

星刻の魔術師 ★4 攻撃力2400

 

 二体の魔術師がフュージョンし、黒い魔術師が現れる。おい、エクシーズしろよ。

 

「星刻の魔術師の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使って、デッキから闇魔術師を手札に加える! (オレ)はデッキから究極封印神エクゾディオスを手札に加えるぜ!」

 

「今度は何を・・・・・・」

 

 通常モンスターという緩い縛りによる展開のせいで、次にどんなカードは来るのか読みづらい。

 それは、修也を確実に追い詰めていた。

 

「墓地のモンスター全てをデッキに戻して、究極封印神エクゾディオスを特殊召喚!」

 

究極封印神エクゾディオス ☆10 攻撃力?

 

 とても魔術師とは思えない筋肉隆々の神。

 

「攻撃力が、決まっていない?」

 

「エクゾディオスの攻撃力は、墓地の通常モンスターの数だけアップするぜ。今はいないからゼロだ」

 

 つまり、見掛け倒しである。

 

「バトル! 究極伝導恐獣は、相手モンスター全てに攻撃できる! 戦わなければ生き残れない(サバイバル・サバイブ)!」

 

 まずはフィロにそのAGOを振るう恐獣。しかし、黙ってやられる修也ではない。

 

「リバースカード、デモンズチェーン! 究極伝導恐獣の効果を無効にして、攻撃できなくします!」

 

 恐獣を悪魔の鎖が襲い、縛り付け、動きを制限する。

 

「速攻魔法、滅びの呪文-デス・アルテマ! 場にレベル8以上の闇魔術師がいることで使える! 場のカード一枚を裏側で除外する!」

 

 エクゾディオスが何やら呪文を唱え、途中で諦めデモンズ・チェーンのカードを殴って除外する。

 

「なっ!」

 

「究極伝導恐獣でドンパに攻撃! 究極伝導恐獣が守備モンスターと戦闘する場合、そのモンスターを破壊し相手に1000ダメージを与えることができる!」

 

 恐獣が問答無用でドンパにデコピンし、ドンパが吹き飛ぶ。

 

久我修也

LP8000→7000

 

「ってことは、」

 

「次だ! ビートとフィロを攻撃!」

 

 次々とデコピンでモンスターを破壊する恐獣。シュール極まりない。

 

久我修也

LP7000→6000→5000

 

「星刻の魔術師とオヴィラプターでダイレクトアタック!」

 

 オヴィラプターがおもむろに自身のこぶをむしり取り、修也に投げつけ、星刻は杖を投擲。

 

「うっ」

 

久我修也

LP5000→3200→800

 

 残るは、無力な(攻撃力0の)神のみ。

 

「これでターンは終わり、次のターンで・・・・・・」

 

「エクゾディオスが攻撃する時、デッキからモンスター一体を墓地へ送れる。(オレ)はデッキから竜魔王ベクターPを墓地に送るぜ」

 

究極封印神エクゾディオス 攻撃力0→1000

 

 これでもたかだか攻撃力1000。しかし、修也のライフを削り取るには十分だ。

 

「エクゾディオスでダイレクトアタック!」

 

 4分の1ゴッドハンドクラッシャー。

 

久我修也

LP800→0

 

 何もできずに終わったことに呆然とする修也。遊兎は心配し声をかける。

 

「だ、大丈夫か? 何か(オレ)マズいことしたか!?」

 

 その様子からは、(ワル)さは微塵も感じられないのだが。

 

「・・・・・・如月先輩や遊民先輩の他にも、こんなに強い先輩がいたなんて!」

 

 顔を上げた修也は、とてもいい笑みを浮かべていた。

 

「先輩、昼休みか放課後、お時間ありますか? もう一度デュエルしたいです!」

 

「お、おう。放課後なら・・・・・・」

 

「では是非!」

 

 冷や汗をかく遊兎に気付かず、その瞳に憧れの感情を浮かべる修也。

 

 やはり、一方的なのは元々のようだ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「向こうは決着がついたみたいだね♪ こっちも始めようか」

 

 余裕綽々、といった雰囲気の青年の前に立つのは、黒髪ショートカットの小柄な少女。

 

「よろしくお願いします」

 

 ビシッ、と返事をしてディスクを構える彼女の名は鴻上 式(こうがみ しき)。

 

 セキュリティより派遣された、星河の後輩である。




「前回、私達について何も言われませんでしたね・・・・・・まさか、放置プレイ!? 放置プレイですか!? イイ! 実にイイですよ!」

「なー、この変態どうすればいい?」

「ふむ、この前大量発注があった世界には、この上がいるらしいのだよ! 是非とも会ってみたいな!」

「虹花、コイツらと生徒会やってて大丈夫か?」

「問題ないですよ。イベント事では戦力になりますし、扱いやすいです」

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