わたしの賢者さま   作:ジャックオニール

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冒険 ファンタルジニア
冒険の始まり


俺の名は矢内 孝太郎。

会社の盆休みを利用して一人旅にでている。前々から予約していた温泉ホテル、ネットの評価も星4.5、夕食はバイキング、ローストビーフが楽しみだ。

と思っていた。

 

勇者「はじめまして、賢者さま。わたしは一国の勇者、わたしと一緒にファンタルジニアに来て下さい。」

 

コイツと出会うまでは…

ワケがわからない。秋葉原でもこんな勇者のコスプレしたヤツいないぞ。なんで持ってる武器が斧なんだ?しかも、賢者って俺のことか?

少しスコールを飲んで落ち着こう。

俺は昔から人によく声をかけられる。観光の外国人に道を聞かれたり、魚釣りの最中に釣り人に釣果を聞かれたり、後、変な生き物に、「僕と契約して魔法少女になってよ!」って言われたり。流石に最後の奴は無視したが。……だって俺は男だし。こんな事は初めてだ。どうしようか?

 

勇者「賢者さまー?ぼーっとしてどうかしましたか?」

 

お前のせいだ確実に。よし!スコール飲んで落ち着こう。しかし、このままでは埒が明かないな。

 

矢内「あー多分、人違いだ。そっちの方向に交番があると思うからそっちに行って尋ねなさい。お嬢ちゃん。」

勇者「人違いではありません!あなたが賢者さまです。これが証拠です。見てください。」

 

そう言って、何か(自称)勇者は自分の持ち物を漁りだした。

 

少しして(自称)勇者は一枚の写真と何か、小さい紙を取り出した。

 

驚愕した。なんでコイツが俺の会社の名刺を持ってやがる。写真には俺が写っている…。後ろの背景は何処だ。また埒か明かねぇ。

 

矢内「何だコレは!!何処でこれを手に入れた!!」

 

しまった!つい町中で大声を出してしまった。人が集まって来た!!一人どこかに電話をかけようとしてやがる!ヤバい!超ヤバい!!

 

勇者「何処って言われましても、神様がこれを持って賢者さまを探すようにって。」

 

OK、埒が明かねぇ。このまま此処にいても通報されて警察の世話になるだけだ。直ぐに予約していたホテルに向かおう。そこでゆっくり話を聞こう。

 

矢内「勇者様。此処じゃ人目に付くので場所を変えて話を聞きましょう。」

勇者「そんな、勇者さま、だなんて//わたしの事はそのまま勇者、ってお呼び下さい。」

 

何をテレてる。バカかコイツは。取りあえず俺はタクシーを呼び(自称)勇者を連れ予約していた温泉ホテルに向かった。

 

 

 

タクシーで走る事15分、ホテルに着き二人分の宿泊費を払う事になってしまった。ガッデム!帰りにソープランドに行く金がなくなった。

 

勇者「凄い所ですねぇ。賢者さまー。」

「お客様、貴重品は此方でお預かり致します。」

勇者「では、わたしの手斧を預かっててください。」

「畏まりました。お預かり致します。チェックアウトの時にフロントにお越しください。お部屋は801号になります。この後6時より夕食のバイキングが御座います。混雑すると思われますのでお早めに11階のレストランにお越しください。」

 

ちょ、斧って預かるのかよ。このホテルマン凄いな。普通、斧なんて持ってきたら通報するぞ。流石はグンマー。考えてもしょうがない。今は5時半だから、荷物を部屋に置いて楽しみにしていた夕食のバイキングにしよう。

 

矢内「勇者、取りあえず食事にしよう。話はその時に聞こう。」

勇者「はい。賢者さま。」

 

 

 

 

ホテル11階

 

「いらっしゃいませ。お二人様ですね。此方のお席になります。」

勇者「高い所ですねぇ賢者さま。山が凄くちっちゃく見えますねぇ。」

 

相変わらずここの従業員は勇者のコスプレした変なガキを見てもスルーだ。ちゃんとお客様として扱ってくれる。ありがたい。流石はネット評価4.5だ。

 

勇者「賢者さまー?凄い量の食べ物が並んでいますねぇ。これ全部食べて良いのですかぁ?」

矢内「あぁ。何だ、バイキングは初めてか?でも少し待てよ、今からメインのローストビーフを切り分けにシェフが来てくれるからな。」

「お客様、ローストビーフのソースは7種類御座いますがいかが致しましょうか?」

 

聞かれても7種類もあると良く分からないので俺と勇者はシェフにお任せした。では、早速ローストビーフを一口、ウマい。言葉が出ねぇ。

 

勇者「凄く美味しいです。こんなに美味しい食べ物生まれて初めてです。」

矢内「確かにウマいがそれは言い過ぎじゃないか?普段何食っているんだ?」

勇者「そうですねぇ。一人の時は大ムカデの脚とかセミとかですね。」

 

クソったれェ。聞くんじゃ無かった。せっかくの料理が不味くなる。話題を変えよう。

 

矢内「ところでお前、何歳なんだ。」

勇者「14歳です。」

 

マジか!今の中二にしては背が低すぎる!胸もねぇ!有り得ない!中二なのに胸がねぇ!!多分、普段セミとか食ってるぐらいだから親からろくに食事も出されてないのだろう。コイツの境遇は不憫だがもうあまり関わらない様にしよう。これ以上面倒はご免だ。

そして、食事も終わり温泉に浸かった後、俺たちはホテルの部屋に戻った。

 

勇者「それでは賢者さま、今日はもう夜も遅いですので明日、わたしとファンタルジニアに行きましょう!」

矢内「あー、その事だが…いろいろと準備が要るからな。一週間後というのはどうだ?」

勇者「そうですか…分かりました。では一週間後にお会いしましょう。」

 

バカめ!俺は観光でここに来ただけだからもう会うことは無い!さらばだ、(自称)勇者よ。さてと、俺は地元に帰るとするか。会社に土産でも買って行こう。

 

 

 

 

それから一週間後

 

 

 

矢内「ヤベェ。休みボケで寝過ごした。」

チャンチャチャ チャチャチャチャ チャンチャチャ チャチャチャチャ チャチャチャチャ チャチャチャン チャチャチャチャチャン まずは背筋の運動ー!

 

朝のラジオ体操が始まってやがる。

 

勇者「いっち、に、さっん、し。」

 

よし、遅刻したのがバレないように紛れ込もう。

 

勇者「ごう、ろっく、しっち、はっち。」

 

よし、誰にもバレてない!

 

勇者「いっち、に、さっん、し。」

勇者「ごう、ろっく、しっち、はっち。」

 

このままいけば遅刻扱いにならなくてすむ。今日の星占い1位だっただけのことはある!

 

社長「おはようございます。」オハヨウゴザイマス。

 

よし、朝礼も終わった。このままシレっと仕事に入れば遅刻では無い!

 

勇者「賢者さま!」

矢内「」

 

何で居る!

 

勇者「今日が約束の日です。さぁ、わたしと共にファンタルジニアに行きましょう!」

 

諦めろ、ということか…

 

矢内「あー、分かった、分かった。ファンタージェンでもバイストンウェルでもネバーランドでも何処にでも行ってやるよ。クソったれ!」

勇者「賢者さま、ファンタルジニアです。」

社長「矢内。お前、遅刻して来てどこに行くつもりやねん!」

 

バレてた!クソッ

 

矢内「社長、実は、ファンタルジニアに出張に行くことに成りまして…それで出張費用の方を5万円ほどですね…」

社長「お前、なに言ってんねん。その子ずっとお前の事待ってたんや。無断欠勤にしといたるからとっとと連れていけや!」

矢内「いやいや、無断欠勤は無いでしょう!あっ有休残ってたんでそれ使いますわ。5日ぐらい。」

社長「なにいってんねん!3日や。3日後、取引先と打ち合わせやから、それまでに帰って来い!」

 

勇者「良かったですねぇ。賢者さま。」

 

良いことあるか!

 

矢内「お前、どうやってここに来た。俺と会った所からここの工場だとかなりの距離があるぞ。」

勇者「それはですね。あれからわたし、一度ファンタルジニアに帰ってから神様に賢者さまのいる所にゲートを広げて貰ったのです。」

 

ウワァ!化け物だぁ!

 

勇者「あっ、ゲートからモンスターが出てきてしまいました。」

矢内「出てきてしまいました。じゃねーよ!どうしてくれるんだよ!」

 

焼却炉の方からでけェカマキリが歩いてる。あれってRPGだと結構終盤ぐらいの敵だろ。

 

社長「矢内。あれ何とかして来たら、遅刻して来た事不問にしてやるわ。」

 

何言い出しやがる。このハゲ!

 

社長「あっ、行く前にコレにサインしていけ。」

 

何だコレ。

 

矢内「社長!コレ生命保険じゃないですか!しかも受け取り社長になってるし!」

社長「早く行けや!」

 

このハゲめ!

 

勇者「行きましょう!賢者さま。」

 

元々お前のせいだろ!

 

矢内「社長!取りあえずフォークリフト使いますわ!」ブロロロロロロ

社長「リフト壊したら弁償しろよー!」

矢内「ハゲー」ブロロロロロロ

 

よし、聞こえないように言ってやったぜ。

 

社長「お前、3ヵ月減給な!」

 

クソッたれ!!聞こえていやがった。

 

 

 

 

焼却炉前

 

 

 

勇者「この大カマキリは腕のカマがやっかいなんです。」

 

見たらバカでも分かる。空に飛ばれたりしたらキツいな。よし、先手必勝!

 

矢内「フォークリフトの爪でおもっいきり刺してやる!」

 

 

 

ブロロロロロロ!

 

 

 

 

 

 

 

ブロロロロロロ!

 

 

 

 

 

 

 

ガタン!

 

 

 

クソッ溝にタイヤがハマった!

 

勇者「あれ?動かなくなりましたねぇ。」

 

カマキリがジワジワと此方に近づいて来る!

 

 

羽を広げて飛んで来た!

 

 

 

 

 

 

シャキン!

大きなカマが降り降ろされる!!

 

 

 

 

 

 

 

ヤバい!!やられる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキーン!

勇者「大丈夫ですか!賢者さま!」

 

助かったのか?イヤ、勇者が斧でカマを受け止めただけにすぎない。

勇者のホビットの様な体ではやられるのは時間の問題だ。何とかしないと!

 

!!!!コレだ!!!!よし!

 

矢内「勇者!!伏せろ!!」

 

 

 

 

バシャー!!俺は近くにあったラッカーシンナーを大カマキリにぶっかけた。

 

 

キシャー!やった!虫けらがのたうち回っているぜ。

 

矢内「勇者!!トドメだ!」

勇者「はい!賢者さま!ター!」

 

 

勇者の斧が虫けらの頭を叩き割った!

 

矢内「ザマァ見ろ!虫けらの分際で俺たちに勝とうなんて思うからだ!ハハハ!」

勇者「賢者さまー?さっきは何で大カマキリが苦しみ出したのですか?」

「あっ、矢内さん。近くにラッカーシンナー見ませんでした?」

矢内「いや、見てないよ。無かったら発注しとくけど。」

「大丈夫です。おかしいなぁ。こっちに半端があったと思ったのになぁ。」

 

勇者「無事にモンスター倒せて良かったですねぇ。」

 

元々お前が悪いのだが自覚していないのだろう。

 

勇者「では、気を取り直してファンタルジニアに行きましょう!」

矢内「おぃ!ファンタルジニアって入り口どこにあるんだ。」

勇者「ここですよ。賢者さま。」

 

勇者の指さす方向はやはり焼却炉だった。

 

 

俺はこの時思った。星占いは当てにならないと。

 

 

 

 

第1話

冒険の始まり

END


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