戸山香澄になっちゃった!?   作:カルチホ

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展開早いかな?そうでもないかな?


4話:約束しちゃった

商店街へと行った翌日、俺はポピパメンバーと一緒に有咲の家へと向かっていた。厳密には家の蔵だが。そう、今日はいよいよポピパメンバーとバンド練習の日だ。

 

 

「香澄、復帰するのはいいけどあんまり無理はしないでね?」

 

「大丈夫!元気元気〜!」

 

 

沙綾からのそんな心配の声を身振り手振りで元気ですよアピールして返す。ギターは朝有咲の家に行った際に置いてきたので、今は持ってない。

 

 

「ホントか〜?いつぞやの時みたいに無理してなきゃいいんだけど。」

 

 

いつぞやの時とはいつだろうか。アニメの時か?

 

 

「声が出ないのはびっくりしちゃったもんね〜…」

 

 

やはりアニメの時の話のようだ。簡単に説明すると、アニメでのある出来事によって香澄は声が出なくなってしまう。一旦治ったと思って練習を再開するのだが、いざ始めるとまたしても声が出なくなったのだ。その後ポピパメンバーの励まし等あり声が出せるようになったのだが、やはりポピパメンバーからしても当時の香澄はかなり無理していたのだろう。

 

 

「そ、その節はご迷惑お掛けしました〜…」

 

 

取りあえず申し訳なさそうに謝罪しておく。あれから、有咲と電話したあの夜から、俺はポピパメンバーには何も話してない。相談しろとは言われたが、そういう訳にもいかないからだ。その事を皆どう思っているのか。心配してないという事は無いのだろう。今の話題だって、何も言わない俺、もとい香澄に痺れを切らした沙綾が探りを入れるような感じだった。きっと全員に何かが変だとは思われている。特に、直接その事で電話した有咲には。だが本人…俺に聞く事はしてこない。もしそれで大切な友達に負担を掛けたらという気持ちがあるのかもしれない。有咲はかなり踏み込んできた方だが、それでも最後の決断は香澄本人に委ねた。そしてそれを俺は無下にしてしまっている形になってしまっている。その事に引け目は感じるのだが、何よりも香澄を取り戻さなくてはならないので、しょうがないと無理矢理自分に言い聞かせている。香澄さえ取り戻せれば、全ての状況が好転どころか解決すると信じて。

 

 

「着いた着いたっと…」

 

 

考え込んでたらいつの間にか有咲の家の蔵へと辿り着いていたようだ。いかんいかん考え込むとか香澄のキャラじゃ無いよな。こういう事するから余計怪しまれる、とは思っているのだが、どうも性分はなかなか変えられない。

 

 

(おお…)

 

 

蔵の中の光景に心の中で感嘆の声をあげる。蔵の中はよくアニメでも出てきていたし、ゲームのストーリー中の背景なんかにもあったりして結構覚えている。覚えている限りではそのまんまの光景だ。第三者視点で見ていたのが自分視点で見れるのは結構テンションが上がる。

 

 

「それじゃどうすっか。」

 

「何か適当に合わせる?」

 

 

練習をどうするかの話が進んでいく。こういう時香澄から何か言った方がいいのだろうか?ただ下手な事言って普段と違う事を言ってしまうのも…。しかし、今の所は俺が何も言わない事に特に触れずに話は進んでいるようだ。普段から意外とそこまで何がしたいとかは言わない?というのは香澄の性格的に考え難い。おそらく今のなんだか少し変な香澄だからこそ、思うところがあっても何も言わないのだろう。これが気遣いでそうしてくれている時はいいが、いずれは不信感に変わってくる可能性も0では無い。そうなる前に、この憑依問題にケリを付けたい。まあ、今の所手掛かりすら無いのだが…

 

 

「香澄。」

 

「へ?」

 

 

気付けばおたえが俺の、香澄の顔を覗き込んでいた。そうだった。皆は聞いてこないがおたえは性格的に気にせず聞いてくるかもしれないというのは考えておくべきだった。

 

 

「どうしたの?いつもだったらあれやりたいとかこれやりたいとか言ってるのに。」

 

「や〜、えっと〜…」

 

「おたえ〜、病み上がりみたいなものだしあんまり無理言っちゃ駄目だよ〜?」

 

 

おたえの疑問に答えあぐねていると、沙綾が助け舟を出してくれた。正直助かった。病み上がりという訳では全然無いが、そういう事にしておいてくれた方が色々と都合がいい。

 

 

「きょ、今日は皆でやりたい曲出し合ってよ。私合わせるからさ。」

 

 

アハハ、と笑って誤魔化す。おたえも取りあえずは納得してくれたようだ。まあまだ「うーん…」とか唸ってたりするけども。納得してくれたと信じよう、うん。

 

 

「取りあえず『キミにもらったもの』合わせるか。」

 

「あっ、いいね。バースデーソングの時以来だから結構久々だなぁ。」

 

「あの時は皆ありがとね?」

 

 

『キミにもらったもの』か。ポピパの曲の中でもかなりゆったり目な曲だ。香澄の体調に気を使ってあまり疲れない曲をチョイスしたのかもしれない。ちなみにバースデーソングの時とは、りみの姉、牛込ゆりの誕生日の際に送る為作った曲だと記憶している。ゲームでのイベントエピソードの1つだ。ちなみにこのエピソードから以前言った二重の虹までは、ハッキリと覚えてる訳では無いが現実時間で凡そ1年程だったような気がする。まあゲーム内ではどの程度時間が進んでるかは分からないし、そもそも進級とかをしてない時点でこの辺を考えるのは野暮なのだが。

 

 

「準備出来たよ!」

 

 

と、そんな事を考えつつ準備を済まし、皆にそう告げる。おそらく弾けるはず…、弾いてみるまで弾けるかどうか分からないのはかなり不安だが、悟られる訳にもいかない。如何にも『いつでも出来ますよ』風を装う。

 

 

「じゃ、やろっか!」

 

 

沙綾の声を合図に、俺達は演奏を開始した…

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…あれ…」

 

 

俺は固まっていた。何故なのか、全然上手く弾く事が出来なかったのだ。一応ポピパの皆は演奏は続けてくれたが、まともに音を奏でない香澄のランダムスター、もとい香澄に怪訝そうにしているのは痛い程伝わってきた。辛うじて歌はなんとか歌い切ったが、香澄が担当をしているギターの部分が抜けていたり音が全然違ったりと、それはもう酷い演奏になっていたのである。

 

 

「…香澄…?」

 

 

沙綾が「どうしちゃったの?」と言わんばかりの顔を向けてくる。他の皆も同じだ。本当にどうしたんだろうか、だって香澄が覚えてれば出来ない事は無いはず…

 

 

「……あっ!?」

 

「うわっ!なんだよ…?」

 

 

思わず声が出てしまった。香澄が覚えてれば出来ない事は無いはず?それはそうだ、つまりそれが出来なかったという事は…

 

 

「皆!二重の虹(ダブルレインボウ)やろう!お願い!」

 

「か、香澄ちゃん!?本当にどうしちゃったの!?」

 

 

やばいちょっと強引過ぎか。だがもう押し通すしかない!

 

 

「お願い!!」

 

「…よく分かんねーけど、分かった。」

 

「香澄…」

 

 

有咲は本当に理解が出来ていない表情をしていたが、必死に頼み込む俺、つまり香澄を見て納得してくれた。おたえもかなり心配そうにこちらを見ていたが、ギターを演奏する体勢になったのを見るにやってくれるのだろう。

 

 

「…うんっ!私もよく分からないけど…頑張るね!」

 

 

りみも演奏する体勢になる。沙綾もこちらを見てこくりと頷き、ドラムの前でスティックを構えた。

 

 

「皆…ありがとう。それじゃ…行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふぅ…」

 

「で、出来た…」

 

 

二重の虹(ダブルレインボウ)の演奏は成功した。それなりにミスするところもあった事はあったが、先程の演奏に比べたら差がありずきると言ってしまえる程だった。

 

 

「……」

 

「香澄、何か理由があったの?」

 

「それは…」

 

 

それは…理由ならある。ある事を確かめる為だ。何故『キミにもらったもの』が全然上手くいかなかったのか?というのを、おそらく香澄がもう演奏の仕方を久々過ぎて覚えてなかったのでは?と思ったのだ。といってもちゃんと覚えていなくても、本来ならどこをどうすればこういう音が出るというのを大体分かっているはずなのだが、俺にはそれが出来ない。ギターなんて元々は触りもしてなかったものだ。ぶっちゃけ何をどうしたらどう音が鳴るとか分からないので、体で覚えてない部分のフォローが全く出来ないのだ。体で覚えている事は出来ても、頭で覚えている事はどうしようもない。二重の虹(ダブルレインボウ)は最近の曲のはずなので演奏出来るのでは無いかと思ったのだが、ビンゴだったようだ。家でギターが弾けるか試した際に演奏した『ときめきエクスペリエンス』だが、こちらはアニメのOPテーマなので時系列的にはいつ演奏したのかは分からない。まあ程々に演奏出来たという事はこの世界ではどこかでやっているはずという事だが。

 

 

「その〜、なんと言いますか…」

 

 

予想は当たったがその後どうするか考えていなかった。これは後に気付くのだが、グリグリのメンバーの内二人の名前が分からないのも同じ事だ。香澄が覚えている事は分かるものだと思っていたが、人の名前は体で覚えている訳では無い。キャラの名前が分かるかどうかは、単に俺自身が覚えているかどうか次第という話だった。だからモブという概念が無いはずなのにキャラ以外の名前が分からなかったり、グリグリのメンバーを中途半端に覚えていたりしたのだ。

 

 

「…取りあえず休憩にしよーぜ、私疲れたし。」

 

 

有咲がそう言う。助かったが、結構マズイのでは?不信感に変わる前に、という事を先程考えたが、既にポピパのメンバーから向けられる視線に不信感とまでは言わずとも、困惑、疲れなどの気持ちが見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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(聞けそうな雰囲気じゃなくなったな…)

 

 

蘭に聞いたのと同じようにポピパの楽曲の事を調べるつもりだったのだが、どうもそういう空気では無くなってしまった。ピリピリしている訳では無いのだが、和やかな空気とも思えない微妙な空気感だった。ただでさえ今俺はいくつかやらかしてしまっている状態なのに、ここで白々しく「今何曲あったっけ?」なんて話を切り出しても余計に状況を悪化させるとしか思えない。どうしたものか…

 

 

「香澄、ちょっと来て。」

 

「え?」

 

 

そう香澄を呼び出したのは、有咲だった。このタイミングで俺を呼び出すのは、まあそういう事なのだろうが…。沙綾達の注目も有咲に集まる。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

「いいから。」

 

 

淡々とそう告げる有咲。有無を言わさない空気に、已む無く俺は有咲に着いていくことにした。沙綾達も、なんとなく有咲の行動を察したのか特に止める事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「有咲…?」

 

 

連れて来られたのは蔵の外だった。辺りは夕焼けになっており、そろそろ日が落ちようとしている時間なのが分かる。

 

 

「あのさ…あれから誰かに相談とか…」

 

 

そこで一旦言葉を区切る有咲。何かを考えつつ言葉にしようとしているのはその様子から見て取れる。

 

 

「…ううん。」

 

「…そうか…」

 

 

またしても少し考え込む有咲。夕焼けの影になって見えづらいが、苦悶の表情を浮かべているように見えた。

 

 

「…なあ、私達じゃ、力になれないか…?」

 

「え…」

 

「香澄のさ、様子がおかしいのは、正直言って皆思ってる。香澄自身、周りに察せられないように動いてるつもりだろうし、それがあまり上手くいってないのも、自分で分かるだろ?」

 

 

…やはり、そう思われてたかという気持ちだった。確かに俺自身完全に香澄を演じられているとは到底思えないし、近しい人達、ポピパの面々なら違和感を感じるのも当然か。しかも、こうして面と向かって言ってくるぐらいだ。香澄以外の面々で話し合っていたのかもしれない。香澄の様子がおかしい事について。

 

 

「…香澄の方から言って欲しかったんだ。私達から言ったらさ、また変に拗れたりしたら嫌だった…。」

 

「……」

 

「本当はもうちょっと待つつもりだった…、でも、でもさ…」

 

 

…今日の出来事で、待つつもりだった有咲の引き金を引いてしまったという事だろうか。

 

 

「蔵に向かう途中はらしくも無く何か考え込んでたし、やりたい曲とかも言わねーし…でもそれぐらいならまだ今まで思ってた違和感と大差無いし何も言わなかった…」

 

「うん…」

 

「…でもっ!なんだよアレ!?全っ然ギター弾けてないじゃねーか!!『キミにもらったもの』なんかまるで弾けてなかったし、『二重の虹(ダブルレインボウ)』だって出来たとは言ってもたまに練習でやる時と比べたら全然だ!あんなに!あんなにギターがバカみたいに大好きだったお前が!!弾いてる時も全然楽しそうじゃねえ!どうして…なんで…」

 

 

声を張り上げて思っていた事をぶちまけてくる有咲。俯いて悔しそうに拳を握りしめている。

 

 

「あんなにさ…!バカみたいに何度も私の家に来て…あんなに欲しがってたギターだぞ…?なんでっ!今になって!!あんなに楽しく無さそうに弾くんだよ!?」

 

「…有咲…」

 

 

…アニメで見た話だ。ランダムスターは元々有咲の家の質屋、流星堂に置いてあった物だった。その時点で有咲の手により既にネットのオークションに出されており、高くて香澄の手が届く代物では無かったのだが、何度も何度もランダムスターを見る為に流星堂に訪れた香澄に根負けするような形で香澄にギターを譲ったのだ。(厳密にはオークションのキャンセル料だけ要求したのだが)

 

 

「……」

 

 

何も、言えなくなっていた。ギターを弾く時、俺には特別楽しいと言う気持ちは無かった。その場を凌ぐ事に必死だった。そんな気持ちが顕著に表れてしまったのだろう。そしてそれが、今まで戸山香澄の演奏を見てきて、そして一緒にやってきた有咲には我慢ならなかったのだろう。今まで我慢し続けてきた有咲を爆発させるきっかけには十分過ぎた。

 

 

「なぁ…頼りに、ならないか?私達じゃ…」

 

「…………ごめん……………」

 

「っ!ごめんってお前っ…!」

 

 

有咲が俺の、香澄の肩に掴み掛かる。その両手には力がかなり入っており、その痛さに思わず表情を歪めてしまった。

 

 

「あっ……ごめん…」

 

 

その表情に気付いたのか有咲はすぐにその手を離す。有咲は本当に友達想いだなと、改めてそう思った。他のポピパの皆が友達想いでないという話では無い。だけど高校まで友達と言える友達もいなくて、本人もとても不器用で…だからこそ、高校で出来た掛け替えのない友達を不器用なりにとても大切にしている。香澄の事が心配で心配でしょうがなくて、そんな香澄を助ける事が出来ない自分にイライラして、何があったのかを言わない香澄にもイライラして、悲しくて、どうにかしたくて…そんな複雑な心境なのは有咲の様子から察する事は出来る。そしてこんなにも友達想いの少女にこんな事をさせて…そんな自分にもイライラした。俺が香澄になったのは恐らく俺のせいでは無いが、もう少し上手くやれないものかと。感じる必要の無い責任なのかもしれないが、それ程に有咲の激昂は自分に思わせるものがあった。だから有咲に俺は…

 

 

「有咲…」

 

「…なんだよ。」

 

「…ごめん、今はどうしても言えないの…嫌な気持ちにさせて、本当にごめんなさい…でも約束する。いつか…いつか話せるようになったら、絶対に話すから!だから…私(香澄)の事、許してください…!!」

 

 

頭を下げる。なるべく真摯に、全て自分の非だと認め、いつか話す事を約束する。

 

 

「…許すも何も、別に怒ってる訳じゃねーよ…ただ、分かんなかっただけだ…ほら。」

 

 

そう言って有咲は自分の右手を小指だけ立てた状態で差し出す。これはいわゆる指切り的なものだろうか。

 

 

「…うん。」

 

「「ゆ〜びき〜りげんまん嘘付いたら針千本の〜ます、指切った!」」

 

「…約束、したからな。絶対だぞ!」

 

「…うん。」

 

 

こうして俺は有咲と約束した。いつか必ず、何があったのかを全て話すという、果たすつもりのない嘘の約束を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued…




香澄がおかしくなったらまあ有咲は焦ると思います。 そんな有咲も好きです←

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