あとアーロン一味のビブルカードには入らず、魚人島の住民扱いのはっちゃんは新世界編38歳で懸賞金800万ベリー。30ちょいと思ってたけど、まあメイプルの兄貴分でも問題ない年齢。0巻登場時小さくてかわいかったけど、あれで16歳だったのか。魚人や人魚って成長期も人間と違うのかな?
「ロゼ、ちょっといいか?」
「タイガーさん、珍しい……というかあの時以来初めてだな」
夜、用事を済ませて家に帰ると、家の前の海からタイガーさんが出てきた。1年程前に匿ってから、今日まで来たことはなかった。まあ天竜人が出入りするこの島に、好んで来ようとしないのは当然のことだろう。これからは大分マシになるはずだが。
「久しぶりだな。とりあえず中に入ったらどうだ?」
「いや、ここでいい。すぐに済む」
雰囲気がピリピリしているが、何かあったのか? 任務前の海兵みたいだ。
「おれは今日、これからマリージョアに乗り込む」
何?
「聞き間違いか? 冗談では済まないことが聞こえた気がするんだが……」
「聞き間違いじゃねェさ。おれはこれから、マリージョアの天竜人の居住地に行き、あそこに捕らえられた奴らを解放する。奴隷なんてのは生き地獄だ!」
「解放すると言っても、あそこの人達のアシはどうするつもりだ? 海軍の軍艦でも奪うつもりか?」
「魚人島でコーティングした船を大量に
アラディンさんも関わってたのか……あの人は足が尾ひれだからついて行けなかったんだろうな。
「……何故、わざわざそれをオレに事前に教えるんだ? リスクしかないだろう」
天竜人にケンカを売る、捕まれば間違いなく死罪だ。そんなことをして見逃されるはずがない。それどころか処刑される前に、天竜人の思いつく限りの拷問を受けるだろう。
「おれはお前に助けられた」
「オレは大したことをしていない。あんたの首輪を外したのは父さんだし、アラディンさんに輸血したのは母さんだ」
オレがしたことなんて、家まで連れて来て包帯を巻いたくらいだろう。
「だが、おれ達に声をかけたのは、手を差し伸べてくれた人間はお前だ」
「それがどうしてオレに教えることになる?」
「無事にあいつらを解放出来たとしても、おれは政府や海軍に追われることになるだろう。一言もなしじゃ仁義を欠く」
「……
ギンッ!!
拳を能力で変化させながら、覇王色を放つ。
「わかっている。だからあそこの連中を解放出来た後、もしお前が望むなら、おれの首をお前にくれてやっても構わない」
オレの全力の覇王色の威圧に顔色一つ変えず、タイガーさんはそう言った。
「なんだと? ……何故そこまでして解放しようとする? 自由の身になったんだ。他人のことなんて放っておいて、好きに生きればいいだろう。せっかく助かった命、惜しくはないのか?」
「……すべてを忘れて、見なかったことにして生きようとしたこともあった。だがあそこで行われていることを知りながら、見て見ぬふりは出来ねェ……あいつらを放ってはおけねェ!! そのためならばこの命、惜しくはない!!」
そこまでの覚悟か……これは止まりそうにないな。
「はあ……あんたの首なんて、友達の首なんてオレはいらん」
覇王色の威圧をやめて、能力も解き、そう言う。
「(さっきまでの迫力が消えた……)友達……? おれがか?」
「オレはそう思っている。天竜人に狙われるかもしれないのに、どうでもいい奴をこの家に匿ったつもりはない」
もしタイガーさん達じゃなく他の人間、リスクを背負ってまで匿いたいと思わない奴だったなら、気絶させてから家まで運んで、父さんに首輪だけ外してもらい、目を覚まさない内に、周りに人がいない場所にでも放って来ただろう。自分や自分の周りを危険に晒してまで助けないし、この家の情報も与えない。
「お前と会ったのはあの時が初めてだぞ。ウィリー達から何か聞いていたのか?」
「たしかに彼らから話は聞いていたし、友達の大事な人達だったのも助けた理由だ。だがあんた達を気に入った理由は違う。あの時、タイガーさんは1人で魚人島に帰ることも出来たかもしれないのにそうしなかったし、アラディンさんは自分が瀕死の重傷を負いながらもあんたのことを考えていた。だから気に入った」
「そんなの当たり前のことだ」
「そうか……だったら、オレがあんたを手伝っても構わないよな?」
オレが一緒なら、首なんて懸けなくても、この人が仁義を欠くことにはならないだろう。オレも同罪になるのだから。
「なんだと? おれはお前に協力してもらうために会いに来たんじゃねェ! 一緒に追われることになるぞ!?」
タイガーさんが慌てている。さっき、オレの覇王色に顔色一つ変えなかった男とは思えないな。
「友達を見捨てないのは、当たり前のことなんだろう? それに、
ニョン婆が言ってた。
「ふははっ。それに、バレたら海軍の友達に怒られるからな」
「(怒られるだけじゃ済まねェよ……)いや、バレなくても犯罪は犯罪だろう……第一、どうやってバレないつもりだ?」
ちょっと呆れられているな。当然怒られるだけで済むわけがない。だがオレの仕業とバレなければいい。やろうとしてることも奴隷を所有する
「こうする。【
スー……
いつものように体を変化させる。自分の体、服、装備品に背景を投影し、自分の姿を周囲に溶け込ませ隠す。
「消えた……!?」
「ここだ」
オレの満足のいく反応をしてくれたタイガーさんの後ろに回り、手で服を引っ張りながら声をかけた。振り向いたタイガーさんに恐る恐る手で触れられる。
メイプルに見せた時は、私だって出来るでゲソ! と謎の対抗心を
トリスタンの首輪を外した時も、こうやって姿を消していたのにな……。
「声はするし、触れられるのに姿が見えねェ……メイプルの変色みたいなものか?」
「そんなかんじだ。オレが
そろそろいいか。
能力を解除して、また姿を現す。
「……ちょっと待て。お前、そんなことまでしていたのか!? 姿を消すことといい、一言も聞いてないぞ!?」
「こんなこと、声を大にして言えるわけがないだろう? それに姿を消せることは本当に奥の手だ。戦闘では一度も使ったことがないし、海兵の友達にも教えていない。だから秘密にしてくれよ?」
ウィリーさん達はちゃんと秘密にしてくれていたようだ。ありがたい。
姿を消せることを知られるだけで、かなりのディスアドバンテージだ。特に海軍には知られるわけにはいかない。これは海軍では助けられないものをこっそり助けるために主に使う。当然、もしもの時の逃走手段としても役に立つ。
「……そんなことをして、大丈夫なのか?」
「何を言っているんだ、奴隷売買は世界政府によって禁止されている。この島では黙認されているが、奴隷にして売ろうとしていた奴らが逃げたから探してくれ、と
表向きは、
「人攫いに金を払っても、買った人が居なくなる上に外した首輪で店を爆破もされる。これを何度も
海賊には首輪より手錠がお似合いだ。
首輪の鍵なんて
悪魔の実の能力を可能性に入れても、透明になるスケスケの実、体の一部を好きな場所に咲かせるハナハナの実、鏡の中の世界を移動するミラミラの実、他にも色々あって特定なんて出来ない。もっともハナハナの実の能力者は、今
「(なんだその計画名……)だが、ここの
「そう思わせているからな。匂いは香水で変えて、声は……こんなかんじで能力を使って変えている。まあ香水を使い始めたのは半年ほど前からだけど」
「声まで変えられるのか……(もう驚き疲れたな)」
喉をボイスチェンジャーに変化させ、声を変えている。
トリスタンに匂いでオレとバレたから、最近は念には念を入れるために〝蠱惑魔〟が持っていたナノハナの香水を使用して匂いを上書きして、帰る前に香水の付いた上着を焼いて灰にしてから帰っている。姿は見えないが、声が女なら女の仕業に思われる。声はわざと聞こえるように喋って、人に逃げるよう指示を出していたので、すぐに
去年姉さんにその話をされた時はバレたのかと思ってドキッとしたが、オレとシャボンディで暴れている女は同一人物なので、ぴよぴよついて行くなんて出来るわけがない。
「さっきも、シャボンディ最後の
まあなくなったと言っても、別の島からまた来たり、人攫いが直接天竜人や貴族に売ろうとするかもしれないので、完全になくなったとは言い難いかもしれないが。今までも潰している間に、新しい店が出来ていたし。
そろそろ声は戻しておくか。
「おい、そんなことをしていたんなら、なんでさっきおれを止めようとした?」
「
オレは自分が追われる羽目になってまで人助けをするつもりなんてない。そこまで自分を犠牲に出来るか。見ず知らずの他人を助けるために、友達が多い海軍と敵対するようなことなど出来ん。
だが今のオレは姿を消せる。顔も名前もわからない奴の手配書を発行するなんて、出来るわけがない。それで捕まえるのは不可能な上、良いようにやられた挙句、顔も名前もわかりませんでしたと世界に自ら知らせることになる。そんなことをするくらいなら、世界政府はその事実を隠蔽するだろう。いつものように。
「……魚人島に政府の人間が来て色々と聞いて回っているらしい。おれ達のことがバレるのは時間の問題だ」
「だから今の内に、天竜人に捕らえられた人達を奪還しようとしているのか?」
「いや、これは魚人島に帰ったその日から考えていたことだ。今日まであいつらを逃がすための大量の船を用意するのに時間がかかっていた。アーロンやウィリーが倒した海賊の船を貰ったりしてな」
結果的にではあるが、時間がかかって良かった。偶然だがタイミングは良い。
天竜人が指示をしたのか、今このシャボンディではサイファーポール〝イージス〟ゼロ、通称CP-0が
つまり、今はマリージョアの警備は手薄になっている筈だ。魚人島にも行っているなら尚良し。魚人島は深海1万メートル、すぐには帰って来れない。
「その2人も関わっているのか?」
「いや、あいつらは知らねェ。今日の事も……おれ達のことも」
天竜人の奴隷だったことを言ってないってことか。まあそう簡単に言えることでもないよな。
「海賊旗はちゃんと外した?」
「ああ、帆も全部別のにかえた。せっかく解放した奴らが海軍に捕まっちまうからな」
海賊旗からウィリーさんが海軍に連れてった海賊の船だとバレて、あの人が追われるようなことにならないために言ったんだけど、その可能性もあったか……証拠隠滅が板についてきてしまった……いやでもそうでなければ、オレは今頃CP-0にバレていただろうし、仕方ないか。
「人手は多い方が良いだろう? 自慢になるが、オレは役に立つ共犯者だと思うぞ。もっとも、断っても姿を消してついて行くだけだが」
気になることもあるしな。
オレは素の右手をタイガーさんに差し出した。
「……ははっ、勝手な野郎だ。最初からおれの言うことなんて、聞く気ないんじゃねェか」
「オレはあんた達を助けたんだろう? だったらオレには責任がある。奴隷を所有する
「しねェよ、そんなことは。約束する。それに、おれは復讐の為に行くんじゃねェ。殺せばあいつらと同じになる。人にあらぬ扱いを受け、虐げられる者達を解放し、自由にするために行くんだ!! そしてこれは人をそんな風に扱う奴らへの、おれからの宣戦布告だ!!」
中々の覇気だ。
オレの手をタイガーさんが握る。
「宣戦布告ってことは、自分の正体をマスクとかで隠す気はないんだな」
「ああ、元からそのつもりだった。おれは世間に顔向け出来ねェことをしようとしているつもりはねェ(それにおれが目立てば、それだけアラディンやこいつが目立たなくなる)」
「かはっ!!」
「お、おい、どうした!?(急に吐血しやがった……)」
「いや、なんでもない……」
友達と言いながら、海兵に隠し事だらけのオレの心には刺さる言葉だ……。
ハンカチを出して、口元の血を拭く。
「そういえば、オレは飛べるがタイガーさんはどうやってマリージョアに行くつもりだったんだ?」
「
あんたもか。聖地マリージョアはロッククライマーの聖地じゃないんだぞ。たしかに
「つまり、自分で行けるってことだな」
「ああ、それがどうかしたか?」
「オレは先に行っているから、船の用意をして後から来てくれないか?」
「先にって、お前がおれを抱えて飛べば一緒にいけるだろう?」
「両側の
壊すと言っても、背中の受話器を壊すだけだ。
センゴクさんとサカズキさんは今海軍本部にいるはず。昼間会った。来られてたまるか。
電伝虫を壊して通信を遮断しておけば、後で海軍が天竜人から何らかの責任を取らされることもないだろう。
政府の人間は知らん。オレは天竜人だけでなく、世界政府も、いくつかの加盟国も嫌いだ。国旗をつけて奴隷を買いに来るバカが貴族をやって権力を握っている国なんて、ロクなもんじゃない。
おつるさんが
どうも海軍は武装色を重視している気がする。まあ攻防のバランスがいいからな。教官が武装色の達人のゼファーさんだし。攻撃の先読みが下手でも、全身の武装硬化が出来れば補える。
「ああ、なるほど。だがそんなもん、どこにあるかなんてわからねェだろ?」
「電伝虫にも気配がある。それを探ればいい。オレの見聞色の覇気の範囲はシャボンディを覆える。いけるだろう」
どんな気配をしているかはわかっている。シャボンディにも海軍本部にもたくさんあるから。
「覇気……オトヒメ王妃と同じ力のことか、そんなものまでわかるんだな」
「他人事みたいに言ってるが、もうあんたも使えるようになっているぞ?」
「何?」
「さっきオレの全力の覇王色を浴びただろう? あれで目覚めた」
まだ使いこなすには練習が必要だろうがな。
軽くタイガーさんに覇気について説明する。せめて自分の心の声を隠せるくらいは出来るようになって貰わないと。ウィリーさん達魚人島の3人と、居候のトリスタンも最近になって目覚めさせている。
「あの威圧感か……そのためにさっきのをやったのか?」
「いや、あれは気絶させるために本気でやった。子供のオレの威圧に耐えられず気を失う程度の覚悟なら、何もかも忘れて魚人島で暮らしていた方がマシだと思ってな」
「オレの覚悟を試したってことか……余計なお世話だ」
「ふははっ、そうだったみたいだな」
記憶が飛ぶまで頭を殴らずに済んで良かった。
「じゃあ任せる。だが、居住地の端にあるゴミ捨て場には絶対に行くなよ」
「? なんでだ?」
「いいから、約束しろ!(子供が見るようなもんじゃねェ……)」
「わ、わかった」
すごい剣幕だ……そう言われると気になるが、ロクでもないものしかないんだろうな……オレは生まれた時からシャボンディのロクでもない現実を見聞色で聞いてきたから、まだ耐性がある方だと思うんだけどな。買われたり攫われたりした若い女の末路とか。妊婦は2人分になるから高く売れるらしい。子供は生まれた時から奴隷だ。
はあ……かつてはオレも、牛の解体で泣くピュアな精神の持ち主だったのにな……。
「あとこれを渡しておく」
そう言ってタイガーさんが渡してきたのは
「ビブルカードか?」
「知っていたのか。新世界の店で作って貰った物なんだが」
「オレも持ってる。父さんが作ってくれたのがある」
そう言って自分のビブルカードを出す。
「……あの人、何者なんだ? 首輪のことといい」
「元海賊のすごい人。詳しく知りたければ、またここに来た時に自分で聞くことだな。今はいないみたいだし」
オレは自分の秘密しか話すつもりはない。元海賊ってことが勝手に言える限界だな。会ったことがないなら、オレの父親が誰なのかを教えても、生きていることがバレないように振る舞うだけでいいんだが。好きな食べ物とかなら教えても構わないけど、今聞きたいのはそれじゃないだろうし。
「まあいい。これを持っててくれ」
「オレは気配でわかるぞ? 追われる身になることがわかっているなら、むやみに人に渡さない方が良いんじゃないか?」
「構わねェ。おれが道を踏み外したら殴りに来るんだろ? まあそんなことにはならねェがな」
「……わかった。じゃあ貰っておく。あとオレのも渡しておく」
オレ達は互いのビブルカードを交換して別れた。
よし、一応伝えておくか。
家の玄関から中に入る。
「あっ、ロゼ。お帰りなさい~。さっきタイガーさんという方が来てましたよ?」
今日はナース服を着ているトリスタンに出迎えられた。メイド服よりこっちの方が似合うな。
「知っている。オレ、これからちょっとその人とマリージョアに行って、奴隷にされてる人達をこっそり奪還してくるから。朝までには帰るって、母さん達にはそう伝えておいてくれ」
そう言って、血の付いたハンカチを洗濯かごに入れ、焼いて捨てたコートの替えに香水を吹きかけて着てから、適当にパンをいくつか持ってまた家を出た。
さて、姿を消して、ごはんを食べながらマリージョアに飛んで行くか。
「えっ……待って!! ロゼ、どういうことですか!? 何がどうしたらそうなるんですか!? 意味がわかりませんよ!?」
トリスタンの疑問の叫びは、むなしく虚空に響くだけであった。
☆☆☆☆☆
姿と気配を消して
音速で移動したため、それが終わってもまだ時間があったので、ついでに両側のボンドラの制御室を制圧しておいた。ボンドラを動かしたまま、部屋を出て鍵をかけておく。中の人達は全員気絶させ、部屋の中にあった手錠や鎖で拘束してロッカーに入れておいた。使った手錠と部屋の鍵は全部
マリージョアの通行許可を得て来る人がいない夜だからか、ここが攻め込まれるわけがないという確信からか、ボンドラの制御室には人が少なかったが、流石に城の方にはかなりの数の気配がある。パンゲア城だ。天竜人の居住地まで門が3つあるが、警備の人に開けてもらえばいいか。電伝虫を壊した時は、飛んで空いている窓から中に入った。
ここには大量に首輪という名の爆弾がある。天竜人の家を爆破して回れば騒ぎに気付き、門を開いて助けに来ざるを得ないだろう。あんな人を殺せる威力の爆弾を首輪にするからこうなるんだ。あの首輪の威力なら、その気になれば天竜人の体の一部と一緒に自爆して吹き飛ばすくらいは出来るだろうに、不用心だな。
そして、門を飛んで越えた先で、よじ登って来たタイガーさんと気配を探知して合流する。
奴隷を解放する方法は、まずタイガーさんが魚人空手の正拳突きで屋敷の扉を破壊。そのまま中に入って天竜人に詰め寄り、首輪の鍵はどこだと聞く。オレがその心の声を聞いて鍵を見つける。鍵で首輪を外す。といった手順だ。部屋の過去を見て調べるのはタイガーさんに却下された……まあ結果的に鍵が見つかるなら、別に構わんが。
天竜人が乗り物みたいに人の上に乗って移動するのはシャボンディでも見かける光景だったが、檻の中に入れて殺し合いをさせていたり、猛獣と同じ檻や水槽に入れていたり、結構な趣味の世界貴族様方もいらっしゃった。よく笑えるな。何も楽しくない。価値観が違いすぎる。
オレは見聞色や能力のこともあり忘れない方だが、それがなかったとしても今日の光景を忘れることはないだろう。
腕、足、目などの体の一部を欠損した者、体に剣やナイフが刺さっている者、目が虚ろな者、いい年をした大人がまるで子供のような喋り方をしている者と、体だけでなく精神に異常をきたしている者もいる。
「走れ!! 二度と捕まるな(それにしても、元気づけるためとはいえ、よくあんな歯が浮くようなことをポンポン言えるなこいつ……まあ死人みたいな表情してるよりは良いことだろうが、こいつの将来が少し心配になった……)」
主にタイガーさんが、たまにオレが変えた声で誘導する。
先ほど、タイガーさんを怖がっていたので、オレが首輪を外して少々手間取りながらも指示を出した内の1人が、オレの方をじっと見ていたんだが、ミンク族でもないのに姿と気配を消したオレの位置が何故わかる?
そのミンク族にも会い、ゾウの場所を知る手段がないそうなので、ペドロから貰ったビブルカードを少し破り、必ず全員で帰るように、と言って渡しておいた。友好の証に貰った物を裂くのは気が引けたが、この使い方ならペドロも許してくれるだろう。
首輪を外していると、たまに天竜人に襲い掛かる人がいる。まあ、そりゃあそうだろうな。
「こいつ、殺してやる!」
「離すんだえ! わちしの奴隷風情がッ! 誰のおかげで生きていられると思っているんだえ!」
こいつはもしかして殺されたくてわざと言っているのか? ……本気でこう思っているのだろうな。
「ふざけるなァッ!」
「おい、やめろ! 殺せばこいつらと同じになる!」
「止めないでくれ! こいつだけは、こいつだけは許せねェ! 生かしちゃおけないんだ!」
「……ッ!」
止めさせようとしたタイガーさんの動きが止まる。似たようなことを経験して、気持ちが理解出来るからこそ、止められないのだろう。
オレがやるか。
姿を消したまま、天竜人の首にナイフを突き刺そうとした男の腕を掴む。
ゴンッ!
「ヴォゲァ!!」
そして、無自覚に人の怒りを煽っている天竜人の頭を蹴って気絶させ黙らせる。
「復讐がしたいならすればいい。だが殺すな」
「だ、誰だ!? 誰かいるのか!?」
見えないものに腕を掴まれ怯える男。怒りと殺意の二色だった男の感情に恐怖が混じる。好都合だな。
「こいつは死ねばただの死体だが生きていれば天竜人、利用価値がある。こいつが情けなく豚のような悲鳴を上げて無様に助けを求めれば、ここの警備の連中は無視出来ない。すれば後で死罪だ。目と喉は残せ。お前の気が済むまで痛めつけたら、目立つ所に捨てておけ!」
我ながら酷いことを言うものだ。オレの言動にタイガーさんがちょっと引いている。だが長々と説得の為に話しをする時間が今は惜しい。あと数時間で【光学迷彩アーマー】連続使用の限界が来る。まだ全部終わっていないんだ。
それに、オレはここの人間を助けるのも目的だが、1番はタイガーさんの手助けをしに来たんだ。今天竜人に死者が出れば、その罪はすべてタイガーさんのものになる。この人はそれも覚悟の上だろうが、オレが許さない。それほど殺したいなら、後日自分で
「は、はい!(恐ろしい人だ……逆らえば何をされるかわかったもんじゃない……!)」
男が気絶した天竜人を引きずって去って行った。
天竜人への怒りと殺意が、得体のしれないオレへの恐怖で塗り潰されていた。もう殺そうとすることはないだろう。
「おい……良かったのか? あいつ、完全にお前に怯えていたぞ」
「感謝は姿を見せているあんたがされればいい。こっちは姿を見せていないんだ、どう思われようが関係ない。『殺せば奴らと同じになる』、彼らにも殺して欲しくはないんだろう?」
「ああ……」
「急ごう、まだ人は残っている」
途中で遭遇する衛兵を倒しながら、天竜人の家を回って行く。
すべての首輪を外し終え、騒ぎで空いた門を通り、シャボンディ側の
皆を逃がすために、タイガーさんは自分がこの騒ぎを起こしたと叫び、囮になりながら進む。オレはその背後から攻撃して来る衛兵を足を引っかけたりして、別の敵の方向に転ばせ、巻き込ませる。
下に降りるボンドラの所に着き、崖を背に戦い時間を稼ぐ。
反対側はもう全員降りたみたいなので、タイガーさんから離れてそっち側に行き、ボンドラの8つのロープをすべてチェーンソーでぶった切る。これでアラディンさんも、もう逃げてくる人がいないとわかるだろう。
「もう全員下に降りたようだ」
戻って来てからタイガーさんに近寄り、周りの衛兵に聞こえないよう、見聞色で探っていた逃がした人達の状況を小声で教える。
「そうか、ならもうこいつは必要ねェな……【五千枚瓦正拳】!」
ドゴォン!!
人を乗せたまま降りて、
「自分から移動手段を壊すなんて、投降する気にでもなったか!」
「まさか。こうするんだよッ!」
そう言い、タイガーさんが
「なッ、死ぬ気か!?」
おいおい……オレがいるからだろうけど、すごいことをするな……そりゃあ衛兵達も驚くわ。
飛び降りたタイガーさんを追ってオレも飛び、加速してタイガーさんに追いつき体を掴む。
「危ない真似をする……」
「お前が来るとわかっていた!」
……まったく……そう言われれば責められないじゃないか。
降りる途中でまだ残っているボンドラのロープもすべて切る。これでもう、マリージョアから逃げた人達を追うことは出来なくなった。それだけでなく、どれかのボンドラとロープを復旧するまで、マリージョアは外界から隔離された。
今回の一件が広まるまで、時間がかかるはず。その間にタイガーさん達と奪還した罪なき人々には逃げてもらおう。さっき飛び降りたことで、死んだと思われるのが一番なんだが……。
そのままタイガーさんを抱えて、
「後は逃げるだけだな」
「そうだな……二度と捕まるなよ?」
天竜人にも、海軍にも。
「……ははっ、ああ! またな!」
そう言って海に潜るタイガーさんと別れた。
CP-0と出くわさなかったのは運が良い。この分だと全員何らかの任務で出払っていたか。わざわざタイガーさんに付きっきりでなく、別行動でも良かったかもな。
これでオレもバレれば犯罪者か。前にゼファーさんに、正義なんてわからないって言ったけど、もう正義についてとやかく語る資格はオレにはないな。犯罪者が正義を語るなど笑えん冗談だ。
さてと、覇気はともかくもうすぐ体力は尽きそうだが、オレは最後の仕上げに行くか。
見つけた賞金首の海賊の心の声は全員チェックしていた。気になっていたがやはりいたか、どうしようもない奴らが。
『海賊はどこまでいこうと海賊』、スモーカーさんがよく言う言葉だ。引退した海賊は見逃すオレとしては否定したいところなんだが、まあその通りだな。もう海賊から足を洗うと、守る気のない姑息な嘘を吐く奴のなんと多いことか。追い詰められた時に人の本性は出るという。
残念ながらオレは、海賊でも天竜人の奴隷を経験すれば改心すると考えるほど甘くはないし、自分はひどい目に遭ったから何をしても許される、なんてふざけた考えを見逃してやるほど優しくもないんだ。
タイガーさんに感謝して、海賊稼業から足を洗い、平穏に暮らそうと考えていた者達もたしかにいた。彼らは今日の所は見逃そう。
不穏な考えを持っていた賞金首は、全員シャボンディ側に船を浮かべていると言ってそちらに向かうよう誘導した。海賊なら尚更、徒手空拳で四皇が支配する危険な新世界に挑むより、まずはシノギがしやすい前半の海を選ぶよなぁ? 食料も武器もないんだ、まずシャボンディに上陸するだろう。顔と気配は覚えている、1人たりとも逃がしはしない。
何がもうすぐ
すべての後始末を終えて夜明け前に帰宅すると、まだ起きていたトリスタンに噛み付かれた。甘噛みではなく本気の噛み付きだ。どうやら心配をかけたようなので、能力を使わず生身の体で甘んじて受け入れた。すごく痛い……悪かったから涙目で噛まないでくれよ……。
その後、玄関で正座してちゃんと洗いざらい報告をした後に謝って許してもらえた。
今日は1日休もう。海軍本部でのいつもの修行にあの3人との四つ巴のバトルロイヤルルールでの組手、最後の
男の人魚の尾ひれ
実はビブルカードを読んでアラディンが新世界編46歳で1月31日生まれとわかり、〝天駆ける竜の蹄〟の時点でアラディンは30歳、尾ひれが二股に分かれた描写してないマズイと思ったけど、調べたら30歳過ぎて尾ひれが二股に分かれるのは女の人魚だけなんですね。覚えてなかったけど助かった。
“バレなきゃ犯罪じゃないんですよ”
当然原作の
SAN値ピンチなハイテンション混沌コメディのニャル子さんのセリフ。闇が深そうな
こんな考え、いつか痛い目見るだろう。
【光学迷彩アーマー】
身に付けてる物ごと周りから見えなくなる技。技名は遊戯王の装備魔法から。
遊戯王カードって色々あって技名に困らなくていいな。もっと早く主人公の見た目の設定を決めておけば、技名を遊戯王で統一出来たかもしれないけど、色々決めた後で決まったからなぁ。
実はこの技を使用している間は、ロゼのセリフ全部に消える細工をしようと思ったんですが、それは読みにくかったので、擬音だけ消えるようにした。僕のスマホだと古いからか、消える細工も他の細工も仕事してなかったですけど。悲しい。
ロゼが【光学迷彩アーマー】が出来るようになった2,3年前くらいからバレないように定期的にやってた。出来るだけ一度に大ダメージを与えるため、大体オークションが行われる前日くらいに貯まった奴隷一歩手前の人達を逃がしながら、外した首輪で店を爆破してた。まあ場所的にまた出来る。需要があるから。
ロゼの犯行は疑われていない。性別が男だし海軍と仲が良いこともあるが、
CP-0
〝鬼教官の信念〟でゼファーが作中時間去年に動き出すらしいと言ったのは、ロゼが
今年になってタイガー達の逃亡についても捜査が回り、他の任務も合わさってCP-0によるマリージョアの警護0人になっちゃったけど、天竜人の指示だから仕方がない。責任を取らされるCP-0はいなかった。
襲撃事件が起こって調査どころではなくなり、シャボンディと魚人島からマリージョアに戻ることになる予定。
逃亡から1年後に襲撃事件を起こしたのは船を用意してたから
想像です。他にも葛藤とか色々あったでしょうね。コーティングした船を用意してあるのは魚人街、CP-0が調べに来ていたのが魚人島で場所がずれているので見つかっていない。魚人街は後で調べる予定だったので、本当に時間の問題だった。
原作でマリージョア襲撃事件の具体的な描写がないので、想像で色々補完。90巻でマリージョア辺りの建物とかが出てきたおかげで、少し書きやすかった。ロゼが関わることで海軍・CP-0不介入&時間短縮になったけど、原作だとどんなかんじだったんだろ。
ちなみにロゼはマリージョア襲撃事件が起こることで、人間と魚人島の関係が悪化することについては予想出来ていない。シャボンディでの魚人や人魚への扱いや差別を見続けて、これ以上人間からの扱いは悪くなりようがないくらい最低のものだと思っているから。魚人島の住民から人間への感情の悪化については完全に予想外。奴隷解放を無事に成功させることに夢中だったし、そこまで先のことに考えが回るほど頭良くない。自分と仲の良い、接点があるのが元々人間に友好的な魚人や人魚が大半だったのも理由になる。
そして心の声をチェックしたのは賞金首だけで、まだ手配されていない人まではチェックしていない。
海軍は武装色を重視してる
単純にコビーと藤虎以外見聞色を使ってるの見た覚えがないからそうなのかなって。
つるが心の声を聞ける設定にしたのは、ウォシュウォシュの能力で心を洗えるのが見聞色と関係あるのかと思ったからそうしただけです。まあ後から心の声を聞ける海兵が他に出て来ても、まだ新世界編15年前だし、これから出来るようになったってことにすれば問題なし。
ゴア王国、セントウレア王国
ゴアはルフィの故郷のドーン島にある、人が焼け死ぬことを知ってても、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏な日常を送る貴族ばかり住んでて、サボにイカレてると言われた王国。何故か革命軍に革命されてない。
セントウレアは革命軍によるクーデターで滅亡した、名前だけ出た王国。どんな国かは出てきてないけど、革命軍の攻撃対象になったってことはあまり良い国じゃなさそう。