凛として、生きて 前編   作:樋口晶子

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第5話 悪夢

「凛ちゃ〜ん注文ー」

 

「は〜い!…お待たせ暁ちゃん」

 

「んーと特濃アイスと抹茶オレ、チョコパフェ2つ、間宮モナカ、チーズケーキ、ココア3つとお汁粉お願い!」

 

「はい!ココアはアイスとホットどっちにする?」

 

「私のはホットで」

 

「雷のはアイスにして!」

 

「電のはホットなのです!」

 

「うん!じゃあホット2つとアイス1つね!少々お待ちください」

 

「ねえ!凛ちゃん」

 

「どうしたの?暁ちゃん」

 

「知ってる?もうすぐクリスマスなんだよ!」

 

「…くりすます?あ!パーティーのこと?」

 

「それだけじゃないのです!クリスマスは1年いい子にしてた子供にサンタさんって人がプレゼントを持って来てくれるのです!」

 

「え!プレゼント!いいな〜ねえ、そのサンタさんっていつくるの?」

 

「25日よ、その日の夜寝てる時に来るの」

 

「響ちゃん詳しいんだね!サンタさんてどんな人?」

 

「会ったことはないんだ、ただ毎年12月26日の朝起きると枕元にプレゼントがあるの」

 

「いいなー!凛のところにも来てくれるかな…サンタさん」

 

「凛ちゃんはとってもいい子だからサンタさんも来てくれるのです!」

 

「ふ!…まだまだお子様ね!あなた達は!」

 

「雷だってまだお子様なのです!」

 

「ちっちっちー!そうじゃないのよ!クリスマスはね、サンタさんとパーティー以外にも特別なことがあるの!」

 

「え?なにそれ」

 

「暁も知らないだなんてまだまだお子様ね!」

 

「何よ!勿体ぶってないで教えなさいよ!」

 

「クリスマスは恋人の聖夜なのよ!」

 

「雷ちゃんなにそれ」

 

「凛も鈍いわね…いい?12月25日はお互い好きな女の子と男の子が一緒に過ごす聖なる夜なのよ!」

 

「ええ!何それ!」

 

「電も初めて聞いたのです!」

 

「…そ、それは立派なレディの第一歩ね!」

 

「…ハラショー」

 

「好きな男の子と手を繋いで一緒にあるく!んでもって雪が降ってくる!それで…ああ雪ね…ああ雪だね…でもあなたの手あったかい…なんて言いながら!2人で過ごすのよ!」

 

「そ!それは!」

 

「電はそんな!男の子と手を繋ぐなんてそんな!」

 

「そ、そ、それだって…り、立派なレディの……」

 

「…ハラショー……」

 

「ってゆうわけで!この鎮守府で唯一のカップル、加賀さんと提督のデートを見学させてもらおうよ!これも雷達が立派なレディになる為!恋人とどうクリスマスを過ごしたらいいのか!これも勉強よ!」

 

「そ、そんな…2人の邪魔じゃないかな…」

 

「凛ちゃん!これも立派なレディになるため!見学させてもらおう!」

 

「…電もちょっと見たいのです」

 

「2人にバレなきゃいいんじゃない」

 

「そんな…いいのかな…」

 

「いいの!ちょっと見るだけだから!そして雷達は一歩また大人になるのよー!」

 

「おー!」

 

「じゃあ、クリスマスパーティーが終わったら駆逐艦寮の前に集合ね!」

 

「…う、うん」

 

 

 

「今年も1年おつかれネー!」

 

「そして!気合い!入れて!お姉様への愛を誓う日!聖しこの夜クリスマスをお祝いして!」

 

「メリークリスマス!!」

 

「加賀さん、また一年お疲れ様でした」

 

「ええ、赤城さんも」

 

「足柄、おつかれ!また一歳歳食ったな!」

 

「お姉ちゃん…来年こそは…必ず!」

 

「うっさいわね!」

 

「瑞鶴、ほら口に食べかすがついてる」

 

「ええ!翔鶴姉とってとって!」

 

「凛ちゃん、一年お疲れ様でした!」

 

「間宮さん!はい!お疲れ様です」

 

「凛さん、本当に毎日頑張ってくれてありがとうございます!」

 

「伊良湖さん…こちらこそありがとうございます!」

 

「飛龍、写真とろ!」

 

「うん!せーの!」

 

「き、霧島!そんなにお酒飲んだら!…」

 

「あん?なんだ?ネエチャン…可愛いじゃねぇか!」

 

「い、いやー!やめて!霧島ー!」

 

「ハハハ!今年も一年、鎮守府は平和ですネー!」

 

「お、お姉様!この日のため、お姉様のために作った比叡カレーどうぞお召し上がりください!」

 

「は、ハハハ…平和じゃ無くなるかも…デース…」

 

「凛、一年お疲れ様でした」

 

「お母さんもお疲れ様でした!来年もよろしくお願いします」

 

「凛が来てくれてお母さん本当にいい一年だったわ」

 

「…えへへ」

 

「凛ちゃ〜ん!」

 

「あ、暁ちゃん」

 

「…今日の作戦大丈夫よね!…」

 

「…う、うん…でも本当にするの?…」

 

「もちろん!あ、…だって今日しかないのよ!だから鳳翔さんに帰りは遅くなるって言っておいてね!…」

 

「…う、うん…」

 

「あ!凛、暁!写真とろー」

 

「うん!今行く!」

 

「あ、あのね…お母さん」

 

「ん?どうしたの凛」

 

「パーティーの後暁ちゃん達とちょっと外で遊んできてもいい?」

 

「ええ!でもあまり遅くならないうちに帰ってくるのよ?」

 

「う、うん」

 

「じゃー写真とるよー!」

 

「はいチーズ!」

 

 

 

この子達、ほんとデリカシーないよね

他人のデートを見に行くなんて、でも私も行ったから言えたことじゃないか

この一年で私はかけがえのない大切な人、思い出、場所をたくさんもらった。

だからサンタさんにプレゼントがもらえるなら、何も要らないただこの幸せな時間をいつまでも続けさせてください

そうお願いするつもりだった。

私の将来が決まってたとえ鎮守府を離れることになっても、みんなに元気でいてほしい、そう思った

それってそんなに欲丸出しかな?それとも加賀さんのデートを覗き見したから?悪い子だったかな…

 

 

 

「…いたいた!雷のカン的中!やっぱりロマンチックなところがない鎮守府じゃ、海を見にくるしかないからね!…」

 

「…ほんとにいたわ!…」

 

「…みんな隠れて…」

 

「…なんか見てるだけなのにドキドキするのです!…」

 

「…ねえ、もう遅いしみんなかえろ?…」

 

「…何言ってるの!せっかくここまで来たんだしデートの見学だよ!…」

 

「…2人ともうるさい、何言ってるか聞こえない…」

 

「…うう…」

 

 

「………加賀さん。……提督。…」

 

 

「…こ!これはキスというやつ!…」

 

「…わー!もう電は見ていられないのです!」

 

「……は、ハラショー……」

 

「…………………」

 

「…雷ちゃん!大丈夫!…」

 

「…ちょ!ちょっと雷!言い出しっぺのあんたが肝心なとこで気絶してんじゃないわよ!…」

 

「ねえ、暁ちゃん…あれ何…」

 

「…ちょっと!凛、そんな大きな声ださないでよ!…」

 

「…何って加賀さんと提督なのです!…」

 

「んん!違う!その奥の光ってるの!あっちは海の上のはずだよ!」

 

「…あれは!」

 

「加賀先生!!提督!!逃げて!!」

 

「っ!凛あなたそんなところで!」

 

「いいからそこから離れて!!」

 

「凛!危ない!」

 

「………っ!痛!……え………雷…ちゃん…………」

 

「凛、立ちなさいここにいては死ぬわよ 提督、雷をお願いします」

 

「ああ!深海凄艦だ、凛ちゃんが教えてくれて助かった…くそ!何故探知できなかった!」

 

「考えるのは後にしましょう、暁、響、電あなた達は私の艤装を持ってきなさい」

 

「了解しました!」

 

「…な………何これ……私の体……雷ちゃんの血まみれ……そ、そんなの……いや……」

 

「凛落ち着きなさい」

 

「雷ちゃんなんで、どうしてこんな…」

 

「これから私達は戦闘に入ります。あなたは急ぎ走って鳳翔さんの部屋に帰りなさい、そして私が部屋に行くまで隠れていなさい」

 

「…でも…でも!雷ちゃんが!」

 

「凛!!」

 

「っ!」

 

「行きなさい!」

 

「はっ、はい!」

 

 

 

無我夢中で走って部屋に入ったのだけど、お母さんは居なくて

でも外では大砲とか爆弾の音が耳をつんざいて痛かった

私は部屋のクローゼットの中で震えながら…なんでこんなことになっちゃったんだろう…お母さんはどこ?…雷ちゃんはどうなったの?…みんなは?…って疑問が頭の中でお経みたいに駆け巡ぐり

その大砲の音はクリスマスの夜中響き渡って、私は眠ることが出来ないまま

これは夢、悪い夢早く覚めろ覚めろと思うことにした。

 

朝になると母が来て放心状態の私を抱きしめてくれた

外は酷いありさまで至る所に砲弾の跡、燃えかすになった木

まるで昔、私が居たところみたい

母が泣いていた

なんでも戦闘で飛龍さん利根さんが…死んでしまったらしい

私はただただ立ち尽くすしかできなかった

 

 

 

「凛、気をしっかり持つのよ」

 

「…お母さん…もう私、歩けないよ」

 

「お願い、凛…もう会えなくなってしまうの」

 

「…お母さん?」

 

「……凛ちゃん……」

 

「…ヒッ、ぐ…凛ちゃん…ぐ………」

 

「凛…雷に…お別れを言ってあげてほしい…」

 

「え?」

 

 

 

そこには小さな棺桶があって

安らかな顔をした雷が眠っていた

後から聞いた話、あの時私をかばって雷は爆弾を受けたらしい

私なんかを………

それからは最悪の年明け、冬休みだった

亡くなった方の通夜、瓦礫の撤去、建物の再建

とても新年を祝える気分じゃない。

 

私が初めて知ったクリスマスのサンタはプレゼントをくれるどころか

大切な友達を奪っていった。

 

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