凛として、生きて 前編   作:樋口晶子

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第1話 居場所を求めて

…疲れた、お母さんお父さんお兄ちゃん

…泣くのも、悲しむのも、お腹がすくのも、歩くのも、生きるのも

…凛も、もうすぐそっちにいけるみたい

…またみんなで暮らせるのかな…

 

「ウマソウナガキダ………イタダキマス…っ!グ!」

 

「………」

 

「…キ、キサ…マ……………」

 

 

 

「……立てる」

 

「………立ちたくない」

 

「…悪いけど、背負って連れて行けるほどの余裕はないわよ」

 

「……いいよ、置いて行って」

 

「…死ぬわよ」

 

「…いいよ」

 

「……なら、私の目の届かない所で死んで、今は諦めるのね」

 

「…!離して!離してよ!…っ!ぐ」

 

 

 

「あ!気がついたのね!」

 

「……ん?」

 

「あなたお名前は?お母さんとお父さんは?」

 

「………もう、いない」

 

「そう…でももう大丈夫よ私達はあなた達を助けにきたの」

 

「助けなんかいらない!私はもう…もういや!」

 

「………余程辛い目にあってきたのね、…ごめんなさい、もっと早く来てあげることができなくて」

 

…ぐぅ〜…

 

「…〜っ!…」

 

「お腹が減っているのね!直ぐにご飯出すから!」

 

「わ!私は!」

 

 

 

「…どうですか、あの娘は」

 

「ええ、ご飯を5杯もおかわりして…いまはぐっすり眠ってます」

 

「そうですか」

 

「加賀さん、あの子お母さんもお父さんも…それで…」

 

「鳳翔さん、今は眠らせてあげて。私に言ったわ、死にたいって」

 

「まあ!そこまで思いつめて…」

 

「…でも、本当に死ぬかどうか自分で考えられるようになるまで生きておきなさい」

 

 

 

「凛ちゃん、私達と一緒に行きましょう」

 

「…お姉ちゃん達は、どこに行くの」

 

「鎮守府よ、凛ちゃんと同じくらいの歳の子もいるの。きっと仲良くしてくれるわ…あったかいご飯もある、一緒に行きましょう」

 

「…加賀お姉ちゃんも、そこに行くの」

 

「…ええ、皆んな暮らしているわ」

 

「ね!行きましょう」

 

「…うん」

 

 

こうして私、水神凛は加賀さんに命を救われ鳳翔さんに生きる場所を貰った

お姉ちゃん達が何者で、私の家族を殺した者がなんなのか知ることより、ここでうずくまって死を待つより暖かく差し出された鳳翔さんの手を握り、この2人について行くことしか今の私に出来ることはないと思ったから。

そんな嵐に吹かれれば倒れ、日が当たらないと育たず、水無しでは枯れてしまう稲の様に弱い私とそんな人間を護ろうとするお姉ちゃん達艦娘の備忘録

 

 

「間宮さん!5番テーブルホットケーキ、餡蜜、抹茶パフェ!7卓お汁粉、ぜんざい。6番テーブル抹茶、苺大福、みたらし団子、葛餅、きな粉餅、わらび餅、間宮モナカ4つ!入ります」

 

「はーい!」

 

「どうぞ、先に苺大福です」

 

「凛ちゃん!ここの生活には慣れた?」

 

「…うん」

 

「そっか!良かった〜」

 

「お仕事も慣れてきたみたいで電は嬉しいのです!」

 

「ハラショー」

 

「それならもうちょっと愛想よくしなさいよね」

 

「ちょっと雷!凛ちゃんはまだ給仕さんになったばかりなんだから」

 

「それでも仕事には変わりないでしょ」

 

「素直に…もっと仲良くなりたい…って言えばいいのに」

 

「ちょっと響!わ、私はそんな!」

 

「なんだ、雷も凛ちゃんと仲良くなりたいんだねー」

 

「ねえ!凛ちゃん、この後暁達お外で遊ぶんだけど凛ちゃんも一緒にこない?」

 

「…ご、ごめんなさい私…仕事にもどらないと」

 

 

「…ふう、ほんと愛想ないんだから」

 

「仕方ないじゃない、今まで辛いことばっかりで急に心開いてなんて無理だよ、それに待つのも立派なレディの嗜みだわ!」

 

「そんなの私達だってそうじゃない」

 

「…凛ちゃんはお母さんとお父さん、お兄ちゃんって人を亡くしてるって加賀さんが」

 

「きっとそれ、すごく辛いことなのです…」

 

「でもさ、いつまでもウジウジされてたら間宮来るの嫌になっちゃう、だっていつもあの子いるじゃん」

 

「ちょっと!だから私達がお友達になってあげるんだって話したじゃない!」

 

「だって何言っても一言三言だし、ノリ悪いってゆうか」

 

「…それだけ悲しい思いをしてきたのよ彼女は」

 

「鳳翔さん!」

 

「お願い、凛がこれから明るくなれるようにあなた達が最初のお友達になってあげて」

 

「レディとして、友達を増やすのは悪いことではないわ!」

 

「うん!絶対凛ちゃんと友達になるのです!」

 

「一緒にここで暮らしてたら友達になれるよ」

 

「…まあ、鳳翔さんが言うなら…まだ頑張ってみる」

 

「ふふ、ありがとう」

 

「間宮さん!1卓さんに杏仁豆腐とオレンジジュース入ります!」

 

 

 

私は鎮守府に着くと昼は間宮さんのウェイトレス、夜は鳳翔さんの居酒屋の手伝いをした。

鳳翔さんはまだ休んでいてもいいと言ってくれたけど、他人の好意が怖かった

鎮守府は本当に暖かいご飯があって、部屋もある

それにみんな優しくしてくれる…私はそれが怖かった、それを失うことが。

みんなはここで深海棲艦という敵から私達人間を守る艦娘って仕事をしているらしい、それが私の家族の命を奪ったことも教えてもらった。

私にはそんなのと戦うなんてできないから

ここを追い出されないように、自分の居場所と理由を作ろうと出来ることを探したら、この二つのアルバイトが私の居場所だった

初めはメニューとかどこテーブルとか覚えるのは大変だったけど…またあの地獄に戻るのは嫌だ…そう思って働いた。

今日は月に一回のお給料日、なんでも鳳翔さんが言うには

…こうして働くとお金というものがもらえて、それを貯めるといいことがある…らしい。

 

「…お母さん、お父さん、お兄ちゃんを返してもらえるのかな…」

 

「はい!凛ちゃんのお給料よ!初めてなのに頑張ったわね、メニューも覚えてくれたみたいだし来月からも一緒に頑張りましょうね!」

 

「…間宮さん、ありがとうございます」

 

「ですね!凛さんが入ってくれて私も助かっちゃいました、でも夜は鳳翔さんのお店を手伝っているんですよね、大丈夫ですか?」

 

「そうよね、伊良湖ちゃんの仕事も調理場になって助かっているけど凛ちゃん頑張りすぎていない?」

 

「わ、私は大丈夫です!仕事ももっと頑張ります!だから…だから捨てないでください…」

 

「凛ちゃん、誰もあなたを捨てるなんてそんなことしないわ、私達は凛ちゃんが頑張り過ぎて体を壊すんじゃないかって心配なの、あなたにはここにいてほしいのよ…だからあまり力を入れ過ぎないでね」

 

「…ありがとうございます」

 

「凛さんがよければ、今度私と一緒に街に行きましょう!お給料も入りましたし、何か美味しいものでも食べに!どうですか?」

 

「…街、ですか?」

 

「ええ、いろんなお店がいっぱいあってお休みの日に行くと楽しいところよ…そうね、お洋服なんかを見て回るのもいいし、映画っていうお芝居を観に行くのもいいと思うわよ!」

 

「…え、えいが!観に行ってみたい、です…」

 

「では一緒に行きましょう!そうですね、次のお休みを合わせて…たのしみですね!」

 

「…あと、このお給料で間宮さんの最中買えますか…その、前にもらったとき…すごくおいしかったから…」

 

「……〜〜っ!買ってもらわなくても凛ちゃんにはあげちゃう!お姉ちゃん嬉しいわ〜」

 

「ふふふふ、間宮さんたら!」

 

「そ!そんなにいただいても食べきれないですよ〜!」

 

 

「いらっしゃいませ、足柄さん 何名様ですか?」

 

「こんばんは、凛ちゃん!3人よ、空いてるかしら?」

 

「カウンターで良かったら、すぐお通しできます」

 

「カウンターでいいよね?」

 

「ああ、いいぞ 凛、今日も頑張っているか?」

 

「はい、いらっしゃいませ那智さん」

 

「うふふ、こんばんは凛ちゃん」

 

「いらっしゃいませ羽黒さん」

 

「では、こちらへどうぞ」

 

「あら、いらっしゃい!妙高さん今日はいないの?」

 

「ええ、今日は遠征にでてるわ」

 

「お邪魔しますね、鳳翔さん」

 

「ふふ、凛の接客も様になってきたな」

 

「ええ、本当に頑張り屋さんで助かってるわ」

 

「お手拭きをどうぞ」

 

「あら、ありがとう凛ちゃん!」

 

「おのみものはいつものでよろしいですか?」

 

「ああ、3人分いつものでたのむ」

 

「かしこまりました」

 

「凛ちゃーん、こっち注文お願ーい!」

 

「少々お待ちください!では失礼します」

 

「ふふふ、本当に頼もしい店員さんですね」

 

「…店員じゃないわ、私の最後の娘。最後のね」

 

「いいなー!鳳翔さん私も子供ほしい〜」

 

「ははは!何を言ってる足柄、お前はまず旦那を探すところからだ!」

 

「…あう…足柄お姉ちゃんの旦那様は私が見つけます!」

 

「うるさーい!もう男なんてどーでもいいのよ!私は凛ちゃんみたいな可愛い子供の話をしてんの!」

 

「あははは、だからまずは旦那だろ?ああ!あれか精子バンクから人工授精ってやつか!」

 

「まあ!それなら足柄お姉ちゃんでも大丈夫ですね!」

 

「あんたら、人ごとだと思って…!」

 

「おまたせしました、大吟醸とバーボンロック、梅酒ソーダです」

 

「まあ!ありがとう凛ちゃん」

 

「…おいおい、鳳翔さん年端もいかない凛に大吟醸なんて言葉覚えさせていいのか?」

 

「そ、そうよね…」

 

「いいんです!私は手伝いたくてそうしてますから」

 

「なんて健気なのかしら!凛ちゃん、私の娘になって!」

 

「ぐ!ぐるしいです…あ、あしがら…さん…」

 

 

 

「…お邪魔するわよ」

 

「いらっしゃいませ…加賀さん…」

 

「あら、凛ちゃん今日もお仕事?」

 

「いらっしゃいませ赤城さん」

 

「2人よ、通してもらえる」

 

「は、はい…こちらへ」

 

「おのみものは何になさいますか?」

 

「私は熱燗をお願い、赤城さんは何にします」

 

「そうですね〜とりあえずハイボールください」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

「…凛、ここの生活はどう」

 

「…1人でいるよりずっといいです」

 

「それは、もう死にたいなんて言わない…ということかしら」

 

「…それは…、少々お待ちください」

 

「心配ですね、凛ちゃんのこと」

 

「あの子が自分で決める事です」

 

「加賀さん…」

 

 

「ちょっと!那智あなたそれどういうことよ!もう一回言ってみなさいいよ!」

 

「ああ!何度だっていってやるさ!」

 

「なによ!」

 

「なんだ!やるのか!」

 

足柄さんと那智さんの喧嘩、このままでは鳳翔さんのお店とお客さんに迷惑がかかると思った私は調理場に掛けてあるフライパンとおたまを握り2人の仲裁に入った。

 

「足柄さん!那智さん!喧嘩は外でしてください!お店の中では他のお客様の迷惑です!それでもやめないなら私が相手になります!」

 

「…!っふふふ、可愛い」

 

「……」

 

「こ、こら!そんなもの振り回すんじゃありません!ごめんなさい皆さん」

 

「……凛、写真を撮らせてくれ」

 

「……鳳翔さん……やっぱり、さっきの話考えない…」

 

「…ダメです、お姉ちゃんには勿体無さすぎます、私の娘に…」

 

 

「…あ、あわわ、み…みなさん!ぐ、ぐるしいですー!」

 

 

「ありがとうございましたー」

 

「ふう!今日もご苦労様、凛」

 

「はい、ご苦労様でした鳳翔さん」

 

「これ、凛のお給料よ 初めてのお給料は間宮さんから頂いたのよね?」

 

「はい、最中もいっぱいもらいました」

 

「…最中…うふふ、良かったわね凛」

 

「…あの、お金って何に使えばいいんですか?」

 

「…そうね、凛が使いたいって思うまで貯めておきなさい」

 

「…?はい」

 

いつものようにお店が閉まった後、鳳翔さんは次の日の仕込み私はお店の後片付けをしていた。

 

「ねえ、凛」

 

「どうしました、鳳翔さん」

 

「もしね、もし、凛が良かったらなんだけど」

 

「はい?」

 

「凛が寂しかったら、私と一緒に暮らさないかしらと思って。もちろん嫌だったら今まで通りこうして手伝ってもらうだけでもいいのだけど…どうかしら?」

 

「…………ほ、ほうしょうさん……鳳翔さん…っ!うあああああん」

 

「あらあら!ど、どうしたの凛そんなに泣いて」

 

「…うああああああん!」

 

 

鳳翔さんは泣き喘ぐ私を厨房から飛び出し、抱きしめてくれた

あの温もりは今でも忘れられない。

二人暮らしをするため彼女のいる少し広い部屋に引っ越したのだけど、久しぶりに誰かと一緒に寝起きしてご飯を食べるその部屋は私にとって、2人では狭いけれどとても暖かく沢山の思い出があって、とても大好きな部屋になった。

 

 

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