マッド・トルネコ   作:トラネコ

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24.ダンジョン50階層にて5

「しばしとどまれ、永遠にとどまれ……」

 クリフトは首のなくなったマリア様に向かって何やらブツブツ呟きかけながら、姉妹の後ろをついて歩いていた。

「お前の人生をかけて走れ、永遠に走れ……」

 姉妹からすれば、とんだ罰ゲームだ。こんな暗い洞窟の中で精神異常者のお守りをするなど。クリフトに轡をはめ、手綱を握るのは本来トルネコの役割のはずだ。だから、姉妹はまさか自分たちだけで仲良く脳みそ下痢グソ状態(耳の穴から臭ってくるくらい)の神官を介護することになろうとは、夢にも思っていなかった。ただ、それを言うならそもそもこんな穴ぐらに潜ること自体も夢にも思ってなかったのだが。

 人生って分からないものだわ。

 マーニャもミネアも、若い女性にしては珍しくそれを心の底から痛感した。魔王を倒しに行ったとき――姉妹がさらに若かったときだ――は『分からない』は魔法の言葉だった。そこから希望や明日への意欲や熱意のようなもの――もうそれも昔のことだから本当はどうだったのか分からないが、記憶が正しければ『分からない』はかつてそういったものを生みだしていた。もしかしたら昔の思い出は美化されるというやつなのかもしれない。でもまあ、確かに昔は良かった。魔王という巨悪があり、それを倒すという明確な目標があった。色んなことが許されていた。他人のタンスの中からゴールドをくすめることも。カジノでそれをスってしまうことも。

ただ、姉妹は自分たちが過去を美化するほど年をとっていないと信じたかった。今のこの洞窟の中の『分からない』は、ただ単に『お先真っ暗』という意味でしかない。物理的にも、心理的にも。

 一刻も早く、この暗い穴ぐらから抜け出したい。そして狂気を宿した厄介極まりないお荷物をトルネコにお返しする。ついでに人生のお荷物もトルネコにどうにかしてもらいたいものね。油田さえ、油田さえ見つけちゃえば――

「ベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマ……

 姉妹の共通した思考は、クリフトが再開した呟きで中断されることとなった。

 姉妹の「物の道理」を聞いてから、クリフトはいったん元気になった。なったはいいが、その後暗い迷宮を進むにつれて、その元気の風船は急激にしぼんでいった。

「あ、そうだ! ザオリク!」

 しかしMPがたりない!

 もはやMPすら使い果たしてしまったらしい。

「ベホマ」しかしMPがたりない!

「ベホマ」しかしMPがたりない!

「ベホマぁあああああああああああ!!!!」しかしMPがたりない!

 何をやっても自分だけのマリア様はもう戻ってこないんだと悟ると、クリフトは通路にしゃがみこんで嗚咽を漏らし始めた。

 ヒック……ヒック、ウェ……

 それはまさに、酔っぱらいが駅のホームでえづきながらうずくまっているような光景だった。

 アンタも辛いのはわかるけどさ、こっちはもっと辛いのよ。

「ミネア、もうほうっとこうよ。関わるだけ無駄だって」

「じゃあ回復役はどうするのよ? クリフトがいないとザオリクを使えないわ」

「今でも使えないでしょ」

「そういうことを言ってるんじゃないの。とにかく、クリフトの力は後々の冒険で必要よ、たとえ本人が狂っているとしてもね」

 油田を見つけるために必要――なら仕方ない。

「どうしても必要なのね?」マーニャが念を押した。

「ええ、どうしてもね」

 マーニャはつかつかと歩み寄ると、首根っこを掴んでクリフトを無理矢理立ち上がらせた。それから拳で2、3回クリフトの顔面を殴った。普通の魔法使いと違って、マーニャはカジノのスロット台を叩いていたので(もちろん負けがこんだときで、その機会は頻繁にあった)、クリフトの顔面くらいではさして痛みを感じなかった。

「いい加減にしろよ、このクソキチガイ脳みそザーメン野郎が」

 そう言いながらクリフトの顔を壁にめり込めせるようにして叩きつけた。一応、ヒカリゴケの生えているところを狙ったのはマーニャなりの思いやり精神だった。まあ、むき出しの岩壁よりかは、ヒカリゴケがあれば幾分かクッションにはなるだろう。

 クリフトはほとんど意識を失い、地面に崩れ落ちた。そのとき、わずかに残った意思の力によって、クリフトの両手が何かをつかもうともがいたが、岩壁を虚しく引っ掻いただけに終わった。

「あらあら」

 マーニャがかがみ込んでマリア様を拾いあげる。

「あーあ、大事な大事な聖母様を落としたらダメじゃん、クリフト」

「そ……れを放せよ……く…そばい……た………」

「え、なんて? もっと大きな声で言ってくれないとあたし分かんなぁい」

 今度はマーニャがマリア様を使って人形劇を始めた。マリア様の首と片腕がなくなっていること以外、クリフトがポポロに見せてやった人形劇とマーニャの人形劇は、偶然にも酷似していた。まるで同じ場所から生まれた双子のように。

「わたし売女! アソコがとってもイカ臭いの!」

 マーニャはマリア様の足を限界まで開いて、そのイカ臭い場所を指しながら言った。

 よくやるわ。ミネアはそんなことを思ったが、一方で久々にスカッとした気分を味わっていたことも事実だった。ただし、ミネアはあんな汚い――心理的にはもちろん、ヘタをすれば衛生的にも汚いかもしれない(ひょっとしたらクリフトはあのフィギュアに毎日寝る前にディープキスしてたのかもよ? ウゲッ)、気持ち悪い――物を素手で掴む気にはなれないだろうが。

「じゃあ、そんなマリア様を使って、ちょっとしたマジックショーを披露しまーーす! 何と、マリア様が消失しまーす! もちろん、タネも仕掛けもありませーん! それじゃあ、皆さん、成功したら拍手をお願いしまーーす!」

「やめろ、やめてくれ……俺の取り分の半分をやってもいいから……それだけは……やめて――

 全部言い終わる前に、クリフトのみぞおちにマーニャの靴先がめり込んだ。足先自体も踊りで鍛えられていたが、蹴りの動作そのものも踊りのように洗練されて無駄のない動きだった。地面にうつ伏せに倒れこむクリフト。それをまたしても蹴って、無理矢理マリア様の方へ視線を向けさせた。

「よく見てろよ、詐欺野郎。またイチビったら今度はお前がこういう風になるんだよ」

 マーニャの手から煙が上がったと思うと、そのままブスブスとか弱い音を立てて、マリア様はこの世から消失した。代わりに、マーニャの手から絹のような手触りの灰がサラサラと舞い落ちた。

 その灰の一片がクリフトの顔に落ちたとき、クリフトは思い出した。マリア様からもらった励ましの言葉の数々を。辛い日々の中でそれがどれだけ心の支えになったのかを。毎日寝る前にお休みのキスをしていたことを。たまにザーメンをかけて怒られたことを。そしてマリア様とさらに親密になると、一緒にお風呂に入ったことを。

 自然と涙が出た。クリフトの人間的な何かと、非人間的な何かが混ざり合った涙が。

「キャハハハハハ! ねえ見て、ミネア。泣いてるよ! お人形が消えただけで、マジで泣いちゃってるのーーー!?」

 泣いちゃっていた。今ではもう、涙は完全に関を切っていた。

「きゃーーー!! テメエみたいなクソキモオタクでも流せる涙があるってことにビックリだわ! テメエのケツを吹いた紙キレを免罪符とか言って売っちゃってる詐欺師のくせに! チンポ以外の場所からも涙を流せるのね! すごいわ、ホント、すご――

 もし、このとき突然壁を突き破った剣がマーニャの首を横から刺し貫かなかったら、クリフトはマーニャの予想以上に豊穣な語彙力が味わえただろう。

 言葉の代わりに、マーニャは逆流した血をゴボゴボと吐き出した。剣は完全に骨と骨の間に滑りこんで頚椎を切断しており、マーニャの頭は残った僅かな筋肉と皮によって支えられているのみとなった。何者かが剣を引き抜くと、マーニャの首から噴水が吹き出した。それは僅かな光の中では黒い飛沫にしか見えなかった。血がヒカリゴケに飛び散り、その血を通して赤くなった光があたりを照らした。マーニャが首をガクガクさせながら、自ら作った血の海に倒れ込んだ。倒れ込んだ時に、首がねじれてミネアのほうへその切断面を向けた。

 なぜかマーニャとマリア様がミネアの中で重なったのか、今はそのことを気にしている場合ではなかった。何者かが壁越しに攻撃を仕掛けている。奇襲で瞬く間にひとりやられた上、残った相棒はMPも知能も足りない神官ときている。

 必至のかかった王将――いや、もう詰んでいるのかも。

 と、そのとき壁が崩れて何者かが通路に侵入してきた。

 バーサーカーだった。ついに王手がかかった。そんな感じがしたが、その考えを必死に頭から振り払った。確かに、クリフトのMPはなくなったが、それは時間がたてば自然に回復してゆく。MPさえあれば、マーニャを復活させることは簡単だ。

 そのためにも、このバーサーカーを倒さなくてはならない。

 バーサーカーは一瞬神官の方を見たが、神官はもはや敵ではないと悟ると、ミネアの方へ向き直った。

 このとき、もしミネアに観察力があれば、バーサーカーの握っている剣がライアンの持っていた「はじゃの剣」そのものだったことに気づいただろう。ただ、そこから当然の結論をはじき出したところでミネアに残された“手”は少なく、結局はこれが詰み開始の王手となった。

 ミネアもバーサーカーを地上での戦闘で見たことはある。魔王時代のことだ。あのときのバーサーカーは確か斧を持っていたように思ったが、まあ斧だろうが剣だろうがどちらでもよかった。

 それにしても助かったわ――ミネアはまだこのときはそう考えていた。確かに壁の向こうから剣で攻撃され続けるよりは遥かにマシと言える。こちらは壁の向こう側には攻撃できないのだから。しかし目の前に出てきてくれれば別。地上の雑魚と同じように葬り去ってやるわ。

 ミネアはバギクロスを唱えた。バギは「真空のカミソリ」と形容されるが、そこから言えばバギクロスは「真空のチェーンソー」だった。それもチェーンソーの嵐。

 というわけで、ミネアは勝利を確信していたたし、心配なのはクリフトがマーニャを復活させてくれるかどうかだけだった。あれだけのことをやったのだから、ひょっとしたら拒むかもしれない。そのときは適当に言いくるめて、それでもダメなら力づくでやらせればいい。どちらにせよ、次の階層ではトルネコと合流できる。最悪、トルネコならどうにかクリフトを制御できるはず。

 だが、ミネアの華麗な勝利は実現しなかった。

 バーサーカーは剣を大上段から振り下ろした。その振り下ろした剣圧で生じた真空波によって、バギクロスはモーセが紅海を切り開いたかのごとく左右にキレイに切り裂かれた。

バーサーカーも無傷ですんだわけではない。腕や肩など、体の外側は真空のチェーンソーに触れたことによって無数の切り傷が刻まれていた。けっこうな深手ではあったが、全身がバラバラの肉片になることに比べれば軽傷ですんだと見るべきだろう。

ミネアは茫然自失した。今までマホカンタで反射されたことはあっても、これほど驚きはしなかった。まさか魔法を物理の力で無理矢理捻じ曲げるなんて――

しかしミネアは躊躇せずにもう一回バギクロスを唱えようとした。バーサーカーは完全に無傷ではないし、何回もやられればいつか多数の傷からの出血多量で死ぬはずだ。

だが、不思議のダンジョンでの二回目は許されない。ミネアはそのことを、頭が胴体から切り離された状態で漠然と悟った。

そう、それは人生と同じ。待ったなしで容赦なく詰めにかかってくるものなのだ。

ミネアの首がドサリと地面に落ちた。そこで自分の胴体が血を吹き出すのをぼやけていく視界で何となく捉えながら、やがてすぐにミネアの意識のほうもぼやけていった。

 

 

 切り飛ばした首は、先に倒した女魔道士のとれかけの首の隣へ転がっていった。それはただ単に物理上の偶然でしかなかったのだが、バーサーカーにはそれがとても意味のあることのように思えた。それを見て、急に思い出した。自分が魔族になって、最初にやったこと――勇者たち3人の埋葬。

あのとき誓ったことを覚えているか?

突然頭の中に鳴り響いたその明瞭な声に、一瞬バーサーカーはあたりを見渡した。だが、狂った神官らしき人間がうずくまっているだけで、あたりはどこまでも闇へとつながっていた。

 いいから早く思い出せよ。

 確か、3人を埋葬しながらいつかゾーマを埋葬してやろうと誓った。そして、それだけを糧に、魔族として生きながら修行に励んだ。しかしその誓はだんだんと忘れられていった、勇者たち3人の記憶とともに。

 それからお前は一体どうした? 

 どうしたもこうしたもなかった。完全にゾーマの番犬となった。そして今、”ゾーマの仇をうつ”ために、こうして商人たちの仲間を殺している。

 そんなくらい、もう分かるだろう?

 頭の中の声に呼びかけてみたが、返事は帰ってこなかった。

 ひょっとしたらこの女魔道士の双子の残留思念なのだろうか? 人間は斬首されても10秒程度は意識があると聞く。まして魔力を持った人間なら、何か脳内にテレパシーを送り込むことも可能なのではないか?

 だが、第一に時間が経ち過ぎていた。もう30秒以上にもなるから完全に死んでいるだろうし、それに頭の中の声は女ではない、男だ。

 そこまで考えたが、考えても声が一体何なのかわからなかった。今はもうほうっておけ。それよりやらなければならないことがある――そう、神官の処刑だ。戦闘能力はないが、コイツもあの商人の仲間であり、始末しておく必要がある。

 一歩ずつ、血の海を踏みしだきながら神官へ近づいていった。

「……………」

 何かしゃべろうとしているが、言葉になっていなかった。命乞いでも罵倒でもなさそうだったが、もはやどうでもよかった。

 うずくまる神官の首筋に向けて剣を立てたときだった。

「ねえ、声がするよ」

 突然神官が顔を上げて言った。

「ああ、死んだ仲間の声だろう。俺も聞こえたことがある」

 目を見てわかったが、この神官はとうていまともな精神状態ではない。もちろん、こんな状況でまともな神経を保っていられる人間がいたら教えて欲しいものだが、だがしかしそれ以前に”こいつは狂っていやがる”。

「いや、違うよ。男の声だ。アンタにそっくりの」

 一瞬、背筋に寒いものが走った。俺こそ狂ってしまったのではないか? やめてくれ、頼むからやめてくれ。

「ここから声がするんだ。さっきからずっと」

 神官が指差したのはバーサーカーの道具袋だった。神官は体を起こすとその道具袋に勝手に手を突っ込んで探り始めたが、バーサーカーはそれを止めることはしなかった、というかできなかった。驚いたことに、袋から光が漏れていたのだ。ヒカリゴケよりはるかに明るい、まるでレミーラでもかけられたような明るさの光が。

 その光が陰った。おそらく、光を放つ物体をクリフトがついに掴んだのだろう。次に光は移動していき、道具袋から完全に外に出た。そして神官の影が壁にゆらゆらと映った。

「ああ、この人だったんだね。この人が言ってるよ」

 ゾーマ。バーサーカーが彫ったゾーマの荒い彫刻。今やその石像は、神官の指と指の隙間から光を投げかけていた。神官はゾーマの石像を優しく手で包みながら、耳元へ持っていった。壁に映った神官の影が、ゾーマに変形していくように見えた……いや、見えただけだ。そう見えただけだ。もうやめてくれ、こんな狂ったロールシャッハテストなんて受けたくない!

「うんうん、そうなんだ……」

 ひとしきり話が済んだのか、神官は立ち上がった。

「なんかね、君は矛盾してるんだって。それもだんだんと君をおかしくさせる方向に矛盾していっているみたいなんだって」

 聞きたくない! やめろ! 

「しばしとどまれ、永遠にとどまれ……」

 やめろ!

「お前が裏切った時代に向かって歌え……僕にはよく分からないよ……だから直接話してみて」

 神官が生まれたてのヒナの鳴き声を聞いてみなよ、といった調子でその光が漏れる手をバーサーカーの耳に近づけてきた。声は鼓膜を通り越して、バーサーカーの脳細胞へ直接突き刺さった。

 ――お前は俺のものだ! お前は魔族だ! そしてなによりお前は埋葬人だ! 墓守だ! お前自身の魂の葬儀執行人だ! お前にもう安らかな眠りは訪れない! なぜならお前にもはや魂など存在しないからだ、お前はしなびた精神の住む腐ったアバラ屋にすぎない!――

 耐え切れなくなったバーサーカーは、神官を張り倒して一目散に逃げ去った。どこまでも続く闇の奥へと。

 

 

 鉄の塊になりながら、トルネコは無残なライアンの死体を眺めていた。

 あれは今思い出しても鳥肌がたつ……とはいえ、今は鉄化の種の効果で鉄の塊と化しているので鳥肌など立ちようがないのだが、精神に残った皮膚の感覚では完全に鳥肌が立っていた。そして冷や汗が噴出する感覚も。

 バーサーカーはこちらが戦闘態勢に入る前に、急激に接近してきた。それは完全にトルネコの予想外だった。こいつは銃の射程を十分よく知っている――はずだ。確証はなかったものの、トルネコはあのバーサーカーは、かつてゾーマの手下だったあのバーサーカーに違いないと確信していた。その後、スライムの挑発に乗ったところを奇襲されたのは、今となっては苦い思い出だ。

 とにかく、銃の射程を知ってこちらに飛び込んでくることはないだろう。そうタカをくくっていた。その結果どうなった?

 目の前に転がるライアンの死体だ。愛用のはじゃの剣を奪われ、それで肩から胸にかけて袈裟斬りされた、無残な死体だ。

 ライアンの無残な様子を観察しながら、トルネコは今までの戦闘をまさしく長考していた。あの時点で、俺に何ができた?

 まず考えられるのは銃で攻撃することだろう。だがバーサーカーの素早さを考えると、恐らく銃撃はかわされていただろう。前に遺跡で戦ったときより格段に諸々のステータスが上がって、強くなっている。

 ――草はどうなんだよ? メダパニ草なんかを投げてやればいいし、他にもなんか色々使えるのがあっただろ?――脳内のもうひとりの自分がそう言ったが、それは却下だ。草の命中率も100%ではない以上、確実な作戦とは言い難い。一回外せば、それで終わり。それにメダパニ草でバーサーカーが混乱しても、攻撃を喰らう可能性は十分ある。一発喰らえば、今の状態だと一撃でやられていた。なにせ向こうは力も半端なく、さらにはじゃの剣まで持っているのだから。

 そのほかの杖や巻物も考慮してみたが、どれも確実ではなく、あのバーサーカーを倒すには尋常ならざる幸運が必要になる。

 そんなもんがあればそもそもこんな場所に来ることもなかったろうな。脳内のもうひとりの新たなトルネコがそう呟いた。

 残った手段はひとつだけしかなかった。

 自分が鉄化の種を飲んで、その間に誰かしら階段を見つけてくれるか、もしくはどこかに移動したバーサーカーを誰か倒してくれるか。それ以外に期待しようがなかった。

 バーサーカーはトルネコが鉄化の種を飲んでからも執拗に剣で切り続けたが、効果がないことを悟ると一瞬だけこっちの目を見て――明らかな殺意を込めて――立ち去っていった。

 マーニャやミネアなら魔法でどうにかしてくれるかも。ただ、あのバーサーカーがポポロを襲いに行く可能性を考えると、さすがのトルネコも胸が締め付けられるような、そして冷や汗の噴出する感覚をまたしても味わった。それと深い後悔。

 結局仲が悪くても、ポポロは自分の息子なのだ。もうネネとの間に新しい子供が生まれることなどあり得なさそうだし、そうなると正真正銘自分のたったひとりの息子なのだ。

この状況を考えると、思わず神のケツの穴にばくだん岩を突っ込んでやりたい気分にさせられた。

 とにかく、鉄化の種の効果からして、あとの戦術が他力本願になることは致し方ない。

問題は鉄化の種の効果が切れたときだ。

 その時、俺はどうすればいい?

 鉄化したトルネコの頭の中では、何人ものトルネコが熱い議論を戦わせていた。

 

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