「【
「【
キンキィン!!
剣戟の音が響く。
同じ船に乗ることになったくいな。
オレと切り合ったり、レベッカに剣道を教えてもらったり。
「力も手数も私が上。だがしかし、まさか1本で全部捌き切られるとは……速い」
「あんな重量の剣を振り回しといて何を……まともに受けられないから逸らすしかないよ。その力が羨ましい」
そして今メイプルとも剣を競い、八刀流パワー剣士のメイプルと、一刀流スピード剣士のくいなの手合わせが終わった。
メイプルの八方向から迫る剣をくいながすべて受け流し、逆に9回目の攻撃で喉元に刺突を寸止めして決着。
「今まで片腕不随だった人間が、まだリハビリ中なのにすごい速さね……あの正確な剣速にはついていけないわ」
「お前は別に剣が専門なわけじゃないからな。それに、片腕だろうが両腕だろうが、どちらにせよくいなの腕力ではメイプルに敵わないから、大して変わらないとも言える」
戦っている2人から離れた所で席につき、一緒にティータイム中のレイジュに言う。
レイジュには毒とレイドスーツもある。
というかレイジュは科学者で、メイプルはパティシエ。どちらも非戦闘員だ……それにしては強いものの、本職相手に純粋な剣術で勝ち目はない。
「お兄様あの人に勝ったの……? 危なげなくあっさり勝ってたけど」
「あれより更に速い人達と戦っていたからな……オレの戦い方は癖があるから、レベッカが真似するならあっちの方がためになる」
首を上向けて聞いてきたレベッカに答える。
今日はオレの膝に座りたい気分だそうだ。
驚いているが、くいなの剣速を目で追えているだけ大したものだろう。
「あとオレの方が年上だから、総合力で先をいくのは当たり前。むしろくいなが片腕であれは大したものだ。加えてオレは能力者。メカメカの能力は燃費が悪いから体力作りにいい。海楼石という負担をつけたまま肉体鍛錬をすることも可能。それを長年続けてきた。オレの力の秘訣の1つだ」
「年上って1つだけじゃん……悪魔の実の能力の使い方が絶対おかしいし」
オレの戦闘スタイルは、剣を含めた戦闘技術の基礎は父さんや海軍、鞭捌きは母さんから習ったとはいえ、他の人の技を真似たりオレ好みに
レベッカを鍛えて剣の基礎訓練はしているものの、オレの斬撃をこの子に覚えさせるのはあまり適さないというか……能力前提技や足技に鞭技と、かなり基本から道を踏み外している。
結局のところ、自分の戦闘スタイルなんて自分で見つけるしかない。
「でも私、お兄様の技出来るようになりたい! 綺麗だから」
「そんなに綺麗か? 海賊を八つ裂きにして鞭が血で染まるのは、よく怖がられていたものだが」
「え? いや、最近お兄様が鞭を振るうと、後ろで薔薇っぽい花びらが舞ってるよ?」
「ドレスローザのお花畑を思い出すわ」
「メカシルバーが嫌なら、ローズシルバーでも良いわよ?」
「それほぼ本名じゃない? でも、あれは華麗だね。おれの船長なんだから、そのくらいはやってもらわないと」
レベッカの言葉に、スカーレットとレイジュ、ガルドアが続く。
どうやら、全員の共通認識だったようだ。
「マジで? そんなもの知らん。何それ、怖……」
「「「「無意識でやってたの!?」」」」
逆に驚かれてしまったようだが、最初に薔薇を出した時に驚いて欲しかった。
つまりこいつらにとって、オレは突然薔薇の花びらを出してもおかしくないおかしな存在らしい。包容力のある仲間達だな……。
いや、ハンコックとかがやるなら似合うが……当たり前のように後ろに花を召喚して様になりそうだけど、オレぇ……?
そんなのが舞っていたのか……いや、多分鞭を振るう度に付着した血が飛び散り、それが花びらのように見えているだけだろう。
そう思い鞭を振るった時の直近の過去を見てみると、本当に薔薇の花びらがオレの後ろにヒラヒラと舞っていた。
なぁにこれぇ……意味不明の超常現象。悪魔の実の方がまだわかる。自分のことなのに何故花びらが出るのかわからないのが気持ち悪い。
「サーベルかぁ……刀やカトラスと同じくらいよく見かける刀剣だね。8本全部サーベルだけど、何かこだわりでもあるの?」
「サーベルは場所によってはサブレって呼ばれてるらしいから。美味しそうじゃなイカ?」
少々ショックを受けていると、戦闘を終え話しながらこちらに歩いてくる2人。
美味しいのはお菓子の
刀剣の方、
「そんな理由ッ!?」
くいなのツッコミ。
その疑問はオレも通った道だ。
「ま、まあいいや。サーベルから水が出るなんて、どうなってるの?」
「柄の部分に
貯水した海水を刃のごとく鋭利に飛ばすメイプルの人魚剣術――【
今までは海中や水面でしか行えなかったが、あの
貯水上限はあるが、8つもあれば充分だろう。
戦闘用の
返そうにも持ち主達が今どこにいるのか手がかりがない。島が跡形もなく消え去ったから。見つけた時に返すかお金を払おう。
クモダス達は普段天候科学の研究をしたり、空島には珍しい
「……私も刀、自分で作ってみようかな?」
席に座りながら呟いた。
「作れるのか? 材料なら用意するが」
「別に出来るってわけじゃないんだけど……読んでたら興味が出ただけで」
父から授かった巻物に、剣術や刀鍛冶の心得のようなものが書いていたそうだ。
幼馴染で、くいなと同じく世界最強の剣士を目指す三刀流の剣士に作ろうと考えているらしい。
三刀流ということは、腕が3本あるのか? 多肢症か、珍しいな。
「でも意外ね。くいなはロゼのこういうところに突っかかると思ったけど……真面目そうだし」
スカーレットの言うこういうところとは、女を侍らせている所だろうか?
それとも、毎日おやつのティータイムと食後のデザートを欠かさないところだろうか?
今日のおやつは、木の幹の皮がペリペリと剥げてポテトチップスのように食べられるチップスツリー。
ウイスキーピークで酒のつまみとして栽培されていたのを手に入れた。味は塩、コンソメ、チーズと様々。
「確かにこの光景だけなら、『いい御身分だね』と嫌味の一つも言いたくなるけど、団長はこういう時間以外、私と切り合ったり船の操作や畑作業、自分と皆の修行もしてるから……むしろあれだけ活動して、よくそんな精神的余裕があるな~と」
「操船も耕作も修行も、オレだけでやっているわけじゃないからな」
器を2つ、2人に手渡す。
「ありがと……あっ、美味しい」
「メイプルのほどじゃないがな」
「ふふっ、晩ごはんのデザートも頑張るから!」
くいなとメイプルが席につき、チップスをつまみながら同じ方向を見る。
その先には組手を行うシュライヤとグラント。そして――
「【
ドドン!!
「「痛ェッ!?」」
その2人に、オモチャの拳銃でスーパーボールを撃ち、ヘッドショットをかますダディがいた。
あいつらにギリギリ感知出来るか出来ないかくらいの戦意で。
オレもガープさんとの修行中に実弾でやったやつだ。
威力を下げる代わりに難易度を上げている。
「ちゃんと防ぐか躱さないと、危ないじゃないか」
「無茶言うなッ!」
「目の前の相手で精一杯だって!」
不満を口にする2人。
腕の良い伏兵にヘッドショットされたらどうする。
普段はオレがカバーするが、戦闘中くらい自分で出来なければ、一人前とは言えないな。
「決闘中は手を出さない――なんて、敵が気を利かせてくれるとでも? 意図しない流れ弾や下手な狙撃ならともかく、ダディの腕でフェイントもしていないのなら、見聞色を張り巡らせ、ちゃんと周りにも注意を」
「【
ドドン!!
途中でダディがオレに2発、額と心臓に発砲してくる。
紅茶を飲みながら、取り出した鞭の一振りで叩き落とし、地面に埋める。
「――払っていれば、こんな風に突然の謎の攻撃にも対応出来る」
「(やっぱり花が舞ってる)」
「「出来るかァッ!」」
ツッコミの息ばかり合って……2人共武装色寄りだから難しいようだ。
最悪常に武装色でガードすればいいが、どうせ常時使うなら見聞色の方が適している。躱せ躱せ。
オレが見聞色寄りかつ長年1人で戦っていたからそういう思考になるだけかもしれんが、武装色は攻撃の時だけに全力をぶつければいい。それでも突破出来ないような強力な武装色の使い手が敵なら、基本的に他の技術で戦う。
オレもまだ未熟だ。師匠達のようにはいかない。
「ティーカップ片手にあっさり防いでくれちゃってまァ……」
オモチャだからな。
スーパーボール避けはあの2人よりレベッカの方が上手だ。
シャボンディにいた頃から、部屋で壁や天井に跳ねさせて遊びとしてやっていた。
あの親子はオレと同様見聞色寄り。
「レベッカも、よく平然としているね?」
「ここで怪我したら、安全な場所なんてこの世にはないから」
動じずおやつをポリポリ食べているレベッカが、ガルドアに返す。
クモダス達に聞いた所、空島はここ
そしてあいつらは全員
とりあえずは密室で
ミニミニの能力で重さをそのままに大きさだけ小さく出来たならもっと重りを……そういうことが出来るようにならないか、リリーに試してもらおう。
☆☆☆☆☆
道中バンズフライが人々に料理を振る舞いながら航海をしていると、
ネフェルタリ家の人達と一緒に行くことにしていたので、早めにアラバスタへ向かい、ネフェルタリ家護送の軍艦が来るまで、しばらく砂の王国で過ごす。
ビルカで天候の研究をしていたというし、この国で雨雲を作って降らせたり出来ないものか……。
「なんだこのスーパーにハジケるコーラは!? おれのリーゼントがビンビンじゃあねェか!」
フランキーの言葉通り、リーゼントが逆立ってなんかパチパチしている。静電気か?
「炭酸が強いから、エネルギー過多なのかもな」
「これがメロウコーラだよ」
世界一美味と言われるコーラの話をパンズフライから聞き、オレとフランキーとパンズフライの3人がかりで調達してきた。
「調理方法が中々アレだったが、気持ち良さそうに涙を流していたな」
「あのサラマンダ―スフィンクスと戦ってきたのですか……」
イガラムさんが声を漏らす。
アラバスタの砂漠に沈んだピラミッドの奥深くに生息していた、砂漠の生態系の頂点――それがサラマンダ―スフィンクス。
体長数十メートル。オレンジのたてがみを持つライオンのような全身が緑色の頑丈な鱗で覆われ、尻尾はヘビ、背中には白い翼が生えていた。伝説上の生き物であるキメラかヌエのような姿。
舌は【
その体に長年蓄積した涙がメロウコーラだ。
背の両翼の羽を1枚ずつ引き抜いたり、体に刺激を与えたりとアレな手順があったが、最初にメロウコーラを飲んだ人間はどういう経緯で手に入れたのか。
「あいつも体に溜まったモンを出してすっきりしただよ」
あいつにとってはただのマッサージか。
ついでに覇気を目覚めさせたし、次に挑む時があれば、今回のようにはいかないな。
目から滝のように大量に吹き出したメロウコーラを、
後で船のヨコヅナやクンフージュゴン達にも持って行こう。
「オウムが言ってたナナツ島の財宝は良いのか?」
「財宝……ですか?」
フランキーの言葉に、ビビが尋ねる。
少し前にオウムが、『ザイホウデッス! ナナツジマノザイホウデッス! アンナイスルデッス!』と喋りながら飛んできた。そのことだろう。
「オウムが喋るということは、その言葉は誰かに覚えさせられた可能性大。財宝があるなら、何故わざわざ広める?
「なるほど……確かに」
「第一本当にあったとしても、それは島の人の物だろ」
「そりゃあそうか」
ビビとフランキーが納得する。
海軍や
作物絡みで島には興味あるが、今は
切ったニンジンと水だけあげて、行かないことを伝えると、オウムは再び飛んで行った。
ナナツ島の
あのオウム、よく訓練されていた。
「ナナツ島……確かドラムとの間の東にある、非加盟の島だな。北西のロングリングロングランドのような環状に点在する島で、6つしかないのに何故か名前はナナツ島。ロートル山賊団の故郷だと聞く。財宝があるなんて話は初めて聞いたが」
コブラ王はナナツ島を知っていたようだ。
「ロートル山賊団――山がないシャボンディ育ちのオレには本来管轄外だが、その連中は知っている。山賊とは名乗っているが、船で
「数年前から話を聞かないが、アラバスタでも今のクロコダイルより人気だった」
七武海もそうだが、自分達を襲わず、暴れている賊を倒してくれる存在は、民衆にとってはありがたいものだろう。
魚人島における〝白ひげ〟のようなもの。
「財宝はともかく、リトルガーデンの虹の実が残念でならない。流石に絶滅した果物の育て方なんて知らん」
「下手に持ってきて、枯らして本当に絶滅させちまったら元も子もねェからなァ」
「私もそういうのはちょっと専門外だわ」
オレの言葉にパンズフライとレイジュが答える。
リトルガーデンの磁気は記録して
フールシャウトの
それにしても、植物学者が欲しい……。
「お父様~ッ!」
「パ、パパー……!」
メロウコーラを飲みながら話していると、5歳前後の子供がトテトテ走ってきた。
「見たことのない子達ですが、護衛隊の者の家族でしょうか……?」
「聞けばわかるか……お父さんを探しているのか?」
首を捻っているペルさんの疑問に、オレが近付いてしゃがんで聞く。
ピンクの髪と青い髪の2人だ……どこかで見たことがあるな。どちらも利発そうだ。
「あっ、お父様だ!」
そう言って、ピンクの子がオレに抱きついてきた。続けて青い子もおずおずとそれに続く。
……後ろの空気が凍っているのを背中で感じる。
「私とはまだなのに、なんて羨ま――けしからないわ!」
「非常に残念なことに、ロゼならすでに子持ちでも、違和感が、ない……!」
「問題は誰との子か、それが問題じゃなイカ?」
あの3人娘に大して疑われずさらっと受け入れられてしまったのは、オレの日頃の行いのせいだろう。
どうもトリスタンの違和感が職務怠慢気味のようなので、もっと仕事をしてもらいたい。
「あの見た目……ヤっちまってたか。ぷぷっ、いつの子だ?」
こらダディ、そこまでわかっているならわざとだな?
声が少し笑っているぞ。
「ロゼには後でお話がありますが、生まれた命に罪はありません――こんなに早く孫が出来るとは……」
「あれれ~、おかしいぞ~? お兄様はお兄様なのに、お父様でパパ?」
「ベッキーが壊れてしまったわ……」
スカーレットに折檻予告をされ、レベッカが混乱状態。
妹は任せたキャロル。
「普通の子供の気配じゃないササ」
「覇気使いやな」
「しかも、力を隠しているね」
「強いだな」
「ただ者じゃねェっぺよ」
「ああ……だが問題は――」
「「「「「ロゼの子供なら、あり得る……!」」」」」
パンダマン、ウィリー、ガルドア、パンズフライ、リリー、フランキーから、妙な信頼のされ方をされてしまっている。確かにオレは子供の頃から覇気を使っていたが、レアってだけでまったくいないわけではないんだぞ?
そういえば、オレは昔海軍の誰かの隠し子だとか言われていたな。これも因果応報か……あの時も、オレは何もしていないのだが。
「せ、先生のお子さんですか?」
ビビが完全に引いている。
あれは……育児放棄して海に出たロクデナシを見るような目だ。
「先生……?」
他の島のことを教えたり、ちょっとした戦闘訓練を行ったので、ビビからはそう呼ばれている。
それをちょっと羨ましそうにしている青い子。
お前、先生って呼ばれたいのか……ゼファーさんがそう呼ばれているからだな。
なんか変な噂になったり、オレの評判が上がったり下がったりするのは、まあ正直今更で慣れたものだが、そろそろ誤解を解くか。
「違う、2人ともオレより年上だ。なあ〝時の魔術師〟ちゃん。お前の【タイム・マジック】は、確か自分の時間は戻せなかったはずだよな? どうやったんだ?」
見た目幼女2人の頭を撫でながら尋ねる。
アインについた異名が〝時の魔術師〟だ。たしか現在曹長。
ビンズは〝
この2人、単に姉さんとアインがモドモドの能力で若返っただけである。
だからオレは我が子として認知しない。どうしてもオレの子供として人生をやり直したいと言うのなら、別に構わんが……。
「あら、もうバレてしまったの? 残念……でも、あまり火遊びしてたら、いずれこんなことにもなるわよ? ヒナ苦言」
ロリ姉さんが特に悪びれもせずに言う。
バレないようにするためか、相当前から気配を小さくしていたようだ。少なくともオレの見聞色の範囲内である、サンディ島への上陸前から。イタズラのためにそこまでするか。
つまり、黒檻部隊が
「ええ、確かにわたしの【タイム・マジック】は自分に効果がないわ。だから分身の出した光で戻ったのよ」
ロリアインから、先程の質問への回答が返ってきた。
胸を張りどこか誇らしげである。
褒められたいのか?
「バグじゃないか……だがすごいな。分身に同じことをすればどうなるんだ?」
「消えるだけよ。フィードバックでわたしが消滅することもないわ」
よく試す気になったな。違ったら消えているじゃないか。
「お兄様……私、もういらない子?」
「そんなわけあるかァッ!」
バレてもくっついていた2人をやんわり下ろす。
新しく弟か妹が出来て親がそっちに構ってばかりで拗ねている子供のような雰囲気を醸し出している、レベッカの方に飛んで行って、ウザいくらいに構う。
「えへへ~♪」
「あの子、ちょっと狡くなったわね……」
「兄が兄ですから」
「おい母親、あんたもちょっとうつってンぞ」
人のことを病原菌みたいに言わないでくれ。
オレがシュライヤの修行をつけたり、グラントの世話を焼くようになったので、少々レベッカが甘え上手になっただけのこと。
「黒檻部隊隊長ヒナ。只今より、ネフェルタリ家の方をマリージョアへ護送します」
髪をストーレートロングにし、赤紫のスーツに着替え、上から正義のコートを羽織り、ビシッと決めた姉さん。
アインはいつも通りの肩より少し伸びたセミロングのウェーブがかった髪型。
上は白の袖なしブラウスに青いリボン、下は超ショートパンツという夏用女海兵の軍服。
「2人共、やっぱりこっちの方がいいな。久しぶり」
子供の姿も新鮮だが、いつもの凛々しく美しい姿を見たいと言って、ようやく戻ってくれた。
「あ、あなたが海軍本部大佐、〝黒檻のヒナ〟さんですか……」
「さっきはオレにブラックジョークをかましてくれたが、心配せずとも実力は折り紙つきだぞ。チャカさん」
「いや、別に疑っているわけでは――」
手を振り否定しているが、初対面があれではしょうがないって。
「な、なんだ……能力で若返ってたの? 良かった……結構この船気に入ってたのに、心を鬼にして鬼に堕ちようとする団長を切って止めなきゃいけないところだった。たとえ、刺し違えてでも……」
「わかったなら腰の刀からその手を放してくれ。そんな決死の覚悟など決めなくていい」
くいながフリーズから立ち直ったと思ったら、一番危ない行動を取ろうとしていた。
王都アルバーナよりネフェルタリ家と護衛隊、姉さん達と共に港へ。
ジュゴン達にメロウコーラを渡し別れを告げ、
港には大勢の国民が歓声を上げながら見送りに来ていた。
「すごい人気だな、流石コブラ王」
ヨコヅナにもメロウコーラを入れながら話す。
「いや、おめェ達も『また来てくれ』って言われてたみてェだったぞ?」
「そうか……それは困る。今後何かこの国のためになることを思い付いた時は、コブラ王に進言してみよう」
色々やった時にいなかったパンズフライに返す。
護衛隊の一部が留守の間、残った護衛隊や港のジュゴン達の他に、コブラ王に信頼されている人間が1人。
レインベースにカジノを持つ、王下七武海のサー・クロコダイルだ。
以前のアラバスタ訪問で聞いた話を考えれば、砂漠というあの男のフィールドで勝てる海賊はそういないだろう。前半の海ならなおさら。少し気を抜けば死に直結する、非常に殺傷力の高いレベルに能力を鍛えているようだ。
常にアラバスタにいるわけではなく、活動拠点の1つとしてよくいるそうで、ネフェルタリ家留守の間も滞在している。ギャンブルは好きではないので行ったことも、会ったこともないが。
コブラ王とのパイプは繋いだので、もうオレ達の方の評判は上がらなくていい。オレの好みを除いても、余所者が評判を集めるのは無用な争いを招く。
放っておけば収まるだろう。オレの噂は悪くなることに定評がある。
「ロゼは魚人島でもちやほやされるの、うれしくなさそうでしたね?」
ホーディ・ジョーンズの一件以降のあれか……オトヒメ様を死なせずにすんだことは、オレの人生で数少ない心から胸を張れる行動だ。オレは清廉潔白とはとても言えないからな。
「まだお母さんはいなかったから知らないだろうが、あれでマシになったんだ。友人だと思っていたのにあの扱いは……はっきり言って煩わしい。戻って良かった」
「何の話かわからないけど、謙遜とか照れ隠しじゃなくて、本気で嫌そうだね……」
くいなとは会話の時間より、切り合っている時間の方が長いからな。
「カフェで会ったら談笑しながら一緒に飲んで、また今度と別れるくらいが理想だ」
「しょ、庶民的……」
「この人海賊も嫌いですが、権力を盾に横暴な貴族とかも嫌いですからね。そういう扱いをされると、体が拒絶反応を示すようです。感謝されているのはわかっているから血こそ吐きませんでしたが、今にも吐きそうな顔をしていました」
病弱な人みたいだな。
肉体は至って健康なのだが。
「食料集める旅さしてるのに、おらの料理に好きに使って、飢えた奴らに食わせてやってもいいって言って、これまでも使わせてもらったが、おめェ自身は一体ェ何がしてェだか?」
「圧政と乱世の時代の終焉。どちらもオレの旅の邪魔だ。心の底から美味い飯が食べられる太平の世を切り拓く。お前の飢えた人に食わせてやりたいという気持ちは、オレの目的に反しない」
「ふふっ……そうだなァ。飢えはダメだァ、人を悪魔みてェにしちまうだ。腹一杯ェ食えるのが一番だよ」
納得してもらえたようだ。
夜も更け今日の航行はここまでとし船を止めると、軍艦から姉さん達が来て、勝負を申し込まれた。
オレではなく、機甲旅団に。マリージョアまでのオレの所属を賭けて。
「ふふ……それは、『戦争を始めましょう』ということよね……? 加盟国の王族だからって、気にしなくていいから。ジェルマの科学戦闘力は世界一よ」
ああ、レイジュが科学の
「ミンク族は生まれついての戦闘種族なのです」
お前は医者だがな。
「何故私が8本腕に生まれたか……それは、今この時のためだったのかもしれない」
お菓子を作るためでいいんじゃないか?
「アニキは渡さねェ!」
頑張れ、グラント。お前は自分の中の人造悪魔の実との戦いだ。
ちゃんと能力を操れるようになれば、技のアイデアもいくつか出してやれるんだが……。
「お兄様はシスコンだから、私が一緒にいないと発狂しちゃう。だからダメ!」
レベッカよ、兄はそこまでではないはずだ……などと、健康体のくせにたまに吐血するオレが言っても説得力がないか。
「姉だか何だか知りませんが、母から子を取り上げるのが海軍の仕事なの……? そうですかそうですか……」
何気にスカーレットが一番怖い。
このお母さん、〝天夜叉〟の七武海入りからドレスローザ乗っ取りの一連の事件、更にはCP9に狙われているかもしれないので、政府関係への印象大分下がったみたいだな……そうもなるだろうが。
「そういやァ海賊の間にゃあ、デービーバックファイトと呼ばれる、えげつねェゲームがあってなァ」
一方、海軍に対して思ったより冷静なフランキー。
それは正直助かるが、初対面が子供だったからというのが理由なら、少々複雑な気分だ。
「何それ?」
フランキーの言葉に、キャロルが尋ねた。
「たしか、負ければ仲間を失うんだそうだ。あと、海賊旗の
「ああ。賭けの対象は仲間と誇りのアンティルール。新世界のどこかにあるという海賊の楽園、海賊島ハチノス。そこで生まれた、より優れた船員を手に入れるための、海賊達の人取り合戦だ」
その疑問にダディが答え、オレが捕捉する。
「ふーん、お金とかは賭けないの?」
「? そんなのわざわざゲームなんて回りくどいことをせずとも、戦闘で敵を殲滅してまるごと頂けばいい。『身ぐるみ全部置いてけ』って」
プレイヤーは両者共に海賊なのだから、その方が手っ取り早い。
力では従えられないような奴を仲間にするためのゲームだ。
まあ欲しいならそれでもいいんだろう。それで済むなら安い。
「それは強い人だけが言えることじゃ……そういえば、デービーって人の名前よね? 誰?」
「悪魔に呪われて海底に今も生きているという伝説の海賊、デービー・ジョーンズ。海に沈んだものはすべて甲板長だったデービーのものになるという言い伝えから、敵から欲しいものを奪うことを、海賊はデービーバックと呼ぶササ」
意外と博識だな、パンダマン。泳いで島を巡っていただけのことはある。
「ホーディと名前同じじゃなイカ? 親戚?」
「あいつも魚人街の出身やから、血縁関係はようわからんなァ……」
魚人街出身2人の会話。
ホーディか……あいつもそろそろオトヒメ様に陥落したかな?
他の奴らは人間への感情こそ変わらないものの、すでに落ちている。流石にそこはまだ時間が必要だ。
「これさ、たとえ負けてもロゼは困らないよね?」
「そうだな。ちょっとしたお泊り会みたいなものだ」
「じゃあおれはパスかな」
ガルドア、華麗に不参戦。
「おれはどうするか……」
「お前を弟子にして1年が過ぎた。一度戦ってもらっておけ、シュライヤ。オレ以外の能力者との戦闘機会は貴重だ。何より、〝将軍〟は姉さんと同じようなことが出来るかもしれん」
旅の途中、海軍G-8支部に捕縛した海賊の引き渡しに寄ったことがある。
同僚だったという海兵に聞いた所、〝将軍〟ガスパーデの基本スタイルは、
アメアメの実を手に入れてすぐに海賊として旗揚げしたため、能力を駆使した戦闘方法は未知数だが、ある程度の予測は出来る。
それにこの2人は、身体能力や覇気で上をいく相手をも、戦法次第で打倒し得る能力だ。
オレへの勝利確率は、ウチの連中より上だろう。
「ブッ飛ばす……!」
その意気だ。
「明日の飯の仕込みさしてるから、思う存分戦うだよ」
「おらは……もう人数は充分だし、やめとくっぺ」
現在人並みのサイズの巨人親子も静観。
「別にもっと人数を増やしてもいいのよ? 【ヘイスト・スペル】」
アインの放つ光で出来た影より、1年前の姿で12人の過去の分身が現れる。
「見ての通り、わたしは13人いるから……わたしはモドモドの実を食べた、モドモド人間。わたしが出す光には、タキオン粒子と名付けられた過去へと向かう粒子が含まれている」
言いながら、アインの手から紫の光が出る。
「タキオン――確か、数年前にDr.ベガパンクが命名したものね」
「その通りよ、ジェルマのお姫様。この光に触れ、誕生する前まで時間を戻され持ち時間がなくなると、
くいなの方を見ながら言う。
始まる前からプレッシャーをかけているな。
あの凄んでいる奴が、さっきオレに『パ、パパー……!』って抱きついて来た幼女と同一人物だということを思うと、笑いそうになるから困る。
「上等!」
こうして、機甲旅団のくいな、グラント、シュライヤ、トリスタン、ベッキー(偽名)、メイプル、レティ(偽名)の7人と、黒檻部隊の姉さん、アインの
場所は
「ところでこの戦い、勝っても私達にメリットがないのだけど……勝てばウチのロゼをあなたの能力で子供にするというのはどうでしょう? 写真だけでなく幼い頃のロゼが見たいし愛でたいです」
「オイ……」
「あら、それには及ばないわ……今から子供にしましょうそうしましょう。ヒナ歓迎」
「オイ」
「【タイム・マジック】」
アインがオレの顔に触れる。
「オイッ!」
オレの体が光に包まれ、目を開けると……体が縮んでしまっていた。
「私……あなた達のことを誤解していたわ」
スカーレットがアイン、姉さんと握手を交わす。
「このような姿だが、護衛には大して支障はないので安心してくれ。オレはこれより年少の頃から
ダボダボの服のまま、ネフェルタリ親子に断りを入れておく。
姉さんやアイン以外の黒檻部隊のあの人達だけで充分だが、念のため。
たまに
「もう少し慌てましょうよ……受け入れるのが早過ぎです、先生」
「よく考えたら、少し前まではこんなの日常茶飯事だった。着せ替え人形になっていない分、状況はいい」
そのせいか、どうも攻撃として認識出来なかったらしい。
戦っている時とかなら普通に避けるんだが。
「なるほど……感覚が麻痺してしまっているから、微妙に常識がないのか」
「かもしれません。ところでビビ。もう遅い時間だが、眠くはないか?」
ウチの子達はまだ就寝時間ではないが、一般的にはもう子供は寝る時間だ。
「アラバスタを出るのは初めてで、目が覚めちゃって……」
恥ずかしそうに言う。
そういえばこの子、結構アクティブだったな。王女なのに訓練頼んでくる位に。
こうして、オレは4歳くらいの姿にされ、この状態で観戦することになってしまった。
試したいことがあるし、今の内に
オレ用の子供服は何故か用意して来ていた。あの2人、最初からこのつもりで……。
☆☆☆☆☆
戦闘開始からしばらく。
「【
ザパァン!!
メイプルが飛ばす大きな海水の斬撃が、1年前のアイン達を襲う。
1年前の強さとはいえ、分身を1人で10体相手にしている。
対モドモドの能力の相性も良い。
アインが分身と共に【タイム・マジック】を行う集中砲火――【タイム・タイラント】。
あれは一度に最大で12年×13人で156年まで攻撃対象の時間を戻す。ウチの最年長――パンダマンは年齢不明だが――である、巨人族のパンズフライでも152歳。食らえば消滅する。
だがその遥か昔、この星の誕生にまで遡るであろう太古より存在しているのが海。到底消し切れない。
わかっているからか、アインも無駄撃ちしていない。
いや、先程の自分を戻した話を考慮すれば、能力で時間を戻せばどうなるか、事前にわかるようになったのかもしれない。オレが見聞色で過去を見るように、能力で部分的に知れるようになったか。
まあそもそも、メイプル1人に全員でかかる余裕などアインにはないが。
「8本腕で切れ味のある海水なんて飛ばされては堪らないわね……」
「他を気にするなんて、余裕ね……!」
キンキィン!!
くいなの攻撃を、逆手に持った2本のコンバットナイフで逸らしていくアインの本体。
「あなたの相手はわたしでも、わたしの相手はあなただけじゃないのよ(目の前のこの子に集中し過ぎたら、分身がやられるッ……)」
軽く微笑みクールに返すが、アインもきつそうだな。
あいつはメイプルよりはパワーが下だが、それでも剣、槍、拳銃などをナイフで砕く武器破壊技――【ゼロ・リバース】を得意としている。
くいなよりもパワーは上。軽いナイフの二刀流だから、周りに注意を向けながらも
それでも、大業物の位階に属する名刀は、たとえ覇気を伴う攻撃であってもそう容易く壊せるものではない。オレもこの前試したが不可能だった。
刀工が心血を注いで打ち鍛え、剣士が武装色を纏い幾多の戦場を乗り越えることで、刀はより強靭な物へと進化する。
中には優れた名刀ではあるものの、剣士の覇気を勝手に放出する刀や、持ち主を呪う妖刀の類もある。
手にした者が非業の死を遂げてきたと有名な〝
くいなが刀を作るつもりなら、切れ味や強さだけを追求した刀は出来ればやめて欲しい。
「【
レベッカが、分身アインの攻撃を【
流石に攻撃を当てられはしないようだが、上出来だな。
「【
こちらでも、分身アインの攻撃と共にくる【タイム・マジック】を、【
「【
スカーレットが足の爪先で【
手の指では出来ないようだが、足を重点的に鍛えているので、爪先では出来るようになった。
それにしても模擬戦とはいえ、珍しく相手に風穴を開ける殺傷力の高い技を……ああ、分身のダメージが本体であるアインにフィードバックすることを知らないからか。オレの覚醒した能力で作った機械と同じように考えているのだろう。
だがそのくらいでちょうどいい。どの道危なくなったらオレが止める。
2人ともレイドスーツ込みとはいえ、ちゃんと戦いになっているな。
攻撃が当たる直前、分身アインの姿が消え、空振りに終わる。
「【ヘイスト・スペル】ッ」
そして再び、少々焦っている様子のアインの影から後ろに出現。
スカーレットとレベッカに攻撃する。
一度消したことで分身が動いた分のフィードバックはあるものの、重い一撃を食らうよりはマシという判断。
あれは目の前の敵と戦いながらも、全体の戦況を把握していないと出来ない。指揮官としての
分身の使い方が上手くなっているな。
「【
ドドドドドドッ!!
少し離れて、姉さんと戦っているグラントとシュライヤ。
姉さんの両腕から伸びた【
ハンコックと戦っている間に身に着けた新技の1つらしい。
下手に防ぐと、体や武器に巻きつき重りの枷と化す。対処が難しい技だな。
何となく想像がつく。ハンコックの射たものを石化させるハートの矢――【
あちらでアイン達と戦っている、くいなの〝和道一文字〟やメイプルのサーベルにも掛けられている。
どちらも最初の流れ矢を防いだ時に付けられた。不用意に触るとああなる。初見では防ぎ辛い拘束だ。
メイプルはまだマシだが、くいな自慢の剣速を落とされたのは痛い。
スカーレットとレベッカは、防御や回避ばかり仕込んできたから全弾避けた。よしよし。
「【エレキ
バチバチッ!!
誰かに当たる前に、
「【
ドドドッ!!
ピンクのレイドスーツを着たレイジュが、毒の矢で左側を撃ち落とす。
あの2人はアインwith12人の分身と姉さんの中間の位置で、どちらにも攻撃出来るよう動いている。
上手く防いでいるが、防御と援護ばかりに回っている、というより回されているのは勿体ないな。
アインやその分身に当たっても、あちらは姉さんが開錠するなり、アインが分身を消したり【タイム・マジック】で解除出来るが、こちらはそうもいかない。
「【ドロップアウト】ォッ!」
矢の雨を上に避けたシュライヤが、上空から【
寸前で【
カシャン!
錠を掛けながら体を素通りする。
「何ッ!?」
武装色による攻撃が透かされたことに驚くシュライヤだが、こっちが驚く。
習得した年齢は同じくらいと納得しておこう。
「わたくしの体を通り過ぎる、すべてのものは【
あれが姉さんの十八番――【
海軍本部大佐〝黒檻のヒナ〟のオリオリの能力による鉄壁ガード。
たとえ武装色を纏おうとも、彼女の武装色を破るに至らない、又は見聞色で見切られている体を通り抜ける攻撃は、すべて自動的にすり抜けるか、攻撃に合わせ自分から体を変化させ、【
それも、単純な重りの枷と見聞色と併せ発信機の役割を兼ねた
斬撃、銃撃、打撃を問わない、
オレのメカメカの能力では、あそこまでの回避は出来ない。せいぜい首や手足を
細部は異なるが、アメアメの能力でもあれと似たようなことが出来るだろう。
更に体を金属の檻に変化させ、あえて通行許可を出さず【
だが当然突破法もある。
「【
グラントが腕を巨大化させ振り下ろす。
今回は成功したか。暴走しない確率が上がってきたな。
グラントの攻撃は最善ではないが及第点。
要は狭い攻撃範囲や一方向の攻撃だから通り抜けてしまう。
広範囲に体を覆う攻撃ならば避けられずに済む。
オレであれば巨大な機械の鉄拳を上から落とす【
そもそもオレは見聞色は言うまでもなく、スタートが早かったので武装色も姉さんに勝っているが。
「【
ドゴォン!!!
グラントの攻撃を、黒いオリで出来た翼を羽ばたかせ、飛翔し躱す姉さん。
あれが電伝虫での会話で前に聞いた新しい飛行手段か。
能力で作った物体は、ある程度浮かせられる。スピードは……まあそこそこだが。急な移動は【
上を取れるというのはそれだけでアドバンテージ。遠距離攻撃の手段があるならなおのこと。
「【タイム・マジック】」
ピュン!
紫色の光線が、グラントの巨大な手に当たる。
「しまっ!?」
光に包まれた体が見る見るうちに縮み、ベビーになってしまった。
先程のグラントの攻撃が最善でない理由。
それは、相手が1人ではないこと。そしてグラントはソニアとマリーの【
巨大化した腕はアインの良い的だ。あんな風に致命的なカウンターをもらう。
だから日々の修行やドン・アッチーノ戦でオレが見せた【メテオ・ストライク】のように、巨大な岩をぶつけるくらいで良かった。
「(よく今まで粘ってくれたわ、アイン。これで終わらせましょう)【
ガシャァンッ!!!
あっ、エグイ。
上空から全員を覆い尽くす監獄を作り、接地面を槍状にして地面に突き刺す。
アインとその分身ごと閉じ込められてしまった。
「ほぼ片腕で重り付きなのに、鋭い太刀筋ね……あなたに剣術で勝つのは無理みたい。【デジャヴー】」
くいなと戦っていたアイン本体が光に包まれ、姿が消える。
知らない技だ。
そして数秒前の彼女がいた位置に瞬間移動し、姉さんのオリの外に現れた。
「じゃあね~」
アインがコンバットナイフを持った手を振りながら、距離を取る。
「なっ!?」
強い同性との戦いをちょっと楽しそうにしていたくいなが、置いてけぼりを食らった。
あの新技、厄介だな。
他の技の制約から察するに、戻せるのは最大12秒前。その時いた位置に転移する。連続使用は出来ず、一度使えばインターバルも必要――といったところだろうが、戦闘中の数秒はかなりデカい。
これを織り込み済みで張った鉄網だろう。
何度も戦っているオレだからどういうカラクリの技か大体の予想が付くが、初めて戦うあいつらには好きに瞬間移動しているように見えるだろう。
分身を消したり出現させたりして攻撃を躱しているから余計に。
何より、一年後には分身もあれをやってくるようになると思うと、非常に脅威。
能力は使い手次第。あいつ自身がモドモドの能力をあそこまで研ぎ澄ませた。
それにしても、剣術で勝てないと言いながら、悔しがりもせずあっさり引く。
余裕がある態度はフリで、かなりギリギリだったようだが。
アインは双剣双銃の珍しい戦闘スタイルだから、接近戦で敵わないなら遠距離で、どっちもいける。
「【ヘイスト・スペル】」
アインが分身を一度消して、オリの外にまた出現させた。
「【
少しずつ監獄が地面に沈んでいく。
あの一夜錠――もとい一夜城、中々ヒドイ布陣だ。
隙間から来るだろうアインの【タイム・マジック】と姉さんの【
しかも時間経過で沈んでいくので、いずれはオリに押し潰される。
くいな達も切ろうとしたり持ち上げようとしたり試みているが、攻撃に応じて姉さんがそのまま防いだり枷を付けて通過させたり、突破が難しそうだ。
こうなると頼みの綱は――
「【
「きゃっ!?」
あれはデンゲキ・ブルー、ニジの技だな。
あいつはレイドスーツの力に加えて血統因子の操作により素で放電出来るが、レイジュは違う。
その分威力と速さが落ちて、気絶させるには至らないか。
普段の毒の異能のサポートを行うピンクから、ニジのレイドスーツの
「【エレ
「おっと。ミンク族のその姿と戦うのは初めてね。でもそれ、長くはもたないんでしょう?」
そして【
躱されてしまったが。
封鎖される前に、【
防御に回っていたが故に逃れる余裕があった、あの遠近両方いける2人が鍵か。
トリスタンの【
タイムアップまでに決められるかどうかが肝。
……そして試合終了。
オレも含めて周りが子供だらけ。
機甲旅団が機甲幼稚園になってしまった。
服は黒檻部隊の船に常備しているという子供服を借りている。
海軍に部隊は数あれど、捕まえた海賊に囚人服ではなく子供服を着せる部隊はこの黒檻部隊だけだろう。
「ごめんね……! お母さん、負けちゃった……」
オレの膝に顔を埋めて泣いている、れてぃちゃん(偽名)3歳。今の姿のオレより下。
幼女が自分のことをお母さんとか言っても違和感しか覚えない。
「死んだわけでもあるまいし、そんなに悲壮感を漂わせなくてもいいだろう。鍛え始めて2年でよく戦った。ほら、顔を上げて」
「でもあなた、取られるのが自分じゃなくて仲間、そして戦うのが自分だったら死ぬ気で勝つでしょ……?」
「……」
潤んだ目でこちらを見つめながら聞いてくるれてぃちゃんに対し、無言でハンカチを使い顔の涙と鼻を拭く。
「ほらぁ~!」
体に引っ張られて精神まで幼くなってないか?
「よし、きれいになった。職業軍人相手に大分健闘していたのは本当だ。悔しいなら次は勝とう。それにたとえ弱いままでも、オレが誰も死なせないよ」
「うう……ちょっとうれしいのが悔しい……」
「お母様とお兄様が私より幼く……」
レベッカがスカーレットの背を撫でて宥めている。その年齢はいつも通り。
姉さんに【
スカーレットがロリ化して、2人は姉妹みたいにそっくりだ。本来親子だし、小さい方が親だが。
「レベッカも、あいつ強いのに頑張ったな」
「そ、そう?」
「ああ。あいつはオレに勝ったことがあるくらい強い」
「ウソ!?」
オレが負けたのは1年以上前で、レベッカが戦ったのは去年のアイン。
これは昔のオレと良い勝負が出来たと言っても過言ではないのでは?
「うう……ロゼが寝取られる……!」
「春画本みたいに! 官能小説みたいに……!」
「ロゼが昔シャッキーさんに焼かれた本みたいに……!」
れいじゅちゃん(4歳)、めいぷるちゃん(9歳)、とりすたんちゃん(5歳)が続けて世迷言を吐く。
「子供の姿でなんてことを口走るか……留守を頼んだ」
全員オレの両脇や背中からしがみ付いてきている。
あげないとでも言うように。
能力の覚醒から4年。
オレはメカメカの能力で機械をアンテナに見聞色の範囲を拡大、感覚共有も出来るので、その場にいるのと大差ない。なので離れて過ごすという感覚がないから、テンションの差が大きいな。
「戦闘を楽しみ過ぎた……不覚っ!」
「まだまだガスパーデの奴を倒すには足りないか……」
「もう赤ちゃんは嫌だ……!」
くいなちゃん(3歳)とシュライヤ、元に戻してもらったグラントが悔しがっている。
「強い奴はいっぱいいるだろ? ああいうユニークな戦法の人間もいる。あの2人も、手札を全部晒したわけではない。民間人相手だから無力化で済ませていたようだが、もっと殺傷力のある技も――リベンジがしたいなら、マリージョアに着くまでにまた挑んでみるといい」
勝敗に影響はないが、姉さんは【
他にもオレが知らない技が増えているかもしれない。
「手加減されてたってこと?」
ちょっと不満気なくいな。
相手の全力を出し切れなかったのが悔しいって感じか。一戦で技を全部使うのもそれはそれで難しいと思うが。
それにしてもそうだろうとは思っていたが、こいつ戦闘狂の素質ありだな。
「一概にそうとは言えん。殺す気でやった方が強い人間もいれば、相手を殺さないよう戦った方が強い奴もいる。ベッキーがいい例だ。この子は刃が付いた剣ではなく、竹刀だから全力で戦えた。覇気は精神の力。お前くらい剣術の腕があるならともかく、相手を殺すかもしれないという雑念は、この子の覇気を鈍らせる」
人それぞれに合うスタイルがあるだけの話。
最後はトリスタンとレイジュの限界まで粘られてしまったな。
姉さんにはオリの体に【
そして分身を含め13人のアイン相手に、レイジュ1人では流石にキツイ。
2人がやられた後は、オリの外からの攻撃でワンサイドゲーム。
最初は敵戦力の把握に努めて、隙あらば【タイム・マジック】と【
ああいう初見殺しが悪魔の実の能力者の怖い所。たとえ相手が格上でも倒し得る。
キャロルならフルートの演奏で眠らせようとするだろうが、向こうから挑んできたのだから、耳栓くらい用意しているはず。2人共キャロルがネムネムの能力者だと知っている。能力なしなら、あいつはウチで最弱だ。
リリーならミニミニの能力で小さくなり逃れられる。
オレなら監獄は放置してドリルで地面に潜るか、外に【
その場合は、あの2人も違う戦術を使っていただろう。
そして2人の実力も高いが、連携でも負けたか。
今後、オレと【
というか、万遍なく覇気のレベルが高い上に厄介なメロメロの能力を使う、あのハンコックを倒しただけあるな。何度【
あいつは見聞色以外の覇気がオレより上だ。オレにも覇王色を使った技はあるが、人に直接作用する類のものではない。
更に、ハンコックに限らずソニアとマリーもだが、
オレもいくつかあいつらの技が使えるようになった。鞭でやるか体でやるかのような違いはあるが。
互いに教え合ったわけではない。戦っている内に吸収した。
「あれで大佐と曹長ですか……ロゼくんは大将の方とお知り合いなのでしたよね? 一体どのくらいの強さなのですか?」
「神話や伝説の英傑をイメージしてくれ。掛け値なしにそのくらいのことが出来る。それも、正義のコートに袖を通さず肩に羽織ったまま」
「(コートの下りは必要なのでしょうか……? 確かにあの方も羽織ったまま戦っていましたが)」
「オレを比較対象にして言うと、他の要因があるならともかく、邪魔の入らない
指を3つ立てながら、ペルさんの疑問に答える。
3人共攻撃力の桁が違う。
それに加えて武装色のパワーでも負けている。
オレが張り合えるのは体力と、能力で大量生産した【
オレ本体がその場にいない方が勝算があるという屈辱的な力の差だ。
「それではマリージョアに着くまで、この子はわたくしの船で面倒を見ます」
現在オレは子供の姿で姉さんに抱っこされている。
なんか懐かしいな。
オレ以外は全員元の姿に戻っている。オレは戻してもらえなかった。
「ウチの船長兼操船の要が持って行かれたか」
「それは能力の鍛錬も兼ねているから、引き続きオレが――いや、いい機会だ。機械経由で教えるから、オレ不在でも動かせるように練習しようか」
いつかオレの船から巣立つ時が来るかもしれん。
「それ、私も知りたいです!」
「ビビ様、そういうことは我々が……」
「では明日から――心配せずとも危ない目になど遇わせないよ、イガラムさん。こういう本人が関心を持った事柄は、通常より飲み込みが早い。せっかくの学びの機会だ。マリージョアに着くまで、可能な限り教えよう」
王女に必要な知識かと問われれば別にそんなことはないが、無駄な知識でもないはずだ。
危険な
「うう……私の癒しが……」
絶賛シスター服で
「夢でまた会おう。オレの居ぬ間に命の洗濯をしておくといい」
「小鬼ちゃんが行っちゃう……」
オレがショタ化したからか、スカーレットが最も別れを惜しんでいる。
「自己鍛錬マニアで基本動きっぱなしであろうロゼに、休暇を作りたかったのだけど、この様子を見ると少し罪悪感が……ヒナ困惑(全然戦いに向いてなさそうなのにこの子が側に置くってことは、訳アリなのかしら? ……年上の美人だからって言われても納得してしまうから、判断に困るわね)」
「時間は有限。生きている間は常に前に進む。止まる時は死ぬ時。日々精進あるのみだ、姉さん」
「やっぱりそんな生活なのね……」
「親子といっても、たしかロゼと会ってまだ2年よね? 流石に子離れ出来なさ過ぎでしょ。どれだけ落ち込んでるのよ……護衛や航海の邪魔なんてしないだろうし、別に遊びに来ていいのよ?」
ゼファーさんに1年目からべったりだった子が、露骨なツンデレの気配を漂わせながら提案する。
「「「「「敗者に情けは無用!!!」」」」」
それに負けた奴らがハモった。
遊びには行かないだろうが、リベンジには行きそうだ。
2戦目以降なら大分勝率が上がるだろうな。
「なんでそこは潔いのよ!? めんどくさいわッ」
ツンデレサービスを拒否られたアインのツッコミを聞きながら、世話になることになった姉さん達の軍艦に飛んで行った。
【
くいなの九方向連続斬撃。一言で言うと、るろ剣の九頭龍閃。
作中で触れたように、くいなは剣士兼刀鍛冶でいきます。
メイプルの技
【
武装色を纏った八刀流による、斬撃刺突入り混じる八方向攻撃。
【
魚人空手や魚人柔術のような、水を操り飛ばして切る技。飛ぶ斬撃の水バージョン。
ダディの技
【
両手の二丁拳銃で別々の相手に撃つのが双銃で、1人に2発撃つのが十字。
〝時の魔術師〟、〝
アインとビンズの異名。遊戯王のモンスターとナルトから。
アインは他にも遊戯王から〝
スカーレットの技
【
相手の攻撃を【
ルビのパソドブレは、スペインの闘牛とフラメンコをイメージしたダンスだそうです。
【
足の爪先で放つ【
【
レベッカの、相手の攻撃を【
ドレスローザはスペインがモデルのようなのでスペイン語風のルビを振った。スカーレットの技もそうだけど、あくまで風。
ヒナの技
【
当たると体に巻きつく矢の形にしたオリを射出する。技名はサウストから。
武装硬化が出来るようになれば、鉄錠→黒錠になる。
【
防御・回避技。弱点は体を通過させようのない、巨人族の踏みつけみたいな攻撃。【
翼状のオリを生やし飛行する。技名はサウストから。
【
即席監獄。
【
オリを小さくしていく技。技名はサウストから。
【ドロップアウト】
シュライヤの【
【
グラントの巨大化した手で攻撃する技。
【デジャヴー】
アインの自分の位置を最大12秒前の場所に戻す、限定条件付きの瞬間移動技。
技名は原作遊戯王でバクラが使った魔法カード。
【
ニジの技。電撃を纏った踵落とし。サウストから。
姉弟仲が改善された結果、レイジュは他の兄弟の劣化レイドスーツにモードチェンジする。
ロゼがすごく冷静に地の文でチェンジしたと言っていたけど、当然(?)原作と同様に一度素っ裸になった後、高速で別のに切り替わっている。
【エレ
トリスタンの、【