まだゾウを出航したばかりで、ノックス探検隊は賞金首になってない。〝白ひげ〟や〝ビッグ・マム〟が魚人島を縄張りにした以上、新世界にもコーティング出来る場所はあるはずなので、
そういえば小説の麦わらストーリーズによると、シャボンディには学校があるそうです。正直あの場所にそんなものないと思ってた。ロゼは戸籍ないし当然学校なんて行ってない。本を買って自習です。
年が明けてまだ寒い2月、シャボンディを家に向かって移動していると、少し離れた無法地帯に何やら人が集まっている気配がする。天竜人が来ているのかと思ったが、それならば近寄らないだろう。
気になって飛んで行ってみると、フードを被った集団がいて、その周りの物陰に人が何人も隠れながら尾行している。どちらも
「先ほどから物陰に隠れてこちらを見ているやガラら、おれ達に何か用か?」
「くそっ、バレてやがったかっ」
先頭を歩いていたフードの人物に看破され、物陰に隠れていた奴らがぞろぞろと出てくる。声からしてあのフードの人物は男性だろう。
「隠れていてもおれ達は鼻が利く……上にいるゆガラもどうかしたのか?」
「はあ? 何言ってんだ?」
オレもバレている……気配は消していても匂いなんて、変えることなら出来ても消しようがない。かなり離れているんだが。
あの独特な呼び方に人間離れした嗅覚、もしかして……
「オレは怪しいフードの集団と、その周りにも怪しい奴らが隠れていたから、何事かと思って様子を見ていただけだ。あんた達はもしかしてミンク族か?」
喋っていたフードのミンク族らしき人物の近くに降りて聞いてみる。
「ああ、そうだ。目立つので隠しているが(子供だったのか……それにしてもこの子供の匂い、どこか懐かしいかんじが……)」
こちらを向いた顔を見ると、オレンジっぽい色の髪で黄色い体毛に黒い斑点、そして口の回りは白く、喋ると鋭い牙が見える。ネコ科の肉食獣、模様がトラではないな、ヒョウ辺りのミンクか?
「やっぱりそうなのか。だったら頼みたいことがあるんだが」
「あっ! ヘッド、あのゴーグルのガキ〝機甲〟です!」
「何っ、1億ベリーの奴か!?」
オレがミンク族の彼と話をしていると、向こうでオレの異名が呼ばれる。それを知って嬉しそうな笑みを浮かべるってことは、あっちは人攫いか。
フードで隠していても正面から見れば普通の人でないのは明白。どこかで見つけて尾行して、チャンスを窺っていたんだろう。酒でも飲んで酔いが回れば狙い目だ。眠りでもすれば後は縛るなり手錠をかけるなりして、
「何の話だ?」
「あ~、オレはここの
ミンク族の最低取引価格は70万ベリー、全然知られていないとはいえ高い身体能力と種族共有の能力の【エレクトロ】と満月の日の変身能力【
……年々こんなろくでもない知識が増えていくな。
「すまない。オレが来たことで、あいつらやる気満々みたいだ」
相手が武器を構えている。
オレ1人でミンク族100人分以上の最低金額、あちらとこちらの人数は大体同じくらいだが、賭けに出るには充分な理由だろう。
「元々おれ達狙いだったようだし構わない。こういう場所だと聞いていたから気を付けてはいたんだがな……話は後でいいか?」
「ああ、先に片付ける」
腰の鞭を取り出し、ヘッドと呼ばれた男に近付き、その首に巻きつけ絞める。
「グォッ!?」
「【
バチバチッ!
「ギャアァァァ!」
鞭を通して【
オレが1人倒す間に他の戦闘も終わったようだ。武器や体に【エレクトロ】を纏って攻撃したり、ただ殴って倒していたりと特に苦戦した様子もなく軽くあしらっていた。
「ガオ! ペドロの兄貴、こガラらどうする?」
ヒョウ(仮)のミンクの男に話しかけるサングラスの男、黄色いたてがみみたいな髪型、たぶんライオンのミンクだな。さっきから主に話したり指示を仰がれているし、あのペドロと呼ばれた人がリーダーか。
「放っておけ……それにしても【エレクトロ】だと? ゆガラ、ミンク族ではないよな?」
「オレは悪魔の実の能力者、これはその能力を使ってやっている」
手の平を上に向け、バチバチと放電して見せる。
「能力者……もしやゆガラがロゼか?」
真っ白な体毛、シロクマのミンクか? 黒い髪でサングラスをかけた男に名前が知られていた。
「その通りだが……オレの手配写真でも見たのか?」
「やはりそうか。いや、少し前にゾウに来た、パンダマンという不思議な男に聞いたんだ」
「パンダマン、無事にゾウまで行けたのか! ふはは、懐かしいな……元気にしていたか?」
会ったのは3年ちょっと前だな。場所もわからず泳ぎでは無理もないが、かなりかかったな。
「ああ。あガラが
「あの時のあガラか……ゼポは特によく話していたな」
「なんか親近感を覚えてな。結局自分の生まれの手掛かりは見つからず、泳いでどっかに行ってしまったよ」
「そうか、わからなかったのか……まあ元気そうでよかった」
大昔にゾウを出たミンク族の末裔とかだろうか? ミンク族って魚人・人魚族と同じで親に似ず隔世遺伝して親兄弟で姿が全然違うのも珍しくないらしいから、親戚を探すのさえ難しそうだな。
「では改めて。オレはロゼ、ここシャボンディで賞金稼ぎ《バウンティハンター》をやっている。さっきも言ったがあんた達に頼みがあるんだが、そっちからは何かあるか?」
「ガルチュー。おれはジャガーのミンクのペドロ、ノックス探検隊の
ジャガーのミンクだったか……うん、ヒョウのミンクとの違いがわからない。たしか動物の方は、背中や側面の斑紋の中央に黒い斑点があるのがジャガー、ないのがヒョウだったか? ……服で見えん。
ノックスってたしか夜という意味だったな。ジャガーは夜行性だし、そういう理由だろうか。
サングラスをかけた2人が自分の名前を呼ばれるとサングラスをあげていたが、すごくかわいいつぶらな瞳をしていた……他にもオオカミのミンクとか肉食系のミンクが多い。武闘派のミンク族揃いってことかな?
自己紹介の後で次々にガルチューと頬ずりされる。たまにチクチクするがすごくもふもふしている……この挨拶は危険だ、なんというかこう……気付くと時間を忘れてしまう。
「それでは聞きたいことがあるのだが」
「何だ?
ミンク族に人種差別の意識が強い人が多いシャボンディの住人が物を売ってくれるかは微妙な所だし、必要になるだろう。
「それも気になるが、おれ達は
オレ自身はろくに知らないが、知っていそうな人には心当たりがある。ロジャー海賊団にはミンク族も乗っていて、モコモ公国のロード
「……
普段でもマズイのに、今のこの島でそんなことを聞いていたらすぐ手配される。
「なっ、そうなのか? 困った、ロジャーも旦那達もそんなことは一言も……だが彼らは海賊だし、ロジャー達も死んだらしいから、それもおかしくはないか……」
会ったことがあって、悪い印象も持ってなさそうだな。旦那達というのはネコマムシの旦那とイヌアラシ公爵のことだろう。
「あんた達は海賊になりたいのか?」
「いや、さっきも言ったが探検家のつもりだ」
「
「
「人より優れた身体能力をフルに使って、見つからないように探すことだな。今回みたいに聞いて回っていたら、すぐに追われることになるぞ。今までも聞いていたのか?」
「いや、そもそもまだゾウを出たばかりで、魚人島で聞いたくらいだな」
魚人島の住人なら、わざわざ政府に報告するようなこともないか。魚人島には
「まだ探す気があるのなら、オレは知らないが知ってそうな人に心当たりがある。紹介するよ」
「いいのか?」
「たぶん大丈夫だ。これから向かうから、人に尾行されてないか警戒してくれ」
流石にこの人数を飛んで連れて行くのは無理だ。
「ありがとう、任せてくれ。それでロゼ、ゆガラの頼みというのは?」
「半年くらい前から、
この島ではまともに機能していないとはいえ、人身売買は世界政府によって一応禁止されている。天竜人でもない限り、奴隷がいなくなりましたと海軍に駆け込むなんて出来ないだろう。
新世界はほとんどが四皇の誰かの領海、そういうビジネスのようなことをしているのは、おそらくビッグ・マム海賊団の領海のどこかの島に流れ着いたのだろう。百獣海賊団と元ロジャー海賊団の〝赤髪〟率いる赤髪海賊団は比較的新顔だからよくわからないが、白ひげ海賊団の領海では奴隷やドラッグの売買は禁止で、発覚すると自分の旗をないがしろにしたとして、隊長や傘下の海賊を送って潰すらしい。
なんで〝白ひげ〟は海賊になっちゃったんだろうな。あの国より余程好感が……はあ、人間のオレが言えることではないか。
あいつにも見つからないようにしていたのだが、オレの匂いを辿って家まで来た時は驚いた。以降、
最初はおどおどしていたが、しばらくするとオレ達に心を許してくれた。普段はメイドのようなこともしていて、たまにあの大きな尻尾をモップ代わりにして掃除してる。別に興味があるという医学の勉強だけしていていいんだが、恩を返したいそうだ。オレの採血も練習を兼ねてやって貰ってるし、料理の腕は速攻で抜かれた……。
私服の他に、母さんがどこかから持って来たナース服もたまに着ている。
母さん、かわいいもの好きだからな……すべての服に尻尾を出すためのファスナーも付けてくれた。メイプルとも最初は初対面の印象もありメイプルの方が怯えていたが、今では仲も良く、母さんもかわいがっている。
「そういうことか……仲間が世話になった(覚えのある匂いはそガラのものか)」
「ガオ! ゆガラ良い奴だなァ、ガルチュー!」
ぺコムズに泣きながら抱き着かれ頬ずりされる。涙もろいのかな?
しばらく抱き着かれ落ち着いた後、父さんがいるオレ達の家に向かった。昔の話が出来る相手に会えるのは喜ぶだろう。
☆☆☆☆☆
「ご主人様、お帰りなさい!」
家に帰ると抱き着かれ、肩の辺りに噛み付かれる。攻撃されているわけじゃなく、リスのミンクだからか、こいつには噛み癖がある。オレの能力で金属に変化させた体や服によく噛み付いてくるので、近付かれると能力を使うようにしている。硬くて噛み応えが気に入ったらしい。一度ゴーグルの上から首に噛み付かれた時怒って以来、ゴーグルをかけている首は避けるようになった。もふもふした茶色い尻尾を左右に振って上機嫌だ。
「……トリスタン、ご主人様はやめてくれ。ロゼでいい。虫唾が走る」
メイド服まで着て何やってんだ……母さんが着せたんだろうな。
「そ、そんなぁ、旦那様や奥様には喜んで頂けたのに……どこか至らない所がありましたか?」
尻尾がしゅんと垂れて落ち込んでいる。長い水色の髪の上から生えた耳も、心なしか少し元気がない。
至らない所も何も、噛み付いて来るのがおかしいと言えば相当おかしいが、それは慣れたので別にいい。父さんと母さんにはトリスタンも噛み付かないし。というか父さん達は旦那様と奥様か……。
「すまん、言い方が悪かった。ご主人様と呼ばれると貴族みたいだから、嫌だと言っているんだ。もっと楽に話せばいい」
身なりが良いどこかの国の貴族が奴隷を買いに頻繁に出入りしている。あれと同じような扱いはしたくない。
「この話し方が一番楽なんです」
「……ではせめて呼び捨てにして下さいませんか? 今までもそうだったでしょう、お嬢様?」
「ああっ、すごく心の距離を感じます! いつも通りにして下さい、ロゼ!」
「わかった」
「キュルキュル~♪」
落ち込んでいるトリスタンの頭を撫でると喉を鳴らし、垂れた尻尾が元に戻る……見た目だけじゃなく、仕草まで小動物チックで困るな。
「トリスタン、ゆガラだったのか」
「キュル? …………ぺ、ペドロさん!?」
となりのペドロに気付き、少しフリーズして、オレから離れるトリスタン。去年、子供の手当てしていたことを暴露した時のスモーカーさんみたいだ。要するに照れているのだろう。
「何故ゆティアがここに!?(というか、よく見れば他の方も大勢います)」
「10年程前からずっと外の世界を見てみたくてな、少し前にゾウを出た。ここに上陸してロゼと会い、保護したミンク族をゾウに連れて行って欲しいと頼まれたのだ」
「ク、クビってことですか……?」
何故そんなショックを受けたような顔をする。せっかく故郷に帰れるのに、うれしくないのか?
「そもそもクビも何も雇っていない」
「えっ? ……じゃあ、あの毎月のお金は何ですか?」
「ただのおこづかいだけど」
フードや帽子を被って耳、マスクとサングラスで顔、コートで尻尾を隠せば、ギリギリ1人でも買い物が出来るかもしれないし。完全に不審者だが、この島に怪しい奴なんてゴーグルをかけたオレを含めてそこら中にいる。
いくら人間とはいえ海賊共には物を売るのに、魚人族やミンク族には売ってくれない店が多いなんておかしな話だ。
「わ、私って居候の上におこづかいまで貰ってたんですか……(そしてあの額でおこづかいなんですか……)」
「気にするな、この家で一番お金を稼いでいるのはオレだから」
トリスタンを預かることになった原因はオレだし。
やはり懸賞金を貰いに行ける前科なしというのは大きい。2人はあまり目立てないし、トリスタンは人前に出れない。対してオレは向こうから1億ベリー目当てに寄って来るのを倒すだけ。寄って来なくても探して倒す。コーティングには最低3日はかかるので無法地帯を探せばどこかにいる。
コーティング代は前払いが基本だから、海賊が捕まった所でコーティング職人は困らない。船の持ち主の海賊をタコ殴りにした写真を見せ、売った船代半分あげると言えば船を渡してくれる。やはりこの島での交渉はお金ありきだな。積荷はオレの総取りだけど。
大した積荷を持っていないし船もボロボロだが、新世界で四皇に敗れて逃げ延びて来た落ち武者共も狙い目。懸賞金は高めだし、放っておいても害悪でしかない。新世界で略奪出来ないから、自分達がそれなりに恐れられていいように出来ていた、この前半の海に戻って来たような奴ばかりだから。四皇の力を思い知った奴らは〝白ひげ〟の縄張りである魚人島では暴れず、ここの無法地帯で海軍にバレないように、船を買い直そうと暴れることがある。そういう奴らにオレの1億ベリーはとても上手い話に見えるらしい。
「雇われてなくても、まだ何も返せてないのに帰れません!」
「せっかく首輪が外れて自由になったのに、恩返しの義務感で自分を縛るつもりか? そんなことがして欲しくて助けたんじゃない。自分の好きに生きろ」
「何も今すぐ帰るわけじゃない。ゾウのビブルカードを渡しておくし、これから話して決めればどうだ?」
「……そうだな。トリスタンに出て行って欲しいわけじゃない。だがここはお前には住みにくいだろう?」
「そんなことないです! 私、この家大好きです!」
いや、この家のことじゃなくてシャボンディのことなんだが……まあ今はいいか。うれしいし。
ペドロがビブルカードを出し、千切ってトリスタンに渡す。
「ゆガラにも渡しておく」
「いや、オレは別に」
「おれ達ミンク族には、友好の証として互いの衣服を交換する風習がある。残念ながらゆガラとはサイズが合わないので、これを受け取ってくれ。トリスタンが世話になった」
「……ふははっ、わかった。そういうことなら受け取ろう。ありがとう」
手渡されたビブルカードを受け取り、コートの内ポケットに入れる。代わりにオレのビブルカードを取り出し破る。
「そして、これがオレのビブルカードだ。オレもいずれ海に出るが、それまではここにいる。道標にでも使ってくれ」
「ああ、感謝する。ガルチュー」
ホント、なんでミンク族は人間嫌いってことになっているんだろう。オレは海軍関係以外で関わった人間に優しくされたことなんてほとんどないけど、ミンク族や魚人族とは余程仲良く出来ているんだがな。
「何やら騒がしいな」
「どうかしたの?」
家の2階から父さん、店の方から母さんが来た。
「なっ……まさかレイリーか!?」
「ん? キミは……ペドロか? 大きくなったな! 昔会った時はロゼより小さかったのに」
「(ミンク族……この子全然人間連れて来ないわね。ノジコちゃんだったかしら? あの子だけ。まあ、この子の人間の友達って全員海軍関係者だものね。ガープとか連れて来られたら、この家なくなっちゃうわ)」
「死んだと聞いていたが……」
「わはははは、この通りピンピンしているよ。イヌアラシとネコマムシは元気か? 何でもケンカしていると聞いたが」
「ああ。元気ではあるのだが、5年ほど前に瀕死の重傷でゾウに戻って来てから、顔を合わせれば殺し合う寸前になるまで仲違いして、お互い昼と夜で住み分けるようになってしまった。理由を聞いても教えてもらえず……」
トリスタンからも聞いたけど、顔を合わせないために昼と夜で住み分けるって極端な……。
「そうか……あの仲の良かった2人がなぁ。まあ生きていれば、いずれまた元の仲に戻るだろう」
「ねえ、いつまでも玄関で話してないで中に入ったら? ……ロゼ、あんたどうして噛み付かれているの?(じゃれつかれてるだけなんだろうけど、肉食獣の食事中にしか見えない)」
「いや、オレにもわからない」
父さんとペドロが話してる間に、何故かノックス探検隊の人達に体中を噛み付かれていた。能力を使っていないと服が穴だらけになるな、これは。
「いや、トリスタンが噛み付いているのを見てたら気になって」
「ガオ! ロゼ、ゆガラはなかなか良い噛み応えをしているな!」
「そうか。ありがとう」
前後左右から噛み付かれながら、口々に感想を言われる。
でもそんなことを褒められても、あまりうれしくはないなぁ……。
「ああーっ! そこは私の場所ですよ!」
「お前のでもない」
母さんに写真を撮られながら、全員家の中に入る。
それぞれ椅子やソファー、こたつについてトリスタンが飲み物を持って来る。
「それで、何故ゆガラがここに? というかロゼが言っていた
「父さんのことだな」
「ゆガラ、レイリーの息子だったのか……(〝海賊王の右腕〟の子が
驚かれる。まあ元ロジャー海賊団で生存が明らかなのは〝赤髪〟くらいだからな。
それに、オレの見た目はどちらかというと母さん似だから、父さんを連想するのは難しいだろう。
「バレたら困るから秘密にしてくれ」
唇の前で人差し指を立てながらお願いする。
「あ、ああ(そんな子供のイタズラを秘密にするみたいな、軽いかんじでいいのか……?)」
「まあ積もる話もあるし、ゆっくりしていけばいい」
「昔の話でも
店の方に行っておこう。
「ゆガラは聞かないのか?」
「好奇心はリスを殺すんだよ」
「私は死にません!」
「そうだな。ゾウの外を見るのに夢中になっていたら、噴火雨に気付かず流されて漂流しただけで、死んではいないからな」
「ぐう!」
痛い所を突かれ、ぐうと音を上げるトリスタン。
「ゆガラ、そんな理由で行方不明になっていたのか……」
「そ、そんなに呆れた目で見ないで下さい、皆さん……!」
漂流した経緯を聞いて、呆れるノックス探検隊の面々。無理もない、初めて聞いた時はオレも呆れた。
呆れられているトリスタンを背に、飲み物を持って店の方に行きソファーに座る。
「なんだかロゼは奥様方より私から少し距離を取っている気がします……やっぱりゴーグル噛んじゃったからですか?」
「いや、何故ついて来ている? ゆっくり話していればいいじゃないか、半年以上ぶりだろう?」
「あんな周りの皆さんに呆れられた空間にいられませんよ……」
「あー……すまん」
隣に座ったトリスタンに謝る。居た堪れなくなって避難して来たようだ。
「いえ……それで、やっぱり大事にしてるゴーグルを噛んじゃったから怒っているんですか? もう噛まないので許して下さい……」
「いや、そんな申し訳なさそうに謝られても、もう怒ってないぞ? 噛まれたのゴムの部分だし、たとえ切れたとしても替えればいいだけだから」
大事に使っていても切れる時は切れるだろうし、顔を隠すためにサイズ大きめだけど、オレの頭が大きくなれば、どの道いつかは長いのに替える必要が出てくるだろう。
「むう……それは良かったですが、じゃあなんで距離を取っているんですか?」
「それは私も気になるわね」
今度は母さんが店に来た。まあ店主の母さんが店のカウンターに来るのは普通のことなんだけど……
「もういいのか? ずっとガルチューしてたけど」
「ええ、もう堪能したわ」
母さんはオレ達が話している間、ひたすら黙って写真を撮ったり、皆の頭を撫でたり抱き着いたりしていた、幸せそうな顔で。
「それで、どうしてトリスタンちゃんを避けているの? あんたが自分に好意的な人から距離を取るなんて、初めて見たけど」
「やっぱり私、嫌われてるんでしょうか……?」
「違う、嫌っていない。そんな泣きそうな顔をするな。はあ……わかった、教える」
ため息を吐き、トリスタンに向き直る。
「なんだ、お前のその見た目は! ファンシーでかわいすぎるんだよ! 気を抜くと膝の上に乗せて、頭撫でたり尻尾撫でたりしそうになるわっ!」
その尻尾なんてもふもふしすぎだろう。ずるいぞ、その見た目は!
「(やっぱこの子、私の息子だわ……親子ね)」
「なんですかその素敵な待遇は! 意地悪しないでして下さい!」
「意地悪しているんじゃない! 気を抜くとお前をペット扱いしそうになるんだよ! 人をそんな風に扱うなんて……!」
「(うっ、胸に突き刺さるわね。私は……そう、娘が出来たみたいなものだから)」
同時刻、海軍本部
「うっ!?」
「どうかしたのか? お前が座学中にうめき声を上げるなんて」
「風邪か何かか?」
「いえ、なんでもないわ(ストレスかしら? また今度
場所が戻って、シャッキー'
「そんなの気にしなくても大丈夫ですから、もっと撫でて下さい! 私達にはペット扱いじゃなくて、ただの挨拶ですから!」
「人の心には誰でも光があれば闇もある。鉄の意志と鋼の強さを身に付けなければ、簡単に外道に堕ちる、お前を買った貴族のような。そんな奴らをオレは何人も見たり聞いたりしてきた。オレはああはなりたくない!」
「そういうこと考えてる人は堕ちたりしませんから大丈夫ですよ!」
「一理あるわね。というか、それで避けてこの子を傷つけたら、意味ないんじゃない?(だから私は悪くない。だってこの子かわいいんだもの)」
「そ、それは……」
たしかに。だが、1度でもこのもふもふの尻尾の誘惑に屈してしまえば、オレはもう元には戻れないのでは……? すごく甘やかしてしまいそう。
「そうです! 私は傷ついたので、さっき言ってたやつして下さい!」
何が傷ついたので、だ。すごく尻尾振ってるじゃないか。取れても知らないぞ? リスの尻尾はトカゲと違って、取れても生えてこないんだろう? リスのミンクも同じなのかは知らんが……このもふもふが、取れる?
「わかった、頭を膝に乗せてくれ」
「はい!」
膝に乗ったトリスタンの頭を撫でる。頭は人間と変わらない、耳が生えていることを除けば。
「キュルキュル~♪ ……? ……あの、尻尾は撫でてくれないんですか?」
「却下だ。取れたらどうする」
「いや、そんな簡単に取れないんですけど……」
「万が一があれば取り返しがつかない」
「話が違います……」
口では不満そうだが、そう機嫌が悪いようではないみたいなので無視。
「ガオ? 何してるんだ?」
今度はぺコムズが入ってきた。
「トリスタンのご機嫌取り。そっちは良いのか? 随分ひさしぶりなんじゃないか?」
「いや、おれはロジャー海賊団とは話したことがないんだ。ガオ!」
ペドロをアニキと呼んでいるし、まだ子供だったのか? まあいいか。
「そうか……ところでトリスタン。オレから離れなくていいのか?」
気持ちよさそうに目まで閉じてるが、さっきは離れただろう。
「もうかける恥はかいたのでいいです。どうせ私は甘ったれだし、居候のくせにおこづかいまで貰うし、外の世界を見てたら流されちゃうダメっ子ですよーだ」
なんか不貞腐れている……尻尾振って喜びながら。わけわからん。
「まあ気にするな。メイプルにもこれ、たまにやってるから」
「あの人ってたしか、私やロゼよりも年上ですよね……?」
「いくつになっても、人には甘えたい時があるんだよ」
色々と上手くいかない時とか。
「(あんたはもう少し甘えていいと思うんだけど)」
「気になってたんだが、なんでロゼは親が海賊なのに
ぺコムズがトリスタンとは逆の隣に座って、的外れなことを聞いてくる。
「いや、父さんとの仲は良いぞ。単純にその辺で暴れている海賊が嫌いなだけだ」
「そうか。そういえばロジャー達は気の良い奴らだったと、ペドロの兄貴達は言っていたな」
「ああ。〝海賊王〟は仲間思いで、仲間への侮辱や危害を嫌う奴で、仲間の危機には敵を仲間の元に行かさないように立ち塞がり、自らを盾として戦うような船長だったと、何度も何度も何度も聞いている。父さんから」
「キュル!? ロ、ロゼ、痛いです」
「あっ、すまない」
手に力が入っていたようだ。力を抜いて撫で直す。
「(この子、もしかしてロジャーに嫉妬してるのかしら? あの人が酔う度に楽しそうに話すから。隠すの上手くなったわね……表情が動いてない。でもトリスタンちゃんを撫でてちょっと気が抜けてたみたいね)」
「まあ気の良い海賊もいるだろうが、そんなものはごくわずかだ。オレは会ったことがないし」
「いや、ゆガラの父親はどうなんだ?」
「もう引退しているからノーカウントだ」
というか父さん達が引退していなかったら、オレの性格は大分変わっていただろう。
「そうか。もう一つ気になっているんだが、トリスタン。ゆガラ、【
「私ですか? まだ短時間しか制御は出来てませんが、毎月練習はしてますよ。私が暴走しても、この家には止められる人しかいませんし」
「あれか。あれは、なかなか美しい毛並だ……」
髪の色と全身が白色に変わり、身長と一緒に髪と尻尾も長く伸びてきれいだった。
「触ると電気がバチバチするのが残念ね。せっかくの毛並を撫でられない」
「オレが電気を吸収して充電している間に撫でる?」
「じゃあ今月はそうしましょうか」
「ガオ……【
「元がそんなに強くないトリスタンだし、目を月光から隠せば元に戻るからな」
【
「私の【
「ああ。あの状態のおれを止められるのはペドロの兄貴の声だけだ……」
「それだけ強い力を秘めているってことじゃないか? 自分の力だ、ちゃんと使えるようになるさ」
オレにも見聞色をちゃんと使いこなせなかった頃があったなぁ。
「そうだなぁ、いつまでもペドロの兄貴に頼ってばかりなのはな……というかトリスタン。ゆガラはもっとおれを怖がってなかったか?(なんかすごいリラックスしているガオ)」
「ぺコムズさん……世界は広かったのです。別に平気になったわけではありませんが、これくらいのことでビクビクしていられないのですよ……ちょっと買い物に行くだけで襲われるんです」
「だからゾウに帰ることを勧めたんじゃないか。その内オレを売るための人質にされるぞ? 一緒にセット販売されるぞ?」
体調が万全なら人攫い程度相手にならないが、性格が怖がりだからな。きついだろう。
まあもし捕まって売られたところで、海楼石の手錠さえつけられなければ、オレは首で頭と胴体を分離出来るから、首輪を外してから鍵を奪って他の首輪も外して一緒に帰って来られるけど。
捕まらないに越したことはないし、急ぐか。あと少しだ。
「強くなります! 私だって外の世界に興味があるんですよ。ロゼの集めた食べ物、私も食べたいです」
「ほう……わかっているじゃないか」
「(……この子、結構乗せやすくてたまに不安になるのよね。大丈夫なのかしら?)」
元々ミンク族は毛のある動物は食べないからか、トリスタンとは結構食の好みが合う。毛のない動物の肉は食べても大丈夫のはずだが、こいつはそれもあまり食べない。リスのミンクだからか? 毒が入らなくなったメイプルのおかしも、ほっぺたいっぱいに頬張って幸せそうに食べていた。
その後、父さんとペドロ達の話は終わって、いくつか
「ロゼ……まだ起きてますか?」
夜になってパジャマに着替え、寝る前の読書をしていると、部屋にトリスタンが来た。
「起きてるぞ。どうかしたのか?」
「その、今日は寒いので一緒に寝て欲しいのですが……」
「いつもは母さんと……いや、わかった。入っていいぞ」
「ありがとうございます!」
こういう日もあるだろう。
トリスタンが部屋に入って来て、そのままベッドに入ってくる。うわぁ、すっごくもふもふするな、ぬいぐるみみたい……こいつは人こいつは人こいつは人……。
「一緒に寝るのはいいが、寝ぼけて噛み付かないでくれよ?」
「はい!」
ガブッ
頷いてすぐ噛み付いて来た。
「……おい。さっきの良い返事はなんだったんだ? ちゃんと話を聞いていたのか?」
「寝ぼけて噛む前に、起きてる内に噛んでおこうかと」
「なんだそれ……とんちか。まあいい」
面倒になって、パジャマだけ能力で変化させたまま寝ることにした。
夜が明けて次の日、結局オレを噛んだまま寝ていたトリスタンを剥がし、よだれで肩のあたりがベッタベタになったパジャマから着替えて部屋を出る。
どこか機嫌が良い母さんに昨日撮っていた写真を見せてもらったが、そこには為す術もなく貪り食われる憐れな犠牲者にしか見えないオレが写っていた。肉食獣の群れに生肉を放り込んだみたいだ……。
ミンク族の男女別二人称、三人称
あいつ 男「あガラ」 女「あティア」
そいつ 男「そガラ」 女「そティア」
やつ 男「やガラ」 女「やティア」
あなた 男「ゆガラ」 女「ゆティア」 だそうです。複数形だと「ら」が付く。
だから「こいつ」は「こガラ」「こティア」で、「どいつ」は「どガラ」「どティア」のはず。
ノックス探検隊
後のノックス海賊団。原作で
ペドロ(新世界編32歳)を船長に、ゼポ(ハートの海賊団の新世界編で22歳のベポの歳の離れた兄)、ぺコムズ(新世界編27歳)が名前ありキャラでいた。
ロジャー海賊団がゾウに来たのは新世界編の26年前なので、当時1歳のぺコムズはたぶんレイリーに会ってない。
【
電気を纏った鞭による攻撃。技名は遊戯王の装備魔法カード電撃鞭から。ルビは英語版。実は2話のガープを鞭で首を絞めて気絶させた話を書いたしばらく後に、ガープは鞭を持ってロゼを投げれば鞭を解けたことに気付いてしまった。1回目は油断もあり通用したが、2回目以降は投げられてる、その弱点を消す技として首絞めながら電気を流して妨害するこの技を思い付いたという設定になった。
奴隷の首輪
レイリーから教わったことにして、あのよくわからない方法で首輪を外そうかとも思ったが、ものすごく高度な技術を必要とすることが発覚したら困るので止めた。覇気ならまだいいが、実は片手で超早業解体、とかだったらロゼには無理だわ。
歩いてるゾウの背中になんて住んでいたら、落ちて行方不明になる住民いそう。というか91巻で、あの2人はたぶんそういう理由で過去にワノ国に流れ着いた。
新世界でトリスタンを奴隷に買ったのに、シャボンディにも買いに来てるってことは、
天竜人の奴隷にして焼印を押されるのはかわいそうなのでこうした結果、わざわざ
四皇
いつから今のように四皇と呼ばれるようになったかはわからないが、「?年前シャンクスは四皇の1人となる」、その後に、「13年前フーシャ村に停泊」とビブルカードに書いてたので、15年前のこの話ですでに今の四皇が出来ていてもおかしくない。「四皇〝赤髪のシャンクス〟、片腕を失う!」とかって新聞の見出しになって報道されたかもしれない。三大勢力の均衡を揺るがしかねない大事件。
ノベルエース2巻によると、昔はロジャー、〝白ひげ〟、シキの三勢力で新世界の覇権争いをして、その当時から〝ビッグ・マム〟は国を治めていたらしい。〝白ひげ〟の領海ではドラッグと奴隷売買禁止もノベルエース情報。
カイドウはワノ国を支配してから四皇入りかな? カイドウ本人は当時から強くはあったんだろうけど、海賊として7度負けてるらしいし、まだ勢力としてはそれほどでもなかったのかな。
トリスタン
ゾウ編で百獣海賊団のシープスヘッドに襲われている所をナミ達に助けられた、リスのミンクで看護師。
この子ビブルカードに年齢載るのかな? ミンク族を含む他種族の年齢わかりづらい。
本来リスが「キュルキュル」と鳴くのは警戒してる時ですが、他の鳴き声の「ホロホロ」「ピヨピヨ」はペローナ、ヒヨコ子爵と被ってるのでボツに。
リスの性格から、臆病だけど好奇心が強く噛み癖ありに。ミンク族は全身毛皮だから暑さに弱い設定だけど、まあ寒がりの1人くらいいるだろう、リスは冬眠するし。
弓で【エレクトロ】を飛ばすなんて出来るかわかりませんが、ワンピース世界では斬撃を飛ばせるので、たぶん不可能ではない。Fateのトリスタンが弓で空気を飛ばして攻撃するらしい。
コーティング最低3日
ノベルエース1巻に3日はかかるって書いてた。そういやレイリーも3日って言ってたな。だから最初、3日後にシャボンディで集合だったね。
〝シャボンディパーク〟でレイリーが明日までに3隻コーティングしなきゃいけないのに遊園地で遊んでたのは、一度シャボンで覆えば、後はシャボンが船に馴染むまで遊んでても、最後の調整だけすれば出来るってことにすれば、腕が良くても3日かかることと矛盾しないはず。シャボンを割らずに船を覆うのに技術が必要なかんじで。
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ミンク族は満月を見ると変身する戦闘種族。
キャロットはウサギのミンクだから目が赤く、全身が白くなるのかと思ってたけど、ぺコムズもビブルカードのカラー画像で同じような見た目になってたので【