幻想野球異変   作:紗夜絶狼

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ようやくの試合パートになります。
あと第10話で紹介いたしました、投手陣の決め球(スペルカード)は、今後捕手である永琳や藍が、サインで要求したときのみ発動します。
そしてここからは( )つまりキャラたちの心の声が多くなります、ご了承ください。


第16話 容赦のない洗礼

ついに試合が開始された。大阪の1番打者大木がバッターボックスに入った。一方の紫苑は緊張からか、マウンドであたふたしているようだ。とにかく紫苑の緊張を解かなければ、「紫苑、焦ることはない。楽しんでいこう」紫苑は振り向き、ぎこちないながらも笑顔を見せ、マウンドで深呼吸をし、女房の永琳先生とのサイン交換に臨んだ。

 

(どうやら落ち着いた様ね。とにかく大事な初球、まずは挨拶代わりの超貧乏玉を内角高めに)

 

永琳からのサインを見た紫苑は頷き、思いっきり振りかぶり初球を投じた。放たれたボールは大きな軌道を描き、コースギリギリのインハイに突き刺さっていく。(よし、まずはストライクいただきね)永琳が確信したその瞬間であった。

 

「カーーーーン!!」

 

なんと大木は初球のインハイのスライダーを振りぬいた。打球はライトへの大きな飛球だ。「ふぅ、焦ったけどただのライトフライね」永琳はアウトの確信をもっていた、しかしライトのサブローはまだ打球を追っている、つまりまだ打球は勢いを失っていないのだ。そして。

 

「うおぉーーーーー!!!」

 

スタンドイン。つまり先頭打者ホームランである。

 

(何故、いくら紫苑の球質が軽いといっても、あのコースのスライダーは狙わない限りホームランに出来ないはず・・・)

 

そんなことを考えてるうちに、大木はすでにダイアモンドを一周していた。そして大木は永琳とすれ違い、ベンチに帰る際にこう言い残していった。「この球だと、初回だけで何点取れるか分かんねぇな」大木のその言葉が、現実となってしまった。

 

その後、2番の益田が四球で出塁すると、3番磯川、4番ローズと連続安打を許し無死満塁となる。そして5番吉田との勝負。初球は低めストレートでストライクを奪いカウントを取りにいき1ストライク。しかしその後3球連続ボールと打者有利のカウントとなったてしまった。

 

(ヤバいわね、流れが止まらない。ここはチェンジアップで詰まらせて、ホームゲッツを狙いましょう)

 

守備陣形は中間守備。内野ゴロを打った場合、本塁での併殺、又は近い塁上にて併殺を狙うのが永琳の考え。そして紫苑は永琳からのサインに頷き、5球目を投じる。すると、永琳の要求通りのチェンジアップにタイミングを惑わされた吉田は、態勢を崩しながらも、力のないショートゴロを放った。それと同時にランナー達はスタートを切った。(ちっ、やっちまった)バッターの吉田は一塁に走り出した。

 

「咲夜、ホームに投げなさい!」

 

永琳からの指示を受けた咲夜は、ゴロに向かって突っ込みながら捕球態勢に入る。咲夜だったら楽々さばくだろう、だが異変が起きた。

 

「なっ、ここでイレギュラー!?」

 

打球は突如イレギュラー、咲夜のグラブをかすりレフト前に向かって転がっていく。不運だった。それを見た二塁ランナーの磯川はすぐさま三塁を蹴りホームに向かう。一方打球はフランによって処理されたが、既に2人が生還し2点追加された。その後も大阪の打線は紫苑には止められず、既に打者一巡し10得点。何とか無死満塁から吉田、星井、中村を三者連続三振に抑え込み、長い初回の守りを終えベンチに帰っていく。

 

「みんな集合、まだまだ初回よ、1点ずつ返していくわよ」

 

紫からの言葉があったが、みんなは意気消沈していた。特に紫苑がヘトヘトだった。無理もない、球数は70球を越えているし、10失点に4本の本塁打を打たれ、精神的にやられている。安定していたはずの守備陣も、咲夜と小傘がともに2エラー、フランは1エラーとボロボロにだった。

 

「レミリア、急いでブルペンで肩を作ってきて頂戴。次の回の頭からロングリリーフよ」

 

「分かったわ、じゃあ行ってくるわ」

 

そんな会話をしている間に、1番の文は左打席に入っていた。(紫さんによると、極度の荒れ球があると聞きましたが、私に打てますかねぇ・・・)自信がない中、前渡からの第1球が放たれる。しかし・・・

 

「うわっ!!」

 

文は驚きと同時に大きくのけぞり、打席内で尻餅をついた。

 

「あっ、危ないじゃないですか!もう少しで頭に当たるところでしたよ?」

 

「あぁ?当たらないようにして投げてるだろ?」

 

そう、前渡はわざとのけぞるボールを投げてきたのだ。プロでもあまりないが、内角を過度に意識させ、長打を防ぐ作戦の一つだ。それをベンチから見ていたサブローは「文、ムキになるな、相手のペースに乗せられるな」と一言声をかけた。文は落ち着いたのか、すぐに打席に入った。

 

「さぁ来なさい、貴方の球、絶対打ってやるわ」

 

前渡は2球目を投じた。大きなカーブが文から逃げるように、外角に曲がっていく。文はカーブに泳がされつつも何とかバットに当て、三塁線に転がした。打球はコロコロと転がるが、それをサードの中村が華麗に捌きファーストに送球する。普通ならばアウトになるこの中村のプレー、しかしドリームズには、物凄いスピードスターがいた・・・そう、幻想郷最速の少女、「射命丸文」がね。

 

「セーフ、セーーーーフ!」

 

「何!?セーフだと」

 

それは中村を含め、大阪ナインが驚くスピードだった。

 

「ふふふ、女だからと言って、舐めないでくださいよね」

 

「くっ、次の打者に集中するぞ」

 

文からの言葉を受け、前渡はイラつきながら次の打者へ気を集中させた。(これは、アレを試せそうですね・・・)

 

「2番 キャッチャー 八意永琳 背番号85」

 

アナウンスとともに打席にに入ろうとする永琳、すると一塁にいる文が「永琳さん、サインを見てください」文はおもむろにサインを自ら出し始めた。それを見た永琳は(アレをやるのね、了解)と何のサインかを理解をしていた。しかしすぐには実行されず、気が付くとカウントは2ストライク3ボールになっていたが、ついにその時が来た。それは前渡が6球目に投じたその時だった。

 

(球種はストレート、もらったわ)

 

なんと永琳はセーフティーバントのをしたのだ。

 

「なっ、スリーバントだと!?」

 

打球はピッチャー前に転がっていった。「前渡、一塁だ、二塁は間に合わない」的井の指示で前渡は慌てて一塁に送球した。だが送球したボールは、吉田の手前でバウンドし、吉田の体に当たり捕球とはならず、その隙に永琳が駆け抜けた。

 

「セーフ!」

 

吉田は慌てることなく、ゆっくりと拾い前渡に返球しようとしたその時「おい吉田、早くサードに投げろ、ランナーが走ってるんだぞ」

 

的井は三塁を指さししながら吉田に伝えた。何事かと思い三塁を見ると、一塁ランナーの文が悠々と三塁を陥れていた。三塁上にいる中村は、文にこう聞いた。

 

「お前まさかあのサインは」

 

「そうです、フルカウントからのバントエンドランです」

 

 

一方のドリームズベンチ

 

「文、いつの間にあんなことを、確率が低いギャンブル戦法なのによく実行したのね」

 

すると横にいたあうんは「なぜあのようなプレーがギャンブルなんですか?」と疑問を投げかけてきた。

 

「フルカウントからのバントエンドランは中々見ない戦法で、とても成功確率が低い。しかもスリーバントでのアウトを恐れず、確実に転がす技術が必要だから、ある意味賭けのようなものなの」

 

球場がざわめく中、ドリームズの次なる打者は・・・

 

「3番 ライト サブロー 背番号1」

 

「ワァーーーーー!!!」「頼むぞーーーー」など、ライトスタンドのドリームズファンの大きな声援を受け、サブローが打席に入る。

 

(相手はまずストライクを取って崩れた流れを落ち着かせたいはず、ならばコースと球種、共に狙いは一つ)

 

イラついている前渡は第1球を投じた。コースは真ん中低めのストレート。(やっぱり、狙い通りだ)サブローは思い切りバットを振りぬく。打球は右中間を物凄い速さで突き破っていく。それを見た文と永琳はスタートを切る。文は楽々のホームイン、そして永琳は足が遅いながらも、三塁に到達。ようやく打球を処理した大木は、中継に送球した。

 

「よぉーし!」

 

現役以来のタイムリーに、俺は嬉しくなって、思わずベンチに向かって右手をの拳を思いっきり掲げた。ベンチからも「サブロー、よくやったぞ!」「ナイスバッティング!」まるで現役時代に戻ったみたいだった。

 

「続け、妖夢!」

 

二塁のサブローから声援を受けた4番の妖夢だったが・・・。積極的に初球から打ちにいった打球は、痛烈なサードライナー。三塁ランナーの永琳はすぐ戻れずダブルプレーとなる。掴みかけた流れは、一瞬にして途切れてしまった。それが影響したのか、続く5番の咲夜はレフトフライに倒れて攻撃終了。

 

「みんな1点取り返したぞ、まだまだこれから、0点でこの守備を終わらせよう」俺は自ら声出しをし、みんなに自信を持たせた。

 

「二回の表、幻想郷ドリームズのピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー寄神紫苑に代わりまして、レミリア、ピッチャーはレミリア・スカーレット、背番号14」

 

アナウンスをされたレミリアは、ゆっくりと永琳のいるマウンドに向かった。

 

「レミリア、相手は中々やるわ。外角中心で攻めていくわよ」

 

「分かった、あなたに任せるわ」

 

お互いの意思を確かめ合い、所定の位置に戻る。波乱の幕開けとなった初回だったが、レミリア、永琳バッテリーはどういてまえ打線を抑えていくのか・・・。




一ヵ月ぶりとなりました。
16話にしてようやく試合になります。ここからは私としてもより力を入れなきゃですので、またしばしお待ちください。

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