少し遅くなりましたが11話です。
「……へ?」
裏返った声を上げたのは、目の前にいた有咲だった。すごくビックリしてますと言わんばかりのリアクションをしている。
「……ごめん、もう一回言ってもらってもいいか?」
「…俺は、この世界の人間じゃない。多分…」
俺の言葉に有咲は目をぱちくりとさせている。まあ、想像はついていた反応ではあった。やはり言わない方が良かったのかと俺が思ったところで有咲は口を開く。
「えー…やー…そう来るか……なるほど……」
「あ、有咲?ごめん、やっぱそんな事言われても信じられないよな…」
「や!いや!ちょっと待て!びっくりしただけ!びっくりしただけだから!信じないなんて言ってない!」
慌ててそう否定してくる有咲に今度は俺が驚かされる。言っといてアレだが、こんな話を信じてくれると言うのだろうか?
「ふー…いや、流石に違う世界とかはびっくりしたけど…憑依現象を信じた時点で何言われようと今更だろ?」
「そ、そうか…」
思ったよりかなり肯定的に受け取られ、こちらが呆気に取られてしまう。
「まあ、確かに俄には信じ難いけど…取りあえず話を最後まで聞かせてくれ。どうしてそれが分かったんだ?明らかな違いでもあったのか?」
「ああ…そうだよな…」
この先伝える事を考えると少し言葉が詰まるが、これだけ言ってくれる有咲に真実を伝えないのは失礼だと思う。何より、そもそも彼女を信じて何もかも話そうと思ったのだ。話さない理由は無い。
「驚かないで聞いてくれ…って訳にもいかないとは思うんだが…」
ごくりと唾を飲む音が聞こえてくる。緊張の面持ちで俺の次の言葉を待っているのが分かる。
「…この世界が、俺の知ってるとある作品の世界にそっくりなんだ。」
沈黙。俺の言葉に有咲はきょとんとした表情で暫く固まっていた。その状態が10秒程と、短いようで長く続いた後、有咲は口を開いた。
「…えっと……どういう事…?」
予想通りと言えば予想通りだが、一回ではやはり伝わらなかったようだ。
「えっと、だな…つまり、アニメの世界っぽいっていうか…厳密にはアニメだけじゃないけど…」
俺も俺で居た堪れない空気につい曖昧な言い回しをしてしまう。後半の方は結構な小声になってしまっている。とはいえこの空間がかなり静かなのと、有咲が真剣に聞き取ろうとしてくれているのとで、俺の言葉はしっかり届いたようだ。
「…………」
届いたようだが、なんだか難しい表情をしている。俺を疑っている訳では無いとは思うのだが、どうしたものかという気持ちが見て取れる。
「えーっと…その作品?なんて言うんだ?」
「あー、バンドリ…BanG Dream!っていう作品、だな…」
「ばんぐどりーむ?」
文字の綴りが分からないであろう有咲に、スマホに文字を打って見せる。
「"BanG Dream!"…ねぇ…」
またしても再び考える有咲。こちらから何か言った方が良さそうだろうかと、何を言うか考え始めたタイミングで再び有咲は口を開く。
「アニメって言ってたよな…って事は…アレか?キャラとかいたって事か…?」
「うん…まあ…既にここに二人…」
「………えっ。」
反応を見るに、まさか自分がそうだったとは思わなかったようだ。無理もないとは思うが。普通に過ごしているだけなのに、実は自分がアニメや漫画のキャラでしたなど言われても実感が無いだろう。
「ま、まじ?」
「えーっと、マジ。」
またしても沈黙。
「……マジか……」
「…やっぱ信じられない?」
「…色々と言った手前信じられないとは言いたくないけど…かなり信じられないような事を言われてるのは、確かだな…」
落ち込んでる、という風には一応見えない。ただただひたすらに、話にキャパが追いついてないように見えた。有咲は頭がいいが、逆にそのせいでこのとんでも話について行けなくなっているのかもしれない。
「ま、まあアニメの世界っぽいって言ってもアレだ…酷似しているだけで、実際にはアニメの世界って訳じゃないとは思うんだけど…」
「…?」
「だってほら、アニメって言ってしまえば絵だろ?それに入っていける訳無いし…というかほら、俺がそう思い込んでるだけな可能性だってあるし…」
フォローになっているかはともかく、有咲が喋れなくなっているのでなんとかこちらで言葉を紡いでいく。言ってて何言ってるのか自分でも分からなくなってきているのは秘密だ。
「あー、つまりアレだ、有咲はちゃんと生きてるっていうか…俺からすればアニメの登場人物に限りなく近いけど、間違いなく市ヶ谷有咲は市ヶ谷有咲として生きてるっていうか…」
言いたい事はあるのだが、なかなか上手く伝える言葉が思いつかない。こんな時自分の語彙力の無さが恨めしくなるが、有咲はどうやら何か分かったような顔でこう言った。
「…なんとなくは言いたい事分かったよ。私をなんとか励まそうとしてるのも。」
そう言いながら彼女は苦笑する。伝わった…のか?
「私はキャラじゃなくてちゃんと一人の人だって言いたいのか?」
「それだ!」
全力で表現に乗っかる俺に、有咲はなんとも言えない表情をしつつも話を続ける。
「あはは…そのぐらい分かってるよ。その話が実際本当だったとしても、私は私だし…今まであった事がみんな台本通りだとか、到底思えない。」
「…有咲は強いな。」
ぽろっとそんな言葉が口からこぼれる。
「そんな事ねーよ…」
ぷいっと顔を背ける有咲。表情は伺えないが、頬は少し赤くなっており、照れているのが分かる。有咲可愛い〜!と香澄よろしく抱き着いてしまいたい衝動が生まれるが、冷静に考えて色々まずいので我慢した。
「というか私と香澄が登場人物にいるって事は、他のポピパメンバーも…?」
「ああ、出てるよ。それに、後々の追加組になるけどガールズバンドパーティの他4バンドも出てる。」
「…追加組?」
「最初はポピパしかいなかったんだ。でもそれが後に他4バンドの20人が追加キャラとして出てるって感じ。」
ふむ…といったかんじで考え込む有咲。考え込むのはいいんだけど制服で足組むのはやめてくれませんかね…。ちょっとこう精神に悪いっていうか有り体に言うとドキドキするっていうか…。見た目が女の子なだけで実は男性と一緒にいる事分かってますかね…?
「…少し、疑問に思ってた事があったんだ。」
「疑問?」
考え込むのをやめ、顔を上げる有咲。
「香澄の演技だよ。別の人間になってるなんて知らなかったから違和感ありまくりだったけど、いざ分かってて演技を見てると結構特徴は捉えてるように見えるんだ。それも思い返してみると、蒼が憑依してしまったっていうその日から…」
有咲の言いたい事がこの時点でなんとなく察せてしまった。確かに冷静に考えればそこは疑問に思うところだよな。
「しかも、相手によって応対もしっかり変えてる。香澄がよく他の人に付けてる愛称とかまで分かってるみたいだったし。」
それはそうだ。何故なら…
「…知ってたから、なんだな?」
「ああ。」
「はぁ〜…そっかぁ…」
そう言うと有咲は机にぐでーっと突っ伏す。
「やー…疑問が解けてスッキリしたわ〜…」
なんだか幸せそうな表情をしていらっしゃる。思ったよりこの事について考えていたのだろうか?
「…なんか…すまん?」
「え、いや別に謝られるような事は。」
なんか微妙な空気になってしまったので、咳払いして強引に空気を変える。
「えっと、それで次の話なんだが…」
「あ、うん。」
「結局俺がこの現象の原因をどう探ってたのかって話だ。」
「そういえばそれは気になるな。どうやって調べてるんだ?」
有咲のその疑問に、俺はドヤ顔でこう答えてやった。
「結論から言うと、全然分からん!」
「………」
なんだろう、もう顔だけでめっちゃ蔑まされている気がする。我々の業界では…いやごめん普通に傷付いちゃうわ。自業自得だけどね☆
「☆をつけるな。」
「人のモノローグを読むな。」
エスパーかな?
「えーっと冗談はまあこの辺にしてだな…」
「良かった冗談で…」
心底ホッとしたようなリアクションを取るなよ。本気だと思ったの?こいつなら本気でもおかしくないとか思ったの?
「俺は"相違点"ってやつを探してるんだ。」
「相違点?」
「ああ。簡単に言えば、俺が知ってるBanG Dream…今後略してバンドリと言うが、そのバンドリの世界にこの世界は限りなく酷似している。そんな場所で、逆に異なる点を見つけられれば何か手掛かりになるかもしれないと思ってな。俺自身の存在が既に相違点みたいなのもあるし、そういう意味でも俺と同じか近い存在があればっていうのもある。」
相違点の事をなるべく簡潔に説明する。簡潔になってないとかそういう文句はは聞こえませーん。
「ただ、これは俺が手掛かりが何も無い状態で苦し紛れに定義した物だ。実際見つかったところで手掛かりになるかなんて分からんし、そもそもそんな物存在しない可能性だってある。だからある意味最初に言った"全然分からん"ってのも、あながち間違いでも無いんだよな…」
結局ヒントも何も無しでこの世界に放り込まれた状態だ。非常に優しくない。昔のなんの説明もなくいきなり始まるゲーム並みに優しくない。以前バーチャルコンソール(昔の一部のゲームをダウンロードして遊べる機能)の初代ゼ○ダの伝説をやろうとして何一つ分からずに投げ出したのは悲しい思い出の一つだ。俺には難し過ぎたのさ…
「おーい、なんか話が脱線してないか?」
「だからモノローグを読むな。あと顔を急に近づけるな恥ずかしいから!」
「あっ、ごめん…反応無かったから…」
ちょっとシュンとする有咲が可愛い。うん、そういう話じゃなかったね知ってる知ってる。
「まあとにかくだ、相違点が俺が勝手に定義したものだと言っても、今はそれを調べるしか無くてな…」
「なるほどなー…ちなみに今のところどんな事を調べたんだ?」
「まあバンドリでメインキャラだった人達の様子とか…あと各バンドの楽曲一覧とかな。」
今のところ人物として接触していないのはAfterglowの青葉モカ、上原ひまり、宇田川巴、Pastel✽Palettesの丸山彩、白鷺千聖、氷川日菜、大和麻弥、ハロー、ハッピーワールド!の弦巻こころ、奥沢美咲、瀬田薫。楽曲を調べられていないのはハロー、ハッピーワールド!、そして我らがPoppin'Partyである。というのをリストにして書き上げ有咲に渡す。
「まだ結構あるな…というかウチらのもか。逆にここに書いてないやつはもう調べて相違点じゃなかったって事か?」
「そうなるな。有咲ポピパの楽曲リスト持ってないか?」
「それなりにデータは入れてるけど、全部キッチリ入ってるのは多分りみが持ってるかな。作曲担当だし。」
ポピパの楽曲は他でもない、ポピパのベース担当牛込りみが制作してあるのである。ちなみに作詞は香澄。香澄があの歌詞書くんだからなんか胸熱だよね。
「それならなんかの機会の時にそれとなく聞いてみないとな…」
りみなら多少他メンバーよりも最悪ゴリ押しが効くかもしれない。あんまりこういう事言うのもアレだが。
「そんであとハロハピ…マジか……」
「マジだ…」
二人してがっくしと項垂れる。有咲もやはり難易度が高いところだと思っているようだ。いや、好きだよ?好きだけど自分が接するとなると何に巻き込まれるか…
「奥沢さん辺りが知らねーかな…」
「いや待て有咲。みさ…奥沢さんにはいつもこ…弦巻さんがくっついている。結局同じ事だ。」
「あー…確かに…というかなんで名字に言い直したんだ?」
「いやー、まあ…ね?」
心の中で思う分にはまだしも、キャラと同じ姿をしているだけで知り合いでもなんでも無いのだ。なんとなく呼び捨ては憚られる。
「…?まあいいや。じゃあどうするよ?」
「どうもこうも、覚悟決めて行くしかないよな…どの道楽曲だけじゃなくてその人自体も見たい訳だし。」
「そっかー…しゃーねぇ、付き合うよ。」
少し困り顔をしつつもそう言ってくれる有咲に感謝を覚えるも、申し訳無い気持ちも込み上げて来る。
「いいのか?」
「今更遠慮するなって言ったろ?それに、蒼は北沢さんと花音先輩以外初対面だし、まだ私の方が慣れてるよ。疲れるけどな…」
既にげんなりしている有咲。まあ別に嫌っているという訳では無いのだろう。「だけどそんなのも悪くない」とか思ってそう。ツンデレだし。ツンデレだし。
「おい誰がツンデレだよ。」
「だからモノローグを」
「いや今のは声に出てたから。」
食い気味に否定しないでくれませんかね…。というか声に出てたの?やべーな今までのモノローグも実は声に出てたとかだったら凄く恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「ま、取りあえずそういう事で、どうにかハロハピと自然に接触する方法考えてみるか〜…」
「ハロハピもそうだけど他に会えてないのも微妙にいるから会ってみたいっちゃ会ってみたい。」
「あー…じゃあそっちの方も考えるか…」
ノートを取り出し、俺と有咲の作戦会議が始まるのだった。
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「有咲、今日はありがとう。」
時刻は18時。季節も冬に移り変わるところなだけあって、この時間でも日は完全に落ちてしまっている。玄関先で有咲を見送るところだった。
「やー、もうすっかり夜だな。」
少し話し込み過ぎたというか、休みの日にしておけば良かったと思ったが、もう今更だ。こんな中を高校一年生の女子に一人帰らせるのはあまりよろしくないとは思うのだが、残念ながら俺も今同じく高校一年生の女子になってしまっている為、着いていってもあまり意味が無い。
「ごめん、こんな時間に一人で帰らせる事に…」
「いや子供じゃねーんだし…」
一応送っていく提案はしたのだが、有咲に断られたのだ。理由はさっき述べた通りである。
「まあ家も遠い訳じゃないし、平気だろ。変質者なんてそうそういないだろうし。」
「いやー、でも有咲の見た目だと変質者じゃなくても変質者になるかも。」
「……遠回しにからかうのはやめてくれ……」
そっぽを向き顔を赤くする有咲。しれっと言ってしまったが、確かにこれは可愛いとか言ってるようなものなのでは?
「わ、悪い…」
「いや、まあいいけど…」
可愛いのは事実だが、俺はそういう事を面と向かって言う事は出来ない。何故ならヘタレだからである。嘘つけヘタレなら遠回しにも可愛いなんて言えねえよと思うかもしれないが、このレベルで気が許せる女の子が初めてなのでついからかうつもりで言ったらそういう感じになっていただけである。ホントだよ?……ホントだよ?
「とにかく!明日作戦実行な!成功は蒼に掛かってるからな!」
「アレは作戦って言うにはあまりにもお粗末だろ…」
「しょうがないだろ…そんな都合のいい作戦そうそう思い付かないって。」
「完全にゴリ押しだよなぁ…はぁ…」
有咲と考えた作戦の事を考えると憂鬱、という訳では無いが、それなりに考えてこれかよという気分になる。いつも通りなようで、いつも通りじゃない俺にはやや難しい気がする。
「ま、なるようにしかならんか。」
「そうそう。私も出来るだけサポートするから、なんとか頑張ってくれ。」
「はぁ…」
溜め息すると幸せが逃げるなんて言うけど、でもしちゃうよね。だってにんげんだもの。みつを
「みつをさんに謝れ。」
「だからモノローグを読まないでね?」
To Be Continued…
有咲ちゃん可愛いよねという事を伝えたい話でした。