「牢屋に閉じ込めた教会の子供に用がある。出してやれ。」
「ハッ!」
近衛兵の一人が牢屋の中に入っていく。その間に俺はすかさずポロリのお面を被る。
「なんだそれは?」
矢内「子供達を安心させる為の小道具ですよ。」
「お前、なかなか面白い奴だな?何故我々二人共ついてくる様にした?」
矢内「まず、俺が子供達を連れて町の外に出ようとしたら怪しまれて門番に止められるからお二人に連れられて国外追放と言う形にしたいのですよ。」
「ほう?」
もう一人の近衛兵が俺の事を根掘り葉掘り聞こうとしてくる。奥に入った近衛兵が子供達を連れて出てきた。
「来い!こっちだ!」
「あああーん!神父さまー!」
近衛兵に恫喝されながら子供達が泣きながら出てきた。ここは俺が子供達を和ませてやるとするか。
矢内「良い子のみんな~ネズミ仮面だよー。さあ、お家に帰ろうねー。」
「あああーん!怖いよー!」
子供達が更に泣き出した…。
「何をやっているんだお前は。」
矢内「いや、子供達を和ませてやろうと思ってだな…。」
「あああーん!怖いよー!神父さまー!」
「お前ら!泣くな!」
「あああーん!」
泣き止まない…。どうしよう…。なにかないか…。物で釣るか。
矢内「さあ良い子のみんな~!あま~いあま~いスコールキャンディだよー。」
「あああーん!いやだー!かえりたいよー!」
何故だ…。何故泣き止まない…。
「おい、なんだそれは?」
矢内「飴ちゃんです。おやつです。」
「なんだこれ?食べ物なのか?」
矢内「え、ええ…。」
子供達じゃなく近衛兵達が興味をしめした…。
「なあ、1つ貰えるか?」
矢内「え、ええ…。良かったら…。」
近衛兵達がスコールキャンディを口の中に入れる。
「甘い!なんだこれ!?初めて食べるぞ!おい、お前達も貰え!こんなの絶対食べられないぞ!」
近衛兵達が子供達にスコールキャンディを勧める。
矢内「さあ、スコールキャンディだよー。」
「いやだー!あああーん!」
子供達が泣き止まない…。
「何をやっているんだ!貸せ!」
近衛兵にスコールキャンディをぶんどられた。
「よし、お前達。このキャンディを食べてみろ?ほら。」
近衛兵が子供達の口にキャンディを入れる。
「あまい…。」
「おいし~い!」
「やっと泣き止んだ…。行くぞ!町の外までだよな?」
矢内「え、ええ…。」
子供達が泣き止んだ…。
矢内「さあみんな~!お家に帰ろうね~!」
「あああーん!怖いよー!」
「だから、何をやっているんだ!また泣き出しただろ!もう喋るな!」
納得がいかない…。何故だ…。
城の外に出たが子供達は脅えたままだ…。楽しい歌でも歌って和ませるか。
矢内「月曜日はウンジャラケ~♪火曜日はハンジャラケ~♪」
完璧の振り付けで場を馴染ませる。
「静かにしろ!奇妙な動きをするな!」
近衛兵が俺に怒鳴り付ける。
「ハハハ!怒られてやんの!ハハハハハハ!」
おっ、やっと笑ったな。
矢内「水曜日はスイスイス~イ♪木曜日はもーりもり♪金曜日はキンキラキン♪」
「ハハハハハハ!変な歌ー!」
矢内「土曜日はキンキラキンのギンギラギンのキンキラキンのキン♪日曜日はランラランラランラン♪」
子供達が元気になった。
矢内「ウンジャラケのハンジャラケ♪スイスイスイのもーりもり♪キンキラキンのギンギラギン♪ランラランラランで1週間♪」
「なんだそのふざけた歌は…。」
矢内「これは1週間を楽しく過ごす為の歌です。」
「ハハハハハハ!なあネズミ仮面、こうか?月曜日はハンジャラケ♪」
矢内「おっ?なかなか様になっているぞ。」
「ハハハハハハ!」
「こら、マネをするな!バカが移るぞ!町の外に行くのだろ!バカな事をしていないで早く行くぞ!」
近衛兵に急かされて町の入り口にたどり着く。見張りの兵達が近衛兵達に敬礼をする。
「お疲れ様です!あのどちらへ?」
「ファンタルジニアだ。余計な詮索はするな、命が惜しかったらな?」
「ハッ!お気をつけて!」
町の外に出ることができた。少しファンタルジニアの方角に向いて歩いていく。
「なんで、町の外に行くの?教会に帰してくれるんじゃないの?」
矢内「ああ、それはだな…。」
「神父がこの国から脱出してファンタルジニアに亡命する事だよな?」
矢内「なっ!」
「えっ?どう言うこと?教会に帰れないの?」
全てばれていたのか!不味い!
矢内「お前達!このまま真っ直ぐに走って行け!」
「えっ?えっ?」
俺が大声を出した為か事態を把握出来ずに子供達は混乱している。
「お前達、この先に神父が待っているからこのまま真っ直ぐに歩いていくんだ。」
矢内「そうか、よしみんな真っ直ぐに歩いていこう!」
「子供達だけだ!お前、さりげなく逃げようとするな!」
矢内「バレたか…。」
どうする…。このままじゃ殺される…。
「おっちゃん達は一緒に来ないの?」
「俺達はこの男と話が有るからここまでだ。」
矢内「そうか、少しの間だが世話になった。さあみんな、神父さんの所に行こうか。」
「何をお前は行こうとしているんだよ!行かす訳ないだろ!」
矢内「雰囲気で行こうとしたけど駄目か?」
「駄目に決まっているだろうが!」
近衛兵達が剣を抜いた。やっぱり誤魔化して逃げる事は出来ないか…。
「兵隊のおっちゃん達が剣を抜いた…。」
矢内「大丈夫だ、お前達はこの先に神父さん達が待っているから行くんだ…。」
「ネズミ仮面は?」
矢内「俺も後から行くから気にせずに行け。」
「うん…。」
子供達はファンタルジニアの方角に走って行った。
「さてと、お前の処分だが…。」
矢内「…。」
町の方から町の入口にいた兵隊が慌てて走って来た。
「大変です!国王が暗殺されました!暗殺者はただいま逃走中です!直ぐにお戻り下さい!」
「分かった、後で向かう。将軍達は戻って来たのか?」
「はい、3人共戻って来ていますが…。」
「後で向かう…。行け!」
「ハッ!」
あの兵隊、上手く暗殺は出来たようだ。
「フフフフフ…。ハハハハハハ!お前、これが狙いだったのか!ハハハハハハ!」
矢内「…。」
「お、おい…。どうするんだ…。」
「あの無能の国王、いつかこうなるとは思っていたけどこんなにあっさり暗殺されるとはな!ハハハハハハ!殺るのは野心に目が眩んだバカな将軍だと思っていたけど、ハハハハハハ!」
矢内「…。」
どういう事だ…。国の主が殺されて何で笑っていられる?
「まあ、あのバカな将軍達が覇権を争ってこの国は終わりだな。」
「それはいいとして、この男はどう処分する?」
矢内「俺の処分より暗殺者を探した方が良いのじゃないか?」
「ああ、そんなのは最初からどうでもいいんだよ。俺達は神アテナの使いの騎士だからな。」
矢内「アテナ…。」
「気になるか?じゃあ、早速来てもらおうか。我らの神アテナ様の元へ。」
近衛兵の一人が空に手を掲げると空に向かって光の階段が現れた。
矢内「ゲートじゃ無いのか…。」
「この階段を登れ。」
何処まで続いている…。先が見えない…。
矢内「あの…。俺は高いところは苦手なのでお二人が先に行ってもらって後から行きます。」
「まだ逃げれると思っているのか?いい加減にしろ!本当に殺されたいのか!」
近衛兵が俺の喉元に剣を突き立てる。今までの様に口先ではどうにもならないか…。こんなときにサチか畑中が居たら上手くいったかもしれないが…。俺は仕方なく光の階段を登って行く。階段に乗るとエスカレーターの様に上へ上へと登って行く。螺旋状に階段が回っている。目が回る、気持ち悪い…。
「着いたぞ。あれがアテナ様の光の宮殿だ。」
矢内「オエー!オエー!」
さっき食べたハンバーグが全て吐き出された。
「うわ…。汚ねえ、ゲロを吐くな!」
矢内「オエー!オエー!」
俺が吐いたゲロは遥か彼方の地上に落ちていった。それにしてもこの光の宮殿、ファンタージェンの象牙の塔みたいだな。近衛兵、神の騎士に言われるままに中に入る。中から聞き慣れた声が聞こえてくる。
クロノス「ちょっと!私、神様だよ!帰してよ!」
「黙れ!静かにしろ!」
クロノス「神様を怒らせたらどうなるか思い知らせてあげるよ!クロノス タイムパワー メークアープ!」
セーラームーンのお面を付けて何をやっているんだバ神様が!
「あれ、お前の仲間だよな…。」
矢内「ああ、なんかすまんな…。」
俺はラッカーシンナーの入った一斗缶を取り出してクロノスに近づく。
クロノス「美少女ゴッド、セーラークロノスだよ。時に代わってお仕置きよ!」
矢内「うるせえぞバ神様が!ティロ フィナーレー!!」
頭にきたので俺はクロノスにラッカーシンナーを思いっきりぶっかけた!
クロノス「ああああ!痛いよ!熱いよ!痛いよー!」
矢内「何を捕まっているんだ!足を引っ張っているんじゃねえよ!糞が!」
???「何事じゃ、騒々しい。」
奥の部屋から何者かの声が聞こえてくる。周りの奴等が膝をついて頭を下げだした。
「アテナ様!例の男を連れて来ました!」
アテナ「ほう?」
アテナが奥の部屋から出てきて玉座に座る。なんだあの服装は!ムッチリした体つきに鎧が張り裂けそうになっている。あんなエロい格好、クイーンズブレイドでしか見ないぞ!リアルで見るのは初めてだ!
アテナ「そこの男、名を名乗れ。」
矢内「ネズミ仮面だよ~。」
アテナが槍を俺の喉元に突き立てる!
アテナ「もう一度だけ言う。面を取って名を名乗れ。次ふざけると、殺す。」
正直に名乗るしかないか。俺はお面を取って名乗りをあげる。
矢内「仕方ないな。ああ、俺か?俺はみんなが大好き賢者様だ。」
賢者様ポーズもバッチリ決めて名乗りをあげる。
「あの男、この状況でよくそんなふざけた事を…。」
アテナ「ほう?賢者と申すか。なかなか凛々しきポーズじゃな。気に入ったぞ。」
クロノス「えー…。絶対にダサいよーあれ…。みんなもそう思うよね?」
「あ、ああ…。」
アテナ「お前達!口を閉じよ!妾は賢者殿と話をしている!」
「ハッ!申し訳ございません!」
どうやら話せば分かる女だ。それにしてもエロいな。
アテナ「所で賢者殿、そなたは妾が支配している国の王を暗殺した様じゃな?まずは理由を聞こうか?」
矢内「あの国は何も罪の無い人を殺そうとしていた。王を暗殺したのは成り行きだ。」
アテナ「ほう?成り行きで暗殺を成功させるとは、たいした者じゃ。どうじゃ?そなた、妾の配下にならぬか?」
矢内「…。」
「アテナ様!正気ですか!?」
アテナ「黙れ!」
矢内「イタズラに他国に戦争を仕掛ける奴の配下になどなる気はない。」
「き、貴様!アテナ様に対して何て事を!」
アテナ「黙れ!妾は賢者殿と話をしている!次に騒ぎ立てた者は妾の槍で心臓を貫くぞ!」
エロい体つきをして力で他人に言うことを聞かせるタイプか。
アテナ「賢者殿よ、戦争を仕掛けているのは世界中の神々じゃ。神々が人間を操り全てを我が物とするためにな。」
矢内「自分達の都合で関係無い者まで巻き込むのか。」
アテナ「そうじゃ、戦うなら神々同士で戦えば良いものを各地の神々は一対一では妾に勝てぬと見て人間を巻き込むのじゃ。」
矢内「で、お前も人間を操って戦争を仕掛けているのか?」
アテナ「妾は合えてあの滅びても良い国を選んで戦っておる。国が負けてチャンスと見て迫ってきた神々を返り討ちにするためにな。それをそなたが国王を暗殺したお陰でわざと負ける手間が省けた。感謝するぞ。」
この女、下界に住む一般市民の事など考えていないのか。
矢内「戦争をして辛い思いをするのは力の無い一般市民だ。」
アテナ「妾は戦争を無くす為にはまずは神々を排除する事だと思っておる。まずはファンタルジニア王国の神アフロディアとバージニア国の軍神マルスの排除する事じゃ。」
ファンタルジニアの神はゼクスじゃないのか?
アテナ「妾が神々を倒すまでは人間には辛い思いをさせて仕舞うがの。」
矢内「ファンタルジニア王国の神にはどうやって会えばいい?」
アテナ「賢者殿、どういうつもりじゃ?」
矢内「東と西で囲まれたら攻めるに攻めれないだろう。」
アテナ「賢者殿、妾の力になると言うことじゃな?」
矢内「どのみちファンタルジニアに行くつもりだったからな。俺が行っている間に東の守りに徹したらいい。戦うかどうかは分からんぞ。」
アテナ「どういう事じゃ?」
矢内「まだファンタルジニアの内部の事が分からんからな。平和な国なら戦う事は無いだろ。」
アテナ「そうか、分かった。ゼクスを呼べ!」
「ハッ!」
騎士の一人が横にある部屋に入って行った。ゼクス!?まさか…。
ゼクス「お呼びでしょうかアテナ様?」
ゼクス…。まだ少し幼さが残っている。そうか、15年前から俺の事を知っていたのか。
アテナ「ゼクス、そこの人間と共にファンタルジニアに行け。賢者殿、ファンタルジニアの内部についてはそこのゼクスに聞けば良い。」
矢内「ゼクス、よろしく頼む。」
ゼクス「…。ファンタルジニアに向かいながら内部についてお話しましょう。」
矢内「では、行っている。」
クロノス「ちょっと賢者、置いて行かないで!」
俺達はまた、あの目が回る光の階段を降りて行った。この15年前の世界、行くのは必然だったって事か。俺がしくじったら歴史が変わってしまう。ファンタルジニアの未来の為にやるしかない。仲間が居ないこの世界で…。
第18話
戦いの神アテナ
END