戸山香澄になっちゃった!?   作:カルチホ

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リアタイで見てる人はお久しぶりです。
詳細を書く事は避けますが、モチベの低下によりなかなか執筆が進まないでいました。
それでもなんやかんやと時間を掛けて完成まで何とか漕ぎ着けたので、投稿したいと思います。
今後モチベがどうなるか分かりませんが、続いたら宜しくお願いします。

それでは13話をどうぞ。


13話:嘘つき達

 

 

 

 

 

「フッ…ご機嫌よう、子猫ちゃん達…」

 

 

こころに何かを言われかけた時に姿を表した薫。突如…と言う訳でも無く、単純に部活が終わったので呼ばれた通りに来ただけだろう。だがしかし、あまりのビジュアルの良さに正直クラっと来てしまった。いや本当に顔がいい。

 

 

「おや、どうしたのかな?私の顔を見て固まってしまって。」

 

「えっ?あー、えっと…」

 

 

上手い理由が思い付かず、言葉に詰まってしまう。そんな俺の様子を見た薫さんはハッとしたような表情をした。

 

 

「…!そうか…またしても一人、私の美しさにの虜にしてしまったようだね…ああ…美しいとはやはり罪だね…」

 

「い、いや!そうじゃないです!いやちょっとそういうとこもあったけど…」

 

 

虜と言う程かはともかく、割と目を奪われたのは事実なので少し吃ってしまう

 

 

「いいんだよ香澄ちゃん。シェイクスピアもこう言っている。"誠の恋をするものは、みな一目で恋をする"とね。」

 

「え、えー…そうなんですか…アハハ…」

 

 

シェイクスピアとは、イングランドの劇作家、詩人である。みたいな事をウィキペディアで見たような気がする。気になる人は調べてみてね。興味が無ければまあそういう名言を数多く残した偉人的な感じに思っていればいい。ぶっちゃけ俺もその程度の認識である。薫さんはこのシェイクスピアという人物をとても尊敬しており、自宅にもそれに関する著書などが沢山置いてあるようだ。こうして会話の際に、度々シェイクスピアの名言を引用して使ってくる事がある。ゲームでの話によれば意味は分かっていないそうだが、その割に結構的確な事をいつも言っているのは気のせいだろうか?

 

 

「なんか、アレだね。戸山さんも薫さん相手だとタジタジになるんだね。私ちょっと戸山さんの事誤解してたかも。」

 

「えっ?ま、まあそうだな…」

 

 

視界の端の方で、美咲が有咲へヒソヒソと話している。何を言っていたのかは聞こえなかったが、美咲から生暖かい視線を感じるのは何故なんですかね…

 

 

「薫!よく来たわね!」

 

「お招き頂き光栄だよ、こころ。」

 

 

サッ、と髪を掻き上げると仕草だけでもかなり様になっている。バンドリ内の一キャラクターとして見ると、格好いいとか綺麗とかは思っても、それで終わってしまう事の方が多い。が、こうして実際にそこに生きている一人の人として見ると、とんでもなく容姿が整っているのが分かる。女の子になった男が女の子に対して格好良くてドキドキするってもうよく分からないですねこれ…

 

 

「あら!わざわざ招くまでもなくいつでも来てくれていいのよ?薫はもう家族みたいなものだもの!」

 

「ああ…こころ…!君の海のような心の広さには最早言葉も出ないよ…!」

 

 

ただこの通り薫さんはやや残念なイケメン感があり、ゲームとかでも出てくるだけで面白くて笑ってしまったりする。いや好きだよ?愛故にってやつですよ?それにストーリーによっては格好良いところもあり、そんなところも好きなキャラだ。

 

 

「そう言えば香澄ちゃん。会うのは久々になるが、いつもの髪型はしていないのかい?」

 

「あ、それ私も少し気になってた。」

 

「あら?そういえばそうね?」

 

 

なんだか既に懐かしい下りである。確かにこの三人には憑依現象が起こってからは初対面だ。というかこころは言われて気付いたのか…。というのも無理は無い。ゲームのストーリーなどを見ていると、こころは他人の心情やら精神的な変化にはかなり鋭いが、見た目的な変化には結構疎いように思える。疎いというか、基本気にしていないのである。恐らくだが、特に意識せずその人の本質を見ているのでは無いかというのが俺が思うところだ。

 

 

「イメチェン!」

 

「ドヤ顔する事か…?」

 

 

いいんですドヤ顔した方が。その方が可愛いからね!まあ、その可愛さは自分からは見えないけど!あと中身男だけど!

 

 

「なるほど。前の髪型も可愛らしくて良かったけれど、今のもこう…儚さがあっていいと思うよ。」

 

 

普段結んだりしてる子が髪解いた時って確かになんか雰囲気変わってドキッとするみたいなのあるよね。しかし髪が儚いってそれ髪が無くなりそう的な意味に聞こえるけど大丈夫なの?褒めてるの?

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

褒めてるのとは思ったが、薫さんが底抜けに良い人だというのは知っているので褒めているのだろう。取りあえずお礼を言う。

 

 

「ああ、そういえばこころ。花音とはぐみだが…」

 

 

薫さんがそう言いかけたタイミングで、中庭への扉が開く。

 

 

「こんにちわ〜。」

 

「遅れてごめーん!」

 

 

そう言って入って来たのは、薫さんと同じく部活が終わったら来ると言っていた二人。まさに今薫さんが言いかけた花音とはぐみだった。

 

 

「いらっしゃい!待ってたわ!」

 

 

パアッと手を大きく広げ、目をキラキラとさせるこころ。というかキラキラが尋常じゃない。常人の五倍(体感)は多分光っている。

 

 

「丁度よかった。今二人の事を説明しようかと思っていたんだよ。」

 

「そうだったの?」

 

「ちょっとお手洗いに行ってて…ごめんねこころちゃん。」

 

 

お手洗いというのはつまり彼女のアレがアレでそういう事でしょうか、という変態的思考は流石にしないが、つまり三人で一緒に来たが、お手洗いに用がある組と無い組に分かれて来てた訳か。

 

 

「しかしここのトイレって広すぎて行くのに迷いそうだな…」

 

 

隣にいる有咲がそうぼやく。確かにこれだけ広いと案内があったとしても迷いそうだなとは思う。

 

 

「前にここでお花見した時は行かなかったの?」

 

「花見のこと知ってるのか…いや、あの時は特に行きたくならなかったからな…」

 

 

他の人には聞こえないくらいの声量で、有咲にそう訊ねる。お花見とは、ゲームであったイベントストーリーの出来事である。花女一年でお花見しよう!→場所どうしよう?→弦巻家めっちゃ広いし桜の木あるからそこにしよう!みたいな流れの話だったと思う。ゲームが配信開始してから最初のイベントで、まだ有咲が周りに猫被りまくってた時だったが、メンバーのやり取りなどにツッコミどころがありすぎて最終的に有咲のツッコミが爆発してしまうという事があった。話は面白くて大いに笑わさせて貰ったのだが、ゲームとしてのイベント自体はなかなかに酷いものだった記憶がある。詳しくは調べたら多分分かるよ、うん。って俺は誰に喋ってるんですかね…

 

 

「あ、香澄ちゃんに有咲ちゃんもこんにちは。」

 

「えへへ〜、なんか学校以外でこうやって会えるの久し振りかも!」

 

 

笑顔でこちらにも挨拶をして来る花音に、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるはぐみ。抱きしめたい…じゃなかった可愛い。

 

 

「こんにちは!えへへ〜私も嬉しいよ〜。」

 

 

いつも通りに香澄っぽく言葉を返す。嬉しいとは実は言われてないが、態度を見るにどう考えても嬉しそうなので多分間違ってないだろう。

 

 

「しかしこんなにも儚いお茶会が開かれる事になるなんてね。」

 

 

儚いと思う意味はよく分からないが、こう言ってくれる辺りかなり歓迎はしてくれているのだろう。というか薫さんは誰来ても全力で歓迎しそうなんですけどね。ちょっと変な人なだけで底抜けに良い人だし。どうでもいいが、有咲も先輩にツッコミ入れるのは思う所があるのか「ハハハ…」と隣で苦笑いしている。いやその反応が一番失礼だから。でも俺もよくやる。仕事の上司とかにめっちゃやる。

 

 

「そう言えばなんの話をしていたの?」

 

「ああ、確かこころと香澄ちゃんで演技をしていたと思うよ。悩める少女に詰め寄る少女。悩める少女は心を掻き乱されそうになり…」

 

「いやちげーよ!!…と、思います…ハハハ…」

 

 

花音の疑問に謎の返答をした薫さん。そして結局ツッコんでしまう有咲であった。ばつが悪いのか最後に取り繕っているが。

 

 

「あはは…そんなんじゃないですよ。最近どう?って話をしてただけです。」

 

「ふむ…つまり、最近の香澄ちゃんは演技がしたいのかい?」

 

「違います。」

 

 

いかんいかん、話が通じなさすぎてうっかりバッサリ言ってしまった…

 

 

「おお…戸山さんもああいう反応するんだ…」

 

 

隅っこで謎の感動をしている黒髪セミロングの子がいるが、まあ聞かなかった事にしよう。

 

 

「最近かぁ…最近と言ったらはぐみね!ソフトボールが…」

 

 

そこからはお互いの近況報告や、そこから派生した雑談などに女子高生らしく花を咲かせた。一人女子高生じゃないのいるけどね。今日この時間を設けた本来の目的はハロハピの曲に何があるのかを確かめる為だったが、いきなり聞いても違和感しか無いしタイミングを伺う時間がしばらく続いていた。それに、ボロを出さないようにしなくてはならないとは言え、なんやかんやこうして自分の好きなキャラ達を喋るのが楽しかったのもある。こうして時間は過ぎていき…

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おい…いつになったら聞くんだ…?」

 

 

雑談の途中、これまた隣にいる有咲が他には聞こえないようにしてそう訊ねてくる。分かってるよ!分かってるけどタイミングが無いんだよ!なんて切り出したもんかなぁ…

 

 

「はは…タイミングがちょっとね…」

 

 

そんな時、転機が訪れたのだ。

 

 

「そうだわ!すっかり忘れていたのだけれど、これを持って行ってたんだったわ!」

 

「え?」

 

 

突然、いやまあ話をあまりしっかりと聞いていなかったのでもしかしたら突然でも無いかもしれないが、こころはそう言って自分のスクールバッグをごそごそと漁り出した。

 

 

「これよ!」

 

 

こころが取り出したのは、一冊のスケッチブック。そして開いて見せているページには、言葉ではなんとも形容し難い絵が描かれている。

 

 

「あー…はいはい。」

 

 

美咲の表情は怪訝なものから納得と言わんばかりのものとなり、こころからそのスケッチブックを受け取った。

 

 

「あれは…」

 

 

もしかして、と思ったのだ。ゲームの方でもストーリーにとある理由でこころが絵を描く事はある。美咲が理解を示しているあたり、そういう事だろう。

 

 

「これどうするかな…」

 

 

うーん…と悩んでいる美咲に、俺は声を掛ける事にする。

 

 

「もしかして、作曲の為のもの?」

 

「ん、そうそう。なんとかこれを落とし込まなきゃならないんだけど…」

 

 

落とし込む、と言うが、これは簡単な事では無いだろう。先程も言ったが、こころが描いたそれは非常に何がなんだか分からない。これを元に曲を作っているというのだから、その(精神的な)労力は計り知れないだろう。他にもライブの準備なども彼女が色々やっているという。だがゲームでの描写を見る限り、美咲はこれをイヤと思っている訳ではない。表面上はちょっと嫌そうに見えても、実際はなんやかんや楽しんでいるのだろう。そもそも本当に嫌だったら逃げられない事も無いのだ。こころは奇天烈で話がなかなか普通には通じないと思われがちだが、本当に美咲が嫌がれば、それで彼女が笑顔になるのなら、離れていくだろう。弦巻家の黒服達も美咲に協力をお願いしたが、飽くまでお願いであり、美咲がお願いを断る事だって出来るし、黒服達もそれを責めはしないし、無理矢理協力を取り付けるなんて以ての外だろう。それでもハロハピのメンバーであり続ける事を彼女は選んでいるのだ。それに、そうでなくては困る。だってみさここだもの!!

 

 

「…香澄?」

 

「はっ!」

 

 

いかんいかんまた長考してしまった。これはアレだ、オタク特有のキャラの魅力を長々と考察してしまうやつだな、うん。それが悪いとは思わないが、やるなら一人の時にしなくてはな。

 

 

「大丈夫かよ全く…それはそうと、いい事思いついたかもしれないんだけど。」

 

「いい事?」

 

「ちょっと耳貸せって。」

 

 

言われた通りに耳を貸す。幸い他五人は話に夢中でこちらには気付いていない。或いは気付いていても特に気に留めては無いか。ところでこれ耳くすぐったいんですけど?あとちょっと恥ずかしい。頬が少し赤くなってたのは俺含め多分誰も気付いていない。

 

 

「…どうだ?」

 

「なるほど…確かにこれなら…」

 

 

耳元から離れた有咲に、別に耳元でボソボソされても全然平気だよアピールをしつつ、考える。今有咲から貰った案なら行けるかもしれない。というか偶然にも今ハロハピメンバーは作詞作曲の話で盛り上がり始めている。乗るならここしか無いだろう。

 

 

「でもみーくんいつも良い曲作って来てくれるよね!」

 

「はは…それはどうも。まあ歌詞は花音さんにも協力して貰ってるけど。」

 

「そっか〜、ハロハピは二人で歌詞考えてるんだね。」

 

 

なるべく自然に会話に加わっていく。香澄はこの事を既に知っていたかどうかの記憶がおぼろげなのだが、このくらいなら知ってても知らなくてもそこまで違和感無い言葉選びなはず。

 

 

「あ〜、まあ考えるっていうか、なんとか具現化してるというか…」

 

「あはは…ポピパは確か香澄ちゃんが歌詞を書いてるんだよね?」

 

 

食い付いた!と思わず言ってしまいそうになったのを我慢する。いや別に餌を撒いたとかでは無いのだが…。本来はこの後有咲にそれとなくポピパでの作詞の話に持っていってもらう手筈だったのだが、花音のおかげでその必要は無くなったようだ。このまま話を続けていいだろう。有咲とも軽くアイコンタクトを取り、先に考えておいた内容の言葉を告げる。

 

 

「あ〜…そうなんですけど〜…最近ちょっと息詰まっちゃって…」

 

 

手を後ろにやり、少し気恥ずかしそうにもじもじしつつそう答えた。ゲームでの香澄のLive2D(Live2Dが分からない人は調べてみてね!ざっくり言うとゲーム中のあの動く立ち絵の事だよ!)でたまに見る動作だ。めちゃめちゃ可愛いと思ってます。これ大事。香澄っぽい動きも以前に比べれば慣れたものだが、それでも分かる人から見れば違和感があるのだろうと思う。

 

 

「おや、スランプというやつかい?」

 

「スランプって何かしら?」

 

「一時的に物事が上手く行かなくなるというか…まあ大体そんな意味だよ。」

 

「あら、そうなのね…。」

 

 

スランプという言葉に疑問を持ったこころに即座に答える美咲はもはや流石である。

 

 

「そうなのかも…」

 

「はぐみもたまにそういう事あるな〜…ソフトボールで。」

 

「そうなんだ?」

 

 

ソフトボールのスランプ…ゲームにそういった描写はあったかな?と思ったが、全てが描写されてる訳でも無いだろうし、流石にソフトボールのスランプが憑依現象に関連しているとは考え難いので、一旦記憶の片隅に置く事にした。

 

 

「そうだ!」

 

 

ここで俺もとい香澄が演技っぽくならないように声を挙げる。ここからが本番である。

 

 

「良かったらハロハピの曲を参考にさせてくれないかな?」

 

「へ?」

 

 

素っ頓狂な声を出したのは美咲。予想外の言葉だったのだろう。

 

 

「あら!それでスランプから抜け出せるのね!」

 

 

いや抜け出せると決まった訳じゃ無いんだけど…というか別にスランプとかになってないのだが、それを言っては話が進まないので黙っておく。

 

 

「いや抜け出せると決まった訳じゃ無いから…」

 

 

俺が思った事と全く同じ事を美咲が呟く。まあそう言うよね。

 

 

「香澄!是非ともハロハピの曲を使って頂戴!きっと助けになると思うわ!」

 

 

なんの根拠があるんだろうと思う程の力強い言葉だが、きっとこころがハロハピを掛け値無しに信じているということなのだろうと思う。

 

 

「ありがとーこころん!」

 

 

断られるとは思っていなかったが、無事ハロハピの王から許しが出た。これでいい。

 

 

「あー、参考にしてもらうのはいいんだけど、どうしたらいいの?曲のデータ纏めたやつコピーして渡せばいいかな?」

 

「うん!それでお願いします!」

 

 

これこそが狙いである。作詞がスランプにより難航している事をまず伝え、ハロハピの曲を参考にさせて欲しいという名目でデータを貰うのだ。そうすれば後はゆっくり曲目を確認出来るという算段である。

 

 

「これでなんとかなるといいんだけどな。」

 

「きっとなんとかなるよ!」

 

 

有咲に言葉を返す。別に二人とも実際の事情は分かっているが、こういうやり取りをしておいた方が自然だろう。

 

 

「スランプ、抜け出せるといいね。」

 

「頑張ってね!かーくん!」

 

「シェイクスピアもこう言っている。"何もしなかったら、何も起こらない"とね…。応援しているよ、香澄ちゃん。」

 

「頑張ります!」

 

 

シェイクスピアの下りは微妙に謎だが、まあ頑張れば何とかなる的な事だろう多分恐らくきっと。

 

 

「香澄!次の曲、楽しみにしてるわね!」

 

「市ヶ谷さんも色々頑張ってね。」

 

 

そんな激励の言葉を受け、お茶会は間もなくお開きとなったのだった。

 

 

 

 

 

そう言えばと思う。もし、薫さんの登場に遮られなかったら、こころは何を言おうとしたのだろうか…

 

 

「…まさかね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…あのさ。」

 

 

空が夕焼けに染まる中、俺は有咲と二人帰路についていた。そんな中、有咲は俺へ声を掛けてくる。

 

 

「…皆、純粋にすげー応援してくれてたな…本当はスランプとか、そんなんじゃないのに…」

 

 

罪悪感…なのだろう。きっと今彼女は、それを感じている。必要だったとは言え、ハロハピに嘘をつき応援してもらうというのは、心優しい彼女には少々つらかったかもしれない。かく言う俺も、少しも良心が傷んでないかと言えば、嘘になる。ここに来てから嘘をついてばかりで、本当の俺として話せるのは現状有咲だけ。むしろ有咲がいたからこのぐらいで済んでいるが、もし以前の出来事が無く未だ一人で動いていたら、俺はとっくにおかしくなっていたかもしれない。有咲に真実を告げたのは、決して小さくない違和感に苛まれていた有咲が見ていられなかったからだが、あれももしかすれば、自分の為だったのだろうか。あのまま一人でいれば自分がおかしくなってしまう。だから、一人でも理解者が、真実を知っている人が欲しかったのだろうか。結果論としては有咲はこうして協力してくれているのだが、もしかしたらあの行動は軽率だったのかも、と今更ながら少し後悔してしまう。

 

 

「…しょうがないよ、今の状況が特殊過ぎるし、別に傷付くような嘘をついた訳じゃない。変にいらない心配を掛けないようにしたんだから。」

 

 

そう言葉を紡ぐが、スランプというのはそれはそれで心配を掛けてはいる。ただ、なんだか分からない心配よりは、どうなっているのかハッキリと分かっている心配の方がいいだろう。

 

 

「そう…かもしれないけど…」

 

 

今回の作戦を思い付いたのは有咲だ。だからこそ、尚更スッキリとしない気持ちがあるのかもしれない。

 

 

「蒼はさ…ずっとこんな気持ちだったのか…?いや、こんなんよりもっと…」

 

「有咲。」

 

 

立ち止まり、有咲の方に振り向く。それに合わせて彼女もこちらを見てくれた。

 

 

「…そうだ。俺はきっと多分、そういう罪悪感を感じてたと思う。」

 

「…そっか…」

 

「有咲が今回の事で罪悪感を感じるのも仕方ない。でも、一つ分かって欲しいんだ。」

 

「…?」

 

 

今から何を言われるのだろう。その言葉が、語らずとも有咲の表情には出ていた。俺が伝えておきたいのはただ一つ。また恥ずか死ぬかもしれないが、それでも言っておかねばならない。このままの状態で彼女を家に帰すのは嫌だった。

 

 

「…俺は、有咲に凄く助けられてるんだ。」

 

「…え?」

 

「言われた通り、何もかもに嘘をつき続けるのはつらいよ。多分、下手したらとっくに俺は頭がおかしくなっていたかもしれない。」

 

 

でも、と言葉を続けた。

 

 

「今は、有咲がいる。有咲は、俺が誰なのか知っている。有咲とは、本当の意味で話が出来る。これだけで俺は、救われてるんだ。」

 

「……救われ、てる…?」

 

「あの時真実を言って、紆余曲折あれど有咲は俺の事を認めてくれた。俺が蒼川蒼という人間だと信じてくれた。全てに嘘をつかなきゃいけない世界で、ただ一人本当の事を知ってくれている人の存在はさ…掛け替えないよ…」

 

 

我ながら相当臭いことを言っている。かなりこの場の雰囲気に当てられている。そんな事は分かっているが、また紛れも無い本心でもあった。世界なんて言葉を使うと大袈裟に聞こえるかもしれないが、こうして戸山香澄としている事それ自体が、世界への嘘なのだと思う。

 

 

「…俺を救ってるって程度で罪悪感は消えないかもしれないけど…これだけは言っておきたくて。」

 

「……な、なんだよ…もう…よく、恥ずかし気も無く…」

 

 

そういってそっぽを向いてしまう有咲だが、夕焼けの影響か分からない、その赤く染まった頬の横顔はとても可愛らしかった。ちなみに恥ずかし気も無くと言うが、そんな事はない。多分家に帰ってから思い出してとても悲しい事になるのである。

 

 

「…あーもう!くよくよするのはやめた!私のキャラじゃねーしな。こうなったらとことん協力してやるから!」

 

「はは、急に元気になったな。」

 

「そ、そんな事ねーよ…」

 

 

頬を指でぽりぽりと掻く有咲。うっかりテンション上げ過ぎてちょっと恥ずかしくなったのかもしれない。

 

 

「有咲、改めて宜しく。」

 

 

そう言って俺は有咲に拳を突き出した。

 

 

「はは、これ、あんま女子っぽくないだろ。まあ中身男子かもしれないけど。」

 

 

言いつつ、有咲はその小さな拳を突き合わせてくれた。

 

 

「宜しくね。」

 

 

その言葉と一緒に見せた微笑みは、思わず見惚れてしまうものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、ついやってしまったが拳を突き合わせるなんて行為、いい年してどこの少年漫画やねんと後で恥ずかしくなったのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued…




主人公に臭い台詞を言わせるのは実は私もちょっと恥ずかしいのですが、そうしないと話が進まないのでしょうがないんです。

前書きにも書きましたが、もしも続けば次話も宜しくお願いします。

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