古の昔、 PVこそがすべてであり、お気に入りの教えと評価を司る魔が支配する ハーメルンと呼ばれる時代があった。

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ユフィールは可愛い


主人公はタクティクスオウガ本編は知っていても外伝は知らないと言う設定です。


ユフィールはとにかく可愛いんだっ!!

 古の昔、 力こそがすべてであり、 鋼の教えと闇を司る魔が支配する ゼテギネアと呼ばれる時代があった。

 

 

 名作だと謳われたタクティクスオウガ。その名前だけは知っている者も多いだろう。

 やったことがある人間なら、ヴァレリア、ガルガスタン、ローディス、フィラーハという名前を聞けば、「おっ? オウガだな」となるだろう。

 実際私もそうだった。

 

 登場人物である、あのスクウェア三大悪女に時として数えられる愛が深すぎるブラコン拗らせた女王や、主人公への執着と嫉妬を拗らせた親友のキャラクターも凄いが、マルチストーリーで真面目そうな主人公がどんどん手を汚す道を選んでいくのを眺めることが出来るのを眺めることが出来る拗らせたプレイヤーに人気を博した。

 

 割と略奪や、大義の為の犠牲()で民衆があっさりと犠牲になる死亡フラグしか無い世界。

 それがここだ。

 

 学者の両親を持つ私は、小さい頃にビリュテという町に来た。

 ビリュテという名前は聞き覚えが無い。私が取得した知識に無いか、知識から漏れ出したのかも知れない。

 最も恐ろしい可能性は、『本編』が始まったときには、ヴァレリアからその名前が消えていた場合。

 主人公デニムを通したプレイヤーはその名前を知るよしも無い訳だ。

 

 

 …ここで少し自分語りをしても良いだろうか。

 私は、ロックという名前を持って、学者だと自称する両親の元に一人息子として生まれた。

 両親は普通の学者だと言っているが、正直余り信じてはいなかった。

 両親は身に付けている物を売り捌きながらビリュテへと辿り着いたが、明らかに買い取った質屋の差し出していた対価はおかしいと私にもわかった。

 それに、両親は余りからだが強くない。学者だからSTRとかDEFとかが伸びにくいとかそういうのはあるのだろう。

 それを差し引いても、病弱にも程がある。

 実際、母は旅の途中で何度も倒れかけた。

 

 喋っている言語も、普通の民衆の言葉遣いとは僅かにアクセントなどにも差異を感じる。

 もしかしなくても、政争に敗れた没落貴族の一党…まあ、藪をつつくつもりは私には無かった。

 

 第一、売り払う前の禁書を読んだことでこの世界『タクティクスオウガ』をゲームとして知る前世の記憶を呼び戻してしまった私ほどおかしな存在でも無いだろう。

 唯一の懸念事項はビリュテの町なんて記憶の欠片にも無い事ぐらいだ。

 

 

 様々な困難を経て、両親は私を連れて、ビリュテの町へと辿り着いた。

 この町の人々は、穏やかで隙を見せても金銭を奪おうとする者も無い理性的で善良な人達だった。

 両親はそれを最初から知っていたというわけでは無くあくまで知り合いが此処にいるからというのが、この町を選んだ理由だったそうだが。

 エルリックという研究者仲間? だという知人を頼っての事だった。エルリックは精霊術・錬金術・降霊術に深い造詣がある男だった。

 正直、エルリックという男と妻が両親に対して常に敬語である辺り、その辺りも私が知るべきで無い部分なのだろう。

 ビリュテの町の一般市民として生きていく息子には知らせる必要は無いと両親が判断したのなら、それについて敢えて蓋を開けるつもりは無いと感じていた。

 

 エルリックには娘がいた。ユフィールと言う名前で私より少しだけ年下だ。

 正直に言おう。今生での私の初恋はこの子だ。

 可愛い。というか、幼いながらも美しいというのが似合うだろう。

 少々ファザコンの毛はあったが、もうとにかくドストライクだった。

 

 彼女に賢いお兄さんと思われる為に、私は日中はとにかく勉強に励んだし、ユフィールにもわかりやすく勉強を教えた。

 夜は剣技を中心に武道に励んだ。

 何故夜に武道に励んだかと言えば、汗臭い姿をユフィールに見せたくなかったからだ。

 私はとにかくインテリイメージを維持したいので、肉体面の強化は見られること無く強化した。

 そしてその成果を試すべく、魔法や剣で近くの森の魔獣などを倒していた。

 

 ある時、私は『文武の誇り』という称号を取得した。丁度8回目の魔獣討伐の時だったと思う。

 タクティクスオウガにこんな称号のシステムがあった記憶も無かったが、前世の私が見落としていたか忘れていたのだろう。

 私はウォーロックというクラスになれるようになった。

 これはなるしかないと思った。ウォーロックは貴重な竜言語魔法が使える貴重なクラスだからだ。

 私は今までの自分より、学力や体力が向上しやすくなったのを本能的に理解した。

 

 他にも『精鋭の標』とか色んな称号を取得したけど、どれも聞き覚えの無いものばかりだった。

 ゲームの世界であるのは理解できるが、タクティクスオウガの世界かどうか不安になってきたのもこの頃だった。

 しかし、ヴァレリア、ローディスという単語があるので、ここはタクティクスオウガの世界だと認識していた。

 もしかしたら別シリーズかリメイク版の世界なのかも知れないけれど。

 

 ウォーロックになった事で、何故か爽やかさが上昇した。

 具体的にはロン毛の優男系な雰囲気になった。

 鬱陶しかったので髪の毛は後ろに縛ることにした。ユフィールの好み的には似合っていると言うことだった。良かったと思う。

 

 不思議なことに、この世界に今まで一人もウォーロックという職業(クラス)は存在しないようで、私だけがウォーロックだった。

 ラドラムとか、ゲームで出てきたウォーロックはどうなるのだろうか?

 それは解らないが、とにかくこの世界には『ウォーロック』はいないのが社会の常識だった。

 故に、時折いるというちょっと変わったファッションのプリーストとして周囲には扱われていた。

 要するにクラスが変わっても固有のグラフィックを持つ固有キャラみたいな扱いだろうか?

 取り敢えず、世にも貴重なこのクラスは大事にしていこうと思う。

 

 確かに私はINTだけは非常におかしなステータスになっているので、クレリックから直ぐにプリーストになった。

 プリーストは賢さに富み、回復魔法の熟練の使い手がなれる上級職という扱いだったので、取り敢えずウォーロックになる前はプリーストになっていた。

 回復魔法に関しては、ユフィールの為に何度も練習したし、ユフィールが火傷したらヒーリング、ユフィールが転んだらヒーリング、ユフィールが蚊に刺されたらヒーリングと何度も使用した。熟練したのは間違いなかった。

 ゲーム的にはヒーリングの使用回数とINTと、あとMPとかが高いクレリックがプリーストになれるとか、そう言うのだと思う。

 

 魔獣狩りをしていたら、堕天使の嘲笑という称号が手に入った。

 神に仕える身でありながら命を刈り取る所業が堕天使に嗤われたという認識で良いのだろうか?

 私のアラインメントは一段階下がった。

 

 プリーストからウォーロックになってからヒーリングが使えなくなったのは残念だった。

 仕方が無いので、医術を勉強したり状態異常破棄のクリアランスを練習することにした。

 

 

 

 

 

 ある時、ユフィールの母、つまりエルリックの妻が死んだ。流行病だった。私の母も同じ時に亡くなった。

 私には優しい母だった。

 母は、死の間際に私に秘密を打ち明けた。

 母はとある貴族の令嬢。それも有名な一族の女性であったと。

 その貴族の一族はある強大な力に滅ぼされ、僅かのみが生き延びた。

 父親は文官で会ったが、慣れぬ剣を手に取り母を連れて逃亡したと。

 そして何より、父と私に出会えて良かったと、そう言い残してこの世を去った。

 

 私の父親はその日から衰弱した。

 無気力になった。

 母を妻としてだけで無く、主君のように敬っている雰囲気も父にはあった。

 父は、愛する妻と、使えるべき主を同時に失ったのだ。

 父も、暫くして母と同じ病にかかった。

 私は医術と状態回復魔法で病気を()そうとしたが、父は母と同じ病にかかって死ぬのなら光栄だ。

 お前には悪いが早く、病に運ばれて妻の所へ行きたいと言った。

 そして、死んだ。

 

 一方、エルリックは正気のまま狂ってしまった。

 妻を愛するが余り、事もあろうにユフィールを依り代に妻を降霊させようとした。

 寸前でそれに気が付いた私は全力で止めようとしたが、背後からの精霊呪文で気絶させられた。

 

 意識を取り戻したとき、そこにエルリックはいなかった。

 そしてユフィールも。

 いたのは、ユフィールの中に入ったユフィールの母だけだった。

 

 私はこの後悔を叩き付けるように、魔法に、そして武術に傾倒した。

 それでいて、遺産を使い、政治にも手を出してビリュテの町を少しずつ掌握していった。

 

 数年経つと急に地域一帯がきな臭くなり、治安が急激に悪化した。

 私はビリュテの町を、そしてユフィールの肉体を護る為に人々を説得し、そしてその最前線で戦い続けた。

 

 いつしか私は戦乱のロック(ウォー・ロック)と呼ばれるようになった。

 

 

 いよいよビリュテの町を除く周囲一帯の治安が落ち込み、他の町から人々が逃げ込んでくるようになった頃、あの男と出会った。

 ローディス教国から派遣された若き英雄。アルフォンス・レーエル。そして後の…

 

 そのアルフォンスはエルリックを連れて町へとやってきた。

 

 

 彼が話すことは平和的だが、言っていることは人口の多く、治安が安定していて、商業が成り立っているこの町を拠点にしたいと言うことだった。

 簡単に認められるわけは無い。

 ローディス。その名前は間接的に私の両親を死に追いやった。

 そして、此度は戦争に巻き込もうというのだ。町の自衛では無い無益な戦争に。 

 

 ユフィールの母を薬物で昏睡させ、私一人で戦場に赴くことにした。

 私一人で全軍を相手にすれば、私が敗北したとしてもその後は報復を町には行わないという条件でだ。

 

 一見素手で戦場に赴いた私にアルフォンスやその仲間は不思議そうに見た。

 

 

「万象よ我に力を――――――フォースエンス」

 

 私の手にはあらゆる属性を内包する奥義が握られていた。

 剣の形をもって存在するそれは、魔法の原型そのもの。

 相手の鎧も鱗も塞ぐことは許さない、相手の肉体に宿る魔力・生命力をそのまま切り裂く至高の剣。

 

 防御を許さず、変幻自在に延長する故に回避も許さない。

 竜言語が使えないウォーロックである私に許された唯一の武器にして、私がウォー・ロックと呼ばれるに至った所以。

 

 

 しかし、私はアルフォンスの前に敗れた。

 防御を許さない実体の無い剣は、逆に相手の攻撃を塞げないまやかしの盾でしか無いと言うこと。

 それは十分に理解していた私であったが、その上で相手が上手であった。

 

 私が意識を取り戻したときには、ユフィールはユフィールに戻っていた。

 そのユフィールが、エルリックの所属するアルフォンス一向について行くこととなったので私もついて行くことになった。

 というか、デネブとか言うよく解らない魔女が私に無理矢理追随するように説得してきた。

 

 いや、確かにアルフォンスを筆頭に容姿が整った者が多いし、死が間近にある以上連中は一般市民より血の気があるだろう。

 そしていざという時に動きの遅いユフィールを護る存在が必要で、その存在とユフィールが吊り橋効果で恋に落ちる可能性が…

 そんなことを言ってきたのだ。あの魔女は。

 あの魔女は、まさしく魔女だった。クラスとしてで無く、存在そのものがと言う意味で。

 

 

 そして私はアルフォンス一行の最前線で戦い続けた。戦いの中で私以外にウォーロックがいなかった事も知った。

 そして、私が知るウォーロックと私のクラスの真名『ウォーロック(壊)』が全く違うと言うことも。

 

 そして、あのアルフォンス・レーエルが、後のタクティクスオウガ最強の敵『暗黒騎士団総長ランスロット・タルタロス』であったことも。

 教皇にアルフォンスがランスロットの名前を与えられたときに、漸く理解した。

 ああ、ここはタクティクスオウガの原作開始前の世界なのか、と。

 

 割と終わったと思った。

 デニム・パウエルに破れ、彼の率いる暗黒騎士団は壊滅。

 その中に私もテンプルナイト辺りで参加しているのだろうか?

 

 

 だとしても、私は愛する年下の妻と、そのおなかの中にいる子供の為にも戦乱のロック(ウォー・ロック)として戦い続けよう。

 堕天使だけで無く、世界に嘲笑されようと、私には愛する者が居るのだから。




因みに主人公の元ネタはユフィール母の配下として出てくる彼です。


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