クネクネと曲がる奇妙な階段を下りてゆくと、今までとはガラリと雰囲気の変わった場所に到着した。
それまでの暗くジメジメした混沌とした空間から、人工的な直線が視界を縦横に横切る、古代遺跡のような場所に出たのだった。壁には今の時代の人間では理解できない、失われた文字や極端にデフォルメされた壁画が描かれている。空気も妙な湿り気はなく、むしろ外よりも清らかに感じたほどだった。
「また、けったいな場所に出ちまったようだな。」
思わず壁画に見入っているライアンにそう話しかける。もしかしたら一人ごとかもしれない。それにしても、この壁画はかなり独特で精巧なつくりになっているようだ。天井には見たこともない星座と神々が描かれている。考古学者がこの遺跡を見れば、感涙にむせび泣くであろう。これらの、どれが絵でどれが文字かも分からないような壁画の解読にかれらは喜んで一生を捧げ、もしかしたら大して深くはない信仰心を捨て、一歩でもこの壁画の製作者に近づこうと、この異教の神々を信じるようになったかもしれない。
「おい」トルネコが急に野太い声で話しかける。
「何だ?」
「何だじゃねぇよ。見とれてないで、とっとと頂くものだけ頂いてオサラバしようぜ」
リリパットの族長は突然の事態に内心パニックに陥りかけていた。上の階層にいる支族長からの救援を求める使者がやってきたのまでは良かったが、使者の報告が終える直前、珍しいことにスライムがやって来ると、上の氏族長は他の全てのモンスターと一緒に全滅した、と伝えてきたのだ。
「スライム不勢が嘘を吐くな! だいたい、今回の戦は長期戦になるはず……仮に敵が無謀にも突撃してきたとしてもこんなに早く負けることなど、まして全滅などありえる訳がない!」
使者はそこまで一息にまくし立てると、今度は族長の方へ向き直った。
「このスライムの言うことを信じないでください。こやつはつい最近も一宿一飯の恩を忘れて、食料庫に火を放とうとしたのです! 私は先ほど、長期戦になると申し上げましたが、敵はもうすでに動き出しているかもしれません。そうなれば今すぐに、今すぐです!一人でも多くの兵が必要なのです!!」
「ダメだよ!! 族長さん……言いにくいけど――もう全滅してしまったんだよ……このフロアの戦力じゃあ、やつらを倒すことはできない。今は少しでも遠くに逃げて、戦わないようにすることが先決なんだよ」
「また『逃げろ』というのか!!? お前の言うとおりにしていれば、いずれこの不思議のダンジョン自体から逃げ出さねばならんぞ?」
「やつらの狙いはあくまでダンジョン最下層なんだ……でも、そこに行くためにたくさんのアイテムが必要だ。それを持って退却し続ければ、いずれやつらはここから引き上げるようになるんだよ……ぼくはさっき、やつらが降りる階段を改造した。だから、しばらくはやつらはこことは別のフロアにいてる。早く今の内に……」
「もういい!! まさか族長も、お前のような基地外の言うことを真に受けるとは思わないが、とにかく全ての判断を族長にしてもらおうではないか! さ、族長、ご決断を。救援は早ければ早い程、効果があるのです!」
使者は最後の言葉を、特に念を押して強調した。
数秒間、深い沈黙があたりを包み込んだが、族長はすぐに口を開いた。
「わしには、お前が言うようにこのスライムが嘘をついているようには到底思えん。口調や仕草からどうもうそ臭さが感じられんのだ」
使者とスラ吉が期待のあまり同時に身を乗り出しているのが分かった。
「しかし、スライムに嘘を吐く意思は無いのかもしれんが、戦場でのあまりに陰惨な光景を見て、気が動転してしまったというのもあり得ることではある」
「で……でも……ぼくは、本当に見たんです……!」
「黙れ! 今、族長が話しているのが聞こえんのか!!」
激昂した使者が今にも襲い掛からんとする勢いでスラ吉を怒鳴りつけた。
「両者とも切迫した状況だが、むしろ切迫した状況だからこそ落ち着いて聞いて欲しい」
族長は両者をなだめながら話を続ける。
「とにかく、どちらにしてもまずはその階層へ行く必要がある。その上で真偽を確かめねばなるまい」
「それではすぐに出発致しましょう! して、この嘘つきはどう処罰しましょうか?」
使者はスックと立ち上がるとスラ吉を上から指して言い放った。
「今回は別に何もしない。というより、このスライムの情報は一部であれ正しいと思われる。そうでなければここまで真に迫ったことは言えまい。だとすればもう戦端が開かれている可能性もあるだろう」
「いいえ……ちがうんです」
スラ吉はワナワナと震えだした。
「言いにくいことだけど……もう本当に全滅してしまったんだよ。もう誰も生きちゃいない……だから、せめてあなた達だけでも逃げて欲しいんだ」
「お前はまだ――
言いかけた使者を、族長はこのときは付いていた左手で制すると、静かだが威厳のある声でスラ吉に語りかけた。
「私はもうすでに決定を下したはずだ。もし、それに対してこれ以上何か言うのであれば、おまえには何らかの刑罰が課されることになる」
「そ…そんな……ぼくはただ……真実を述べているだけなのに」
「もし真実だと言いたいのならば、それを裏付ける証拠か、少なくとも信用できる証人を連れてこなければなるまい。だが、それがないのにそなたの話だけを信じることはできない。私も族長として責任のある立場なのだ、分かって欲しい」
スラ吉は族長の言葉を黙って聴いていたが、半ば諦め、半ば期待を込めて口を開いた。
「分かったよ……でもぼくの言うことが真実だと確認できたのなら、そのときは復讐なんて考えないで、すぐにぼくの言った通りにして欲しいんだ……」
「分かった、約束しよう」
「さッ、話が決まったのでしたら、すぐに出発の準備を致しましょう。早く準備すればそれだけ多くの人数を集められますから」
スラ吉は一人、族長と使者が出て行った広間に佇んでいた……が、すぐにここでの自分の役割が終わったことを感じると、一人寂しくこのフロアを後にした。
(まずいことになった……)
ライアンは一人通路を歩きながらそう思っていた。トルネコは先の部屋でワープの罠を踏んづけてどこかへ飛んでいってしまった。近くの部屋でワープした可能性も考えてしばらく待ってみたものの、やって来るのは冒険者の成れの果ての姿である腐った死体だけである。
どうやら、このこのフロアは大昔の古代墳墓で、墓荒らしに入ってきた者を蟻地獄のように待ち受けては、かかった者達を墓守として使役しているらしい。もうすでに7、8体の腐った死体やミイラ男を倒した。だが、こういったゾンビ系モンスターは倒しても墓が残り、そこから何度でも復活してしまう。
一体くらいなら大したことはない。トルネコの言葉で言うところの『ボケ老人から金を巻き上げるくらい簡単』ということだ。だが、何体も同時に攻められるとノーダメージというわけにはいかない。それにゾンビ達の吐く汚物には特殊な効果があり、愛剣が錆びたり、混乱したり、ステータスが下がったりと、とにかくロクなことがない。そういう状況もあって、ゾンビ系との『一対多』の戦いは、トルネコのいない今は非常に危険であると言えるのだ。そして、もう一つの最大の懸念要素があった。
それは――
「チャラララン、チャッラッラー!!」
トルネコと分かれた時から聞こえ出した、他人を馬鹿にしたような音――このフロアのどこかでバーサーカーが強くなっていくことを知らせる音楽で、もう3回は鳴ったはずだった。もし、何らかの不慮の事故――鈍足、踊り、眠りの罠を踏む、ゾンビ共の特殊攻撃を喰らう等――が起こって、もしも。もしもそこにバーサーカーがやって来れば、恐らくかなりの高確率(コーラを飲んだらゲップが出るのと同じくらいの確率)で、ライアンはこのフロアの墓守への転職を余儀なくされるだろう。
それだけは何としても避けねばならない……
だが、悪いことは何度でも重ね塗りができるようで、リレミトの巻物を始めとするアイテムは、全てトルネコが持っている。万が一、追い詰められたとしても脱出はできない。
まさしく一巻の終わりという訳だ。
だが、そういったこのダンジョンに入って始めての危機に際しても、ピンク色の鎧を着た歴戦の勇士はきわめて冷静、そのものだった。
それは昨日まで大言壮語していた新兵が戦場にでた途端、恐怖に憑りつかれ、涙や糞尿を撒き散らしながら神や母親の名前を連呼するのを間近で見てきたからでもあるし、勇者との冒険でさらに大きな危機を乗り越えた自信からも由来している。
何より、ライアンは何度か稲〇淳二もビックリ昇天するくらい臨死体験をしているのだ。その度にザオリクや教会に金を積んで復活していたが、よく考えればそっちの方が余程ゾンビじみていることだろう。
さて、ライアンがこの状況で採るべき選択肢は二つしかない
1.このままこの部屋に留まり、トルネコの帰りを待つ
2.この部屋を出て、トルネコと合流する
1は最も確実な作戦と言える。ワープで飛んだトルネコは真っ先にこの部屋に向かってくるだろう。下手に動けば入れ違いになって合流するまで余計に時間がかかる。だが、それは同時に狂ったバーサーカーとも出会う可能性があるということだ。そして、部屋の中には5つの墓…微かに呼吸しているようにも見える墓石を眺めながら、なかなかよく出来ている、と思った。恐らく、侵入者があれば自動的にバーサーカーが目覚める仕掛けになっているのだろう。目覚めたバーサーカーは、近くにいるゾンビ達を殺し続ける……しかし、ゾンビは死んでも一時的に動きを止めただけで、またすぐに復活する、そしてそれを倒してさらに強くなっていく……
では2はどうか? これはバーサーカーに出くわさない限り、ライアンには大丈夫だと思えた。だが、先も述べたように、トルネコと入れ違いになる可能性は大きい。それでも、もし一つだけ希望があるとすれば、すぐ隣の部屋にこのフロアを出るための階段があるかもしれない、ということだろう。
ライアンは髭を弄りながら2つの策を天秤にかけていた。この男が髭をイジるのは自らの考えに深く没頭している時の無意識の癖でもある……
「チャラララン、チャッラッラー!!」
例の耳障りな音楽が思考を中断した。どうやら、迷っている暇はあまりなさそうだ。ライアンは音が聞こえてきたのとは反対(と思われる)方向へ足を運んだ。
「クッソ~……誰だ、アンナ罠を仕掛けたアホは」
ここにはいない誰かを罵りながら、トルネコは重い尻を床からあげた。
どうやら、ワープしたときの着地に失敗したらしい。
「痛ェ……ライアンともはぐれちまったしな。早く戻らねぇと」
そのときだった。通路の向こうから剣士らしきものが来るではないか……しかし、遠目から見ただけでもライアンではなさそうだ。
トルネコはさっきのフロアで拾った鋼の剣を装備した。
「へへへ……やっぱりあんただったのか」
地獄の底から発せられたかのような声でそう喋ったのは、ガイコツ剣士だった。露出度が高すぎて腐った内臓や骨がチラチラ見える。トルネコは目の前に罠がないのを確認すると、新手の敵の方へ一歩踏み込んだ。こんな雑魚相手に新兵器を使うのは勿体ない。剣は苦手だが、今はこれでなんとか凌がなければなるまい。
両者ともジリジリと間合いを詰めていくが、先に動いたのはトルネコの方だった。
「ウリャアァアァァァッ!!」
だが、ただでさえ剣の扱いは大して上手くない上に、今までゴルフクラブを手にしていたせいで、その剣運びは敵から見れば子供のチャンバラ同然だった。ガイコツ剣士は少し身を引いて剣先をかわすと、素早く剣を払ってトルネコの武器を弾き飛ばした。
「へい!へい!!へい!!!そんなショボイ剣の腕で俺にかなうとでも思ってんのかよ?今のも軌道が丸見えなんだよ!!」
勝利の御託に酔いしれながら止めの剣を最上段に構えた瞬間だった。ガイコツ剣士は額に冷たい金属の感触を知覚した。それは冷たいにも関わらず、どこか獰猛で凶悪な、感情すら感じさせる存在でもあった。そして、次の瞬間、その小さな金属片――スミス&ウェッソンM500―は確かにトルネコの手中に収まっていることが、ガイコツ剣士の虚ろな眼窩からも確認できた。
「え……? いや、まさか、じょ…ジョーダン……だよね? まさかここでそんな物騒なモノ撃っちゃう、なんてことはさ……」
「あぁ、するんだよ」
「……ッ!!」
「そのまさかをな」
だが、考えてみればものすごく滑稽な光景だ。剣の間合いの中にいながら、こうして銃を突きつけられている不自然なポーズで固まっているのだから。もし、ガイコツ剣士に汗腺があれば、滝のような冷や汗が流れていただろう。もちろん、そんな人間的なものがあったのは遥か彼方の過去の日々、もはや剣士の精神にしか記録され得ぬ程の大昔のことでしかなかったが……
「そ、そんなことしちゃったらさぁ、ボクたちの仲間が黙ってないと思うよ」
「そんなときは全部ぶっ殺すだけだ。それに、今この状態ですら誰も助けに来ないのに、後になって誰か来てくれるモンなのかね~?」
ガイコツ剣士はすでに震え始めていた。もう、今すぐ墓に入りたかった。しかし、そんなことは叶うわけがない……なんとかしてこの状況を切り抜けなければ……しかしどうやって?
「さて、アンタを生かしておいたのは他でもねぇ、一つ気になったことがあったからだ」
カチッ。死を刻む時計から聞こえてくるような音をたてて、撃鉄が上がった。
「さっき『やっぱり』て言ったよな? てことは、すでに俺のことを知ってた、てことだよな。誰から聞いたんだ?」
「お……同じフロアの仲間からだ……」
「オイオイ、嘘はよくないな。このフロアに来て最初に会ったのがオマエなのに、なんで他の仲間から聞けたんだよ?」
「いや、本当だ……信じられないのも分かるけどよ、このフロアにいる『あの方』に情報を持ってきた奴がいたんだよ」
「そいつはどこにいる? それと『あの方』てのは、何だ?」
「誰が情報を持ってきたのかなんて知らねえよ……それに『あの方』について話したりしたら、後でどうなると思って――
最後まで言い終わる間もなく、額の銃口がめり込むかと思う程、強く押しつけられた。
「オイ、それじゃあ、質問の答えになってねぇよ。こっちは時間がなくて急いでんだ。知らないんならチャッチャと始末して先に行かせてもらうぜ」
トルネコの指が死刑執行人と化す直前だった。
「分かった!言うよ、言う! 『あの方』ていうのはこのフロアで眠っているゾーマ様のことだ! この遺跡を造ったお方でもあり、死んだ後もここで完全復活するまで眠っておられる! 本当は前に一回復活したんだが、勇者一行にやられちまった……」
「よし。んで、オレたちのことをチクッたのは誰だ?」
「それは知らない、本当だ、本当に知らない! 俺はただ命令を受けてこうしているだけなんだよ!」
「じゃあ、その代わりに、ゾーマとかいうヤツの弱点を喋ってもらおうか?」
「………」
「どうした? ホラ、早く喋れよ。別に愛し合っている訳じゃないんだろ?」
「……ゾーマ様は、まだ完全に復活されていない、つまり、俺たちと同じゾンビ、死者の側にいる……もう大体、わかっただろ? アンタ賢そうだからな……」
「アンタと同じ、カピカピのミイラ野郎、てわけだ。超燃えやすいな」
ガイコツ剣士は口では肯定しなかったが、わずかに首を縦に振った。
「あぁ、ありがとよ」
「じゃあ、その銃を放してくれ……もう知っていることは全部喋ったんだからよ」
「まず、アンタが剣を離すのが先だ。そんまま手を離せばいい」
「分かった……その代わり、あんたも必ず、命を助けるって約束は守ってくれよ」
「ハハハ、オレは信用で金を作る男だぜ。だから今まで約束なんて破ったことねぇよ」
ガイコツ剣士は内心(初対面で銃突きつけるヤツの言うことなんか信用できる訳ないだろ、ヴォケが!!)と思ったが、今は口にも表情にも出さないことにした。といったところで表情の方は失くしてすでに久しいが。
「分かった。とにかく、離すからよぉ……」
床に落ちた剣は情けない音を立てて床に転がった。
「さあ、これでもういいだろ? な? 早く解放してくれよ……」
「ああ、してやるぜ、この世からなwww」
「え? 約束は守るって……」
ダーーーーーン!!!!
いつも死というのはあっけなくやってくるものだ。例えそれが生ける屍であったとしても。平等に。均等に。無作為に。
「ああ、守るよ。ただし人間との約束に限るがね。契約書はちゃんと読めよwwww」
もしかしたら、この最後の台詞を、ガイコツ剣士は薄れゆく意識の中で聞いていたのかもしれない。だとすれば死に際の表情も少し変わったものになっただろう。しかしその表情は大昔に失われているのだし、そんなことに頓着するトルネコではない。
なにせ、今の彼には守らねばならない約束が――ライアンと合流する、地上に帰って一生かかっても返せるかどうか分からない額の借金を返す――たくさんあるからだ。
(やはりなかったか・・・)
ライアンは隣の部屋へ移動して、階段がなかったことを少しだけ残念に思ったが、決して落胆したわけではなかった。そんなに都合のいいような場所にあると本気で信じる程、楽天家でもなかったし、およそカジノにはじまるあらゆる賭け事でも、それ以外の人生の局面においても、自らの運のなさは身に染みてよく分かっている。
しかし、さっきの部屋に戻って、もう一つの通路を行く気にもなれなかった。
『チャララララン!チャッラッラー!!』
これで何度目だろう? 正確な数はいちいち数えてないから分からないが、この成長しつづける敵が、もはやライアンの手に負えぬほど強くなっているというのは、ほぼ確実だった。それだけ、下手に同じ場所をうろついていればバッタリ出くわすことになりかねない。何しろ、相手は倍速のモンスターでもあるのだから。
結局その部屋も真っすぐそのまま突き抜けて長い通路を渡ると、たどり着いた部屋の隅にミイラ男が眠っていた。別に恨みはない無いが、大事を取って殺しておくことにすると、鼻息より静かに近づき――竜巻より速く剣を奔らせ、ミイラの首を切り落とした。
自らが死んだことにすら気付かずにその命を奪われた生首をライアンは数秒間眺めていたが、すぐにこの部屋を立ち去ろうと通路の方へ振り向いたそのとき―最悪の敵と目が合った。斧を持って充血した目を不気味に光らせている、狂戦士――バーサーカーの不定形の破壊衝動が、明確にピンク色の戦士に注ぎ込まれたのが分かったのだ。
ライアンは念のため、もう一度素早く部屋を見渡したがやはり何のアイテムも落ちてはいない。アイテムはトルネコに預けるという一極集中管理が完全に裏目にでた。せめていかずちの杖でもあれば、遠距離から敵の体力を削り、近づいてきたところを先制攻撃して強力な一撃を喰らう前に倒すことは――可能だっただろう。
しかし、今ここで仮想戦法をいくら考えても仕方がない。
久しぶりに壁以外の攻撃対象を見つけたバーサーカーは、すでにこっちの方へ猛スピードで走り寄ってきている。ライアンは先に切り落としたミイラ男の生首を(といってもカピカピに乾燥していたが)素早く拾いあげると、バーサーカーへ向かって勢いよく投げつけた。
「グア!?」
突然飛んできた生首にひるみ、驚嘆の声をあげた。しかも、粉々に砕けた破片が目に入ったのか、一瞬だけバーサーカーの動きが止まった。
もちろん、この隙を見逃すようなライアンではない。すかさず愛剣を打ち込んだ。
が、間合いギリギリだったのと、わずかな視界を頼りに盾でうまく防御されたために、大したダメージを与えるには至らない。このことで少しあせってしまったライアンは、敵に立ち直る隙を与えぬように何発も連続して打ち込んだ。だがその分単調になってしまたのだろう、顔からミイラの粉を払い落としたバーサーカーに見透かされ、逆に切り込まれた。
物凄く重い一撃を覚悟して剣で受け止める――ん? 少しおかしい……
レベルが上がったにしては随分と弱い一撃だ。それでも他のモンスターと比べればかなりの衝撃だったが、結局、ライアンはそのバーサーカーを難なく倒すことができたのだった。
『チャラララン!チャッラッラー!!』
今しがた聞こえてきた例の音楽が、別の場所で――それも言うほど遠くない場所で――育ちつつある脅威を知らせてくれた。
「こうしてはいられまい……」
ライアンは別の通路の方へと急いだ。
ジョジョネタが多いですねぇ・・・