機械の皇帝   作:赤髪道化

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 たぶん旅立ち前最後の魚人島の話。


〝伝説の人魚姫〟

「なんで地上にいるんだ……?」

 

 ついさっきまで、アインと科学班の研究室にいた帰り。赤い港(レッドポート)の方に移動している、覚えのある気配を捉えて飛行している。

 すると、大きな魚に引っ張られている竜宮城と書かれた船に、オトヒメ様と、天竜人の防護服を身に着け、包帯を巻き、鼻を垂らした、顔がムカつく男が見えた。

 とりあえず【ライズ・ファルコン】から飛び降り、シャボンを突き抜け甲板に降りる。

 

 

「何だえ! この小汚い少年は! わちきの上を飛んで無礼だえ! ……何故空を飛べたんだえっ!?」

「この子はむしろ身綺麗だと思いますが……」

 

 5年前にマリージョアで見た顔だな。魚人を大勢飼い潰していた天竜人。

 

「ふははっ久し振り、オトヒメ様(……船にはあなたとこいつの2人だけ。周りに他に人はいないし、消すか?)」

 

 ゴーグルを外しながら、オトヒメ様に挨拶する。数週間振りだな。

 

「ああ、この子は私の友達なのです! ねえ、ロゼ?(『消すか?』じゃありません! 何を考えているのですか!)」

 

 オトヒメ様と互いに心の声を読み合う。内緒話はこの手に限る。

 消すと言っても、記憶だけだから。記憶が飛ぶまで殴るだけだから。

 それにしても、裏表がなかったオトヒメ様が、こんな見事に会話と心の声を使い分けられるようになったのは、間違いなくオレが原因だな。表面上は普段通りの穏やかな笑顔で、心では叱責される。

 

「ええ、そうなのです(軽い冗談だ。無理矢理この魚人コレクターに連れて来られたわけではない様子だったから。険悪そうだったら、こんな絶好の状況、聞く前にもうやっている。詳しい事情を教えてくれないか?)」

 

 まあ、ティータイムといった様子で席に着いて話をしていたから、そこまで心配はしていなかったが。首輪も付けられていないようだ。だからこそわけがわからん。

 

「だから何故飛べたんだえ!?」

 

「反抗期なので重力に逆らっております」

 

 

 目の前の男を適当にあしらいながら聞いたところ、数週間前、オレがルスカイナでいつものように父さんにズタボロにされる修行をしている間、海底生物にでも襲われたのか、魚人島に傷を負った天竜人が乗った難破船が漂着した。

 名はミョスガルド聖。こいつ以外の船員は、全員死んでいたらしい。悪運が強いな。

 

 この男に奴隷にされていたタイヨウの海賊団の船員達が、こいつを撃ち殺そうとしたのを、子供に人間への怒りを植え付けるなと庇い、銃弾で負傷。

 人質にでも取ろうとしたのか、これがオトヒメ様に拳銃を向け、その行動が原因でしらほしが泣き叫ぶと、その声に呼び寄せられたかのように数匹の海王類が現れ、これが乗って来た船が食われ、続いてこれも泡を吹いて気絶。

 

 そしてそれから数週間後の今日、元奴隷のアラディンの治療を終え、『家畜の分際で飼い主に銃を向けた事……必ず後悔させてやる……!』と捨て台詞を吐いて、1人竜宮城の船で帰ろうとしたこの雑草に、オトヒメ様がまだ話があるみたいなので同行すると言い、二人で話しながら浮上し、現在に至ると。

 

 

「なんで当たらないえ!」

 

「狙いは正確ですよ。お上手ですね。しかしこのままだと護身用の銃の弾丸を撃ち尽くしてしまいますよ? ……そうだ。せっかくなので送って差し上げましょうか?(やっぱり記憶を消した方が良くないか?)」

 

 オレを銃弾で仕留めて奴隷にしたいらしい。ハンティングゲームだな。ジェルマが発売したゲームでも代わりにやってくれ。

 アラディンや元奴隷のタイヨウの海賊団の船員が我慢して、彼らより因縁のないオレが、オトヒメ様の邪魔をするわけにもいかないので相手にしていないが、ちょっと鬱陶しい。

 そりゃあこの男と一緒に行くなんて言えば、ネプチューン様も自分が代わりに行くと反対もするだろう。弱い自分が帰って来れなければ、地上の安全を証明出来ないと突っぱねたそうだが。

 

「この子はとっても強いから、あなたの護衛にもなると思いますよ?(この方も話せばきっとわかってくれますよ。今はパニックになっているだけで、結構順調でした。というか、あなたの方が余程頑固ですよ?)」

 

 順調だったのか。信じられんが、この人だし……多少の歩み寄りでも凄いな。

 

「強いなんてとんでもない。精々銃弾を掴み取る程度だ(解せん……)」

 

 跳弾がオトヒメ様に当たるかもしれないからと、【鉄塊片鱗(テッカイヘンリン)黒腕(こくわん)”】を使用して手でキャッチしていた、拳銃の弾丸を手放す。

 

 ヒュヒュヒュンッ!!

 

「ひえっ……!?」

 

 正確には、親指でコインを弾くように弾丸を弾き飛ばし、音が聞こえるよう天竜人の両耳のすぐ横を通過させた。

 船に当たらないよう注意して、手の中の全弾がなくなるまで。

 

「ねっ、無駄でしょう? もう止めて頂けませんか?(だが、海王類関連は最低限の口止めが必要だろう。というか、オレにも教えない方が良かったんじゃないか?)」

 

 

 青ざめる天竜人がコクコクと頷くのを見ながら、心でオトヒメ様に聞く。

 

 オトヒメ様は、海王類を呼んだのはしらほしかもしれないと思っているそうだ。

 リュウグウ王家の言い伝えによると、数百年に1人、海王類と心を通じ合わせられる人魚が誕生し、その海王類と話せる人魚の元に、いつかその力を正しく導く者が現れ、世界に大きな変化が訪れるのだとか……王家の伝承なんて重要そうな情報は知りたくなかったな。

 

 王家の言い伝えの内容はともかく、しらほしがその海王類と話せる人魚だとして、世界政府誕生から800年、過去他にもいた可能性は充分。政府は海王類と話せる人魚の存在を知っているかもしれん。差別意識が今なお残っており、魚人と人魚を魚類と分類していたにも関わらず、リュウグウ王国を世界政府加盟国にした200年前が怪しい。

 この前のトムさんの持っていた古代兵器の設計図の例もあるし、しらほしの力を理由に魚人島の移住を認めず、このまま海底に隔離しようとするならまだいい方。しらほしを拉致し力の行使を強要、または危険分子として殺害……オレの考え過ぎかもしれんが、用心して知られないようにした方が良さそうな情報だ。

 

 

「友人同士がいがみ合うのは悲しいです(海王類のことは、あまりの光景に夢の出来事だと思っているみたい。あと、私はあなたみたいに、心の声で伝える情報を選ぶ、なんてことは出来ません。言葉と思考を分けるので精一杯。それに、あなたは悪用する気なんてないし、このことを知ってもあの子への態度を変えたりしないでしょう?)」

「すまん。オトヒメ様を悲しませるのは、あなたも心苦しいでしょう? ここで手打ちとしませんか?(それは買い被り過ぎだ。悪用なんてしないが、力を暴走させないためにも、今まで以上に絶対に泣かさないよう態度は変える。魚人島のシャボンが割れかねん)」

「あ、ああ……」

 

 引きつった顔のミョスガルド聖に手を差し出し、握手する。

 まさか応じられるとは……ここまで順調だったのか。『下々民(しもじみん)と握手をするくらいだったら、手首を切り落とした方がまだマシだえ!』くらい言われ、手を振り払われるかと思っていた。

 

「ああ、良かった!(そういうことではなく……まあ、やっぱり問題ありませんね)」

 

 

 オレも同行することになり、席に着いて話に加わる。といっても、ほとんど2人で話していて、たまに意見を聞かれるだけだが。凄い……天竜人と会話になっている。天竜人(こいつら)って、コミュニケーションが可能な生き物だったんだ……話にならないと思っていたけど。

 

 オレが入れる所まで送った。というか、オレに四六時中護衛されては、地上の安全を証明することにならないと、他ならぬオトヒメ様に同行を拒否られた。

 この人、オレとミョスガルド聖の仲裁をしたかっただけらしい。オレの事を頑固とか言えないだろ。

 

 仕方がないので、後はマリージョアにも行けるステューシーに影ながら見てもらい、1週間が経過した。

 

 

「命を救ってくれた人達と、愚かな私を諭してくれたオトヒメ王妃への恩を返すため、そして過去の愚行の償いとしても、全力でリュウグウ王国の助力をさせて欲しい!!」

 

「オトヒメ様……洗脳でもしましたか? それとも改造?」

 

 

 オトヒメ様が魚人島に帰ると聞いたので見送りに来ると、そこには顔つきから何まで別人になったミョスガルド聖がいた。

 本心からそう思っているようで、『魚人族と人間との交友の為提出された署名の意見に私も賛同する』と一筆(いっぴつ)した紙まで用意している。

 更に自分で父親を説き伏せ、奴隷にしていた人達に土下座し、帰りたい者には一生遊んで暮らせる額を渡して故郷に送り、もう身寄りがない者は年収みたいな月給で使用人として雇ったらしい。

 

 誰だこいつ……? 1週間前に、『わちきの奴隷にするえ』とオレに言ってきた奴と同一人物とはとても思えない。

 非常に良い変化なのだが、あまりの心変わり具合に、正直オレは引いている。オトヒメ様の影響力が恐ろしい。

 

 

「何をバカなことを言ってるんです……真剣にお話ししただけですよ」

 

 実はビンタで叩いた人を洗脳する悪魔の実の能力者でした、と言われた方がまだわかる。

 真剣に会話しただけでここまで180度意見が変わるなんて、今まで一体何を考えて生きてきたんだ……? 感情が戻ったイチジ達みたいな変わりようだ。1週間前までのミョスガルド聖は、もう死んだも同然だろう。新しく生まれ変わった。

 ハッピーバースデー、ディア、ネオミョスガルド聖。

 

「ロゼ、先日は済まなかった! 許されることではないと思うが、謝罪させて欲しい!」

「え? いやいや。オレに関しては、あんなの日常茶飯事だから構わない。売り飛ばすとか、奴隷にするとか、ブッ殺すとか、挨拶みたいなものだろう。『バイバイ』みたいな」

 

 そんなのいちいち気にしていたら、世の中生きていけない。

 オレの今までの人生で、出会いの言葉である『初めまして』よりよく言われてきた別れの言葉だ。

 

「銃で撃たれたことが抜けていますよ?(『この世からバイバイ』と『奴隷の売買』をかけているのかしら? なんでこの子は唐突にボケてるんでしょう……? 実体験から出た言葉だから、黒くて笑えません)」

「それこそ日常過ぎてどうでもいい。あなたのビンタよりよく食らう」

「私のビンタはいつも避けて、当たったことなんてないじゃない」

 

 あなたのビンタは避けないと怪我人が出るから。ビンタしたオトヒメ様本人という。

 それに慣れていなければ、銃弾を掴めるようになどなっていないだろうな。手を使わず、口だけでも止められる。サッカーボールよりも頻繁に、オレの方へ飛んで来る。もはや銃弾は友達と言ってもいいくらいだ。

 

「……!? 地上は、そんな無法地帯と化していたのか……! そうとは知らずに、私は今まで何不自由ない暮らしをのうのうとッ!」

 

 ネオミョスガルド聖が突然男泣きし出した。

 まあ実際、オレが住んでいるのは無法地帯だが……。

 

「確かに全然平和ではありませんが、この子の日常は地上でも特別物騒な部類でしょうから、そこまで気にすることはないと思いますよ……?」

「全くもってその通りだ、ネオミョスガルド聖。そもそもオレだって、特に不自由な生活をしているわけでもなし……むしろ悠々自適に暮らしている」

「(ネオって何……?)」

 

 

 言ってはなんなので言わないが、この人が地上のことを知っていようが知っていまいが、オレの生活に何の変化もないだろう。

 だが、オレの生活は変わらずとも、このことが世界に与える影響は大きい。何せ誰も意見出来ない天竜人の中に、奴隷を持たない天竜人が誕生したのだから。天竜人なら天竜人に意見出来る。拳骨しようが説教しようが問題なし。

 さらに彼を改心させたのがオトヒメ様というのを知れば、もうそれだけでリュウグウ王国に好印象を持つ人もいるんじゃないか? 銃弾を掴むより余程難しいことをこの人はした。世界政府誕生以来初めての快挙かもしれん。

 本人に全然自覚がないみたいだけど。どころかオレの方が頑固だったとか言っていたけど。

 

 そして見送りだけで、オトヒメ様1人で船に乗って帰った。人魚のオトヒメ様しか乗っていないのでコーティングもしていない。

 再三に渡り、『地上の安全を証明するためなんだから、ついて来てはダメですよ』と言われたが、もう水中に潜るだけなのだから、地上は関係ないだろうと、バレないよう潜水艦に乗ってついて行き、無事に魚人島に着いたのを見届けてからオレも帰宅した。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「全く、男だけで行くなんて、何を考えてるんだい?」

「別に男がケーキを食べても良いじゃないか」

 

 

 あと別の店でケーキを食べて、マーメイドカフェじゃケーキは食えないと、ケンカを売っていると思われたら嫌だし。そんなことはなかったみたいだけど。

 前にタイヨウの海賊団のメンツやウィリーにデンさん、ヒョウゾウとケーキバイキングに行った時の話をしたら、何故誘わなかったのかと怒られ、シャーリー、メイプルのマーメイドコンビにトリスタンと、4人で同じ店に行った帰り、ギョンコルド広場を通っている最中、いつものように陸ではオレが腕に抱えているシャーリーに膨れられた。

 

 飲食店の店長とキッチン担当に配慮した結果なんだけど……それに海賊と友好的に行動している時のオレは、万が一の場合血を吐くぞ。ジンベエ達は大丈夫だったみたいだけど、去年に魚人島で九蛇(クジャ)海賊団の何人かの服の買い物に付き合った時は吐いた。大丈夫かと手を差し伸べられさらに吐いた。

 女性の服の買い物に同行して血を出すなら、そこはせめて鼻血だろうに……ハンコック達とは行っても平気だったのにな。服の買い物というよりファッションショーみたいになったけど。

 ただケーキを食べに行くだけでも、何故かどこまで血を吐かずに済むかのチキンレースみたいになる。

 

 

「その拗ねた顔も甘えられているみたいで良いけど、いつもの凛としたシャーリーに戻ってもらうために、オレに出来ることはないか?」

「え? …………ちょ、ちょっと考えさせて! 今は何もしなくていいから、何か思い付いたら、それを聞いてくれるってことでいいかい?」

「いいぞ。いつでもどうぞ」

「フ、フフ、フフフ……♪(何にしようかね? 未来を占って、最適のタイミングで使おう)」

 

 まだ何もしていないのにもう機嫌が直ったようだ。

 元々シャーリーの頼みを断ることなんてないだろうし、良かった良かった。

 

「(何故かロゼが将来の墓穴をドリルで掘ったような気がしますが、そっとしておきましょう)それにしても、凄い人の数ですね」

「私達はもう何年も前に署名を出したから、あれに並ばずに済んで良かったでゲソ」

 

 署名箱に地上への移住の署名を入れに殺到している人達を見ながら、トリスタンとメイプルが言う。オトヒメ様が魚人島に帰って来てから、この広場には署名を手にした人々が集まっているそうだ。

 オトヒメ様がフカボシ達にしらほしの力について教えている間に、話し相手になっていたしらほしが、最近オトヒメ様が嬉しそうだと、言った本人も嬉しそうに話していた。

 

「うわああああ~!!」

 

「なんだ?」

 

 突然上がった悲鳴の方を見てみると、署名箱が燃えていた。

 

「署名箱が突然燃えたぞォ!!」

「火を消せェ!!」

「早く火を消して!! 署名が!!」

 

 ネプチューン軍の兵士やオトヒメ様が、署名箱に樽で水を掛けたり、署名を取り出し火から遠ざけようとしている。

 署名は燃えてもまた書けばいいが、魚人島の住民が人間との友好に、オトヒメ様に賛同する人が大勢増えている中での、その流れに異を唱えるかのようなこの出来事。もしかすると……気配を探り、目的の人物を捉え、心の声を聞く。

 

「すまん。急ぎの用が出来た。オレは行く」

 

 全身を機械化させ頭部を分離し、首から上だけでオトヒメ様の方に飛んで行った。

 

「え? 体を忘れていってますよ!? いくら急ぎだからって……」

「首から上だけで充分な急用なんじゃなイカ? 実際頭さえあれば、会話、思考、戦闘……ロゼは大抵のことが出来るじゃなイカ」

「フフフ……♪」

 

 

 そしてオトヒメ様のすぐそばに着いたところで、

 

 パァン!!

 

 銃声が響き、飛んで来た銃弾を歯で噛んで食い止めた。

 

「え、な、生首……!?」

 

「(どこまでも邪魔を……! だが、お前だけでも)」

 

 オレの頭部だけの姿を見て、オトヒメ様が気絶してしまった。

 すまん、急いでいたんだ。下手人を覇王色で気絶させるという手もあったが、ブタ箱にブチ込みたかったので頭を使った。

 

「お、おい……お前さん何をしておるんじゃ……?」

オトヒメ様が狙撃された(ほほひへはははほへひはへは)

 

 噛んでいた銃弾を、近くに来たジンベエに見せながら言う。

 

「何じゃと!? オトヒメ王妃が狙撃されておる!! 当たりこそしなかったが、皆、王族をお守りしろ!!」

 

 ジンベエの言葉に兵士達が署名箱の消火から、王族の警護へとシフトする。

 しらほしの周りでフカボシ達が騒いでいるが、あっちでも何かあったのか? 心の声を聞いてみると……うん、後でオレも加わりたい。

 とりあえず地面を機械に変え、拳を1つ飛ばし、仮のボディを作り合体する。

 

「人間がァ!! 我が国の……!! 王妃を狙撃したァ~!!」

 

「ち、違う! おれじゃねェ! おれはやってねェ!」

 

 ネプチューン軍の兵達やジンベエ達タイヨウの海賊団が王族の周囲で警護する中、オトヒメ様を撃った張本人、ホーディ・ジョーンズが、人間の海賊を指差し、大声で宣告した。どの口が言うか。

 ここから先あいつがどう動くかは、心の声を聞いてわかっている。

 オレにとって良い状況ではないが、あの時覇王色で気絶させていたらこいつを檻にブチ込めない。今気絶させるとオレへの疑いが濃くなる。王族側からオレが疑われることはないだろうが、問題は国民がどう思うかだな……。

 

「それだけじゃねェ! おれがオトヒメ王妃を狙撃した人間を撃ったら、機械の拳に邪魔をされた! 今も邪魔をされている! この人間は、そこのオトヒメ王妃の近くにいる、機械の能力者の人間とグルだったんだ! そいつは、おれ達を騙して、この国を乗っ取ろうとしていたんだよォ!!」

 

 

 今度はオレを指差して言う。

 その言葉通り、オレはさっき飛ばした拳であの逆賊の拳銃を取り上げ、素手で殺そうとするのを邪魔している。

 これで海賊を守ったオレは、今は能力で機械化しているおかげで問題ないが、解いて生身に戻った後で吐血確定だ。だが、たとえ金で雇われ、署名箱に火を点けた海賊のクズでも、殺すわけにはいかん。

 せめてホーディ・ジョーンズの顔を見ていれば証人になるんだが、忌々しいことに、顔を隠して人間のフリをして雇っていた。最初から、オトヒメ王妃を殺し、その罪をオレに被せ、ここから排斥しようという策だったようだから当然か。それに、今の状況では人間同士口裏を合わせていると思われるかもしれんし、海賊を頼りたくない。

 ホーディ・ジョーンズと、ついでに海賊を捕らえ、かつ魚人島の住民達の信用を取り戻す……キツイな。あいつの言っていることには色々と突っ込みどころはあるが、今の状況と、人間への不信感を煽るやり方がこの国ではマズイ。

 今オレが何を言っても、とても信じられないだろう。周りに任せ、自分は何も出来ないというのは、無力だな……。

 

 

「そういえばさっき、オトヒメ様の近くで、歯を見せてニヤッて笑っていたぞ! まるで計画通りって風に!」

「そんなっ! 今までおれ達を、オトヒメ様を騙していたなんて……!」

「ヒドイッ!!」

 

 ……本当にキツイな。さっきジンベエに銃弾を見せた時のを笑顔と捉えられたか。ただ壁になるだけでも良かったが、銃弾を確保した方が危険を伝えられると判断したのが裏目に出た。

 

「何をバカなことを言うておる! こいつはオトヒメ王妃を狙う弾丸を噛み止め、わしに見せただけじゃわい!」

「それこそバカな! そんなことが出来ると本気でお思いか、ジンベエ親分! 最初から銃弾を隠し持ち騙そうとしていたと考えた方が自然! それに、おれは知っているんですよ!? そこの人間は、フィッシャー・タイガーの死に際にいたと!! そいつこそが、フィッシャー・タイガーへの供血を拒み、殺した人間だ!! 今まで王妃の側にいた間も、我々のことを心の底では見下し、嘲笑っていたんだよォ!!」

 

 その瞬間、周囲からのオレへの疑念が敵意と殺意に変わった。

 これは完全に分が悪いな……判断を誤ったかもしれん。もう、これから何年もかけて信用を取り戻すしか

 

「タイのアニキとロゼのことを何も知らんで、勝手なことをほざくなァッ!! あの2人は」

 

「ジンベエッ!! 何を言うつもりだ!! タイガーさんが伝えるなと言ったのを忘れたかァッ!!」

 

 口出しするつもりはなかった。だが、気付けば叫んでしまっていた。

 

「もしタイのアニキがこの場におったら、今のホーディの言葉をそのまま聞き流すはずがなかろうがァ!」

「現にタイガーさんがこの場にいない以上、おまえの言葉は憶測に過ぎない! 海賊が船長の最後の頼みを無碍にするつもりか!」

「海賊嫌いの賞金稼ぎ(バウンティハンター)が海賊を語るでないわ! ここでわしが黙ってお前への疑念を解かねば、タイのアニキの仁義を通せんじゃろうがァ!」

「そんなものはオレがこれからの行動でどうにかすればいいだけのことだ! 余計な真似をするなァッ、海賊嫌いの七武海!!」

 

 もう後には引けない。

 オレもジンベエも一切自分の主張を譲る気はなく……

 

 ドンッ!!!

 

 互いの拳がぶつかった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「初めて会った時に、いつかぶつかるやもしれんとは思ったが、こんな形でぶつかるとは思わなんだわ! この聞かん坊がァッ!!」

 

「こちらこそ! 普通の海賊であるなら戦っても不思議ではないが、政府公認の海賊、王下七武海になってからぶつかるなどと思ってはいなかった!! この仁義魚人ッ!!」

 

 〝海侠のジンベエ〟と〝機甲のロゼ〟。どちらも海賊嫌いとして魚人島で知られている両者の拳が激しくぶつかり合う。

 すでに半径50メートルの範囲には人がおらず、ネプチューン軍も、魚人島の住民も、遠巻きに両者の戦闘を眺めている。

 

「【五千枚瓦正拳】ッ!!」

「【スクラップ・フィスト】ォッ!!」

 

 ドゴォン!!!

 

 両者本気の一撃による衝突で、周囲に衝撃波すら発生させながら、戦闘を続け、ヒートアップしていく〝海侠〟と〝機甲〟。

 そんな両者を眺め

 

「凄い戦いだ……両者一歩も譲らない」

「ああ。そして、わかったことがあるな」

「あなたも? 私もそうなのよ」

「おそらく皆考えていることは同じだろう」

「そうね……」

 

「「「「「あの子絶対、タイガーさんもオトヒメ様も裏切ってない……」」」」」

 

 白熱する海賊嫌いかつ魚人初の七武海と、血反吐が出るほど海賊嫌いな機械の賞金稼ぎ(バウンティハンター)の戦いとは裏腹に、オーディエンスはクールダウンし、ロゼに対する疑いは消えていた。つまり、2人が戦う理由はすでに消滅している。

 

「だよなぁ……タイガーさんの頼みを無碍にするのかって、あのジンベエ親分と戦うような子が、タイガーさんへの供血を拒んだり、オトヒメ様を手伝うふりして嘲笑うなんてしないよな……」

「そもそもあの子が全部仕組んでいたなら、首だけで飛んでた意味がわからない……本当にギリギリ歯で噛み止めたんじゃない? 良く考えればあの子全然普通じゃないから、そのくらい出来ても不思議じゃないわ」

「第一、どうやったらオトヒメ様が死んだり、オトヒメ様を庇ったりして、この国を乗っ取れるんだよ……? でも、それなのに疑ったのは、あの子が人間だから、なんだろうな」

「今まで海賊から助けてもらったり、地上のことを教えてもらったり、オトヒメ様と仲良い姿を何度も見たりしていたのに、ほとんど人間だからってだけで、疑ったよな……」

 

 一時はロゼという人間への怒りに囚われていた人々が、ジンベエとロゼの本気喧嘩(マジゲンカ)を見て冷静になり、もう疑念は完全に晴れていた。

 そうとは知らず、タイガーへの思いは同じでも、互いに譲らず、今も本気で戦っている2人は、少し滑稽かもしれないが、近付こうとすると両者から睨み殺さんばかりの鋭い眼光を向けられるので、誰も止めに入れないのが現状である。

 

「(何故だ何故だ何故だ!? 途中までは予定以上に上手くいった! あの下等種族の人間とジンベエがぶつかった時は、これであいつも終わりだと確信した! それが何故!? これではむしろ以前よりも……ッ!!)」

 

 魚人島の住民達から少し離れた場所。

 目論見が破綻し、魚人島と人間の友好を台無しにするどころか、一歩進めてしまったような状況に、1人絶望に打ちひしがれている道化(ピエロ)は、今日の騒ぎの発端、オトヒメ王妃暗殺の首謀者、ホーディ・ジョーンズである。

 その体は手錠を付けられ、鎖で縛られていた。ホーディがオトヒメを撃ったと言って殺そうとした、自分が雇った人間の海賊と一緒に。

 

「以前より、おぬしは監視していたんじゃもん。わしの目が黒い内は、おぬしの好きにはさせんのじゃもん!!(あ、危なかった~!! まさかオトヒメを暗殺しようとするとは……たまたまロゼがおらず、オトヒメを亡くしていたら、わしはどうにかなっていたかもしれんのじゃもん……)」

 

 ホーディのことを見張らせていたネプチューンは、人間の海賊を雇って署名箱に火を点けようとすることまでは知っていたが、オトヒメ暗殺とそれに派生したロゼへ罪を被せることは、まったくの予想外だった。

 ネプチューン軍ではホーディとロゼの険悪な関係は周知の事実であったので、ロゼがホーディの言った通りの行動を取ったと思った者は1人としていなかったが、他の事案も重なり、更には自分達が庇う前に、ジンベエとロゼが何故か戦闘体勢に入ってしまったので、その間に先にホーディの身柄を確保することにしたのである。

 

 そして今日、他に捕まったのが……

 

「バ、バホ……」

 

 魚人島の皆が、倒れたオトヒメ王妃とそれに関わる一連の騒ぎの方に気を取られている間に、しらほしを追い掛け回していたこの男は、フライング海賊団船長、バンダー・デッケン九世。ハットを被り、オーバーオールを履いた4本足の魚人だが、傷だらけで転がっている。

 

「しらほしを泣かせた不届き者ッ! 私達兄弟がいる限り、しらほしには指一本触れさせん!」

「うわーん!! 怖かったです~、お兄様ぁ!!」

「アッカマンーボ♪ アッカマッンーボ♪ 見ろっしらほし! ダンスは♪ たーのしっいーな♪ ウー♪」

「たーのっしーなー♪ たのしいなー♪ 何でもないぞ♪ 歌おうしらほーし~♪ おれ達が~3人♪ いつで~もついてラシド~♪」

 

 泣いている妹の周りに、優しい3人の兄が集まっていた。

 

 数週間前、ミョスガルド聖が魚人島に漂着した時、デッケン九世は物見遊山でたまたま見に行き、しらほしの泣き声に呼ばれたように、海王類が集まって来た光景を目撃。そして、しらほしが彼の一族に伝わる、初代バンダー・デッケンが探し求めた海王類をも従わせる信じがたい才能を持つ人魚姫だと確信し、自分の妻にして手に入れると決意した。

 デッケン九世はネコザメの魚人にして悪魔の実、マトマトの実の能力者。

 手で触れた相手を(マト)と定め、あらゆる投擲物を自動追尾で標的に飛ばすことが出来る。標的に出来る数は手の平の2か所。この能力でしらほしに触れ、求婚(プロポーズ)をする恋文を能力で投げ渡そうとしていた。

 

 しかししらほしは生まれつきの見聞色の覇気使い。

 母が倒れ一度は驚いたが、ロゼの特徴的な髪型の頭が側に浮いているのを見て、じゃあ大丈夫だろうと安心した。体は大きなこの幼女、母親とは違い、実はロゼの生首姿を見慣れており、たまにやってと頼むくらいだった。

 そして落ち着いた心でロゼに習っていた見聞色を発動させたところ、背後から忍び寄る知らないおじさんが自分に触ろうとしていたことに気付き、泣きながら大きな体と大きな尾ひれを精一杯動かし逃走。

 まだ6歳幼女のしらほしを妻にしようとして追い掛け回した住所不定無職(海賊)の25歳男性。もう少ししらほしの心が弱ければ、ショックで海王類をも従わせる才能を暴走させ、今頃魚人島は海王類の群れに蹂躙され、滅んでいたことだろう。許されざる海賊にして変質者だった。

 

 異変に気付いたしらほしの兄達、フカボシ、リュウボシ、マンボシが、遊び半分とはいえ、ロゼに習った戦闘技術と覇気を使い、泣いている妹を追い掛け回しているデッケン九世に、怒りを露わにし勝負を挑む。

 マトマトの能力の本領は、相手から視認すらされない場所からの一方的な遠距離攻撃。更に標的に出来る数は2か所。3人いる王子達に囲まれ逃げ場をなくし、接近戦の前に成す術なく敗れた。

 

 話はそこで終わらず、デッケン九世を捕らえた後は、その部下のフライング海賊団の船員達が船長を助けろと襲い掛かり、ネプチューン軍は王族を守るため、フライング海賊団と戦っていた。それが、ロゼを庇えなかった理由である。今ではフライング海賊団は一網打尽にされ、無力化済み。

 

「どうしてあなた達が戦っているのですか!?」

 

 魚人島の誰もが思っていたことを、ようやく目を覚ましたオトヒメが代弁し、二人の間に割って入ったことで、ようやく敗者も意味もすでにない戦いに終止符が打たれ、2人は和解した。

 

「ガハアッ!!!」

 

 そして、海賊を助けると吐血する、反吐が出るほど海賊嫌いの賞金稼ぎ(バウンティハンター)であるシルバーズ・ロゼが、能力を解き体を元に戻した後で、血反吐を吐き倒れた。

 

「おれの血を使ってくれ! 疑って悪かった!」

「いや、オレの血を使ってくれ、おれもS型だ!」

 

 罪悪感から、血を提供すると住民達が押し寄せて来たが、

 

「オレの血液型は、SはSでもRH-だから、あんた達の血を貰うと大変なことになる……気持ちだけありがとう……トリスタン、いつものお願い……」

「は~い♪ もう、ロゼは私がいないとダメなんですから……」

「喜ばないでくれ……」

 

 トリスタンが持ち歩いているロゼの血液パックと輸血器具を使い、手慣れた様子で処置を施す。

 たとえ血を吐いたとしても、甲斐甲斐しいリスミンクのナースに輸血され、きれいなアオザメ人魚の占い師に膝枕され、可愛いミナミハナイカの半人魚のパティシエに汗と血を拭いてもらっているロゼに、同情する余地も価値もないかもしれない。

 

「母上を守ってくれてありがとう」

「気にするな……」

 

 礼を言い近づいて来たフカボシに、膝枕を堪能しているロゼが返す。

 

「弱っている時に悪いんだが……」

「見聞色で途中まで聞いていたから察しが付く……あの能力者のことだろう……?」

「ああ、手で触れたものを的に、投げれば絶対に当たるという能力だったんだが……」

「皆まで言うな……つまり、二度と能力を使えないよう、両手を切り落としてくれと言うんだろう? 任された……」

「いや、海楼石の手錠を貰えないかと思ったんだが……」

「なんだ……その程度で済ませるのか。お前は優しいな……」

 

 そう言って、コートから取り出した海楼石の手錠を、フカボシに手渡した。

 デッケン九世本人は知らぬことだが、ロゼが吐血したことで、彼は両手を失わずに済んだ。

 吐血で倒れていなければ、ロゼは海賊の悪魔の実の能力を封じるために、そのくらいはする男だった。

 

 

 中々の人数の大捕り物の後、ロゼは竜宮城に呼ばれ、ネプチューンからオトヒメの命を助けた礼として、魚人島に代々伝わる伝説の宝箱である玉手箱、その中身の薬を10粒程賜与された。1粒飲めば2倍の力を得るが、代償として寿命を縮めてしまい、摂取し過ぎると老人になってしまうこともあるらしい。

 ロゼ本人は、玉手箱の中身が本来より少し数が減っていたとネプチューンが溢したことを気にして、薬自体にはさして興味を持っていない様子だった。強くなりたいなら鍛えればいいと思っているようだ。

 それでも礼という事でありがたく頂戴し、トリスタンに渡して研究してもらうことにした。




 ミョスガルド聖
 初のネームド天竜人かな? 厳密には2人もう出ているけど、あの兄弟はノーカンでしょ。
 オトヒメ様が一体どうやってこの男を改心させたのか、いつか原作で語られる日は来るのだろうか?

 バンダー・デッケン九世(新世界編35歳)
 足ではなく手が4本あったら、能力との相性良かったのにね。対象を自動追尾する【撃水(うちみず)】とか出来るのかな?
 原作の魚人島編でデッケンの部下だったワダツミは、まだこの年15歳。まだフライング海賊団じゃないと思うけど、どうだろう……。
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