遊戯王 デュエリスト・ストーリーズ   作:柏田 雪貴

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皆様お久しぶりです。

部活関係のことでまた遅れてしまいました・・・・・・不覚。

かなり急いで書いたので、少し文章が読みにくい部分やクドい部分があるかもしれません。

それでは本編をどうぞ。


邂逅する決闘者

 謎の少年、遊亜と出会った翌日。

 

 放課後となったデュエルスクールで、遊羽は旧校舎での鍛錬に打ち込んでいた。

 

「・・・・・・ッ! ハッ!」

 

 レヴと斬り合う彼の槍術は独特だ。攻撃の瞬間にだけ槍を出現させ、それ以外は顕現させない。

 こうすることで、相手に間合いを悟らせずに攻撃できるし、槍を出現させるまではただ腕を振るっているだけなので力もそんなにいらない。更に、9種類の槍を一々取り替える面倒臭さもなくなった。

 

 しかし、彼が鍛錬をするのには、別の目的もあった。

 

「お久しぶりですね、如月遊羽。以前よりも腕が上がっているようで」

 

 どこからともなく現れた長い白髪(はくはつ)の青年を視界に入れると、遊羽は槍を収納しそちらに身体を向ける。

 

「やっぱり来たか、ユーザ」

 

 ユーザ、と呼ばれた青年はクスリと微笑する。

 

「このタイミングで来たってことは、無関係じゃあないんだろ? 精霊が消えてることに」

 

 問いかける遊羽とその後ろに顕現するレヴを見ながら微笑を苦笑へと変え、ユーザは肩をすくめる。

 

「関係がある、というよりは当事者、でしょうか? 私も遊亜と同じ王に仕える身ですから」

 

 まるで世間話でもするかのように告げられる衝撃の真実。しかし遊羽はその可能性も考えていたようで、大した反応を見せない。

 

「で? 敵さんがワザワザ何をしに来たんだよ。勝負を今日にしようとでも?」

 

「そんなことはしませんよ。それに私、今ディスクも持っていませんしね」

 

 半眼で睨んでくる遊羽に、ユーザはホラホラと白いマントを広げて隠していないことをアピール。それを見て遊羽とレヴは槍と大剣を構える。

 

『ならば』

 

「今がチャンスだな」

 

「いえ待ちましょう暴力はよくないでしょうこれはデュエル小説でしょう!?」

 

 半ば絶叫しながら後ずさるユーザに遊羽は無慈悲に斬りかかる。しかし、槍は何の感触もなくユーザの身体を通り過ぎていった。

 

「・・・・・・幽霊?」

 

 首を傾げながらユーザをまじまじと見る遊羽に、彼はフフフと微笑してから種明かしをする。

 

「残念でしたね。私は今、魂だけの状態。物理攻撃は効きませゴッファア!?」

 

 ドヤ顔をしたユーザだったがその腹に遊羽の拳が刺さった。

 

「魂くらいなら殴れるぜ」

 

 鳩尾に入ったらしく咳き込むユーザに、遊羽はもう一発いっとくかと歩み寄る。

 

「ま、待ちましょう! 今ここで私を倒しても、何もありませんよ!? 7日後いえ今は6日後ですがその日のデュエルのころには復活していますしメリットありませんよ!」

 

 復活するとはいえ痛いものは嫌らしいユーザがまくし立てた訴えに、遊羽は興が削がれたのか拳を下ろす。

 

「で、じゃあ何の用だ? 俺はお前らを倒すデッキを調整したいんだが」

 

「・・・・・・私がここに来たのは、情報を渡すためですよ。如月遊羽」

 

 パンパンと、服に着いたホコリを払いながら立ち上がり、シリアスな空気を醸し出すユーザ。その雰囲気を察し、遊羽も顔を引き締める。

 

「情報、だと?」

 

「はい。私達が何者で、何故この世界から精霊を消そうとしているのか。何故貴方方の精霊力はデュエルでしか消せないのか、等々。私に話せる範囲ならば全て答えましょう」

 

 そう言って、ユーザは語り出した。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 では、私達が何者か、から話しましょうか。

 

 簡潔に言えば、私達はこの世界とは別の世界、貴方方の言う異世界の住人でした。でした、というのも、私達のいた世界は滅んでしまったのですよ。

 

 まあ待ってください。理由を説明しましょう。

 

 私達の世界は、様々な世界と繋がりを持っていました。それはもう色んな世界と。

 

 そもそも、私達の世界は四つの次元に別れていたのですが、他世界と繋がったことで、更にバラバラになって行きました。

 

 しかし、そのことに誰も気づきませんでした。全員、異世界から流れてくる物に疑問を抱かず、順応し、それを当たり前に受け止めて生きていたのです。

 

 我々が気付いた時には、もう手遅れでした。

 

 その世界の王だった我が覇王とその家臣たる我らにできたのは、滅びる世界を閉ざし、他の世界への影響を最小限に抑えることだけ。それでも、三つほどの世界を巻き込んでしまいました。

 

 故に、我らは誓ったのです。もう二度と、こんな悲劇を起こしてはならない、と。

 

 同じような運命(さだめ)にある世界があったなら、必ず救おう、と。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・・・・なるほどな」

 

 話を聞き、遊羽が発した第一声がそれだった。

 

 真実にしろ嘘にしろ、動機としての筋は通っている。しかし、肝心なところがわからない。

 

「で、何で精霊を消すことになるんだよ」

 

「仮に異世界との繋がりを断ったとしても、精霊界との繋がりのある精霊がいては、また繋がりを持ってしまうんですよ。他の巻き込んでしまったのも、精霊界との繋がりがあったせいですから」

 

 そう断言するユーザ。だが、遊羽にも反論はある。

 

「そうか。それで、この世界もお前らの世界みたくなるって、どうしてわかるんだよ」

 

 ユーザ達の世界が滅んだ。だからこの世界も同じように滅ぶ。

 それはおかしい、と遊羽は言う。

 

「この世界は四つの次元に別れてもいなければ王もいない。異世界との繋がりだって、普通の奴は知らない。お前らの世界と同じになるとは限らないだろ」

 

 遊羽は知っている。もっと沢山の世界と繋がった世界を、彼は聞いている。

 

「まあ、そうかもしれないでしょう。しかし、同じようになる可能性はある。それだけで、我々が動く理由になる」

 

 あの悲劇を起こさないために、どんなに小さな可能性であろうとも、それを摘む。それが、彼らの信念。

 

「・・・・・・さて、この辺りが頃合いでしょうか」

 

 そう呟くと、ユーザの姿が薄くなっていく。

 

「・・・・・・? どういう」

 

「気付きませんか? 先程から、お仲間の反応が怪しいことに」

 

 反応、と聞いて一瞬意味を理解できなかったが、遊羽はすぐさま感づきレヴを振り返った。

 

「レヴ、羽根の反応は!?」

 

『・・・・・・誰かが危険な状態だ。これは・・・・・・戦か!』

 

 それを聞くが早いか、遊羽は《融合》のカードを取り出しレヴと融合しながら空へ飛んだ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 ユーザが遊羽に接触する、少し前。

 

 遥をからかいながら下校し、彼女を家まで送った戦は、自身の家へ向かって歩いていた。

 

(後6日、だったよね。デッキの調整をしないと)

 

 まだ現実感が伴わないながらも、今日遊羽に聞いた内容を思い出し、拳に力を込める。

 

「ジャンやジャンクロン、サラと別れるなんて、嫌だしね」

 

『嬉しいことを言ってくれるでありますなぁ~』

 

『なの!』

 

『そのためにも、拙者達で主殿を支えますぞ!』

 

 ありがと、と心の中で返しながら、歩みを進め、家が見える場所まで辿り着く。

 

 その戦の目に、家の前で佇む人影が映った。

 

「? 誰だ、ろ・・・・・・」

 

 う、と言いかけて、言葉が詰まった。

 

 よく見知った、しかしあり得ないその背中。

 戦が釘付けになっていると、彼のデッキケースを触手のようなものが奪った。

 

「っ!?」

 

「オイオイ、往来で棒立ちたァ、ちと迷惑じゃねェのか?」

 

 声の方向に振り返ると、そこにいたのは紫色の髪の少年。獰猛なその笑顔は、まるで赤い三日月だ。

 

「君は?」

 

「オレか? オレはユーガだ」

 

 ユーガと名乗った少年は手に持ったカードから出る触手を操り、奪ったデッキを人影の方へ投げた。

 

「ほらよ、お望みの品だぜ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 その人影は受け取ったデッキの内容を確認し、おやと首を傾げた。

 

「僕の知っているものとは随分と変わっているなぁ。まるで別物だ」

 

 人影はそう呟くと、まあいいかと腰のデッキケースにそれを入れる。

 

「・・・・・・やっぱり、貴方は・・・・・・」

 

「まだ持っているだろう? 僕のあげたカード達を」

 

 呆然とし声を零す戦に対し、手を伸ばしてカードを要求する。

 

()()()・・・・・・何で、どうしてここに!」

 

『な、父親ですと!?』

 

 精霊達が驚愕する中、戦の父親、遊民 戒(かい)は小さく微笑み、ディスクを構える。

 

「久しぶりだね、戦。早速で悪いけど・・・・・・僕のカードを返してもらうよ。全部、キッチリとね」

 

 そう死んだ目で宣告する父に、戦はもう一つのデッキを取り出しディスクにセットする。

 

『マスター、大丈夫なの?』

 

『我が輩、心配であります』

 

 デッキの中から響く声に無言で頷きながら、戦は覚悟を決める。

 

「よォし、順調順調。あ、オレはただの観客だから気にすんなよ」

 

 いつの間にやら触手をしまい、観戦モードに入っているユーガを尻目に、戦は父親の様子を伺う。

 

(ユーガとかいう彼、多分遊羽くん達が言ってた敵、だろうね・・・・・・でも、それよりも)

 

 目の前の父親と戦う。そうしなければいけない。そんな脅迫観念が戦の中にあった。

 

「「デュエル!」」

 

遊民戒

LP8000

 

遊民戦

LP8000

 

 先攻になったのは戒。彼は淡々とカードをディスクに置いていく。

 

「星遺物の醒存。デッキの上からカードを5枚めくって、クローラーか星遺物を手札に加えて残りを墓地へ送る。僕はクローラー・デンドライトを手札に加える。モンスターとカードを伏せて、ターン終了だ」

 

遊民戒

LP8000 手札3

場 メイン:伏せモンスター 魔法・罠:伏せカード

 

「僕のターン、ドロー」

 

 引いたカードを確認しながら、戦は二枚の伏せられたカードについて考える。

 

(伏せモンスターは恐らくクローラー・デンドライト。なら、特に警戒する必要はなさそうだね)

 

 手札の状況からジャンク・ウォリアーを特殊召喚することはむずかしいが、それは次のターンでいいだろうと判断する。

 

「フォトン・スラッシャーを特殊召喚、そしてジェット・シンクロンを通常召喚!」

 

フォトン・スラッシャー ☆4 攻撃力2100

 

ジェット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力500

 

 現在の戦のデッキは、遊羽達と出会う前に使っていたもの。デッキのモンスター全てが精霊であるという、トンデモデッキだ。

 

「ジェット・シンクロンでフォトン・スラッシャーをチューニング! シンクロ召喚、ジェット・ウォリアー!」

 

ジェット・ウォリアー ☆5 攻撃力2100

 

 かなり久し振りの登場であるメカメカしい戦士。バウンス対象は伏せモンスターだ。

 

「リバースカード、禁じられた聖杯。ジェット・ウォリアーの効果を無効にする」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100→2500

 

 聖杯へかけられた願いによって脳筋なった機械戦士。頭のネジが幾つか外れたのだろうか。

 

「ならそのまま伏せモンスターに攻撃!」

 

ライトロードハンター・ライコウ ☆2 守備力100

 

 反転し姿を見せたのは白い狼。機械戦士が殴りかかるが、狼が吠えると弾け飛ぶ。

 

「ライコウの効果。反転した時、相手モンスター一体を破壊できる。そして、デッキから三枚を墓地へ送るよ」

 

 散っていった機械戦士に一瞬だけ目を向けると、戦はカードをディスクにセットする。

 

「カードを二枚伏せて、ターン終了だよ」

 

遊民戦

LP8000 手札2

場 魔法・罠:伏せカード×2

 

「僕のターンだ」

 

 戒はカードを引くと、無感動に手札に加えた。

 

「モンスターをセット、そしてカードを更に伏せる。ターン終了だ」

 

遊民戒

LP8000 手札2

場 ライトロードハンター・ライコウ 伏せモンスター 魔法・罠:伏せカード

 

 三行で終了した戒のターン。戦はその慎重なデュエルに懐かしさを覚えるが、それは直ぐに脅迫観念に潰された。

 

「ジャンク・シンクロンを召喚、効果でジェット・シンクロンを特殊召喚」

 

ジャンク・シンクロン ☆3 チューナー 攻撃力1300

 

ジェット・シンクロン ☆1 チューナー 守備力0

 

 チューナー同士でシンクロ召喚はできないが、それでもリンク召喚はできる。

 

「ジェット・シンクロンをリリースして、ジェット・ウォリアーを特殊召喚!」

 

ジェット・ウォリアー ☆5 守備力1200

 

 文脈をスルーして復活する機械戦士。

 

「ジャンク・シンクロンでジェット・ウォリアーをチューニング、シンクロ召喚! スターダスト・ドラゴン!」

 

スターダスト・ドラゴン ☆8 攻撃力2500

 

 飛翔するのは白銀の星屑竜。その懐かしい姿に、戒は少しだけ目を細める。

 

「でも、それはいけないな。リバースカード、大捕り物。相手モンスター一体のコントロールを得る」

 

「ッ!?」

 

 モンスターを奪われるのは初めてではないが、このタイミングでの奪取は堪える。召喚権も使い、墓地のリソースもほとんどない。

 

「なら、手札一枚をコストにジェット・シンクロンを蘇生! リバースカード、リビングデッドの呼び声! 蘇れ、ジャンク・シンクロン! そしてドッペル・ウォリアーを特殊召喚!」

 

ジェット・シンクロン ☆1 チューナー 守備力0

 

ジャンク・シンクロン ☆3 チューナー 攻撃力1300

 

ドッペル・ウォリアー ☆2 守備力800

 

『おお、いつものでありますな!』

 

 ジャンクロンが、意気揚々と腕を回すと、戦が応えるように手を前に突き出す。

 

「ジャンク・シンクロンでドッペル・ウォリアーをチューニング!」

 

 ジャンクロンが光の(リング)へと変わり、ドッペル・ウォリアーを包む。

 

「集いし星が、鋼に打ち勝つ戦士となる! シンクロ召喚、ジャンク・ウォリアー!」

 

ジャンク・ウォリアー ☆5 攻撃力2300

 

 赤い瞳をビコーンと光らせて登場するジャン。最近見たロボットアニメの影響かもしれない。

 

「ジャンク・ウォリアーの効果発動、それにチェーンしてドッペル・ウォリアーの効果、更にチェーンしてリバースカード、戦線復帰! 墓地からナイトエンド・ソーサラーを特殊召喚! おいで、サラ!」

 

ナイトエンド・ソーサラー ☆2 チューナー 守備力600

 

 呼び出され、杖を鎌の様に構えるサラ。別に鎌と構えるをかけているとかそんなことはある。

 

「そしてドッペル・ウォリアの効果でドッペル・トークンを特殊召喚!」

 

ドッペル・トークン ☆1 攻撃力400

 

 二体の小柄な兵士が並び、最後のチェーンを解決する。

 

「ジャンク・ウォリアーの効果発動!」

 

「自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力分、自身の攻撃力をアップする」

 

 戒が先取りして暗唱すると、戦は若干眉をひそめだがそのまま進めた。

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→5700

 

 倍以上に跳ね上がった攻撃力。更に戦は〆としてカードをディスクに差し込む。

 

「速攻魔法、スクラップ・フィスト! ジャンク・ウォリアーに5つの効果を適用する!」

 

『効果モリモリですぞ!』

 

 その内2つほどは殆ど使われることはないのだが、それは置いておく。

 

「バトルだ、ジャンク・ウォリアーで―――」

 

「待った。リバースカード、強制脱出装置。効果対象はジャンク・ウォリアー」

 

 抑揚のない声で正確に戦の急所を突く戒。

 

「くっ、ジャンが・・・・・・」

 

 バシッとディスクから弾かれた『ジャンク・ウォリアー』のカード。何事かと戦がディスクを見ると視界には植物のツルのような触手があった。

 

「!!??」

 

 そのまま触手に弾かれたカードは戒の手へ渡る。

 

「確かに返してもらったよ。それと、スターダスト・ドラゴンも、ね」

 

「なっ!?」

 

 ルールを無視した盤外戦術。スターダスト・ドラゴンも、ということは、何かしらで場を離れた場合、それは戦のではなく戒の墓地へ行くということだ。

 

「父さん、どうして・・・・・・」

 

「簡単だよ、戦」

 

 悲しみと僅かな憎しみの籠もった眼差しを向けられようと、戒は態度を変えない。

 

「君が戦う必要はない。僕も、そして母さんも、君に戦って欲しくない」

 

 ドクン、と戦の心臓が強く脈動する。

 

 戒のその言葉。戦にとって、その言葉は、自身の在り方に関わるモノだ。

 

「・・・・・・え?」

 

「もう一度言う。僕らは、君に戦って欲しくない。君に強さを求めない。君には弱くあって欲しいとさえ思う」

 

 母の遺言と、全く逆の言葉。戦の在り方を、否定する言葉。

 

「そんな、僕は、なら、何で、」

 

「僕は、君が戦う姿なんて、見たくない」

 

 冷たく拒絶し、感情の籠もっていない(まなこ)で戒は戦に宣告する。

 

「君が戦う必要は、どこにもないんだ」

 

「う、うわあああぁぁぁ!」

 

 耳を塞ぎ、戒の言葉から逃れようともがく戦。彼の精霊達は主の変貌に動揺し、どうするべきかを図りかねる。

 

「デュエルの意志を感じられねェ。これ以上は時間の無駄だな」

 

 ユーガはまた赤い笑みを浮かべ、触手を操って戦のディスクからカードを全て奪う。

 

「そら、これで全部か?」

 

「・・・・・・ああ。問題ない」

 

 デッキに目を通し、自分の手元に全てのカードが集まったことを確認した戒は、そのカード達を握り潰す。

 

『ぐうッ!? 父上殿、何を、』

 

「後始末だよ、精霊。自らの失態の、ね」

 

 精霊のカードとは、精霊界からやって来た精霊をこの世界に繋ぎ止める依代だ。それが壊されれば、精霊は精霊界へ戻され、最悪の場合は死に至る。

 

『痛い、痛いの!』

 

『苦しいであります・・・・・・!』

 

「ジャンクロン、サラ!」

 

 精霊達の苦しみに、戦は彼らを呼ぶことしかできない。

 

『主、殿・・・・・・』

 

「ジャン!」

 

 声は出せても、足に、身体に力が入らない。まるで、全身の筋肉がバカになったかの様だ。

 

「一気に精霊力を失ったんだ、まァそうなるわな」

 

 嘲るように戦を見下すユーガ。戦は彼を憎しみの眼で睨みつけるが、ユーガは口元を更に歪めるだけだ。

 

「折角だ、オレが直々に手を下してやる!」

 

 ユーガは戦を絶望させるべく、手に持つカードの力を解放する。

 

「覇王眷竜スターヴ・ヴェノム!」

 

 その声に合わせて、紫の毒竜が姿を現す。

 

「なるほど。そっちの方が確実みたいだな」

 

 戒はユーガの行動から察し、精霊のカード達を毒竜へ放る。

 

 スターヴ・ヴェノムはそれを口で受け止め、そのまま咀嚼する。

 

「・・・・・・は」

 

 食った。カードを、精霊を、その存在を。

 

「これで、カードを取り戻すっつうので戦うのもねェだろ? カンペキだな」

 

「ああ。これで戦が戦う理由は、もうないはずだ」

 

 哄笑するユーガと、冷淡に毒竜を見つめる戒。

 

 戦に残されたのは、底知れぬ絶望の闇だった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 何もない、真っ暗な空間。

 

「あァ〜疲ッれたァ!」

 

 そこで、紫髪の青年がドカッと腰を下ろす。

 

「・・・・・・紫、何故あそこまでしたのです。戦意を折るにしても、他にやり方はあったでしょう」

 

 少し咎めるようなニュアンスを滲ませるのは白髪の青年。彼の言葉に紫は「ハッ」と鼻で笑う。

 

「それがアイツの要望だったんだよ。全く、面倒ったらありャしねェ」

 

 紫が彼を使ったのは、自身の力が戦と相性が悪かったためだ。彼に協力させれば、紫一人よりも計画の成功率が上がると考えたのだ。

 

「まあ、『相手に感情を植え付ける』とか、彼には微妙でしょうし、妥当なのでしょうか」

 

 感情を植え付ける、と言っても、それは一時的なもので、それを上回る感情には弱い。その上、戦のように心が強い者には効果が薄い。

 故に、心の弱点(ウィークポイント)を突いたのだ。

 

 戦にとって親とは戦う理由である。母親の遺言によって彼は強さを求め、父親のカードで戦ってきた。なら、その両方を失ったらどうなるか。

 

「まァ、心が弱るよなァ」

 

 ククク、と紫は喉を鳴らす。

 

 戦が感じていた強迫観念もまた、紫の植え付けた物だ。元々、強くなる上で戦にとって父親は超えるべきもの。ならば、その心を増幅させればいい。

 

「んで、そっちはどうだったんだよ白? まァ、オレにジャマがが入らなかった時点で結果は知ってるがな」

 

 ええ、と白は頷き、目を細め。

 

「足止めは成功しました。それはご存知の通りでしょう」

 

 彼の役割は足止め。白の力は『相手の力の無力化』。今回はレヴの羽根を無力化し、遊羽が戦の危機に気付けないようにしていた。

 

「だよなァ。後はあちらさんがどう出るか、だな」

 

 頭の後ろで手を組んで寝転がり、脱力する紫。白はそんな彼を邪魔に思いながらその場を去った。

 

 決戦まで、あと六日。




この作品もあと十話で百話のようです。実感が湧きませんが。百話を迎えるのとこの作品が終わるの、どちらが先でしょうかね。

制限改訂でエクリプスが逝ったので、息吹が弱体化しました。辛い。他は殆ど影響なさそうです。
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