機械の皇帝   作:赤髪道化

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 シュライヤに覇気や六式(ロクシキ)の軽い説明をしながら、仲間の武器とかようやくキャロルにあげた悪魔の実の情報を明かせる……タイミングを逃していた。
 あとウォーターセブン。と言っても、この頃はガレーラカンパニーまだないか……チムニーなんて1歳。まあ、どうせまた来る。


〝水の都〟

 航海中、シュライヤを鍛える日々。

 まあ元々シュライヤ以外も鍛えていたが、鍛える時間の割合が一番多い。次点でレベッカ。

 他はたまに組手やアドバイスをして、各々が自由に鍛えている。

 

 キャロルなんて肺活量を鍛えるための趣味レベルだ。あいつは能力者だから、【月歩(ゲッポウ)】を使えるならそれに越したことはないが……まあクウイゴスの木片を浮き輪代わりに持てばいいし、いざとなれば護身用としてレイジュにレイドスーツを作ってもらおう。

 マントが【鉄塊(テッカイ)】、(かかと)の加速装置が【(ソル)】、足の裏の浮遊装置が【月歩(ゲッポウ)】の代わりになる。あれはあれで使いこなすのに練習が必要だが。

 ステューシーが教えてくれた〝天夜叉〟の話を聞いて、すでにスカーレットとレベッカの分は頼んである。レイドスーツ込みなら、動体視力さえ備わればすぐにでも【剃刀(カミソリ)】と同等の動きが出来るだろう。

 

 

「夢の中の世界なんて……悪魔の実ってのァ一体どうなってんだ?」

 

 シュライヤが目の前の現実、いや夢を信じられないといった感じで呟く。

 鏡の中や本の中の世界もあるというし、悪魔の実の能力はファンタジーでメルヘンだ。

 

「ふっふっふ、これが私のネムネムの実の能力。笛で奏でる旋律が睡魔を誘発し、眠っている人間を問答無用で私のテリトリー、この【幻夢境(ドリームランド)】に呼び出す最強の能力! ……そう思っていた時期が、私にもあったんだけどなぁ……」

「いや、実際凄いぞこれ」

 

 

 ここはキャロルの能力が作り出した空間。精神の世界。

 まあ現実の船と変わらない間取りだが。

 オレ達は今、修行スペースにいる。鍛錬に精を出していたり、キャロルが自分で作った紅茶やお茶菓子で優雅に休んだりしている。夢の産物なので現実の腹は膨れないが、味はちゃんとする。

 

 オレには覇王色があるので眠らせる方は興味がないが、夢の中の世界というのが素晴らしい。体を休ませながら、24時間フルに使える。

 肉体鍛錬は出来ないが、覇気の鍛錬は出来るし、疑似的な戦闘訓練も出来る。殺してしまう心配がないオマケ付き。

 

 他にも悪夢を見せたり、都合の良い夢を見せることで疑似的に眠った対象の記憶を書き換えることも出来る。ちょっとしたきっかけで思い出してしまうかもしれない、弱い記憶改竄だが。

 忍者風に言うと幻術タイプだな。まあ、笛を吹くから口と手は塞がるし、眠らせる条件がハンコックのメロメロの能力に近く笛の腕前が必要。さらには耳を塞ぐという明確かつ単純な防ぎ方が存在する、少々人を選ぶが初見殺しかつピーキーな能力だ。能力のことは隠した方が良いな。

 

 

「速攻打ち破ったあなたに言われても……なんで寝たまま動けるの? この非常識の塊ぃっ! 色んな電波受信し過ぎ~!」

「能力者は大体非常識だし、電波ではなく見聞色だぞ? それに、元はと言えばオレが手に入れてお前に譲った実。自分の能力は可能な限り鍛え上げ手札を増やし、相手の能力を破る方法を考えるのが決闘者(デュエリスト)だ」

 

 

 昔を思い出してか、不満を訴えてくるキャロルに返す。

 

 この子は一度調子に乗って、通り魔のごとく通りすがりの人を眠らせるという悪戯をしたことがあった。

 止めるために近付いている途中演奏で眠らされたが、眠ったまま体を動かして、現実のキャロルを攻撃することで解決。

 キャロルの身体能力はただの子供とさして変わらない。ちょっと強めのデコピンで充分。耳栓でも防げたが、生憎常備などしていなかった。というか【RR(レイド・ラプターズ)】の遠隔操作でもいけたな。

 

 

「さて、シュライヤ。お前の標的は元中将。悪魔の実の能力の他に、先程お前も目覚めさせた覇気は習得しているし、超人的武術(マーシャルアーツ)である六式(ロクシキ)もいくつか扱えるかもしれない。簡単に説明するぞ」

 

 ブラックボードにペンで書きながら話す。

 簡単にしか説明しないのは、覇気も六式(ロクシキ)も完成されて進化の余地がない戦闘技術というわけではないので、素人の自由な発想が何か今までになかった技を生み出すかもしれないからだ。

 

「覇気は全部で3種類で武装色と見聞色、そして覇王色。一般にはあまり知られていないが、誰にでも眠っている秘められた力。億を超えるような賞金首は、無自覚に使っていたりした。新世界で名を上げているような連中は、大体覇気をちゃんと使っているそうだ」

 

 ちゃんと使いこなせている海賊と、シャボンディで賞金稼ぎ(バウンティハンター)として戦ったことはないが、まあ四皇は全員覇王色持ちと聞くからな。覇気使いが多いのは当然であり必然だろう。

 

「1つ目の武装色、対〝将軍〟戦ではこれが特に重要だ。これを鍛えないと、奴のアメの体にダメージを与えるのは面倒だろう。鎧でも何でもいいから、最初は出来るだけ固いものを纏うイメージをするように。身を守る盾であり、意志を通す剣だ」

「最初はってことは、続きがあるのか?」

「ああ。不必要な部位の覇気を一部に流すことで、武器に纏ったり攻撃力を上げるって技術だが、まずは動かすより固いものをイメージしなければ、オレみたいに中々武装色が強くならないかもしれないので、今は忘れておけ。固いものをイメージしながら、それを一点に移動し集中させる……2つの違うことを同時に(おこな)うのは難しい。それはすでに1つの技だ」

 

 まあ、オレは元々見聞色寄りだったから関係ないかもしれないが一応。

 父さんがやっていたのを真似してコソ練したから、そっちは割と早い段階で出来た。

 自分より武装色が強い相手に勝つために、防御を薄くして攻撃に回すものとオレは捉えている。相手の攻撃は受けずに見聞色で先読みして躱せばいいので、オレとの相性は良い。

 

「2つ目は見聞色。殺気とか気配とか、そういったものを強く感じ取る力。見る聞くと書くが、実際は目を閉じて耳を塞いでも感じる。言わば第六感だ。視界に入っていない敵の動きを把握したり、攻撃を先読みしたり……オレの得意な方だな」

「さっきあいつらを倒した時も使ってたのか?」

「ああ。背中から攻撃してきた時も使っていたし、全員の動きを先読みして攻撃を当てたのも、鞭で鉄や銃弾を切ったのもこれだ。まあ、最初に刀を折ったのと、鞭を切りやすい形状に変えたのは武装色だが」

 

 言いながら、鞭を【魚鱗(ぎょりん)】で纏った武装色を刃物上に変え硬化し、シュライヤに見せてみる。

 

「……武装色の方が戦闘に便利じゃねェか?」

「どちらもちゃんと鍛えればすごく強いんだが……まあ気に入ったならそれでいい。お前は武装色寄りだ。基本的に、生まれつきどちらかに得手不得手が別れる。まあ鍛錬次第だから、不得手な方も伸ばせる。主に成長スピードの話だ」

「そうか……覇王色は?」

 

 ブラックボードの、横に並んだ武装色と見聞色、その上に書いた覇王色を指差しながら聞いてくる。

 

「そいつは覇気の中でもさらに特殊なレアもの。100%生まれつき。一度に覚悟の弱い奴を複数人気絶させたり、さっきお前にやったみたいに覇気を目覚めさせたり出来る。まあ、たとえお前が覚醒したとしても、それで〝将軍〟サマを気絶させられるかと問われれば微妙だろうし、気にするな」

 

 覇王色の上から×をつける。

 オレ自身制御と加減しか教わっていないので、これ以上言えることも特にない。

 

「基本的に覇気の鍛錬はこの空間でやる。毎日空になるまで使い回復させる……これを繰り返せば覇気の総量が少しずつ上がる。オレもそうして増えた。次は六式(ロクシキ)

 

 改めてブラックボードに、2組ずつ書きその上に走、攻、守と書く。

 そして、キャロルにマネキン人形を作ってもらったのを、礼を言いながら受け取り、脇に立たせておく。

 

「走攻守の3つに分類出来る。走、高速移動技の【(ソル)】と、空中移動技の【月歩(ゲッポウ)】」

 

 【(ソル)】でバックステップし、その後【月歩(ゲッポウ)】で上に飛び、空中を蹴りながら戻ってきて、マネキンの前に立つ。

 

「攻、指先に力を集中させピンポイントに敵の急所を貫く人体破壊技の【指銃(シガン)】と、鋭い蹴りで鎌風を巻き起こす斬撃技の【嵐脚(ランキャク)】」

 

 目の前のマネキンに【五指銃(ゴシガン)】で心臓の位置を突き刺し握り潰し、二本指の【二指銃(二シガン)】で両目を抉り、【指銃(シガン)】で喉に風穴を開け、少し離れて【嵐脚(ランキャク)】の鎌風で腹を切り飛ばす。

 

「守、全身に力を入れ硬化する防御技の【鉄塊(テッカイ)】と、逆に脱力して相手の攻撃の風圧で避ける回避技の【紙絵(カミエ)】」

 

 地面から【ライズ・ファルコン】を呼び出し、オレに向かって【ブレイブクロー・レボリューション】を放たせ、【鉄塊(テッカイ)】で受けたり、【紙絵(カミエ)】で躱す。

 

「基本はこの6つだ。応用技や複合技は基本が出来るようになったら教える……なんだその顔は?」

 

 胡散臭いものでも見たような反応。

 

「殺すなって言ってた割に、手馴れ過ぎてねェか師匠?」

 

 指差しながら言ってくる。

 その先には両目と心臓、さらに喉を抉られ、上半身と下半身が別れたマネキンが転がっていた。あの状態で生きている人間はそういまい。

 

「殺す攻撃を知ることで、殺さないように相手を制したり、殺しに来ている相手から自分の身を守るために覚えた。護身は戦闘の最優先事項だ。誰かのために犠牲になる……美談だが、勝って守って自分も生き残ってこその活人だし、そのために鍛えているんだ。目標は高く持て。簡単に死ぬなよ?」

「まあ、理屈はわかった」

 

 理屈はか……やっぱ道連れ覚悟の捨て身だなこいつ。だが、だったら死なないように死ぬ気で修行についてきてもらおうか。

 

「そうか。まあここまで説明しておいてなんだが、お前の戦闘スタイルによっては、別に六式(ロクシキ)のすべてを習得する必要はない。お前が使う武器によるってことだ」

 

 六式(ロクシキ)は自分の体を武器のように鍛え上げているようなもの。

 つまり、ほとんどは武器で代用出来る。3つはレイドスーツ、【指銃(シガン)】は拳銃、【嵐脚(ランキャク)】は剣、代わりがないのは回避技の【紙絵(カミエ)】くらいだが、これも見聞色で回避すれば結果は同じ。

 

「武器……やっぱ必要か?」

「素手で攻撃するのはマズイ状況がある。〝将軍〟で言うなら体を水飴状にしてお前の殴った腕なんかを絡め取ってサンドバッグや顔を覆って窒息死……みたいな戦法が予想出来る。オレは体術以外に鞭と能力で作った機械。他の皆は周りでやっている通りだ」

 

 

 辺りを見渡し様子を見る。

 

 紅茶飲んでるキャロルは攻撃用の笛で、能力の催眠と吹き矢を同時にこなす。

 

 ウチのメンツで完全な武器無しはレスラーのパンダマンだけだ。いざとなれば、昔のオレみたいに岩でも投げて戦うだろう。

 そのパンダマンと組手をしているウィリーも、魚人空手に魚人柔術も使えるが金棒を使う。

 

 鉄扇を持つスカーレットと竹刀のレベッカが攻撃側と防御側を交互に行い、軽くジャレている。攻撃側は寸止めの激甘稽古だ。

 レベッカの剣筋をスカーレットが舞い踊るように紙一重で躱し、たまに鉄扇でも捌く。あの相手の攻撃を受け流す動き、レベッカも竹刀で出来るようになってもらおうか。

 

 レイジュとメイプルは、レイピアとサーベルで剣術修行中。2人とも毒なしだ。

 レイジュはジェルマでジャッジに仕込まれたとはいえ、レイドスーツ込みでも八刀流の相手はきつそうだ。本命は毒による攻撃で、あくまで普段は使わない奥の手の1つなわけだし。

 

 遠距離攻撃のダディとトリスタンは、余興で射的勝負をしているな。拳銃と弓で。

 ダディは30丁の拳銃をホルスターに入れて体に巻きつけ、両手で2丁撃ちながら動き回るから身体能力も意外と高い。あれは全部で50キロくらいある。娘のキャロルの倍くらい重い。

 トリスタンは通常時には【エレキテル】を弓で飛ばすが、【月の獅子(スーロン)】化すれば自分で動いた方が速くなるので格闘戦を行う、特殊な弓兵(アーチャー)だ。

 

 

「今は素手の戦闘技術を磨きながら、手に馴染む武器を探せばいい。武器庫に色々あるから」

 

 剣に槍、銃のようなオーソドックスな物から、トンファーにヌンチャク、チャクラム等のあまり見ない物もある。

 

「現実の修行では、まず最初に走と守を優先して教える。武装色もそうだが、【(ソル)】の勢いのまま殴ったり、【鉄塊(テッカイ)】の固さで蹴ったりと攻撃に転用出来る。加えて六式(ロクシキ)の半分は足技であることからわかるように、戦闘において足腰は非常に重要だ。キャロル、あいつら呼び出してくれ」

「はいはい。これからあなたに捕まった奴らは、毎夜悪夢を見ることになるわね。私の【夢幻地獄(ナイトメア・パラダイス)】とどっちがマシかしら?」

「あれをパラダイスと言い張るか」

 

 

 その技は対象に中々えげつない悪夢を見せる精神攻撃技じゃないか。

 オレは海軍の仲の良い人達に〝冥王〟の子とバレて、暴言を吐かれながら石をぶつけられるとかいう悪質なのを見せられたぞ。だが不思議とサカズキさんには和んだ。石と暴言で済ませてくれるんだ……と。あれがなければ危ない所だった。あれで、ああ夢だな……とはっきり認識出来た。

 

 

 さて、戦いたがっていたレベッカも手招きしておいでおいでと誘う。

 

 そして、この【幻夢境(ドリームランド)】に大カブト海賊団の迷える子羊共が出現する。

 

 

「こ、ここは一体……?」

 

「はい整列!」

 

 バチン!

 

 現実では独房にいたはずなのに、見知らぬ場所にいる状況に戸惑う海賊達に、鞭で地面を叩いて命ずる。

 すぐに横一列に並んだ。結構なことだ。

 遅ければ首を落として放置していた。夢なので死ぬことはないが、痛覚はキャロルが遮断しない限りあるので痛い。運が良ければ目が覚め現実に戻る。

 

「(あの一瞬で調教されてやがる……)」

 

 そして、シュライヤとレベッカの2人VS大カブト海賊団の戦闘を始めさせる。オレが作った飯の代金とでも思っておけ。

 子供相手に憂さ晴らしが出来ると、意外と乗り気な奴らに、

 

「よろしくお願いします!」

 

 と礼儀正しく頭を下げてから竹刀を構えるレベッカ。

 シュライヤは当然何も言わない。正直こっちが普通の対応。あんな下卑た笑みを浮かべる相手に一礼するレベッカが天使である。

 

「ロゼ、離しなさい! あなたもあの子に兄と呼ばれているのなら、私と一緒にあっちをですね……!」

「押さえて押さえて。これも通過儀礼みたいなものだ。人間生きていれば海賊団の1つや2つや数千数万と戦うだろう。そうやって大人になる」

「そんな通過儀礼があってたまりますか!」

 

 スカーレットが海賊にキレて蹴り倒そうとするのを羽交い絞めにして宥めるのが大変だ。どうせすぐ終わるから。

 

「くっ、耳元で、囁かないでッ! ひゃう~ッ!? この卑怯者ぉ……」

 

 あとスカーレットは耳が弱いというどうでもいい情報が手に入った。

 

 そしてしばらく後、

 

覇気(これ)ズリィ……あるとないとで大違いじゃねェか」

 

「ありがとうございました! ねえ見てた!? 私初めて勝てた!」

 

 予想通り、相手にならなかったか。そこには倒れた海賊達と、自分の手を閉じたり開いたりして見ているシュライヤ、こっちに向かってピースしているレベッカがいた。

 まあ、シュライヤは覇気の力がわかったみたいだし、レベッカも目的のためにちゃんと進めているのがわかっただろう。

 

「やったな」

 

 ピースを返す。

 その後レベッカが地面にへたり込んでいるスカーレットに近寄る。

 

「ち、畜生……せめてそっちのガキだけでもッ」

 

 

 拳銃を持った1人がキャロルに照準を合わせた……バカなことを。

 ここは今銃口が向けられているキャロル・マスターソンが作り出した自在空間。

 この中でキャロルを倒すことなど不可能だ。そもそも夢の体を撃ったところでキャロルにはノーダメージ。その拳銃すらあいつが再現した(ゆめ)(まぼろし)にすぎない。

 悪魔の実の能力もキャロルの許可なくこの世界に持ち込めないどころか、この中では動くことさえキャロルが禁じてしまえばままならない。ここにいる時点で捕まっているようなもの。戦う場所(フィールド)が違う。現実で叩くに限る。

 

 

「はあ? そんなものを私に向けないでくれる?」

 

 

 キャロルの苛立った声の後、海賊の拳銃が消え、代わりにキャロルとその海賊の間に出現したのは……2つの翼を持ち、両手には長い爪、腹部にあるタコのように丸い口からは鋭い牙が粘着質な唾液と共に見え隠れする、グロテスクな容貌の生物。

 そして何よりも特徴的なのは目、目、目……翼に腕に、体中に無数の目を持つ、この世のものとは思えぬ姿。

 

 ぐじゅぐじゅと生理的嫌悪を催す音を立て、翼を羽ばたかせながら、その異形の存在が海賊に近寄る。

 そのすべての邪眼が目の前の生贄を睨めつけ、手のひらの中でもがく小動物のように哀れな海賊を金縛りにし……大きく広げた口で飲み込んだ。

 断末魔の悲鳴を上げながら、海賊の意識は闇に沈み、現実に戻ったことだろう。

 

 

「うふふふふ……あはははは!」

 

「おい、あいつやべェぞ」

 

 高笑いするキャロルにシュライヤがドン引きしている。

 レベッカはスカーレットに抱きついて、2人揃って震えている。先程の光景は刺激が強かったようだ。

 何故あんな気色悪いものを作っておいて、キャロルはゾンビが怖いのか。わけがわからん。

 

「シュライヤも覇気を使えるようになったからって、調子に乗るなよ? 相手の武装色を上回らないとダメージは与えられないし、見聞色を上回らないと読み合いにも勝てないから」

「ああ、わかった」

 

「ちょっと! 私を反面教師みたいにするのやめてくれる?」

 

「たとえ世界中が非難しても、パパだけはキャロルの味方だ!」

 

「パパ大好き!」

 

 

 的を撃ちながら言ったダディに、キャロルが膨れていた顔を笑顔に変えて返す。

 親子仲が良くて何より。

 

 

 

 その後はシュライヤと、たまにレベッカも入れてオレとの組手を(おこな)った。

 少しずつ速く動き、どのくらいの動きについてこられるか試しながら戦う。ついでに速い動きに目を慣らさせながら、要所で覇王色を使った威嚇を行い、2人の戦闘に関する恐怖心を克服させようと試みる。

 こんなことをやっているから、レベッカに怖いと言われるのかもな……。

 

 まあ今は覇気を消費させるのと、戦いながらも冷静さを失わず見聞色を発動させる練習をするのが主だな。見聞色は心が乱れれば途切れる。

 精神力と度胸を鍛えることで、傷や命の危険を伴う戦闘中に、あえて脱力して相手の攻撃を躱す【紙絵(カミエ)】の修行にもなるだろう。

 脱力……つまり力を抜くといっても、それを戦闘中にするのは案外難しいものだ。慣れるしかない。オレもついカウンターを入れようと反射的に体が動いてしまっていた。

 

 もうしばらくしたら、2人で戦わせてみたりするか。今一番実力が近いのがこの2人だ。

 身体的に一番ひ弱なのはキャロルだが、あいつは特殊だからな……そもそも戦う気がないので戦闘の訓練は、ランニングとダディに教わって吹き矢で的当てをするくらい。

 

 

 起きている間は、重りを付けてのランニング。これは他にもやる人がいる。レベッカは毎回参加。反応を見て日に日に重くしている。

 オレと一緒に武装色は使わず……というか、最初の内は夜中に消費した覇気が回復しないだろうが、とにかく素手での畑作業。これも重り付き。

 後はオレの能力と両手を海楼石の手錠で封じ、その状態で組手を行い、ボコボコにしたり等だ。これは重りなし。

 

 最後のはレベッカには出来ない訓練だ。オレもあまりやりたくないし、スカーレットに説教食らう。本人がやる気にならないことを祈っておく。やる気になれば、説教食らいながらやるだろう。

 シュライヤには良いのかってなるが、男と女は考え方が違う……オレなら、それで強くなれるならとやる。というかやった。やってもらった。

 

 体に攻撃を叩き込む……手っ取り早い【鉄塊(テッカイ)】の修行方法だ。オレもガープさんやゼファーさんにこれでもかとブン殴られた。力を入れて気合で耐えろと。

 それにシュライヤはまだ12歳、今からでも【生命帰還(せいめいきかん)】を習得出来る……かもしれない。

 シュライヤに聞いたところ、この1年あまり良い生活はしていなかったようだし。

 手に入れた賞金は、ほとんど食費と負わされた傷の治療費に回していたそうだ。あいつよく食うからな……これからは食事も治療も心配ない。

 オレも海楼石を付けている時間以外は能力を使いっ放しだから、結構食う方だ。

 

 

 途中海軍基地に海賊を引き渡す時、あの海賊達に『地獄に堕ちろ……!』と言ってきたので、『ああ、そうだな。地獄でまた会おう』と返したところ、『嫌だ、嫌だァァァッ!』と悲鳴を上げて気絶した。あいつはもうダメみたいだな。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 そんなこともありながら、ようやくウォーターセブンに到着。

 まあ、回り道も旅の醍醐味だろう。別にタイムを競っているわけでもない。

 

「なあ、なんだこの靴? すげェ重いんだけど」

 

 シュライヤがさっき渡した靴を履き、足を上げて下ろして重さを主張。

 街中で派手な修行なんてやっていたら迷惑になるので代わりだ。

 

「重くしているから当たり前だ。靴底にオスミウムという、金よりも比重の大きい金属を仕込んでいる。レアメタルだから、いざという時は売ってお金にでもすればいい」

 

 覚醒した能力で一度機械に変えてまた戻すことで加工し、酸化しないようにした。

 

「私とお母様のも同じだよ? 私達のはお店で買った靴を改造して作ってもらったんだ!」

「お前、重り背負った上にその靴で走ってたのかよ……」

「シュライヤもやりたかったらやっていいぞ? まだ早いと思ってやらなかったが」

「5つも年下の女がやってるのに早いわけあるかッ。おれもやってやらァッ!」

「(まだ作ってなかっただけでしょうに……本人に選ばせたわね)」

 

 

 うんうん、それでこそ男だ。やはり競争相手がいた方がやる気が出るな。

 

 正面には海列車の線路もあるし、人通りの多い場所は避け、壁に5と書かれた船の廃材が流れ着いている辺りにRR(レイド・ラプターズ)号を泊める。

 すべての帆を畳みデカ過ぎる(いかり)を下ろした後、何十体かの【エトランゼ・ファルコン】を透明化させ島に放つ。残りの【RR(レイド・ラプターズ)】は船番として残し、全員で上陸する。

 

 

 ウォーターセブンは島の中央に巨大な噴水がそびえ立ち、島の周囲から汲み上げた水が島中に巡る水路を流れ、再び島外の海へと戻っている。おそらく海水を濾過して生活用水として利用しているのだろう。街中の屋根にまで水路があり、造船で有名な島は伊達ではない建築技術で、島を丸ごと使った1つの作品のようである。

 

 歩道よりも水路の方が多いくらいで、水上に顔を出し泳ぐ魚に、船を取り付けブルと呼ばれる乗り物として、住民の移動手段に普及しているそうだ。

 水門を閉じ水を貯め水位を上げることで上の階層に行ける、水門エレベーターというのがあり、7つある造船会社及び中心街にはそうやって行くのが早いらしい。

 

 貸しブル屋で店の人と話しながら、せっかくなので全員が乗れる中型の大きさであるラブカブルを1匹レンタルする。

 ヤガラブルがボートなら、ラブカブルはちょっとした船くらいの大きさ。

 小柄なヤガラはウマみたいな顔で愛嬌があるが、ラブカは比較的強面で、大きな口から何本もの牙が見えているな。まあ魚人島の周りで見慣れた。深海魚の方が見た目は奇怪だ。

 レンタルだけあって人には慣れているらしく、周りのブルを避けながら泳いでくれる。

 

 

 大海賊時代以降は廃れていたって聞いたが、結構活気がある。海列車で他の島々との交易が進んだおかげなのだろう。

 途中、水水肉というこの島で有名らしい食べ物の屋台を見かけたので、ブルから降りて全員分を購入。

 ヤガラの好物でもあるらしいが、魚肉なのだろうか? 魚肉なら全員食べられるはず。オレは肉を食べると過去に見たグロテスクな光景がフラッシュバックし、少々食欲が失せてしまうが味は好きだ。

 

 縛った紐を持つと、肉がプルプルとプリンみたいに震え、とても柔らかそうだ。

 

 

「お前も食うか?」

おれ様、水水肉、丸齧り(ノシャー)♪」

「そうか、じゃあお姉さん。こいつの分も」

「あいよ、お兄ちゃん。毎度あり」

 

 追加で購入し、サービスして大きいのをくれた水水肉から紐を外し、ラブカの開いた口に軽く放り込むと、うれしそうに咀嚼している。

 

「えっ、合ってるでゲソ。ついに魚の言葉がわかるようになった?」

「いや、丸い目を輝かせていたし……」

「ホントにィ? あっ、ホントだ(意外とかわいい……)」

今後ともよろしく(ノシャー)♪」

 

 こいつの背中からは見えなかったようだ。キャロルが降りて見て驚いている。

 メイプルは半人魚なので、魚の言葉はわかる。ラブカに行先をナビゲートしているのは彼女だ。特にイカとはペラペラ話せるという。サメとか海獣とかになると個体によってはよくわからないらしいが。

 

 

「デザインが統一されてきれいな街並みね……水も底が見えるくらい澄んでるし」

「海軍の軍艦も、たまにここへ依頼してるって本部で聞いたな」

「ええとこやな。魚人島にちょっと似てて過ごしやすそうやわ」

「あー確かに。トムさんがここに住んでたのもそれが理由かな」

「ゾウもこんなかんじで、象主(ズニーシャ)の噴火雨が水路に流れてましたね」

 

 

 再びラブカブルに乗って、時に水の流れに乗り、時に逆らい移動中。

 ちゃぷちゃぷと噛む度に音が鳴る水水肉を食べながら、話をする。

 こんな柔らかい肉があったんだな。シンプルな味付けしかしていないようだが、それでもとても美味しい。

 シャボンディでは人攫いに毒や睡眠薬等を入れられるのを警戒して家の食卓で食べていたので、日が昇り周囲に人がいる中で買い食いするのが新鮮なのもあるかもしれない。

 海軍本部の食堂だったり、魚人島のマーメイドカフェ等ではよく皆と食べていた。

 

 

「つっても、毎年のアクア・ラグナの水害に地盤沈下で、毎度市長は頭を抱えているらしいけどな」

「なんだ、シュライヤ。お前詳しいな。ここ初めてなんだろ?」

 

 

 一瞬で水水肉を平らげたシュライヤが言う。

 

 この島と海列車で交流があるエニエス・ロビー以外の島々は、世界的にも珍しく住民の選挙により市長……島1つの指導者が決められている。世界政府加盟国は大体、世襲の王に権力が集中した絶対王政だ。

 

 まるで緑が見えないのは、アクア・ラグナの水害でダメになってしまうからか。船を作るにしてもこの島だけでは材料が揃わず、他の島との交易が不可欠な場所というわけだ。海が荒れ狂う偉大なる航路(グランドライン)に加えて大海賊時代にこれはきつい。海列車は希望の光だったのだろう。

 一応話を聞いてみるが、ここにはオレの欲しいものはないかもしれん。

 

 

「オレの故郷があった頃は、造船繋がりで交流があったらしいからな。親が船大工だった」

「そういうことか……もしかしてお前、船大工とか出来たりしないか?」

「師匠は海賊の子だからって海賊になんのかよ」

「ならんな。そりゃそうか」

 

 11や12歳で出来る奴なんてそういないよな。オレだって能力ありきでデンさんの手伝いをしていたわけだし。

 

「そういえば、人探しがあったんじゃないのササ?」

「アイスバーグさんとココロさんだったかしら?」

 

 

 後は生きているかはわからないフランキー(海パン)さんだな。

 

 パンダマンとレイジュが聞いてくる。

 レイジュはじゃんけんによる争奪戦の勝者となり、オレの隣の席をすべて使い、目を閉じて膝に頭を乗せ、顔を前ではなくオレの方へと向けている。こっちに色々見えている……というより見せているな。

 少しどころではなく見る人に誤解を招きかねない、公序良俗的にマズイ絵面だ。いや、本当に誤解なのだろうか? 弁明の余地が果たしてあるのか? まあ最初よりはマシだが。

 

 最初は年少2人が親の膝に座っているように、いやもっとイチャついた感じでオレの膝に座る……というか抱き合うように上乗りになっていた。たまにすれ違う人々から殺気の混じった視線と舌打ちをもらいながら。

 だが蠱惑的な香りを漂わせ、女性特有の柔らかい感触を伴い完全にこちらに身を委ね、たまに甘えた声を出しながら頬ずりまでしてくるレイジュに、常識と理性を捨て衝動的に公衆の面前での自重をやめたくなるので膝枕になった。

 人前であろうが抱きついてペロペロと首筋を舐めてくるトリスタンのミンク族の感覚が移ったか? とにかくレイジュ、太股(ふともも)を丁寧に撫で回すのはやめてくれ。生殺しだから。

 

 

「ああ。だから【エトランゼ・ファルコン】で探している」

 

 シュライヤから話を聞いた限り、オレの話は酷い伝わり方をしているみたいなので、姿を消して。いくつかオレも聞いたことがある別の人間の話と混ざっていたな……それに、トムさん絡みで目立ち、噂になっても迷惑がかかる。

 全員トムさんの過去を一部覗かせてもらい、顔は把握していることだし、こっそり調べよう。得意分野だ。伊達にまだ捕まっていない。

 

「1人で人海戦術やっとるな……」

「お兄様、もうちょっと休んだ方がいいんじゃない?」

「言って休むなら苦労しないわ」

「オレは充分リフレッシュさせてもらっている」

 

 いや本当に。

 ただ、休みながら能力を使っているだけで。エネルギーは消費するが肉体的疲労はないのが良い所。

 

「タラ師匠(シしょう)が船長だってのが信じられねェ。おれが今まで見てきた船長は、もっと偉そうにふんぞり返ってたぞ。まあ口調や態度は偉そうだけど、やってることが雑用じゃねェか」

タラ師匠(シしょう)ッ!? なんだその呼び方は!?」

「そういうところもあるササ」

「まあせやな」

「ははっ、どっちも言えてるぜ。だがこいつがほとんどやってるおかげで、おれはキャロルとの時間が増える」

「私は気楽でいいわ。傍から見る分には愉快」

「レベッカはまだ聞いちゃいけません」

「?」

「この数日でもうそこに気付いてしまったでゲソか……」

「お父様なら怒るわね。『上に立つ者のやることではない』って……タラシの方はどうだろ?」

「ロゼの心のメイドたる私の、ご奉仕することが二重に減って、とぉ~っても困ってます」

「元々1人でも旅に出るつもりだったからな。まあウチはウチで、オレはオレだ。そんなことより、今はこの島を楽しもう」

 

 

 タラ師匠(シしょう)は華麗にスルーすることにした。

 

 商店街の方へ移動し、ラブカから降りて歩く。

 11人で、通りすがりの貴族がうるさいシャボンディではないので8本の腕を隠していないメイプルに、魚人族のウィリーやミンク族のトリスタンもいるので、少し周りの視線を集めながら店を見て回る。

 

 今度は水水饅頭というのを買って食べながら、本屋や薬局に武器屋で本や薬、弾薬や拳銃のチェック、そして服屋に入っていく。

 服屋では女性陣が賑やかになり、あれこれ自分の服を選んだり、自分の服を用意しろと言っておいたシュライヤは着せ替え人形状態だ。

 こちらに助けを求めるような視線を送ってきているが、いつまでもあの一張羅か、一番近いと言ってもサイズの合わないオレの服を着続けるわけにもいかないので耐えろ。オレも主に母さんと姉さんで通った道だ。それにレベッカとキャロルもお前と同じ立場、お揃いだな。

 最終的にシュライヤは、動きやすそうなラフな服を何着かと黒い帽子を買っていた。

 

 

 そうこう観光をして日も落ちた夜、ようやく探し人を【エトランゼ・ファルコン】で捕捉した。今まで仕事中だったのだろう。

 

 アイスバーグさんは頭にバンダナを巻いて作業服の、ガテン系あんちゃんといった姿でうろついているところを見つけ、ココロさんは……車掌か駅長のような格好で、道端に空の酒瓶を散乱させ、飲んだくれていた。

 

 今は遠い昔の若き頃は、魚人島でも指折りの美人として知られていたと、トムさんとデンさんから聞いていたし実際に見せてもらったが、時は流れて幾星霜……今では恰幅が良く、見事なビール腹である。

 トムさんの知る1年前の姿とも違っており、おかげで探し辛かった。これでは人魚ではなくジュゴ……いや、口を慎めシルバーズ・ロゼ。絶対に本人に言ってはいけない。見えた地雷を踏むな。

 それにしてもせめて酒場で……治安が良いわけでもないのに、女性がさあ……ああッ! 酔い潰れていびきをかいて路上で眠ってしまった。父さんかヒョウゾウで完全に見慣れた光景だ。

 

 とりあえずココロさんの方は【エトランゼ・ファルコン】で保護。

 アイスバーグさんには、トムさんの弟……つまりデンさんの友人で伝言を預かっていると言い、トムズワーカーズがあったという橋の下倉庫へ向かい、途中でラブカを貸しブル屋に返す。

 そして元トムズワーカーズに到着。室内の窓からちょうどウチの船が見える。

 

 

「ンマー! あのバカデカイ船はお前らのか(〝機甲〟って海軍の新兵器じゃなかったのか……まさかプルトンを作っちまったのかと、おれァヒヤヒヤしてたモンだ)」

んががが! 列車の客がありゃ何らいって騒いでたよ

「あんた達の社長の弟さんが作った船だ。スゴイだろ?」

そうなのかい? そういやそんな手紙も来てたような……飲んで記憶飛んじまっら上、酒ェ零しちまって読めなかったけろ。んがががッ!

「おいおい……」

 

 それじゃあトムさんのこと何も知らないんじゃないか? ダメだこの酔っ払い……まあ元々読んだら処分してとか書いてただろうけど。

 とりあえず自己紹介してから、トムさんのメッセージを立体幻像(ソリッドビジョン)で映し出す。

 

『たっはっはっ!! ドンと生きてた!!』

 

 そんな豪快な笑い声の生存報告から始まり、ノックス探検隊の船に乗ることになったことと、そして後は任せたという簡素な、だが力強い言葉で締めくくられていた。

 

「ンマー、俄かには信じられないが、本当か……」

「ああ。そこのトリスタンが傷を完治させたし、新聞でも捕まったなんて聞かないな」

 

 

 あれから何度か七武海のドンキホーテ海賊団とノックス探検隊がぶつかったとは聞いているが。

 それでも捕まっていないおかげで、船長の〝木の上のペドロ〟に、〝白兵のゼポ〟と〝鉄砲玉のペコムズ〟は今や億越えだ。

 

 ノックス探検隊が狙われる理由はドレスローザの件もあるが……トムさんが手配されていないという〝天夜叉〟にとって不審な点もあるし、古代兵器の設計図のことがバレているんじゃないかという不安は残る。まあトムさんはもう持ってないんだが。

 実際にスカーレット達絡みでCP(サイファーポール)を動かせる以上、〝天夜叉〟に情報を知る伝手はあるわけだし。

 

 今設計図はなくとも、長年持っていたならばある程度古代兵器の構造とかを覚えているだろう。そして、黙秘する人間から情報を聞き出す手段などこの世にはいくらでもある。

 だからこそトムさんは去年意識を取り戻してすぐに自害しようとしたわけだが、例えばキャロルの能力なら自害を防いで尋問出来る。他に似たような能力がないとは言い切れん。

 もし彼らが〝天夜叉〟に捕まると身の危険は勿論、〝天夜叉〟経由で四皇〝百獣のカイドウ〟にまで古代兵器が伝わってしまえば……ふははっ、頭と腹が痛い。これがオハラのバスターコールの時にセンゴクさんが抱えただろう痛みか……。

 

 

「そうか……! 良かった! なあ、ココロさん! ……ってンマー。飲み過ぎじゃねェか?」

んがががががが!! これが飲まずにいられるかい! こんなうれしい酒は久しぶりさね!! パッフィング・トム完成以来ら!!

「……くくっ違いねェや! おれにも入れてくれ!」

ウィ~ッ、ああ飲みな! ヨコヅナにも教えてやんらきゃねェ。あいつあの日から傷だらけんなりながら、パッフィング・トムに何度も突進して……これでフランキーの奴が生きてりゃ言うことないんらけろ

 

 どこに持っていたのか、酒瓶をラッパ飲みするココロさんに触発され、アイスバーグさんも飲む気満々だな。

 

「これは酒が足りないな……船からも持って来よう。母さんに教わった特別製だ。あっ、オレも含めて未成年はジュースとかにしとけよ?」

「「は~い」」

「おれ炭酸」

 

 

 今は細かいことを忘れて楽しもう。どうしようもない。感涙しながら良い気分で酒飲んでいるところに水を差すのもなんだ。

 

 船から色々持ってきて、宴会が始まった。

 オレ達未成年組はおかしにジュース。

 ウチの大人組はココロさんと一緒につまみを食べて酒を飲んで騒がしくなる中、ついでにほろ酔い状態のアイスバーグさんに、この島で栽培している美味いものはないかと聞いてみる。ココロさんは呂律が回らなくなって話にならない。

 

 

ここは水に囲まれて多湿な環境だからな。美味いキノコが採れる。なんなら知り合いの栽培士に話をつけておこうか?

「本当か! ではよろしく頼む。対価は船を見せることで良いのか?」

ンマー……バレてたか?

 

 頭を掻きながら少し照れ臭そうなアイスバーグさん。

 

「ふはは、船の方を見ながらソワソワしていたから。解体(バラ)さなければ問題ない。丁度良いか。船を置いて海列車で島を巡ることにするから、その間は好きにしてくれて構わない。何なら船の図面もコピーするが」

ありがてェ。ちょっとこの島のことで考えてることがあってな。ンマー、今はまだ夢物語だが

 

 そうか。この人はトムさんに代わり、この島を変えようとしているんだな。

 少し一緒に行かないか仲間に誘おうかとも思っていたが、そういうことならオレ達とは来ないだろうな。

 

「まあ、なんか手伝えることがあったら言ってくれ。出来ることならやってみるから」

そうか? ンマー、じゃあ造船会社作りたいから投資してくんない?

「いいぞ。いくらだ? 100億ベリーくらい?」

「個人がポンと出す額じゃねェッ!?」

「多いか? じゃあ10億?」

「じゃあってなんだ!? 充分多いわ! こんなモン酒の席の冗談に決まってるだろ! びっくりして酔いが覚めちまったわ!!」

 

 何故頼まれ事を受け入れただけで怒鳴られているのだろう?

 

「いやだって、今のオレの所持金は、換金していないのも合わせておおよそで計算すると……」

 

 あまり大声で言うことでもないので、アイスバーグさんにこっそり教える。

 

「えっ、マジで言ってんの? あんなデカい船作って旅するくらいだから、金持ってんだろうなァとは思ったけど……いいの?」

「ああ」

「あざーッす! よろしくお願いしまッす!」

 

 アルコールが入っているからか、少しノリが軽いな。そしてテンション高い。

 こうして、アイスバーグさんが設立しようとしている造船会社への投資が決定した。

 

「この人子供の頃から賞金稼ぎ(バウンティハンター)やっていましたから、手に入れた懸賞金に換金した海賊船の代金や面倒臭がって未換金の宝の数々……大金(たいきん)持ち過ぎて金銭感覚が狂ってるんですよ。別にしょうもないもの買って無駄遣いするってわけじゃないんですけど、必要だと思ったらバーンと使っちゃうんですよね」

「マーメイドカフェ設立の時もそうだったでゲソな~。そしてその一方で、お金を払って奴隷にされかけてる人を買って助けることも出来たけど、『人間屋(ヒューマンショップ)に払う金はびた一文ない』って襲撃からの殲滅」

「お金は大事って普段から言ってるけど、お金がこの世で一番大事なものとは思ってないのよね……行動が。私だってジェルマから出るのは初めてで金銭感覚は人のこと言えないし、お金のプロでも探してみる?」

 

 3人娘に言われる。メイプルは飲める歳だけど、まだジュースの方が好きだそうだ。

 それにしても、少しオレのプロファイリングみたいだな。だが面倒だからってだけで換金していないわけではなく、そのままの方が場所を取らないからだ。現状、充分現金は足りているので、換金の必要性を感じない。

 お金のプロか……海軍で言う主計長だな。お金のやりくりとか金銭交渉をする人。まあお金を増やせば何の問題もないわけだし、居ればでいいか。

 

「まあそうだな。この世に大事なものはいっぱいある。命とか、愛とか」

「うわ。師匠が似合わねェこと言ってる……こわ」

「うるさい。自覚はある。愛はすごいぞ~。罪人を改心させたり、天竜人を変えてしまったり」

「あの方は特別じゃなイカ?」

 

 まあな。オトヒメ様が特別なのはオレもそう思う。

 あんなに国民との距離が近くて、国民を愛し、国民に愛された人は初めて見たって、スカーレットも言っていた。

 あの人ならいずれ天竜人も全員変えてしまうのではないかと夢を見てしまう。すべては無理かな……でも何人かは……オレは微妙に現実主義者(リアリスト)だな。

 

 

 こうして夜も更け、そのまま泊まることにした。

 明日はどの島に行くか……ココロさんにいつにどこ行きの便があるか聞いて決めるか。




 ネムネムの実
 ゲーム『オーシャンズドリーム』の悪魔の実。
 ただ笛の音を聞かせるだけで眠らせるのではなく、ちゃんと演奏を聞かせなければならない等の弱体化をさせる代わり、夢の世界【幻夢境(ドリームランド)】を生み出し入れるように。眠らせるだけならただの演奏でブルックが出来るので。
 眠っている対象に好きな夢を見せる技【夢幻地獄(ナイトメア・パラダイス)】は、悪夢だけでなく良い夢も見せる。

〝白兵のゼポ〟、〝鉄砲玉のペコムズ〟
 原作でないからつけた。シロクマのミンクだから白で〝白兵〟。たまに南斗人間砲弾のごとく射出されるから〝鉄砲玉〟。
 船長の〝木の上のペドロ〟より異名が強そうだけど、まあ〝麦わら〟もそうだしいいか。
 まだ原作ほど懸賞金は上がっていない。つまりこれからまだ上がるので、面倒だから具体的な額は決めていない。

 アイスバーグ(新世界編40歳)とココロ(新世界編72歳)
 アイスバーグさんの方は1年前と見た目が変わっていないけど、ココロさんはもう太ってる。若い頃は誰だお前ってレベルの美人だった。
 今回の最後アイスバーグが15歳からとんでもない金額貰ってるけど、トム生存を知ったうれしさと酒の勢いもあるから許してあげて。流石に100億ベリーをポンとあげたわけではないはず。たぶん。
 こんなかんじで天上金として政府に集まり天竜人が豪遊するお金を回収して、他に回すための賞金稼ぎ(バウンティハンター)設定でもある。
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