遊戯王 デュエリスト・ストーリーズ   作:柏田 雪貴

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大変長らく、お待たせしました。文化祭、アレは悪い文明・・・・・・。

今回、話がかなり進みます。


欠けゆく日常

『これは・・・・・・』

 

 半透明になった自身の右手を見て、少年は誰にでもなく呟く。

 

『消えるのかな、私達』

 

 その隣で少女が悲しそうに、寂しそうに言うと、側で佇んでいた青年が首を振る。

 

『わからない・・・・・・しかし、彼は気付かないだろうな。悲しいことだが』

 

 諦めた様子の彼に、二人は視線を落とす。

 

『せめて、一度くらい、話しかったなぁ・・・・・・』

 

 やがて、少年も諦めた様に力を抜き、消えていく身体への抵抗をやめる。

 

『そんな! まだ、私達・・・・・・』

 

 少女が悲痛な声を上げるが、それを待たずに少年の姿が光と共に消滅する。

 

『ここまで、か・・・・・・』

 

 青年もまた悔しそうに言葉を漏らすが、足から粒子となって消えていった。

 

『・・・・・・嫌だよ。こんな終わり方、嫌だよ。まだ私、お話もしてないのに・・・・・・』

 

 自身の結末に、少女は涙を抑えきれない。

 しかし、その涙を嘲笑うかのごとく、少女の身体は消えていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 交流戦を終え、式とのデュエルから逃れ帰路に付いた息吹。家に到着するなり向かうのは自室だ。

 

「手鞠、オッドアイズの調子は!?」

 

 階段を駆け上がるのももどかしく、転がるようにして部屋へと入った息吹に、ベッドの脇に座っていた手鞠は首を横に振る。

 

「目を覚まさないのです・・・・・・」

 

 悲しそうに目を伏せる手鞠に、息吹は苦虫を噛み潰したような顔で血がにじむほど拳を握り締める。

 

 手を開き、腰のデッキケースから取り出すのは《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のカード。それは、目に見えて分かるほどに色が薄くなっていた――――

 

 

 

 事が起こったのは、春休みもあと残り10日といった頃だ。

 

 また新しくデッキを作ったという遊羽とデュエルをし、惜しいくも負けてしまった所でオッドアイズが倒れた。

 デュエルの影響かと思い精霊専門の医者までDホイールを飛ばし(遊羽の後ろに乗ったので嫌そうにされたが)診てもらったが、原因は不明。身体が強制的に精霊界へ帰還しようとしている、という症状らしい。それにオッドアイズが抵抗しているのではないか、とフルネームのような名字を持った医者は言っていた。

 

 遊羽も何か言おうとしていたが、かけるべき言葉が見当たらなかったらしく舌打ちしながら頭を掻いていた。ただ、虹花やレヴ、他の精霊達への安否確認はしたらしく、悲しみや怒りの入り混じった顔でこう言っていた。

 

 ―――孝之先輩のカードの一部が白紙になったらしい。正確には、枠だけ残って絵柄やテキストが消えたらしいが・・・・・・他にも、カードが白紙になる事件を聞いたって星河先輩が

 

 詳しく聞くと、段々薄くなっていくケースと、一晩で消えたケースとがあるらしい。

 仮定としては、その精霊の強さ、精霊力の量などに比例しているのではないか、と電話越しに星河は言っていた。そのため、延命措置として精霊力を送り込んではいるが―――

 

(昨日よりも薄くなってる・・・・・・クソッ、オレの力が減ってきてるのもあって、そろそろマズい・・・・・・!)

 

 悔しさの余り唇を噛む息吹。そんな兄に手鞠は「お兄様・・・・・・」としか声をかけられない。

 

「・・・・・・ちょっと出掛けてくる。夕飯までには帰るよ♪」

 

 精一杯の笑みを手鞠へ向け、息吹は自宅を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 どうしようもない、どうにもならない感情を少しでも抑えるべく、あてもなく道を歩く。

 

(オレに残った時間はあと二年もない。その時間を縮めれば、まだオッドアイズの延命はできる。でも、それで・・・・・・)

 

 オッドアイズが喜ぶか、という思考にぶつかる。

 

 彼女は息吹のもう一人の妹だ。双子であるが故に息吹のように短命ではなく、人間と精霊にキチンと分かれている二人よりも、息吹のぼうが必ず早く死ぬ。

 

 ならば、寿命を削ってもいいのではないか。しかし、ただでさえ短い寿命を更に縮めたと知ったら、オッドアイズの悲しみは大きくなるだろう。

 

(クソ、結局悲しませるしかないのか・・・・・・)

 

 俯き音が鳴るほど強く奥歯を噛み締める息吹。しかし、それは何の意味もなさない。

 

「ならば、ワタクシが教えて差し上げましょう、龍塚息吹。君が一体どうすればいいのか。どうすれば、精霊をこの世界に留めることができるのか」

 

 声に反応し、顔を上げる。

 

 そこには、一人の少年が経っていた。

 赤い髪の上に緑の髪というトマトカラー。首に下げているのは片方に星のプリントされたゴーグル。着ているのはTシャツとダボついたズボンに白を基調としたマント。

 

「キミは?」

 

「ワタクシは遊亜(ユーア)。アナタとは、そうですね・・・・・・切っても切れない関係、でございましょうか」

 

 不敵な笑みでおどけて見せる遊亜に、息吹は訝しむ。外見からしてどう見てもトマトだしそのゴーグル見にくくないの? とか往来でマント何か着けて恥ずかしくないの? とか言いたいことは溢れるほどあったが、取りあえずセキュリティに連絡(もしもし牛尾さん?)することにしてケータイを取り出した。

 

「ああ待った待った! ワタクシは怪しい者ではございませんよ! ホラ!」

 

「・・・・・・もしもし星河先輩?」

 

「ちょ、あのバケモノ呼ぶのやめてもらえませんかねぇ!?」

 

 両手を広げ怪しくないアピールをする遊亜と名乗った少年に一瞬ジト目を向けた息吹は構わずそのまま通話をかけたが、彼の余りの必死さに一応今は通報しないことにした。

 

「で、精霊をこの世界に留めることができるって、どういうこと?」

 

 息吹は少年の心が星河と同じように読めないことに気づき、片手でいつでも通報できるようにしながら話を聞く。

 

「精霊を精霊界へ帰還させているのは、他ならぬワタクシ達の王! 止めたければ、あの方を倒す他ありませんよ?」

 

 大仰な身振り手振りと共に解☆説と遊亜は語る。

 

「それは、どういう・・・・・・」

 

「おっと、これ以上は有料です。お代はモチロン・・・・・・」

 

 トントン、と彼は自身のディスクを人差し指で軽く叩いて示した。

 

 彼のディスクは液晶画面が付いており、息吹は違和感を覚える。

 

(まー、この世界のデュエルディスクはGXと5Dsのをミックスしたようなモノ。アークファイブのワタクシのディスクは、まだないのでょうねぇ)

 

 心の中で軽く呟く遊亜だが、息吹にそんなことわかりはしない。

 数秒、悩んむように右手を口元に当て、左手で右肘掴む。

 

「一応訊くけど、ダメージが肉体へも影響するようなデュエル?」

 

「いえいえ、そんなことはございませんとも」

 

 半信半疑、といった息吹の視線を、どこ吹く風で受け流す遊亜。息吹は決心するようにディスクを構える。

 

「わかった、デュエルだ」

 

「賢明な判断ですね。それでは!」

 

「「デュエル!」」

 

遊亜

LP8000

 

龍塚息吹

LP8000

 

「ではでは、ワタクシのターン! まずは召喚師のスキルを発動、デッキからブラック・マジシャンをサーチします!」

 

 大仰な身振りと共に手品のような仕草でカードを手札に加える遊亜。彼は普段通りデュエルしているだけなのだが、息吹にはこちらの集中を削ごうとしているように見える。

 

「続けて、黒牙の魔術師と紫毒の魔術師でペンデュラムスケールをセッティング、ペンデュラム召喚! ブラック・マジシャン&相克の魔術師!」

 

ブラック・マジシャン ☆7 攻撃力2500

 

相克の魔術師 ☆7 攻撃力2500

 

 並ぶ二体の魔術師達。登場するなり黒い渦を出現させ、そこに飛び込む。

 

「エクシーズ召喚! 虚空の黒魔導師!」

 

虚空の黒魔導師 ★7 守備力2800

 

 爆発が起き、光が晴れると、そこにはブラック・マジシャンっぽい魔術師が。イメチェンだろうか。

 

「ワタクシはこれでターンエンドです」

 

遊亜

LP8000 手札1

場 エクストラ:虚空の黒魔導師 Pゾーン:黒牙の魔術師 紫毒の魔術師

 

 遊亜がターンを終えるなり、息吹は無言でカードの剣を抜く。

 

「ドラゴン・目覚めの旋律発動、デッキからオッドアイズ・アドバンス二枚を手札に加える」

 

 相手はオッドアイズ(息吹の妹)が何故あんな状態なのか知っている。そしてその原因は彼らの王。ならば、普段のようにおどけてデュエルする必要はない。

 

「セイファートを召喚、効果発動。手札からエクリプス・ワイバーンを捨てて、コラプサーペントを手札に。エクリプスを除外して特殊召喚」

 

輝光竜セイファート ☆4 攻撃力1800

 

暗黒竜コラプサーペント ☆4 攻撃力1800

 

 一見名前やステータス的に同じカテゴリに見えるドラゴン達だが、別にそんなことはない。

 

 エクリプス・ワイバーンの効果で除外した『終焉龍カオス・エンペラー』を手札に加えた息吹は、更に展開を続ける。

 

「二体でリンク召喚、天球の聖刻印、そして墓地の二体を除外して来いカオス・エンペラー」

 

天球の聖刻印 link2 攻撃力0

 

終焉龍カオス・エンペラー ☆8 攻撃力3000

 

 デッキから『輝白竜ワイバースター』を手札に加えると、未公開の手札二枚の内片方を発動する。

 

「カード・アドバンスでデッキ上五枚を確認、そしてカオス・エンペラーをリリースしてアドバンス召喚、オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン!」

 

オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 攻撃力3000

 

 オッドアイズが寝込んでいる今、彼のエースはこの赤龍。オッドアイズ・アドバンスは雄叫びを上げると、虚空の黒魔導師へ尻尾を振るう。

 

「オッドアイズ・アドバンスの効果発動!」

 

「残念、通しません! 手札からトラップ発動、神の警告でございます! そのヤンチャドラゴンには退場願います」

 

遊亜

LP8000→6000

 

 相手のエースを破壊することは、相手への精神ダメージの他、苛立たせるなどの効果が見込める。故に、初動(セイファート)にではなくここで使う。

 

「・・・・・・なら、カードを伏せてターンエンドだ」

 

龍塚息吹

LP8000 手札2

場 エクストラ:天球の聖刻印 魔法・罠:伏せカード

 

「ワタクシのターン! おっと運がいいですねカップ・オブ・エースを発動! まあ当然正位置()ですとも」

 

 さも当然のようにカードを二枚引く遊亜。しかしエクストラモンスターゾーンは埋まっているので、これ以上の展開はないだろうと見積もる。

 

「お次は強欲で貪欲な壺です。十枚もカードが使えなくなりますが、まあ必要な犠牲ですからね」

 

 無造作にデッキの上十枚を除外すると、手札が三枚にまで増える。

 

「とはいえ、やることがあまりありませんね。虚空の黒魔導師を攻撃力表示に変更していざバトルです」

 

「バトルフェイズ開始時、天球の聖刻印の効果発動、リリースして虚空の黒魔導師をバウンスする!」

 

 天球の聖刻印がその身体でもって宇宙の神秘的なナニカを黒魔導師に伝えると、満足したのか黒魔導師は帰っていった。

 

「天球の聖刻印の効果でデッキから嵐征竜-テンペストを特殊召喚」

 

嵐征竜-テンペスト ☆7 守備力2200→0

 

 環境で暴れまわった文字通り嵐の竜が舞い降りる。残る三体は何を思うだろうか。

 

「ならばメイン2、ペンデュラム召喚! 竜穴の魔術師、そして・・・・・・」

 

 遊亜は一枚のカードを見せつけるように裏返す。

 

「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ☆7 攻撃力2500

 

竜穴の魔術師 ☆7 守備力2700

 

 見慣れた赤竜の姿に、息吹は普段とは真逆の感情、怒りを抱く。

 

「っ! お前・・・・・・」

 

「おや、どうされました? 何かチェーンありますか?」

 

 安い挑発だ。しかし、わかっていても、息吹はそれに乗ってしまう。

 

「連撃の帝王発動! テンペストをリリースしてアドバンス召喚、オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン!」

 

オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 攻撃力3000

 

 彼の心情を現すようにオッドアイズ・アドバンスはオッドアイズ・ペンデュラムへブレスを吐く。破壊される際にオッドアイズ・ペンデュラムが発した悲しそうな鳴き声は、息吹の耳には入らない。

 

遊亜

LP6000→3500

 

 ダメージを受けたにも関わらず、クククッと愉快そうに遊亜は嗤う。全ては計画通りだ、と。

 

「それではワタクシはもう何もできませんねぇ。ターン終了です」

 

遊亜

LP8000 手札1

場 メイン:竜穴の魔術師 Pゾーン:黒牙の魔術師 紫毒の魔術師

 

「オレのターン! 墓地のテンペストの効果、天球の聖刻印とオッドアイズ・アドバンスを除外して特殊召喚! バトル!」

 

嵐征竜-テンペスト ☆7 攻撃力2400

 

 再び嵐を体現した竜が現れ、即座に臨戦態勢を取る。

 

「オッドアイズ・アドバンス、テンペスト! 攻撃だ!」

 

遊亜

LP3500→1100

 

 特に何の抵抗もなく攻撃を受ける遊亜。しかし、口元にあるのは変わらぬ笑みだ。

 

「全く、痛いですねぇ。ワタクシ達の計画が成功すれば、アナタは生き長らえるというのに」

 

 歪んだ口から紡がれる、歪んだ言葉。

 

「何・・・・・・?」

 

「アナタが死ぬのは、アナタの中の精霊の力に、人間の部分が耐えられなくなるから。しかし――――」

 

 そこまでで一度区切り、呼気を入れる。

 

「しかし、ワタクシ達の計画が成功すれば、精霊は消え、アナタの身体への負担もなくなる。アナタは晴れて一般人の仲間入り、というワケでございます」

 

 つまり、オッドアイズ()を捨てれば、息吹(自分)は助かる、と。遊亜はそう語る。

 

「その上で、アナタに訊きます」

 

 彼は嗤いを濃くすると、右手を息吹へと差し出す。

 

「ワタクシ達の仲間になりませんか? 龍塚息吹。そうすれば、今直ぐにでも、アナタの身体を直しましょう」

 

 オッドアイズ()を捨てろ、と。遊亜は彼を誘う。

 対して、彼は。

 

「断る」

 

 (自分)を捨てる、と息吹は答える。

 

「そうですか・・・・・・では、仕方ありません。悪役らしく、力づくで、と行きましょうか!」

 

 遊亜がディスクの横にあるボタンを叩くと、デュエルが強制終了し、ソリッドビジョンは全て彼のものになる。

 

「なっ、オッドアイズ!?」

 

 彼のモノとなったモンスター達は、まるでそこに存在するかのように動き、出す。

 

 ――――息吹へ向けて。

 

「・・・・・・っ、あーあ、結局はこうなったか」

 

 諦めたように息吹は脱力した、その時だった。

 

「おい息吹。何勝手に諦めたてんだ」

 

 一陣の、風が吹いた。

 

 衝撃と共にオッドアイズ・アドバンスとテンペストが吹き飛び、息吹の目にはよく見知った背中だけが映る。

 

「諦めてなんかないさ♪ 遊羽がいるってわかってたし、大丈夫だろうなって」

 

「チッ、助けなけりゃよかった」

 

 えええそんなー、という息吹の声を無視し、レヴと融合した状態の遊羽は先程まで遊亜のいた方向へ目を向ける。

 

『いやー、恐ろしいですねぇその怪力。まともに食らったら死んでしまいますねワタクシ』

 

 そこには既に人影はなく、ただ声が響くのみだった。オッドアイズ・アドバンスやテンペストも消えている。

 

「テメェ、どういうつもりだ? 息吹を引く抜くのはいいが、精霊を消す、だと?」

 

 え、いいの? と息吹は遊羽を見るが、シリアスな空気のせいで声には出せない。仕方なく、息吹は諦めた。

 

『言葉通りでございますよ。精霊を消す。それがワタクシ共の目的』

 

 その声に遊羽は眉を寄せ、息吹はおどけた雰囲気を引っ込める。

 

「で、なんでわざわざそれをオレたちに教えるたんだ? 言わなければ、オレたちが知るのはもっと先だっただろうに」

 

 息吹を引き込むにしても、もっとやり方はあったはず。どこかへ閉じ込める、などせずに、往来でデュエルを挑んできた。

 遊羽がここにいるのは、息吹がレヴの羽を使って彼に危機を知らせたから。つまりは、遊羽の手の届かない所であれば、息吹を仲間にするのなんて簡単だっただろう。

 

『察しがいいですねぇ。勿論、わざとに決まっているでしょう』

 

 愉快そうな声は続ける。

 

『アナタ達は少々特殊でしてね。アナタ達の精霊の力は、デュエルでなければ消すことができない。故にワタクシ達と、精霊の力を賭けてデュエルして頂きます』

 

 ククク、と喉を鳴らし、遊亜はそうそう、と付け足す。

 

『遊民戦、月見遊兎も連れて来てくださいね? でなければ、デュエルすることはありません』

 

 遊羽は聞き終えると、意味がわからない、と首を傾げる。

 

「俺達の力は消えないんだろ? ならデュエルしなければ関係ねぇじゃねぇか」

 

『おや? よいのですか?』

 

 その含みのある言いぐさに遊羽は苛立ちを覚えながらも、続く言葉を待つ。

 

『でしたら、真宮虹花はこの世界から消えてよい、と?』

 

「ッ、テメェ!」

 

 虹花は『屍界のバンシー』の精霊となっている。彼らの計画が成功すれば、虹花は消える。

 遊羽は精霊力を持ってはいるが、精霊ではないためにこの世界に残される。

 

「わかった、要は一週間後にここに来て、お前と王とやらを倒せば、精霊が消えることはないんだな?」

 

『ええ。世界は今まで通り、アナタ方は何も失わない、というワケです』

 

 どこまでも胡散臭いが、信じるしかないのだろう。でなければ、虹花やオッドアイズを失うことになるかもしれないのだから。

 

『それでは、どうぞ一週間、存分に足掻いてくださいね?』

 

 その言葉を最後に、声は途絶えた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 同時刻。

 『アベシ』からかなり離れた街『ヴィーウ』では、悪霊の大量発生が起きていた。

 

「これで終わりだ」

 

『グァッ、オノレェ・・・・・・』

 

悪霊

LP3000→0

 

 悪霊のライフを全て削り、エクゾディアの力を使って浄化した星河は、討伐完了の連絡を上司へ伝えようとケータイを取り出す。

 

 その背後から、緑の雷が星河を襲った。

 

「何ッ!?」

 

 咄嗟に回避し、自分の精霊全員を顕現させる星河。周囲を警戒するが、人影どころか人の気配すらしない。

 

『今のは、一体・・・・・・?』

 

 フォトンが警戒を解かずに呟くが、それに答えられる者はいない。

 

「まあ、僕なんだけどね」

 

 何もない場所から声が響き、全員がそちらに顔を向ける。

 

「ッ、ガァッ!?」

 

 全く別の方向から先程の緑雷が星河を襲い、その意識を刈り取る。

 

『星河! どこから・・・・・・』

 

『グッ、コッチカ!?』

 

『いないわよ!? 透明化じゃない、どうやって・・・・・・』

 

 精霊達が倒れた星河を守るように索敵するが、見つけることができない。

 

「それじゃ、自分の世界へお帰りください、っと」

 

 その声を精霊達の耳が捉えるころには、全員が緑雷に包まれていた。

 

「全く、王様も酷いなぁ、僕一人でこのバケモノを倒せとか・・・・・・まあ、できるんだけど」

 

 何もない空間から現れた黒髪の少年は、ブツクサ言いながらおもむろに星河のデッキを拾うと、一部のカードが白紙になっているのを確認し、口角を上げる。

 

「お仕事終わり、早く帰ろー」

 

 ポイっとデッキを星河へ投げ返すと、少年は再び消えた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 何もない、真っ暗な空間。その中に、二人の少年が現れる。

 

「二色。上手くいった?」

 

「ええ、勿論」

 

 黒髪の少年が二色と呼ばれた少年へ訊くと、彼は頷く。

 

「ただ、あまり気分のいいものではありませんね。悪役を演じるというのも」

 

「日頃の行いが悪いから、そんな役割にされたんじゃないの?」

 

 二色(遊亜)は先程の自分の言動を振り返り顔を顰めるが、黒髪の少年はどうでもよさげだ。

 

「ツッコミをする元気は持ち合わせていないのでスルーしますが、黒はどうでしたか?」

 

 半ば諦めた様子の二色に、黒髪の少年――黒は笑って返す。

 

「ここから雷飛ばして力を奪うだけだったし、簡単だったよ。エクゾディアが思ったよりも力を失ってたから、こっちを認識できなかったんだろうね」

 

 そう言って『覇王眷竜ダーク・リベリオン』のカードを取り出すと、そこから緑色の雷を出して見せる。ダーク・リベリオンの効果の通り、この雷には相手の力を奪えるようだ。

 

「いいですねぇ、楽そうで。こっちは相手を煽ったり大変でしたよ」

 

 二色としては、この雷で遊羽達の力を奪った方が楽だと思うが故に、何故こうも面倒なことをするのかと思う。

 

「この雷で奪った力って、精霊界に送られちゃうんだよね。僕らの力にはならない。だから、彼らの力を使うには、デュエルしかない」

 

 面倒だけどね、と黒は苦笑する。

 

 彼らは本来、この世界の人間ではない。それ故に、使う力に制約が掛かってしまう。

 

「なら、デュエルで銀星河の力を奪えばよかったのではございませんか?」

 

「あのバケモノに、デュエルで勝てると思う?」

 

 二色の問に、問で返す黒。彼らの王ならば勝てるだろうが、彼はこの空間から出ることができない。

 

「面倒ですねぇ」

 

「面倒だね」

 

 二人で溜め息混じりに呟く。

 

 決戦まで、残り一週間。




さて、そろそろこの作品唯一の山場へ突入します。
・・・・・・逆に、なんでここまで山場がなかったんでしょうかね?

次回はいつになるのやら・・・・・・
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