遊戯王 デュエリスト・ストーリーズ   作:柏田 雪貴

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また遅れました。気管支炎なるものによって。・・・・・・どうしてこう私は病弱なんでしょうね?

それでは本編です。


残された手札

 戦が学校を休んだ。恐らく、出逢ってから初めて。

 どうしたのだろうかと遥は心配するが、しかし何かできるワケでもない。ただ授業中も休み時間もぼんやりと空いている席を眺めてしまう。

 

(大丈夫かなー、戦くん・・・・・・風邪とかかな?)

 

 いつもそばにいてくれた彼がいないだけで、こんなにも寂しいものなのだろうか。

 

(いつも、恥ずかしいから「止めて」って言っちゃうけど・・・・・・)

 

 無性に、名前を呼んで欲しかった。あの優しい、でもどこか壊れたような、落ち着く声。彼を聞き上手に感じるのは、彼の相槌もあるのかもしれない。

 

(・・・・・・よし!)

 

 今日、お見舞いに行こう。遥はそう決めると、フンスと意気込む。

 

 しかし授業中だったので、荒野の女戦士似の担任の女教師に注意を受けることになった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 遊兎の様子がおかしい。彩葉は右前にいるその白髪の彼の背中を見ながら考える。

 

 話しかけると一々ビックリするし、ずっと何か考えているような顔をしている。前者は面白いからいいのだが、後者については少し心配だ。

 

(遊兎が考えるよりも、相談してくれた方が早いのに)

 

 彼に考え事は似合わない。必死に何かをしている遊兎は好きだが、考え込んでその場から動かない遊兎は好きではない。頬杖をついたまま、彩葉はぼんやりとした顔で見つめ続ける。

 

「? どうかしたのか、彩葉?」

 

 視線に気付いたのか、遊兎が振り返る。かれこれ20分ほど見つめてようやくなのだから、彼の鈍感さが伺い知れる。

 

「考え事、してるみたいだったから・・・・・・」

 

 心配している、それを暗に告げながら、彩葉はコテンと小首を傾げる。

 

「あ、ああ・・・・・・大丈夫だ。これは、(オレ)自身の問題だから・・・・・・」

 

「・・・・・・そう」

 

 少し悲しげな顔になった彩葉に申し訳なく思いながら、遊兎は考える。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、どう闘うか。

 

『初めまして、僕はユーノ。君と闘う者さ』

 

 昨日の夜に、それともう一言だけ言って去った黒髪の少年。

 

(精霊が消えれば、(オレ)は普通の人間になることができる、か・・・・・・)

 

 遊兎は【レスキューラビット】の精霊である。しかし、姿形は人間。それは、彼の出自が深く関係している。

 

 彼の先祖に、人間がいたのだ。それだけならばいいのだが、その人物は人間の世界ではなく精霊の世界で暮らした。その子供の精人も、そのまた子供も、精霊と交わり、人間の血はどんどん薄くなっていった。

 しかし、遊兎は違った。人間の血を濃く受け継いだ、言わば『先祖帰り』。精人にも極稀に起きることらしいのだが、遊兎は逆だった。『人間の先祖帰り』。それは、精人が忌避されるように、精霊世界で彼は異端だった。それが、なくなると言うのだ。

 だが、彼の心はもう決まっている。

 

(オレ)が精霊か人間かなんてどうだっていい・・・・・・けど、精霊が居なくなって困るっていう人がいるのなら)

 

 チラリと頭をよぎったのは、歪み狂った二人の男女。

 

(ちっぽけな(オレ)の力だけど、それが必要だって言うなら、幾らでも使ってやる・・・・・・!)

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 昼休みの図書室。そこで向かい合って静かに本を読んでいるのは、遊羽と虹花だ。

 

(遊羽、また何か危ないことをしているのでしょうか)

 

 虹花は鈍感ではない。というか、遊羽のことに関しては一般人がドン引くくらいに敏感である。

 

 しかし、何か訊くことはない。盲目的なまでに遊羽を信じる彼女は、自ら行動を起こすことが少ない。図書室に来ているのも、遊羽の希望あってのことだ。

 

(私が、何か力になれればいいのですが・・・・・・)

 

 遊羽が真剣な眼差しで見ているのは過去のドラゴンデッキの資料。【レッドアイズ・ダークネスメタル・ドラゴン】の禁止やリンクモンスターの登場、というかルール変更によって当時のまま再現することは難しい物ばかりだが、参考にはなるらしい。

 

 ふと、『愛するという気持ちは、その人となら不幸になっても構わない、という気持ち』だと言う話を思い出した。だが、それは違うだろうと彼女は思う。

 

(だって、遊羽と一緒にいて不幸だなんて思ったこと、ありません)

 

 虹花の視線に気付いてか、「どうした?」と目で訊いてくる彼に首を振ってなんでもないと伝えて、虹花は手元の本に視線を戻した。

 このやり取りだけでも幸福に感じるのに、不幸になんて、なれるハズがないだろう。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 それぞれの理由で余り聞いていなかった授業が終わり、放課後。遥は戦の家に向かう途中で同じ方向へ歩く遊羽と虹花を発見。

 

「ん? なんだ永野か」

 

 遥に気付き、足を止めて振り返る遊羽。遥は小走りで二人に追い付く。

 

「如月くんも戦くんのお見舞い?」

 

「まあ、そんなところだ」

 

 歯切れの悪い言い方に疑問符を浮かべながら、遥は遊羽の行動を意外に思う。

 彼がお見舞い、というのはイメージに合わなかったからである。それでいいのか主人公。

 

 十分ほど歩き、戦の住むマンションに到着した。遊羽がインターホンを鳴らすが、返事がない。

 

「居ないの? お医者さんとかかな」

 

「いや、二人はここで待っててくれ」

 

 遊羽はそう言い、おもむろにドアノブに手をかける。

 バキメキゴキンと絶対鳴っちゃダメな音を出しながら回転したドアノブ。そして遊羽はそのまま扉を開けて中に入る。遥がアワアワ動揺していたが、虹花は特に表情を変えない。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 部屋の隅、窓際の辺りに、戦はいた。虚ろな瞳で中空を見つめ、微動だにしない。

 

「よう、戦。何ボーっとしてんだよ」

 

 声をかけるが、反応はない。じれったく思った遊羽はグイと戦の胸元を掴んで引っ張り上げる。

 

「いつまでそうしてる気だ? 戦。あと五日しかねぇのによ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 少しだけ眼球を遊羽に向ける戦だが、その目はハイライトの消えたままだ。

 

「・・・・・・テメェ、戦わないつもりか?」

 

 怒りを顕にしながら彼の放った言葉。その意味はつまり、『虹花を守る』という彼の行動の妨げとなるのか、ということも含んでいる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 尚も焦点の合わない目を向けてくる戦に、遊羽は「チッ」と舌打ちしてから、掴んだ服ごと戦を壁に叩きつける。

 

「うッ・・・・・・」

 

「何だよ、声出るじゃねぇか。声も 出せないくらい弱ったのかと思ったぜ」

 

 あえて『弱い』という単語を使うと、ピクリと戦の指が動く。

 

「誰が・・・・・・弱いって?」

 

「お前だよ戦。その程度で戦意喪失とはまあ弱くなったなぁ、いじめられても闘う意思を持ってたお前はどこ行ったんだ?」

 

 嘲るように、煽るように。自分に対してだろうと、彼が戦意を取り戻すように。

 

「ッ、うるさいな!」

 

 起き上がりながら遊羽を突き飛ばす戦。半身が竜である彼はその程度では倒れないが、多少よろけはした。

 

「わかってるんだよ、そんなこと! でも、どうしろって言うのさ! だって、」

 

 見開いた目で遊羽を睨みながら叫んだ戦だったが、そこで言葉を止め、

 

「だって、僕にはもう、闘う理由がない」

 

 勢いを失い、弱々しくなった彼を見て、遊羽は失敗したかと頭を掻く。

 しかし、それでも遊羽は言葉をぶつけ続ける。

 

「なら俺と虹花のために闘え。それが理由でいいだろ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 ハイライトが戻る前よりも長くフリーズした戦がそれでも意味を読み取れなかったのか、出てきたのは呆けたような一文字のみ。

 

「精霊が消されると、虹花が消えるんだとよ。当然、俺はそれを止めたい。そのためには、お前にも闘ってもらわねぇと困る」

 

 あくまで自分のために。遊羽はそんな人間だ。いや、ドラゴンでもあるのだが、それは置いておく。

 

「・・・・・・プッ、あはははは!」

 

 キョトンとしたかと思えば急に笑い出した戦に、今度は遊羽が唖然とする。

 

「いいよ。うん、理由はもうそれでいいや。それに、」

 

 戦は完全に闘う者のソレとなった瞳と共に獰猛な笑みを浮かべると、戦は続ける。

 

「父さんとあのユーガって人にやられっぱなしとか、気に食わないしね」

 

 仲間をやられたのだ、ならばそのままでいられるはずがない。

 遊羽はそうか、と頷いてから、部屋の中央にあるテーブルの付近に腰掛ける。

 

「なら、まずはデッキを作るところからだな。無くなったんだろ、カード」

 

 いつになく遊羽が協力的なのは、虹花のことが絡んでいるからか、それともこの一年半で少しは信頼関係が築けたのか。

 後者だったらいいな、と思いながら、戦も席につく。

 

「えーと、あのー? そろそろ入っていいかなー?」

 

 玄関から聞こえてきた遥の何とも情けない声に顔を見合わせて笑ってから、遊羽と戦は二人を家に入れた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 かくして、戦は戦意を取り戻し、デッキ構築を開始し、ついでに息吹と遊兎も呼んで六人でやいのやいのと話し合う彼らだったが。

 

「デッキが回らない・・・・・・」

 

「全然勝てねー・・・・・・」

 

 一番手間取っているのは、戦と遊兎である。一番なのに二人いるとか言ってはいけない。

 

「いや、戦はカードがピーキー過ぎるだろ・・・・・・遊兎はプレイングの問題もあるな」

 

 戦があのデッキを回せていたのは、カードの殆どが精霊だったからである。しかし今戦は精霊のカードを全て失った状態であり、以前の調子でデッキを組んでも事故が起きるのは必然的であった。

 そして、遊兎。彼のデッキは『守備力0のレベル4通常モンスター』を軸にしたデッキだが、当然事故率が高い。加えて、【究極電導恐獣】や【銀河眼の光子竜】など、上級モンスターのレベルもバラバラであるため、【トレード・イン】などの手札交換カードも入れ辛い。その上で彼のプレイングによって負けも多くなる。

 

「戦はデッキの基礎を叩き込むだけだからいいとして、問題は遊兎だよな・・・・・・」

 

 プレイングについては何とかなる。というか何とかする。

 しかし、デッキはそうはいかない。通常モンスターデッキだから、と言っても【幻皇龍スパイラル】やら【ローレベル】で闘うワケにも行かない。【幻皇龍】魔法・罠カードは通常モンスターサポートにもなるが、【レスキューラビット】の効果で特殊召喚したモンスターはターン終了時に破壊される。【ローレベル】は【魔の試着部屋】や【トライワイトゾーン】など強力なカードが多いが、【レスキューラビット】を入れられるか、と言われれば微妙である。

 何というか、絶妙なアンチシナジーが生まれていた。

 

「・・・・・・情けねぇ。こんな時だってのに、(オレ)は足引っ張って・・・・・・」

 

 時刻は夜7時になり、虹花と遥は家に帰らせた。『精霊が消えるかもしれない』という事情を話すつもりはないため、居ても邪魔になる可能性があったためである。言葉悪いな。

 

「【大熱波】は【レスキューラビット】を出せなくなるからシナジーが・・・・・・妥当なのはやっぱり【天威】かな?」

 

 うんうん唸る息吹だが、遊兎はそれに従い【ジェット・シンクロン】を【天威龍-アーダラ】へと替える。そして数枚の【天威】カードを手に取り、どれを入れるかと悩む。

 

「やっぱ、【天威】にした方が強えーよな・・・・・・」

 

「んー、別にいいんじゃない? そのままの遊兎のデッキで」

 

 【天威】デッキにした方がいいのだろうか、という意図を読み取った息吹は、その必要はないと否定する。

 

「強いから、っていう理由で嫌いなカードを入れても、そのカードを引けるワケがないし、そんなデッキで勝っても嬉しくないでしょ?」

 

 敵は精霊を消そうと目論んでいる。そして強い。なら、新たに強いデッキを作って戦っても、そんな焼け付き刃で勝てる相手ではない。慣れ親しんだカードで闘うべきである。まあ、戦はそれができないので仕方ないのだが。

 

「クソッ、【破戒蛮龍-バスター・ドラゴン】も白紙になったか! このデッキ案はダメだな。ならこっちで・・・・・・」

 

 遊兎のデッキを息吹が手伝い、戦が新しいデッキを組み上げる横で、遊羽は白紙になったカードをデッキから抜き取り別のカードに入れ替える。

 

 一番白紙のカードが多いのは、意外にも遊羽であった。【ドラグニティ】関連はほぼ全滅、【青眼】の一部や【レッドアイズ・ダークネスメタル・ドラゴン】や【破滅竜ガンドラX】、【No.95ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン】は禁止カードにも関わらず真っ白しろすけである。【WW】や【バスター・ブレイダー】系統も色が薄れ始めているため、決戦当日まで持つか定かではない。

 

「魔法・(トラップ)が消えねぇのが救いだけどよ・・・・・・クッソ!」

 

 苛立ち紛れに床を一つ殴る。若干凹んだが直せる範囲なのでもう戦達は気にしない。

 

 遊羽にとってカードは虹花を守る手段であり、人間よりも信頼できるものである。それ故一枚失うだけでも痛いのだが、その性分のせいで所持しているカードは大半が下級精霊。白紙になってしまうのは、目に見えていた。

 

 今はこの感情をぶつける(すべ)はない。だが、あと五日で。

 

「待ってろよ、ユーザ、覇王・・・・・・絶対(ゼッテー)に許さねぇ」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 何もない、真っ暗な空間。

 

「あ、【E・HEROオネスティ・ネオス】再録だって。よかったね紫」

 

 その中央でコタツに入り、カードを広げているのは黒髪の少年である。

 

「おー嬉しいぜェコナミさん。【捕食植物】リンクも来るし、その前にも強化は来てたし、優遇されてンなァ」

 

 その横で顔を歪めて正面にいる人物を嘲笑うのは紫髪の青年。その笑みには意地汚さしかない。

 

「クッ、何故そうも【捕食植物】ばかり・・・・・・【水晶機巧-ハリファイバー】の再録はまだでしょうかコンマイ!」

 

 紫の顔を忌々しげに睨みながら青筋を浮かべるのは白髪の青年。

 

「まあまあ皆さん落ち着いてくださいって。ほら笑顔ですよスマイルスマイル」

 

 ケンカになっては困るので赤と緑のトマトヘッドの少年が止めに入ると、二人の矛先はそっちを向いた。

 

「ほう? 笑顔? スマイル? 【EMポップアップ】とかいうソリティアのお供を手に入れてよく言えますねそんなこと」

 

「【天空の魔術師】だったかァ? アレほぼ王サマじゃねェかふざけんな。偶像崇拝禁止だコラ」

 

「ハイいつも通りにワタクシが八つ当たり対象でございますね!」

 

 何故こうも当たりが強いのだろうかと嘆くトマトヘッドだが、彼は日頃の行いが悪いために仕方ない。

 

「つーか、あと五日だろ? デッキの見直しとかいいのかよ」

 

 一頻りトマトに八つ当たりをしてから、完全にコタツでくつろぐムードになった全員に紫は言う。

 

「そうでございますね~。その内しますよ」

 

「そうですね。その内その内」

 

「あと五日もあるんだし、いいんじゃない?」

 

 コイツら、夏休みの宿題とか最終日まで溜めるタイプか。紫は驚愕したがかく言う自分もその一人であるために後回しにすることにした。コイツら本当にラスボスか。

 

「・・・・・・そう言えば、我が覇王はどちらへ?」

 

「さあ? 最近色んな世界が見つかってるから、その視察じゃない?」

 

 ふと思い出したように言う白に、黒はメタ発言を交えて返す。

 

「最近っつーか、春休みの時期からっつーか・・・・・・ん? 時間軸がおかしい気が」

 

「深く考えてはいけません、紫。何なら制限改訂とかも二十年ほど後にもう一度食らうでしょうし」

 

 中々メタい空気の中、意味深長な発言をするトマト。はてさて、このフラグの回収はいつになるのか。

 

 

 決戦まで、あと五日。彼らがコタツから出るまでにかかる日数は、あと三日である。




というワケで、遊羽と戦のデッキが新しくなります。遊兎のもちょっと変わります。
・・・・・・戦はともかく、遊羽は何回デッキを変えているんだろうか。

明日からテストらしいので、また暫く投稿できないです。申し訳ありません・・・・・・。

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