機械の皇帝   作:赤髪道化

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 ようやく長かった新世界編9年前を終われますかね。
 仲間が増えたのもあり、今までで一番省けない話が多い年だった気がする。


〝太陽と月〟

 RR(レイド・ラプターズ)号で航海途中、コアラと電伝虫での通話。

 

『それで聞いてくださいよ~。「私達の服装、どっちの方がオシャレだと思う?」って反応に困ることをラクダさん(※ベロ・ベティのこと)に聞かれたんですけど、私は一体なんて答えるのが正解だったんでしょう?』

 

 ある日〝素肌ジャケット前全開〟のラクダさんの痴女な恰好を、革命軍本部ならどこにでもいるらしい〝下半身ハイレグ網タイツ〟の男――そんな恰好の奴がありふれているという事実がクレイジーだ――が『はしたない』と注意。それにラクダさんが『お前に言われたくはない』と返したところ、ハイレグが『革命軍の品位が疑われる』と言ったことから戦争勃発。

 今時の若者である新入りコアラにファッションチェックを頼んだらしい。どちらの服装も見た覚えがある。

 

「なんてどうでもいい質問をされているんだ……大量のハイレグが集団で並んで歩いていたらそれだけでバスターコール事案。そっちは大変そうだな。オレは『だったらまず服を着て出直してこい』と言いたい。お前は何と答えたんだ?」

『「どっちも隣に立って欲しくないです」って言いました』

 

 結構ズバッと言うな、この新入り。

 オレの言ったこととどっちもどっちだが。

 

「世の中には答えが出ない選択肢もあるんじゃないか? どちらか1つを選べば『じゃあ一緒に着ようか』ってセクハラかつパワハラのカウンター(トラップ)が発動されるかもしれん。自分の着たい服を着るのが一番とか、自分の好みを話すとかで流すのはどうだろう? 一緒に服を買いに行こうと誘って親睦を深めるのは、そのメンツでは不安だな。もしかすれば与えられた、決められた選択肢を選ばず、自分の答えを提示するという新入りへの試験だったのかもしれないが……」

 

 

 絶対違うけど。どうせ本人達の趣味、ただの雑談だ。

 

 ――どうしてオレはコアラとこんな会話をしているんだろう?

 

 フールシャウト島を出発してから数日後、電伝虫に連絡が入った。

 出てみるとコアラだったのだが、中々話を切り出さない。

 破り捨てた番号にわざわざかけて、白電伝虫で盗聴妨害までしているらしいのにこれはおかしい――マリージョアでのことをタイガーさん経由で知り気まずくなっていると判断したオレは、こちらから先にあることを暴露することで有耶無耶にすることにした。

 

 ウチの人間にコアラと何を話したかを聞かれたので、『一緒にこの島を出て(革命軍で)過ごしてくれと誘われたのを断った』と言ったことを伝えたところ、いつの間にか〝初対面の相手に告白して振られた女子〟扱いだったと知り、電伝虫ではなく目の前で見たいくらいに慌てていた。

 

 それにしても、オレが勘違いすることを望んで言ったとはいえ、目隠しをされていたので顔は見えなかったが、全員得心が行ったような反応をしていた。あいつらはオレへの評価が高過ぎる。もう少し下げてくれ。

 あれ以降コアラと仲良くなっていたが、あれは慰めなのか勝者の余裕なのかどちらだろう?

 

 その後の通話で、コアラに怒られて無事有耶無耶に出来たが、こやつマリージョアでのことを知らないふりをして、『ああ、あの人は今頃どこで何をしているんだろう?』等のように、オレにチマチマと精神攻撃してくるようになった。電伝虫のニマニマと笑う顔が腹立つ。本人とチェンジ。それならかわいく見える。

 

 今回のように、リュウさん(※モンキー・D・ドラゴンのこと)がフラッといなくなってたまに騒ぎになるとか、1つ下のサボテンくん(※サボのこと)が無鉄砲だとか、革命軍での愚痴も零される。

 一度出てきたティガさんは確実にタイガーさんのことだな。ナマズさん(※イナズマのこと)とかクマノミさん(※バーソロミュー・くまのこと)とか、動物が多い。たぶんコアラが考えたあだ名みたいなものだろう。

 

 コアラは会ったことがない、わんこさん(※エンポリオ・イワンコフのこと)という人物からの情報がたまに入って、オレが今まで倒してきた海賊が革命軍に完全に把握されている。ほとんどがブタ箱で模範囚として従順に過ごし、中にはインペルダウンの獄卒やエニエス・ロビーの陪審員として働いている者もいるとか。

 オレも知らないことを……そのわんこさんが革命軍のスパイで、政府に潜入しているのか?

 

 今までの会話からどうやらコアラは、革命軍では常識人ポジションに収まってしまったようだ。その立ち位置は振り回されて苦労するぞ。常にツッコミに回るのではなく、たまにボケた方が楽になる。

 

 

『なるほどなるほど。あんなきれいな人達を囲っている人は、玉虫色な解答がスラスラ出てきますね~。流石は私を振った人』

「根に持ってるよこのお年頃の乙女――ごめん。考え方を変えてみよう。オレがハーレムを作っているのではなく、オレがあいつらの共通の愛人だと考えれば、イメージが良くなる可能性が」

『ないです』

「やっぱり?」

 

 今回の件で、オレには誰かに告白されたら報告の義務が出来た。

 そしてあいつらに言うと連絡網で他にも伝わる、シルバーズ・ロゼ包囲網のようなものが出来ているらしい。

 

『優柔不断は印象悪いですよ。誰か1人を選べないんですか? 今のままだとただの最低のクズですよ?』

「選んでいないわけではなく、全員を選んだんだ」

 

 

 人間関係の現状について悩んでいた時期がオレにもなかったわけではないが、父さんの言葉がオレの価値感を完膚無きまでに破壊してくれた。

 

『複数人から好意を寄せられ誰か1人を選ぶ。なるほど、確かに誠実だ。だが選ばれなかった者はどうなる? どうせ選ぶなら、二股男やハーレム野郎の汚名を被るという選択肢も……あるのだぞ?』

 

 天啓だった。

 全員を選ぶ。幸せにしてみせる。受け入れられなければボコボコにされよう。

 

 父さんのほっぺたの両側を引っ張っていた母さんからの、『刺されかねないからやめときなさい。マザコンだからって言いなさい』という、つまり全員から嫌われる案にも聞くべきところはあったが、これがオレの選択だ。

 たとえ刺されたとしても、それは完全無欠にオレが悪いので致し方なし。そのまま許されるか死ぬまで刺されよう。(ライフ)で受ける。

 どちらもオレにはなかった着眼点……流石オレの両親。やはり格が違った。

 

 

『あっはっは~――全世界の女性に代わってはっ倒しますよ?』

 

 オレの屁理屈のような返答に、コアラは世界の半分を味方にした。

 

「あいつらが笑っているなら、オレはクズでいい。それに今更遅いんじゃないか? 誰かを自分と同じくらい愛するのは許容するけど、1人勝ちは絶対に許さないそうだ」

『ワー。ロゼ=サン、アイサレテルナー(怖い……冗談として聞き流せない……)』

「本当にな。幸せ者だよ」

『(この人意外と余裕あるなぁ……)そういえばレティさんが言ってましたよ? 「あの子は中々デレてくれない」って。お母さんへの愛情が足りないんじゃないですか?』

 

 コアラの中ではスカーレットがオレの母親なのか。

 スカーレットの素性を隠すためには、このまま誤解させておくのもいいかもしれない。

 だがそれだと、もしオレの父親のことがバレた時、スカーレットは〝冥王〟の女扱いされてしまうのがな……しかも11歳でオレを生んだことに。父さんが冤罪でロリコンになってしまう。

 

「マザー・レティはオレの母ではない」

『えっ? でもベッキーちゃんのお母さんでロゼさんとあの子は兄妹で……なんか、すみません』

「いやそんな家庭の事情とかではなく、あの人の自称――非公認の母だから。そしてベッキーは公認のオレの妹だ。血の繋がりがなくとも」

『じゃあもうレティさんも母親でいいんじゃないですか~? 公認母で』

 

 シリアスかと思いきやどうでもいい理由だったらしく、対応が適当になるコアラ。

 まさかあの2人が加盟国の王族とは夢にも思うまい。

 

 こういう気楽な距離感は結構好きだ。敬語が抜ければなお良しだが、それは拒否られた。

 

「あの人とオレはそこまで歳違わないぞ。精々姉くらいにしか思えん。そしてあんな美人が風呂に誘ってくるという異常」

 

 

 たまにレベッカも連れて、『ロゼも私達と一緒にお風呂入ろ~』とか言って、肩にあご乗せて背中から抱きつきながら言ってくる。オレがよく膝に乗ってきたレイジュ達にやってと言われるやつ。

 自分の子供扱いされている。あの人お姫様時代は侍女に洗ってもらっていた可能性アリだな。

 もっとコアラみたいにオレを疑って欲しい。オレすら自分のことを信用してないのに。一緒に風呂なんて入ったら我慢しない自信ならあるが。

 

 あの人結構ちょろい。パンダマンがダンディな普通の人間だったら助けられた時に惚れてそうというか、父さんが本気で口説いてもオチそう。

 レイジュにも会ったその日に告白されたし、お姫様は誰かに助けられるシチュエーションに弱いのかもしれない。女子は皆お姫様だから気を付けないと――だがそれが理由で助けないって、ただの自意識過剰なアホだよな……。

 

 

『あー……それは勘弁してもらいたいですね。実のお父さんでも無理です。いきなり自称父が言ってきたら蹴り飛ばします』

「そうだろうな」

 

 ハック達から魚人空手とかを習っているらしいが、少し好戦的になってないか?

 

『あっ、もう時間です。今日もありがとうございました』

「構わない。辛くなったらいつでも辞めていいぞ。1人で出来ることに限りはあるが、組織に属さなくても出来ることはある。なんなら誤解を解いてこっちで受け入れるし」

『に、逃げ道作って優しくしないで下さいよ……あとその誤解を故意に招いたのはあなたです』

 

 ガチャ……通話が切れた。

 こんな頻繁に愚痴を零されると心配にもなる。

 それにしても白電伝虫はウチにも欲しいが、あれはレアだからな。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 永久指針(エターナルポース)に従い船は進み、次の島が見えてきた。

 サンディ(アイランド)――今まで訪れた島で最も広大な面積を誇るが、その大半を砂漠が占めている。

 そして旅立ち後初めてとなる、世界政府加盟国であるアラバスタ王国がある場所。人口は1000万人に至る、偉大なる航路(グランドライン)有数の文明大国。建国以来数千年の歴史を持ち、この国を統治するネフェルタリ王朝は、空白の100年以前より存在する。

 

 船を近付け、港町に船を泊め上陸する。

 ナノハナという名前らしい。たしか香水で有名な所だな。ハンコック達に頼まれているから買って帰るとして、今は情報収集。

 町を観光しながらこの国の特産物と、あとこの国のことを尋ねて回る。

 ぞれとリリーの父、パンズフライのことも。ビブルカードを見るに、向こうも動いているので探し辛い。

 

「アラバスタ――来るのは初めてですね」

「もしかして、世界会議(レヴェリー)でネフェルタリ家の方と顔を合わせたことがあるの? 私はないけど」

 

 レベッカと手を繋いだスカーレットが、レイジュと話している。

 

「ええ。会議でいつも白熱した議論を交わしていると父からも聞いていたわ。ロゼはコブラ王と接触するつもりなのよね?」

「ああ。こちらから行っても門前払いだろうから、まずは国民に認められて、あちらから呼ばれるくらいになるつもりだ」

 

 

 国民からの陳述なら、国王自ら聞き入れることがあるらしいが、余所者かつどこぞの馬の骨であるオレが尋ねたところで通してもらえるとは思えない。

 だから興味を持つよう仕向けるため、何かトラブルはないかと聞いている。

 

 ジェルマやリュウグウ王国の名前を出せば話くらい聞いてもらえるかもしれないが、もしもの時のためにやめておく。

 表向きの魚人島関連だけなら何の問題もないんだが、オレ個人の目的の方がグレーだからな。人によっては真っ黒と判断するか、相手にされない。

 

 

「もしかしたら顔を覚えられているかも……これはロゼの母親と名乗って、10歳ほどサバを読んで誤魔化すしかありませんね!」

 

 うれしそうに実年齢より上に見られようとする女子は初めて見た。子供ならともかく。

 コアラにも言ってたらしいし……少しデレるか。

 

「血の繋がりは否定して、家族だと思っている――ということなら構わない。年齢を偽ることが出来るなら、これでいいだろ? 可能な限り本当のことを言って、相手の勘違いを誘うのがポイント。勝手に深読みしてもらう」

「アウ……タチ悪ィな」

「まあ実際あれだけ長い間いた海軍でも、お前が海賊の子なんて疑ってる奴はいねェだろうよ」

「そりゃあ、『海賊になったら親の教育を疑われる』とか言う奴が、海賊の子なんて思わんわなァ」

 

 まごうことなきオレの本心である。まともな家庭で親の愛情を受けて育った子供が海賊になるのは、かなり特殊な例だと思う。その家庭が何かに壊されたとか。

 海賊だったことを責められるのは、まあ仕方がない部分があるが、親として不適格の烙印まで押されるのは我慢ならない。

 

 ん? 何故かスカーレットが俯いて震えている。

 

「どうかしたのか?」

「ろ、ロゼがついにデレたー!」

 

 ダメ元で言っていたのか?

 スカーレットに抱きつかれる――あんたはオレより背が高いから、正面からだとちょうど顔が胸にダイブする形になってるんだけど。

 

「ギュ~!」

 

 レベッカも真似して足に抱きついてくる。天使かな?

 

「もう、ロゼはツンツンさんなんですから。王族と会うならダンスくらい踊れるようにならないと恥をかきますよ。心配いりません。私が教えます! 私をシャッキーさんだと思っていいんですよ!」

 

 ……ふぅ、落ち着けオレ。キレるな。悪気はない。

 オレの母は母さんだけだが、家族のように思っていると言ったのは自分自身でそれは本心。

 この人は息子に憧れているだけ。シュライヤには『はあ?』と怒り交じりに返され、グラントには抱きついた瞬間左腕が暴走して、半泣きになっていたから飢えている。グラントも男の子だからなぁ……仕方がない。

 

「ダンスは苦手だな……よろしく、お母さん」

「任せなさい!」

 

 自分を抑えながら離れて頼んだ。

 

「あっ耐えたね」

「マザコンの地雷を踏まれてわかりやすく顔を引きつらせてましたが、我慢しましたね」

「アニキってそんなにマザコンなのか?」

「正直そうは見えねェ。師匠が誰かに弱みを見せる姿が想像つかない」

 

 オレをアニキと呼ぶようになったグラントが聞いていた。

 弟分が出来たのは初めてか。シュライヤは弟子だし。

 

「マザコンでファザコン、そしてよく作る機械はファルコンです。あの2人はあの2人で、本人いない時ロゼの話ばかり」

「レイさんとは友達みたいに仲が良くて、シャッキーとはたまにカップルみたいに仲が良いでゲソ」

「特にシャッキーには溺愛されとるなァ。父親は娘を、母親は息子を可愛がる傾向があるみたいとはいえ……あれ見てレティも羨ましがってるんやろな」

「私、お義母様にロゼのアルバム何冊も見せてもらったわ。『初めて息子が作ってくれた料理』とか、色々撮ってたわね」

 

 親は大抵、子供を無条件で可愛がってくれる存在だからな。そうでない家庭もあるだろうが。

 オレは海賊嫌いを公言して隠す気がない。それによるメリットもあるようだ。

 だからせめて元海賊の両親に、オレがそんなことは関係なくちゃんと慕っていることも隠さず告げなければ誤解を招く。オレがファザコンでもマザコンでもないというあらぬ誤解を。

 

「子供が親を好きなのは当たり前のこと。なんら恥じることはないわ!」

「そうだなファザコン」

「まあ実際、殺し合うよりは仲が良い方がいいだよ」

「極端だね……」

 

 

 エルバフではたとえ親子でも、互いに引けなかったら決闘で決めるのが日常茶飯事なのだろうか?

 

 

 ダンスを覚えたら皆と一緒に踊ることが決定し、聞き込みを再開する。

 すると、砂漠化が進み干ばつによる水不足に悩まされていることが分かった。

 船に乗っていた時も見えていた大きな河――サンドラ河の勢いが衰えて海水が河の下流に浸食。以降水が不足している。海獣なんかも出るようになってしまった。

 ここナノハナは、オアシスから発展したカトレアという隣町から水を供給しているが、河を挟んだ向こう側――〝緑の町〟とも言われていたエルマルは、稀に降る雨水を確保することで何とか保っているらしい。

 

 

「ここでも水害――いや塩害か? ウォーターセブンでも毎年アクア・ラグナが来るから、まともに農耕なんて出来やしねェ」

「なんで出来ないの? 海水は?」

「海水は飲めないし、作物に塩がつくと水分が蒸発して枯れてしまうササ」

 

 

 レベッカの疑問にパンダマンが答える。

 ウチの船では海水を汲み上げろ過したものを、オレと一緒に花や作物に水をやっていたから、使えるものと思っていたようだ。危ないな。

 

 航海中に高波が来た時なんかは、オレが【サテライト・キャノン・ファルコン】を呼び出し、蒸発させて作物にかからないよう死ぬ気で守ったりしている。

 海水も上手く使えば美味しい作物を作るのに利用出来るらしいが、少し間違えば塩害で枯れてしまうのでオレはやっていない。

 

 国王も水不足に対して何もしていないわけではなく、無人のオアシスだが旅人や商人の行き交う交差点であるユバに、4年前から開拓団によって町が築かれ、現在発展中。

 

 

「よし。エルマルの方が深刻そうなので、まずはそちらから――ろ過装置を作って配るか。無償だと怪しまれるから、国王に売り込みがしたいとか言えば話が伝わりやすくてなおさら好都合か。実際裏はある。王宮から釣り出してやろう。ふふふっ、ははははははっ!!」

 

 

 干ばつの被害は1か所だけではないようだが、対処法が思い付いたこの辺りからやっていこう。

 他は――ドリルで水源を見つける穴掘りの手伝いくらいなら出来るか? オレの能力は戦闘一辺倒ではない。

 

 賞金首の懸賞金は加盟国の天上金から出ているから、前金を貰っていると言えなくもないか。

 こういう時の材料のために、リリーにフランキー捜索時に拿捕した海賊船を小さくしてもらっていた。それでも足りなければこの国で調達するかサン・ファルドまで行って買い、また戻ってくればよし。

 

 

「やろうとしていることは善行のはずなのに、どうしてロゼは悪そうな高笑いをしているんだろうね?」

「自分のことを悪く言わないと気が済まない畑の農民だもの」

「いやぁ」

 

 スカーレットに言われて照れる。

 

「うれしいんだ……農民って呼ばれるのが良いのかしら?」

「装置はこのおれにスーパー任せとけ」

「大丈夫なのか?」

「おれァ世界一の船大工の弟子だぜ?」

 

 そういうことではなく――船を造るわけではないし、本人が問題ないと言っているなら平気か。

 

 その後、船に戻りエルマルへ向かう。

 わざわざ船を使うまでもない短い距離だが、ナノハナにずっと置いておくと邪魔になりそうだ。

 エルマルから少し離れた沿岸に船を泊め再び上陸。

 

「そういえば海獣が出るんだったか? ついでだ。修行を兼ねて倒していこう」

 

 サンドラ河から生き物の気配を感じ、提案する。

 なに、駆逐するのではなく、拳で語ってこの周辺のアラバスタ水軍にでもなってもらおう。

 

「ねえお兄様。あれ使っていい?」

「いいぞ」

 

 

 ついに2人のレイドスーツが完成した。

 スカーレットの方は赤いフラメンコ衣装。お気に召したようで、今までの露出高いのではもう踊らないそうだ。残念。

 レベッカが――一言で言えば魔法少女? マジカルでプリティなフリフリのワンピース。大人になってから黒歴史にならないことを祈る。かわいいから大丈夫だ。

 竹刀と似合わないので、奥の手兼予備として魔法の杖代わりに伸縮型スタンロッドを製作中。ジャッジの槍みたいな放電武器。

 

 

「アニキ。おれも戦っていいか?」

「いいぞ。暴走すれば止めるから好きに行動していい。あっ、シュライヤは強制参加な」

「最初からそのつもりだ」

 

 日常生活ならともかく、今のグラントが戦闘をすれば、まず間違いなく暴走するだろうな。

 

「なあロゼ――本当にズボンは穿かなきゃダメか?

「ダメに決まっているだろうがフランキー」

 

 何を便乗しようとしているこの男。

 

「この流れならいけると思ったんだけどなァ……」

「百歩譲って町ではいい。暑い国だからそこまで騒がれんだろう。だが砂漠では絶対に穿け。もちろんローブと靴も」

 

 日中は暑さで肌を火傷するし、夜は氷点下まで冷えるそうだ。

 

 話しながら歩いて生き物の気配のするサンドラ河下流へ向かい――

 

 

「さて、ここにオレが弟子にして覇気を目覚めさせたクンフージュゴンがいる」

 

「「「よろしくっス(クオッス)!!!」」」

 

 

 100匹くらいいたクンフージュゴンを倒した。

 クンフージュゴン――アラバスタ近海に生息する、上半身がカメのような甲羅に覆われたジュゴン。通行人に戦いを挑み、負けると弟子入りしてついていく習性を持つ武闘派。つぶらな瞳の水棲生物だが陸でも結構戦え、その習性ゆえ町の人は難儀していたようだ。

 

 まとめて弟子にし、ヨコヅナがジュゴン達と話し、メイプルがヨコヅナの言葉をオレ達に翻訳するという少々面倒な手順を経て会話を行う。

 この国にいる間鍛える代わりに、戦いを挑む相手を限定させることにした。

 地面にアラバスタの国旗の太陽のようなマークと、カモメにドクロを()く。

 アラバスタの――陸にいる人とカモメのマークの海軍は襲ってはダメ、ドクロのマークの海賊は倒してよしと教え、この国の人と共存させようという腹積もりだ。弟子が増え修行相手も増える。

 

 

「では、戦おうか」

 

 ズラリと並んだクンフージュゴンの前に、シュライヤ、グラント、ヨコヅナが出る。

 

「か、かわいい……やっぱり私はパスでいい?」

「構わん。だが戦う覚悟を決めた戦士に対して、かわいいから、女だから、子供だから――そういう理由で戦わないことは、侮辱にあたり傷付けることもある、ということは知っておきなさい」

 

 戦いを拒否られて、地面に手をつき泣いているクンフージュゴンを指しながらレベッカに言った。

 

「ああっ! ごめんね!?」

 

「そうだっぺなー。エルバフだとブチギレ案件で絶対(ぜって)ェ逃がさず地の果てまで追うだよ」

「こわっ」

「逆にそう言った特徴を逆手にとって隙を突こうとする者もいる。かくいうオレも子供であるからとナメてきた相手を何回も倒してきた」

 

 後はハニートラップとか。レベッカには早い。

 

「うう……どうすればいいの?」

 

 泣いているクンフージュゴンに駆け寄り、頭を撫でながら聞いてくるレベッカ。

 

「それを決めるのは自分自身だ。今回みたいなケースだと謝って仲直りも出来るだろう。だが、もし事情がある人間が敵として現れたなら、とりあえず倒してから、問題は後で考えろ。戦闘中に迷うな」

 

 

 そして戦闘開始。

 シュライヤは危なげなく戦えているな。あれだけ毎日蹴り飛ばしたり一番スパルタにしているのだから、そうでなくては困るが。

 ヨコヅナも陸上では分があるようだ。クンフージュゴンは人魚同様足ではなくヒレ。水中だとどうだろうな。

 グラントは――やっぱり暴走したか。まあ戦闘中と日常生活では全然違うから仕方ない。止めに入る。焦らず気長にやっていこう。

 

 この国には今までに比べ長い間いることになりそうだ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 東の海(イーストブルー)、シモツキ村

 

 幾多の人々が海へと旅立つ時代、今日も1人の若者が大志を抱き船出の日を迎えた。

 世界最強の剣士を目指すくいな。先日誕生日を迎えた14歳。

 好きなものは牛乳と卵焼き、嫌いなものは階段。

 最近本格的に膨らんできた胸がコンプレックスで、女扱いされ対戦相手に手加減されるのを嫌い、シャツとズボンを着用。スカートよりも袴派。

 剣の道に生きるのもいいが、娘を女らしく育てたいコウシロウの策略により、願掛けのために伸ばした髪は父と同じように後ろでひとまとめに。

 一心道場の師範代として認められた時、師範にして父のコウシロウから正式に受け継いだ〝和道一文字(わどういちもんじ)〟を腰に差している。

 

「済まないね――その左腕。治すアテがあったんだけど、まさかあの人が捕まるとは……」

 

 コウシロウが薄く目を開け見つめる視線の先――階段から落ちた事故で負傷したくいなの左腕は、今なお不随。

 

 娘の片腕が動かなくなってもコウシロウが動じていなかったのは、3年前にシモツキ村に訪れた、数々の人や国を救い〝奇跡の人〟と謳われたエンポリオ・イワンコフを頼ろうとしていたからである。

 だがその矢先に、その人物がインペルダウン投獄――朝食時に新聞を見た時の、いつも穏やかで冷静沈着なコウシロウの、メガネが割れるほどの大声を出し目を剥いて驚く様子は、娘の記憶に深く刻まれてしまった。

 

「構いません。階段を信じた私のミス――あれはこの世で最も不要な物です」

「それはどうなんだ……?」

 

 事故以降、すっかり階段嫌いになり階段を使わなくなったライバルを、奇異の目で見るゾロ。

 くいなとゾロの戦績は、何度かゾロが勝ったこともあるが、くいなの勝ち越し。片腕で師範代となったのは、父親の贔屓ではなく、くいなの実力である。

 

「おいゾロ。くいなに告白しなくていいのか?」

「そんなンじゃねェッつってんだろうが!」

 

 からかうように、小声でゾロの耳元で(ささや)いたのは、同じ道場の門下生のサガ。

 正義の剣を極めることを目的としており、ゾロ達と剣の腕を磨いている。

 他にも道場の皆が見送りに来ている。

 

「何が違うの?」

 

 聞きながらゾロのすぐ隣――吐息が顔にかかる距離まで近寄るくいな。

 

「お前には関係ねェ! てか顔が近ェよ!」

 

「はあ……いつも女だからって仲間外れにして……」

 

 離れながら顔を赤くして叫ぶゾロに、くいなは不満気に(つぶや)く。

 彼女は今まで剣の道一筋で、女友達は少なく――非常に鈍感だった。実は娘のスカート姿が見てみたいコウシロウの、悩みの種の1つである。

 

「くいな、これを持って行きなさい」

 

 そう言って、懐から巻物と3本の指針が付いた記録指針(ログポース)を取り出した。

 

「これは?」

「私も父より〝和道一文字(わどういちもんじ)〟と一緒に受け継いだものです。1つは偉大なる航路(グランドライン)に行くなら必要になるでしょう。あの海では珍しくありませんが、東の海(イーストブルー)では手に入り辛い。もう1つは自身の目で確かめなさい。あの海に行くなら、しばらくは帰って来られない――私は覚えてしまったので、あなたがこれから持っていなさい」

「お祖父(じい)様の……」

 

 記録指針(ログポース)をくいなの右手首に付けて、巻物を渡すコウシロウ。

 

「それでは行って参ります、お父様!」

 

 荷物入れを乗せた小船に乗るくいな。

 

「元気でな、師範代」

「すぐ追いついてやるから、頑張れよ」

「うん! でも……ゾロ方向音痴なのに、大丈夫なの?」

「行く場所わかってんだから迷うわけェだろ!」

 

 だがしかし、くいなの懸念通り、ゾロは海に出てから案の定迷子になることになる。

 

 父や道場の皆に見送られて、くいなを乗せた船は出航。

 

「名前を上げるには――やっぱ強い人と戦うのが一番かな?」

 

 その後、東の海(イーストブルー)に賞金首を倒して回る片腕の女剣士の名前が広まり――1年後、偉大なる航路(グランドライン)に入った。




 海水のろ過装置
 RR(レイド・ラプターズ)号にもついてたり何度か出てきたこの装置、元は46巻のサウザンドサニー号の図解。どんな形かは載ってないけど、文字で「帆走の際に海水をくみ上げろ過できる装置がある」と書かれているので、フランキーなら造れるはず。今は造れなかったとしても、船にお手本がある。アラバスタになかったのは、技術、資金、物資不足のどれかかな?
 ワンピースの世界は見かけによらず発達してるなぁ。アラバスタの話を書くために読み返していたら、18巻のスパイダーズカフェにレコードはあったし、もしかしたらCDも普通にあったのかもしれない。
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