幻想野球異変   作:紗夜絶狼

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永江の負傷離脱、永琳と鈴仙、妖夢と4人のメンバーを欠いたドリームズ。
相手はこちらも強打の神戸ブルーウェーブ。
大阪戦では、紫マジックを駆使し勝利を手にしたが、今宵も奇想天外のマジックは炸裂するのか!?


第20話 青き戦士たちの猛攻

大阪との接戦を制したドリームズ。しかしセットアッパーの衣玖は折れたバットの直撃により、左のあばら骨を折る重傷。それに伴い捕手の永琳、そして今日先発予定だった鈴仙は衣玖の看護、さらに妖夢は精神的ショックから立ち直れず欠場のため、次の神戸戦は出場出来ない。

チーム状況的に接戦が予想される、大きな痛手だ。

そして迎えた神戸戦、急遽魔理沙が先発として起用された。

 

「魔理沙、ブルペンにいくぞ」

 

「分かったぜ、絶対に勝つぜ藍!」

 

魔理沙は気合十分、他もやる気に満ち溢れている。すると早速スターティングメンバーが発表された。

 

先攻 神戸ブルーウェーブ

 

「1番ライト 葛城太郎 背番号3」

「2番セカンド 尾上公一 背番号52」

「3番センター 谷直樹 背番号10」

「4番レフト サー・ブラウン 背番号23」

「5番指名打者 塩味真 背番号31」

「6番キャッチャー 三河隆 背番号2」

「7番サード ホース・オーティズ 背番号8」

「8番ショート 後藤七瀬 背番号49」

「9番ファースト 四島雄一 背番号45」

「先発ピッチャー ロック鈴木 背番号29」

 

後攻 幻想郷ドリームズ

 

「1番センター 射命丸文 背番号51」

「2番セカンド 犬走椛 背番号64」

「3番ライト サブロー 背番号1」

「4番ファースト 星熊勇儀 背番号42」

「5番指名打者 二ツ岩マミゾウ 背番号10」

「6番キャッチャー 八雲藍 背番号27」

「7番サード 多々良小傘 背番号8」

「8番ショート 十六夜咲夜 背番号6」

「9番レフト 高麗野あうん 背番号9」

「先発ピッチャー 霧雨魔理沙 背番号18」

 

今日は前回と違い、個々の能力にあった打順になっている。

だが神戸の先発にロックを持ってきたのは少々ラッキーだったのかも知れない、そして午後5時、ドリームズVSブルーウェーブの試合が主審のプレイ宣言により始まる。試合は神戸が優勢で進んでいく。

初回こそ3番谷の安打のみで終えたが、2回にオーティズの2ラン、3回にはブラウンの2点タイムリーと、いずれもマスタースパークを打たれ序盤に4失点。何とか援護したいドリームズだが、先発のロックに3回まで6奪三振、被安打、四死球共に0と完璧に抑え込まれていた。

そして4回のマウンドに魔理沙が上がろうとしたとき、紫が出てくる。

 

「魔理沙、交代よ」

 

この一言に納得のいかない魔理沙は、マウンド上から大きな声で紫に抗議する。だが紫は魔理沙の続投を許さず、ベンチから霊夢が出てくる。魔理沙は霊夢により無理やりベンチに連れていかれた。

入れ替わるようにマウンドに向かうは風見幽香。独特の威光を放つ幽香は、自慢の速球でオーティズを空振り三振、後藤をサードゴロ、四島をライトフライと完璧にシャットアウトし、ゆっくりとベンチに帰り、ゆったりとベンチに座る。

 

「紫、私はいつまで投げればいいの?」

 

幽香は回跨ぎをするかを紫に問う。セットアッパーの幽香は投手陣の中でスタミナは1番少ない、スタミナが尽きれば間違いなく球威も球速も格段に落ちる危険がある。

 

「えぇ、次もあなたに任せるつもりよ。そうね、6回まではいって欲しいかしら」

 

「紫、幽香に3イニングは酷すぎる。せめてあと1イニングだ」

 

たまらず俺は紫と幽香の会話に割り込む。何よりもプロの世界を見てきたんだ、それぐらいの危険性は承知している。一流のセットアッパーやストッパーも、疲れが出れば誰だって捕まる。

だが当の本人は「私も人間風情に舐められたものね」とお構いなしだった。

そしてドリームズの4回裏の攻撃が始まる。1番の文、2番椛が連続三振に倒れ、3番のサブローを迎える。文と椛の話によれば、ツーシームが厄介だが、不意に来る130キロ台の外のカットボールにバットが出てしまうとのこと。そのことを頭に入れ打席に向かう。

 

(さっきは微妙に落ちるツーシームに詰まらされている、ならば狙うは変化球か?)

 

迷いがあったものの、俺はツーシームを捨てる選択をした。

初球からロックは150キロのツーシームをど真ん中に入れてきたが、あえて見送り変化球を待つ、そして2球目に抜けたようなカットボールがインコースに投げ込まれた。「コースは激甘、振りぬける」振りぬいた打球は右中間を破っていく。

サブローは悠々と二塁に到達した。

 

「4番 ファースト 星熊勇儀」

 

前の打席で大ファールを放つも見逃しに倒れた勇儀。だがこのチャンスに誰よりも燃えているのは間違いない。

二塁上から見る鬼の立ち振る舞いはもう恐怖でしかない。

そんな中ロックも顔に焦りが見えており、初球から抜けた球を連発した。だが勇儀はピクリとも動かない。そして5球目に投げた沈むツーシームを完璧に捉え、二遊間を抜けセンターへ、俺は三塁ベース手前でギアを上げ、ホームに突っ込む。

ホームまで残り数メートル、キャッチャーの三河が返球に対する捕球姿勢を取る。俺はトップスピードのままホームベースに向かってヘッドスライディングを試みる、同時に捕球した三河もタッチしに行く、タイミングはほぼ同時で微妙だ。

主審のジャッジは・・・。

 

「アウトーーー!!!」

 

判定はアウト。紫は抗議しに行くが主審曰く「僅かにタッチの方が早かった」と説明された。

迎えた5回表、幽香は先程の回同様にストレートを中心に投げ込む、先頭の葛城をセカンドライナー、続く尾上には四球を与え一死一塁となる。打席には神戸一の好打者の谷、幽香は1球目にフォークを投げるが、一塁ランナーが隙をついて盗塁に成功し得点圏に。

ここで藍は守備のタイムを取りマウンドの幽香の元へ駆け寄る。

 

「事前のデータでは不得意コースがない、ここは歩かせるのを承知で勝負する」

 

「私はデータなんて信じない。だから藍、あなたはただ来た球を取ってなさい。話はそれだけ、早く戻りなさい」

 

その言葉を信じるしかない藍は仕方なくポジションに戻る。一呼吸おいてから投球に入る。

幽香が選択した球はストレート、コースは外角低め、谷のバットはそのコースに逆らわずに流し打ちをして見せた。打球は一二塁間に転がっていく。

 

「てりゃあーー!」

 

抜けそうな当たりをセカンドの椛がダイビングキャッチし、すぐさま一塁に転送。好プレーが光った。このプレーがドリームズに流れを呼び込む。

二死三塁とし4番のブラウンを迎えるが、センターフライに抑えチェンジに。

そして5回の裏ドリームズは早々に1アウトを奪われるが、藍の内野安打と小傘のヒットで一、三塁となる。この場面で8番の咲夜に回ってきたがここで紫が仕掛けた。

 

「なっ!?」

 

「何!?」

 

なんと初球スクイズを決行した。不意を突かれた内野陣は反応に遅れ、咲夜のスクイズは見事に決まりようやく1点が入りなおも二死二塁とし、打席には9番のあうんだが、相手のリー監督が出てきた。ロック鈴木を諦めるようだ。

 

「神戸ブルーウェーブ、ピッチャーのロックに代わりまして、加藤大光 背番号14」

 

2番手としてマウンドに上がるのはこの年のルーキーである加藤。武器は150キロのストレートにナックルカーブ。あうんには厳しすぎる相手、だが紫は代打を送る気配は無く、あくまでもあうんに打たせる方針だ。

だが流石の投球術、ナックルカーブはあうんのタイミングを外しストレートで差し込む。

 

「紫、あうんに打てるのか?あのナックルカーブは俺でも捉えるのが難しい」

 

心配のあまり紫に問いかける。だが紫は冷静だった。

 

「サブローさん、あうんの姿勢を見てみなさい。決して恐れないあの構え、まるで大阪の時の貴方みたいよ。貴方は私たちに諦めない心を教えてくれた」

 

確かにあうんの目は死んでいない。まるで弱者が強者に喰らい付くが如く、だが既に2ストライク2ボール、追い込まれているには変わりない。そして加藤は決め球としてナックルカーブを投げる、キレのある変化球にあうんは迷いなくフルスイングする。だが無情にもバットは空を切り空振り三振に倒れる。

ドリームズは6回から小町を登板させるが、一度傾いた流れを引き戻すことは簡単ではなく、小町の決め球「死者選別の鎌」は全く通用せず、無死満塁と絶賛炎上中である。

 

「幻想郷ドリームズ、ピッチャーの小野塚に代わりまして、魅魔 背番号16」

 

この絶体絶命の場面で守護神の魅魔を登板させる紫、まだ試合は中盤、しかもこれが初登板の魅魔に抑えられるのか?ドリームズの全員がそう思っていた。

だが魅魔は周囲を驚かせるピッチングを披露する。

魅魔からしたら先頭になる8番の後藤を三球三振に仕留めると、9番四島には緩いカーブを緩急に使い見逃し三振。そして1番の葛城に対しては、自己最速を大幅に越える169キロのストレートで空振り三振と、僅か10球で簡単に無死満塁のピンチを脱して見せた。

ドリームズナインがベンチに引き上げてくるが、皆表情は笑顔だった。サブローは全員をベンチ前に集め、もう一度円陣を組み直し、再び結束を強め、6回の攻撃に挑む。

射命丸が凡退するも、椛がスライダーを流し打ちヒット。3番のサブローはナックルカーブに三振し二死一塁、打席には4番の勇儀。だがバッテリーは勇儀を歩かせるが、次のマミゾウとの勝負を避け二死満塁とする。ここで藍が打席に向かう所でブルーウェーブの投手が交代する。ワンポイントリリーフのようだ。

 

「神戸ブルーウェーブ、ピッチャーの加藤に代わりまして、石上修一 背番号26」

 

変わった石上はプロでも数少ない左の変則サイドスロー投手。その変則さはまるで蛇のようで打つのに苦戦しそうだ。球場は更に盛り上がりを見せる中、試合はターニングポイントを迎えている。

 

(見た感じ変化球はスライダーとシュート、ストレートは140に満たないぐらいか)

 

しっかりと相手を観察し、この大チャンスに挑む。

初球は大きく外に外れる、内角へのスライダー、外のシュートをカットするもすぐさま追い込まれる。4球目は釣り球を見送りピッチャー有利のカウントに。だがそこから藍はひたすら粘り続ける。石上も負けじとくさい球を投げ続けるが、その球数は既に20球を越えていた。

 

「はぁ、はぁ、なんてしつこい打者だ・・・」

 

マウンドの石上は息を荒げていたが、全くキレや球威は落ちていない。藍は一度打席を外し深呼吸をする。

 

(次で仕留めて魅せる)

 

外野スタンドからドでかい応援歌や声援がこだまする中、二人は再び戦いに挑む。




前回同様に先制されたドリームズ、神戸の投手陣の前に僅か1点と自慢の重量打線は沈黙。
試合は既に終盤、果たしてどうなるのか?
次回に続く。

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