俺は神父さんの案内で教会の隣の物置小屋に入る。そして、気絶している身ぐるみを剥いだ兵隊を動けないように縛りつける。
矢内「よし、これでいいな。神父さん、面倒をかけてすまないな。」
「いえ、こちらは命を助けていただいたので…。」
矢内「面倒ついでに近くに人を軽く埋めれる位の穴を掘ってくれ。」
「えっ…。それは…。まさか…。」
矢内「ああ、この男を起こして拷問をする。国の情報を洗いざらい喋らせたら生き埋めする為だ。」
「私は…。神父です…。人の死、葬儀に係わる仕事もします…。人を殺す方に協力する為には…。」
矢内「自分を殺そうとした人間を許すのか?」
ガチャ、誰かが物置小屋に入ってきた。
クロノス「ヤー、おかえりー!」
「しんぷさま!」
矢内「ああ…。そっちも無事だったんだな…。」
「おお、エリカ。痛い思いをさせてすまなかったな。子供達は?」
エリカ?このガキ…。まさか…。そう言えば…。面影がある…。
矢内「クロノス、まさか…。コイツ…。」
クロノス「ヤー、そうみたいだね。だから、正体を明かしたら強制送還されちゃうからその仮面はしばらく被っていてね。」
俺達を見る気もせずにエリカは神父さんと話をしている。
エリカ「しんぷさま、みんなどこにもいないの…。」
「みんなはどこに…。」
クロノス「私達が教会に着いた時には誰も居なかったよ。」
矢内「どう言うことだ?」
俺達が話し込んでいると兵隊が目を覚ました。
「ぐっ…。テテテッ…。ここは…。」
矢内「ちっ…。もう目を覚ましやがったか。」
「き、貴様ッ!う、動けない!こんな事をしてただで済むと思っているのか!」
エリカ「ひぃ…。」
「エリカ、下がっていなさい。」
矢内「神父さん、その子をここから出してくれ。」
「分かりました。しかし…。」
矢内「この男の態度しだいだが出来るだけ殺さない様に心掛ける。」
神父さんはエリカを連れて物置小屋を出て教会の中に入って行った。
「テメエッ!こんな事をしても俺と一緒に居た同僚が…。」
矢内「残念だがお前の仲間は地獄まで永久出張だ。お前も一緒に行きたいか?」
「何ッ…。お前…。仲間を…。」
先程の事を思い出し震える手を隠して話を続ける。
「他の兵隊達がここに来るのは時間の問題だぞ!」
矢内「お前の仲間に神父の服を着せてギロチンで首をはねた。直ぐには来ない。」
「そんな事が通用すると…。」
矢内「あのなぁ、国のトップの王様が1末端の兵隊の顔なんかいちいち覚えている訳ないだろ?王様からしたら税金を払わなかった奴を見せしめに処刑した、その結果が欲しいんだ。お前達がどうなろうと知ったことではないんだよ。」
「そんな事が…。」
クロノス「戦争して余所の土地を手に入れようとする王様なんてそんなもんだよ。だから、誰も助けに来ないよ。」
「俺は…。国家の為に毎日、戦って…。」
クロノス「別にそんなの知らないよ。あんたは楽しそうに神父さんを殺そうとしていたじゃん。何を人のせいにしているのさ。」
「何だよ女の癖に!俺達兵隊が戦っているからお前達が毎日楽できているんだろうが!」
クロノス「なんか腹立つよね。ネズミ仮面、もう殺しちゃいなよこんな奴。」
矢内「まだ何も聞いていないだろ。殺したくなる気持ちは分かるけどな。」
「お、俺も殺すのか…。」
矢内「さあな。それはお前の態度しだいだ。さて、殺されたくなかったら色々と質問に答えてもらおうか?」
「…。(コイツ等…。下手な事を言ったら本気で殺される。)」
クロノス「返事は?私、神様だよ?殺されたいの?」
「ま、まさか、アテナ様!何なりとお答えします!先程の無礼をお許し下さい!どうか殺さないで下さい!」
何か勘違いしている様だが態度が180度変わったな。この国の神様の名はアテナか。しかし、この世界はどうも俺達の世界と似た所があるよな…。とりあえずはコイツから情報を集めよう。
矢内「まずは、お前達の国について教えてもらおうか。」
「俺達の国について?」
矢内「何処の国と戦争をしている?」
「西の隣国のファンタルジニア王国と東のバージニアだ。まずは南に住むオークの土地を侵略してそこを足掛かりにしてファンタルジニア攻め込め段取りだ。」
ここの近くは15年後はオークの村になっているんだな。少し土地勘が分かってきた。って事はこの国は滅ぶんだな。
矢内「この国の人はどういう生活をしている?」
「兵隊が他国を侵略して奴隷を増やしてその奴隷に全てをやらせている。」
矢内「そうか…。兵隊は手柄をあげて土地をもらってその土地で奴隷に作物を作らせているんだな。」
「ああ、この教会に居たガキ共も城に連れて行かれて奴隷になっているだろうな。」
矢内「城か。町にいる人達はみんな奴隷なのか?」
「町の人間は兵隊の家族だ。奴隷は昼間は町の外で農作業をさせている。」
矢内「そうか、分かった。だいたい聞きたい事は聞けたな。後はお前の処分をどうするかだ。」
「こ、殺さないでくれ!何でもする!だから助けてくれ!」
クロノス「ヤー、ちょっと虫が良すぎだよね。」
矢内「まあ、そう言うなよ。お前、何でもするって言ったな?」
「助けてくれ!頼む!」
矢内「じゃあ…。お前、俺と共に城に行って国王を暗殺しろ。」
「は?何を…。」
矢内「上手く行ったらこの国はお前に全部やる。王様に成り代わるんだ。」
「そんなの、上手く行くとは…。」
矢内「じゃあ、生き埋めにするしかないな。俺達の存在を知られたから殺すしかないな。残念だが…。どうせ死ぬなら夢を見た方が良いと思うが、まあお前の自由だ。好きな方を選べ。」
クロノス「死ぬの?王様を殺しに行くの?どっち?ハッキリしなよ。」
「や、やります!神に意向に従います。」
矢内「よし、縄を解いてやる。服を着ろ。」
俺は兵隊に服を返して縄をほどく。俺も兵隊の服を着てお面を外す。
矢内「サイズもちょうど良いな。神父さんを呼んでくれ。とりあえず腹ごしらえをしよう。」
クロノス「分かったよ。」
クロノスが神父さん達を呼びに行った。
クロノス「ヤー、連れて来たよ。」
矢内「神父さん、子供達は城に連れて行かれたみたいだ。俺はこれから子供達を取り返しに行ってくる。が、その前に少し腹ごしらえをしたい。」
「子供達が城に!?そんな…。」
矢内「大丈夫、必ずみんな連れて帰って来る。それより…。」
「腹ごしらえですね…。しかし…。」
矢内「ここに食うものがないことぐらいは分かっているよ。調理をするから台所を少し貸して欲しいだけだ。」
「はい…。それでしたらこちらになります。」
クロノス「ヤー、今日のご飯なに?」
矢内「さっと作るからあまり期待はするなよ。それより、ソイツを見張っておけよ。」
クロノス「ヤー。」
何がヤーだ。コローニャの方が優秀じゃないかダメ神様が。俺は神父さんに案内されて台所に向かう。
矢内「さてと、今日は何にしようかな。」
俺が考えていると幼いエリカが入ってきた。正体がばれたらダメだったな。あわててお面をつける。
エリカ「あっ、ねずみかめん、しんぷさまをたすけてくれてありがとう。」
矢内「今からご飯を作るから向こうで待っててくれるか?」
エリカ「えっ?ごはん?」
矢内「ああ、直ぐに作るからな。」
「これ、エリカ。邪魔をしたら駄目だよ。こっちに来なさい。」
エリカ「わかったー!」
エリカは奥に戻って行った。代わりに神父さんが入ってきた。
「すみません…。」
矢内「神父さんも待っていてくれ。直ぐに作る。」
「そんな…。命の恩人に…。」
矢内「世話になって厄介事に巻き込んでしまった詫びをしたい。それくらいはさせてくれ。」
「貴方は何故見ず知らずの我々にそこまで…。」
矢内「そうだな…。あえて理由を言ったら俺がそうしたいからかな、飯はみんなで食うのが1番美味いからだ。」
「すみません…。」
矢内「さあ、いつまでも台所に居られたら飯を作る時間が遅くなるから向こうで待っててくれ。」
「はい。」
神父さんも奥に戻って行った。献立は決まった。チーズと目玉焼きのニコニコハンバーグにしよう。旅の時はいつも言っていたよなエリカの奴、ハンバーグが好きだって。俺が得意じゃないからいつも魚系の献立にしているが…。元の世界に帰って来たら作ってやろう。ハンバーグ。よし、完成だ。持っていこう。
クロノス「ヤー、美味しそうだね。」
矢内「ヤー、じゃねえよ!こっちに来てないであの兵隊を見張っておけよ!」
ちゃんと見張りぐらいやれよ役立たずが!
「本当に我々の分まで…。」
矢内「当たり前じゃないか…。さあ食べよう。」
エリカ「えっ?なにこれ?はじめてみる?」
クロノス「ヤー、ハンバーグだよ!目玉焼きとチーズが乗ってるよ、美味しそうだね。」
エリカ「ハン…バーグ?」
矢内「ああ、暖かいうちに食べよう。」
「私も初めて見る…。」
得意じゃないから出来が不安だが食べるか。
クロノス「ヤー、美味しいね。」
コローニャが来てくれたら良かったのに役立たずめ。エリカが恐る恐るハンバーグを口に入れる。
エリカ「おいしい!こんなのはじめてたべたー!」
矢内「そうか。」
エリカ「うん!」
エリカがいつもハンバーグが好きだって言っていた事って…。この味をずっと覚えていたのか…。
「うぅ…。」
矢内「神父さん、どうした?口に合わなかったか?」
神父さんが溢れんばかりの涙をこぼしている。
「この土地に来て…。うぅ…。」
エリカ「しんぷさまー?おなかいたいの?」
「違うんだ…。違うんだよエリカ…。嬉しくて…。この土地で…。初めて…。人に優しくしてくれて…。人の手助けをしたくて…。神父になって…。でも…。この国は…。うぅ…。」
クロノス「今まで辛かったんだね…。」
矢内「クロノス、食べ終わったら神父さん達を連れてファンタルジニアに行ってくれ。」
クロノス「ヤー、何で?この国とファンタルジニアは戦争しているんだよ?」
矢内「この国は滅びる。居たら神父さん達は犠牲になる。歴史を変えられないんだよな?」
クロノス「ヤー、そうだよ。」
矢内「だったら神父さん達はファンタルジニアに亡命しないと歴史が変わってしまう。」
クロノス「この子がエリカだからか。分かった。食べ終わったら神父さん達を連れて国を離れるよ。」
矢内「ああ、後でこの世界に出てきた場所で合流しよう。」
クロノス「ヤー。」
食事を終えて神父さん達にこの町を出る準備をさせる。
矢内「俺は城に行ってくるから神父さん達の事は頼むぞ。」
クロノス「ヤー、任せてよ。」
矢内「いや、本当に頼むぞ?」
クロノス「何か作戦とかあるの?」
矢内「まあな。こっちは任せておけ。上手く行ったら一網打尽で方がつく。」
クロノス「手早く頼むよ?」
「お待たせしました。」
エリカ「しましたー。」
矢内「神父さん、いずれここに兵隊が来ると思うから今のうちにファンタルジニアまで行ってくれ。俺も後から合流する。俺の作業着を着ていたら怪しまれずに通れる筈だ。ヘルメットも深く被っていたら大丈夫だ。」
エリカ「しんぷさま、へんなかっこうだ。」
クロノス「よし、じゃあ神父さんとエリカちゃん、行こっか?」
エリカ「ねずみかめんは?」
矢内「俺は後から行く。だから、それまで神父さんとそこのアホ女の言うことを聞くんだぞ?」
エリカ「わかったー!」
「あの…。ファンタルジニアとは今は戦争中でして…。もし、向こうの兵隊に見つかったら…。」
矢内「神父さん、もし、兵隊に遭遇したらキサラギと言う男を訪ねるんだ。」
クロノス「ちょっと…。向こうはこっちの事は知らないんだよ?」
矢内「それを何とかするのがお前の役目だろ。」
クロノス「ヤー!人使いが荒いよ!」
矢内「マジで頼むぞ?畑中もサチも居ないんだからお前しか居ないんだぞ?」
クロノス「ヤー。」
何がヤー、だ。クロノス達は町を出ていく。
「あの…。」
クロノス「何?」
「貴女達はいったい…。」
クロノス「んー。神父さんにだけは特別に教えてあげるよ。私は時の神様で私の連れは賢者様だよ。他の人には言ったら駄目だからね。特に賢者の事は、分かった?」
「はぁ…。(頭大丈夫かこの人…。)」
15年前の世界、仲間が居ない中で戦争中のファンタルジニア。きっと俺が戦争を終らせないと歴史が変わってしまうのだろう。また、俺は人を殺さないといけないのか…。ギロチンで首を切った感覚がまだ残っている。手の震えが止まらない。人を直接殺した…。でも…。やらないといけない。
この世界の15年後、勇者とサチ、エリカが出会える為に…。
第17話
過去の世界
END